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リアルタイム忍者ビジター
samurai 【電脳妖姫 第二部】作者本名鈴木峰晴

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姉妹シリーズ・】・・・【陵辱の貴婦人シリーズ】


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======「現代インターネット風俗奇談」======

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【電脳妖姫伝記】

◆ 和 や か な 陵 辱 ◆

(なごやかなりょうじょく)

第二部

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◆和やかや陵辱◆

(なごやかなりょうじょく)

【これからの展開】

記載目次ジャンピング・クリック

電脳妖姫 第一部【へ戻る】
【*】*******第一話 **************(リュウちゃんの失踪)
【*】*******第二話 **************(Bワンの部屋)
【*】*******第三話 **************(おとり作戦)
【*】*******第四話 **************(謀略のきっかけ)

電脳妖姫 第二部【この部です。】
【*】*******第五話 **************(ミレアの執念)
【*】*******第六話 **************(陰謀と赤い影)
【*】*******第七話 **************(京子拉致される)
【*】*******第八話 **************(縺れた糸・陵辱)


電脳妖姫 第三部【へ飛ぶ。】
【*】*******第九話 **************(しずか・潜入)
【*】*******第十話 **************(強制捜・査圧力)


【主な登場人物】

九条民子(佐々木和也の婚約者・社長令嬢)
Bワン(ハンドルネーム)本名佐々木和也(最初の失踪者・社長の子息)
ナカヤン(ニックネーム)本名中山敬二(主人公・サラリーマンデザイナー)
石井京子(中山敬二の恋人・パソコンインストラクター)
ミレア(ハンドルネーム)本名松永直子(謎のHP運営者)
永田 ? (千葉県警・巡査部長・・・実は)
静(しずか/ハンドルネーム)本名森田愛(HP運営者・短大生?実は・・・)
クロさん(ハンドルネーム)本名岩崎誠一(HP運営者・エリート会社員)
岩崎由美(クロさん・岩崎誠一の妹)
川端警部と西川巡査部長(この事件の警視庁捜査員)
谷村生活安全局次長(警視正・警視庁側の捜査総責任者)
佐々木昭平(佐々木コンッエルン総師・憲政党代議士・党財政再建委員長)
島美紀(女性タレント)
大供みどり(財務省主計官・女性キャリア官僚)
岸掘孝太(憲政党代議士佐々木昭平・東京事務所私設秘書・アンダー担当)
タンク(ハンドルネーム)本名大石辰夫(個人アダルトサイト運営者)
リュウちゃん(ニックネーム)本名小川隆(失踪者・主人公の友人)
ゆきちゃん(ハンドルネーム)本名 不 明(HPの達人・謎のHP運営者)
高橋警察庁管理菅(警視正・捜査の警察庁側責任者)



****************では、第二部をお楽しみください。*******
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(ミレアの執念)
======「現代インターネット風俗奇談」======
小説・電脳妖姫伝記
◆ 和やかな陵辱 ◆第五話(ミレアの執念)

四月の始め頃、民子は、和也を精神的に痛め付けるには、「彼が偽善者ぶって夢中になっているHPで、酷い目に遭わせてやろう」と考えていた。

民子はこの企てを、ささやかなそして他愛の無い心情の抵抗の積りで居た。
そうする事で、僅かばかり残った自尊心を満足させ、和也の淫蕩な遊びにも何とか耐えて行けそうに思えた。
少しでも自分の溜飲が下がればそれで良い。

しかしこの企ては、民子の自宅でも和也のマンションでも実行出来ない。
最初の二〜三回は、試しにネット喫茶(カフェ)でアクセスしたが、どうも落ち着いて書き込みが難しい。

何よりも、本格的に誰かに成りすますには、その相手の情報と共通する話題をじっくり読んで熟知しなければならない。
それには、密かにパソコン操作ができるベース基地が必要だった。

そんな時、以前の恋人岩崎誠一を思い出した。
実はこの時点で民子は最悪の選択をしてしまったのだが、それに気付くのは、まだだいぶ先の事である。

まだ、民子の心の中で、恐らく岩崎誠一の思いを断ち切れずに引きずって居たのだろう。
「そうだ、彼に聞いて見よう。」

民子が内緒事を相談出来るのは、岩崎誠一しか居ない。
彼は、「何時(いつ)でも相談に乗る。」と、言ってくれている。
こんな時頼りになるのは彼だけである。

それにしても、和也の常識的な表の顔をHP上で見る度、権力者の二重性を思い知らされる。

その二重性が人間の本質かも知れないが、民子を巻き込んでの、あの破廉恥な遊びが彼の本質なら、このHP上に居る善良そのもの佐々木和也は、何者だろう?

HP上の彼は素直で優しく、紳士だった。
勿論、人間は普通に善人で普通に悪人である。
「人は都合でどちらにも成れる」と言うのか。

民子は和也が行っているHPでの書き込み交信を、復讐の舞台に利用する事を考えた。
和也には隠していたが、インターネットは民子の得意な分野で自信が有った。
幸い、和也はそれを知らないから、まさか相手方が民子とは思わない。

民子は最初の計画では、ただ宇佐晴らしの為に和也を、「こっ酷く虐(いじ)めて、溜飲を下げれば良い」位に考えていた。
それ以上の事が為し得るとは、民子も考えては居なかったのだ。

父の食材会社は、和也の会社の支援で立ち直りを見せているらしく、たまに民子が里帰りしても両親は機嫌が良い。

二人の結婚を機に、この秋には会社同士の株式の持合話も出ていて、将来自分の会社が上場も夢ではないと両親は佐々木家の支援を感謝し、希望を膨らませている。

当然ながら、家族の全ての生活は安泰だった。
これで、民子が我が侭を言い出せば、九条家の生活の安泰は一挙に崩れ、両親は大いに落胆するだろう。
だから和也の卑猥なパーテイ遊びにも、相変わらず逆らわずに付いて行く。

家族の為なら、民子は幾らでも歯を食い縛れる。
運命と諦めて、表向きは和也の遊びにも、素直に付き合って生きて行くつもりで居た。

復讐計画を密かにあれ此れ計画して見ると、不思議な物でそれだけで気持ちが晴れ、夢が膨らみ心が弾む。
最初は空想の範囲だったが、和也の遊びに付き合い続けると、計画が段々に現実の事と思える様になる。

民子は和也に内緒の時間を作り、岩崎誠一に、和也との生活の一部始終と民子の思いを正直に話し、宇佐晴らしの復讐計画を相談した。

すると、どう手を打ったのか、誠一はあっさりと偽名で部屋を借りてくれた。
しかも、ネット・プロバイダー契約も偽名で済ませてあった。
誠一の手際の良さに、民子は驚かされた。

それが、四月の中頃の事である。
まさか誠一の背後に、強力な闇の組織が有るとは、民子に知る由も無かったのだ。

誠一に、現在の民子の乱れたセレブ生活を話すのは勇気が必要だったが、それを正直に話さないと民子の思いは伝わらない。

思い切って、全て話した。
民子の危惧をよそに、誠一は黙って民子のブラウスのボタンを外し、民子を抱いてくれた。

それは、狂おしいほど激しい愛の行為だった。
それが、誠一の無言の答えで有る事が民子には判った。

誠一は和也と比べると細身で華奢な身体をしているが、身長はソコソコにある。
何よりも、過って知った誠一流の愛し方が民子には懐かしい。
目頭が熱くなって、思わず涙が浮かんだ。

借りてもらったその部屋で、民子は暫くBワン(和也)の交信を注意深く観察した。
時間は習い事の時間を使ったが、パソコン教室など行かなくても少しずつ進歩して見せる事は民子にとってた易い。
そして、和也にとって最も有効な相手を選び出した。

ミレアだった。
ミレアのIDとパスワードさえ判れば、成りすます事は簡単だ。
電脳姫ユキチャン(民子)に取って、それはけして難しいものではない。

後で冷静に考えると誤算だったが、民子は自分可愛さの余り、相手のミレアに対する気使いは始めから持ち合わせて居なかった。

民子はミレアに成りすましたのだ。


ミレアは愕然とした。
確かに連絡は途絶えているが、ミレアにはBワンに嫌われる様な書き込みをする気は無い。
処が、余りにも大きな不運にミレアは遭遇する。

五月の初めの頃、突然自分の名を騙(かた)る偽者が現れて、叶わぬ思いを寄せていたBワンを翻弄(ほんろう)し始めたのだ。

ちょうどBワンに交際の再開を迫っていたミレアは必死に抵抗し、偽者の存在を訴えたが届かない。
偽者はタップリとミレアの情報を持っていて、Bワンを信用させていた。

何故か相手は、自分とBワンのやり取りを熟知していて、過去の話題とそつなく一致する上、腕がミレアより桁違いに良く、邪魔されて中々書き込めない。

書き込めてもパスワードで消去され、ミレアの文はBワン側に残らない。
二人の人格を持つミレアが、Bワンとやり取りをし、為にその文脈に脈略は無い。
逆に、Bワンには分裂症を疑われて、益々相手有利になってしまう。

それでも、メール番は把握されていないハズなので、必死にメールで訴えた。
処が、ミレアがメールにシフトする前に、実は偽ミレアのメールも、既にBワンに届いていた。

打つ手が無くなって暫く書き込みを停止すると、偽ミレアは酷い書き込みでBワンを攻めたてる。
その内に、リュウちゃんからの非難の書き込みも届く様になる。

ミレアには、この悲しい事態を収める事が出来ない。
しかし、ひとつだけ小さな明かりが灯った。
どうやらリュウちゃんのメール番だけは、偽ミレアにはバレて居ない。

それを頼りにメールで訴えるが、Bワンにもリュウちゃんにも、偽ミレアの存在は気が付いてもらえない。
毎日が、何とか彼らに気持ちが通じてくれないかと、必死に思い続ける日々を、ミレアは送った。

特にBワンへの気持ちは、思いを寄せていてだけに強いものが有った。
ネット上の顔も見えない相手と対峙するのは、想像を絶する消耗戦をする事になる。

この戦いは、六、七、八月と三ヶ月に及んだ。
ミレアに取って、それは筆舌に尽くし難い、孤独で壮絶なものだった。

本来こう言う事を仕掛ける方は軽い気持ちでも、仕掛けられた方は酷く気になり、酷く傷付く。
その心労は筆舌に尽くし難く、精神状態も普通では無い。
ほとほと疲れ果てたミレアは、八月の始め頃の或る夜、夢を見る。

それは、今までに経験しない、妙にリアルな夢だった。
最初はぼやけていたその夢は日を追うごとに鮮明さをまし、やがて、目の前に有る様にはっきりと見え始めた。

それが、見た事も無い男の豪華な室内の夢だった。
不思議な事に、自分が四角い窓みたいな所から、部屋の中を覗いているのだ。

男は、背を向けて必死でキーボードを叩いている。
「不思議な夢を見るものだ」と思っていたが、やがてその夢を、ミレアは眠っていなくても見る様になった。

世間ではこうした事を「超常現象」、或いは「透視超能力現象」と言うが、ミレアの見えるのは必ず同じ場所で、他は見えない。

何処でも見えるならともかく、一ヶ所では超能力と言えるかどうかが判らない。
此れは自分の強い思い(思念)が、この現象のパワーになっているに違いない。
多分あの後姿はBワンで、「自分が余りに強く思っているから、こんな夢を見る。」と、ミレアは思っていた。

処が、そんなミレアに更に驚く現象が起こった。
信じられない事に、何時の間にか夢の中の自分が、四角い窓の内側に入れる様になったのだ。

後ろ姿の男性の背後まで近寄れる様になり、何故か彼が打ち出すパソコンの画面が読めるのだ。
見ると、その男性は必死に偽ミレアと交信を行っていた。

間違いなくBワンだった。
それで声を掛けようとしたが、声など届く訳もない。

自分の存在が相手に認識されないのだ。
この時のもどかしさは、言葉には言い表せない。
それで、尚更ミレアの思いは募った。

暫くすると、パソコンの前に行けばその夢を見る様になり、徐々にその部屋への出入りも、後ろを振り返る事も出来る様になった。

怪奇現象ではあるが、恋するミレアには「思いが通じた」としか思えないから、疑問は超越していた。
嬉しい事に、ミレアはだんだん自分の意志でその夢をコントロール出来る様になったのだ。

それで、「自分の夢が出入りしているのは鏡だ」と、ミレアは知った。
理屈では考えられない現象だったが、現実にその現象は存在した。
「超能力」と言えば超能力かも知れない。

違和感は有ったが、ミレアは「自分の思いが天に通じた」と、素直に受け入れる事にした。
それからは自分の意志で、時々Bワンの部屋を覗いた。

或る時、その「超能力」を使ってBワンのマンションへ行ってみると、Bワンの姿がなく、別の男女がいた。
当然ながら、相手の二人が誰なのかはミレアには判らない。

「この二人は一体何者だろう?」

その後覗きに行くと、今度はBワンが姿を見せたが、彼はHP交信の最中に突然数人の男達が現れ、数言言葉を交わすと何か言う事を聞かされ、「アッ」と言う間に何処かへ連れ去られた。


それが、八月の終わり頃だった。
ミレアは超常現象の中とは言え、目の前でBワンが連れ去られるのを目撃して、何も出来ない自分を嘆いた。

それから、その後が心配で度々Bワンの部屋を訪れたが、Bワンの姿は見えず、いつも例の別の男女二人がいた。

「Bワンは無事なの?この二人は何者なの?」
思い余って、ミレアはBワンの掲示板とメールで、その男女にBワンの安否を尋ねた。

所が、このミレアの問い合わせが、思わぬ波紋を呼び起こした。
ミレアが二人の存在と拉致の様子を知っている事に、その男女はパニックに陥ったのだ。

内密理にBワン失踪の事を運んだはずの二人には、自分達の存在をミレアに知られている事が、信じられない事だったからだ。

ミレアは、彼等がBワン失踪に間違い無く関与している確信を持った。

その後暫くして、リュウちゃんの存在を警戒し始めた偽ミレアが、リュウちゃんの攻撃を開始すると、心配した本物のミレアは夢でリュウちゃんの部屋にも出入り出来る様になった。

どうやら交信がある相手の所は、回線を利用して行ける様になったらしい。
何故なのかは判らないが、キットそれを必要とする正義の奇跡が、ミレアに何かを求めているに違いない。

幸運な事に、リュウちゃんの部屋にも同じ位置に鏡が有った。
それで、またも必死に警告を試みるが、Bワンの時と同様、ミレアの警告は届かない。

このままでは、リュウちゃんはBワンの二の舞になりかねない。
そんな時に、リュウちゃんがメールで呼び出しを掛けて来た。
「会えば、事実を伝えられる。」

そう思ってミレアは、出かけて行き、まんまと罠に嵌まって殺されてしまった。

ミレアを呼び出したメールは、既にリュウちゃんを拉致した後のリュウちゃんのパソコンから、発信されていた。
つまりリュウちゃんのメールアドレスだった。

それでミレアはすっかり本人の物と思い、騙されてしまった。

そんな訳で、十月の二日から三日にかけて、リュウちゃんとミレアは相次いで拉致され、リュウちゃんは生死不明、ミレアは帰らぬ人になってしまったのだ。

処が、不思議な事にミレアは死んでも自分の意識を感じた。
勿論、ミレアには「自分が死んだ」と言う自覚は有った。
だが、自分の意識は生きているばかりか、今まで以上に自由に動き廻れた。

此れを、「幽体離脱」と言うらしいが、Bワンの部屋へも、リュウちゃんの部屋へも行く事が出来た。

「ミレアの執念が、それほど強いものだった。」と言う事か・・・それが、哀れなミレアに神が与えたのか、鏡に自分の姿が映る様になり、小声だが声も出せる様になった。

何よりもその能力が向上したのは、ネット回線に拘らず鏡さえあれば何処へでも行ける事だ。
これは、本人も驚く奇跡だが、死ぬと言う事は、そうした霊体を得る事かも知れない。
そしてミレアが何よりも気掛りなのは、唯一惚れ抜いたBワンの事だった。

その能力でBワンの部屋を覗くと、例の男女はその都度、鏡に映ったミレアの姿に酷く怯えていた。
予期せぬ目撃者が、「鏡の中から現れる」と言うのでは、手の施しようが無い。

彼等は自分達の拉致関与がバレないかと疑心暗鬼になり、ちょうど始まったナカヤン、京子、の捜索に何食わぬ顔で参加、静(しずか)を巻き込んで被害者側に立ち、アリバイ工作をやり始めた。

彼らは、ナカヤン達の捜索を脅威に思った。
それで、放置出来ずにあんな形で接触して来たのだ。

ミレアの魂はリュウちゃんの部屋で、ナカヤンと京子が必死で行方を捜すのを、鏡を通して見ていた。
しかしそれは、ミレアには危険な事に思えた。
何としても、ナカヤン達を守りたかったから警告の機会を伺っていた。

そこに、お誂え向きの道具立てをしたナカヤンの部屋が完成、ナカヤンが一人で待っていた。
それで、早速渾身の力を振り絞って警告した。
「オネガイ、キヲツケテ」

だが、結果はナカヤンを恐がらせただけだった。
無理も無いが、ミレアの姿は既にこの世には無い。「怖がるな」と言う方が無理なは橋だった。
悔しいが、当時のミレアにはそれ以上の事は出来ない。

その後、ミレアの残留思念は生き霊となり、超能力(残留思念)に磨きが掛かりながら、ナカヤン達や関係者を追って、時折この世に鏡を通じて姿を現す。

彼女なりに事件を追って真相に迫り、悲しそうな顔が、やがて怒りの表情に変わった。


月が替わった十一月の三日。

「捜査が進展したので打ち合わせがしたい。」との永田の携帯連絡で、ナカヤンと京子は例の八重洲口地下の喫茶店に行った。

この日も、北の赤い国の拉致被害者が署名活動をしている。

ハンドマイクの悲痛な訴えが物悲しい。

喫茶店に着くと、何故か静(しずか)が待っていて永田の居る所へ案内すると言う。

永田に合いに来て、さして永田と接点がない筈の「静(しずか)が待っていた」と言う意外な事に、ナカヤンは混乱した。

「あっ、お待ちしておりました。恐れ入ります。

少し歩きますが、ご案内しますので、御一緒願います。」
静(しずか)の態度に、ナカヤンと京子は思わず顔を見合わせた。
ナカヤンが奇妙の思ったのは、静(しずか)の口調が何時(いつ)もと違って妙に大人びていた事だ。

静(しずか)の後を追いながら、二人ともこの疑問を抱いていた。
「一体、静(しずか)のこの変身は何事だろう。」

間もなく、その疑問は誘われた先で驚きとともに解けた。
二人は、静(しずか)に、「こちらです。」と案内されて、丸の内側の鉄道警察隊本部の奥まった一室に案内された。

部屋は多人数の打ち合わせ用らしく、かなり広い。

その一郭の机と椅子を使って、永田と一緒に二人、見るからに刑事らしい風情の男達がひと塊(かたまり)にポッンと座って居た。

そのうちの年長らしい刑事が立ち上がって声をかけて来た。

「中山敬二さんと、石井京子さんですね。」
「はい、そうですが・・・・」
「や〜、済みませんね。色々厄介な事になりました。」

彼は話しながら「まぁ、お座りください。」と、着席を薦める。
「実は少し隠密行動を取る必要がありまして、人目に付かないよう此処を借りてお会いする事にしました。」

永田が何時にない礼儀正しさで、二人を紹介した。
フレンドリーではあるが、永田にも何時もの軽さはない。
「あっ、紹介します。警視庁警備局公安課長補佐の川端警部と班長の西川巡査部長です。」

紹介した永田に、ナカヤンは聞いた。
「公安課ですか?」
公安課とは物々し過ぎる。

永田が、傍(そば)に立って居た静(しずか)に声をかける。
静(しずか)は飲み物を二人に運んで来た後、永田の傍に立っていた。
「森田警部補、そろそろ良いだろう。君も座りたまえ。」

「はい永田課長。」
「中山さん、石井さん、彼女は優秀な部下で森田君です。」
なんと、静(しずか)は本名を森田愛と言い、永田の部下だったのである。

警視庁生活安全局は最近多発するネット犯罪や集団自殺を監視する為、密かに特命チームを立ち上げて、ネット上のパトロールをしている。

静(しずか)の実年齢は二十三歳で、在学中に国家公務員一種(通称公務員上級職資格)に合格、国立大学卒業後、初任幹部課程を三ヶ月経た後、九ヶ月間みっちりPC訓練を積んでこの春正式に警部補サイバーパトロール係長を拝命、永田の部下に配属されていた。

「国家公務員一種ですか、エリートですね。」
「そう言われると照れ臭いですが、一応キャリアです。」

キャリアのスタートは、巡査、巡査長、巡査部長の三階級を飛び越え、行き成り警部補拝命のスタートとなる。
厳密に言うと、巡査長は十年以上の万年巡査に与えられる階級で、昇任試験を経たものではない。

森田が拝命した警部補の上の階級は、警部、警視、警視正、警視長、警視監と続く。

昇り詰めた警視監の定員は僅か三十七名、役職としては、警察庁の次長・官房長・本庁局長・部長・主席監察官・審議官・人事課長・警察大学校長・副校長・管区局長・関東管区総務部長、警視庁の副総監・主要部長、道府指定県警察の本部長にあたる。
また、出向先としては公安調査庁(本庁)の調査第一部長などがある。

キャリアの早い者は四十代後半〜通常五十代前半でこの地位に就き、地位は中央省庁の高級官僚または地方支分部局の長に相当する。

その上に居るのが最高位の「警視総監」と「警察庁長官」であるが、この立場はそれぞれたった一人が任命される。

ここで一見判り難い警察組織の全体像の概要を説明しておく。

警察組織には全国の都道府県警察を指揮監督(管理指導)する日本国の警察行政機関、警察庁があり、その長官、警察庁長官は、国家公安委員会が内閣総理大臣の承認を得て任免する。

警察庁長官は全警察職員の最高位に位置する警察官であるが、警察法第六十二条の規定により唯一階級制度の枠外に置かれ行政機関の長と位置付けられている。

警察庁長官は、国務大臣を委員長とする国家公安委員会の管理に服し、警察庁の庁務を総括し、所部の職員を任命し、及びその服務についてこれを統督し、警察庁の所管事務、並びに各都道府県警察(警視庁及び道府県警察本部)について指揮監督する任に着く。

各都道府県警察はその地方自治体に所属する組織であるが、警察庁が指揮監督するのである。

つまり各省庁と地方自治体の関係にあたるのが、形式上の警察庁と各都道府県警察の関係だが、その職務の性格上「警察官」と言う身分の者が入り混じって奉職する一体の組織でもある。

警察庁長官は警察官もつて充てるとし、警察庁の次長、官房長、局長(情報通信局長を除く。)及び部長、管区警察局長その他政令で定める職は警察官をもつて充て、皇宮警察本部長は皇宮護衛官をもつて充てるとされる。

警察庁長官を補佐する職として警察庁次長(階級は警視監)一人が置かれており、長官が出張等で不在の時はその職務を代行する。

この警察庁の行政組織の事を、現場を預かる各都道府県警察は「事務方」と呼んでいる。

各都道府県警察は、組織的には担当範囲に置いて、警察庁の管理指導を受けながらの独立した組織である。

そしてその中で別格なのが首都を管轄する「警視庁」であり、他の道府県警察と違い「東京都警察本部」ではなく「警視庁」という名称が用いられ、この警視庁の長を務める警察官に与えられる階級が「警視総監」である。

「警視総監」は、本来なら他道府県警察本部の長の職名「道府県警察本部長」と呼称するべき所であるが、歴史的経緯などもあり「警視総監」が首都の治安を守る「警視庁トップ」の呼称となっている。

誤解され易いが、警察官としての最上位の階級は「警視総監」であるが、職務はあくまでも「東京都警視庁」のトップである。

「警察トップの警視総監は、管轄するのが警視庁だけですか?ややこしいですね。」
ナカヤンが口を挟んだ。
庶民としては素朴な疑問である。

「あぁ、検察庁は法務省管轄だが、警察官僚は、警察庁と地方警察の幹部両方を任じている。」
「何故そんなファジーな事に?」

「警察実務と警察行政を分離した状態にする為の便宜上の苦肉の策だよ。実際に、両方の業務とも警察の専門官でなければ出来ないから、こう言う形態にせざるを得なかったのさ。」

「つまり、建前を合わせた。」
役人の考える事はそんなもので、「何か目的を決める」と何が何でもそれに辻褄を合わせる事が仕事みたいなものである。

「指摘の通りそんな所だが、何かする為には、知恵を絞って大前提の矛盾をテクニックで埋めるしかないのだ。」と、永田が苦笑いした。

警視庁公安部は、警視庁の治安(公安)に関する部局、すなわち東京都を管轄とする公安警察であるが、他の道府県の警察と比べて、東京都の警察(警視庁)のみ公安警察が独立した「部」になっている。

この警視庁公安部、強力な組織と噂されているが、その性質上謎に包まれていて詳細は不明の組織である。


以前の永田の学歴は捜査中の嘘で、ナカヤンにはにわかに信じ難いが、田舎のアンチャン風の永田も日本最高学府、国立東京大学卒業の警視庁ホープに数えられるエリートだそうだ。

「すみません、捜査上本当の事が申し上げられなくて・・・・。」

永田が、言い訳の様に頭を下げた。
それでも見かけは、とてもエリート警察官とは思えない。
最近出世して、今の階級は「警視」だと言う。
永田警視は、新設された警視庁生活安全局サイバーパトロールチームの「初代課長」と言う立場だった。

人は見かけで判断するものではない。
ナカヤンは見事に騙されていた事になる。
静(しずか/森田警部補)は、永田共々所謂(いわゆる)本庁採用組(上級職員)のキャリア警察官だった。

森田愛警部補は、身長が160センチと、やや小柄、あどけない感がある丸顔で、クリリとした瞳の持ち主は、美人と言うより可愛いと表現するのが合っているが、その可愛らしさが半端ではない。

歳を若く誤魔化し、高校生くらいまでは化けられそうだ。

小柄で童顔の為、見た目は実年齢より幼くおっとりとして見えるが、敏しょう性を秘めた肉体は合気道三段の免状を許されていた。

このサイバーパトの正式な名称は「警察庁・生活安全局・ハイテク犯罪対策総合センター・ネット犯罪対策課」と言い、平成十二年(西暦二千年)警視庁の中でも最も後で(新しく)設立されていた。

ハイテク犯罪対策総合センターには、対策班、捜査班、技術班が設置されている。
最近は、このネット絡みの新しいタイプの犯罪が急増する世相に中々警察の体制が追いつかなくなっている。

インターネットを経由した全く見ず知らずの「にわか犯罪グループや殺人依頼」と言った過去に無い犯罪が横行し始めていた。

そこで、永田は警察庁長官に直訴、今後の犯罪傾向の予測と捜査体制を確立する為に、従来の本庁課長の様な指示とデスクワーク主体ではなく、積極的に現場に動き、現実の現場捜査とハイテクネットのかい離を埋める手法や体制作りを確立すべく動いていた。

従来型とは違う犯罪が次々に発生するIT時代に即応すべきノウハウがサイバーパトにも蓄積出来ては居ない。
現状、ケエーススタディの集積がサイバーパトの大事な仕事でも有る。

だから、部下の森田愛も含め従来のノンキャリアを手足に使う古い警察官僚とは一線を画して、直接動いている。
あまり大きな声では言えないが、従来型の古い感覚の官僚勢力から慣例や前例を盾に永田達への批判勢力も多い。

だが、それを跳ね返す若さと情熱が永田達にはある。


警視庁警備局公安課(外事二課長補佐・東アジア担当?)の川端警部と西川巡査部長(公安第三課・暴力集団担当)は所謂たたき上げのノンキャリア組だが、捜査の大ベテランで、階級こそ低いが森田達も一目置く存在であった。

この警視庁公安課、マスコミなどの表向き扱いでは何故か「公安部?」とも言われているが、警視庁の正式の組織図では、正確には公表されていない。

ややこしい事に、警視庁公安部は警視庁警備局の内局の部であるが、力はけた違いでほとんど独立している存在である。
元々治安を預かる秘密警察的要素があり、警備局公安課が実は公安部と世間では推測されている。

警備局公安課(公安部)の下に設けられている課とされるものに、公安総務課、公安第一課、公安第二課、公安第三課、公安第四課、外事一課、外事第二課、外事第三課、がある。

それぞれ国内と国外の監視対象が決められている様だが、その設置目的上、日本警察の秘匿部分で有り、活動の実態は判然としない。

今回は事件の絡みで警備局公安課内(実は公安部?外事二課・東アジア担当?)と生活安全局ハイテク犯罪対策総合センター・ネット犯罪対策課が連携して捜査に当っている。

川端警部は、新潟県中部の山間地区出身で、高校を卒業して東京に出て来る前は、長い事雪の下で冬を耐えて育った。
村の駐在さんの人情味ある人格に子供の頃から尊敬の念を抱き、警察官を志した。

川端が少し大きくなると、「七人の刑事」と言うドラマが大人気で、それに夢中になり、刑事にあこがれた。
そんな訳で川端は、高校卒業時に、あこがれの警察職員を志願して採用されている。

純朴で辛抱強く、経験豊富で頼りになる日本男児だった。

更に人柄を言えば、川端警部は焼酎を愛し煙草は止められず、立ち食いの天蕎麦に幸せを感じる純朴な好男子で、家庭に帰れば、妻子ある一家の良き夫で有り父親である。

若くして出世するキャリア組はしばしば彼らベテランの力に頼らざるを得ない。

今回の事案にネット犯罪対策課が参入した切欠だが、最初は森田警部補の個人の趣味から始まっている。

たまたま「静(しずか)」のハンドルネームを名乗り、趣味で運営していたHPで、早い段階に今回の事態を補足、森田は内々で監視していた。

当初は、「ミレアがおかしくなった」と思ったが、どうも彼女の書き込みにバラツキが有る。
決定的なのはBワンのHPで、見た事も無い文字化けが起こり、それが佐々木和也(Bワン)の失踪事件に発展した。

二日後に九条民子の手で警察に届けられた失踪で、森田の危惧した事が現実のものとなったのだ。

本来プライベートのPHで起こった事だったが、森田はこの段階で、永田に報告した。
何か独特の感が働き、犯罪の香りを嗅ぎ取っている。

その段階では、永田は報告を受けただけでまだそれを事件とは認知せず、引き続き注視するよう指示しただけだった。

それが「佐々木代議士の三十歳代の子息失踪が絡んでいる」と言う事件性に発展して、現職代議士の世間体も有る事から、警視庁も内々で慎重に捜査を開始していた。

静(しずか)が監視を続けていると、その後九月には、ミレアの関心がリュウちゃんに移った。

月末に事態を報告、永田と「リュウちゃんのマークを始めようか」と、検討していた矢先、ナカヤンからの失踪通報が発生した。

後手に廻ってしまったが、事件の全体像を掴む手掛かりに成りそうな事案だった。

そこで、二日前から警戒していた永田が、千葉県警からナカヤンの通報を迂回させ、ナカヤンの電話に応じて千葉県警に成りすまし、アパートに駆けつけたのだ。

残念ながら、永田達が警戒を始めた前日にリュウちゃんは失踪していた。
それに相前後して、正体不明の男女各一人が借りたそれぞれの部屋の持ち主からも、失踪の届けが出ていた。

こちらも家財道具を置いてパソコンも起動したままだったが、名前は偽名で実在しては居ない事が判明している。

それで、ナカヤン達の行動を張っていた所、静(しずか)のPHパトロールに引っかかり、少しずつ接点が繋がりだし、一方の確信に迫って行ったのだ。

実は似た様な話が他にもあり、内々で関連を調べる動きが、本庁で始まっている。

その内の一件の失踪事件の管轄が埼玉県警、一件はリュウちゃんの件で千葉県警なので、本庁の方は現時点では表立っては動かない。
もっぱら、情報収集の段階である。

その指揮に、生活安全局ネット犯罪対策課(サイバーパト)の永田課長(警部)が当っていた。

ある政界の大物の息子が「失踪した」と婚約者から届け出がなされ、永田達が辿って行くと、驚いた事に別の失踪事件に次々にぶち当たった。

そして、埼玉の失踪事件で浮かび上がった女性キャリア官僚と、その政界の大物が線で結び付いて「偶然」とは思えない。
その内に、千葉でもリュウちゃんが失踪した。

つまり連続失踪事件は、PC通信の比較的狭い範囲で起こっていたのだ。

ただ、永田達が奇妙に感じたのは、ナカヤンと京子が不思議な反応を示しながら、およそ現実離れした現象を追っていた事だ。

凡(およ)そ現実的でない幽霊鏡の話に、二人が「芝居をして居る」とも推測出来たが、永田警視の感では「彼らは白」と感じていた。

二人は屈託が無く、まるで犯罪の影が見え無い。
それで、慎重に様子を観る事にした。

この事件を捜査するに当たって、警察が正攻法で動くのは「相手が警戒する危険もある」と永田は判断し、暫らくナカヤンと京子を泳がし、永田警視と森田警部補が内外からホローする形を取った。

その最中に超常現象が起き、森田警部補までが奇妙な霊体のようなものを「視認した」と言う。
何かは判らないが、想像さえ出来ない常識外の霊力が、この事件には付きまとって要る様だった。


いずれにしても、ネット絡みの犯罪は急速にその発生件数を増やしている。

サイバーパトとは別に、警視庁警備局公安課の方は、直属の上司、谷村警察庁・警備局次長(警視正・公安部長?)を中心に、川端公安課長補佐(警部・外事二課長補佐?)を現場長に配置していた。

この失踪、三軒目の事案発生(十月八日死体発見、二十八日の身元判明)時点で、公安の方でも大きい関心を寄せていた。

連続失踪事件は過激派、オカルト宗教、政治工作、国際スパイ活動などの大事件に結びつく。
しかも手口が、北の赤い国の手口と酷似していたのだ。

とくに公安が注目したのは、静(しずか)が持ち帰った文字が小さな閃光と伴に消滅して行く文字化けだった。

あの、京子が解けなかった文字化けは、実は日本のトップクラスの実力者でも解けない回線侵入型の強烈なもので、早くから、北の赤い国で独自に開発され、謀略の為にサイバー攻撃に用いられて居るものに酷似していたのだ。

以前公安課からサイバーパトに照会が来ていたので、永田達も知っていた。

静(しずか/森田愛警部補)は京子の検索に引っかかったのを幸いに、この一件に素人捜索仲間として潜り込んだ。

つまりナカヤン達には、生活安全局ネット犯罪対策課(サイバーパト)が、内側からしずか、外側から永田が接触をした。
幸いナカヤンと京子が想像以上に動いてくれて、静(しずか)も永田もやり易くなった。

一方公安側では、「クロさんこと、岩崎誠一」をマークしていた。

彼自身には過去に何らの問題は無かったが、出入りしている連中が、相当要注意の網にかかっている目の離せない連中だった。

そこに岩崎誠一の身辺でこの殺人事件と失踪騒ぎで有る。

公安課内(外事二課?)は俄然色めき立ったが、別の部署の永田警視も動いている。
本来の部署同士なら縄張り争いをする所だが、新設のサイバーパトは公安としても仲良くして置きたい。
慌てて本庁の上層部を動かし、訳を説明して永田達サイバーパトロールの動きを一部分封じた。

そして、谷村警察庁・警備局次長(警視正)を頂点とする公安合同捜査本部が立ち上がった。
谷村警視正は三十四歳の若さで此処まで上った超エリートで、若いから行動力もあり、将来が期待されている。

警視正になると、地方公務員から国家公務員に格上げされ、僅か全国で五百五十人に満たない数になる。
その谷村警視正は、永田警視や森田警部補の大学の先輩でもある。

彼らの狙いは組織の壊滅であって、殺人事件の検挙はゴールではない。
法治国家の警察として、永田達には公判を維持出来るだけの確証が必要で有る。
憶測では前に進めない。

従って捜査当局の歩みは遅くなるが、ジリッ、ジリッと、慎重に事件の本質に近付いて行く。
微妙な所で、岩崎誠一は泳がされていたのだ。
ただ不思議な事に、今回の事件は奇妙な怪奇現象が付き纏っている。

これは科学では割り切れない。
永田警視にとってもこの怪奇現象は合理性に欠けるから、説明も納得も出来ない。
恐らく関わった者全てが、説明は出来ないであろう。

しかしこの怪奇現象は、今回のメンバーの体験として現実に存在する。
此れは、警察と言う事実関係を積み重ねる事が大事な組織では、受け入れる土壌が無い。

もっとも幽霊の類が相手では、警察の関する事柄ではない。
経緯に苦慮が伴うが、永田は現象を認めながらも、それを無視して冷静に捜査を進める判断をしている。
もしかすると、現在の人間の理解を超えた処にこの怪奇現象の合理的証明が潜んでいるのかも知れない。

「犯罪の捜査は本来地味なものでして、映画やドラマのようにはいけませんわ。その点、ご理解願います。」
川端公安課長補佐(警部)が、笑いながらぼやいた。

「やぁ、川端さんは捜査が丁寧で定評があります。捜査内容は詳しく言う訳には行きませんが、今回もかなり深い所まで詰めて頂きました。」

永田警視が、川端警部(公安課長補佐)の立場をホローした。

「恐持てだが、好感がもてる」とナカヤンは思った。
「はぁ、何分親友の失踪なので、宜しくお願いします。」
「救出には全力を尽くしますが、極秘事項も含め、協力をお願いします。」

マスメディアに対しても極秘捜査の為、捜査員の規模は五十名と小規模だが、「重大な犯罪と確信している」と警官達は言う。
接してみると警察官も人の子で、こちらが善意の存在なら、怖がる事は無い。

ナカヤンが驚いた事は、この事件が既に推測の段階で、警視庁が秘密捜査にしていた事だ。
しかも担当部局が公安部だと言うのである。
何故か大事(おおごと)に巻き込まれたようだが、まだナカヤンに実感が無い。

永田達が言うに、辿って行くとこれは国家の威信に関わる事案で、「慎重な捜査が必要だ」と言う。
勿論、彼らは言葉を選んで、慎重に説明した。
それで、マスメディアに対しては神経を尖(とが)らせていた。

だからと言って、罪の無いナカヤン達を権力で口封じは出来ない。
観察の結果、ナカヤン達が信頼の置ける人物と解釈して、紳士的に協力を要請してきたのである。


処で、民子に恨まれ、この一連の事件の発端になった佐々木和也だが、実の処、真実彼なりに九条民子を心底愛している。
或る偶然から、取引先の食材加工会社の社長に美しい娘が居る事を、和也は知った。

民子の父親をゴルフの迎えに行って、チラリと民子を見かけたのだ。
それが清楚で美しく、スタイルも抜群で、和也は目を奪われる。

無性に興味が湧いて、聞けば遠い昔の別れとは言え、「公家の血筋を持つ女教師」と言う男として抱きたい女の典型的設定を備えていた。

九条民子は、身長が163センチ、女としては中肉中背、股下が長いのが自慢のスラリとした体型(からだつき)である。

たまご型の顔に均整の取れた目鼻立ち、プリッとした上下の唇、髪をストレートに肩よりほんの少し長くし、顔立ちは清楚な丸みを感じさせ、瞳は大きく、ハッとさせる憂いを帯びて印象的である。

まぁ、見てくれも品の良さも、民子は和也には勿体無い位の全身美人で、和也は一目惚れ思いを強引に叶えたのである。

興味ついでに民子の会社を調べて見ると、過剰投資で資金繰りが苦しそうだった。
ちょうど佐々木家へ、民子の父親からも融資の相談を持ちかけられていた。
それで、父親を通して積極的に民子を手に入れる算段をした。

大金なので常識では貸し難いが、身内同士なら話は別で、ちょうど家に息子、お宅にはお嬢さんが居る。
「こちらが正式に嫁に欲しいと言うのなら、悪い話ではないはずだ。」

そう持ちかけられて、その降って湧いた良縁に、切羽詰って居た民子の両親が飛びつかない訳が無い。
自分達より遥か大会社の御曹司で、民子もセレブの仲間入りが出来る。

処がマンションには通いながら、民子の態度がはっきりしない。
和也は親に、民子にそろそろ引導を与える様に言った。
親の方は民子が娼婦になって尽くしてでも、和也に好かれる事を望んだ。

しかし、そんな身売り話みたいな事を中々娘に告げられない。
最終的には、和也がはっきりこの婚姻話の背景を民子に話して引導を渡した。
それが上手く行って、民子は手に入った。

手に入れて抱いてみると、なお更愛しさが募った。
本音の部分では、「自分の命にも代えがたい。」と思っていた。
ただ、愛し方が民子の常識とは違った。

彼にとって、セレブ(乱痴気)パーティ遊びは仲間内では当たり前の事で、仲間内の友人達の連れ合い同様、「民子も次第に遊びに慣れるもの」と思っていた。

「感覚の違い」と言えばそれまでだが、事実付き合っていた松永直子(ミレア)との付き合いは単独の遊びで、そのまま続ければ単なる浮気だから民子の存在の出現で整理にかかり、一方的に清算を図っている。

セレブパーティの方は、和也の住む世界では二人でする公認の遊びで、どちらか一方の浮気ではない。
つまり双方の性行為に対する割り切り方が違う。

民子的には二十七年の人生で培った環境的感覚で、行為そのものに「大事な精神的意義」を求めている。
しかし和也は、精神的意義については「人間の本質を暴くと建前の虚構である」と考えている。

それ故現実的に考えて、精神的ストレスを「肉体的快楽で解消する為に活用しよう」と言うのである。
この辺りの感覚は、「育ちの違い」と言うもので、そう簡単には理解し合えない。

セレブ階級の妻達は、趣味を生かす程度の真似事以外あまり職に付かない。
だから日々が退屈で、習い事と買い物では間が持てない。
そう言う環境に長く居ると、人生つまらないから何かに刺激を求める。

「大事な精神的意義」などと言う建前はいつの間にか何処かに忘れ去る。
亭主の方も、何時までも自分ひとりが相手で代わり映えしなければ、彼女達の長い結婚生活が持たない事位知っている。

元々大概の女性は、昨今の風潮からして結婚前に何人かの男を知っている。
従って、普通の主婦でも時として倦怠や退屈が理由で浮気や男遊びはする。

増してや何不自由ない生活であれば、退屈の極みで、相応の刺激が要る。
贅沢な話だが、金持ちの「何不自由ない生活」くらい退屈なものは無い。

実は夫婦関係においてその生涯に大事なのは、生活の上で発生する困難な出来事に夫婦協力して当たり、乗り越えて財産を築いて行くから絆が深まる。

そこが、最初から金に不自由が無い金持ち夫婦には欠落してしまう。
傍目に裕福な事は幸せに見えるが、退屈は本人にとって結構不幸で有る。
その心の隙間をスリルで埋める為に、亭主の知らない男遊びに走る。

夫達にしてみれば、有閑マダムが亭主の知らない間に、ホスト遊びや、素性の怪しい相手と浮気をされて表ざたのトラブルになっても困る。

この点では妻達も同様で、知らないうちに夫の女遊びから自分の生活基盤を脅かされるのも困る。

そこでいっその事、こうした建前の虚構の上に立つ夫婦間の合意に頼らず、セレブ同士が連携して、互いが納得ずくで遊び合う組織が自然発生的に出来上がって、乱交パーティになる。

これは、精神を伴わない肉体的浮気の機会を互いに与え合う、言わば仲間内での生活安全弁互助会で、ルールとして必ず一度に多数の相手と関係を持つ。

それなら、「好きだ、嫌いだ」の個人の好みや相手選別の感情が入り込まない肉体(からだ)だけの遊びが、夫婦互いの了解の下に出来る。

つまり「後腐れない遊び」が、互いの了解と監視の下に、堂々と出来る現実的な理屈だった。

男の方はと言えば、それぞれ社会的に責任がある立場を築いていて、ストレスも多い。
こちらも頭を真っ白にする程の刺激的はけ口が欲しい。

ただの女遊びではそれほどの刺激は到底得られない。
そこで思い付くのがスワップや乱交と言う事になる。

精神論ではなく肉体(からだ)が要求するのだ。

それを、「愛があれば絶対に浮気などしない」などと言う頼りない希望的合意に頼って現実逃避をするのが実は「精神的意義」の正体である。

更年期障害は、エストロゲン(女性発情ホルモン・卵胞ホルモン)の減少が原因と言われて居る。
エストロゲン(女性発情ホルモン)は女性を美しく魅力的にする。

つまり、男性を引き付ける為の恵みのホルモンである。
本来このホルモンは、原始的な「種の保存」と言う目的に添って、男性を引き付ける為に必要だから存在する。

そう言う意味で、人間は異性の存在があっての本能に、人生の少なからずを生きている。
閉経期には、このエストロゲン(女性発情ホルモン)が減少し、女性の美しさを失わせて行く。
これは女性(妻)だけでなく、男性(夫)に取っても夫婦の大問題である。

それでは、失われ行く美しさを保つ為に、何をすべきか?
「恋多き女は若々しく美しい」と言われるが、既婚者が他所で勝手に恋ばかりはしていられない。

それこそ、家庭崩壊の所業である。
そうなると、パートナーとの付き合い方を工夫するしかない。

民子は、極上の性奉仕を和也の遊び仲間に提供する為にトレーニングで仕込まれ、一糸纏(まと)わぬ素っ裸で和也の遊び仲間の前に立たされて実践経験を積まされる。

勿論、和也の遊び仲間とは言え、他人前で素っ裸にされて性交をして見せる非日常の情況に民子の脳にはドッとドーパミンが噴出する。

民子は彼らに無遠慮に犯られ、民子はセックスハイ状態に到達して素の女性(おんな)を曝(さら)け出す。


実はセレブグループの中には医者同士のカップルもいて、このセレブパーティ遊びを結構真面目に人間の生理科学的に発案していた。

脳は、新しい事を情報として受け取ると、脳内部が情報共有の為に活発に情報交換活動をして、活性化する。
つまり、あらゆる刺激を持って脳を活性化する事によって、女性美(若さ)は保てるのである。

倫理感は夫婦互いの誓約の問題であって、「伴に楽しもう」と言うなら話が少し違う。
このセレブメンバーは、何時の間にか単独の浮気遊びは卒業している。
こちらの方が余程刺激的で、面白い。

それ故に、メンテナンスの面倒臭い愛人など持つ気にならない。
共有する秘密の楽しみもあるから、夫婦仲も到って善い。
乱痴気パーティも数をこなせば、それが普通に成る。

とにかく野生の性を過激に満足させ、頭が空に成ればストレスも解消する。

実際多くのセレブメンバーで、和也はこのパーティを「表向きのポーズはともかく」本気で嫌がる女性を過去に目にした覚えは無い。

暫くセレブ生活を経験すると、大概の所、退屈しのぎにこの機会を待ち望んでいて、夫公認だから気が楽だ。
慣れてしまえば、彼女達には夫婦円満の秘訣で有り、刺激的で楽しみな気晴らし遊びなのだ。

そして、民子を手に入れて以後、和也が積極的に乱交遊びにのめり込んだのも、彼が他所の女を抱きたかったからではない。

和也が、民子への歪んだ愛の快感に胸を焦がしたからだ。

和也にとって、容姿端麗な民子は、何処に出しても恥ずかしくない自慢の婚約者だった。

それが、仲間内で和也の婚約が話題になり、恒例のパーティルールで民子を性の生贄にする事になって、憂いを湛えた表情で友人達に弄ばれる民子の痴態を目の当たりにした。

そこで垣間見た「陵辱される民子の秀麗な戸惑いの表情」に、和也は想像以上に胸をキューンと締め付けられる、嫉妬交じりの興奮を覚えたのだ。

そしてその強烈な感情移入に衝撃を覚え、その感情の再現を欲した。
正直に認めれば、性行為とは、人間が元の獣に戻る時である。

脳内でアドレナリン(興奮ホルモン)を噴出し、獣に戻るからこそこの時だけは限りなく嫌らしさを求め、本音の行為が出来る。


そこが肝心で、つまり性行為には嫌らしさの興奮が求められる。
かなりマニアックな性癖だが、愛するが故に、民子の輪姦陵辱の姿を和也の心が求めたのである。

民子が友人達に弄ばれる姿を見て、民子を「愛しい」と思った。
いささかマニアックな心理ではあるが、陵辱される民子の裸身やその表情に、えも言われぬ興奮と愛しさを感じたのだ。

和也は自分が民子をこよなく愛している事を、強く実感した。
民子の裸体は美しく、美人顔で友人達の羨望の的だった。

だから、民子を愛すれば愛するほど、その愛しさを陵辱に求めた。
その思いは、強く和也の心の中に生きていた。

この和也の心理、自分と感性が違うからと言って、簡単に異常者と片付け無い方が良い。

あの少年の頃の「好きな娘に意地悪をしてしまう・・・」、あの愛しさの思いとは反対の行動は、大半の人間にほろ苦い幼い思い出として残っている。

「愛するほど汚したい」、このメンタルな衝動にかられていても、和也は純愛を否定している訳ではない。
精神的愛情と肉体的独占欲に、元々の一致が無くても、それは幾らでも説明がつ。

逆に言えば、アクシデントで肉体を汚された愛する人を赦せないのは肉体的独占欲で、そんな事に拘るのは愛情ではない。

ついでに言えば、肉体的交渉の能力を相手が失っても、愛せる精神が精神的愛情で、両者を混同する事こそ、説明が着かないのである。

実際、民子にしても、例えめぐり合わせの遊びのプレィでも性交をする以上は粗相(そそう)が無い様に気を使う。

つまり、「相手に快感を与えよう」とチ*ポをシャブり、渾身(こんしん)の受け腰使いで抜き挿しの快感に努力するのが、置かれた立場の最低限の性交相手への礼儀である。

「エッ、淑女である民子が何故、受け腰を使う娼婦に変身したのか?」ってか?

それはもう民子が股間に挿さった欲棒を、他人前(ひとまえ)の晒(さら)し者状態で「抜き挿しされる」と言う非日常のリアルな性交状態に在るからである。

通常の状態で民子が性交を考えるのは「理屈(理性)」だが、坊主頭のカリ首の海綿体に肉内壁を擦(こす)られ続ける性交最中の民子は「感覚(感性)」だけである。

つまり肉体的な「感覚(感性)」がモロに脳に伝わって来るのだから、快感を貪(むさぼ)るが先で嫌とか恥ずかしいなどの「理屈(理性)」を考えている暇は民子に無い。

そして大人の男女の成熟した性器と性器が正常に抜き挿しされて海綿体が接触すれば、得られるのは神の与えた「快感」である。

だからその結果として、民子が夫の目の前で腰を浮かしてヒィヒィと「気持ち良がって」も、何人(なんびと)もそれを非難出来ない。

当日の輪姦プレィの場では強がって耐えて居ても、家に帰えれば張っていた心が崩れて泣きながらまだ他人の抜き挿しの感触が残ったまま亭主と性交に及ぶ。

それで民子は互いの愛情を確かめて、漸(ようや)く倫理観の負い目を吹っ切る場合も多い。

しかしそれは感情的なもので、民子の肉体(からだ)の方は充分にマルチSEX(複数性交)プレィやマルチタスクSEX(同時実行性交)の強烈な快感を記憶してしまっている。

そうなると性癖を植え付けられた民子は次のプレィのお誘いを断れないから、まぁ順調に環境が整えば人類は皆快楽性交マニアである事を否定は出来ない。


和也は心底民子を惚れ込み、愛している。

だからこそ、目の前で繰り広げられる民子の陵辱される姿に、和也の「嫉妬」の炎はヨリ強く湧き上がり、それ故愛を感じその気持ちを確認させる。

また、その過酷な要求に民子が応じる事で、当初金で買った様な頼りない自分への愛を、和也は確かめてもいる。
つまり、泣きたい位に微妙な心理の上で、この行為は成立っているのだ。


三ヵ月後、民子は引く手数多(あまた)のパーティの女王になって行った。

マルチSEX(複数性交)やマルチタスクSEX(同時実行性交)、或いはコレクティブセックスプレィ(集団乱交)などの遊びの性交も多人数相手ではかなりの運動量である。

おまけにこの環境では裸体を始終他人に見られる事を意識しているから民子の肉体(からだ)が適度に美しく引き締まり、いっそう魅力的になった。

ただ、育った環境の違う民子に、内心その和也の思いを理解される筈(はず)は無かった。
民子の感情では気持ちが引いてしまい、セレブ連中の遊びはとても割り切れない。

民子には、「憎悪が募っただけだった。」ので有る。
その男女の、心の行き違いが事件に発展したのだ。
人の心とは、それほど複雑だった。


埼玉県警管轄で発生した類似失踪事件の事だが、今合同捜査本部が埼玉の所轄と連携して連続失踪の関連を調べているのは、新たに判明した大石辰夫の事案である。

似た様な事案で失踪したのは、埼玉県**市内**町のマンションに住み、隣街(市)の公立病院に勤めるレントゲン技師の大石辰夫四十歳だった。

彼は職場に内密で個人HPを運営していて、実はそちらの方で本業を数十倍凌ぐかなりの副収入を得ている。

インターネット社会が進歩を続け、ネット長者が球団やテレビ局の買収騒ぎを起こす影で、雨後の筍の様に様々なニュービジネスが誕生している。

その中に性風俗を扱う物がある。

旧来の風俗業界、アダルト映像業界などもHPのネットに参入しているが、それとは少し違う「現代風俗文化」とも言うべきものが、個人HP通信の発達とともに醸成されている。

大石辰夫のハンドル名はタンクと言い、HPの内容は、「解放の館」と名を付けた個人運営のアダルトサイトで、趣味が高じて何時の間にかそのマニアの間では一目置かれる存在になっていた。

四十路に入って未だに独身だが、彼には趣味の合う女友達が三人ほど居て、相手に不自由は無い。

大石は、その三人との私的な性の交際記録を映像で公開していたのだが、それが当って、日に数千、多い時では万に達するアクセスを獲得、リンク希望者も殺到して、ついには一部の公開を「解放の館・メンバーズクラブ」として有料化に踏み切っていた。

それに、「その道で有名サイト」と言う安心感からか、イレギラー単発の輪姦体験希望の若い女性も多く、それらの願望を叶える企画を催す代わりに、映像の使用権を確保していた。

流石人気が出るだけあって、交際相手の女性との様々な性行為の記録映像をモザイクでぎりぎり合法化し、大胆に公開している。

他の同好の士と合同で開催した性交流会の記録を公開し、或いは交際女性の輪姦会を開催して希望参加者を募り、一対十四の壮絶輪姦映像記録公開など、見所充実サイトだった。

当然の事ながら、三人の女友達は性癖願望が大石の趣味に一致していて、別に強制されている訳ではない。
単なる「目的の機会を得易い環境」として、その存在を利用しているに過ぎない。

闇に隠れては居るが、こうした要求を持ち合わせる男女は想像以上に多く、その場所や機会を熱望しているのである。

だからと言って、その男女が特殊な訳ではない。
日常では極普通の人達で、社会性も持ち合わせている。

実を言うと、子持ちの人妻も混じっているが、夫との単調な性生活の穴埋めに、年に十数回ほど大石の所に「はけ口」を求めていた。

後の事情聴取によると、夫を愛しているが、それだけでは物足りず、日常の平凡な虚無感から逃れる為の精神安定に必要だと、その心理状態を説明した。

やはり安心安全に身体だけの関係が必要で、情は挟まない。

こうしたサイトはリンクなどで互いに連携して閲覧者を紹介しあっているが、写真や映像の投稿提供、互いに交流を深め手持ちの女性(妻や恋人など)を派遣しての調教依頼や合同スワップなどして、親密さを増して関係を深めて行く。

こうした性行為をさせる仕組みを合法的に運営する為には、原則として金銭のやり取りは無い。
参加費用は実費割り勘払いで別だが、売春に成らない為に、サイト運営者はその女性の提供は無償の行為としている。

夫婦で運営しているサイトも多く、最初は個人的趣向が動機でも、すぐに収入に出来る事が判り、有料サイトを併設するのが殆どである。

収入の方は、そうして無償提供された女性の性行為の場面を画像や映像で「有料契約のメンバーにアクセス視聴させる」と言う手段で「ネット配信営業をして稼ぐ」と言う事になる。

つまり自分の妻や恋人のあられもない動画映像や写真を売る事になるのだが、この有料サイトは凄いアクセス数で、当ると想像を絶する収入が毎日振り込まれる事になる。

元々設備投資の元手が掛からず、モデルも素人が売りだから自分の妻などの自前で、安上がりに稼げる。

ネットを利用しているから、田舎でも、マンションの一部屋でも可能で、最近は若手の一旗上げカップルも大胆に参入し始めている。

しかし世の中の常で、この仕事も遣り出したら手は抜けない。
画像更新の努力を怠るとユーザー離れがあるし、中身も奇麗事ではアクセスが少ない。

勢い激しい内容が要求される様になり、次々と妻や恋人を貸し出し調教やSM調教、輪姦の生贄に提供して話題と映像を得る経緯になる。

リアリティがあり、過激この上ない所までエスカレートするから、プロの業者の物より人気がある。

しかしこの個人ビジネス産業、女性パートナーの了解と協力の元で運営しているから、無修正の猥褻画像と認定される事や、十八禁に触れない限り、法的には活動を制約されてはいない。

大きな契約件数を得、現在急速に拡大して大型の事業に変貌しつつある個人サイトも出現してきた。

中には「ワンクリック」と呼ばれる悪質業者もいて、覗いただけで法外な料金を請求する所もあるが、趣味のサイトから成長した所は、比較的良心的な所が多い。

半分は、「趣味の仲間を増やしたい」と言う目的を持ち合わせているからで、新規の参加者も結構多い。

こうしたサイトは知らない間に増殖し、現在多数(平成十六年で二千三十件のサイト稼動)が存在し、PC時代の新しい隙間成長産業として風俗ビジネスモデルとなっている。

大石辰夫(タンク)のウエブ・サイトもそうしたサイトの一つで、今の処犯罪性はないが、警視庁サイバーパトの定期的監視対象には当然リストアップされていた。

大石辰夫(タンク)の失踪届出は勤務先の公立病院から出たのだが、彼の趣味と副業の実態に付いては、病院は知る由も無く、公立病院から、失踪の疑いがあると通報を受け、警視庁サイバーパトからの類似の失踪事案紹介連絡を事前に知っていた埼玉県警生活安全部ネット犯罪対策課長とその部下が、家主の立会いによって踏み込み発見した。

リスト紹介で、警視庁サイバーパトのデーターと一致して「解放の館」のオーナーが大石辰夫と判明した。

大石辰夫(タンク)が借りている都下**市**町のマンションに出向いた埼玉県警生活安全部ネット犯罪対策課長は、最初に電源が入り放しのパソコン三台に視線が行った。

普通の家で、高級機種を三台も同時にパソコン使用する事は考えられない。
中身を調べると、大石辰夫(タンク)は個人の趣味を兼ねてアダルトサイトを運営していた。

「こちら埼玉のネット対策課長の山下ですが、永田警視は居られますか?」
「電話代わりました。永田です。」

「あっ、埼玉の山下ですが、ご紹介の連続失踪に類似する事案が発生しまして、今から送りますので、照合をお願いします。」

「承知しました。協力感謝します。場合によってはご一緒するかも知れませんが、その節は宜しく。」

本庁のネット犯罪対策課長永田警視に連絡してデーターを紹介すると、意外な事に、当局に対しての「映像送信型風俗特殊営業許可及び無店舗販売型風俗営業許可」もしっかりと届出済で、闇サイトではなかった。

連絡を受けた永田は、おっとり刀で現地に掛け付け、県警関係側と調整して捜査に加わる。
「少なくとも、まったく同じ形の失踪です。」

「やはりそうですか、此れは広域ですね。」

「実は、こちら選出の佐々木代議士の御子息も失踪していまして、本庁の公安が入っています。どうやら、県境を跨ぐ事になりそうです。」

「それじゃ、こちらが協力をする形で、遣りましょう。」
そんな訳で、大石辰夫の件は永田が捜査を指揮する事になった。

調べてみると、どうした繋がりなのか、大石のサイトに登場する看板女性は三人居て、いずれも相当激しい行為を大石辰夫(タンク)に提供し、その映像を公開する事を許している。

大石辰夫は、そのHPサイトの画像更新の為に、有料メンバーに参加を呼びかけ、手持ちの女性を提供して、オフ会や、輪姦会などのイベントを開催していた。

これが人気で、サイト上では「有名サイト」として通っていた。

それも、SMやら多人数の輪姦やらを一人または二人、三人一度に登場する事もあるので、大石辰夫の相手が自分だけでない事も、女性達は互いに知っている。

そしてその事を、誰も拘らないし、場合に拠っては「和気合い合い」と共演さえして居る。

どうやら三人とも愛情関係と言うよりは、「共通の嗜好を互いに満足させる為の協力関係」と言った同志的繋がりと推測され、「痴情のもつれの線は無い」と永田は思った。

ただ、大石辰夫の手持ちの女のひとりに、どうも常識では想像出来ない身分の女性が混ざっていた。

三人の女性の身元を割り出して見ると、内一人が何と地元埼玉県出身の女性キャリア官僚で、財務省主計官と言う大そうな肩書きが付いて居た。

名前を大供みどり と言い、四十歳代に少し届かない知的な美人で、身長は168センチとスタイルも良い。

その女性のあられもない顔消し前の元画像、映像が、大石辰夫のマンションから多数押収されて、永田もその変身振りが当人と結びつかなかったが、事情を聞くと、当人は「仕事のストレスがきついので発散するのに良かった。」と、あっさり本人と認めた。

「永田さん若いけど、貴方もキャリアなの?何年合格?」
「一応キャリアですけど、私の合格年次は、本題とは関係が無いので・・・」
「あら、合格年次も教えてくれないの?私の方は身体全部を貴方に見られているのに。」

「えぇ、お綺麗な身体ですね。」
「言うわね。写真やビデオより本物はもっと綺麗よ。何ならお見せしましょうか?」
「お願いしたい所ですが、勤務中なので・・・残念です。」

キャリアなら時々生き抜きをしないと、「潰れる」と大供みどりは永田に言った。

彼女の言い分によると、教員や警察官などの性関係の不祥事、事件を見ていつも思うのが、「なぜ連れ合いが息抜きの受け皿にならないのか?頭が悪いに程がある。」と言う。

夫婦協力で事件性の無い逃げ場を作れば、仕事の能率もあがり、相手に害を及ぼす暴力行為や猟奇事件など非合法の逃げ場の必要は無い。

みどりに言わせると、性的な欲求は人間が生きて行く(生活して行く)上で必要だから備わった快感欲求で、何も繁殖の為だけにあるなら、他の動物のように繁殖期を設け、必要に応じた欲求のコントロールで発情期だけのものに限定すれば良かったのである。

神がそれをしなかったのは、複雑に発達した人間の脳の負担を、性交の快感に拠って軽減させる「自然の恵みである」と考えるべきで、それ故に、頭を使い、知的で高度な仕事をして居る人間ほど、日頃の性的な欲求は大きくなる。

当然、大供みどりにとっての生きる基本としては、「性は生に通じる」と言う事になる。

女性に貞淑を求める裏に、「男性の独占欲が潜んでいる」と、大供みどりは考え、女性は保身からそれを受け入れているだけなのに、その縛りがなくても「その常識が正しい」と、一途に信じている。

凝り固まっていては、人生が狭く貧しいものになる。
女性は、「もっと柔軟性を持つべきだ」と、才女の大供みどりは主張する。

大供みどりに言われてみれば、確かに優秀な女ほどチャレンジ精神は旺盛で、世間の常識には懐疑的だ。
永田の経験からしても、平凡な女性ほど世間のお仕着せの常識に拘って疑わない。
だが、それはあくまでも個人の選択の問題である事も、永田は知っている。

凄い場面の無修正写真を手元にしての事情聴取に、当の本人と会うのは奇妙な物だったが、本人は意外とアッケラカンとしている。

元来知的女性の方が性におおらかで、「それはそれ」と合理的に分けて考え、世間の常識に囚われないライフスタイルを確立している。

永田はある意味、大供みどりの言い分も判るような気がした。
本音があるだけ、近頃増しな官僚かも知れない。

犯罪性がなく、個人の趣味とは言え、公表するのをはばかる公務員上級職身分の相手に、警視庁も対応に窮した、

どうした関係か地元埼玉一区選出の憲政党の大物議員から本庁を通じて圧力もあり、永田もやむおうえず特別扱いで対応した。

サイバーパトのお目付け役として警察庁から派遣されている事務方(警察庁管理菅)の高橋が目の色変えてやって来て、「大供みどりの尋問の件は、何処かマスコミの目に付かない所でしろ。」と念を押されたのである。

結果、腫れ物に触る様にホテルでの秘密事情聴取を余儀なくされている。
彼女には、後ろに控えている大きな権力の為か、自信の様な物が見受けられた。

意識しての行為かは定かで無いが、まるで映画の、「氷の微笑」のワンシーンを観る様に扇情的な脚の組み替えなどして見せ、とても、おかしなプライベートを警察に知られた女性の態度では、最後まで無い。

それとは別に、大石辰夫は真面目な個人サイトも運営していて、こちらは趣味の、ジャズ音楽の歴史から現在までの情報を提供していたが、もっぱら、書き込みや、チャット、メールの通信交流が主だった。

共通して使っていたハンドルネームは「タンク」で、真面目な方にも多人数の通信常連がいた。

それが妙な事に、リュウちゃんやBワン、なども交信仲間の様で、時たまの書き込みの遣り取りが確認されている。
ネットは、この事件の根底に流れる、言わば「狂言回し」見たいなものかも知れない。

永田の方も、捜査範囲が異常な広がりを見せ、それを潰す作業に追われていた。
それでも、一般人のナカヤンに「良くそこまで言う」と言った内容を、彼は明け広げに話していた。

当然彼には警察官としての立場がある。それを認識しながら、これだけの事を話す。
もし、そう言う事ならそれなりの必要性が、彼にあったのかも知れない。


一通りの経緯を話すと、「何か判ったらまた教えます。」、永田はそう言い残して、帰って行った。
まめに顔を出す事から、或いはまだナカヤンも容疑者と見ているのかも知れない。
永田の情報で、ナカヤンがどう動くか、伺って居るかも知れないのだ。

どうやら、ナカヤン達の考えていた事は根本的に見直してみる必要がある。
ナカヤンの頭に、或る疑問が浮かんだ。

もし、永田が言う様に失踪した男女が怪しいなら、何故失踪などと目立つ事をしたのか?
この点については、永田が帰ってから京子と携帯で話した。

京子の意見では、後で存在が確認されるのが確実なら、最初から疑われるより「被害者側に紛れ込む方が良い。と、考えられないか?」と推測していた。

「そうか。」
今回は質濃(しつこ)く追う奴がいるが、それでなければ五人同列で、単純な「手がかり無しのネットトラブル失踪者」で終わるかも知れない。

つまり「被害者として扱われる狙いが有った」と言う事だ。

永田が個人的に容疑者と仮定して、二人を追っているのを認識した。
本当の失踪者は、「何人なのか?」
リュウちゃんは、想像以上の何か大きな事件に巻き込まれているのかも知れない。

警視庁の「公安が動いている」とは、ナカヤンとしても意外な展開である。
この先まだまだ多くの謎解きが、きっと隠されている。
明日の晩は、京子と作戦の練り直しをする積りだ。


(陰謀と赤い影)
======「現代インターネット風俗奇談」======
小説・電脳妖姫伝記
◆ 和やかな陵辱 ◆第六話(陰謀と赤い影)


佐々木和也が失踪する一月ほど前、父親の佐々木昭平は、愛人の大供みどりから大変な事を聞いた。
大供みどりは埼玉県の出身で、京都大学から国家公務員一種に合格した女性キャリア官僚で、現在三十六歳になる。

もう十年ほど前になるが、大供みどりが省と予算委員との連絡を担当していた二十代中頃に、まだ派閥の陣笠で威勢の良いだけがとりえの衆議院議員予算委員だった佐々木昭平と知り合った。

たまたま佐々木昭平の息子和也が大供みどりと高校が先輩後輩と言う親近感が母校の無い昭平の心をくすぐった。

二人は同郷人と言う事で意気投合し、互いに親しく声をかける様になった。
その後、関係が進展する機会が訪れる。

和成の宿泊先のホテルに翌日の国会答弁の打ち合わせ書類を届けた時に、みどりの方が大胆に誘う形で深い付き合いが始まっていた。

大胆だったのはその時だけで、その後の情事は互いに人の目を気にする立場だから、逢瀬には他人(ひと)知れず遠出をする。大抵の所、会う場所は都内ではなく、湘南、御殿場、箱根辺りの小さなホテルかモーテルにしけ込む。

大供みどりは、身長が160センチ、カチッとした体型で、顔は逆三角形に分類されそうな輪郭で、気が強そうな冷たい感じの美人顔だが、笑うと結構愛嬌がある。

経験豊富な肉体は、煽情的な肉感を相手に感じさせ、シットリと吸い付く様な柔らかい肌、大ぶりの二つの乳房、引き絞られたウエストに、I字型の臍(へそ)の溝が、恥ずかし気に膨らむ恥丘と密集する濃い恥毛、そして少し大きめな尻が、下半身に安定感を感じさせている。

やりての女性官僚・大供みどりは、三十六歳になる今日まで独身を通している。

勿論、出世の為には夫や子供の存在は邪魔になるからで、少子化などと騒いでいても、キャリアウーマン乱造の世相に、この相反する命題は解決できない。

家庭は持たないがSEXは別である。
人間である以上、並の健康体なら性欲はある。

大供みどりも例外ではないが、公職にあるからおのずと相手が限られる。
その点代議士と言う公職にある佐々木昭平は、歳がかなり上だが相手として都合が良かったのである。

大供みどりは日頃のストレスが溜まるのか性行為は積極的で、佐々木昭平は年に合わない激しい行為を強いられる。
大分以前に身体の関係が出来た言わば腐れ縁だが、大供みどりの場合は付き合っていても面倒な事が無い。

昭平が財産家と知ってはいても、みどりはプライドが高いらしく金銭的要求などはなく、プレゼントも誕生日以外は余り嬉しそうではない。

つまり同志的な結合に拠る性交中間である。

その代わり、みどりが気の向いた時にだけ会う暗黙の了解が出来上がっていた。

その後年月を刻み、当選回数を重ねた佐々木昭平が党内中堅派閥のナンバーツウにまで伸し上がってもその関係は続いていた。


「貴方、今日は何故か機嫌がいーいのね。」
大供みどりが、身をよじってパンティを外しながら佐々木昭平に言う。

二人はもう、ベッドの上でくつろいでいた。
「あぁ、息子の和也が本気で惚れる娘が現れてな、それが九条と言う公家の出なんだ。」

「めでたいじゃない。結婚させるの。」
「本人がその気ならな。とりあえず、親を納得させて、同棲と言う事で和也に宛がうだけはした。」

「それじゃあその娘さん、今頃は、おひろめパーティでこっ酷く嬲り者だわね。」
「若い連中は、おひろめとは上手い事考え出したものだ。民子にすれば、別世界だろうな。」

「新嫁候補を遊び仲間に輪姦(まわ)させるなんて、普通義父として可愛そうじゃありません。」

「バカ言え、俺は政治も個人も現実主義者でね。自分が外で散々遊んでいて、嫁には汚れない綺麗な身体の女が欲しいと言うふざけた偽善者じゃないぞ。」

「あら、歳の割に理解があるのね。言われてみれば、今時結婚まで異性を知らないなんて事は滅多に無いですものねぇ。その度に汚れていると目くじら立てるのも可笑しいし・・・」

「だろう、だから夫婦で参加して集団で性的に遊べば愛情と性行為が分離出来て、夫婦の基本的なスタンスは純粋な愛情だけになる。」

「そうね、肉体に拘れば偽善者よね。相手が病に倒れて行為が出来なければお役御免で、それがないのは互いに愛情があるからですもの。」

「あれはな、今まで引きずって来た過去を、一度ご破算にする禊(みそぎ)みたいなものだ。まぁ、定着したパーテーメンバーに、破局したカップルの事例がないから、互いの信頼効果はあるのだろう。」

「人間、いろんなものを引きずって生きていますものね。」

「現実に対して逃げるか立ち向かうか、おひろめを経験すれば、民子にも、何か得るものが有る筈だ。人は経験を積む事で、物事への理解が育つ。」

「今の子供達は、あれをしないと仲間に入れないからな。それも民子は、今の所順調にこなしたらしいが。」
「もう禊(みそぎ)を済ましたなら安心。ねぇ、私達も、深く理解し合いましょうよ。」


一戦交えた後、みどりが佐々木の胸元で囁いた。
「ねぇ、貴方は資産が多いけれど、現金はどんな管理をしているのかしら?」
「なんだ、めずらしいな、金でもいるのか?相談に乗るぞ。」

「違うの、私も最近知ったのだけれど、個人の多額の現金と預金は危ないかも知れない。」
「おいおい、党財政再建委員長の俺でも知らない計画でもあるのか?」
「此れでも私、キャリアの財務省主計官よ、黙って聞いて。」

政府の一部と財務官僚にとんでもない計画があった。
「此れは、余り噂にもならないオフレコだけど、可能性があるから、貴方、対処だけはしといたら。」
みどりは、「或る陰謀めいた計画が着々と進んでいた」と言うのだ。

彼女によると、最近の預金補償額限度(ペイオフ)を一千万に定めたのには裏の目的がある。
今回の紙幣のデザイン変更、何故一万円だけがそのままなのか、考えた事あるだろうか?

そう言えば、何故か一万円だけデザインが変わらない、此れには佐々木も少し違和感があった。
「何か目的があるのか?」
「本当に日本を裏で動かしているのは、官僚よ。引き出しに想定案がたっぷり・・・」

実は数年前、北の赤い国から精巧な偽一万円札が流入した。

それで、対策に新デザインやらホログラム印刷など官僚が検討していて、赤字国債残高に悩む一人の高級財務官僚が「閃いた」と言うのだ。

一言で言うと「国民の金を強引に掠め取ろう」と言う事が計画された。

シナリオはこうだ。日本の赤字国債が原因で、国際的に日本の金融信用に波状寸前の黄色信号が灯った時、それを早期に処理するには思い切った対処が必要である。

ちょうど国内銀行の信用はその時点では不安な状態になっている。
しかもペイオフで、国家の補償は限度が出来ている。

ペイオフによって保障限度以外は、危険を避け、一時的にタンス預金に廻るかもしれない。
タンス預金が増えればこの計画者の思う壺で、狙いは赤字国債解消の為の強奪である。

「預金閉鎖」は戦後の経済立て直しの時に「新円切り替」として使われた実績のある手法だが、今度はこの平和時に無理にやる積りだった。

ペイオフの実地は「預金閉鎖」の準備段階だ。
「預金封鎖」は、何らかの目的の為に、一時的に預金の引き出しを止め、個人の預金額を確定させる手段で有る。

その証拠に最近銀行を締め上げて架空講座を厳しく摘発し始めている。
金融機関はたとえ預金だけの客でも本人確認をキチントやる様になった。
此れで、庶民の預金を全て表に洗い出す。既に準備段階は終わっていた。

この段階で「預金閉鎖」をして、一定額以上の預金は政府が回収、残りに関しては密かに用意してある新デザインの一万円だけを使える様にして交換発行する。

(注)、戦後すぐの預金封鎖の時は、現在の収入印紙に似た証紙を一定額だけに総額を限定して旧札に張り使用を認める事で、残りの紙幣を紙屑にした。)

勿論今回も手元に置いてある旧札が使えなくなり、タンス預金は紙屑になる。
脱税の隠匿資金などは尚更で、表に出せば御用となり、出さねば紙屑になる。

また、金融機関の預金残高が一定額以上に多いと、下手をすれば虎の子の預金や退職金を政府にとられる。
税金逃れの隠し財産や、犯罪絡みのアンダーマネーなら良いが、「庶民の虎の子」まで此れで政府の懐に入る。

そこで、郵政省や郵政公社に庶民の郵便預金があっては困る。
一般銀行とは性質が違う、現状では政府系が預かる預金だからだ。
財務官僚としては、郵政職員を犠牲にしてでも、何としても民営化したい。

郵政民営化で郵便預金を民営銀行化すれば、国民から政府が預かった預金は無くなる。
そうしなければ、預金閉鎖の一律性が図れない。

「そんな事、本当に出来るのか?」

「そう思うでしょ、でも外圧による、国際的な日本円の通貨危機解消の為やむなくと言えば、無理やり国民はごまかせるわ。」

みどりが言うのに、国際的な問題の処理となると、「言い訳はつく」と言うのだ。

財務省と金融関係の官僚が極秘に計画した事だが、預金封鎖は突然でなければ意味が無いから、元財務官僚出身の議員でさえ知らない。

たとえ知っていても、その事態が現実に起こるまでは、憶測に過ぎない。

庶民からの強奪で赤字国債の埋め合わせが終わり、豊かな大企業と貧しい庶民が残る。

「そんな事検討していたなんて、誰も知らない」と思うのは、庶民だけで、それを先読して密かにタンス預金を新五千円札に変えた経済学者、金融関係者などがいる。

後は、ドル建て、ユーロ建て預金を海外にするか、外資系銀行(これも国内は怪しい)、にするか、難しい所だ。

「いったい誰がそんな事を?」
「立場上私の口からは言えない。でも、貴方なら見当が着くはずだわ。」
「なるほど、そう言う事か、こりゃ、百億単位でスイスにでも預金するか?」

勿論、官僚達の極秘シナリオである。
いざと言う時の日本の金融危機の備えで、直ぐ実行と言う事ではないが、最悪の事態に対処出来る様に環境を整えていた。

この話、大供みどりには今騒いでいる振り込め詐欺やリホーム詐欺と、変わらないような酷い話の匂いがするらしい。

そう言う事だけれど、恐らく過去の戦争の時と同じで、官僚と言う影の権力者達は「お国の為に耐え忍べ」と言い出すだろう。

彼らの考え方は、あくまでも「テクニック(技術)で問題処理をする」と言う事で、その結果庶民が苦しむ何んて事は、眼中に無い。

国家を論ずる余り、国民弱者に対し思い遣る想像力が無い官僚や政治家は、残酷である。

「所で、その話は尾泉が知っている話か?」
「どうしょうも無くなったら出す話だから、現時点では知らないでしょ。」
「そりゃ、初耳だが有り得る話だ。危ない話だが上手い事考えたな。」

「ねぇ、やっぱり、上手く考えた筋書きでしょ。」
「あぁ、それほど赤字国債の解消は緊急性があるし、他に手段が無いと言う事だ。」

佐々木昭平は、内心うなっていた。
官僚達の狡猾さは一筋縄では行かない。

絶えず不測の事態に備えて、数通りの対処案を考え出している。
ただし、国民の為などと言う考え方は無く、考え付くのはあくまでも事務的な処理方法である。

大供みどりも、たまには佐々木の事も気にして居るらしい。
みどりにすれば、腐れ縁の男でも長い事肉体(からだ)を赦している相手だ。

予想される佐々木の損失が数十億、数百億となると、流石に知らない顔も出来ないのだろう。


佐々木代議士は自問自答していた。
赤字国債の発行が行き過ぎると、日本発の世界恐慌に成るって言うのはホントに有るのか。
少なくとも、日本の国債発行残高が対外的に許容範囲を超える事態は考えられる。

そうなると日本の円の価値(為替レート)が低くなり、外国から物を買うのに買い難くなる(安く買えない)。
「国だから借金しても潰れない」と言う安易な考えは外国が通用させない。

数年前、韓国の国際収支が著しく悪化し、IMFの(国際通貨基金協定)の力を借りて、加盟融資を受けたのは記憶に新しい。
答え方が難しいが、この事態が今後の日本に有るとも無いとも佐々木昭平には言えない。

国債と言うのは国がする借金だから、「過去に返せなくなった国も幾つかあった」と言う点では、「可能性はあると言うべきかなぁ?」

状況は異なってはいるが、日本でも戦前の国債は敗戦で紙クズに成った事がある。

返せないと、どうなるのか。
単純な話し、国債の引き受け先が損をする事になる。
また、外貨決済が不能になる可能性が高い。

国債の引受け先は国の内外の個人から金融機関等までに渡っているが、中でも「国内の金融機関が最も危ない」と言える。
貸出し金利の低迷や、貸付先の不足が原因で、金融機関は利回りの良い国債にかなりのウェイトをシフトしている。

つまり中小零細に貸すより、「国債の方が、利回りが良い」のだが、反面、国債に事ある時のリスクは大きく、生き残る所は皆無と言って良い。

言い換えれば、国債の市場が下落しただけで、金融機関は破綻する危険をはらんでいるので、綱渡りをしている事になる。

そして、その国債下落による銀行の連鎖破綻を食い止める手段として、「預金封鎖」が有効で有り、その後の新札による限定額払い戻しで、赤字国債を一気に解消する原資を強引に得る事になる。

銀行が潰れて「預金額が無くなる(ゼロに)よりまだマシだ」と説明が出来るからだ。

これは庶民にとって最悪のシナリオである。

この預金封鎖・新円切り替による赤字国債解消案は、庶民を苦しめるだけで景気はなお更悪化する。
佐々木良平は「こりゃ、考えさせる。」と言い、暫く考え込んでいたが、「そうか、こりゃ、本気で預金先を海外銀行にして、ユーロとドルに分散して置くか。」

「でしょう、まったく仕事とは言えエゲツナイ事考え付くはねぇ、うちの上の連中。」
大供みどりは、佐々木昭平に危険を伝えた満足感を、溜息と伴に口にした。

「せっかくのご忠告だから、現金は置かないようにするよ。しかし、こりゃ政権にも影響がでる。想定書を作って対策を検討しなきゃ成らん。」

大供みどりにはそう返事をしたが、実はこの話し、佐々木本人は以前から承知していた。

いや、政治の現実とは野党の言う奇麗事ではではどうにもなら無い。
これだけの赤字国債を抱えて、経済政策の行き着く所は、もう余り選択肢は残っていない。

先送りが限界になれば、形振(なりふ)りは構えない。
口が裂けても言えないが、長く政治に関わると、今の「良い格好しい」の尾泉総理の様には行かない。
時として背任行為もする事になるのが現実だった。

大供みどりは素裸のまま枕元に灰皿を寄せ、うつ伏せでハッカ入りのタバコをくゆらせている。
そのみどりの尻の辺りを、佐々木はいとおしそうに撫でていた。
佐々木昭平にすれば、性行為を求めるだけの可愛い女だった。

昭平は素裸のまま立ち上がって、傍らのソファーに放ってあった背広のポケットから黄色い小箱を取り出し、中から四角い紙包みを取り出すと、包みを開いて中身を口に放りこんだ。

「お好きですね、キャラメル・・・」

「あぁ、気が休まる。お前もどうだ?」
口の中でキャラメルを転がしながら、昭平は近寄って小箱の引出しを少し引き、中身を取り易くしてみどりに勧めた。
見ると、小箱の引出しに三粒ほどキャラメルが残っていた。

「えぇ、頂きます。昔は大人気でしたものねぇ。私の子供時代は遠足の定番でした。」
一つ取り出して指先で包みを開け、口に入れると懐かしい味が広がった。
「わしが若い頃は、菓子も種類が少なかった。青年時代は、これをポケットに入れて仕事をして歩いた。」

「貴方の人生のお供ね。」
「人生のお供と言えば、みどりも永いパートナーだな。」
「ホホホ、キャラメルと同じで古いお馴染みの味かしら、時々食べると気が休まるでしょ。」


それから一月後、佐々木昭平は、突然愛人の大供みどりに助けを求められた。
大供みどりが佐々木昭平に何か頼んだのはこれが初めてで、「俺で役に立つなら。」と、快く引受けた。

みどりは、彼女と少なからぬ関わりがある男の失踪事件に巻き込まれ、「私生活が警察当局に洗われる立場になって弱っている。」と言って来た。

地元の埼玉が、その舞台だった。

聞いてみると、ストレス発散にいささか羽目を外した遊びをしていたらしい。

佐々木にしてみると、さして驚く事ではないし、みどりとは互いに自由な関係で、k勝手に生きているみどりの私生活には立ち入る気はない。

奔放な「大供みどりらしい」と言えば、らしい話だった。

省庁ごとの「予算分捕り合戦」と遣り合うのが財務省の担当主計官である。

国家予算の使い道を、主計官が前線でコントロールしている事になっているから、想像を絶する激務で、それに見合う発散をしないと彼女は押し潰されてしまう。

建前で見れば、非難される事かも知れないが、彼女の逃げ場はそこにしか無かった。

およそ人間に於いて、性と理性は常にせめぎ合いの関係にある。
言うまでも無いが、理性的に生きるからこそ人間で、本能のままでは社会生活は送れない。

此れは、「本来人間に持ち合わせている闘争本能や性本能を理性でコントロールする事で、社会秩序を守ろう」とする事から始まっている。

原始の村社会から始まる自然発生的な秩序維持の要求が、宗教などの思考を加えて形作られた物で、本来建前で出来ている。

それを盲目的に信じて、頭から否定してしまうから、追い詰められた場合の本音の逃げ道がなくなる。

影に廻らざるを得ないから人知れず逃げ場を求め、ネットを悪用する者に遭遇して、初対面の被害者が出る。

「何でそんな危ない事をするのか?」と思っても、理屈や理性で測れない危なさが、それこそ人間そのものである。
そこを認識した上での対策を採るでもなく、安易に建前で封じ込めては得策が生まれ出ない。

しかしながら、人間には持って生まれた原始性本能がある。
その本能的性への葛藤と複雑な社会生活は、下手をすれば人間の理性を根底から破壊しかねない。

当然社会生活の中で理性的に生きる事を要求するあらゆる制約を埋め合わせ、その負担から開放するには、理屈抜きで性本能を満足させる事でバランスが取れる。

つまり、冷静に社会生活を維持する為のメンタルケアの特効薬が、無我の性行為と言う事になる。
そして、知的で制約の多い立場や職業の人間ほど、その必要性は高い。

平たく言えば、利巧な上に頭を使う職業の人間ほど「スケベ」と言う事である。
大供みどりは正にそれが当て嵌まっている。

大供みどりのスキャンダルは、表に出れば週刊紙の格好のネタで、建前を基準に「色キチガイの女性官僚」と世間の袋叩きに合い、キャリアに差し支える。

みどりの将来の処遇は、いずれ佐々木良平の陣笠として議員出馬も視野に入れていたから、警視庁に働きかけ穏便な扱いを希望した。

佐々木昭平が個人秘書の岸掘孝太を使い、大石辰夫(タンク)失踪事件を裏社会から調べさせると、以外な人物が浮き上がって来た。

佐々木代議士には、黙って見過ごす訳には行かない大変な事態が、起こりつつあった。
それは、佐々木昭平にとって厄介過ぎる事態だった。
「まずい、これは早急に手を打たねば・・・」

岸掘から報告を受けた佐々木代議士は、有る信頼が置ける者に秘密の指令を出す。
連続失踪事件は、静かに多方面で波紋を広げていた。

それにしても、鮮やかな手口で、数人を連れ去ったのは何者達か?
失踪した彼らは、果たして生きているのか?

公安が追う組織とは、一体、如何なる組織か?
余りにも、謎が多かった。


公安が、ナカヤンと京子を呼び、わざわざ正体を明かしてまでを話したのには訳が有る。

警備局内(公安部?)で、ナカヤン達素人が関わるのはそろそろ危険と判断し、永田達生活安全局を通して二人に手を引かせる決断をしたのだ。

「そんな訳で、警察としても慎重に慎重を重ねて捜査していますので、お任せ下さい。」
「判りました。リュウちゃんの事を頼みます。」
「全力を尽くします。」

ナカヤン達も、そんな危険な相手と聞いてしまっては、黙って引き下がるしかない。
しかし、撤退するにしても、不自然だと相手に気付かれてしまう。ここは案外難問だった。
それで、身辺に気を付けながら、機会を伺う事で合意した。

ナカヤンと京子は、自分達の首を突っ込んだ事件が想像以上に大きな物である事に戸惑いを感じていた。

ほんの単純な失踪事件と思っていたから、余りに大事過ぎて本音の所では二人とも実感は湧かないが、此れではナカヤン達素人の手には負えない。

事態が、庶民の日常の生活とはかけ離れているのだ。

東京駅からナカヤンのアパートへの道すがら、「何か話しが突拍子も無くて、私たちの入る隙間が無い様な変な気分。」と、京子は呟いていた。

「とにかく、重大な犯罪と思われ、相手は手強いです。」
永田の説明が蘇える。
勿論民間人と謂えども、捜査協力の観点からこの話は他言無用で有る。


クロさんには、本名が二つ有った。
一つは岩崎誠一だが、もう一つはキム・ヨンナム(金英男)と言う。

北の赤い国系の在日に生まれたが、十五歳の時に両親を交通事故で一度に失い、引き取った岩崎と言う家で大事に育てられ、大学も出た。

岩崎家は二代前に、戦前の半島併合時代に半島に進出した。

元々は青森県津軽郡の土着郷士(陸奥弘前藩十万石の下士分)の出で、維新以後は小地主だったが、日本の田畑山林を処分して金を作り半島に移住した。

半島では念願だった相当の大地主で、そこに末代までの岩崎家を築く積りで居た。

その岩崎家の小作人頭だった誠一(金英男)の父親キム・ヨンジョン(金英正)は、岩崎家の長男正太郎とは、立場を超えて物心付く頃からの幼馴染だった。

そうなった訳は、誠一の実の祖母が、岩崎家の岩崎良太郎の子、長男正太郎の乳母だったからだ。

それが、二本の敗戦(はいせん)で夢破れ、岩崎家が半島での地主の権利を失い、一家は日本に引き上げてくる事になった。

その敗戦(終戦)の混乱の中、誠一の両親(金英正とその妻)は最後まで一家の逃避行に同行し、困難な半島北部からの引き上げを助け、そのまま日本に移り住んだ。

岩崎家の一家は誠一の両親(金英正夫婦)に助けられて日本に逃げ帰ったのだ。

若い金英正夫婦が、岩崎良太郎一家引き上げを助けて日本に来たのには、彼らの方にも事情がある。
彼らの父は、終戦時岩崎家の小作人頭(差配人・支配人)をしていて、農地運営と大勢の小作人の差配をしていた。

だから、半島人社会では親日協力者の評価があった。
それが敗戦で立場が一転、一家も身に危険を感じる立場となった。

父親が息子達(金英正夫婦)を逃す目的を兼ね、岩崎一家を陸路釜山港(プサンハン)まで一部半島人の暴走から守り、その後引き上げ船に紛れて、日本に同行する様に指示したのだ。

そこには、民族を超えた人間関係が有った。

未だに日本人と半島人の間には確執が色濃く残っているが、元を正せば、戦前の日本人優位の教育や風潮が、永い事日本国民に滲み込んでいて、かなりの禍根を残している。

その後東京に居住した岩崎良太郎一家は、息子正太郎の代になる。

幼馴染であり、互いに恩人でも有る岩崎正太郎一家と金英正夫婦は、その後も深い親交があったが、金英正夫婦の不慮の交通事故死で亡くなり、一人残された忘れ形見の誠一(金英男)を引き取る事になった。

僅かばかりだったが、両親の遺産は手付かずで預金してあり、誠一が大学を卒業すると、始めて印鑑と通帳を渡した。
誠一を育てる費用は、何も言わずに岩崎家で出していたのだ。

岩崎正太郎は、金英男を長男誠一として、実の娘由美と、訳隔てなく大事に育てた。
引き取られたのが高校一年の年だったから、誠一は自分が養子である事を十二分に承知していた。
成績は良く、都立高校、理工系大学と順調に成長し、このままそれなりの人生を送ると思っていた。

所が、事が上手く進み過ぎている時には何かがある。
大学を卒業してIT企業に勤めていた誠一に、或る日、思っても見なかった大難問が降りかかる。
突然の、北の赤い国の工作員の脅し工作である。

何処でどう調べたのか、本人でさえ忘れかけていた北の血を、何時の間にか調べ上げ、公安がノーマークだった誠一を「利用しよう」と言うのだ。

勿論迷惑な話で、そんな事に加担する思想は誠一にはない。

「冗談では無い。」
日本で生まれ育ち、日本人の義父母に育てられた誠一に、別の祖国の意識など何も無い。

しかし、厄介な事を彼らは脅しに使って来た。
その脅迫に、誠一は抗し切れなかった。

誠一がこの闇の組織に引き込まれたのは、最初は義理の妹・由美の存在だった。
由美は誠一にとって可愛い妹で有ると同時に、自分を引き取って大学まで出してくれた恩人の子である。

だから、当然由美は誠一には変えがたい大事な存在で有る。
しかも、近々結婚の予定まで決まっている。
そこを闇の組織に付け込まれた。

誠一にしてみれば、裏に無法国家の巨大な権力が存在する闇の組織に、「協力しなければ安全を保障しない」と脅されては抗し切れない。

いったいどの位の規模の組織か判らないが、自分の知る範囲を超える組織の規模が存在するはずである。

治安当局に相談するなどの迂闊(うかつ)な行動をして、組織の別働隊に岩崎の両親や由美を狙われては、その安全が確保出来ない。

それで、誠一は彼らに屈した。

彼らの要求は、赤い北の国の資金獲得活動の手助けだった。
具体的には北の水産資源を、表に裏に日本に売り込む事だ。

その、日本側の買い付け会社に、一人北の組織の人間を送り込む目的で、無理にリクルートしたのが、金英男(岩崎誠一)だった。

確かに無法国家の資金調達の手助けは気が乗らない。
しかし、恩人の平穏の為だし、水産品の売買は正業である。
その程度なら「それほど汚い仕事では無い」と誠一は判断した。

当時、誠一には九条民子と言う恋人が居た。

民子の安全も、彼らの誠一に対する脅しの的だったので、誠一は愛するが故に、仕事にかこつけて少しずつ民子から遠退いて行った。

そんな折、民子は見合いをして「望まぬ相手と婚約した。」と聞いた。

聞くと、相手はかなりの資産家「名門の佐々木家との縁談だ」と言う。
こちらは赤い北の国が付きまとって、民子を巻き沿いにする訳にも行かない。

身動きの取れない身で、現実「愛がどうのこうの」とは言っては居られない。
誠一は「民子が幸せならそれでも良い」と思った。

処が、半年くらい後に民子から思わぬ相談を受けた。
「親の勧めた婚約者が、どうしょうも無い悪さをさせるので懲らしめたい。」と言う。

訳を聴くと、残念だが「世のしがらみで到底別れられない」ので、何処かに部屋を借りて、「せめてHPで婚約者思い知らせ、恨みを晴らしたい。」と言うのだ。

話を聞いて閃(ひらめ)いた。
「奴等なら、部屋くらい偽名で借りられるだろう。」

それで訳を組織に話すと、二日後には返事があり、何故か組織はすごく熱心に乗って来た。
話は誠一の想像以上に素早く実行され、直ぐに格好のアジトを用意してくれたのだ。

民子がアジトで活動を始めて二週間もすると、誠一に新しい指令が来た。
大将軍様の命令で、「二十代、三十代の男性をわが国に招待しろ。」と言うのだ。

しかし、最近では被害者家族の運動も盛んで、世間がかなり煩(うるさ)くなって社会問題にも成っている。
「何でこの時期にこんな話を持ち込む?」

現代の人間の常識として、拉致監禁は「勿論犯罪行為」である。
それに、誠一にはそんな大それた事を北の国の為にする気は元々無い。

今の組織活動だって、誠一としては組織に協力こそすれ、水産資源の買い付け程度で、そんなに汚い事は今までしていない。

無視すると「お前の妹の由美は結婚して、最近子供を産んだらしいな?」と、暗に脅して来る。
妹の由美は、中村と言う男と結婚して、最近男子を出産したばかりだ。

「あの民子も美人だから、祖国に連れて行けば、招待所で人気の接待婦になれるぞ。」
誠一は対処に窮した。


このネット中の連続失踪事件のシナリオは、某赤い国の工作員が、民子と誠一の些細な復習計画の魂胆に、便乗する形で練り上げたものだった。

ネットトラブルを装う事で、本質の国際陰謀は覆い隠せるはずだ。
彼は民子から和也の破廉恥な遊びを聞かされて、胸を焦がしていた。

一人になった時、民子の顔を見た時、和也の命令で男達に弄ばれる民子の痴態が、次々に脳裏に浮かんで来て、異様な興奮と嫉妬を感じた。

民子を泥沼から救うには、組織の計画を積極的に実行するしかない。
誠一は彼らの計画に乗り、自分も被害者の別人に成りすます為の部屋を購い、捜査撹乱の為の第五の失踪者を演じた。

幸い、この二ヶ月余りで偽ミレア攻撃は、充分な効果を上げている。
環境が整えば、失踪はネットトラブルに目が向く。
そして、偽ミレアは世間ではミレアでしかない。

誠一は窮余の一策で、両得を思い付いた。
愛する民子を拘束している婚約者の佐々木和也を招待工作のターゲットにすれば良い。
組織を使って彼を失踪させ、北の大将軍様の招待命令をも実行出来る。

七月の或る日、誠一が民子に言った。
「佐々木和也を失踪させよう。」
「そんな事出来るの」

「あぁ、まるで消えた様に、失踪させて見せる。」
「けして、自分達の身に疑惑が及ぶ事は無いから。」と、誠一は自信満々に言った。
いくらか、危険な香りがしたが、好きな男の救いの誘いで、民子は後先を考える余裕を失っていた。

民子は誠一の言葉に自分の将来をかける事にした。
此れで、段々後戻りが出来なくなるのを、民子は感じていた。

実は偽ミレアは二人いた。
つまり、本物と加えて三人のミレアが居た事になる。

Bワン失踪まではユキチャン(九条民子)が偽ミレアだが、ミレアとリュウちゃんの時は別のアパートで岩崎誠一がミレアに化けていたのだ。

ユキチャン(九条民子)さえ、この事は知らなかった。


大供みどりが性のバリエーションを知ったのは、三十二歳の事である。

元々大供みどりには、そちらの方は大学時代から豊富な経験があったが、何しろ若いもの同士の性行為で、本物を知ったのは三十路を過ぎて大人の相手が見つかってからだった。

ちょうど入省して十年が経っていた。

大供みどりが財務省に入省した当初は、女性キャリアの入省は今よりまだ少なかった。
最高学府出身で、現役学生の頃「ミス**大学」と言われた美女が「財務省に入省した」と評判だった。

佐々木昭平と知り合ったのは、約一年の幹部研修が終わって、漸く係長待遇に着き、ノンキャリの部下を得て「資料集めに、資料整理に」と使い走りに追われていた頃の事だった。

省内でも女性官僚は七、八人と少数派だったけれど、ギンギンした出世意識の同僚達と比べ、みどりはその中ではコツコツと着実な仕事振りの大人しい存在だった。

そんな目立たない優等生官僚大供みどりだったが、実の所彼女は国家予算の調整役として、重圧に苦しんでいた。

気が付くと、自分の決めた人生目標と、大人の女としての本能の要求には矛盾があった。
その相反する葛藤に、みどりは此処三年ほど悩まされていた。

もっとも、大統領や首相でさえSEXスキャンダルを引起すのだから、頭の良さや地位とは別の処にそれを司る脳の部分は在る。
それを含めて人間なのだ。

ストレートヘヤーが肩ぐらいまであるレイヤーカットの髪型に、初々しいクリっとした可愛い瞳と整った顔立ちは、良く見るとかなりの美人だったが、みどりは黒いふちのメガネをしていたので、当初省内でも一見それと気が付かれなかった。

しかしスタイルの方も、ウエストが締まり、健康的な肌の色に細過ぎない程度に肉付きも良さそうな長い脚だったから、何時の間にか周りがそれと気が付き、やがて密かに独身の同僚に注目される様に成って行った。

そう、みどりは女性官僚仲間でも評判な美人タイプだった。

省内外のエリート男性が、結構みどりに誘いを掛けて来たが、立場上公な付き合いは下手をするとそこで勝負が決まり、出世に差し支える。

迂闊な事をして、カリア人生を棒に振る気はない。
だが、日々の官僚生活はストレスが溜まる。

唯一気に入ったのが、新進気鋭の代議士佐々木昭平との互いに秘めなければならない関係で、それは秘密裏に続いている。


官僚の仕事は、時として組織防衛の為の努力で、本来の存在目的とは違う省の動きは、みどりの良心に懐疑的だった。
三十歳を過ぎて肩書や部下の数が重くなるほど、尚更そうした鬱憤は溜まり易くなった。

しかし、互いの事情から佐々木とは滅多には合えない。
つまり、大供みどりに必要なのは、人並み以上に湧き上がる性欲の安易な捌け口だけだった。

そんな大供みどりが三十二歳の時だが、HPのサイトを検索していて、偶然大石辰夫(タンク)の「開放の館」に出会った。
身分を隠して、自分を一時的に社会のしがらみから解放するには、もってこいのサイトだった。

実は近頃、出世と伴に大供みどりのストレスが増大して、老齢期に入りつつある佐々木昭平との性行為では、みどりは相手に余るように成っていた。

目の前が開けたのは、そんな矢先の事である。
幸い時代が進んで、インターネット社会になりつつあったのだ。

大供みどりは数度のメールやり取りの後、大石辰夫のマンションまで出向いて彼に会って見た。

出迎えた大石辰夫は、膨大な画像、映像の資料を大供みどりに見せ、彼女の身元も聞かずに、「判って居るヨ」と耳元に囁いて彼女を抱き寄せた。

大供みどりは「開放の館HP」の画像、映像を承知で此処に来ている。
彼女が尋ねて来た目的は言わずもがなである。

大石にしてみれば、彼女は最初から非日常を承知の上で押し掛けて来た。
こう言う時に、躊躇いは返ってややこしい事になる。

大石は一気に事を進める事で、考える余裕は与えない。
「ちょっと手元に良いモノある。これを使ってした事がある?」と言って、大石は紙袋から手錠を出した。

「こう言う事をすると感じるから、手を拘束されて足を目いっぱい開くのだよ!」
「えっ!・・・そんな事・・・いやです。」

「大丈夫だから。ソフトSMなんて皆がやって居るのだから。俺を信じて!・・。」
「いきなりですか?」
「いきなりが駄目なら、いったい何時まで待つの?」

エリート高級官僚も此処では子供扱いで有る。
それが、返ってみどりの心の鎧を解きほぐす。
問われて見れば隠し様の無い事に、既に決心をしたからこそ、みどりはここに来ている。

今は、溜まりに溜まった日頃の重圧の鬱憤を晴らすのが先決だった。
「判りました。」
みどりは高級官僚の殻を脱ぎ捨てた。

笑顔の大石辰夫に、大供みどりは身体を思うがままにされる事を許す事にしたのだ。

大石のなすがままに、ブラとパンテー姿にされ、手錠と目隠しまでされて足を開くと期待にパンテーが濡れて来るのを実感した。

「みどりは嫌らしい女だなぁ〜もう濡れてビチョビチョだよ」
刷毛の様なモノで身体のあちこちを擽られ、その度に快感を得て、ビクンと振るえてしまう。
「あっああ・・・うう・・んんん」

みどりの恥部にローターがうねると「あっああっ・・それは・・・だめ!・・いい・・いくぅ・・」と、意味不明の言葉が次から次に洩れて言語にならない。

余りに激しい刺激でクリトリスが熱くなって来るから、暴れたり、足を閉じようとすると「ダメだ!」と言ってもっと激しくされてしまう。

大石が、やっと目隠しを取ってくれた時には、全身放心状態になる寸前だった。

みどりが余韻に浸っていると、今度は、鋏みを取り出してみどりのパンティの大事な中身の部分を覆う布を、縦に切ろうと大石辰夫は生地をつまみ上げた。

「動くと大事な部分まで切れるからな!うごくな!」
緊張と恐怖で身体中が汗を吹き出していた。
怖で身体中が汗を吹き出していた。

何しろ大事な所真近に刃物が当たっている。
布地が小判型に切り取られると、みどりの秘部が露になった。

大石の視線を下半身に感じてみどりが眼をやると、惚れ惚れと言う表情で、じっと中まで良く見られている。
しげしげと見られた事など有る筈もないから、それだけでジンと見られた処が熱くなった。

大石がみどりの手を誘導して花弁を両側から左右に開かせる。
「さぁ、丸見えになったココにバイブを挿し入れてやるよ」
「ヴィ〜ン・・・・・あっ、あぁぁ・・・・・・・・・んんぐっ」

「気持良いのがどこか言いなさい!はっきり言えるまで止めないからな!」
「はい・・・あそ・・こ・・が・・。」
「アソコ?そんなのじゃダメだ!はっきり言うのだ。言わないとやめるよ。」

大石辰夫は、大供みどりの身分は知らない。
聞こうともしないのが、彼のポリシーである。
大方、欲求不満の主婦くらいに思っているだろう。

いささか芝居じみているが、今は大石がみどりを性の生け贄として、バーチャルの世界にいる。
「嫌、やめないで・・あっああ・・お・・ま・・ん・・・・・ウグッ」
「そんなに感じているのか?じゃあもっとスゴイヤツ出してやるよ!」

バブィヴィィン・・・クリにバイブを押し当てられたのは初めてだった。
佐々木昭平は流石に器具までは使わないから、みどりもこれは初体験で、歯を食い縛って快感に耐えた。

「いぃー、これはいぃー。」
思わずみどりの腰が浮き上がり、バイブの当り処を求めて怪しげに動き出した。
当たり場所を外れたバイブを、思わず腰が追っていたのだ。

そう成るともう、脳も肉体もバーチャルの世界にシフトしている。
「ハハ、下半身の方は貪欲だな。素直にバイブの当たり所を追いかけている。」
日頃の重圧は頭の中からこぼれ落ち、中が真っ白になる気がした。

「求めていたのはこれだ。」
みどりは確信した。もう、大石が自分に何をしているのか、把握さえ出来ない。

いつの間にか花弁を押し広げるように太い玩具が抽入され、深く浅く出入りを始めている。
しかもアナルにも何か挿入されて、それが小刻みに振動している。

身体中が熱くて苦しい・・だけど、気持ち良い。
「あん・・あん・・・・・・うっ!はあはあ・・」
みどりは何度も何度も逝ってしまって、うめき声だけが大きくなっていった。

大供みどりの身体は緊縛されているせいか、しっとりと汗ばんでくる。
そんなみどりの股間に大石辰夫は顔を埋めるとクンニ責めをした。

「あ・・・・・んっ・・いいっ!・・」と恥ずかしそうに小さな声で呟くと、大石辰夫は「ちゃんともっと大きな声で言いなさい!」となじられてしまう。

今度は四つん這いの恰好をさせられ、みどりの深い茂みの部分に、何か得体の知れない感触の硬いモノが宛てられた。
「さあ!クリトリスの拡張から始めよう」

大石辰夫は、まず大供みどりの性感度を上げる事から手掛け始める。
こう言う事は、相手に考える間を与えない内に進めるのがセオリーだ。

先程の様子を観る限り、仕上げるにはまだ時間がかかりそうな女だった。
「えっ!そんな・・・ああ、あっああ・・・・・」

小さなローター付きのベルトをまだ固い蕾のクリトリスにしっかり固定するようにみどりの腰に装着されてしまう。
「ビィーン、ビィーン・・・・・・。」

凄い音と共にクリトリスが段々熱くなって来る。
「あっ・・あっああ〜ううっ」

まだ恥ずかしい四つん這いの恰好で善がり声とうめき声が洩れると、その声の出所である口までも今度は布で覆われてしまった。

「ウグッ・・・ゥ・・・ン・・」
ベルトで固定されているから、クリトリスに命中しているローターが、無限の快感をもたらせて、みどりは腰を振り続け逝き続けた。

その後で、大供みどりのぐっしょり濡れた秘部に大石は欲棒を挿入した。
その時はもう、みどりの感度は充分過ぎる位上昇している。
身体の拘束も解いてくれて優しくキスをしながら二人は身体と身体で激しく強く愛し合った。

余りの激しい大石辰夫のファックに耐え兼ねて、みどりは気が遠くなりながら、その開いた花弁に容赦なく肉棒を激しく突きまくられて、みどりの秘部は喘ぎ声と混ざりながら淫らな音をたてている。

「あっ〜あぁ〜ん、いや〜あぁ・・・」

物凄い快感が、みどりの肉体の中心、クリトリスから湧き上がってくる。
「あぁ〜ん、あぁ〜ん、あぁ〜ん、あぁ・・・」
みどりの甲高い喘ぎ声が更に高まって行く。

此処なら、大きい声を出しても誰はばかる事は無い。
「嫌なのか?こんなに濡らして、良いのだろ!もっと欲しいと言いなさい。」

何時も片意地張って強い女を演じ、命令ばかりして来たが、みどりは他人に恥ずかしい事を強いられて、今、被虐の快感を覚えている。

大石辰夫は抱いて間もないみどりの身体から既にマゾ気を見抜いていた。
「もっと欲しい・・ああ・・みどりのアソコをもっと突いて下さい!」

大石辰夫の玩具にされてしまいながらも、みどりは段々とその身体に秘めたM女の血が騒ぐのを押さえ切れないままに、みどりの身体は快楽の絶頂を何度も迎えていく。

そしてみどりの濡れて乾く事を知らない花弁の中に、硬直した大石の欲棒が入って来た。

再びみどりの身体が快感と絶頂を迎えた。みどりは、日頃のエリート意識を否定する大石辰夫の性行為が奇妙に気持ち良かった。

SM的に犯されている様な、あんな非日常の変態プレイに、みどりの身体は素直に喜びを知ってしまったからに違いなかった。

「変態は私には似合わない・・・」と思いながらも、ドンドン引きつけられて行ってしまう自分が、そこに居た。
そうされたいと思うどうしようも無さが、込み上げてくる。

官舎に帰宅後の晩も、大供みどりが大石の欲棒を受け入れた秘部が、ジンジンと熱くなったままで眠れそうに無かった。

言わば麻薬の常用と同じ効果で、すべてを忘れ、頭が白紙になる時間は救いとなる。
薬と違って有害な副作用は無いが、依存症にはなりそうだ。

何処かでバランス取らないと、人生なんてやっていけないわ。

ノーテンキにバランスを取る必要が無いって言う人は、きっと、たいした人生を送っていないって事じゃない。
みどりの心が叫んでいた。

終止符のない快楽を求めて、二人の関係はそれから半年間どんどんとエスカレートして行った。

大石辰夫の所に通ってくる女が二人居る事もサイト上で知っていたし、彼女達も愛情が絡んでいる訳ではない。
その誰もが、唯単に心の穴埋めを、大石辰夫との変態行為でしているだけだった。

元々生き物は、動物植物に限らず精一杯生き、その間に子孫を育て残す。
「種の保存」の本能である。

その自然の原理に逆らって子孫を放棄し、自らの「享楽的生活のみを追求する生き方」を選ぶ生き物は、脳が異常に発達した「人間と言う生物」をおいて他に無い。

それ故、脳は本能と精神の板挟みに合って、絶えず苦悩している。

実は、この苦悩を緩和する(脳を納得させる)為の「擬似生殖行為」として、生殖を伴わないSEX行為の合意が人間の意識の中に与えられた。

所が、愚かにも人間は、まともな人間なら誰でもして居る性行為にも関わらず感情的にその恵みさえ建前の中に封じ込めようとしている。

そこが、大供みどりには納得が行かなかったのだ。


そんな或る日、夜遅くに大石辰夫から電話が掛って来た。
タイミングが良く、ちょうど来年度の予算が成立して、気が緩んだ時だった。
大供みどりは、いそいそと大石辰夫のマンションへ出かけて行った。

行って、何時もの部屋に上がると、知らない男性がベッドの下で寝ていた・・・。
「何、この人は?」

「俺の友人なのだよ!昼から酔っ払って来てもう爆睡しているから大丈夫!」
大石辰夫は平然と言った。

みどりは一瞬怯(ひる)んでいた。
「まさかこの人がいる所でしないわよね!絶対いやだ・・。」
こんな近くに居れば、「寝ている」と言ってもいつ起きるか判ったものではない。

しかし、そんな事は当然大石に聞き入れてもらえる筈がなかった。ここでの支配者は大石辰夫だった。
みどりの嫌がるままベッドに裸にされ手足を縛られて・・。
「起きないから大丈夫だから、でもこう言うのって断然興奮するはずよ!」

辰夫は、みどりの恥部をわざと寝ている友人の方へと向かせるようにする。
「イヤァ・・・アアア・・・ダメッ!見られたら恥ずかしいぃ。」

「もっともっと凄い事を見せてあげなきゃ!おまえのヌルヌルになった秘密の場所に、大きいバイブ入れている所を・・!あははっ」

大石辰夫の悪ふざけは、正に本気に成ってきた感じだった。
バイブの凄まじい回転音が一段と大きく唸った!

「ヴィ〜ン・・・・・あっああああ・・・ううう・・・ぐっ・・いくぅ・・」
快楽に負けて押し込めていた声が洩れる。
善がり声を抑えるのも限界に近い。

友人が身体を動かして寝返りしているのが霞んで見える。
聞こえている!見ているのだわ、キット・・・。蛍光灯の小さい光の中で私の感じている全てを他の人が見ている。

「他人に見せるなど、私はそこまで許しては居ない。」
みどりの頭の中が錯乱して大石辰夫の事を信じられなくなって来る。

「よおし、そんなに感じるならビデオカメラで撮ろうか〜写真も」
「もうやめて!こんなの嫌です!」

その声に気が付く様に寝ていた友人がムクッと起き、そこでいたずらは中断した。
大石辰夫が「判ったよ」と怒って言い放った。

「少しからかっていたら本気で怒るのだから。せっかく寝ていた友達も起こしちゃったし・・」
その友人は、「何だよぅ、まったく。」と言いながら部屋を出て行った。

今となってもホントに寝ていたのか、起きて見ていたのか判らない・・・。
大石辰夫はみどりの拘束を解くと、もうベッドに横になってふて寝する体勢でいる。

みどりは当惑したが、どうして良いか判ら無かった。
そのまま朝までウトウトとしたような感じで目が覚めると彼の姿が無い。
何処を探しても居ない所を見ると、仕事に出勤したらしい。

テーブルの上にみどり宛の紙切れが・・・・・。
「今後付き合うなら、私の前では自分を捨てろ、それが出来るならまた此処においで。」

それで、大供みどりは決心した。自分がキャリア官僚で居る間は、安全なストレスの逃がし所が必要で、そんな所は滅多に無い。

大石のマンションでは、エリート大供みどりはバーチャルな性奴隷になる。
奴隷の刻印として、このマンション生活での衣類等は必ず命令に従う事、命令があれば胸を露出し又下半身を晒す事。

お仕置きを命令された時は、全裸になり何事も逆らわず痴態を晒出す事。

日常に於いて指示無き時のスカート丈は膝上二十センチ以上、ショートパンツは股下五センチ以下で、「ノーパンでマンションに通ってくる」と定められた。

訪ねる時から、ゲームは始まるのだ。

その他の、股間の剃毛、陰毛の脱色等を適宜指示する。

みどりは素質が秘められていたのか、大石辰夫の与える罰を受け入れ、昔、「ミス**大学だった」と言うこの女性官僚は、信じられない様な変身をした。

欲しい日は、いつの間にか早めにマンションを訪れ、何をか期待してノーパン・ミニスカートで大石辰夫の帰宅を待ちわびる女になっていた。

調教する度、高山みどりの心も身体も美しく変わって行った。

バストはヨリ膨らみをもち、ウエスト、腰、大腿に、女性の丸みを帯びたふくよかな色気を漂わせて、僅かな仕草にも、色気を感じさせる女性になって行く。

男の視線と熱いセックスによって、女性の身体は創られてゆく。
禁断の果実を知ってしまった今、みどりはSMの快楽に自分の奥に埋もれていたマゾ性を開花して行った。


或る日、珍しく大石辰夫の方から呼び出しが掛った。
ちょうどみどりも気晴らしが欲しい時で、御誂え向きの呼び出しだった。
「今日は、外に食事に行くから支度をして来なさい。」

日頃はマンションに篭り切りで、外食など滅多に誘われる事は無い。
大石辰夫の誘いにみどりはときめいた。
今日もミニスカートだけれど、何故かいつも禁じられているパンティの着用は許された。

某ホテルのディナーの予約席、席についてみどりは気が付いた。

テーブル・セッティングが四人分・・・・・「二人だけで食事を・・」と、ばかり思っていたから、不思議そうな顔をして大石辰夫を見た。

「お前は初対面だが、俺の知人が来る。遠慮の無い気さく奴らだから、気にしないで普通にしてなさい。」
「案の定、私を誰かに引き合わせる積りだ。」

凡(おおよ)そ辰夫の魂胆は判った。
大石辰夫のコンテンツは、その手の映像が満載で、この先には何かが待っているに違いない。

薄暗い入り口から、四十代後半ぐらいの男性が二人、こちらに近付いて来てニッコリと挨拶を交わした。
一人は背が低く小太り、丸顔で眼が大きく少し髪が薄くなっている。
もう一人はいくらか背が高めで、すらりと細身だが面長な顔に細い眼をしていた。

名前も知らない二人の男を混て、四人は楽しく世間話をしながらワインを重ね、食事をした。
程良く、良い気持ちになって、顔が赤らむみどりに大石辰夫が耳元で囁いた。
「今日はこのホテルに部屋をとってあるから、酔っても安心だよ。もっとも、彼らも部屋に招待しているけどね。」

みどりの顔が一瞬変わったかの様だった。
当然有るべき魂胆が、やはり有った。

覚悟はしていても、相手が初対面で、しかも二人はヤッパリ恥ずかしい。
しかし、奴隷として「ハイ!」と返事をするしか無い事を、みどりは直ぐに悟った。

実の所、外食を誘われた時から、心の中では「そうなる」と判っていた。
みだらな事をされる自分を想像し、高鳴る心臓の鼓動を感じている自分がそこに居た。

「それでは、そろそろ部屋の方に行きましょう。」
大石辰夫の言葉に、みどりは人形のようにぎこちなく立ち上がった。

連れて皆も席を立ち、部屋に向かった。
判りきった事だが、男達三人の間では、最初から話が出来ていた。

何か企みがあるらしく、部屋に入って直ぐ大石辰夫が「先に風呂に行く様に。」とみどりをバスルームに追いやった。

それでも、辰夫はまともにはバスルームへ行かせない。脱衣は男三人の目の前でさせられ、素裸になってから漸くバスルームへ入った。

みどりがバスを使い終わって出てくると、男三人は何やら話をしていた。
みどりは、招待した側だから、誠意を持って客を楽しませるのが当たり前だった。

下着にバスローブを身にまとってシャワー室から戻ったみどりに、大石辰夫はバスローブを脱がせた。

「ほおぅ、良い身体だ。奥さんはとても綺麗だ。」と二人の男の目つきが、みどりの裸身を品定めするように変わって行くのを、みどりは見逃さなかった。

彼らはもう、遠慮なしにマジマジと獲物を見るようにみどりを見ている。

どうやらみどりは、その方が気分でも盛り上がるのか、大石辰夫の妻と紹介されているようだった。
その仮初(かりそめ)の妻が、生け贄に供される支度が始まった。

大石辰夫は、みどりを椅子に縛り付けて行く。
足は開かれ、それぞれのいすの脚に片方ずつしっかりと固定された。

手は後ろ手に固定され、身体が椅子と一体化して、もう動く事も出来ない。
アイマスクが大石辰夫から施されると、男達が近寄る気配を感じた。

丸顔の男が軽く頬にキスしてくる。
それが、段々にみどりの唇に近付き口に彼の舌が入ってきた。

面長な顔の男も「奥さん綺麗だね。」と耳元で囁きながら、耳の中に舌先をこじ入れ手来た。

「うう・・あっ・・・ん、ああぁ・・・ううぅ」
「さぁ、私の妻を何なりと嬲ってやってください。」

大石辰夫の少し高揚した声が聞こえて来た。
みどりの身体は火照り、その大石辰夫の言葉を、悪魔とも天使とも思える自分が恨めしくもそこに居た。

ジョリッ!履いていたパンティは大石辰夫に両脇を挟みで切り落とされ、みどりの綺麗な股間は露に曝け出された。
恥ずかしいけれど、みどりの股間からは凄く大目の愛液が流れを作って滴り落ちた。

数分を数える間も無く、もうみどりの股間も、そしてアナルの中でさえ男達の指先が入り込んでいた。
「アァ、私は知らない男達の嬲り者にされている。」

この二人は、性玩具に成って嬲られて居る私が、若手官僚として国の予算を作成しているなどと夢にも思わないだろう。

これでも私は、日本に百人とは居無い女性キャリア官僚で、その私を素っ裸にして、娼婦のように「弄りながら愛撫している」と知ったら、この二人腰を抜かすかしら?

大石辰夫の良い所は、プライベートを詮索しない所だ。
だからこそ、本来の非日常空間が生まれる。
みどりは、日頃の鎧を脱ぎ捨てて名実ともに素裸になり、淫乱な雌獣になれるから辰夫の所へやってくるのだ。

「ス、スゴイ、奥さんすばらしい!」
「こんな身体を持つ女性が自分の妻なんて、羨ましいですよ。ここまで調教したご主人は、スゴイ。」

恥ずかしさの余りうな垂れているみどりに、丸顔の男はクンニを始める。
面長な顔の男も、乳首を指先で愛撫しながら、ツーッと大腿を舐め始めた。

その後は、用意された大人の玩具でクリを責めたり、花芯を突かれている間にもう一人が乳首をローターで擦ったり、大石辰夫の見守られながら、二人の男性の玩具になり、責め上げられて感じ、善がり声を上げてしまう。

「いぃ、・・・いく、いく、いくぅ・・・っ。」
みどりは最初の絶頂を迎えた。

そんな事で、大石辰夫が許す訳も無い。
椅子から開放されて、待っていたのはベッドでの大の字拘束だった。

手枷と足枷がそれぞれベッドの四隅に取り付けられて、そこに据えつけられたものは、もう人間の形をした一個の玩具としか認められない物だった。

シックスナインの体位で男がみどりをクンニしていると 、みどりの顔の方ではもう一人が欲棒をみどりの口にねじ込んでフェラをさせている。

そうした様子は大石辰夫の格好の被写体で、カメラマンのようにその光景を撮影して行く。

アナルにはバイブが押し込まれ、更に男の指が押し入り、クンニの刺激をヨリ高めている。

「はぁ、はぁ、・・うぅぅん、あっああああ、フェラと御万個とアナルが・・気、気持ち良い・・ですぅ・・・ああっ」
「それ、何とお願いするのだ?」
「お願いします。早く、早くみどりにオ*ン*ンを下さい。」

みどりは、口からよだれを垂らして牝犬のように淫乱な言葉を吐いていた。

枷を外し四つん這いにした格好でバックとフェラで二人の男の挟み撃ちに深く浅く責められ、ペットのように大きな声で叫び鳴いた。

大石辰夫も興奮してきて、みどりの背中をスパンキングしながら「言い声だ、御**感じるだろう?ちゃんと言いなさい!」

「みどりは直ぐ感じてしまうマゾです。淫乱で、いやらしく御**をされるのが大好きなマゾです。もっと、もっと、調教してくださいませ。」

男達の限界が尽きるまでこの饗宴は続き、代わる、代わるに飽きる事無くみどりの身体で快感を貪っている。
そこには、高級官僚大供みどりの姿はなく、淫乱な一人の娼婦が居た。

大供みどりは原始本能を満たされて、重圧から解放されて行く。窓の外に白々と明るみがさして来たのを誰も知らずに・・・・

その日以来、吹っ切れた大供みどりは「開放の館」の看板ヒロインとして、大石の招待客に輪姦をされ続けている。
大供みどりは、完全にM女として開発され、仕上がっていた。

今では、相手の男供が、十数人に上る事も有るが、難なくこなす様になっている。
「〜ねばならない。〜であるべき。」と考えるから、生き方に苦しみや悲しみが付き纏う。

つまり自分の選択が、「自分の生きたい生き方だ」と思える事が肝心で、生きたいように生きれば、苦しみも悲しみも無い。

大石辰夫は、別に世間を騒がせる気など無い。
単純な話、バーチャルの世界を求める者同志が、ひっそりと「寄り添えれば良い」と考えていた。
利巧な人々にとっては、それで充分なはずだった。

所が、まったく理不尽な事に、大石辰夫は相手の一方的な欲望から犯罪に巻き込まれてしまった。
真相など本人しか判らないが、事実とすればそう考えられる。

その後の三年間、大供みどりの裸身は大石辰夫のHP「解放の館」を飾っていたが、大石辰夫自身、思いもよらない相手に目を付けられて、大石の失踪が起こった。

警察が動き出し、図らずも大供みどりの存在が浮かび上がって、彼女は佐々木昭平に心ならずも助けを求める事になった。

「おぉ、息の掛った公安委員を通して、無難に処理するように言って置くよ。」

みどりから相談を受け、「単なる小物の事件」と軽く判断して秘書に調べさせた佐々木代議士の方も、驚くべき問題に遭遇していた。

何と言おうか、余計な事まで手繰り寄せられたのだが、それが放って置けない重要な事態だったのである。


(京子拉致される)
======「現代インターネット風俗奇談」======
小説・電脳妖姫伝記
◆ 和やかな陵辱 ◆第七話(京子拉致される)


十一月の中旬の土曜日、Bワンのマンションに民子を訪れた京子が、帰りに居なくなった。
マンションに行くのは危ない橋だとナカヤンは思って、一旦は止めた。

しかし京子が、「あまり疎遠にすると警戒するから。」と言うので、その目的から、「返って一人で行くのが自然だ」と許した。

ナカヤンも今までのかなり手の込んだ手法の彼らだから、「まさかそこまで見え見えの荒い仕事をする」とは予測していなかったのだ。

ちょうどその日は、ナカヤンが社内締め切りの迫ったデザインの残業で遅くなり、「帰りが十二時頃になる。」と言うので、京子は帰りにナカヤンの処に拠って泊まり翌日千葉に帰る予定だった。

合鍵を持っているから、京子の方が早くても部屋で待つ事が出来る。
しかしナカヤンが帰宅した時、京子はまだ民子の居るマンションから帰って来ていなかった。
一瞬ナカヤンは「馬鹿に遅い」と不安になったが打ち消した。

何かの都合で遅くなっているのかも知れない。
様子を見た。
処が、深夜一時を過ぎても帰ってこない。

「オネガイ、キオツケテ」
フト、自宅で京子の帰りを待つて居たナカヤンは、ミレアの声が聞えたような気がした。
慌てて連絡した京子の携帯は、圏外になっている。

「ひょっとして、・・・まだ民子の所にいるのか?」と民子に電話したが、「十時半に帰った。」と言う。
これは変だった。
空耳かも知れないが、ミレアの声が気に掛かる。

ここで京子が失踪すれば一連の失踪劇の続きで、どう考えても「何か窺い知れない闇の組織が動いている」と言う事だ。
それだけなら恐怖ではあるが人為的なもので、まだ救われる。

平行して起こる霊的現象は、最早人間の理解を超えたものだった。
急に、ナカヤンの不安が増幅して行く・・・・

一時半まで待って、しずか(森田警部補)に携帯で緊急連絡した。

森田警部補はナカヤンの連絡で、永田警視に連絡、警察庁の合同捜査本部が谷村警備局次長(警視正・公安部総指揮)の指揮の下、直ぐに動き出した。

その時間、谷村警備局次長は就寝中だったが、慌てて官舎から駆けつけた。
流石(さすが)本庁で、要員召集に二十分とは掛からない。
川端警部と西川巡査部長の公安組はちょうど夜間待機で、本庁にいた。

公安組の二人はBワンのマンションに急行、九条民子に事情を聞き、京子の足取りを追い始める。

森田警部補はナカヤンのアパートを訪れ、その足で現場指揮の責任者川端警部と合流した。
案の定、永田警視はこんな時で無ければナカヤンが噴出しそうな、よれよれのトレンチコートを羽織って現れた。

スーツもネクタイも相変わらずで「他に無いのか?」と言いたくなる。
まったく、何を考えているのか?彼の頭の中には刑事ドラマのテーマソングが流れていそうだ。

その後二チームは合流して目撃者探しを始めたが、深夜では時間的に開いている店は無く、流石に深夜はマンションの辺りも暗く人通りも少ない。

黒いビルディングの谷間に無機質なアスファルト舗装が風に削られる様に砂埃(さじん)を舞い上げ、京子を見かけた者所か人影も無かった。

都心部の街並はエアポケットのように異空間で、生活の匂いさえ途絶えていたのである。

「石井京子の失踪は事件性がある。」
森田警部補の報告を元に、谷村警備局次長(公安部長?)は一連の連続失踪殺人事件と「同一性がある」と判断する。

一刻を争うと判断され、二十名の合同捜査本部員は情報収集に散った。

この時点では、合同本部付き事務方の警察庁高橋管理菅(警視正)は蚊帳の外で、現場長の谷村警備局次長(公安部長?)の独断で事が進んで居た。

合同捜査本部は直ぐに情報収集に走り、ごった返していた。

この辺り現場(警視庁)と事務方(警察庁)の立場の違いもあり、ヘタをすると、事務方(警察庁)の情報次第で政治的対応を強制されかねないのが、現在の日本の実情である。

そこを疑っているから、尚更高橋警察庁管理菅には意図的に情報を遅らせる積りだった。

公安課内(外事二課?)は、任意同行で本庁に九条民子を引いた。

民子や由美にクロさん(岩崎誠一)の携帯に電話させたが、携帯は「圏外もしくは・・・」と答えるだけで、応答は無い。
岩崎誠一も、忽然と消えていた。

九条民子も、その行方は聞かされてはおらず、京子の失踪も知らなかった。
勿論、岩崎誠一は民子に組織の事は口にしていない。

民子には起こった事が正直判らない様で、「まさか誠一が、そこまでやるとは思って居なかった。」と、泣きながら関与を否定した。

民子にしてみれば、京子の存在は差し障りが無く、岩崎が何かする理由が無い。
手の内は教えられないので、北の赤い国と岩崎との繋がり疑惑については、民子には言っては居ない。
与える情報を少なくして、民子が何処まで承知しているかを引き出す狙いがある。


気が付くと、京子は小型の保冷車の荷台に猿轡を噛まされ、グルグル巻きに棒状に縛られ、転がされていた。
意識が朦朧(もうろう)としているから、咄嗟に薬物を使われたと判断した。

どのくらいの時間、意識が無かったのかは判らない。

薄目を開けて様子を伺う。標準装備の室内灯が申し訳程度に灯っているが、慣れると結構に良く見える。
荒っぽく縛られたのか、スカートが半分捲くれ上がったままで、偏った布切れが段差にかたまり、腰に当たって痛い。

もう十一月に成るから夜は結構寒い。
京子は寒さで目が覚めた。

傍らに、岩崎誠一ともう三人男がいて、何やら話しをしている。
耳を澄ますと、走行中の騒音に紛れて、途切れ途切れに話が聞こえている。

岩崎誠一は、「彼女は関係ないから。」と、盛んに京子を解放してくれる様に懇願していたが、他の三人はまったく取り合わない。
話しの中に、日本海、北陸海岸沿いの幾つかの地名が漏れ聞こえてきた。
やがてその話は、石川県の一角、能登半島に及んでいた。

思い出したが、京子はあのマンションの一階、エレベーターを降りた処で襲われた。
一階に着き、ドアが開くと男が立って居た。
避けて降りようとすると、腹部にドスンと衝撃があり、呼吸がとまって、気を失った。

気が付いたらこの有様で、体中が痛い。車が舗装の段差を通過すると、もろに身体に響いた。

男の一人が、「この娘、器量も良いし、年令も二十四と申し分ない、あの男と一緒に連れて帰っても支障は無い。」と、言った。

もう一人が「この娘まだ気を失っているのか?」と言いながら近寄り、京子の口に手をかざして、息を確かめた。
京子はもう少し気を失ったふりを選択した。

暫くするともう一人が近寄って来て、京子の頬を平手でパチパチ叩いた。
「姉ちゃん、もう起きているのだろ、何時(いつ)までも狸はいかんぞ。」
京子は仕方無く目を開けた。

頬を叩いたのは、頭を角刈りにして、細い一重の白目勝な目をした三十歳くらいの男で、やたらに顔のえらが四角く張っていた。
「やっぱり狸か。」

そう言われても、猿轡を噛まされていては何も答えられない。
京子がウガウガ言っていると、服の上から胸をグィと掴まれ、乳房が縦に潰れた。

「畜生、耐らねぇなー。」
男は、京子の身体をまさぐりながら、ぶつぶつと口にした。
「待ちきれねぃぜ、早く向こうへ着かねーぇかなぁー。」

男の手が股間や太ももをなで廻しても、されるがままで、京子は身動き一つ出来ない。

「まぁー良いわ、後でゆっくりさえずり声を聞いてやる。嫌でも善がりたくなるから、楽しみにしていろ。」と、その男は意味深な事を言いながら数歩歩き、車の揺れに合わせてドスンと座り込んだ。

男は明らかに酔っていた。
口ぶりから、何をされるのかは明らかだ。

「此れは事態が悪過ぎる。」と、気丈な京子は覚悟を決めていた。
男達ばかり相手に囚われの身では、当然無事ではあるまい。

「何があっても、生きよう。」と決めた。
だいたい、こうした本人の意思によらない事でたとえ身体を汚されても、心が傷付いては損の上塗りだ。
恋人のナカヤンはそれに拘る男では無いはずだし、拘る男なら、器が小さいから別れれば良い。

ミレアの最期を知っているだけに、生きる事が先決だった。
幸い京子の体や年が話題になっている。

大人しく言う事を聞いていれば、直ぐには殺さない筈(はず)だから、後はナカヤンや永田警視達が頼りだった。

もう、とっくに京子の失踪に気が付いて、「きっと、ナカヤン達は救出に動いているはずだ。」まだ、希望は充分にある。


新潟県佐渡ヶ島辺りから、石川県能登半島の辺りの日本海は、樺太から南に降りてくるリマン海流(寒流)と、南から北に上る対馬海流(暖流)のぶつかり合う所である。

日本でも有数の漁場で、実は半島の両国と日本、ロシアの漁船が、領海をはさんで凌ぎを削っている。
好漁場だから、水揚げも多く密漁も混ざる。

「沖渡し」と言う船から船の水産資源の密輸入取引も多い。

多かれ、少なかれ、何処かを経由して、商社もそれらを買い取っている。同時に赤い北の国の偽装漁船(不審船)も、闇に紛れて絶えず出没していた。

二年ほど前の三月にも、船名、漁船登録番号が、廃船及び重複している、二隻の偽装漁船を能登半島沖で発見した。

海上保安庁が巡視船十五隻、航空機十二機を投入、海上自衛隊もバックアップして、停船命令、威嚇射撃を実施したが、対岸国の中間線及び防空識別圏を越えて逃走する事件があった。

この日本海の緊張の中で、北の赤い国の密漁漁船が取った海の幸が、実は他国経由で大量に日本の食卓を賑わしている。

漁も、自国領海はおろか日本での密漁まで、様々だが、産業不振の赤い国にとって、外貨の稼ぎ先に日本は欠かせない。

商社は商社で、利になる水産資源の元など、出所は内心どこでも構わない。
それで、日本の水産商社は狙い目だった。

その取引にまぎれて、工作員の侵入、脱出、秘密文章や、機材のやり取り等の仕事で、工作員が闇脚している。
その表の顔の位置する処に、送り込まれたのが誠一だった。
今回も誠一の北陸買い付け出張のタイミングに会わせて、京子の拉致は計画され、実行された。

今この保冷車は、高速道路を駆って日本海の某所を目指している。
公安、合同捜査本部の谷村総指揮(公安部長?・警視正)から、聞き込み捜査中の川端警部に情報が入った。

以前からマークしていた下請け水産問屋の小型保冷車が一台、発注先会社の要請で、岩崎誠一の出張同行の為、借り出されていると言う。

目的の名目は、冷凍蟹のサンプルを二十ケース程持ち帰る事だった。

彼らが大胆に動いたのは、まだナカヤンたち素人捜索の段階と把握していて、公安が動いているとは計算外だったからだ。
永田警視の先を読んだ陽動作戦に、まんまと嵌まった格好になる。

それにしても今回ばかりは仕事が粗い、何か裏があるのか?
「それだ、やつら、こっちを甘く見たな。」

川端警部が叫ぶ。「車両プレート番号は 練馬な**15 一菱の二トン保冷車。」貸し出し車両の書類では、北陸海岸の或る港町の冷蔵倉庫が行き先だった。


「当該保冷車を、緊急追尾。」
次の打つ手はあっさり決まる。

此れは警察庁の仕事だから、現地の県警を先行出動させる事は無い。
現地の県警は、川端警部が到着してから出動させ、川端警部の指揮下に入る。

京子の一刻も早い安否を気使うナカヤンには不満だが、県警にまかせ、下手をして結果が悪ければ何も成らない。
何しろ、相手はヤクザ国家が絡むプロの組織だ。

本庁の治安の専門家が対応するのが好ましい。
川端警部は総指揮の指示で別働を組、ヘリコを出動させると言う。

「中山さん(ナカヤン)私と車で一緒に行きますか?地上班の指揮は私が執ります。」
永田警視が車両の手配をしながら誘っている。

通常追尾車両に民間人を乗せる事は無い。永田の精一杯の誠意と言えた。
この後に及んで、ナカヤンが此れを断る訳が無い。
「是非連れてってください。」

緊急追尾は開始された。
ただし、推定四〜五時間は奴等より出発が遅れている。

永田は非常灯とサイレンで、高速道を四時間は緊急走行をすると言う。
「二、三時間遅れで、書類上の目的地には付くでしょう。」

本部では、万が一の対策も進んでいる。

予想されるルートは二つ、関越道(高崎ジャンクション)から上信越道(上越ジャンクション)経由北陸高速道を経て能登半島能登有料道路のルート。

または中央高速道経(岡谷ジャンクション)経由長野高速道(更埴ジャンクション)経由上信越高速道(上越ジャンクション)から北陸高速道を経て金沢市経由、能登有料道路・能登半島などのルートが想定される。

各主要道路に設置されたカメラ映像の解析に着手、該当車両の都内出発時刻から、通過時刻を割り出した。

やがて中央高速道を、山梨県・都留方面に西進する該当車両の画像を確認、運転手一名が、運転席に居るもよう。
「良ぉーシ、岡谷ジャンクション経由だ。」

谷村一警備局次長(総指揮・合同本部長)に指示されて、今、参考人で引っ張った九条民子と、岩崎誠一の義理の妹中村(旧姓岩崎)由美も石川県に呼び寄せている。

包囲篭城に発展した場合、局面が膠着(こうちゃく)する。場合によっては、身内の説得が必要になるからだ。
不測の事態に備え、別の部下達が彼女達を同行して来る事を、永田はナカヤンに告げた。

永田は今回の追跡作戦について、ナカヤンに丁寧に説明した。
京子を心配するナカヤンを、安心させる為だ。
「明け方六時には明るくなるので、ヘリコで、川端警部と森田警部補が該当車両を空から捜索します。」

合同本部総指揮の谷村警備局次長が緊急重大事態と判断し、「検問配備はしない」と言う。
到着先側の組織も壊滅する為には、一網打尽が要求される。

ただし追尾時間を稼ぐ為に、予測進路に当たる長野高速道に偽装事故による交通渋滞を一箇所、上信越高速道に偽装夜間工事を一箇所、架空設定して保冷車の走行を妨害、同時に当該車両の動向補足を試みる布陣だった。

「偽装事故に偽装夜間工事の架空設定とは随分大掛かりな事が出来るのですね?」
「公安の仕事は、国家そのものの維持ですから、内緒ですが、かなりの事が内密で出来ます。」

此れは、ただの事件と違い派手に世間に公表も出来ない言わば隠密捜査である。
微妙な組織犯罪であり、裏には無気味な国家の影が見え隠れしている。
あくまでも秘密裏に、大捜索は開始された。


京子達を乗せた保冷車が「グーイ」と惰性を抑え込む様に減速した。
全員の体が減速から取り残され、進行方向へ倒れ掛かる。

「うわぁ、何だこの運転は?何とかしてくれ。」
京子の身体も、荷台の床を滑って男の一人に当り、止まった。

「おぃ、どうした。」
保冷庫の中の男が一人、運転席と携帯を使って話している。
「この先で事故らしい。だいぶ渋滞している。」

「何だよー、たまんねえなぁ。このねぇちゃんとのお楽しみが伸びるぜ。」
先ほどの男が、ボコッと木張りの内壁をけった。

「ばか、音を出すな。荷台に人が居るのを知られたら拙(まず)いだろう。」
先ほどの携帯の男が叱り付ける。

「すまねぇ、二月ほど前から鞭打ち症に似ている症状で、首が痛くていらいらしている。」
おおよそ三十五歳前後の年恰好で、キチンとした背広の身なりの色白な男だった。

彼は立ち上がると、その足で数歩京子に近寄って、抜かりなく猿轡の緩みを点検した
。どうやら、その男が指揮を執っているらしい。

ノロノロ進んでいた保冷車は、やがて止まり動かなくなった。
保冷庫内に緊張が走り、男達の内二人は無言で拳銃を握り締めた。

視線の先は、最後部のハッチドアだった。
停止した時は、走行中より極度に危険だ。
万が一、警官による職質検査などがあったら、京子を拘束しているこの状況は隠し様が無い。


森田愛警部補は珍しく制服を身に着けていた。

森田の短めの婦警のスカート姿は罪作りな物で、当人は意に返さないが立って居る時はまだしも座ると犯罪的に厄介で、すらりと伸びた若い脚のチラ付く太ももに、周りの向く付け気男供は目のやり場に困る。

警官がセクハラ覗きの痴漢ではお笑い種だが、森田はそんな事にはお構いなしで、スカートの裾など気にせず大胆に行動する。

森田は仕事の性質から、必要な時以外滅多に制服を着ない。
しかし今回は他県の県警のエリアに乗り込むので、警視庁警部補の立場(身分)が相手に直ぐ解るように配慮した。

なんと言っても階級がものを言う世界だからで、「警視庁警部補は押しが利く」と川端警部のアドバイスである。

警部補からは階級章の木の葉の飾り(四枚)が金色になる。
それに金筋一本が付いて、階級で言えば下から四番目だが一応管理職で、本部や署の係長クラスの役職に就く。

ヘリコのフライト準備をしていた川端が、森田に声をかけた。
「後十五分位で飛び立つ、ソロソロ、へリポートに行こう。」
「はい、判りました。」

二人は連れ添って屋上へ向かった。
「処で、高い所は大丈夫か?」
「こんな事があるかと、スカイダイビングをしていました。」

「そうか、ヤッパリ現代っ子だなぁ、実は俺は高い所が苦手だ。ハハハ最近やっとヘリコに慣れて来た所だ。」

ヘリポートでは既にスタンバイしたヘリコが、轟音を放ちながらアイドリング状態で待ち構えていた。
二人が腰を屈めて乗り込むと、ヘリコは待ち兼ねた様に舞い上がった。


ナカヤンを乗せた永田の覆面パトカーは、都内を抜け出すと、一層スピードを上げ、両側の景色は飛ぶような速さで流れている。

後部座席からナカヤンがメーターを覗くと、針は百三十から百四十を指していた。

永田の使用している覆面パトカーは、175クラウン(JZS175型)で、ナカヤンの想像以上にスピードが出た。

慣れない人間にはこのスピードは恐怖で、そんな事をしても何もなら無いが、ついついナカヤンの身体に力が入る。

永田のパトカーに、無線が入った。
「追尾二車に連絡、今第一ポイントで該当車両を確認しました。」

どうやら、長野の偽装事故現場かららしい。
永田は運転を部下にまかせ、自分は助手席に陣取っている。

「ハイ追尾二車、何、当該車両を長野高速道で目視補足。良し、出来るだけ時間をロスさせろ。ただし刺激するな。」
「第一ポイント、了解。」

指示をし終えた永田は、川端警部と連絡を取っている。
「はい、長野偽装第一ポイントで補足しました。自分は出来るだけ追い付いて、監視体制に入ります。」

無線の話は話し手の声が大きくなるので、後ろで聞いていても、おおよその事はナカヤンに判る。
永田が振り返り、後部座席のナカヤンに声をかけた。

「中山さん、長野で補足しました。川端警部達のヘリコも運行計画が通って、今飛び立ちました。」
「追い付きそうですか?」

「いや、稼いでも十分、ノロノロの減速を入れても二十分が限度です。その間に五十キロは詰めたい。多分ヘリコの方が早いでしょう。」

それに万一追い付いても、途中での行動は禁じられている。
京子だけの救出が目的ではない、あくまでも、全員の救出の為にはアジトでの一網打尽でなければならない。

緊急走行中の二台の覆面パトカーはうなり声を上げて疾走している。

時折、前方車を左に寄せる警告をマイクで発しながら、まるで何かに取り付かれた様に減速する事を忘れて・・・・
永田警視の視線は、走行中の高速道の遥か前方に向いていた。

ナカヤンは思っていた。
「あの田舎風のアンチャンがこの格好良さとは、世の中、蓋を開けないと判らない。」

走行中の覆面パトカーに、緊急無線が入った。

「追尾二車、追尾二車、永田君良く聞け、海上保安庁から連絡があった。国籍不明の偽装漁船と思われる不審船が一隻、清津(チョンジン)から直線的に能登半島方面に向かっているそうだ。」

谷村本部長の声だった。

「そうですか、益々追っている岩崎誠一の線が有力ですね。追尾二車了解。」

「日本海の公海上を南下中で、当該不審船の近海十二海里能登半島沖到着は、保安庁は四〜五時間後を予測」
「明け方までが勝負ですね。追尾二車了解。」

「なお、長野・新潟・富山・石川の四県警には話を通して、各県機捜(機動捜査隊)及び各県交機(交通機動隊)は、当該車両を一切関知せず。」
「ぇぇ〜追尾二車、重ねて了解。」

「中山さん、間違いないようです。海上保安庁も不審船を補足警戒中です。必ず追いつきますよ。」
「そんな海上の情報も、判って居るのですか?」

「昔から不審船は、海自(海上自衛隊)か保安庁で補足しています。」
「なら、なぜ拉致が可能だったのですか?」

「阻止行動を実行する為の、上の許可が下りなかったのです。現場は何時も悔しい思いをしていた筈です。平和憲法下で、国際紛争を起こす勇気が上に無かった。」

「それなら、今度も危ないのじゃ有りませんか。」
「陸で捕まえれば、何の問題も起きません。体制は万全です。」


ナカヤンには想像もつかないが、その頃新潟の第九管区海上保安本部は、緊張し、警戒態勢でごった返していた。
この第九が、地理的な条件もあって、もっとも不審船との縁が深い。

第九管区海上保安本部と第九管区情報通信管理センター、出先の金沢上保安部並びに能登海上保安署、それぞれのレーダーが、高速で南下する不審船の船影を捉えている。

こちらは領海に侵入し次第拿捕の構えで、警備救難部 の警備課、国際刑事課 が、迅速な特別編成で警戒態勢に入り、第九管区保有巡視艇十五隻中五隻が、通常巡視活動を兼ねて既に警戒を始め、分散出動している。

四機配備されている航空機中の一機も既に搭乗が完了、エンジンが廻って出動準備は万全だった。


「いらいらするぜ。佐々木さん、外の様子を聞いてくれよ。」
あの、下品な細い目の男が沈黙を破った。

「ばか、名前を言うな。」
「良いじゃねぇか、どうせこいつらは日本をお去らば(おさらば)だ。」
リーダー格の男が、「お前はやる事なす事雑で遺憾。」と、諦め半分に言う。

「その代わり、二号処理で始末するのは何時も俺だ。今度はこの娘で、少しは良い思いをさせてもらわねぇいと・・・・・」
「判っている。犯らせてやるから、少しは頭を使え。」

どうやら、この下品な細い目の男がミレアを手にかけた様だ。
京子は彼らの会話から、人を殺した話しを平然としている彼らが、並みの男達で無い事を、改めて知らされた。

そして、この下品な細い目の男が、自分を玩具にしたがっている事も、確実だった。
落ち着きが無く、苛立っている男だ。命の危険性を考えれば、冷静に陵辱を覚悟して、生き長らえ無ければ成らない。
永田達が追っていたのは、モンスターなのだ。

中の男達の緊張が切れかけた頃、シュパーンと大きく身震いして、保冷車はようやくそろりそろりと動き出した。
「どうだ、ポリは?うん、そうか。」

また、携帯で運転席と連絡を取っている。
「やつら、事故の始末に夢中で、心配は無い。」

佐々木と呼ばれた男は、一同に聞こえる様に言った。よく見ると、岩崎誠一は後ろ手に両手首を縛られている。此れはどう言う事を意味するのか?

どうやら、事態は京子達が考えていたのとは、少し違う様だ。彼は京子の覚醒を確認以来、終始無言でうつむいていた。
保冷車の流れは少しずつ速まり、やがて順調に走り始めた。

「おい、制限速度は絶対守れ。スピード違反で捕まったら、全てパーだ。」
佐々木が運転席に携帯で指示を出している。
安堵の空気が車内に流れた。細目の男がまた京子に近付いて来た。

「悪いな、お楽しみが少し遅れそうだよ。」
今度は首筋を撫でている。気持ちが悪い畜生っ、京子は動けぬ身をよじった。
「やめろ、こん畜生」と口にしたかったが、猿轡で声は出ない。

「お前らが悪いのだぞ、こっちの計画に、自分達で勝手に首を突っ込んだのだから。」
「おぃ、後にしろ、向こうに無事付けば、何でもさせてやる。」
佐々木が勝手な許可を与えた。

保冷車は多少のブレーキ操作を繰り返しながら順調に走行している。
小一時間たった頃だろうか?佐々木が誰に言うとも無く、口にした。
「おぃ、此処はどの辺りだ?」

今まで無言だった三人目の男が言った。
「そろそろ上信越高速道に入る頃だろう。」
先ほど京子の息を確かめた声だった。

「チェ、人目に付くのはゴメンだ。向こうには明け方前に着きたかったが・・・・」
佐々木と言う男がつぶやいた。

やがて保冷車が、再び減速を始めた。
今度は停車こそしないが、延々一時間ほどノロノロ運転が続いた。

中では、イライラが募っていた。
「今度は何だ。工事規制?何だ、今日は付いていない。」
「何でこんな日に夜間工事なんかするのだ。」

「畜生、何で能登くんだりまで行かにやぁならん。」
「福井のいつもの小浜はもう危ないらしい。」

「それで能登にしたのか・・・」
「しょうがないだろう、今は二十年前とはちがう。」

男達から口々に弱音がでる。犯罪の緊張と、外が見えない狭い箱の中のストレスは男達を多弁にする。
「おい、何処かの人目の付かない山の中で一度止まらないか、外の空気が吸いたい。」

男の一人が言った。
「そうだな、富山に入ったら少しだけ脇道に逸れよう。」
同感だったらしく、佐々木が決断した。


サイレンのうなり声を上げて失踪する永田達のパトカーに、第二偽装ポイントの工事渋滞を通過する該当車両の目視報告が入っていた。

「追尾二車に連絡、該当車両、上信越高速道第ニポイントに接近」
「追尾二車了解。」
距離と時間を永田が計算する。

こっちも、けたたましいサイレンを鳴らして岡谷JTCを通過、長野高速道に入っている。
「百キロほど追い付いた。順調に行って一時間半遅れくらいだ。」
ナカヤンは、今の所「まかせて付いて行く」しか、成すすべは無い。

夜は東の方角からいくらか白み始めている。
「生存していれば、小川隆(リュウちゃん)さんの居る所に、石井京子さんを乗せた車は、向かっているはずです。」

「その先は日本海ですか?」
「恐らくは・・・・」
「・・・・・」

二人の間に、沈黙が流れる。
「特定失踪者」と言う名称がナカヤンの脳裏に浮かんだ。


三十分もすると、運転席から北陸高速道を「富山に入った」と連絡が来た。
「そうか、そしたら脇に入れ、人目につかない山道にやってくれ。溜まっちまって我慢が出来ない。」

京子をマンションの出口で捕獲してシャブを打ち、その足で港区の冷蔵倉庫街に車両を受け取りがてら、岩崎を捕獲して東京を出たのが深夜二十四時の少し前、今は時計の針が六時近くを指している。

保冷庫の中に六時間は流石にキツい。

佐々木が携帯で指示を出すと、十分ほどで保冷車は未舗装の山道に入った。
揺れが左右前後に酷くなり、さながらロデオの馬に乗っている様なバウンドを繰り返している。

「おぅ、こ、これじゃあ、耐らねーぇ。早く止めてくれ。」
下品な細い目の男が、跳ね上がりながら言った。揺れたのは五分ほどだろうが、とてつもなく途轍(とほう)もなく長かった。

やがて保冷車が止まり、ガチャンと音がして外からハッチドアがパカッと開いた。
運転手が、外からハッチドアを開けたのだ。
この時期、朝の六時と言うと青白い薄明かりに白み始めて、もう暗がりとは言えないだけの明るさがあった。

保冷車が止まったのは、林道沿いの雑木生い茂る森に囲まれた百坪は有ろうかと言う空き地で、残土が捨ててある事から工事車両の退避地か何かであろう。

待ち構えていた佐々木と言う男ともう一人が、早々に飛び降りて両手を挙げ深呼吸と「うぅーん」と伸びをした。
そのまま空き地の脇に行って、早速ジッパーを下げ、音を建てて排出をすると、もう身震いをしている。

細い目の男が無言で京子に近寄って、胸から下の縄を解き始めている。
「おぃ、何をしている。」
降りて来ない細目の男に、佐々木が放出しながら後ろ向きに声を掛けた。

「なぁに、このお嬢さんにも小便をさせないと、中で漏らされても困るぜ。」
男は「ホレ、こんな箱の中で、臭ぇいのはゴメンだ」と付け加えた。
「そりゃそうだが・・・・」

「俺にまかせとけ、どうせこの娘ニャ後でタップリお世話になるつもりだから、面倒をみてやってもお互い様だ。」

細い目の男は、京子の下半身の縄を解き終わると、解いた縄の先を後ろ手に縛った手首に縄に箸を結び、おもむろに下半身の衣類を剥ぎ取って行った。

「ねぇちゃん、下の世話までしてやるのだから、俺は親切だろう?イヒィヒィヒ。」
「・・・・」
その行為にも、京子は抗う気力も失ってされるままに任せた。

長時間、車の振動から身を守るのに疲れ切って、抵抗する気力が萎えていた。
それに、さっきから排尿の要求にも苛(さいな)まれていた。

実は、そっちの我慢が限界だった。
この際、拘束されたまま排尿して車内に放置されるより、いくらか増しだったのである。

強情張って耐えられなければこの寒さだ、後がどうなるか見当が付く。
恥ずかしい思いをしても、外で排尿が良いのだ。
或る面、「早くしてくれ」と、心で叫んでいた。

それで、腰を浮かせて男の作業を助けた。
スラックスが、京子の尻肉の出っ張りを交わしてプリンと尻が剥き出しになれば、もう足先に引き降ろすだけである。

下半身が全て露わに成ると、「さぁ、これで好シッ。いい眺めだ。」と、男は京子を持ち上げる様に抱え起こして立たせた。

ついで、「おい、お前も立て。」と、岩崎誠一を蹴飛ばして立たせ、縛った後ろ手に京子の縄の余りを縛りつけ「お前も、小便くらいさせてやるぜ。」と言った。

二人は鵜飼の鵜の様に縄尻を細い目の男に取られて、保冷車の荷台から抱え下ろされた。
外の空気は澄み切っていて「ヒンヤリ」と冷たいが、風がないので、下半身丸出しでも耐えられないほどではない。

薄明かりに見える更地は、その林との境目に季節柄の落葉の吹き溜まりが、そこかしこに盛り上がっている。
下半身丸出しでよろよろと歩く京子の格好に、後の男どもが好奇の目を向けた。

薄明かりだが、京子の下半身は充分見て取れる。
京子のむき出しの尻が、白くふっくらと存在を主張している。

リーダー格の男ともう一人、そして運転手が、切り株と巨石に腰を下ろしていた。
彼らは用を済ませ、今は何やら話しながらタバコを吹かしていた。
その前を、縄に引かれた下半身丸出しの京子が歩く。

「おぅ、ハハ、もう脱がしたのか、こりゃー準備が良い。」
男達の好奇の目を、京子は気丈に無視した。

「ねぇちゃん、ここらで良いだろう。」
細目の男が指差した所は、切り株と巨石に腰を下ろしてい男達の正面の砂利土地だった。

そんな事で、うろたえる京子ではない。
勝気な京子は「見たければ見せてやる」と覚悟を決め、落葉の吹き溜まりを避け、手前の砂利地にしゃがみこんだ。

京子は男達の見守る中、空き地の端にしゃがんで用を足したが、我慢していたので、噴出の勢いが音を立てて凄まじかった。

誠一の方は、「何で俺が此処まで面倒見なきゃ成らんのか。」と言いながら、細目の男にジッパーを下ろされ、摘まみ出されて用足しをした。

誠一は終始無言で口を聞かない。

京子の格好では、十一月の山間の空き地は酷く寒かったが、一方内心は火が出るほど恥ずかしい思いで、用足しをなし終えた。

用を済ますと、「良し、良し、終わったか。」と細い目の男が両手で京子引き上げる様に立たせ、前をタオルで拭い、「へへ、大事な所にシモヤケは作れねぇ。使えなくなっちまう。」と、笑いながら言った。

京子は、ジタバタせずその細目の男の為すがままに任せた。
覚悟は決まっているのだ。

彼が身体を求めてくる間は、命の保証がある。
生きるのが先決で、先の事はそれからだった。

京子は誠一と縄で繋がったまま、また保冷車までよろよろと引き返し、抱え上げられて荷台に戻る。
細目の男に、剥ぎ取った京子の下半身の衣類を戻す気はない。
「ねぇちゃん、どうせまた脱がすのだから、そのまま毛布に包まって居ろや。」

彼は京子の下半身に毛布を被せると、注射器を持ち出して「可愛い子ちゃんは暫く寝ていろ。」と言いながら、京子の毛布からははみ出した足指の股に静脈を探し当て手馴れた手つきで突き刺した。

「麻薬」と直ぐに判ったが、今の京子の心境からすると、「意識が無い方が幸せかも知れない」と思い、暴れる事なく受け入れた。
そのうち、気持ち良い幻覚に襲われながら、京子の意識が遠退いて行った。

保冷車が再び動き始め、また暫くの間、林道の山道に酷く揺れたが、やがて本道に入ったらしく揺れは収まった。
保冷車は加速を始め、エンジン音が高くなって行く。

残りの行程は、一時間くらいか?それからの保冷車は、順調に走行を続けている。
「お前、おかしな所で気を使う奴だな。」
佐々木が細目の男に言った。

「見ろよ、こんな可愛い子ちゃん、使う前に壊れちゃ堪らんだろ。」
細目の男が京子の方に目を遣りながら応えた。京子は完全に意識を失って、長々と伸びている。

シャブを打たれて正体を無くし無防備に下半身を丸出しにして眠る京子を、細目の男が眺めながら、「チェ、早くやりてぇ」と、呟いた。

意識は遠かったが、京子には細目の男のその声は夢現(ゆめうつつ)の中で聞えていた。
突然、リーダーの佐々木が、携帯に叫んだ。

「おぃ、今ヘリコプターの音がしなかったか?」
運転席からは、「今は聞こえない、」と、返事が返ってきた。


三時に東京を出発して緊急走行三時間、相手は恐らく速度厳守だから、情報ではかなり距離を詰めている筈(はず)だった。
こちらの覆面パトカーも上信越高速道に入っている。

処が、次の北陸高速道通過チェックポイントに、予測時間を過ぎても該当保冷車は現れない。
クールな熱血漢の永田も、流石にイラツイタ様子で、無線報告を待ちわびている。

ナカヤンの目に、その永田警視の膝が、小刻みに上下しているのが見えていた。
合同捜査本部から追跡班まで、「見失しなったか。」と緊張が走ったが、およそ三十分遅れで、無事ポイント通過が確認された。

「追尾二、追尾二、こちら北陸高速道第三警戒ポイント、今から一分ほど前、該当車両通過。」
「こちら追尾二車、了解。」

「しめた、奴ら休みを取った。これでかなり詰められる。」と、永田が興奮気味に言った。しかし、ナカヤンの方も限界だった。

「永田さん、こっちもチョットだけ時間を。」
「エッアッ、そうですね、こっちも用足しと行きましょうか?」

「あぁ、助かった。すみません中山さん。」
そう叫んだのは、運転していたドライバーだった。
少しだけ、車内にホッとした空気が流れた。

「警察官が立ちションは上手くないですが緊急時の超法規処置と言う事で。」
「そうですなぁ。緊急処置です。」


その、頃追尾ヘリコは北陸自動車道に沿って飛行を続けながら該当車両を捜査していた。
森田警部補が、突然前方を指差して爆音に負けない声で叫んだ。

「川端警部、あれ、あれ違いますか?」
川端が、愛に指さされた方向を手にした双眼鏡で覗く。

川端の目に、富山方面に向かう保冷車が映る。
「えぇ、三菱の二トン保冷車、車両は同型、プレート番号は 練馬な**15、間違いないあれだ。森田君本部へ連絡。」

「追尾ヘリ一より、本部、えぇ、北陸自動車道を石川方面へ西進中の保冷車を補足しました。」
「本部了解、次の指示あるまで一旦目標から遠下かれ。」

「追尾ヘリ一了解。」
「待て、こちら谷村、上空はもう良い。このまま追尾すればやつらに感付かれる。」

「追尾ヘリ了解、後はどうします?」「石川県警ヘリポートへに廻れ。地上から目的地。」
「追尾ヘリ一、了解。」

東京の谷村総指揮(捜査本部長)と保冷車の行き先は予測通りで「確実」と、確認が交わされ、地上での補足が完全と判断された。

それに伴い、ヘリコ組の川端警部と森田警部補はヘリコの爆音で悟られるのを嫌い、石川県警のヘリポートに着陸する事に、谷村が方針を変えた。

本庁警備局公安課・谷村警視正から、石川県警には協力要請が出ている。
県警の覆面パトを借り、川端警部が一隊を率いて「目的地に先回りする」方針への変更を決めたのだ。

追尾二車の方は、警告灯とサイレンを使用し、相変わらずのフルスピードで疾走している。
ナカヤンが無線連絡の合間に、永田警視に話しかけた。

「前から、すごい疑問に思う事があるのですが、永田さんなら判りますか?」
「さぁ、何でしょう。言って見てください。」

「実は、佐々木和也の佐々木家ですが、息子が失踪したのに、親御さんも余り騒いでいない。それが、不思議で・・・・」

 幾ら代議士の面子があるといっても、事が息子の失踪である。
それにしては、佐々木は平静過ぎるのだ。

永田には、少し前の捜査本部での部下との会話が浮かんだ。

「九条民子は、佐々木和也の父親の秘書(岸掘孝太)が、和也の警察に届けたと言っていたけれど、調べると秘書から届け出はなかったのです。多分民子は父親に騙されて居るのじゃないかと考えられます。」

「あの秘書の岸掘孝太か、そこも矛盾だ。佐々木代議士にも何か有るのじゃないか?」
岸掘孝太は、佐々木代議士の闇の部分を処理する飼い犬だった。

永田には、佐々木代議士の奇妙な愛人、あの超一流大学出の「昔ミス**大学だった」と言う女性官僚の大供みどりの顔が浮かんでいた。

「それにしても妖しい話だ。洗い直すべきでしょうね。」

「その事ですか。確かに代議士の心配も型通りで、なぜか落ち着いている。」

永田も、その事には少なからず違和感を覚えていた。佐々木の両親は民子にも、安否の結果がはっきりするまで、待つ様に言っただけだ。

「佐々木和也(Bワン)は、本当に被害者ですかね?」
「その疑惑は大いに有ります。」


前日の(十一月十七日)の十時半頃、京子は男の一団に拉致された。
当て身を喰い、気絶している間に薬物を打たれた為、本人は知らないが、連れて行かれた先で一騒動あった。

行ったのは港区の冷蔵倉庫外で、車両確保を命じられた岩崎誠一が保冷車と待っていた。

京子を連れて来るとは知らなかったらしく、彼は驚いて助けようとする。
「この娘をどうして連れて来た?これじゃ荒っぽ過ぎて計画が全てバレテしまう。」と、咎めだてをした。

すると、いきなり初対面のリーダー格の体格の良い男に張り倒された。
予測していなかったので防御も出来ず、岩崎は吹っ飛んだ。

倒れた後、腹に蹴りを二発入れられ、防御するのが目いっぱいで、抵抗の意志は萎えて行く。
抵抗を止めると、三人がかりで縛り上げられ、岩崎はまったく手出し出来なくなる。

彼らの縄使いはプロだから、解くのは困難で、それを知る岩崎も無駄な事はしない。
「馬鹿野郎、良い気になりゃあがって、手前と民子の事は八月には知っていたぞ。」

「佐々木さん、あんた・・・・」
「そうよ、お前が拉致しようとしたのは俺だよ。間抜け。」

何時も、伝言とメール指示だったので、リーダーの事を岩崎はまったく知らなかった。

元々嫌々ながらの岩崎(クロさん)は、赤い北の国の連中に、上手い事巻き込まれたのを利用して、民子と和也の拉致を計画した。

所が、元々根が善人のクロさん(岩崎)は、手先に成ったものの、間抜けな事に肝心のリーダーの顔を知らなかった為に和也に逆襲され、今は口封じを兼ね半島に拉致される立場にあった。

和也は、部下から岩崎が計画した自分の拉致を聞いて驚いたが、HPトラブルに偽装するアイデアは手間がかかるが面白い。

幸い岩崎は荒い仕事を嫌い拉致には参加しない上に、「民子にも見せたくない。」と言う。

「それなら」と、さらわれた事にして、暫く身を隠し裏の仕事をする事にした。
何よりも、赤い北の国とは関わらないPCトラブルに偽装可能である。

上手く話を進め、一芝居打ってリュウちゃんを拉致する事を思い付いた。
それに成功して連絡したら、今度は若い女の招待指令が来た。

赤い国の本国の機関でも、経験から「つがいで拉致が一番安定して良い。」と考えて居る。
拉致後一人で置くと、大半の人間は孤独でパニックになる。
寄り添う相手が必要だった。

京子とリュウなら、恋人ではないが仲の良い友人だ。
向こうで一緒に生活を始めさせれば、やがて肉体関係も出来て収まる様に収まる。

女の方は、その前にミッチリこちらで代わる代わる締め上げて仕込み、諦めて逆らえない様に教育して、赤い北の国へ送りだすつもりだ。

実は和也も、居ない人の気配や寒気(さむけ)の怪奇現象には悩まされていた。

自宅マンションで、居る筈のない人の気配に不安を感じ、外に出ようとして和也は突然足首を捕まれたような気がしたが、足元を見降ろしても誰も居ない。

ゾグゾクと悪寒が走り、全身の毛が逆立つのを感じた。

この奇妙な出来事に、和也は全身の髪の毛が逆立つ恐怖を感じたが、それが何んなのかは、まだ気が付いてはいなかった。

足首を捕まれたような気がした時は、「心臓が止まるか」と冷や汗を流した。
この所、その奇妙な事が続いているが、和也に心当たりは無かった。

いや、「心当たりがない」と言うよりも、赤い北の国の仕事で怨まれる事が多過ぎて一々採り合っては居られない。
和也は、「きっと気のせいだ」と都合良く打ち消した。

いくら建前の奇麗事を言っても、国家の本音には「諜報機関と工作機関は欠かせない」と言う矛盾がある。
この国は奇麗事ばかりの国で、全く無防備なスパイ天国」と言われて居る。

哀しい事に、諜報工作活動をすると、目的達成の為には相手にも幾ばくかの成果を与えるバーター取引の闇に引き込まれる。
しかし国家がやれなければ、この誰にも誉められない損な役回りを、誰かが泥を被ってもやらねば成らない。

実を言うと、佐々木和也も「今度の仕事は、かなり危ない橋を渡る事になる」と、かなり躊躇していた。

元々父親の昭平から、国交の無い北の赤い国と僅かながらも裏交渉ラインを確保する為に、多少非合法でも繋げておくのが国益と説得され、父の裏ラインを維持してきた。

しかし、それを維持する為に絶えず赤い国から踏み絵を踏まされる。
それを叶えると、自分は犯罪に染まる。

泥沼の状態が続いても、唯一の窓口を死守しなければならない。
和也は、仮面を被って生きる運命を背負わされていたのだ。
しかし現実には、罪も無い個人に危害が及ぶ。

アウトロー組織とも繋がりが出来て、もう後戻りが出来ない処まで来てしまっている。

ややこしい事も多少は受けてやらなければならなくなって、大石辰夫の失踪にも赤い国の工作員を使って、手を貸せる結果になっていた。

それでも苦悩しながら維持して来たのは、父が言うように、いざと言う時の日本の大リスクを、唯一カバーする交渉の為の細いパイプだったからだ。

何かの信条を原動力にして生きるのは、神経が結構しんどい。
和也にとって、この裏の使命感の重圧から逃れる手段が、実はセレブパーテーの乱痴気騒ぎだったのだ。

真相など、本人しか判らない。
しかし、それを言っても建前だけで判断する世間は受け入れない。
確実に国家の裏切り者とされるに決まっている。

そんな和也の心情などお構いなしに、唯一合法的な貨客海上ルート、新潟に入る貨客船が工作員を行き来させ、赤い北の国からはリクエストが続く。

実を言うと、現在に到り拉致について然したる需要はない。

赤い北の国の諜報の部署が「仕事をして居る。」と言うアリバイ作りみたいなもので、後は協力者である和也達の踏絵みたいなものだった。

孤独な重荷を背負って思い付いたのが、岩崎の計画をアレンジする事だった。
せめてBワンの時、紳士で有り続けたいのは、和也が自分の本当の心情を吐露する唯一の場所だったからである。

実はあのマンションでの幽霊現象以来、和也の周りにも不思議な事が度々起こっていた。
和也の身辺に起こる怪奇現象は、どう考えて見ても奇妙な現象で、理屈では納得が行かない。

納得が行かない事は恐怖で、和也には言い知れない不安感が付き纏(まと)っていたが、それを考える間もなく事が進んでいる。

幽霊現象を構っては居られない和也は、その不安感を押し殺して能登まで遣って来ていた。

工作船接岸予定の都合で仕事が荒っぽい事になったが、今回は岩崎のけじめも付けようと思っていたので、仕事は粗くなるがこの際一度に片づける事にした。

どうせ此れだけ失踪が重なればBワン救出の動きがあるから、被害者に化けて救出されれば和也は以前の通りに社会復帰が出来る。

民子は可愛いが、今度の事はただ目をつぶる訳には行かない。帰ったら裸にひん剥いて例のきついお仕置きでもしてやろう。

そう和也は考えて、民子のあの戸惑いの表情を思い出しただけで、胸を高鳴らせている。
暫く民子の事を放置したが、これでまた戻ってパーテーが出来る。

「おい岩崎、俺が自分で民子を誰かに抱かせるのは構わんが、俺の知らない遊びは許さない。」
矛盾のようだが、和也が拘っいるのは民子の肉体(からだ)ではなく、思いの問題だった。

民子の思いが、他の男に傾く事には我慢がならなかった。
同じ身体を許す事でも気持ちが入っている行為は別で、民子は和也の持ち物なのだ。

「ドスン」と鈍い音がした。
我慢がならない和也は、思い出してまた腹が立ち、岩崎を蹴飛ばした。

「ウグッ」
岩崎の、痛みを堪えるくぐもった声が、漏れた。

和也も全てを解決する為に、今回だけは少々荒い仕事をした。
それで京子と岩崎は、二人とも縛られて保冷車に居る。

民子の陵辱を想い描いた和也が、その思いを京子に向けた。

それで良いも悪いも無く、京子は全裸後ろ手拘束のまま、やや腰を前に突き出し気味に腰に手をやった仁王立ちの和也の欲棒をシャブらされた。

走行中の保冷車コンテナの床に膝を着いた形で、京子は上半身を前後に動かしながら熱心にシャブっている。

和也の唾液に濡れ光る淫茎の丈が、京子の口元で唇を擦(こす)りながら見え隠れする様を僅(わず)か一メートル足らずの目の前で見た岩崎のインパクト(衝撃)は強烈だった。



もうそろそろ、保冷車は富山を抜ける頃だ。
石川県に入って直ぐ、金沢市に入る。金沢市から能登半島に向かうには能登有料道路を使う。

金沢市に向かっていた保冷車に携帯連絡が入った。金沢に配置している連絡員からで、川端警部達の「警視庁のヘリコを見かけた。」と連絡して来た。

先ほどのヘリの音は、空耳では無かったのだ。

警視庁がヘリコで石川県まで動いたとなると、自分達の件に関わる可能性がある。
「まずい事になった。行き先がばれそうだ。」

どう対処するか和也は暫く考えていたが、やがて万一の事を考えて決断を下すと、金沢の連絡員に県境まで車で迎えに来る様に指示した。

「良ぉし、石川に入る手前にあるパーキングエリアまで迎えに来い。着いたら、その車を使って今日の荷物を運ぶ。それから、暗文(暗号電文)で迎えの船は引き返させろ。」

半島の国・清津(チョンジン)に二つ在る港のうちの一つ清津東港に清津連絡所があり、この連絡所が工作船をすべて管理している。

清津連絡所には、千数百人が働いており、赤い北の国最大の秘密工作船基地である。
「連絡所には、後でお前からから迎えに指示して報告して置け。」
「判った。」

彼は細目の男に財布を丸ごと渡し、迎えが来たらその車で京子と二人、二日ばかりモーテルに隠れた後、名古屋の工作員アジトに向かう様に指示した。

細目の男は、「この娘、好きにして良いか?」と、まだ佐々木に聞いてきた。
「お前、そればっかりだな。構わないから、逃げられない様にシャブ打って、犯りまくれ。」
「良ぉし、それなら任せな。」

「それから、足が付くので使っている携帯電話は、十分後に川か海に放り込め。こっちもそうする。」
漸く了解を得ると、細目の男は嬉しそうに頷いた。

続いて和也は、もう一人の男に自分を縛る要に言うと、持っていた拳銃をハンカチで拭き、手渡すと「復帰計画案通りにやれ」と言った。

この時点で和也が自分を縛らせたのは、いつ警察の検問を受けても「被害者だ。」と言い訳が効く様にする為だ。
指示された男は縄を取り出して、和也を縛り始めた。

こんな時の打ち合わせは出来ている。
拉致被害者に化けるのを、落ち着いてやるだけだ。

和也は縛り上げられ、床に座り込んだ。
横で聞いていた岩崎は、隙を見て逃げる決意をした。
佐々木が「被害者に成りすます」と言う事は、取りも直さず岩崎の存在が邪魔になる。

佐々木には、恐らく岩崎を生きて返す気はない。
岩崎は、この時隙を見て逃走する決意を決めた。ギリギリの決断だった。

その後、県境近くのパーキングエリアで、迎えの車と落ち合った。
保冷車が着いた時には、もう迎えに来た見張りの男は、タバコを吹かして待っていた。

外は明るい、もう八時になる。
保冷車の死角を利用して、細目の男が迎えの男と積み荷の京子を運び出した。
細目の男は、京子を毛布に包んで後部座席に転がし、嬉しそうに車を乗り換えた。


パーキングエリアまで京子と細目の男を迎えに来た金沢の連絡員は、本隊の保冷車が出発したのを見届けると、車内の座席で細目の男と話し始めた。

「連絡所に、ヘリコに追跡されて危険なので計画が中止に成ったと連絡するように言われた。」
「判った打電して置く。所で、この下半身丸出しの女はどうするのだ。」

「二日ばかりモーテルに隠れた後、名古屋のアジトに運ぶ用に命じられている。」
「モーテルに二日ばかりか?羨ましい役目だな。」

「あぁ、シャブ打って犯りまくり、確り躾(しつけ)るように命じられている。」
「相変わらずきついな、まぁ、尻丸出しの女も何時もの事だ。そんな事だと思った。」

「こんな仕事、お楽しみでもなければやって居られないぜ。」
「そりゃそうだが・・・所で、最近やけに拉致家族の街頭運動が目立つな。」

「まったく、あの娘を拉致された被害夫婦、自分達の活動で北の将軍様をすっかり怒らせた事、まるで判っていない。」
「あの、何とかチャン拉致の家族会代表夫婦か?あの娘、将軍様の愛人説が無い訳じゃないが。」

「愛人説、将軍様を怒らせて、そんな生易しいものではないぜ。」
「何だよ、もっと酷い話か?」

「そうよ、あの娘を拉致された被害家族会の代表夫婦、すっかり北の将軍様を怒らせちゃって、今じゃ亭主や娘と別れさせられ鎖に繋がれて監禁され、家族会が騒ぐ度に、将軍様が直接犯すお仕置きをされている。騒げば騒ぐほど、代表夫婦の自分の娘が惨めな思いをする寸法だ。」

「すると、あの親夫婦が騒ぐ度に娘の方が将軍様にタップリお仕置きを犯られる訳か?」

「そ〜よ、現場を見た訳じゃないが、向こうから来た指導的同志が言っていた。将軍様が烈火のごとく怒って終身性奴隷の決定を下した。」

「うぅ〜ん、あの親夫婦は北の事情も関係なく日本式の街頭運動をしているからな。」

「拉致家族会が騒ぎ出した八年ほど前から将軍様の宮殿の地下に素っ裸で鎖に繋がれて、親が騒いで将軍様がお怒りなった時の報復に、お仕置き用として監禁されていると言う噂だ。」

「しかしよぅ、将軍様は肝臓病やら糖尿病を患っているという噂がある。アッチの方は大丈夫なのか?」

「そこだ、患っていると言うのはどうやら本当らしい。」
「本当なら、将軍様のアレが役にたたないのじゃないのか?」

「だから、余計に娘の方が可愛そうじゃないか。アレが役にたたなくてお仕置きをするとなると、道具を使って責め立てるしかあるまい。可愛そうだが、娘の精神はズタズタだろうよ。」

「親が騒ぐ都度に、娘がお仕置きの犯し責めか?そりゃキツイだろうな。しかし、娘と言ってもう四十歳を超える年だぞ。」

「そりゃ、今はそうだが、始まったのは三十を少し超えた年令だった。その時からずっとお仕置きの犯し責めは続いてる。彼女には亭主と娘もいるから、どんなに辱められても耐え忍ぶしか方法が無い。」

「娘が人質で代わりに罰を受けさせるのか?将軍様の常套手段だ。在りそうだな。」

「逆らえば、自分の代わりを娘がお仕置き用に犯し責めされるとなると、母親としては素直に耐え忍ぶしかないだろう。」

「あの家族会代表の親夫婦が世間知らずでこちらの国の事情を知らな過ぎるから、騒げば何とか成ると思い込んでいるのだろう。日本と違ってこちらの国は、将軍様が決めれば何でもそう決まる。」

「そうよ、平和ボケしているから、騒げば何とか成ると甘く思い込んでいる。将軍様が逆らう相手を赦す訳が無い。親が騒げば騒ぐほど、報復で娘は惨めに辱められると言う事だ。」

「すると将軍様は、最後まで殺さず帰えさずで、弄(なぶ)り続けるだろうな?」
「騒いで、何とかなると思っているのか?日本政府は知らぬふりだろうが?」

金沢の連絡員が、急にしみじみ「あの親夫婦、騒いだって九条の憲法が在る国だ。手も足も出ないのになぁ。」と言った。
連れて、細目の男も同意する。

「それよ、九条は罪作りの面もある。保安庁の警備艇も自衛隊の巡視艇も投光と拡声器だけで屁でもない。」
「ましてや、他国に派兵して奪還など出来る訳がない。」

「それがやれるのなら、俺達だって言い成りにならず抵抗したさ。何も出来ない国だから、保護も当てに出来ずに北の指令を断れない。」

「俺だって、在日赤い国人の赤い北の国送還事業で親兄弟を向こうに渡らせ、人質を何人も取られているから仕方なしだ。」

「何だ、お前もか?今の尾泉首相の親父、国会議員だったの尾泉準也が中心になって支援活動していた本国送還事業だろう。」

「あぁ、奴は在日・赤い北の国人の帰国協力会代表委員に就任していた。地上の楽園とか言われて騙され、九万人の余も送還されたが、粗方が弾圧・強制労動収容所送りにされて、酷い目に合った。俺が協力しなければ、俺の身内も酷い目に合う。」

「まったく、俺達スパイに仕立て上げられて、割の合わない人生だよ。」
連絡員の男が、ぼやきながらタバコ一本取り出して火を付けた。
「今更この組織を抜けられないし、嘆いても仕方が無い。」

「親父が協力会代表委員だとすれば、尾泉首相にも何か関係があるのか?」
「さぁな、下っ端の俺に判るものか。」
「まるっきり連絡チャンネルが無いとは思えないがなぁ〜。」

「俺達下っ端に関係が無いさ、それより、お楽しみの事でも考えるさ。何処か良いモーテルは無いか?」
「お前、本当に好きだなぁ!」
「やってられないんだよ。俺だって本音では不本意な生き方をして居る。」

「所で、日本人は理解してくれないだろうが、将軍様は日本の同朋を人質にして居る。」
「それなのだよ、日本人は将軍様が核開発をする事ばかり恐れている。」
「そうだ。呑気に貧乏人の核を考えていない。」

「化学兵器(毒ガス兵器)や生物兵器(細菌兵器)はゲリラ的に使われると、使った者が誰かも特定し難い。」
「将軍様が日本の同朋を見捨てる気になったら、無差別にゲリラ兵器は使える。」
「それよ、だから日本の同朋は逆らえない。」

「新幹線は、まったく無警戒に近いからな。」
連絡員の男が、半分ほどになったタバコを、溜息混じりにもみ消した。

「そうよ、生物兵器(細菌兵器)なら、乗せてから二〜三時間有れば国外行きの飛行機に搭乗できる。」
「新幹線自体がコントロール不能になったり、途中下車した保菌者が広域に広がる。」

「それなのだが、日本人は平和ボケしているから、そんな事は無いと決め付けて、あれだけ悪事をする事がハッキリしても日本の同朋が何で言う事を聞くのか理解していない。」

「将軍様が日本の同朋を見捨て、ゲリラでなく本格的に戦闘する気になったら、国の位置関係は最高に良いからな。」
「偏西風か・・・二次大戦で日本が試みた気球爆弾が使えるな。」

「七三一部隊の石井中将の研究は、そこに使われたが、太平洋を越えるので米国までは距離が遠すぎた。」
「風向きは最高で、今度のケースは距離が近いから間違いなく到達する。」

「大量に飛ばせば、海上処理は難しくて防ぎきれない。ちょうど、関東から以北の全域が圏内に入る。日本は壊滅する。」
「日本の危機管理では承知はしていても、話題には出来ない、」

「国民が動揺するから、触れないようにして居るだけだ。」
「日本の政府は、どうにも成らない事には蓋をするのが常套手段だからな。」
「九条(平和憲法)が有る以上、この可能性についての論議はタブーだ。」

「おかげで、悪行とは承知しながら、影で俺達が将軍様に加担する破目になる。」
「もう、長い事祖国の事実を見ているから、本当に思想で動いている同朋は少ない。」

「それよ、戦後の日本人は建前だけで答えを出せる能天気で甘ったれな人間ばかりが育って、俺達がなるべく小さな被害に留める努力をして居る事など思いも拠らないだろう」

「俺なんぞヤバイ事ばかりさせられている。役得でもないと自分は騙せない。」
「オッ、そこに手頃なモーテルがあるが、あれで良いか?」
「フロントを通ら無いで部屋には入れるなら、そこで良い。」

「心配するな。間違いなく直接ルームインタイプだ。」
「良し、ここにする。万が一にもここを洩らすなよ。」
「判っているさ。精々お楽しみ・・・。」

「お前は一緒に楽しんで行かないのか?」
「俺はこの後、新潟に入る本国の船・マンボ*ギョンの出迎えに立ち会う仕事がある。」

「それは残念だな。」
「まぁ、タップリと楽しめや。」
運転する連絡員の男がハンドルを切り、車はユックリと中に入って行く。



「追尾二車、追尾二車、永田君、今海保(海上保安庁)から連絡。理由は判らんが、当該不審船が引き返し始めた。」

「引き返し始めたぁ、何故だろう?追尾二車了解。」
「永田さん、京子達は大丈夫ですか?」

「大丈夫です。当該保冷車が走行中ですから、船が引き返したのを知らないのでしょう。このまま追尾しましょう。」

「向こうに着いても迎えの船がこないのですね。」
「恐らくは、別の便を仕立てるので時間に余裕が出来る筈です。」

追尾二車は、途中の道の駅で三分ほどトイレ休憩とガソリンの継ぎ足しをした。
流石に永田は用意が良く、予備のガソリンタンクを積んで来ていた。

ガソリン補給のタイムロスもほとんど無い。
迎えの船が引き返したのなら、こちらには有利だ。

少しの遅れは気に成らない事になる。
追尾二車の、唸りを上げた追跡は続いていた。


ヘリコの轟音に逆らいながら、川端警部と森田警部補も谷村本部長と永田警視の無線の遣り取りを聞いていた。
こちらはもう、眼下に金沢署のヘリポートが目視できる所にまで、飛来してきていた。

海上保安庁は国土交通省の外局で、警察庁とは組織が違うが、任務が海上警察機関であるから互いの連携はある。

国交省の幹部には谷村本部長の同期もいるから、予め警戒依頼を出していて、保安庁が哨戒機を夜間緊急出動させたのでキャッチが早かった。

余程の事が無い限り報道もされない為、一般大衆は知るよしも無いが、特に冬期の荒海、灰色の日本海は、冷たく緊張を続ける海域である。


二時間後、石川県能登半島西海岸の或る小さな港町の四十坪程の冷蔵倉庫を、永田や川端達が合流して取り囲んだ。

過疎化した漁村には不似合いな、外壁に某建材メーカーが開発した軽量発泡コンクリートパネルが使われている比較的新しい倉庫だった。

周りは畑ばかりで遮蔽物はないから、中からは三百六十度見渡せる。
当然中も囲まれたのを知っているだろう。

冷蔵庫の前には例の保冷車が止まっている。
該当車両車 練馬な**15 一菱の二トン保冷車は、ナカヤンにも目視出来る。

静まり返っているが、此処に間違いない。
一般人のナカヤンは、じれったいが安全な場所に下げられ遠くから見守るしかない。

この辺りの地名は、能登有料道路沿いに富来、志賀、羽咋、志雄、押水と続く。
町村合併でやっと市に昇格した街が並ぶ平和な土地柄で、風情は昔ながらの漁村の佇まいだった。

土地の漁協に所在地を確かめると、その建物は倒産を機に東京のレストランが買い取った後、何に使って居るかさえ地元では知らなかった。

石川県警を動員したので、警官隊はおよそ六十人居る。
県警本部からは、伊藤警視と言う警備部の機動隊長が応援に来ていた。
突入時期を伺っているのだが、中の様子が判らない。

一人が、電気メーターを見に行ったが動力用ターン盤の方は止まっている。
冷蔵庫は稼動していず、冷凍庫の中身は空(から)だと見当を付けた。
警官隊はじりじりと冷蔵倉庫に近付き始めたが、まだ突入には至れない。

そんな緊迫した空気を弾く様に、突然拳銃の発砲音が「ドォーン」として、男が一人飛び出してきた。

北の工作員の連中は、大概旧ソ連製(ロシア)軍用拳銃トカレフTT33を模倣して作られた、北朝鮮製58拳銃を携帯していたが、精度は本家のトカレフほど良くはない。

右手にその北朝鮮製58拳銃を握っていたので、その場に停止して手を上げるように指示したが男は止らない。
やむおうえず、永田警視が咄嗟の判断で発砲の許可を下ろした。

制服警官用の拳銃には、未だにニューナンブM60リボルバーが主力で行き渡っているが、永田は、シグ・ザウエル社が開発した私服警官用拳銃P230の32口径タイプ(幹部用)を携帯して居る。

警官隊は一斉に「ダァーン、ダァーン」と、数発発砲した。
飛び出した男は拳銃を握り締めたままバタリと倒れたが、痙攣(けいれん)しながらまだ動いている。
警官が駆け寄り怪我の程度をみたが、首を横に振った。

中からもう一人の男が両手を挙げて飛び出てきたが行く手を警官が取り囲み、身柄を拘束すると男は口から泡を吹いて倒れた。


香りはアーモンド臭、明らかに青酸系の毒物のそれである。
その間はほんの一分ほどの出来事で、テレビドラマとは違い、現実はナカヤンにあっけないものだった。

その後は中からの反撃の兆候はなく、永田警視は突入を決断する。
「川端さん、伊藤さん、行けますか?」二人は待ち兼ねていた様に、躊躇なく頷いた。

「突入。」
川端警部が、西川巡査部長以下十名ばかりを率いて倉庫内に入った。

続いて、伊藤警視達も十名程引き連れて内側に消える。
永田警視は現場指揮の立場上、最後に五人ほど連れて踏み込んだ。

中に突入し、隈なく内部を確認すると、小部屋に男が三人縛り上げられ、猿轡をされているのを発見した。
残りが「四、五人は居る」と憶測されていた拉致団は、も抜けの空で居なかった。

縛り上げられ、取り残された三人に聞くと、二時間ほど前にかなり慌てて「数人が何処かに行った。」と言う。
「しまった、外れた。」と、川端警部が天を仰ぐ。

縛り上げられ三人は、警官に縄を解かれると、それぞれ、小川、大石、佐々木と名乗った。
リュウちゃん(小川隆)、タンク(大石辰夫)、とBワン(佐々木和也)だが、京子の姿は無かった。

二人に京子の事を聞いたが、まったく見かけてはいない。
リュウちゃんは「長期間此処に囚われていた」と言う。

大石は此処に来て一週間ほどだが、拉致以来目隠しを外された事はなく、始終猿轡をされていたので耳にした声以外の事はまったく宛てになら無いらしい。

佐々木は別の所在不明の場所から、「今日連れてこられたばかりだ。」と言った。
ずっと目隠しで、「何も見て居ない」と主張している。
小川隆(リュウちゃん)は衰弱が激しく、明らかに入院加療が必要だった。

大石辰夫の方は比較的元気で、自分が拉致候補に狙われた訳を証言した。
彼ら赤い北の組織が大石辰夫を狙っていたのは、どうもヤクの取引で繋がりのあるアウトロー組織の依頼らしい。

指定暴力団東関連合北星会系の名前が浮かび上がったが、現行犯逮捕で無い以上、少し証拠を詰めないと、大石の証言だけでは逮捕に到る根拠が薄い。

彼らの狙いは、タンクのアダルトサイトに於ける膨大なアクセス数による利益だった。

暴対法の施行以来、資金源に窮していたアウトロー組織が、新たな資金源として大石辰夫(タンク)のアダルトサイトの乗っ取りを謀り、赤い北の組織と提携して拉致を実行した。

特殊な運営なので自分達では出来ないから、脅し上げて、利益を定期的に巻き上げる交渉をしたのだ。
処が大石が中々「ウン」と言わない。

監禁場所に困って、十日ほど前にこちらに身柄を移されていた。
佐々木和也は、左肩を負傷していたが、掠(かす)り傷だった。

銃創は、一見して後方から発射された物だが、傷は浅く、自作自演とも考えられる。
しかし佐々木和也は救出された時、顔は恐怖に引きつり、髪の毛さえ白く逆立っていた。
とても芝居とは思えず、見た目「被害者」と言う印象が強く有った。


実は佐々木和也は五分ほど前に恐ろしい超常現象体験をしていた。
その恐怖の体験が、皮肉にも救出時の佐々木和也の雰囲気に、有利な結果に働いたのだ。

彼は状況判断から、被害者を装い救出される筋書きで、縛り上げられて冷蔵倉庫内に入った。
細工は隆々で、和也の計画に穴は無かった。

幸い、小川隆や大石辰夫は佐々木和也の正体は知らない。
和也がBワンと知り、リュウちゃん(小川隆)は、とりあえずの互いの無事を喜んだ。

佐々木和也は京子の拉致を前提に、監禁調教室を用意させていた。
鏡好きの和也は、民子が岩崎に外させた玄関脇の鏡を、配下を通じて、こちらに移設させていた。
勿論京子を陵辱する時の楽しみの一つだった。

しかし和也にとっては残念な事に、警察の邪魔が入って予定が大きく狂い、京子の陵辱計画はあきらめた。
その為に到着して直ぐ、見張り役一人を残し、他の者は撤退させた。

一人くらいは仕方ないが、部下の損害も少ない方が良い。
保冷車だけ残し、運転役やその他の見張り役、迎えの男も冷蔵倉庫で使っていた車で何処かに散った。

案の定和也の予感が当たり、このアジトは二時間とかから無いで包囲された。
警官隊はジリジリと冷蔵倉庫に近付き始めたが、まだ突入には至れない。

日本の警察は慎重だから、突入するまでに決断が遅い。
包囲されてからも、結構時間が稼げるのだ。
和也の方もそれくらいは読んで、予め(あらかじめ)手は打った。

不自然で無い様に早い時点で縛り上げられ、身体に縄目を残す小細工までして自分は被害者を装い、救出されて社会復帰を果たすのみだ。

警官隊の包囲はジリジリと狭(せば)まって、突入の機を伺っている。
和也の予定通り、ここで救出されれば局面は変わる。
計算通りだった。

しかし、佐々木和也とその配下、そして岩崎誠一は、松永直子(ミレア)の亡霊に襲われる。
建前一味は撤退して犯人側の見張り役は一人だから、被害者の監禁場所がバラバラでは説明が付かない。

全員を京子に使うはずだった監禁調教室一ヵ所に集める事にした。
その部屋に一同が落ち着いて間もなく、目の前の鏡に異変が起こった。

何の前触れもなく、部屋に冷気が充満して、鏡に白い影が映り始め、佐々木和也と岩崎誠一は、首に違和感を感じ、次には激痛に襲われた。

この奇妙な出来事に、佐々木和也は全身の髪の毛が逆立つ恐怖を感じたが、それが何んなのかは呆気に取られてまだ気が付いてはいなかった。

恐ろしい事に、霧状の影が少しずつ焦点を結んで、女性と思われる白い顔が、鏡に浮かび上がって来る。

やがてその鏡にハッキリと白い女の上半身が映り、やがて、鏡から外へ手が伸び、白い女の頭が「平面から立体に変わった」かと思うと、「グイ、グイ」と上半身が抜け出てくる。

有り得ない光景に、一同、恐怖の余り身がすくんで、この恐怖体験に成す術がない。

瞬く間に鏡から抜け出した白い女が、佐々木和也に迫って行く。
全員金縛り状態だが、見張り役の工作員だけは人質威嚇の為に拳銃を握っていた。

小声で和也に囁く女の声が聞こえる。
「ヨクモ、ダマシタワネ。」

「ドォーン」と、拳銃の発射音がした。
続いて、「ガシャーン」と鏡の割れる音が響く。
弾丸が和也の左肩を掠めて、鏡に当ったのだ。

流石に、和也も衝撃で倒れた。
見ると、見張り役が夢中で発泡していた。
次の瞬間、岩崎が一瞬の隙を見て見張りに躍り掛かり、拳銃を奪って外に飛び出した。

そして、外で警官隊の銃弾を浴びる。

岩崎は、和也がいざと言う時は射殺する積りで、「一味側である」と辻褄を合わせる為に、縄を解いて拳銃で威嚇されていたのだ。

見張り役はミレアの亡霊に驚愕して恐怖のあまり外に飛び出して、警官に取り囲まれて我に還り、服毒自殺を遂げた。

とにかく二人救出した格好だが、永田もナカヤンも釈然としない。
肝心の京子は、何処に居る。
あの保冷車には、乗って居なかったのか?

先ほど最初に外で撃たれた男は、岩崎誠一と確認された。
岩崎には、覚せい剤使用の兆候があった。
実は、東京からの保冷車で、京子同様シャブを打たれていたのだ。

救急車で搬送したが、救急車の使用も躊躇うほど虫の息だった。

持っていたリボルバー拳銃には玉が一発残っていたが、何故か、岩崎の持っていた拳銃は、撃鉄を二度起こさないと打ち出せない位置に弾が在った。

それが謎だった。

冷静に考えると、射殺する前に投降を呼び掛けるべきだが、いざ包囲現場でそう言う事態に直面すると、この結果は止むおう得ないだろう。

ナカヤンは、京子不明の報に落胆した。
これは参った。
何もかもの糸が切れて、手繰り寄せられない状況だと把握した。

せっかくリュウちゃんを奪回したのに、京子が不明では割が合わない。
居場所を吐かせる相手もいない。捜索の目は、消えていた。


京子は、細目の男とモーテルにいた。
何本目かの注射を打たれ、体が慣れて来たのか少し意識が有る。
この注射を打たれると気持ちが良くなり、感じ易くなる。

男は「シャブ」と呼んでいた。
打たれると体が軽くなり、京子の股間の女が熱く息付いてくる。

先ほどから男に犯され続けられているが、京子の意思に反して、体が喜び迎え入れる。
シャブ(麻薬)が効いていて、京子にはもう自分がコントロール出来ない。

肉体が勝手にアドレナリン(興奮ホルモン)を噴出している。
激しく前後する男の欲棒にも、腰が快感を求めて深く浅く呼応してしまう。

朦朧(もうろう)としながら、なぜかこの虫唾が走る冷酷な男の行為を求めてしまう。
「あぁ、気持ちとは裏腹に感じてしまう。此れが薬なの?」

部屋には大きな鏡が設えてある。
細目の男は京子を犯しながら、その姿を鏡に映して楽しんでいる。
鏡の楽しみ方は、佐々木和也と組んで荒い仕事をしていたから覚えた。

今の京子は、「シャブ」が効いているから貪る様に求めてきて、男も嬉々としてそれを楽しむ。
「シャブ」の為か、今は拘束されていないが、逃げる気も起きず、京子の性欲は一向に収まらない。

意識とは違う身体の奥から湧き上がる欲求がある。
今は愛撫が欲しい、男の欲棒が欲しい。
押さえきれない欲情のはけ口に、京子の体が男を求めている。

その二人をよそに、鏡に尋常ではない変化が現れる。鏡に白い影が映り、やがて女の上半身が浮かび上がり、その女が、二人の獣の様な行為をじっと見つめていた。

ミレアだった。
ミレアの思念は恨みによって成長し、鏡さえあれば何処にでも行ける様に成長していた。

しかし二人は行為に夢中で、その異変に気付いて居なかった。
細目の男は、「どうだ、良いだろう、ほれどうだ」と言いながら、京子を犯し続けていた。


警視庁公安合同本部、石川県警の必死の努力も空しく、京子の安否は掴めない。
ナカヤンも、事の成行きが心配で、暫く金沢に留まる決心をした。
警察は、冷蔵倉庫からの手がかりを元に、組織の関係者を洗い出す作業をしている。

既に二人ほど上げたが、組織の方も元々接点を断ち切る方策を取っていて、中々、横に広がらない。
結局岩崎は、遅れて連れて来られた民子と由美には無言の対面をした。

民子は岩崎誠一の遺体を前に呆然としていた。
今去来するのは、誠一を自分の我が侭に巻き込んだ後悔の念である。

あんなばかな事思い付かず、大人しくしてればこんな悲劇は起きない。
「何で、こんな事に・・・」悔やんでも、悔やみ切れない。

自分の小さな悲劇を受け入れていれば、大きな悲劇は起きなかった筈だ。
誠一にも由美にも「済まない」と思った。
それにしても、何故誠一が此処までの事に到ったのか?

状況から岩崎主犯の心象が高く、由美と二人とも変わり果てた岩崎の姿に号泣したが、経緯が経緯だけに何とも針のむしろで居た堪(たま)れなかった。

由美は、今は結婚して中村性を名乗っている。
男の子が一人いるがまだ二歳になる前で、今回は嫁ぎ先の母親に預けて来た。

岩崎については、現状では容疑者と判断されるが、それにしては不思議で、両手首に縄で「拘束された」と見られる痕跡、顔面殴打の痕跡等、不可解な点があり、現状主犯と断定するには至っていない。

服毒自殺した男は身元が判らず、密航して来た北の工作員と推定された。

民子にとって、失ったものは余りにも大きい、誠一の存在は勿論、自ら二十七年間積み上げて来た思考への信頼も失っていた。
立ち直るには戦後の日本の様に、劇的な認識の変更が必要だった。

Bワンこと佐々木和也は、結局拉致被害者と認められ、簡単な事情聴取の後、今後の協力要請を了解して、金沢警察署を開放された。

翌日(十一月十九日)の夕方には、民子共々東京への帰宅を希望し、逃亡の恐れがないと認められた民子の拘留の保釈金を払い、民子をマンションに連れて帰った。

ナカヤンは、監禁場所に京子の姿が無い事に失望した。
「捜査が、振り出し戻るのか?」
先行きが懸念されるが、一般人のナカヤンは捜査の成行きを見守るしかない。

これには永田警視を筆頭に、捜査陣も困惑した。ナカヤンには伝え難いが一切の手掛かりが、「プッツリ」と切れていた。

服毒自殺した工作員の「身元を洗っている」と、ナカヤンに気休めを伝えたが、過去に成功した事例は無い。
とは言え、石井京子の捜索は、現在全力で行われている。


マンションに帰った民子は、暫く所在無さ気な気持ちで、日々を送っていたが、暇潰しに自分のHPを再会する事にした。

今回の一件で、もう和也に隠す必要がなくなっていたので、PCを持ち込んで「ユキチャン」を再開したのだ。
親友の中村由美とも交信を再開して、少しは気も紛れていたが、或る日、由美から妙な相談を受けた。

それで、嫁ぎ先近くの十条のレストランに出向き、相談を聞く事にした。

中村(旧岩崎)由美の嫁いだ中村家は、戦前からその土地で指折りの資産家の家柄を誇り、古風で厳格な家庭だったが、一つだけ違和感があったのは、一家で有る宗教に入信していた事だ。

その教祖は、由美に言わせれば相当に胡散臭(うさんくさ)い男だったが、義理の両親も夫も妄信している。
最近「お前も。」と入信を強要されたが、断ると家族の態度が一変する。

冷たくされて、日々の家族としての会話もろくに出来ない。
もう精神的に追い詰められて、由美の気分は全面降伏である。

形だけでも入信して機嫌を取ろうとすると、この期に及んで「それでは教祖の許しが得られない」と言う。

「ならば、どうすれば?」と問うと、「ご神託によると、お前には悪い霊が付いている。それを掃(はらわ)無ければならない。」と言われた。

家族は義兄誠一の事件も承知しているから、「お前が浄化されないと一家が破滅する。」と由美は責められた。

一才の幼い長男もいるので、何とか家族と上手くやりたいのだが、出された条件が、その教祖の下で一ヵ月間修行をして「心身を浄化して来い。」と言う。

なんでも大金を納めると、悪霊を追い出す特別の修行が受けられるそうだ。
義理の両親は、「もう金を納めた。」と言っている。
「どうした物だろうか?」と、民子に言って来た。

一ヵ月預けて若い人妻に修行をさせるなど、明らかに内容が怪しい。
魂胆が想像出来るので、由美の本心を確認した。
民子には、修行の内容に凡その察しが付く。

此れは、現状を守る為に自分を捨てるか、自分を守る為に現状を捨てるかの究極の選択で、それを見誤ると自分と同じ失敗をする。

岩崎由美が中村由美として生きて行くには、中村家の信仰に従うしか道は無い。
そして、それを選択するのは、中村(岩崎)由美本人を置いて他に無い。
判り切った事だった。

誠一を巻き込んだ件は民子に責任がある。
民子としては、反省の上に立って結論を出す。

九条民子は和也との乱れたセレブ生活で、他言出来ない輪姦陵辱遊びの世界に身を置いてヒロインをしていた経緯を告白、それに逆らった為に誠一と言う架け替えの無い人を失った。

覚めた思考で考えれば、事情に拠っては、貞操に拘るのは論外の感情なのだ。
ものは考え様で、どんな生き方を選択するかは起こりうる結果を予測して決めるべきである。

今は佐々木和也の下に戻されたので、過去に学ぶ教訓から今度は運命に逆らわず、和也の陵辱願望には「和やかに応じるつもりだ。」と話した。

何かを求めれば、何かを失うのが世の常で、戦う事を止めれば戦わなくて済む代わりに、その分言いたい事も言えなくなる。

それでも和やかに生きて行きたければ、相手の要求は受け入れなければならない。

民子の判断では、自分を含めた両家の家族、親友を含む周りの人達と平穏な生活を築くには、「自らの抵抗心を放棄する事だ」と決めた。

「私も、和也の所に戻って来たから、また私を汚すパーティが始まるわ。でも今度はとことん付き合う積り。」
「ヘー民子は、もうその覚悟が出来ているのだ。」

「覚悟?うーん本当にすごいの、おひろめの時なんか私一人に十五人くらいで、もう口で言えない様な事を何でも犯やられ放題、やらされ放題。」

「へぇ〜、民子がそんな凄い経験をしたの。口で言えない様な事って、どんな事なの?」
由美はまだ信じられない様子で、聞き返した。
世間には、どの人間にとっても、自分の知らない「別の環境世界」が存在する。

民子が引き込まれたセレブ社会の仲間内の常識は、その世界だけで通用するもので、由美が求められた宗教内の常識は、それはそれで間違いなく存在する。その事に理解と覚悟が必要だった。

本来なら、民子の陵辱体験は親友同士で話す内容のものではない。
しかし、由美には切羽詰った選択をしなければならない局面がある。

世間話で無い以上、親友として「こう言う事があっても、その気になれば受け入れられるものだ」と、由美に曝け出さねばならない。

そこに、民子なりの心意気があった。

それで民子は、口にしたく無い自分の恥ずかしい経験を親友に詳しく言わざるを得なくなった。
由美には覚悟が室必要なのだ。
民子の恥ずかしい経験を言い聞かせても、由美には守らなければならない赤子が存在する。


セレブ連中の「新参者生け贄遊び」は、民子の物差しの域を越えていた。

しかし、この何事にも贅沢なセレブグループの感覚では、遊びに掛ける金も時間も贅沢を極め、それでも退屈だから、こうした過激な遊びに、自然に行き着いていた。

考えて見れば、元々不遜な連中が始めた事で、小中学校で起こる「いじめ」の大人版のようなものである。
彼らには、「生け贄」を作り、拠って集って性的に辱める事で、気晴らしをする思惑である。

性質(たち)が悪いのは、グループがそれなりに大人の集まりだから、予め「生け贄」に従順を同意をさせた上で、「これでもか」と言う過激な事をさせる。

初めて「生け贄」として陵辱の場に身を置いた時、民子はセレブ連中の非道を呪った。

所が、問答無用で弄ばれた民子の肉体は、勝手に脳内でアドレナリン(興奮ホルモン)を噴出して、被虐の快感に反応した。

「民子の思い」とは関わりの無い所で、酷く気持ちが良いのだ。

そして、「ハッスル、ハッスル」の掛け声に、夢中で受け腰を使って応じていた。
その内民子は、気持ちが納得しなくても、肉体は、気持ちに何の意味も無く快感を貪(むさぼ)れる事を知った。

元々男女の仲は、赤の他人から始まっている。
一歩間違えば別人とSEXしていても不思議は無い。
それらの経験から、由美も「思い」とは別に、「応じてしまえば、それはそれ」に成るはずだった。

「最高に凄いのは、三穴同時攻め。口と前と後ろの三箇所に同時に入ってくるの。気が狂うくらい感じてしまうゎ。」

「本当なの。パーティの噂は凄いと聞いては居たけど、そんなすごい事を民子が本当にやるなんて、聞いても信じられないゎ。」

由美は神妙に聞いていたが、世間の裏に潜む現実を知って、溜め息を付いた。

「でも、私はそのすごい事を和也に命令されてしていたの、始まれば一切逆らえないし、何かさせられたら、それを皆の前で一生懸命やって見せないといけないの。」

「民子はえらいわね、それをずっとやっていたのね。金持ちと一緒になるのも、楽とばかりは言えないワ。」
由美は、自分の置かれた立場もあり、変に民子に感心した。

民子は、頭の中で考える物差しが変われば、何でもないと思っている。
価値観や倫理観など「所詮人の思い」であり、それを変える融通性を持ち合わせてないと、人生つまらない物になる。

「だから何かを守る為にその気になれば、あなたにもその修行が出来ない事は無いと思う。」
民子はそれを参考に、「何としても現状を守りたいなら、覚悟の上で家族の言う事を聞け。」と諭した。

「判った、私もどんな事をしても今の生活と子供を守りたい。」

「そうね、覚悟を決めれば出来るゎ。」運命とは不思議な物で、揃って大学を卒業した親友同士がこんな他聞をはばかる会話をするとは誰の思し召しなのか・・?

民子の助言を受け、由美は身の上に起こる事を承知で、一ヵ月間の浄化修行に入る決心をした。

返事を聞いた家族は舞い上がって喜び、「此れで我が家は安泰」と、由美に子供の面倒は心配ないから「教祖様の言い成りに、しっかり修行をする様に」と念を押した。

後で知ったが、修行の内容は両親も亭主も百も承知の上で、由美の身に相当の忍従を強いるが、由美がその修行を勤めれば、それで「家族が良くなると」本気で思って、教祖を信じ切っていた。

こうした嫁ぎ先での宗教絡みの選択は、平穏な日常において、或る日突然、幾多の女性に突き付けられる現実でもある。
たまたま好きに成り、嫁いだ先が「妙な信仰をしていた」何ぞは、良く有る話ではある。

しかし、由美の場合は適当に合わせて置く」と言うレベルではなさそうである。
九条民子は、岩崎由美の大人しい日頃の生き方に、自分の時と似た様な荒波が襲いつつあるのを感じていた


中村由美は両親と亭主に連れられて教団の修行場へ行き、身包(みぐる)み剥(は)がされた素っ裸で教団に預けられた。

由美が教団に預けられると、「新人の荒行が始まる」と教団の本部に働く職員が集まって来た。

まず荒行の口火を切って、由美を試し攻めするのは教祖の特権である。

「どれ、ギャラリーの皆も由美がどんな声で鳴くか愉しみじゃろう、一攻めして見せるか。」

教祖が一言言って、人差し指と中指を咥えて唾液に濡らしながら周囲を見渡し、視線を集めると由美に「脚を開いて仰向けに寝ろ」と命じた。

まるでポルノ映画の一場面の様だが、由美には選択肢など無いから命じられた通りに脚を開いて仰向けに寝る。

由美が仰向けM字開脚で横たわり、その脚の間に教祖が割り込んで覗き込むようにしゃがむと、由美の二枚の肉花弁のスリットの内側の濡れ具合を人差し指で確かめる。

「これなら大丈夫だ。良くしたもので確り潤(うるお)っている。」

仰向けM字様に開いた素っ裸の由美の股間に、教祖の手の平上向きに人差し指と中指の二本がユックリと挿し込まれて行く。

由美が、どんな顔をして、どんな声を出して指攻めに反応するのかを期待する取り囲む職員男女の、露骨(ろこつ)に好奇心に満ちた視線を感じる。

指二本が挿し込まれ、その手が小刻みに前後して指が抜き挿しされると、女体を知り尽くした教祖の攻めに由美が口をパクつかせながら善がり声を張り上げる。

衆人環視の弄(なぶ)り者で、究極の恥じらいは感じるが立場を認識すれば晒(さら)し者に身を委(ゆだ)ねるしか無い。

そして生身の人間だから、最も敏感な内壁を指で此処(ここ)ぞと攻め立てられれば、例え面白がられても肉体(からだ)が他人目(ひとめ)を気にして気取ってはいられない。

肉体(からだ)の中で暴れまわる指にクィクィと内壁を攻められ、その指に伝わりながら愛液が垂れ落ちて生々しい。

由美は内太腿(うちふともも)を小刻みに揺(ゆ)すりながら、腕さら持ち上げるほど腰を浮かして「アゥ。アゥ。」と耐(た)え切れない体(てい)で見事に善がり狂っている。



教祖が教団出入りの宮大工に命じて、スケベ椅子に皮を張って木製の脚立梯子状の台で支えた手作りの三角木馬バイブ台が作らせて修行場に置いてある。

まぁ、昔の処刑責めで言う跨(また)ぎ三角木馬責め台の現代版で、両脇に足枷を装着させて足が台に付かず宙に浮くようになっているプレイ木馬である。

この教団の調教場に持ち出されたプレイ木馬は、ピンク色シリコン製の大人の玩具(おもちゃ)を装着した固定バイブ責めの公開処刑用の三角木馬バイブ台なのだ。

その三角木馬バイブ台に修行と称して中村由美を跨(また)がせて乗せ、下から伸縮式の装置で位置を固定しながらシリコンバイブをその股間に挿し込む仕組みだ。

跨(また)がせれば足が宙に浮くので、踏ん張って股間や尻穴の位置などずらそうと思っても困難にしてあり、三角木馬バイブ台だからスケベ椅子の下側から張り型バイブの固定が可能に成って居いる。

それも前後二本まで施設が可能に加工されていて、つまり同時二穴責めも在りの三角木馬バイブ台だった。

その三角木馬バイブ台に跨がせた由美の股間に、修行指導員が下からシリコンバイブを上げながらグィと挿し込み、由美が「ウッ」と小さい声を漏らして抽入が完成、修行指導員が稼動スイッチを入れる。

責められる女信者・由美を、全裸後ろ手縛りに三角木馬バイブ台へ跨(また)がせてバイブを下側から抽入し、装着して固定してやると、もう女信者の腰はバイブが嵌(はま)ったままビクとも逃れられられない。

この装置のシリコンバイブの稼動上下幅は三センチ程だが、スイッチを切るまで動き続けて抜き挿しし由美の内壁を容赦無く擦(こす)って責め続ける。

後は由美の股間を貫いたシリコンバイブが、歯車仕掛けの自動で抜き挿ししながら卑猥に責める情景や表情を周囲が愉しんで鑑賞するだけである、

スイッチを入れられれば女信者・由美は攻め手が張り型バイブを抜いて足枷を解くまで、堪らず上半身を揺すり随喜(ずいき)の善がり声を挙げてのたうち悶える。

生贄(いけにえ)の女信者・由美は、大勢のギャラリーを前にバイブにイカせ続けられる醜態を晒(さ)らすのだ。

由美は毎日、それも婚家の夫と両親も見守る場で、教祖のお相手とこの三角木馬責めを十日も続けさせられた。


十一日目からは拘束輪姦で、素っ裸の女信者・由美を設(しつら)えてある舞台に曳き出し、縄で手首を後ろ手に縛(しば)いてその縄を、首を一回りさせて縛(しば)いた手首を上にガッチリ絞(しぼ)る。

もう一本縄を取り出して縛(しば)いた手首に結び、絞(しぼ)りながら肉体(からだ)に巻いて乳房の周囲を絞(しぼ)った亀甲で縛(しば)き、やや脚を開かせて踏ん張らせる。

天井から垂れ下がった縄で後ろ手に縛(しば)いた腕の結び目を結わえ、上半身を前に倒させて腰を後ろに突き出した前屈(まえかが)みの形にさせ、縄丈(なわたけ)を調節し脚が床に届く様に半吊りに吊る。

教団修行部の幹部は、手馴れているから僅(わず)か二〜三分で女信者・由美をこの格好に仕上げてしまう。

全裸拘束は儀式みたいなもので、性的要求に百パーセント服従を精神的に体現するのがこのSMの格好である。

この形の半吊り縛(しば)きなら床に脚が着いているので、一人が前に立っておシャブリをさせながらもう一人が後ろから抽入しての三人プレィも可能である。

出来上がったこばから、特別信者が半吊るしの女信者・由美に群がって来た。



「うぅ〜ん。被疑者の携帯でも有れば、その線から追えるのだが・・・」
永田警視は金沢署の三階でうなっていた。
逮捕者を東京に移送しなければならないが、まだ、京子の失踪が解決していない。

奇妙な事に、逮捕者及び監禁の現場からは携帯電話が一個も発見出来なかった。
気ばかりあせるが、次の手が見つからないのだ。

佐々木和也の悪知恵で、寸での所をすり抜けられた事は知らないから、手の打ち様が無い。
ナカヤンには言えないが、京子の安否確認は暗礁に乗り上げた格好だった。


(縺れた糸・陵辱)
======「現代インターネット風俗奇談」======
小説・電脳妖姫伝記
◆ 和やかな陵辱 ◆第八話(縺れた糸・陵辱)


大供みどりの相談を受けて、代議士・佐々木昭平が私設秘書の岸掘孝太を使った所、昭平が驚く様な情報がもたらされた。

息子の佐々木和也と、自分も裏で繋がりの有る某アウトロー組織がアダルトサイト運営者「大石辰夫の失踪に関わっている」と言うのだ。

大石辰夫の趣味兼サイドビジネスの常識を翻す莫大な利益に目を付けたアウトロー組織は、その利益をピンハネする事を狙って拉致監禁したらしい。

まったく余分な事をしてくれたものだが、それが奴等のビジネスだから仕方が無い。

そのアウトロー組織が、麻薬絡みで北の赤い国の工作員と繋がり、和也に突き当たって、「これは利用出来る。」と岸掘孝太がほくそ笑んだのである。

まさかの事だが、内密で息子に任せてある裏の顔は、北の赤い国との繋がりで、これは表に出ると昭平の政治生命は断たれてしまう。

結局の所、昭平も子飼いの岸掘孝太に余分な弱みを握られた事になる。
それでなくても、岸掘孝太には代議士佐々木昭平のどちらかと言うと水面下の仕事をさせて来ている。

古いタイプの政治家だから、国に尽くすスタンスは「清濁併せ呑む」で、世間が言う今風の正義感だけで、「事が上手く行く」とばかりは限らない。

幼い頃の悲惨な戦争体験から、平和維持の為には、小の虫の犠牲は払っても「日本全体の平和を維持しているのは自分だ」と自負して来た。

流石に北の赤い国との事は秘書に任せず息子の和也にやらせていたが、大供みどりの私生活の一件から線が繋がってしまった。

それだけなら良いが、岸掘孝太も人間で、目の前に金に成りそうな事がぶら下がった。
それも決定的に強力なネタだから、これが万に一つの浮かび上がるチャンスと判断をした。

この裏切りに、佐々木昭平は、即断で信頼出来る和也のラインを使う事にした。
そうなると、欲を描いた時点で岸掘孝太は死んだ様なものだった。

佐々木家の北の赤い国との繋がりも、表面だけ見れば母国を裏切っている様に見えるが、昭平に言わせれば外交政治なんてそんな単純な事で黒白を付けるものではない。

左派系野党だってこの戦後六十年間、共産国家と独自のパイプを持っていた。

多少の犠牲は伴うが、たとえ非公式とは言え、近隣の危険な国に対して政治家が誰もチャンネルを持たない事ほど、国家国民に対して「無責任だ」と言う彼なりの言い分はある。

良く、利用する積りが返ってアウトロー組織に取り込まれる警官も居る。

当初は捜査の一環として戦略的に近付いた事が、結果的に取り込まれる事になる。
まぁ、国際スパイ映画の二重スパイ的発想と解釈すれば良いだろう。

到底支持はされないだろうが、非正義と言う泥を被っても、水面下でのチャンネルを確保する事にはそれなりの意義がある。
影で国益と大多数の国民の安全に担保するのも、政治家としての太極的見地からは必要である。

この件に類似する様な政治的配慮を、単純な正義感と建前の浅知恵でマスコミが叩いたのが北海道選出のロシアに太いパイプがあった某国会議員と言えない事は無い。

勿論世の常で、こうした本音部分になると正義ぶった建前にはかなわない。
ちょうど性(SEX)に関する本音が、絶えず建前の影に追いやられて、本質的な論議に到らない様なものである。

しかし、佐々木昭平はそうしたダーテーな部分を、「半島引き上げ孤児」と言う行き掛かりを引きずりながら、戦後の六十年間を生きて来た。

生き残る為の営みの延長が、こう言う結果に繋がっている。
発覚すれば投獄され、断罪される。

このリスクを断ち切るには、自らが死ぬ事しかない。
しかし国交が回復し、正式な外交パイプが引かれるまでは、誰かが泥を被らざるを得ない。

国交もなく、こちらの国が平和憲法下の現在、ダーテーな繋がりとは言え、断ち切る事も、「日本の安全の為にはならない」と言う苦悩があった。

ここ三十年は、相手の信頼を得る為に結果的に犯罪にもかかわる結果になっている。
損で危険な役回りだし、誰にも理解され難い事でも、政治信条として投げ出せなかった。

彼に言わせれば、冷戦時代の枠組が外れ、ようやく可能性と言う薄明かりが漏れこぼれ始めたばかりだった。
今、誰にも邪魔はされたくない。昭平は和也を呼び、現状維持に必要な措置を命じた。

「済まんが、片を着けないとお前も俺も危なくなる。」
「岸堀が知り過ぎましたか、奴自身の事でもあるのでスガワラを使います。」
「大事な時期だ。慎重に、な!」
「はい。」


岸掘孝太が、佐々木代議士の依頼で大石辰夫の失踪事件を当って見ると、思いがけない収穫にぶち当たった。
これは遊んでいても、一生困らない金ずるになる。

もう、佐々木家にへつらってこき使われなくても済みそうだ。
そう考えてほくそ笑んで居た所、奇妙な尾行が付き始めた。

確かめると、どうも警察らしい。
二日ばかりすると、その尾行も影を潜めた。

岸掘孝太が気を許しかけた頃にマンション自宅前で任意同行を求められ、応じた相手が実は和也の示唆で動いた組織のヒットマン達だった。

「様子がおかしい」と気が付いた時には、三人の男に囲まれ、銃口が胸元を狙っていた。

ろくに抵抗も出来ず、山梨県河口湖町辺りのある廃業したモーテルの廃墟に連れ込まれ、岸掘孝太はこの件で何処まで知っているのか拷問まがいの尋問を受けている。

手馴れた仕事振りから、闇でうごめくプロと察せられた。

聞き出した岸掘の話しの裏付けを兼ね、一日監禁放置している間に、彼らは岸堀の自宅に押し入り、家捜しもして証拠を隠す作業もしている。

実は監禁放置している時で、他に目撃者も居ないので誰も知らないが、この岸堀射殺の時もミレアの亡霊は現れている。

監禁された廃屋の部屋にも鏡が据えられていた。
そのほこりに塗れた鏡に、ミレアは悲しそうな顔をして訪れた。

残留思念の化身とは言え、ミレアも姿を現すにはそれなりの苦痛を伴うのだけれど、生来優しい心の持ち主だから何とか励ましたかったのだ。

しかし岸掘孝太の方は、シャブを射たれ、尋問で散々にいたぶられた後で意識が朦朧としていて、幻覚としか認識していない。

間の悪い事に、別の場所で京子達の拉致監禁が起こっていた。
ミレアもそちらに注力をせざるを得ない。

そうこうしている間に、岸掘孝太は連れ出され射殺されてしまった。
それで、京子達の救出が「ミレアの残留思念の願い」となって行った。


十一月二十日十五時頃、金沢署の森田愛警部補から、聞き込み中の永田警視に電話が入った。
「ナカヤンと変わって欲しい」と言う。

静(しずか)、いや、森田警部補の声が、電話口で弾んだ。
「恐がらないで聞いてください。今ミレアからメッセージが来ました。」

話を聞くと、京子の行方が不明なので、森田がパソコンを借りて、海上保安庁に能登半島海岸線の警戒依頼の詳細を送ろうと作業をしていた。

いざ使い始めようと前に座り込むと、オンスイッチを操作しない内に突然パソコンのディエスプレィ画面が急に真っ白になり、「どうしたのだろう?」と、森田が独り言を言っている間に、異変が起きた。

無気味な事に、目の前のキーボードのキーが勝手に沈み、シャカシャカとミレアのメッセージが、打ち込まれた。

「何なのこれ?」
ゾッとする様な気配に包まれたが、森田愛は声を上げる事も、身動きする事も出来ない。
以前囮を仕掛けた時に聞いた、ナカヤンの体感に似ている。

見えない霊気が、愛を包んでいるのだ
石川県警本部の雑多な騒音が一瞬聞こえなくなるほどの衝撃を、森田は感じていた。

流石の森田も目を疑ったが、以前に鏡に映るミレアを見ている。
半信半疑ながら、内容に注目して目が釘付けになった。
ディエスプレー画面は石井京子の監禁場所を、名前はおろか部屋番号まで告げている。

今度は私に「ミレアが逢いに来た」と森田愛は、ゾクゾクッと寒気を感じた。
「間違いない。ミレアが教えてくれている・・・」

森田は直ぐにプリントアウトすると、手近に居る警部の階級章を付けた県警職員に聞いた。
「あのー、このモーテル実在しますか。」
「あぁ此れね、聞き覚えがありますよ。直ぐに詳細を調べましょう。」

暫くすると、先ほどの警部が結果を持って来た。
森田がメッセージの内容を石川県警本部に照会した結果、表示されたモーテルは現実に存在した。
一目見て森田は核心を持った。

「間違いなさそうです。此処に、行きたいのですが?」
「お出かけなら、車を出します。」
「東京から同行した捜査班への連絡もお願いします。」

直接そこに問い合わせると、平日朝で空室の多い中その部屋は昨日から確かに在室中の回答があった。
京子の顔の特徴を照会したが、従業員も顔は男の方しか見ていない。

モーテル従業員の言に拠ると、入室の際に防犯カメラで女性が上半身を縛られ、下半身丸出しで廊下を歩いているのは見ていたが、口は塞がれては居ない。

たまにそう言う趣味の客も居るので、女性合意の上と解釈して居た。

そこに金沢署から問い合わせが入り、モーテルはその変態カップルが「ややっこしい客だ」と知った。
今は何よりも、女の凄い「あの時の声」が休み無しに響き渡っている。

それも、丸一日以上続いていて、「何とも激しい客だ。」と、モーテルの従業員の間で、「評判になっていた。」と言う。

そうした一連の出来事の末、森田は確信して永田警視とナカヤンに連絡したのだ。
そこまで話をして、電話口でナカヤンの声の感じが変わったのに気が付いた。

電話口のナカヤンの声は、明らかに不機嫌な音色である。
京子の悲惨な状況を恋人のナカヤンに告げるには、少し配慮が足りなかった様だ。
「京子さんの意志じゃないですよ、恐らく薬を使われている」と、森田警部補は言った。

森田が救出に向かうので、「ナカヤンも永田に同行して、現地で合流してはどうか」と言うのが趣旨だった。
永田警視も、半信半疑だがそのモーテルに急行する事にした。

ナカヤン達がモーテルに着くと、森田達が先に来ていて部屋を取り囲んでいた。
確かに女の激しい声が聞こえる。
「どうですか?」

聞いた事のない激しさだが、間違いなく京子のあの声だった。
ナカヤンは頷いて、「間違いない。」と、問われた返事をした。

ナカヤンの腸(はらわた)は、煮えくり返っていた。
京子のあの声を聞かされて、理屈では判っていても冷静で居られる訳がない。

こんな場所で、拉致犯人相手にあんな凄い善がり声を上げている京子の声など、聞きたくもない。
拳銃を持っていれば、相手を撃ち殺したい気分だ。

そんなナカヤンの気持ちをよそに、京子の善がり声は、廊下処かモーテル中に響き渡っている。
京子をこの状態で長くは放って置けない。

いきなり相当量の薬物を京子に使った可能性もある。
長期化すれば、京子の身体が薬物に犯されて危険がます。

どのみち、京子の安全に配慮しつつ二人を逮捕救出しなければならない。
その積りで、捜査員が合鍵をフロントから借りて来てある。

警官が一人、なるべく音のしない様にソッと鍵を廻した。
「カタン」と、何か落ちる音がした。

容疑者は流石に訓練されていて、用意周到にドアの内ノブの上に動かしたら落ちる物を乗せていた。

「しまった。」と、思う間もなく、ノブを廻し終わらない内に、「ドォーン」と中から発砲音がして、弾が一発、ドアを貫通して向かえ側の壁にめり込んだ。

警官隊は一斉に遮蔽物に身を隠す。
相手は、部屋の外の様子に気が付いていた。
「来るな、女が死んでも良いのか?」

中から怒鳴り声がした。
「取引だ、見逃せば女は解放してやる。」

京子を盾にした身勝手な男の要求が聞こえる。
ナカヤンは、一瞬「厄介な事になった」と、皆思った。

処が、その途端に、中から「やめろ、ギャーッ」と言う男の声と、「ドォーン」言う発砲音、ガシャーンと言うガラスの割れる音が殆ど同時に聞こえて来た。

少しは離れて音だけ聞いているから、ナカヤンはこの発泡に肝を潰した。
京子の身を心配したのだ。

発砲音とガラスの割れる音が聞こえた後、室内の物音は沈黙した。
一瞬警官隊に緊張が走る。
その張りつめた空気に、ナカヤンは息を止めた。

「二人きりなら中の異変は京子の反撃かもしれない。失敗だったら・・・」と、不安が募る。
何しろナカヤンの知る京子はじゃじゃ馬で、度胸もあるから隙があれば反撃も充分考えられる。

「突入せよ。」
明らかに室内での争いと推測される発砲の銃声で、猶予が無くなった警官隊は、果敢に突入した。

警官隊が突入すると、男は予想に反してベッドの影で震えていた。
凶暴さは消え、抵抗は無かった。

男は「鏡から殺したはずの女が出て来た。」と訴えた。
唇が戦慄(わなな)き、顔色は真っ青だった。

鏡は粉々に壊れて、部屋いっぱいに飛び散っていた。
京子はベッドにへたり込んでいたが、幸い割れた鏡などによる怪我はない。

後で京子に聞いたが、京子は朦朧(もうろう)とした意識の中、男に犯されシャブの為に激しい快感の刺激に翻弄され続けていた。

それが、組み敷かれていた男に急に突き放され、ドアの外に向けた男の怒鳴り声を聞いた。


細目の男がドアの外に発砲した時、京子は突然性交が中断され、突き放されてベット下に転がっていた。
京子は朦朧(もうろう)としてそれでも事態が飲み込めず、突き放されたままボーッとしてベットにもたれていた。

すると、もやもやとした白い霧状の影が、「スーッ」と輪郭を整え、女性と思われる白い顔が鏡に浮かび上がった。
京子は意識が定まらない夢現(ゆめうつつ)の中で、その白い顔を見た。

夢か現か目の前の鏡に白い女の上半身がスゥーと現れ始め、突然それが抜け出て来て男に襲い掛った。
以前見た悲しそうな女の顔は、怒りの形相に変わっていて、驚愕した男が発砲した。

ガシャと言う音と伴に鏡が割れ、白い女は居なくなった。
幻覚かと思ったが、その後直ぐ目の前にナカヤンがいた。

「鏡から白い女が・・・・」
助けられた京子の、漸く口をついて出た最初の言葉だった。

ナカヤンは、「ミレアだ」と思った。
彼女が、京子を助けに来てくれたのだ。
京子の居場所を教えた事と言い、ミレアの亡霊は、明らかに味方をして居る。

冥府(めいふ)とは霊界(地獄・天国)に続く三途の川の場所で、成仏できない魂の彷徨(さまよう)場所を言う。

ミレア(松永直子)は怨念が晴れずに、霊界の入り口付近、冥府(めいふ)の怨霊に成って、「下界と冥界を彷徨(さまよ)って居る」と言う事か。

森田警部補が、全裸の京子を抱きかかえ毛布に包(くる)み、無言でナカヤンに渡した。
京子は、ナカヤンに縋(すが)ったが、まだ足元がおぼつかない。
朦朧(もうろう)として、意識が定まっていないのだ。

良く見ると、京子の目には涙が溜まって彼女の気持ちを物語っていた。
それが伝い落ちて、抱きしめているナカヤンの胸の辺りを濡らした。
京子は、薬物に侵されながらも、ナカヤンを認識していたのだ。

森田が散らばっている京子の衣類をかき集めたが、上半身のシャツとジャケットしかない。
京子に下着の在り処を聞くと、「下はずっと衣類無しで、連れ廻されていた。」と言う。

「この野郎っ」
ナカヤンは、警官の制止を振り切って細目の男に襲い掛り、左右二発殴った。
良く見ると、森田がナカヤンを止めるふりをして、男の股間に膝で蹴りを入れている。

あの最中に逮捕されたから、男もパンツ一丁履かされただけだ。
「ギャー」男は、まともに喰らってしゃがみこんだ。

腹の虫が収まらないナカヤンは、うずくまった男の腹に、まだ数発かかとで蹴りを入れていた。
「ボコ、ボコッ」と鈍い音がした。

永田はそっと、制止しようとする警官を押し戻した。
ナカヤンの気持ちは、この程度ではまだ足りない。

この出来事は、間違いなく超常現象である。
しかし、一般的理論では、その説明は着かない。
帰りがけに、永田警視はつぶやいた。

「まさか女の幽霊が、立て篭もり事件を解決したとは、谷村本部長に言えねーェよな。」
それでも言わなくては成らないが、こんな怪奇現象、庁の正式な報告書には、永田警視に書けそうも無い。


何とか助け出したが、京子が正気に戻るには入院して丸三日掛かった。
入院して四日後、京子はやっと元気になり、シャブが抜けるまで、着切りで傍に居たナカヤンに話しかける。

「ミレアは、自分の仇を鏡で取ったのね。」と言って、しんみりした。
信じられない事だが、直接京子を救い出したのはミレアの亡霊だった。
あれが無ければ永田達も梃子摺った筈で、ナカヤンも感謝している。

それから二日くらいで、若い京子は見る見る元気を取り戻して、何時もの活発な娘に戻っていた。
あれほどの目に遭ったのに、精神的ダメージはおくびにも出さない。

「ナカヤンが傍に居るから、何とも無い。」
京子の本心だった。

ナカヤンは少し頼りないが、間違いなく京子の「白馬の騎士」で、助けに駆けつけてくれここに居る。
人間が心を通わすのは、優しさが一番だ。
忙しい合間を縫って、永田警視と森田警部補が病院に見舞いに来た。

「あッ、森田さんの武勇伝を京子に話した所です。」
「ハハ、あいつの息子さんはオイタが酷いので、私が京子さんの代わりに膝蹴りをモロに喰らわしてやったゎ。」

永田が横から、「いざとなると森田君は恐いから。」と混ぜっ返し、あの細目の男は、森田警部補に膝蹴りでやられた「ブツ」が腫れ上がり、「この三日間歩行も困難だ」と報告して、四人で大笑いした。

気を使って触れない事にするより、「気にするのもくだらない出来事」と笑い飛ばす方が京子の性格には合っている。

人間真面目に生きて居ても、ヒョンな事で何に巻き込まれるか判ったものではない。
全く降って湧いた災難で、京子に責任が有る話ではないのだ。

「あの二人お似合いだわ。森田さんはどうか判らないけど、どうも永田さんの見る目は、もう、そのもの・・」
「えぇ、あの二人職場恋愛か?」
ナカヤンは、そう言う事に思い切り疎い。

京子は勘が良いから、クールな熱血漢の永田も、森田に恋をしたらしい。
「判らないけど、森田さんの方もその気ならね。」
「出来れば、上手く行くと良いな。」

それから三日後、京子が回復し、「心配無い」と判断したので、ナカヤンは東京(千葉)に連れて帰る決断をした。
永田は、改めて連絡するまで、暫く街中を歩かない様に言っている。

まだ危険な組織について、何の対策も講じられていない。
現実に、公安部は影ながらガードを付けてきた。
こちらの身を案じての事だが、いざ付かれると結構にうっとうしい。

リュウチャンはまだ入院している。
彼の体力回復には時間がかかるので、暫くは金沢での入院生活になる。
ナカヤンの連絡で、両親が来ているので安心して置いて帰れる。

彼は森田警部補から、ナカヤンたち二人の捜索努力を知り、大感謝している。
彼は、危うく異国の地で暮らす処だったのだ。


一方佐々木和也は、まんまと被害者と認められ、自らが保証して九条民子の保釈を得、民子を伴って東京に帰って来た。

まだ仮保釈の身で、民子がこの先どうなるかは知らないが、和也の方は、拉致され救出された事になり、今は、民子と一緒にマンションにいる。

民子にしてみれば、自分の拉致共同謀議の疑いによる逮捕、仮保釈で、民子と岩崎誠一が和也の失踪を画策し実行していたのを、和也が知っている筈だった。

民子は、和也がそれを責めないで、「黙っているのが恐い」と思っていた。
しかし和也は前にもまして、優しかった。

警察から何も知らされていないから、まさか自分達の計画が、「和也に利用された」とは民子も気が付かない。
警察は捜査上の理由から、民子には佐々木和也の嫌疑を伝える事が出来ない。

それ故、和也を怪しいとは露ほども思わず、一つの結果として和也の手に再び自分が落ちた事を「天命」と運命的に考える事しか答えは無い。

民子の立場では「和也は誘拐された被害者」と言う事に成っている。

一度だけ、民子が「私のした事、何故お叱りならないのですか?」と聞いてみると、和也は「いけない事をしたから、民子は後でお仕置きだよ。」と、笑いながら言った。

他に、和也は何も非難めいた事は言わない。

和也から「後でお仕置き」と聞いても、民子は黙っていた。
無条件降伏だった。
自分は岩崎誠一と謀って、「和也を誘拐させる」と言う充分にお仕置きに値する事をして居る。

前にも言ったが、人間の生活には裏と表があり、裏はもっぱら本能の世界で、本能の世界ではより変態の方が満足度は高い。

そして和也は、「民子を愛していると言う気持ちは、今も変わらない。」と言った。
つまり、またあのセレブパーティの日々が民子の身に訪れる。

それが和也流の民子の愛し方であり、民子へのお仕置きだった。
恨みからは何も生まれないし、道は開けない。

気持ちは、固まっていた。
この男を頼って生きて行くには、自我を捨て、操り人形として生きてゆくしか選択肢は無いのだ。

民子には判っていた。

和也の精神的趣味を満足させるには、民子の日々を殊更豊かで上品に暮らさせる事が前提にあって、初めてこの過酷な陵辱が生きる。

つまり民子には、優雅な日常と惨めな陵辱の非日常とが約束されているのだ。
この大きな落差があってこその面白味である。
それを愛だと言えば、歪んではいるが愛なのだ。

和也の身勝手だが、その対象は民子意外に考えられない。
従って民子は美しく、生活は優雅で有る。
それこそ、「これでもか」と言うほど、人が羨む生活は以前と変わらない。

その代償が、月に二、三度「和也の性的嗜好に付き合う事」と理解するしかない。
本心を隠して苦悩に生きるか、本心そのものを変えてしまうかで、民子の日々は変わるのである。

和也の方には、自分を裏切った民子だが彼女を手放す気はない。
裏切られた事は悲しかったが、今でも愛している。

代わりは得難いので、いずれ、民子が例のお仕置きを重ね、自分を満足させれば許す積りで居た。
だから和也は、民子を大事に扱う。

実際の所、金額を惜しまず優秀な弁護士を雇い、罪を全て岩崎にかぶせて、民子の方は猶予付き刑に持ち込む積りで居た。
九条民子には、それだけの価値がある。

被害者になっている自分が、その気で弁明すれば、「それも可能だ」と思っていた。


全ては和也の思惑通り順調に行く予定だった。
永田達が「和也に罠を仕掛けた」とは、知らなかったからである。
ただ、京子を連れて逃げたはずの配下の男からの連絡は、まだ無かった。

あの男の事だから、京子を可愛がる事に夢中で、大方、まだその辺のモーテルを、渡り歩いているだろう。
飽きた頃には、連絡もあるはずだ。

焦る事は無い、確かに捜査の「ほとぼり」が覚めるまで、やつもまだ動きを見せない方が得策だった。

そう、佐々木和也にはあの冷蔵倉庫から二日後、京子が救出され、細目の男が逮捕された事は知らされていない。
前にも書いたが、警備局公安課は案件ごとの解決は追求しない。

あくまでも、組織の壊滅に主眼を置く。
佐々木和也を泳がせて、大ボス、大組織をあぶり出す計画である。

だから、報道に対しても内容を選んで事件の概要は発表した。
報道管制も、強く引いた。

九条民子をあっさり在宅にさせたのも、実は警備局(公安課)の意向で、強引に検察送りを避けていた。
勿論、佐々木を安心させる為である。

警察の発表は、意図的に全て佐々木和也の計画に沿う範囲で行われている。
和也は、すっかり自分の安泰を信じていた。


この一連の追跡逮捕劇、蚊帳の外に置かれた事務方(警察庁管理菅)の高橋は、「ルール無視である」と烈火のごとく怒って警視総監に喰い付いた。

しかし、開催された査問委員会に於いて、双方の意見が紛糾の挙句、「人が拉致されて人命が掛っていた」と言う緊急性から起こした行動の結果で、「仕方なかった」と認定された。

言うまでも無く、警視総監の強硬なバックアップが功を奏したのである。

事務方(警察庁管理菅)の高橋は、谷村や永田、森田達の直接行動は「キャリアとしてあるまじきもの」と思って、その捜査活動に絶えず口出しする。

彼にして見れば、デスクにどっかり根を下ろして、「部下のノンキャリや準キャリを手足に使うのがキャリアの仕事」と信じて疑わない。

永田や森田が、従来型とは違う犯罪が次々に発生するIT時代に即応すべきノウハウが、サイバーパトにも蓄積出来ては居ないから「新設のサイバーパトを確立させる」と言う名目で、警視庁のトップ警視総監から特例の了解を取り付けているのが忌々しい。


それからおよそ十日後、和也は待ちきれない様に、少し早い民子のクリスマスパーティを企画した。

もう、暦は師走(十二月)を示している。町では気の早いクリスマスソングが流れ、寒さが、本格的な冬を告げていた。
和也は、クリスマスにかこつけてパーティの事を言い出すタイミングを見計らっていたのだ。

この間、和也は民子を咎めるでもなく、以前の様に自由に優雅に暮らさせ、民子は静な日々を送っていた。
和也は、相変わらず民子を美しく磨く事に、金も努力もいとわない。

そればかりか、和也の強い希望で正式に結婚する事になった。

式は例の失踪騒ぎが落ち着くまで暫く見送るが、籍は先に入れようと言う事に成り、双方の両親を含め内輪だけの祝言もした。

戸籍上は立派に佐々木民子である。民子の父の会社は、佐々木家の多額の出資があり、佐々木コンッエルンのグループ入りと引き換えに、超優良の無借金会社に変身した。

父親の勧めもあり、民子の父は親会社の役員にも就任し、身内として厚遇されている。
両親とも佐々木親子に感謝し、民子には「けして和也を疎かにするな。」と口を揃える。
あんな事を仕出かしたのにまるで、宝物を愛でるように和也は優しい。

民子は、和也が「ひょっとして自分を本当に愛しているのかも知れない。」と、思い始めていた。
ただ、「愛し方が少し他人と違うだけなのだ」と。

和也はHP・Bワンも再開し、以前と変わらぬ調子で交信をしている。
覗いて見ると、もう昔の仲間が大半戻っていた。あい変わらず優しく親切で真面目な思いが並んでいる。

民子は、和也からクリスマスパーティを持ちかけられた時、「また始まった。」と内心苦笑した。
あの輪姦三昧の時が、また民子に訪れるのだ。

苦笑はしたが、嫌悪感は無い。
和也の事だからいずれそうなるのは、予測が付いていた。
現に、「民子にはお仕置きをさせる。」と、和也には明言されていた。

だが、民子の気持ちには以前に無い変化があった。
この男と生きて行くには避けられない事だから、何でもする覚悟は出来ている。

現在の性的な倫理観は一夫一婦制に拠る制度設計に起因するもで、実は一つの選択肢に過ぎない刹那的な社会合意である。

しかし一夫一婦制に拠る制度設計に於いて、その制度設計に拘束されるが故に現実的或いは本能的な矛盾も存在するからこそ離婚が多発する側面もある。

性的な倫理観など時代時代で変化する物だから、性的な倫理観を現在に当て嵌めて全てを否定や批判するのは知的では無い。

つまり性の倫理観に於いて、何が常識で何が普通などと言うは元々刹那的な一時代の合意事で絶対性が無く、普遍的な倫理観ではない。


まぁこんな遊びの性交を他人を交えて夫婦で犯ると、「破廉恥」と世間に非難されるかも知れないが、それは現実に上面(うわっら)な評価に過ぎない。

「常識々々」と声高に批判されるかも知れないが、それは流れ行く歳月をどう生きるかの問題である。

平凡なら平凡の、非凡なら非凡な人生が在り、平凡(常識)であれば非凡ほど人生は愉しめない。

そして遊べる時間は短いのだから、夫婦のフィーリング(感覚)で「遊びの性交」を愉しんでも、それは個人の価値観の問題で、他人がとやかく言う必要は無い。


人間は何故一目惚れするのか?
そのメカニズムは、本能をくすぐる脳内ホルモン・フェール・エチル・アミンの効果である。

元々生命科学的に言えば、人類の男女は惚(ほ)れ脳内ホルモン・フェール・エチル・アミンの作用に後押しされ、出会いを持って「性交相手の選択行為」をする生物である。

「惚(ほ)れる」と言う事は「恋する」と言う事で、フェール・エチル・アミンの効果である「惚(ほ)れる」は、脳内処理的には「性交の前駆作業」であり、気取らないで生物学的に言えば脳内処理的には「性交相手の選択行為」である。

その男性と女性の脳内ホルモン的な「性交相手の選択行為」の「惚れ薬」がフェール・エチル・アミンと言い、これが本能をくすぐる「恋のトキメ」を促進させる影の立役者の物質である。

フェール・エチル・アミンは、異性に対して脳内で分泌されるトキメキホルモンで、この時点では「惚(ほ)れ行為」であるが、その「惚(ほ)れ行為」に集中力や快感を倍増させる作用がある。

簡単に説明すれば、「恋する」や「惚(ほ)れる」と言う行為そのものに快感を感じさせたり、その想いを募(つの)らせる(集中させる)作用がある脳内ホルモンなのだ。

つまりフェール・エチル・アミンは、「人類の種の保存」を脳科学的に促進させる作用があるホルモンである。

そしてその「惚(ほ)れる」が片思いであれ両思いであれ、パターンに関係なくフェール・エチル・アミンの作用であるから、迷惑なストーカー行動の源も「惚(ほ)れる」の範疇にある。

心して自覚が必要だが、フェール・エチル・アミンの作用は「性犯罪」をも誘発する側面を持っている事である。


現代の理解では、誓約(うけい)の性交など否定的な風潮にある。

その考え方は近頃の個人尊重の考え方に在り、「愛の無い性交」など建前上否定される事柄だからである。

しかし本来、「愛の無い性交」など古来から特別の事ではない。

社会通念とか常識とかには「建前もあれば現実」もあり、言ってみれば人間は「性」に対して興味や性癖が在るのは密かに現実と認められる社会通念とか常識とかに合致している。

つまり口に出さないだけで、建前とは別の観点から観た密かな社会通念とか常識が存在するくらい誰でも知っている認識である。

当然ながら、フェール・エチル・アミンに後押しされて、双方が一瞬でも「惚(ほ)れの合意」に到れば性交に及ぶ事に成る。

むしろ建前を外した本音では、「犯りたい」を後押しずるのがフェール・エチル・アミンの本来の役目である。

「好きに成った相手と性交に及んで何が悪い」と開き直られれば、仰(おっしゃ)る通りであるが、その時点で「好き(恋)」を短絡的に「愛」と勘違いしているのだ。

だが、「愛」は連れ添ってから時間を掛けて育(はぐく)むもので、この時点での性交に及ぶ価値観はまだ「恋止まり」である。

「愛情」と言うのは、結局は自分が創り出した大切な物語であるから、その構築された「情」に嘘は無い。

しかし物語であるからには伴に生きる時間が永く在っての事で、少なくとも出会いの時点では、物語のプロローグ(序章)に過ぎない。

だからこそプロローグ(序章)に過ぎない結婚前の異性経験など、原則問わない事が男女間の暗黙のルールである。

従ってプロローグ(序章)の時点での性行為に於いては「恋」は在っても、とても「愛情」にまでは到っていない現実がある。


昔から「恋の病」と言う様に、「恋と言う偽りの愛」を勘違いしているから「こんな筈ではなかった。」とカップルの解消や結婚を解消し離婚する事に成る。

つまりフェール・エチル・アミン効果で、良く知らない相手とでもフィーリング(感覚)で性交が可能で、ならば深い意味での「愛情」なんか無くても別の理由でも性交は可能である。

まぁ出会いも惚(ほ)れ方も様々で、周囲や親の薦める結婚でもその出会い時点でフェール・エチル・アミンが作用すれば、自由恋愛でなくても性交が可能な理屈は合う。

だから誓約(うけい)目的だろうが親の薦める結婚だろうが、地位や財産目的だろうが、夢を適える手段で在ってもフィーリング(感覚)で性交が可能である。

それでもその婚姻が永く続いて、互いに「愛情」が芽生えればカップルとしては最高の結末と言える。

つまり「愛情が唯一の性交理由では無い」としたら、めんどくさい色恋を無しにした夫婦合意の上での「遊びの性交」は理論上成り立つ事に成る。

確かに「性」は建前ではタブーだが、正直ヒューマン(人間的)として皆が「性」に興味が在って当然で、それで無ければアダルトビデオや裏ビデオが一般家庭まで蔓延する筈が無い。

そしてヒューマン(人間的)として「性」に興味が在るのならば、尋常な性交など詰まらぬものである。

だからこそ、その興味は単純なものに止まらず、本能をくすぐる様に生々しく卑猥であれば卑猥であるほどその興味を満足させるものである。

女性を口説くなら「吊橋の上が良い」と言う吊橋効果とは、恐怖や危機感を共有する事で側坐核(そくざかく/脳部位)が働いて親近感が湧き、好意的な感情が芽生える心理効果である。

或いは、露出プレィの強制者(S)やSMプレィの施(ほどこ)し相手に、女性が究極の羞恥心や恐怖、危機感を抱く事も、或る種の吊橋効果としてM心理が働くのかも知れない。

同様に一度有無を言わせず、こっ酷くグチャグチャに輪姦(まわ)してしまう工夫(くふう)も、広義の意味で側坐核(そくざかく/脳部位)が働くM心理の吊橋効果かも知れない。

不倫の原理は典型的な「吊橋理論」で、つまり吊橋の恐怖感のドキドキ感と不倫の背徳感のドキドキ感が「恋」のドキドキ感と誤認混同され脳に認知される。

つまり、一瞬の「惚れる」はドキドキ感と伴に脳内に発生するホルモン、フェール・エチル・アミンの誤認混同され脳に認知される。

「吊橋上の口説きが極めて有効である」と同様に、不倫には誤認の「トキメキが付きまとう」と言う理論である。

そしてそれらは、平凡な日常生活に不満を感じれば殊更大きな誘惑に膨らんで行く夫婦間のリスクなのだ。



むちゃくちゃな愛し方だが、もう和也の愛に民子は確心も有る。
「もう争いは御免だ。」と民子は思った。
民子は、まずは自分が変わらないといけない事に気付いた。

少し位理不尽でも、争いを避けるには「どんな事態でも」和やかに受け入れれば平和で居られる、争いを避けるのが目的であれば、小さな犠牲は見捨てるしか無い。

だから、和也が十日も言い出さない方が、民子には不思議なくらいに思って居た。

「どうだ、お前そろそろクリスマスパーティをやらないか?」
和也は民子の顔を、覗き込む様にして言った。

何しろ警察沙汰の経緯があるから、民子の出方が判ら無い。
和也も慎重に切り出した。

「そろそろ、おっしゃる頃だと思っていましたヮ。」
民子は和やかな笑顔で、そう答えた。
和也の杞憂だったのか、民子の穏やかな返事が返ってきたのだ。

「そうか、例の仲間を招待(よ)んで、お前にはまた活躍してもらおうか。」
民子の脳裏に、あのショパンのピアノ夜想曲(ノクターン)と輪姦三昧の時間がよみがえって来ていた。

ヒョットすると、待ち望んでいたのかも知れない。
「良いじゃないですか。貴方が、そうしたいとおっしゃるなら私は何時(いつ)でも構いません。」

民子がそう返事をすると、和也は、「そうか、何時でも構わないか?」と、返事が意外だったのか少し考えた様子だった。

やがて和也は、嬉しそうに、「そうか、そうか。」と、顔をほころばせ「素直に言わせてもらえば、俺は陵辱される民子の戸惑いの表情を見るのが好きだから・・・・」

和也は本音を言っていた。
もう、隠しても仕方が無い。
それより自分を素直に理解してもらいたい思いだった。

「貴方のご趣味は、承知していますヮ。」

好感触に気を良くしたのか、和也は、「それなら楽しく犯れそうだ、宜しく頼むので精々犯られまくって見せてくれ。」と初めて本音を言った。

素直に言われれば、民子も覚悟をしていた事だから「ハイ、貴方のお楽しみですから。以前の様にどんなお言い付けでもお付き合いさせていただきますヮ。」と嬉しい返事をする。

民子が余りあっさりと同意したので、和也は意地悪く追い討ちを掛けて見た。
「処で、パーティの趣向だが、まだお前には此間(こないだ)のヤンチャのお仕置きをさせていないが。」
すると、民子の強い意思を伝える明確な答えが返ってきた。

「確かにまだですね、何度でも貴方のお気が済むまで、望みのままになさって下さって構いません。」
「そうか、じゃあ当分一番きつい主催ホステスルールでみっちりお仕置きを受けられるか?」

「それで宜しいですゎ、貴方は、私に主催ルールでさせるのが楽しくていらっしゃるのを承知しております。」

民子は和也に、自分の覚悟を伝えた。
そこに彼女なりの、「どうせ犯るなら嫌々では何のプラスも無い」と言う心意気があった。

「まぁな、お前は当分お仕置きの身の上だからな。」
「そうですね。そのお仕置き、何時になさいます。人数など判ればお料理の仕度もありますから。」

「そうだな、三日の土曜日に今回は八組ばかり招待(よん)である。」
「もう、お決まりだったのですか、それなら改めて私に断らなくても宜しいのに。」

「いや、一応覚悟していてもらわないと。」
「何時でも、犯らせるぞと我が侭におっしゃれば、民子はお受けしますヮ。」

「まあ良い、面白い趣向を用意して、お前に楽しませてもらう。」
「構いませんのでそうなさいませ。お支度はして置きます。」
また、あの玩具類を揃えて置かなければ・・・民子は、もう準備の段取りを考えていた。


十二月三日、民子のお仕置きパーティの日が来た。
おかしな事を言う様だが、あれほど嫌ったパーティを、民子は心待ちにしていた。
大きな心境の変化があったからだ。

気が付いたが、人間とは不思議なもので、同じ事をさせられても受け取り方が違うと違う気持ちになれるものだ。
民子の意識が、正反対なものに変わっていたのだ。

この五日間、民子は自問自答して或る結論を出している。
考えてみれば、今回の恐ろしい出来事の発端は、民子が運命に逆らったばかりに起こった気がする。

そのおかげで、岩崎誠一は殺され、佐々木和也も拉致されて酷い目にあった。
ミレアの事など、民子が安易に復讐の道具として存在を利用したが為に、苦しんだ挙句に恨みを残して死んで行った。

自分の受けた惨めな気持ちの事だけに関心が集中して、他人を思いやるべき事に気が付かなかった。
そんな身勝手で何の罪も無い人々を不幸に巻き込み、自分の心の恋人まで失った。

全てその元は、自分の不幸をコンピューターの知識を利用して、故(ゆ)えなく他人に転嫁した民子にある。
やはり、他人(ひと)の不幸の上に幸せは築けない。

コンピューターに感情や性的衝動が在る訳で無く、あくまでも扱う人間の質の問題だと「電脳姫ユキチャン」は思い知った。

あれだけの事態を招いた自分には罪がある。
その事に口を拭って、のうのうと生きては行けない。
自分は罰せられなければ成らない。

それに最も相応(ふさわ)しいのは、この不幸のきっかけとなった「民子が嫌ったあの激しい陵辱」を民子の身に課せ、罰せられる事である。

運命とは皮肉な物で、今、民子の生活は原点に戻って、自分の感情大事さに忌み嫌ったあの輪姦パーティがまた民子の身に降りかかろうとしている。

それも、自分が「唯一望んで取り除こう」と関わった拉致の相手、佐々木和也の手によって・・・。
これは、「申し分ない天罰」と言える。

運命的なめぐり合わせを感じて、民子は、和也が自分にさせる陵辱遊びに「とことん付き合う」事を心に決めていた。
民子の気分は、罪の意識と伴に在った戦後の日本同様に、ある種自虐的なものを求めていた。

それに、一度味わってしまうとあの「おひろめ」の凄い刺激は、思いとは別に時折肉体(からだ)が思い出す。
あの、脳みそが何もかも真っ白になる被虐的体感は、今になっては棄て難い。

受け取り方を少し変えるだけで生き方を見つけ、人は幸せになれる。
棄てがたい極限の肉体の快楽の魅力に、民子の倫理観は、火の灯った原始性本能に凌駕(りようが)され、崩壊していた。

平和と贅沢に慣れた日本人が、その美味を棄て難いように、身体が覚えてしまった強烈な絶頂感の連続は、有る意味他では味わう事が難しい贅沢なのだ。

つまり民子は、自らの平和と贅沢の為に自らを縛る誓いを立て、和やかに陵辱され続ける道を選んだ。


民子を自ら罰する為の「お仕置きパーティ」は、何時(いつ)もより早く、五時半に始まった。
和也が拘る、ショパンのピアノ夜想曲(ノクターン)を、民子は自らセットしている。

八組十六名と人数が多く、民子の「主催ホステス」としての持ち時間を充実する和也の目論見である。
目的が目的だから、最初から民子のワン(ウー)マンショーで、お仕置きの予定時間はたっぷりと取られている。

結婚後もパーティの時は今まで通り九条民子を名乗るように命じられた。
「非日常の生贄には佐々木より九条方が気品を感じて格好良い」と、和也の希望である。

まぁ、タレントの芸名みたいなものだが、激しい肉弾戦を想定すると、さしずめ民子の場合はお仕置き舞台のリングネームかも知れない。

「お前には、これを用意した。これだけで、他は無い。」
「はぃ、承知しました。」
今回和也が「主催ホステス」民子に用意した衣装は、犬の皮首輪と赤い犬紐(いぬひも・リード)だけだった。

「無防備無抵抗の象徴」と言う訳だ。
「お前に相応(ふさわ)しい。」と言われ、民子は「そうですね。」と素直に頷いた。
お仕置きを受ける今の自分に最も相応しい扱いは、メス犬のように惨めに辱められる事である。

集まったのは、和也が特に選り勝った(すぐった)遠慮も容赦も無いメンバーで、民子も「これはきついメンバーだ」と心当たりの参加者が多い。

和也は「どうだ、犯られ甲斐のあるメンバーだろう。」と人選を誇り、お仕置きの成行きに期待している。
「そうですね、此れなら何をさせられますやら、私はすごい事になりますヮ。」
「あぁ、伝説になった九条民子の、復帰お仕置きパーティだからな。」

参加者を和也と並んでマンションの玄関で迎える豪華な正装姿の民子は、一段と美しく映える。
民子は三々五々着飾ってマンションを訪れる招待参加者の中に、一人知った顔を発見した。

親友の中村(岩崎)由美だった。
彼女は例の教団の修行の真最中のはずだから、横にいる恰幅の良い男性が多分教祖と思われる。

由美はその教祖に気の毒なくらい酷く気を使い、従順に下賜付いていた。
予測の範囲内では有ったが、もぅ由美がすっかり教祖の手の中にあるのは、間違いではない。

開催時間を待つ僅かな間に、「教祖に言われたから。」と由美が話しに来た。
由美が民子の友人だと、教祖は知っていた。
教祖の「主催者の九条民子に挨拶して来い。」の計らいで、少し立ち話が出来たのだ。

その後の様子を聞くと、由美は世間から隔絶した所で、案の定のきつい修行を毎日させられていている。
今は、教団の修行場に寝泊りし、勤務先の小学校に通勤しながらその修行を受けていた。
教祖との修行と小学校の教員の仕事ではギャップが凄いが、それも「修行の内だ」と言う。

民子がパーティで和也に過激な事をさせられている話しは、先日十条の喫茶店で会った時に本人から聞いていたので今更驚かないが、まさか自分が「この場に連れて来られ、実際に民子の陵辱に参加するとは思わなかった。」と由美は言う。

この宗教団体の信仰制度設計がこう言う独特な形に成って居るのだから、九条民子も中村(岩崎)由美もこの境遇を受け入れるより仕方が無い。

由美は教祖の意向で、親友民子の集団陵辱を目の当たりにし、自らもその行為に参加する事になったのだ。
皮肉な運命の再会だった。


今夜は一週間後に自分・由美の「おひろめ」を控え、和也から教祖に対して、民子のお仕置きパーティに是非由美を連れて参加する様にお誘いがあったので「主催ホステスの心掛を、見学をさせられる為に連れて来られた。」と言う。

どうやら和也の言う面白い趣向の一つらしく、「民子の痴態を親友の由美に見せ、嬲らせよう」と言う手の込んだ魂胆と見える。

民子を精神的に嬲るには最高のゲストかもしれない。

岩崎由美は、民子と同期の妙齢の女性ではあるが、三十路に近くなって、子供も居るから雰囲気は落着いて十分に大人である。

面長な輪郭に、中々男好きのする目鼻立ちが通った美人で、世の男性は、初対面では誰でも「ドキッ」とさせられるのだ。

身長は165センチ超と高めの、黒目勝ちな瞳を持つ面長な美人顔で、上唇がやや薄い魅力的な受け口が、肉感的な魅力を感じさせる。

肌は淡い黄色身を帯びた柔らかい膨らみを持ち、膨らむ恥丘、黒い硬そうな濃い恥毛、大き目の二つの乳房、肉感的でしなやかで張りが有る色白の美しい肌の持ち主で、教祖もそこが気に入った。

占いや信仰は、人間の脳の部位・側坐核(そくざかく)を満足させる為のものだから、それをハッキリと認識していないと嵌(はま)ってしまってそれが「習慣認知」されて抜け出せなくなる。

この脳部位・側坐核(そくざかく)は快楽をも感知する部位であるから、感度の良い人は依存症が強くなり、占いや信仰ばかりではなくギャッブルや薬物などの依存傾向も強くなる。

由美の嫁ぎ先の義父母は、すっかりその側坐核(そくざかく)の依存症に嵌っていて、由美をその信仰の色に確りと染めようとしていたのだ。


民子が聞いた由美の修行の話しに拠ると、修行の第一の目的は、由美の羞恥心を無くさせる事だった。

由美は、義父母と夫に付き添われて修行の為に教団の修行場を訪れ、修行管理部の幹部に引き渡された。
義母が、「最初は理解出来ないけれど、修行が終わればキット判るから、辛抱して犯り遂げなさい。」と言う。

そこが信仰の怖い所だが、やはり、普通なら庇(かば)ってくれそうな同じ女性の義母も、嫁の身柄を教祖に預ける事に平然と顔色一つ変えず、にこやかに笑ってさえ居る。

修行管理部の幹部さと言う者達が四人程迎えてたのだが、皆顔見知りらしく、廊下兼用の板の間で夫や義父母がにこやかに挨拶を交わし、由美に手加減なく「修行をみっちりさせるように」依頼してた。

義父に、「此処では一切を修行管理部の幹部さんの指示で動く様に」と紹介され、「嫁の由美をお任せしました。」と引き渡された。

引渡しが済むと、もう修行管理部の幹部の管理下で、この途端、由美の身分は修行巫女で、どう扱おうが、教団の勝手で、家族も由美も意志は言えなくなる。

けじめを付ける意味で、その場(廊下兼用の板の間)で行き成り、修行管理部の幹部から衣服を全て脱ぐように、由美に指示された。

教団関係者の人が大勢居て、丸見えの場所なのに容赦はしない。

「もう今から修行が始っているから早くしなさい」と夫に促されたので、由美はしぶしぶ一枚づつ脱いで行く。

柔らかく適度な丸みを見せる両の乳房も、赤ピンクの乳首も、丸く柔らかそうに突き出た草むらの丘も、ピンク色して可愛く開いた小振りのプリティな花弁も、由美には隠し様がない。

義父母に見せた事の無い全裸をしっかり上から下まで義父母に見られて、由美は恥ずかしかったが、義父母は安堵の表情を浮かべていた。

「普通の家庭では、夫以外には裸なんか見せないわよねぇ。」
訴えるように、由美は民子に言った。
「由美が選んだ道よ。嫌なら止めるしかないの。」

ここで民子が同情する訳には行かない。
もう、運命に逆らって痛い思いを由美にさせたくないから、突き放すのが友情だった。

由美は、下調べの名目で、家族の目の前で修行管理部の幹部達に、全身を掴むように触られ、それこそ、何処もかしこも例外はない。

お尻など指で両側に開かれて、蕾をしっかり見られ、乳首や花弁は、「ほぅ・・」と言いながら摘ままれて、引っ張りさえされた。

それを、ニコニコと見ていた中村家の家族、どう言う神経なのだろうか?
由美の驚愕は続いていた。
それも、これはほんの始まりだった。

修行中の生活は全て全裸だと、それを嫁に言い渡す事が責務のように義父に初めて聞かされた。

家族の固い意志の裏付けの下、修行管理部の幹部に由美を引き渡して全裸にさせれば「どうぞきつい修行を。」で、家族はもう用がない。

由美の脱いだ衣類はパンティまでまとめて、義母が持ち帰った。

修行場の廊下兼用の板の間に、由美は全裸で取り残されて、詰まる処まで追い詰められて立ち尽くしたのだ。

衣類は全て取り上げられ全裸で生活させられるのは勿論、修行と称して教祖が由美を犯すのも宗教行事だから全て開け広げで、信者達の目など気にする様子は無い。

これだけ堂々と犯されると、本当に修行をしているような気に成るから不思議である。


現在の倫理感を前提にした宗教観では、信仰と性を結び付ける感性は無く、こうした物語は理解出来ないかも知れない。

しかしながら、信仰や宗教の類も元は人間が考え出した事で、何も教義が奇跡的に空から降って来る訳ではない。

だから信仰は、教祖や指導者に理性で考え出され積み重ねて構築した哲学であり、勿論教祖や指導者はその信仰を妄信などしていない。

その考え出された信仰は、信じる側からすれば精神(こころ)の救いを得る為に世俗の観念から超越し、妄信するものである。

だから根底には、妄信により世俗の観念から超越した精神(こころ)の救いが信仰の前提にある。

元々日本神道に於ける巫女の存在は「呪詛巫女」であり、稲穂の実りも子宝も同じ天からの授かり物で、それを祈願する性交は呪詛儀式だった。

そうした信仰上の正当性が派生して「神前娼婦」と成った歴史があるのも巫女のれっきとした側面である。

だから、教祖や指導者と女性信者が性交する事は二千年来の宗教史では当たり前で、それが出来ない信者など最初から「なまくら信者」である。

そして神仏混合が国の政策方向だから、神道も仏教も方向性は同じだった。

現実に、十一代将軍・徳川家斉(とくがわいえなりの側室・お美代の方(専行院)の父親、日啓(日蓮宗の住持で子沢山の生臭坊主)が引き起こした大奥女中の醜聞、智泉院事件に於いては、「お祓い・祈祷」が性交の名目だった。

そう言う部分は、現代の建前感覚より当時の現実感覚の方が、返って正直なのかも知れない。


教祖は土日を挟んで三日間に渡り、昼夜散々に由美を犯し、意向に少しでも躊躇い(ためらい)を見せたら、全裸座禅縄縛りで修行場の板の間に転がし、何時間も放置するお仕置きをした。

躊躇い(ためらい)は罪悪で、教祖の修行を受ける事は喜びで無ければ成らない。
それが判らない間は、由美の肉体(からだ)に悪魔が宿っているのだ。

身動きの出来ない股間丸見えの姿で修行場の板の間に転がって居る間は、信者達のいたずら自由がルールらしく、通りすがりに色々されるが、何をされても座禅縛りに拘束されていては何も避けられないし抵抗は出来ない。

つまり、徹底的に自我を破壊し、立場を自覚させる所から修行は始まるのだ。
最初は辛くて泣きながら転がされていたが、やがて涙も枯れた。

四日目になると、ようやく小学校への通勤を許したが、夕方帰ってくれば自ら身ぐるみを脱ぎ、般若心経を唱えながら教祖の施す修行を待つ毎日を送っている。

教祖の命じる修行に躊躇い(ためらい)は赦されず、全てに従順が要求される。

躊躇えば座禅縛りに拘束され、修行場の板の間に転がされ、「改心の行(ぎょう)」と言う自我を破壊する為の手痛いお仕置きをされる。

修行の規律は激しく、あきらめからか由美から一切の躊躇いは消えて行った。

二週間ほど散々修行を施した挙句、由美が何事にも従順になると、「この嫁も漸く改心をしたようだ。明日の修行に家族を呼べ」と命じた。

教祖は義理の両親と亭主を修行場に呼び寄せ、由美の修行を目の前で始めた。
修行の成果を、家族に見せる為である。
「中村、この嫁は修行後も時々借りるぞ。」

彼らの目の前で由美に自分の欲棒を口で奉仕させながら、一ヶ月間の修行が終わっても、由美を時々教祖が修行に使える様「貸し出す事」を命じる。

これは、教団内では名誉な事で、家族も喜んで「是非、どうぞ何時(いつ)でも由美をお使い下さい。」と、手を合わせて了承した。

「良し、今から由美に入魂をするから見て居れ。」
教祖の欲棒は「金精様」と言い、直接の交合を「入魂」と言う。
つまり信者に取っては神事なのである。

「これ由美、御入魂を頂くのじゃ、ありがたく腰を入れて励め。」
義父の命じる声が聞こえた。

「はぃ、御入魂をよろしくお願いします。」
仕込まれた作法に則って、由美は「金精様の入魂」を待ち受ける。

彼ら由美の家族は、教祖に命じられるままに、かしこまって般若心経を唱えながら、暫くの間、教祖の尊い物が花弁を押し退けて由美の股間に収まり、そしてその欲棒(金精様)が激しく深く浅く出入りする様を、手を合わせ、般若心経を唱えながら見届けていた。

傍で見れば滑稽な事でも真剣で、笑えないからこそ信者である。

由美の方も、それを求める家族に監視されて居ては、腰を使って必死に教祖に応じざるを得ない。
「あぁ、こんな姿を婚家の皆に見られている・・・・」
メンタルと花芯の両面から激しい刺激に襲われて、由美は我を忘れて善がり声を上げた。

教祖が由美を犯しながら、亭主に「お前の女房は中々具合が良い。」と声をかけると、亭主は嬉しそうに「ありがとうございます。」と礼を言って、教祖相手に下半身が忙しい由美に「良かったな。頑張れ、ょ!」と声をかける。

知らぬ顔も出来ないので、由美は善がり声の合間に「はい。」と応じた。
御入魂は「金精様」が満足なさるまで、小一時間は続く。

由美の家族は、三十分ほど般若心経を唱えながら由美の「金精様御入魂」の様子を拝むと、教祖に退出を命じられた。

亭主は帰りがけに「良いか、くれぐれも教祖様の意のままにするように励め」と、まだ教祖と深く浅く繋がったまま喘いでいる由美に申し付けて、帰って行った。

亭主のこの宣告で、由美はもう後戻りが出来ない事を思い知らされた。

この修行で、剥き出しの獣の本性が由美から引き出され、由美が人間として被っている皮は、容赦なく引き剥がされる。
もう自尊心など引き裂かれて、素直に要求に応じ続ける由美がそこに居た。

婚家の家族が由美に望むのは、この究極の悟りだったのである。

信者にとって、教祖の言う事が理屈ぬきに正しい事で、疑いは無い。

その教祖が、「今後も由美を貸し出せ」と亭主に命じ、亭主は喜んで「是非、どうぞ何時(いつ)でも由美をお使い下さい。」と、応諾した。

由美は修行が終わっても、家族の意思で教祖に貸し出されるのだ。

ここまで犯らされる筋合いは無いかも知れないが、あのイッてもイッても相手が替わってまた犯されるあの物凄いアクメ(絶頂)快感地獄が、また味わえる。

イッてもイッても相手が替わってまた犯される快感地獄のエクスタシー状態(ハイ状態)とは、恍惚忘我(こうこつぼうが)のアクメ(絶頂)快感状態である。

宗教的儀礼などでは脱魂(だっこん)とも解説され、その宗教的儀礼に於けるエクスタシー状態の際に体験される。

その神秘的な心境では、「神迎え又は神懸かり」に相応(ふさわ)しく、しばしば「幻想・予言、仮死状態などの現象を伴う」とされている。

それで、教祖のパートナーとして、教団外の友好者との付き合いに、時々借り出される為の資格を得る為に「おひろめ修行をさせられる。」と言う。

「うちの亭主、教祖様に私を抱かせると、ご利益が有ると本気で思っているの。」と、由美は寂しそうに笑った。

運命的な物だが、たとえ子供と家庭を守る為とは言え、過酷な修行を甘んじて請ける様に親友に勧めた責任が民子にはある。


おかしな友情と言えなくも無いが、九条民子は、中村由美の覚悟の為にも立派にパーティのヒロインをやり果せ(おせ)て見せ、良い見本に成らなければいけない。

とにかく主催ホステスの心得では、参加者がいくら過激な事をさせても、それを和やかに受け入れて楽しく遊んでもらわなくては成らない。

この場に顔を合わせた以上、民子は由美にも辱められ弄られる事に覚悟を決めた。
それがこの場のルールであり、避ける事は、望んでも互いに許される立場に無い。

会食開始の挨拶の時、民子は「本日は私で皆様にお楽しみ頂く、精一杯の趣向を用意してございます。

支度が有りますので中座致しまが、支度が出来ましたら、皆様には遠慮なくお楽しみ頂く様お願いします。」と案内して、その場を離れた。

相変わらず、クラシックのピアノ曲が流れている。

後は、あの「主催ホステス」の衣装に変えて和也に寄って皆の前に引き出され、自分を玩具(おもちゃ)に辱め気晴らしをして頂くだけだ。


会食開始から二十分後、中座した和也に「主催ホステス」が引き出された時、飲み食い談笑していた参加者は、現れた民子の姿に息を呑んだ。

何度修羅場をくぐっても、民子の美しい裸身は衰えを見せず、その美しさと裸身のプロポーションは、流石に和也の自慢だけある。

正装に身を固めた華やかな参加者の中を、民子は全裸に犬の皮首輪を嵌められ、小型バックを携えて、和也に赤い犬紐で引かれながら、あの大鏡ステージの真ん中に引き出された。

唯一彼女がセレブである証拠は、和也が凝りに凝って買い与えた特注のきらびやかな首飾り、それと一体化した乳房を隠すことなくデザインされ、アンダーバストに輝く胸飾りとブレスレットで、時価一億円と言われている。

これは民子のお仕置きの時に使えるように、製作段階から全裸の民子の肉体(からだ)にフィットさせる配慮がなされ、オーダー時、仮合わせ時、納品時と、民子はその裸体を宝石デザイナーに晒して、ぴったりと身体に合わさせている。

勿論、大口のお客様から注文された大仕事だから、金の力は凄い者で、「パーティで直接裸身に装着して使う」と言われ様が、そのブレスレットが胸飾りと「固定して繋がるように」と注文されようが、業者はそれを機能的に作り上げるだけで有る。

つまり、一見普通の装身具に見えるが、高価な拘束具としても使えるようになっている。

和也の見守る中、裸身の採寸に始まり、実際に使用しての仮のサイズ合わせ、納品と、民子は無表情を装うデザイナーに実際に全裸拘束されて、その使い勝手の具合を試している。

実用性が求められるので、あらゆる体位が想定され、そのアクロバチックな姿勢でのフィットを裸身で試す屈辱的な物だった。

「奥様はどんなお姿でもお似合いですし、お美しいです。」が、デザイナーの口上だった。

それらは和也の意向で、多数の良質ダイヤとプラチナで作られていて、あくまでも、セレブ民子が汚されるのでなければパーティの主催ホステスとして面白味はないのだ。

当然の事だが、鏡ステージには固めのマットが敷かれ、民子の登場を待っていた。
今回は、おひろめではないので、挨拶の口上は和也が考えた。

「今夜は旦那様の命令で、皆様の日頃の鬱憤(うっぷん)を晴らして頂く為に、私が皆様にお仕置きをして頂きます。」

盛大な拍手の中、スックと挨拶に立った民子は、その場で突然和也に命じられた通り、自ら腰を幾分突き出し、両手で二枚の肉花弁を左右に広げて見せる事で参加者に覚悟を示して挨拶をする。

「この通り何をお命じ為されても、けして逆らいません。如何様(いかよう)にも申し付け、私で存分にお楽しみください。
また、私を責める道具は揃えてありますのでこちらをどうぞ」と玩具の類を自ら披露する挨拶をした。

民子が開け広げて見せた小型バックの中身は、ローターから模造男性器付バイブ、アナル用バイブ、強力マッサージ器、それに皮製の拘束具と多数取り揃えて、選り取り見取りで、「お好きに使ってお楽しみ下さい。」と覚悟の口上だった。

挨拶の後、民子は待ち構えていた和也から、段取り良く下半身にゼリーローションを塗られ、乳首が立って隠せなかった。
ローションは、いきなり攻められても民子に負担が掛らない為の配慮で、裏を返せば、それも赦される行為なのだ。

和也が、「さぁ、これで何処もお使い頂く支度が出来ましたので、どうぞお仕置きをお始め下さい。」と参加者をステージに招く。


当然誰も遠慮はしない。
思い思いに構想を練ると民子に近付いた。

明るい照明の下、佐々木和也の目の前で一組の全裸の男女が絡(から)み合って、ユックリとうごめく様に濃厚な性交を此れ見よがしに犯っている。

その濃厚な性交の男女は、男は遊び仲間の一人で、女は和也の妻・民子の組み合わせだった。

つい先ほどまで、民子は前戯と言うには余りにも強烈な遊び仲間の指攻めで何度もアクメ(絶頂)状態に追い込まれていた。

指攻めは、遊び仲間に二本指を挿し込まれての激しい抜き挿しで、民子の極(きわ)まった善がり声が絶える事無く周囲に鳴り響く。

民子は泣き喚く様に善がって腰を浮かし、堪(こら)え切れずに「潮吹き」と呼ばれる愛液をほとばしる醜態姿を曝(さら)け出す。

民子の性感度が高まり、何度かアクメ(絶頂)状態に出来上がった所で遊び仲間に欲棒を抽入され、一転して今はジックリとした攻めを始めた。

もぅ始まって十分を越えているが、遊び仲間の一人が和也の妻・民子の性感反応を愉しむかの様に、優しく柔らかく此れ見よがしにねっとりとした腰使いでユックリと生々しく突き入れて民子を攻め続けて居る。

それは先ほどから、和也の妻・民子の股間に遊び仲間の欲棒の抜き挿しが、「何時(いつ)まで犯るのか」と想うほど質濃く永々と続けられている。

無理も無いのだが、本音で言えば犯られている間の民子は快感を貪(むさぼ)るに無我夢中で、正直、余計な事は考えられないのが普通である。

性交の佳境に入ってしまえば、もぅ女の性(サガ)で遊び仲間にああされ様がこうされ様が、要求されるままに身を任せて止められない。

民子も、明らかに行為に集中して反応しているが、夫・和也が合意してとの性交を認めたのだから、愉しんでジックリ犯られても仕方が無い。

遊び仲間のネチッ濃いお愉しみに民子も感じて居て、それに呼吸を合わせて快感を貪(むさぼ)る様に恍惚の表情を浮かべてねっとりと濃厚な受け腰で応じている。

民子の粘膜の感触を味合うかの様に、遊び仲間の生々しく愛液に濡れ光る陰茎が、喘(あえ)ぎ声と伴にユックリと見え隠れしている。

民子は、羞恥の感性の中で気取(キドリ)を捨て去り、今進行しつつ在る自分の性交プレィにジックリ気分を出して、本能で没頭して居る。

しなやかに軽快に、あられもない裸身をなやましく絡(から)ませて、民子は本能のままに遊び仲間のとの濃厚な性交姿を夫・和也に観せて居る。

互いの目の届く範囲で、性交ショー化してギャラリーに観せながら大胆に犯るオープン・ソーシャルセックス(公開・社交的な性交)が、夫婦合意の遊びの性交である。

正直、目の前で自分の妻が他の男に抱かれているのは胸が詰まる想いも在るが、その嫉妬と興奮は帰宅してからの夫婦の性交で責め晴らせば癒される。


夫婦間には、生物学的本能に依る浮気の危機が宿命として付きまとう。

浮気だろうが本気だろうが、性行為自体は人間なら誰しも「犯りたい本能」を持っていて、通常は誰しもが犯る事で在り珍しくは無い。

何故ならば、男性にはより多く子孫を残す種(精子)ばら撒きの性交本能があり、女性には選り優秀な種(精子)を得る為に違う男性と性交する欲求がある。

つまり男女共に社会の倫理観とは裏腹に浮気本能が在るのだが、その浮気本能は一夫一婦制と矛盾し、安易に実践すれば夫婦生活崩壊に到る危険がある。

これを、「愛情や精神力」と言う不確かななものだけで規制して、無理やり乗り切ろうとするから「ほころび」が多く、結果、離婚に繋がる。

であるならば、平安期の「歌垣の遊び」の様な浮気本能を代替するような遊びの性交の場を、「夫婦合意の遊びシステム」として構築した方が理想的かも知れない。

その「夫婦合意の遊びシステム」の絶対条件は、浮気の様に影でコッソリ他人(ひと)と性交する事ではない。

夫婦合意の遊びの性交だからこそ互いの目の届く範囲で、隠し事無くセックスショー化してギャラリーに観せながら犯るオープン・ソーシャルセックス(公開・社交的な性交)が絶対条件である。

遊びの性交を互いにオープンセックスで観せる分には、嫉妬(しっと)無く種(精子)ばら撒き本能や選り優秀な種(精子)を得る本能を擬似的に満足させられる効能が在る。

勿論、オープン・ソーシャルセックス(公開・社交的な性交)の興奮を抱えて帰るから、帰宅後の夫婦の一戦は濃厚な性交に成る。

そしてこの遊びを始めて以後の佐々木(九条)夫妻の夫婦仲は、互いに互いを思い遣る事で以前よりズット親密に成った。



一人終わって五分後、民子は凄まじい輪姦陵辱の嵐の中に居た。

ショパンのピアノ夜想曲と伴に襲いくる被虐の快感に、民子の肉体が、思いとは別に脳内でアドレナリン(興奮ホルモン)を噴出している。

遠慮も容赦も無いメンバーだから、民子はアッ言う間に全身一度に来客を迎える事になる。
上品に、そして冷酷にがこの場を支配する雰囲気だから、皆にそれを楽しんで貰わなければならない。
しかしそんな心配は無用だった。

場慣れした参加者ばかりで、要求するレベルが圧倒的に高く、それらが民子の陵辱を競い合う。
毎度の事だが、その傍らで「まだまだ、もっと。」と、和也が参加者を煽(あお)る。

「主催ホステス九条民子」は手も口も乳房も女性器も、アナルさえも、躊躇(ためらう)事なく参加者の要求に供せられる。

乳房やでん部は撫で擦られ、わし掴みに揉みしだかれ、乳首は抓まれ、ひねられる。

下半身には多数の手が伸びてきて、どの穴にも無遠慮に潜り込んで来る。
もうめちゃくちゃ修羅場で、民子の花弁は直ぐにでも愛液を滴らせる。

やがて、口も花芯もアナルも花弁の中に到るまで、男性の欲棒やバイブ器具が民子に押し入って来て、その全てが勝手に深く浅く出入りを始めると、民子は強烈な快感に襲われ、いきなり大声で善がりながら悶え始める。

民子は、まるで自分が何をされ、何をさせられているかも把握出来ない修羅場にいた。

それでも花弁を掻き分けて出入りする様子は腰を浮かせて参加者にお見せしながら、受け腰を懸命に使う事が義務付けられていて、実行しないと満足はして頂け無い。

和也と民子の新婚マンションには、マットを敷く定位置がある。

定位置にマットを敷いて男が仰向けに寝、民子におシャブりをさせて硬く成った所で後ろ向き騎上位で民子を跨(また)がせて抽入を命じる。

天井からはフックが吊り下げて有り、その先に電車のグリップ付きつり革が肩幅程度で左右に下げてある。

後ろ向き騎上位で欲棒を貫かれた民子に、そのグリップ付きつり革をまるで体操の吊り輪の様に左右の手で握らせ、懸垂様に腰を上下させて犯り始める様に命じた。

その民子の顔面に、男の脚を跨(また)いで別の男が欲棒を突き出し、民子にシャブらせれば公開三Pが完成する。

民子が仰向けの体位の時は、前後ろと口に加え、両手も男の欲棒で塞がる。
民子の身体にそれぞれ迎え入れていれば、此れで一度に五人はお相手が出来るのだ。
うつぶせの時は両手が使えない分受け腰の動きは激しく応ずる事が出来る。

今夜の民子は、選りすぐりの参加者達に陵辱を受ける為にこの場に居る。
それはおひろめの時の比ではない。

マットの上であらゆる体位を指定され、それに応じて身体に受け入れた物を、自ら首と腰を使って、深く浅くと、応じ、自分の刺激を高めて見せなければ参加者は満足しない。

この被虐感が、民子の脳裏に強烈な刺激を伝えてくる。
客観的に考えて、今の自分の姿は生まれ育った常識では考えられない。

それを、抗う事無く他人に命じられて受け入れる事に、何故か喜びを感じ始めている。
「これは、平穏を守る為の犠牲」と理由を付けながら、実は身体の方が知ってしまった刺激を忘れ難いのかもしれない。

多分、理性と性欲は脳の違う所で考えている。
性欲は度重なる経験でエスカレートし、物差しが広がっている。
いつの間にか、自分がこの理屈では有り得ない不道徳な陵辱に、素直に馴染んでいる事を民子は思い知らされた。

参加者の加虐性に満ちた要求は、果てしが無い様に感じられる。
それに応じながら、民子は「気持ちに犠牲を伴う難しい判断だけれど、此れで良いのだ。」と思った。

元々理性と性は脳の感じる部分が違うから、絶えず理性的な倫理観も拭い去れない。
それ故、民子の戸惑いと憂いの表情は健在で、参加者の陵辱意欲をそそるには格好の風情と成っていた。

始まってしまえば興味深々で、教祖に促されたのか最初呆然として成行きを見ていた由美も、目を輝かして民子の陵辱に参戦して来た。

こうなれば、どうせ止め様が無いのだから、由美もみすみす親友陵辱の機会を逃せない。
親友に惨めに弄ばれるのは特別な感情湧く、だがこの場ではそれを思う余裕さえ、民子には無い。
何しろ何処もかしこも同時の責めに見舞われては、全身で善がるのに精一杯だった。

ただ、「親友に陵辱されている」と言う被虐の快感は、充分に感じていた。

此れが終わるまでは、民子は参加者の物で、何に使おうがどう使おうが全て彼らの自由が決まりで、由美が民子を責めて楽しむのは当然である。

週刊紙ネタにされては困るので、内緒の話だが、このパーティで、陵辱の海を漂う「主催ホステス」にかける掛け声は、「ハッスル、ハッスル」で、器具攻めだろうが、口と女性器に二人同時に受け入れようが、回りは全て「ハッスル、ハッスル」で囃子立てる。

それは民子に一層の奮闘を「強いる為」の声援である。
いかなる場合も、命じられた事に受身は許されない。

元来「ハッスル、ハッスル」は、主催ホステスに、自分で自分を懸命に責め立てる立場に追い込む為の、合理的掛け声である。

民子はそれを忠実に守って奮闘を見せ、参加者を楽しませなければならない。
好奇の目で民子の痴態を見つめる参加者達の残酷な意志で、民子は情け容赦無く「ハッスル」と追い立てられる。

今夜は、聞き慣れた親友中村由美の遠慮の無い興奮した声も、「民子ちゃん、ハッスル」と、民子に奮闘を強いている。
その掛け声に呼応して、民子の腰は惨めに罰し続けられる為に必死に踊る。

襲いくる被虐の快感に、民子の肉体が勝手に脳内で止め処も無くアドレナリンを噴出している。

今回は民子のお仕置きパーティだから、民子の希望で乱交パーティが予定になく、徹底的に民子ひとりを和也の目の前で皆が辱め弄ぶのが目的だった。

だから、「ソレ、民ちゃんハッスル。」が、クラシックのピアノ曲に乗って果てしなく続く。

こう言う場所で、ガツガツ遊ぼうとすると、軽蔑され良い笑い者に成る。
参加者の方は悠々と時々休みを交え、飲み食いし、気が向けば交代しながら和やかに民子で遊ぶのだ。

まさに「晒(さら)し者」で、和也の思惑通りに民子は恥辱に塗(まみ)れて行く。
参加男性の全てを、口も性器もアナルも使って、民子がひとりで満足させねば成らない。

それも、尋常ではない行為の要求全てに「ハッスル」と深く浅く応じて、首を、腰を、振り続けて・・・。

人数が多いので、感じ続けても気絶している間もない。
何度も果ててしまうのだけれど、休む間もなく入れ替わり立ち代り新手が加わってくる。

皆慣れているから、させられている事を民子に大声で言わせる。
時折、参加者から民子に宣言のリクエストが来る。
「**様の命令で、民子は今**をさせられています。」

それを言わされる事で、陵辱感、被虐感は更に募る。
言わされた命令を、「ハッスル」とけしかけられ、民子は必死に応えなければ成らない。

民子は、何の因果でこの浅ましい姿をさらけ出しているのか・・・その答えを、今自分の身体に聞いている。

「あぁ、感覚が突き抜けてゆく・・・・あの感覚だゎ。」
その性的刺激はすさまじく、民子は何度も快感に気が遠くなった。

誰も気付かなかったが、この民子の奮戦する姿を、冷ややかに見詰る目があった。

その寂し気で、何か言いたそうな視線は、鏡の中の白い顔の目から放たれていたが、誰もが民子を陵辱する事に夢中で、気が付かなかったのだ。

ミレアの見詰る中、「ハッスル、ハッスル」の声が執拗に続き、民子は全身でそれに応えている。
やがて、あきれたかのように、ミレアの白い霊体は消えた。


この長い陵辱の時間で、唯一股間が空いて休めたのは、皮肉にも公開放尿を命じられた時だけだった。

特に面白がって攻め立てる同性(女達)の器具責めは激しく、民子は「ハッスル」に逆らえず受け腰の動きが早くなり、善がり声は止まずに快感にのた打ち回った。

男の欲棒を咥えて首を必死で動かしながら、民子の「此れ見よ」とばかりに腰を浮かせて大きく開いた股間の付け根には、極太のバイブがモーター音を響かせて挿し込まれ、参加女性の手で深く浅くと、出入りを繰り返され、隙間からは体液が止めどなく流れ出ていた。

その上、横からは別の女性の手がローターで民子の敏感な花芯ボタンを弄っている。

その顔ぶれの中には、目を異様に輝かせ、責め具を握り締めて「民子チャン、ハッスル」と、民子の花弁の中に抜き挿しする中村由美の顔も、しっかりと混ざっていた。

経験の有る方も居ると思うが、本当にいっぱい、いっぱいに追い込まれると、もう善がり声も出ない。
ただ、ヒィヒィと口をパクつくだけで有る。

そうした究極の状態に落ち入っても、民子の股間の出入りは深く浅くと休まる事は無い。

お客様が満足するまでは、口もアナルも同様で、器具も男の物も受け入れて、それにリズムを合わせて、ハッスルを続ける。
卑猥な事をしても下品に見えないのが、民子である。

和也は大勢に容赦なく犯られ続ける民子の姿が見たいのだ。

民子もそれを承知しているから、「ここに居る生身の参加者も含めて、全てが和也の大人の玩具代わりで有り、それを使って自分は和也に愛されている。」と解釈している。

民子は生ライブ(生実況風景)のセックス・ヒロインとして、仮面の下の素顔を暴(あば)き出されるように荒い呼吸をしながら壮絶に攻めたてられている。

しかしこれはあくまでも民子には非日常の時間で、それが普通だが日常の生活は平凡でこんなスリリングな遊びの時間など無い。

勿論そんな卑猥な時間を民子が過ごしているなど、日常生活は到って普通だから世間は知りもしない。

つまりこれは、民子の身に時たまに訪れる遊びの時間で、何も大袈裟(おおげさ)に考える必要は無いのだ。


「情動性身体反応」と言うのは色々なパターンが存在するが、過去の学習を基にして無意識に選択される無意識行動や反応である。

欲棒が挿し込まれて抜き挿しが始まれば脳が反射的無意識行動で快感を求め、肉体(からだ)が勝手に反応して抜き挿しに応じる受け腰が始まるパターンも在る。

本格的な露出公開性交の場合、性玩具(おもちゃ)扱いに嬲(なぶ)られながら休息と水分補給の時間を三分ほど数回挟み、堪(たま)らない官能の輪姦行為は二時間〜三時間続く。

ヒロイン・民子の輪姦ショー公演中の脳内は、非日常の羞恥心と興奮で脳内快感麻薬・ベーターエンドロフェンが充満し、半ば快感にラリる状態の反応が明らかだった。

民子は禁断の露出公開性交を仕掛けられて羞恥心で溶けそうな想いに耐え、ギャラリーの熱い視線を集めながら次々に男の欲棒を受け入れて性交を繰り返し続けている。

男達の欲棒が生々しく抜き挿しを繰り返され、犯られては果て、犯られては果ての激しい輪姦行為の中、民子は極上のオーガズム(絶頂感)を体感し続けていた。



九条民子は、股間に欲棒を咥(くわ)えて気持ち良さそうに受け腰を使い、男のリズム好い抜き挿しの腰使いとのやりとりを愉しんでいる。

初めての時は戸惑いも在ったが、民子は和也の友人達とのソーシャルセックス(社交的な性交)を一度経験して、今は民子自身が犯る事に好感触の自信も確信もした。

自信も確信も「確りとモノにした」から、民子の生々しく卑猥(ひわい)な性交ガチ・バトルは裸身を躍(おど)らせながらも安定した乗り切りを観せて次々に熟(こ)なし続けている。


確かに民子は、セックスショー化してギャラリーに観せながら犯る過激で破廉恥なソーシャルセックス(社交的な性交)を行っている。

そしてそれが、今までの民子の貞操観念の意識からすれば、世間の解釈ではこのソーシャルセックス(社交的な性交)は「充分過度に破廉恥」で在る事は民子も承知している。

しかしその「破廉恥」な性交遊びを、民子がアクティブ(活動的・積極的)に犯れるには、それなりに確りした理由や納得出来る自然な感情がある。

「破廉恥」な遊びの性交は、元を正せば非繁殖目的の「擬似生殖行為」で在って、他の動物のように繁殖期を持たない「年中発情の人間種独特のもの」である。

つまり、生殖目的では無い「擬似生殖行為」そのものが、人間の本質として単に「快感を愉しむ目的の遊び」に他ならない。

そして「年中発情の人間種の本能」が快感の満足を求めて遊びの性交を要求し、命題が遊びの性交であるからこそ、あらゆる性癖が発生して次第にその内容が過激にエスカレートする。

その性癖を満足させるソーシャルセックス(社交的な性交)を行っている事は、「他人(ひと)に言えない破廉恥な御乱行」と言えばその通りだ。

だが、最も人間らしい本能なのだから、例え「破廉恥な行為」であろうとも「合意の上の遊び」ならば、そんなものは公表しないで個々に愉しめばそれで良い。

そして公表されない「破廉恥な御乱行」は秘すべきものとして隠されが、実は何処にも在るエピソードで、本当は然して珍しくは無い。

しかしこう言う事は、個人の想像だけで「破廉恥」と批判して良い物だろうか、ソーシャルセックス(社交的な性交)の経験を通じて初めて綺麗事の疑惑を感じる。

つまりその「破廉恥」を、然(さ)して遊びを経験しない連中が、善人振って表向きの綺麗事だけで批判する。

どうせそう言う事なら、民子は大袈裟(おおげさ)に考えずに痴女に成り切ってソーシャルセックス(社交的な性交)を愉しめば、人生はまんざら悪く無い。


そもそも現代の倫理観では、乱倫(乱交)や輪姦が「非倫理的」だと言う印象が強いが、本来の人類は「群れて生きる」が基本で、婚姻関係も「群れ婚」だった。

そして人類の生殖スタイルの基本は、雌に対して多くの雄が群がる輪姦で、その性交の結果多くの精子から最も優秀な精子が子宮に定着する子孫選別システムだった。

つまり人間の生物学的な婚姻関係の正しくは「群れ婚」で、天が与えた自然本能としての性交の基本は乱倫(乱交)や輪姦だった。

そしてその乱倫(乱交)や輪姦の「群れ婚実践」は、日本の場合、平安期から形を「呼ばう=夜這い」に変えて昭和の大戦終戦まで、村落地域で永く続いた。

即ち人類は、現代の環境条件である「夫婦つがいの子育て条件システム」を思考から除外すれば、性的興奮だけで性交は充分可能で、女性の肉体的構造と性感もそれが可能に出来ている。

だからこそ人類は、日常のストレスを本能的に消化する為の非日常の部分で、遊びの性交は必要かも知れない。

もしかしたらそれは、遠い過去から人類が引き継いで来た本能として民子の目の前に広がった新たなる開かれた道かも知れないのだ。


大人(おとな)なら、恋と性愛の違いくらい民子も承知している。

性行為と愛情は必ずしも一致しないもので、性行為は性的興奮だけで犯れるものだから、「愛か無ければセックスなど出来ない」などとややっこしい事を言うから世の中が混乱させる。

そうした嫉妬(しっと)は恥ずかしく、婚姻相手以外の他人(ひと)と遊びの性交をしたからと言って、それは愛情の有無として問題にするべきでは無い。

つまり他人との性交プレィは、日々のストレス解消程度の只のシュール(非日常的)な遊びであると容認出来なくは無い。

このシュール(非日常的)で衝撃的な性交プレィの機会を得て、民子の性生活に於けるバリエーション(変化)が格段に広がり、多くを学習したのは現実だった。



この日嵐の時間は四時間に及び、終わった時、民子は嬲り捨てられ、汗と精液に塗れたまま、精根尽き果てて鏡ステージの上に転がっていた。

しかし民子は、そんな惨めな姿の自分に、言い知れない満足感を感じていた。
あんな事を受け入れた後なのに、「責任を果たした達成感」と言うか、充実した思いが湧いてくる。
ショパンのピアノ夜想曲(ノクターン)は、まだパーテー会場に流れている。

民子は疲れ果てて朦朧とした意識の中、ステージの大鏡の中に、哀れみの表情を浮かべる白い影を見た様な気がしたが、確かめる気力も湧かない。

傍らで、三組がまだ談笑していて、時折笑い声が聞こえている。
和也も談笑の中にいて、どうやら次回に「民子をどうお仕置きをするかの相談話」を熱心にしている。

民子に、次はあれをさせよう此れをさせようは女達が熱心で、どうやら名案があるらしく、話が熱を帯びて笑い声も混じっている。

「今度は黒人を二、三人呼んで来て、民チャンを犯らして見ましょうか。」
「パーテーの前座ショーって処ね。」
「人数は最低三人居ないと全部は塞がらないぞ。」

「黒くてど太いのが三本・・・・全部を塞ぐ・・」
「なぁに、嫌だ、民チャンにそんな事をさせるの。」

「ハハ、それ良いからそれもやらして見よう。」
そこに聞き覚えの有る女の声が割り込んだ。

タレントの島美紀の冷たい声だった。

「甘いなぁ、和チャンは、お仕置きがしたいのでしょ、知り合いに調教済みの犬がいるから、民チャンとやらして見たら。」

「えぇ、犬とぉ・・・それは酷く無ぁい。」

「犬は、チョット・ヤバイよ可哀相じゃない。」
「大丈夫よ、ちゃんと予防接種済みのラブラドールだから。」
「いくら予防注射って言っても、犬よ、それはヤッパリ可哀相よ。」

「だって民チャンは、和チャンを酷い目に合わせたのだから、何でも犯らせちゃえば良いの。」
美紀が、「何が何でも」の勢いで、押し切ろうとしている。
「そうかぁ、民子が犬に犯られる処を、見てみたいと言えば、確かに見てみたいな。」

どうやら、佐々木和也は興味を示したようだ。

佐々木和也も温泉観光地へ遊びに行くと、たまに鑑賞を誘われて犬との獣姦ショーを観ている。
人間が現にショーで犬と犯って居るのだから、民子が応じさえすれば肉体的にまったく不可能な行為ではない。

だからもぅ、細かい毛がビッシリと生えた大型犬の淫茎に内壁を擦(こす)り攻め立てられる民子の表情と反応に和也の興味は傾いていた。

彼が興味を示したら、次の民子のお仕置きは計画は、犬が相手と決まったようなものだ。
「ネェ、そうでしょ、民チャンがどんな顔しながらするか、すごく楽しみ。」
「じゃぁ、やらしちゃおうか?」

「何ョ、貴女はさっき可哀相だって言ったのに。」
「和チャンが賛成なら良いじゃない、犬の手配なら任せて。それに民チャンからの了解も、私がしっかり取るから。」

人間は残酷な生き物で、自分が安心する為に「見下す相手」を作りたがる。
「他人を残酷に扱える」と言う優越感は得難い快楽である。

ああこう言っても、民子にさせる事である。

所詮、彼女達の本音は犬との交尾も民子と言う他人がする事で、女性は冷酷な上に野次馬心が旺盛だから、民子本人の気持ちには関係なく、可哀相も口先だけで楽しそうに次のお仕置きを計画している。

「ハハッ、美紀チャンはきついのね、でも面白そう。」
もう彼らに、今夜は用済みでボロボロの民子の事など、気に留める風情もない。

三組は、民子も知る著名人カップルだった。
最近売り出し中の若手実業家と若手女優、若手の売レッ子評論家と某局女子アナ、例の売れない女性タレント島美紀とプロデューサーのカップルも居た。

某局女子アナを売レッ子評論家に紹介したのはプロデューサーで、売レッ子評論家と某局女子アナ、タレント島美紀とプロデューサーの二組のカップルは業界の付き合いが発展して、誘い合わせて此処に参加している。

女子アナウンサーなどと言うと、一見華やかな職業だから憧れる女性は多い。

だが、内情は結構厳しい職業で、企画や人選はプロデューサーが握っているから局アナなんて個人営業の女郎みたいなもので、アナウンサー部屋に待機していてお座敷(声が)が掛るのを待つて、仕事はプロデューサーから貰う事になる。

局に入って先輩達のして居る事を見ていると、新人も段々その辺の事情が判って来る。
プロデューサーからお座敷(声が)が掛らなければ、女子アナは自力で仕事を捜さなければならない。

そこで日頃の付き合いが大事で、力関係がハッキリしているからプロデューサーがらみの酒席の付き合いなどコンパニオンも同然で、仕事を貰うにはお誘いは断れない。

プロデューサーのご機嫌取りも当然だが、彼らの立場上番組スポンサーの担当者のご機嫌を取ったりするのもプロデューサーの仕事の内だから、手っ取り早く酒席に女子アナを使う。

酒席に女子アナが誘われて、要求されるのは当然の事ながら色気ある対応で、無愛想ではすまされない。
まぁ、その辺りを上手にこなすのが「世渡りには必要だ」と嫌でも覚えさせられるのが女子アナ家業である。

仕事が欲しければ利巧な女子アナなら無理しても人気アナになろうとするから、三年もするとスッカリ業界の付き合い方を覚え、肉体(からだ)を使った大人の付き合いも出来るようになる。

可愛そうと言いながら、「面白そう」と言ったのは、その採用されて三年目の好奇心旺盛な某局女子アナだった。

この某局女子アナ、プロデューサーに仕込まれて、酒席の接待では酒の相手をしながら接待客の欲棒をテーブルの下で扱(しご)いたり、股間を触られても逆らわなかったりのテクニックから、果ては接待客の欲棒を咥える事まで仕込まれて、美味しい仕事を沢山確保して人気を得た。

知名度のある彼女のおひろめの時は、参加希望者が殺到したそうだ。
外部に漏れればスキャンダルになる事確実な、名前を知られた連中の、秘そやかなる気晴らし遊びである。

和也は彼女達と、どの道この遊び仲間だから到って仲が良い。
下世話に言えば、能く(よく)パーテーで和也に抱だかれる間柄の女達だ。

彼女達は、「可愛想に、和チャンは平気で民チャンに酷い事をさせるのね。」と、奇麗事を言っているが、言った女達が、先ほどまで一番先頭になって、「サァ、民チャン、ハッスル」で民子を陵辱する事に余念が無い。

建前は「可愛想に」だが、本音は残酷な物で、性的に責め立てた時の民子の反応に好奇心いっぱいなのだ。
こういう時は、本来同性の方が残酷で、言葉とは裏腹にとことん痛振るものである。

親友の中村由美などその口で、高校時代からの親友をこうした形で自由に陵辱出来る機会など滅多に無いから、始めたら止まらない。

それこそ目の色変えて民子を責める事を楽しんでいた。
唯一友達らしかったのは、帰り際に「今度はお返しに来て。」と、自分の「おひろめ」に民子を誘った事だった。
つまり、「敵討ちは甘んじてさせる」と言うメッセージだ。

彼女にして見れば、「次は自分の番だから、民チャンにお返しさせれば」の気安さが、目の色変えて民子を責める根底に在ったのだろう。

島美紀など、すっかり加虐性(サド)が目覚めたのか、民子を面白がって攻め立て散々に弄んだ挙句、最期はとどめで「民チャンはよく平気で、皆にこんな事をやらせるわネ。」と、蔑(さげすむ)様に言い、「よっぽど淫乱なんだ」と毒を含んだ言葉を浴びせる。

その島美紀が、漸く輪姦三昧から開放され、疲労こんぱいで横たわる民子の傍らににじり寄り、「和チャンが、この次は黒人の太いのや、犬とやらせると言っているけど民チャンはどうなの?」と聞く。

民子が、「和也さんがおっしゃるなら。」と応えると、「そう、じゃ、犬ともやるのね。」と、念を押す。

「はい。」と、民子が返事をすると、「楽しみだわ。犬の事、私が代わりに和チャンにおねだりして置くね。」と、改めて民子を追い込んだあげく、「私には、とてもそこまで出来ないけど。」と付け加える。

早速民子の言質を取った島美紀は、ほくそえんで離れて行った。
とどのつまりは、「自分は嫌だが人にさせるのは楽しい。」と言う事だ。

日頃テレビ画面では少しノーテンキに足りないキャラで売っている裕子の、画面では伺えない加虐趣味の一面がそこにある。

島美紀は、仲間内での民子の人気に嫉妬していた。
それで、いつも民子に辛く当たる。

和也に言わせれば、「美人の民子だからこそ」この陵辱が絵になる。
誰でも、人気のヒロインになれる訳ではない。

実際「おひろめパーティ」で、人気が出ない主催ホステスほど惨めな事は無い。
島美紀は、若い割に気が強く生意気だから美人だが人気はそれ程でもない。

お高く止まった女性は、男達には苦手だ。女性は「素直でないと好かれない。」と民子は思った。
それに事情が許せば、今夜の民子の立場だって、女性として一度は経験したい秘そやかなる憧れかも知れない。


翌日の夜、民子は抱かれながら、和也の口から由美がパーティに参加した経緯を聞いた。
先程から、和也は民子を組み敷いて欲棒をゆっくりと味わう様に深く浅く抽送している。
犯りながらのこう言う話は、気分を盛り上げる為のスパイスみたいなものだ。

「どうだ、民子も少しは嬲られる事を楽しめるようになったか?」
「はい、本当にすごく感じて楽しかったです。またお願いします。」

「それなら良い、それはそうと、ゆうベの客の中に岩崎の妹の中村由美が居ただろう。」
「えぇ、少し驚きました。」

「あれはな、由美のバカ亭主が五百万もの大金を付けて、女房を修行にどうぞと差し出したのを教祖から聞いて、面白いからお前を責めさせる為に俺が招待(よんだ)のだ。」

「そうでしたか、お楽しみになれて良かったですねぇ。」
「どうだ、高校時代からの友人に嬲られるのも良いものだろう。」
「えぇ、刺激的でした。」

「あの女、家族の依頼で教祖に一ヵ月間、毎日みっちり仕込まれるそうだ。人生観が変わるだろうな。」
和也は中村由美の顔でも思い出しているのか、視線を窓に向けた。

「そうでしょうね、キット。」
「うん、何しろあの岩崎の妹だ。今度は、十日のおひろめの時に、俺もきっちり責め上げて楽しませてもらう。」

そう言うと、和也の腰の動きが早まった。
和也の加虐性は、益々磨きがかかっているようだ。

民子も勝也の腰の動きに呼応するように、腰の動きを合わせている。
「お楽しみになれて宜しいですね。」

「お前も、由美に負けては居られないな。」
「そうですね。私も・・・・」

「それはそうと、あの島美紀がお前に犬を貸せると言っているが?」
和也が、欲棒の抽送を繰り返しながら、恐る恐る話を切り出した。

「ほら、来た。この話題が本命なのだ。」
いよいよ犬が相手と聞いて、民子の頭に、「キーン」と言う、疲れた様な不思議な被虐の感覚が、湧いた。

言い出したと言う事は、和也にその気が有ると言う事だ。
それなら、抵抗するだけ無駄な摩擦になる。
民子は冷静を装って応えた。

「その事でしたら、美紀さんからお借りしても宜しいですわ。」
「エッ、ホントに良いのか?」

和也は説得に手間取ると思っていたので、意外な返事に驚いた。
こうなったら民子にも意地がある。

「此間(このあいだ)、貴方の気が済むまで、お望みのままに、お仕置きをなさって下さい。と申し上げたはずです。」
「しかし今度の相手は、民子でも覚悟が必要じゃないのか?」

「宜しいのです。どうせパーテーの時は何時も首輪とリードだけで、私も貴方に仕込まれたメス犬ですから。」
耳元で和也にそう応えると、睦み合いながらの会話の途中で、民子の胸が締め付けられるような被虐感に襲われた。

何故か、それを期待する気持ちが湧いてくる。
その会話の被虐的内容に興奮したのか、思わず民子の受け腰の動きが激しく速くなる。
口先だけでない民子の反応が和也に伝わって来た。

「そうか、民子も承知と言うなら話が早い、実は皆も期待していた様だから、三日後にでも企画して見るか?」
「当分お仕置きだと仰っていましたから、貴方がお楽しみならそうなさいませ。アッ、アァァァ。」

同時に、話の進展に民子への嫉妬と加虐の気持ちが高ぶったのか、和也の欲棒が硬さを増し、より動きが激しくなる。

欲棒の出入りが深く浅く激しくなって、民子の腰の動きも激しさを増し、これから起こる被虐への興奮を隠せない。

「あぁ、民子も承知なら良いお仕置きになるだろう。」
「貴方がお楽しみになれるのなら。」
「ハハ、それにしてもあの売れないアイドルタレント、お前の人気や宝石、衣装に嫉妬している様で色々と言うわ。」

彼女の民子虐(いじ)めは、エスカレートしている。
「美紀さんにギブアップはしませんゎ。アァ。それにもう貴方は犬とさせると決めていらっしゃるのでしょ。アァ。」

和也と交わりながらの話の内容が過激で、感じる・・・「アァァ。」
民子はそのまま気を失った。気が付いた時には、安らいだ気持ちで横たわっていた。

九条民子は変わった。
好色な女に変貌し、背徳に満ちた性生活を、己の人生の一部として愉しみ生きている。
自らを縛っていた性倫理観は「いったい何だったのだ?」

それは、ちょうど日本の軍国教育が敗戦で解き放たれ、教育が正反対の思想に切り替わった時、「今までの教えはいったい何だったのだ?」と思わせた様に、その理論的答えは無い。

つまり、「違う考え方を取り入れれば変わる」と言う至極単純なものだ。

日本の法律では、思想や宗教の自由が原則的には認められている。
処が、世間は自分の物差し建前の価値観で「良いの、悪いの」と他人の事を判断する。

言い分は各々にあり、真実は思想や宗教観によっても違いがある。
様々な価値観で、それぞれが相手の思想を無視して結論を出そうとするから、争いが起きる。
九条民子が、自分の物差しを変えて生きる選択をした事を、誰も責められない。


中村(岩崎)由美の「おひろめ」が、さして日を置かずに開催され、民子も夫に連れられて参加した。

何しろ中村(岩崎)由美の義母は、「今の内に体力を着けて置きましょうね。」と上質なカキフライや高価なうな重を由美に食べさせている。

由美にうなぎを食させて体力を着けさせて、「修行に励(はげ)め」と言う事で在る。

つまり義母は、先の展開を考えて由美の体力に気を使っていた。

夫も義父・母も承知の上の事で、由美は素っ裸で犯られる為に他人(ひと)前に駆りだされた。

教団で教祖に仕込まれて想像が着くから、これから起こる現実に滑りを良くする潤滑油が由美の股間から勝手に湧き出して太腿(ふともも)を舐(なめ)、滴(したた)り落ちる。

「そうたいした事では無い」と由美は甘く観て居たが、それが想像以上に膨らんでいた事がその場に立って初めて理解出来た。

民子が和也に連れて行かれて参加した中村(岩崎)由美の「おひろめ」は壮絶で、鳥肌が立つような濃厚で卑猥(ひわい)な情景だった。

解脱(げだつ)開眼修行場に引き出された呪詛巫女修行の女性は、上半身を拘束された全裸である。

見た目からも服従の性交を容認する趣向(しゅこう)で、相手の性衝動をムラムラと増進させるプロモーション(効果的活動)である。

良く肌に馴染む使い込んだ麻縄で、中村(岩崎)由美の裸体は後ろ手亀甲縛りに上半身をキッチリと縛り挙げられ、修行管理部の幹部に供(きょう)される。

中村(岩崎)由美は、乳房はおろか下半身まで丸出しの晒(さら)し者状態で、犬首輪に繋がれたリードで曳かれて来る。

柔らかそうな半球状の乳房に少し膨らんだ乳輪の中心で乳首が硬く立つ中村(岩崎)由美の括(くび)れた胴回り、適度に熟れた肉体(からだ)の全裸体が当然の様に晒(さら)されている。

陰毛が密生した柔らかそうな三角デルタの下部に卑猥(ひわい)な肉花弁が二枚、可憐に突出して、尻や太腿(ふともも)が眩(まぶ)しい。

均整がとれた肢体が眩(まばゆ)く見え、汚(けが)したくなるような、清純そうな美しい裸身だった。


素っ裸の中村(岩崎)由美の股間にズブリと収まった教団幹部達の欲棒が、二枚の肉花弁の隙間に生々しく抜き挿しされて見えている。

由美は、妖艶な表情を浮かべながら身悶(もだ)え、叫び声を挙げ、腰が抜ける程にイカされ続ける犯られっ放しの生贄(いけにえ)だった。

この場は、本気で真剣に弄(もてあそ)ばれ、刹那(せつな)の性交を愉しむ行為を犯らないと評価されないパホーマンス(披露)の場所である。

汗と愛液に塗(まみ)れた修羅場で海老ぞりに反り返り、欲棒が抜き挿しされている股座を見せ付けて他人前(ひとまえ)で犯って見せるお披露目の性交だった。

基本此処での中村(岩崎)由美には、男の満足の為に肉体(からだ)を提供するルールで、要求される行為にNGはない。

一人一人の男性にも性癖に別々な違いが在り、呪詛巫女修行の女性はそれを形振(なりふ)り構わず満足させねば成らない。

こんな場では妥協無く痴女に成り切らなければ、期待される様な脳が震える新感覚の面白味(おもしろみ)が無く成る。

元々性行為なんてドロドロの欲求を満たすもので、誰が犯ってもそんなに格好が良いものでは無い。

元々性行為なんてものは、多少は我侭(わがまま)で変態的の方が気分が乗り、プレィに燃える。

中村(岩崎)由美は艶(なまめ)かしい怪しい表情を浮かべて、相手を満足させるべく行為に専念する。

解脱(げだつ)開眼修行場の男達が何を望んでいるか、呪詛巫女修行の女性は察知して大胆・奔放に応じる。


中村(岩崎)由美の適度に熟れた肉体(からだ)の白い尻や太腿(ふともも)が眩(まぶ)しい。

中村(岩崎)由美の臍(へそ)の下のV字ゾーンのちじれ毛が密集した柔らかそうな恥丘の下部で、男の腰使いに漲(みなぎ)る欲棒がその陰茎を生々しく見え隠れさせている。

ネバネバとした愛液に塗(まみ)れて抜き挿しされる欲棒に中村(岩崎)由美の肉花弁が押し開かれ、或いは絡み着きながら生々しくうごめいている。

中村(岩崎)由美はもう、連続性交の性感に拠る忘我の境地に入っていて欲棒を抽入された正常位素っ裸で、修行管理部の幹部達に激しく乗り熟(こ)なされている。

抽入した欲棒で膣中をディスターブ(掻き回す)され、中村(岩崎)由美は猛烈な快感に上半身を海老ぞりに反り返り、腰をビクンビクンと痙攣(けいれん)させて反応する。

抽送する男の腰の動きに応じる中村(岩崎)由美の無意識な腰の動きが艶(なまめ)かしい。

中村(岩崎)由美は、ソーシャルセックス(社交的な性交)のサプライヤー(供給者)として、おシャブリも腰使いも、行為に専念する怪しい表情で上手く犯られている。

中村(岩崎)由美を相手に良い汗をかき、溜まったものを抜(ヌ)いて満足すると欲棒を抜いて次の順番待ちの男に由美の使用権を譲る。

犯られ終わった中村(岩崎)由美の方は、直ぐに次の男が行為の要求を始めるから、前の男との行為の余韻に浸(ひた)る間もなく、また喘(アエ)ぎ始める。

この場の中村(岩崎)由美の肉体(からだ)は、参加男性のシエアリング(共同所有)がルールだから、彼らの全てに満足を与えるまでヒィヒィ言いながら犯られ続けられても文句は言えない。

汗と愛液に塗(まみ)れた修羅場に肉体が躍動して、海老ぞりに反り返る中村(岩崎)由美の性反応が激しくなって犯る男達も見物のギャラリーも盛り上がって来た。

続けて何人もと性交するから、中村(岩崎)由美は時々ガクンガクンと落ち(イキ)ながら、犯られ続ける事に成る。

つまり絶頂が繰り返し続くのだから、性愛欲の極限と言う究極の新感覚に脳が震える至福の時を過ごす事になる。

破目を外して刹那(せつな)の性交を愉しむ連中に犯られっ放しの生贄(いけにえ)状態だから、叫び声を挙げるほどイカされ続ける。

中村(岩崎)由美は上半身を海老ぞりに反り返り、腰をビクンビクンと痙攣(けいれん)させ悶絶する。

輪姦(まわし)は一般的に、「女性を蹂躙(じゅうりん)している」とする一方的な解釈も在る。

しかしそれを性的官能に絞って考えれば、夫や恋人など一人相手の性交とは圧倒的に違い、これほど性感を堪能(たんのう/愉しむ・満足)する事は無い。

夫婦間で、「夫或いは妻としか性交しない。」と言う硬化した倫理感は実は相当に重い人生で、永い時間経過の末に息が詰まる事に成る。

そこで夫婦合意の下、ソーシャルセックス(社交的な性交)で複数のメンバーと遊びの肉体関係を築く事で、由美には新たな人生が始まる。

そのプレィも、影でコソコソ二人きりの別室プレィではなく、ギャラリー観視の中で遊ぶ開けっ広げのオープンセックスだからこそ、後腐れも執念も嫉妬心も湧かない。

そしてこの他人前(ひとまえ)で犯って見せるコンバインSEX(複数の形式を組み合わせる性交)は、夫や恋人など一人相手の性交とは圧倒的に違う快感が伴っているのだ。

言わば性行為なんてものは、多少は我侭(わがまま)で変態的の方が気分が乗り、プレィに燃える。

つまり当該(とうがい/あてはまる)女性のプレィに対する価値観の問題である。

女性が性的官能を満喫したいのであれば、その輪姦プレィはリピート(繰り返し)として成立し第三者がとやかく言う事では無い。



「岸掘の奴、欲をかきおって・・馬鹿な奴だ。」
佐々木昭平は東京の宿舎に遣っているホテルに居た。

厄介な氾濫をした岸掘は、永年勤めながら相手の実力を見誤っていた。
政治など、奇麗事ばかりではやつて居られない。
それが判らない奴は使えない。

人が一人この世から消えるのだ。

いずれ、嗅ぎ付かれる恐れがあるから、四日後には秘書を通じて失踪届を出し、佐々木事務所も心配して行方を追っている事に成っている。

つい先程、みどりが帰ったばかりだ。
珍しく人目も避けずに尋ねて来て、メチャメチャ丁寧にこの間のもみ消しの礼を身体でして行った。

なるほどあの女なら、大石とやらとの経験も有効に生かして世渡りをするだろう。
「あの女とは俺も切れそうも無い。」
佐々木代議士は、みどりの肉体(からだ)を思い出して一人笑った。

佐々木昭平には、以前手がけた陰謀が頭を掠めていた。
少し前に「景気浮揚対策」として新五百円硬貨の発行を計画した事があった。

硬貨の仕様が変われば、各種自動販売機から金融機関のコインカウンター、ATMまで買い替えや部品交換の投資が必要になる。

財務省試算で直接投資では一千億円、経済波及効果では、五千億円になる。

構造的不況下の現在では中々投資が起こらない。
政府は無理やり民間に投資をさせる必要があった。

先行して試した二千円札の発行は、国民に使い勝手が悪く、新規の投資需要が伸びず失敗だった。今度は成功させねばならない。

目を付けたのが五百円硬貨だった。

それから二月後、或る密命を帯びた政府系の即席秘密工作員が編成された。
その工作員に扇動されたアウトロー組織が、半島の自由主義国家に飛んで、噂を流して歩いた。

彼の地で、それとなく五百ウオンを削れば旧五百円として日本の自販機に通用する事をレクチャーし、それを日本円で買い入れたのだ。

しかし彼ら自身が、その話が何処から出たのかさえ知らない。
迂回を重ね、上手に誘導されて、その犯罪行為をさせられた事になる。

その偽硬貨が大量に出回って自販機被害が出始めると、国民世論の誘導に苦労はしない。
これは筋書き通り上手く言った。

みどりの「新円切り替え」話も、上手く環境を整えればけして絵空事ではない。
場合に拠っては、昭平の確保して来た裏ルートの出番が無いとも言えない話だった。


民子の臨時獣姦パーティは、結果的に内輪の人数でする事になった。
告知時間が短いので、集まったのはあの雑談のメンバー三組と、ラブの飼い主夫婦、そして和也と民子で有る。

折角の「民子の公開初獣姦」に、参加人数が少ないのを島美紀が残念がったが、遠方のメンバーが多くて前回とまだ中四日ではスケジュールが取れない。

和也の気が開催の実現を急いて(せいて)待ちきれないので、それも仕方が無い。

民子には、自分の中に犬の物が入ってくるなど想像も付かないけれど、不思議と嫌悪感は湧かない。
ここまでやってしまうと、「今更何を言え」と言うのだ。
犬も、「和也の用意したバイブレーター」と思えば何でもない。

当日早い時間帯に飼い主夫婦が黒ラブのブラックを連れてきた。
たれ耳で、可愛いく澄んだつぶらな目をした、大人しい大型犬だった。
顔つきも優しそうで、凶暴さは無い。

飼い主夫婦は、民子が相手と聞いても別に驚かない。
むしろ余裕の無い家庭ならともかく、金持ちの退屈な夫婦には良く有る事で、別に特殊な事ではない。
「良く調教してありますから、上手く行くと思いますが、早くから民子さんに馴れていた方が良いでしょう。」

そう言うと、奥さんが民子を誘い、二人でブラックを慣れさせるウオームアップを始めた。
その時から女二人とも全裸で、ブラックとじゃれ合ったり餌をやったり、親近感を作って行った。

「ね、この子達の方が人間より素直で一途で、可愛いいでしょ。」
そう言われれば、確かに人間の方が余程恐ろしい。
開始時間が近くなると、女二人でブラックを風呂に入れ、隅々まで洗った。

ブラックは頭が良く、「今日の相手」と状況が理解できるらしく、民子に擦り寄ってくる。
見ていた和也が、「ほぉ、利巧な犬だ、今日の交尾の相手が誰か判っている。」と、感嘆の声を上げた。
そう、ブラックの交尾の相手は、民子なのだ。

時間が来ると、飼い主の奥さんは着衣し、ブラックの調教師に変わる。
民子は、裸のまま和也にあの豪華な装身具を身に着けてもらった。
「マァ!奥様、お美しいです。」

その民子の美しさには、飼い主婦人も溜め息をついた。
恐らく本音の部分では、「金持ちのする事は突拍子も無い。」とでも、思っているだろう。

相変わらずショパンのピアノ夜想曲(ノクターン)がBGMに流れ、首輪とリードを着けてもらい、豪華な牝犬が完成した。

民子はブラックと部屋から引き出され、フロアーのエレベーター前に四つん這いの姿勢で雌犬として参加者を迎えた。
人間が四つん這いになるには、手と比べ脚が長いから足を広げ、尻が上に突き上らないと床に手が届かない。

「これを見よ」とばかり股を開き、尻が上に突きあがるかなり扇情的な姿勢で、隠すべき女の全てを晒して来客を迎える事になる。
きつい姿勢だが、民子は日頃のフィットネスで身体は柔らかい。

やってきた島美紀は民子を見て「あら、このメス犬不恰好な事。早く欲しいと見えて尻を突き出しているゎ。」とあざ笑った。
彼女は自分のターゲットに民子を選び、民子をとことん辱める事に情熱を燃やしている。

今日の仕掛け人だから、島美紀が開催の挨拶をした。

彼女の挨拶によると、今日のゲストのブラックは島美紀から民子へのクリスマスプレゼントで、ブラックの招請費大枚二十万円は「美紀のポケットマネーだ」と言う。

自分とは桁違いのセレブで、美しく気品に満ちた民子だからこそ、非日常では「落差のある汚され方をさせたいから。」と、趣旨を言った。

御託を並べているが、何の事は無い彼女の場合は、完全に民子虐(いじ)めである。

今日、民子は本格的にメス犬だったから、会食して頂いている間、四つん這いでテーブルの下を這い、参加者の股間の物を男女に関わらず舌と唇でご奉仕して歩いた。

島美紀も調子に乗っていたから、民子を「メス犬」としか呼ばない。
その、島美紀の股間に民子が口をつけると、「グイ」と息が出来ないくらいに顔面に押し付けられた。

その上、尻尾が無いのはおかしいと、島美紀から革鞭を柄の方からアナルに挿しこまれ、「メス犬食え」と、笑いながら皿に盛った餌を床に置いて与えられた。民子はそれを、尻尾を振りながらブラックと一緒に食べた。


本格的な犬との交尾は、そう長い時間は出来ない。
それでも、ブラックに民子の股間を舐めさせると、強烈な快感に襲われた。

お返しに民子は、ブラックの男を口で丁寧に愛撫した。
硬くなると、飼い主婦人の誘導で、後背位の定番体位になり最初の交尾をした。

ブラックの前足に靴下を履かせ、爪で民子を傷つけない様にして両足を民子の腰の辺りに乗せ、まさに「つつき入れる様に」ブラックの腰が前後して、先太の物が、問答無用で民子の花弁の中に潜り込んで来る。

民子は大声で善がり声を上げ、その強烈な感触を楽しんだ。
しかし見物の参加客から、「この体位では、入って居る所がよく見えない。」とクレームが来た。

「よくお見せしよう」と言う事に成り、民子は参加者が取り囲むソファーに仰向けでM字に大股開きとなり、見易い体位の交尾を試みる。

女の性(さが)と言おうか、無意識に見せ様と大股開きに股間を開いた民子の恥毛が絡むデルタ地帯の肌の下に、敏感な花芯ボタンが小さなピンク色の実を膨らませて、淡い光を放ちながら弄(なぶ)られるのを待っている。

いきり立った物を受け入れようとするが、抽入はブラックだけでは困難で飼い主婦人が手で介添いして抽入を果たした。

漸くブラックと繋がったのだが、民子の育ちの良さが出るのか、「犬と犯る」と言う、恐ろしく卑猥な事をしても、不思議に下品に見えない。

飼い主婦人との訓練で慣れているから、ブラックはどんな体制も熟知していて拒まない。

ブラックの太い物が、ブスリと民子の花弁を掻き分けて入って来たかと思うが早く、ブラックは嬉しそうに尾を振りながら深く浅く激しく腰を使った。

皆の視線が息を呑んで集中する中、激しい快感を覚えながら民子は受け腰で応戦する。
日頃は気品溢れる民子の、これ以上無い恥ずかしい姿の公開である。

余りの激しさに、見ていたものが固まって、ブラックの先太の物が抜き差しされている一点に集中している。
強烈なブラックのピストン運動に民子は圧倒され、みんなの見守る中、民子は外にまで響くような、大きな善がり声を上げ続けた。

「アッ、アアアア、アッアッ、ァ、ァ、ァァァ」

犬(ダンディ)の欲棒は、細長い筆の頭の様な形状のピンク色のカリ首に淫茎には細かい毛がビッシリと生えている。
その細かい毛がビッシリと生えた淫茎での激しいピストン運動の交尾と、永く挿し入れたままの射精が犬の性交スタイルである。

あのダンディの毛が生え淫茎が民子の中に入って抜き挿しされると思うと、その内壁を擦(こす)る刺激は強烈に違いない。

ダンディの激しいピストン運動に民子の顔が歪みながら左右に嫌々をし、股間に抜き挿しされるその毛むくじゃらの淫茎は、民子の根元近くまで中に達している。

やがて民子は股間から愛液を噴出し、ブラックのピストン運動に陵辱されながら悶絶の末に気絶して行った。

それから数分の間、それこそ、軽くビンタをされるまで、民子の意識は失われて居た。
民子は、完全に「イッテしまった」のだ。

そのダンディのピストン運動がピタリと静止し、ダンディは民子の中に挿し込んだまま中で欲棒をヒクつかせながら永い射精に入った。

和也は満足したようだが、島美紀から「メス犬がそんな格好でするものか。」と再びクレームが付き、民子は美紀に軽くビンタをされダンディの欲棒を受け入れたままの格好で気が付いた。

三回戦は本格ドックスタイルで交尾する事になり、介添は「私が入れる。」と飼い主婦人を押し退け、美紀が買って出た。

尻と尻を合わせて、少しずつ近付け、最後は美紀が位置を合わせて、「クイ」と尻を近付け、民子の中にブラックの物が入り込んだ。
「ハハ、上手く収まったわ。」
美紀が、勝ち誇ったように歓声を上げた。

このスタイルでは、二匹が激しい動きは出来ない。繋がったままじっとするだけである。
その代わり繋がった時間が長く、民子の中でブラックの物が脈打っているのがはっきりと感じられる。

民子がブラックと尻を合わせて繋がると、美紀が耳打ちをする。
「皆様、メス犬民子は、今ブラックと交尾をしています。」
民子は、ブラックと交尾したまま、大声でそう叫んだ。

言わせておいて「まぁ、助平なメス犬だ、こと、ワハハ。」と、美紀は楽しそうに勝ち誇って笑った。
「してやつたり」の快心の笑みだった。

すかさず参加者の一人が、民子の口に自分の欲棒を押し込んできて、腰を動かし始める。
興奮して、待ちきれなかったのである。
それは喉の奥まで「グイグイ」と潜り込んで来るが、ほとばしるまで耐えた。

参加者男性の欲望の始末もして帰ってもらうのが、民子の責任でもある。
もう、後ろに他の男性が並んでいる。あの輪姦三昧がはじまるのだ。
「私はメス犬なのだ。」と、民子は思い知らされた。

民子の奮闘に満足した和也は、飼い主夫婦に、新しくラブを一頭育てるように注文をした。
調教済みを一頭買い取るのに千五百万かかると言う贅沢なものだが、民子の為に散財すると言う。

飼い主の妻は、年の頃は四十代前半と見られるが、結構美形で、自分の身体でラブに女性とやる事を(獣姦)を仕込んで売る事で稼いでいる。

彼女は、有料で自らも交尾をしてみせるデモンストレーションもして歩くが、交尾をして見せると、セレブ階級の好奇心からか、代金が高くても結構注文が来る。

当初の頃はビデオ製作会社の撮影用か場末の温泉街のストリップ嬢等が顧客だったが、「最近は密かにセレブ階級から注文が多くなっている」と言いながら、愛想笑いをした。

金持ちが大型犬を飼って居ても、誰も目的までは詮索し無い。年に一、二頭売れれば、彼らは遊んで暮らせる。
民子は「世の中にはいろんな商売があるものだ」と、世間知らずな自分を思った。

あんな事を受け入れた後なのに、佐々木和也に対するわだかまりは無い。覚悟して臨んだ事だから「責任を果たした達成感」と言うか、充実した思いが湧いてくる。

民子の性に関する呪縛は吹っ切れている。
パーティでの事は、自分の身に降りかかるだけで、他人を傷つけている訳ではない。

パートナーが望み、他人を楽しませ、自分が楽しむ気持ちになれば、新しい倫理観が生まれ、世間に押し付けられたお仕着せの倫理観など関係ない。

それで、事なかれ主義を前提としたお仕着せの倫理観から解放され、気持ちは楽になった。

民子は、このまま和やかに暮らす事を望んだが、永田達捜査当局は、それを許す積りは無かった。
やがて、次の波乱の時が訪れるのである。




和やかな陵辱 第三部・第九話(しずか・潜入) に続く

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