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======「現代インターネット風俗奇談」======
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【電脳妖姫伝記】
◆ 和 や か な 陵 辱 ◆
(なごやかなりょうじょく)
第三部
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◆和やかや陵辱◆
(なごやかなりょうじょく)
【これからの展開】
記載目次 (ジャンピング・クリック )
電脳妖姫 第一部【へ戻る】
【*】 *******第一話 **************(リュウちゃんの失踪)
【*】 *******第二話 **************(Bワンの部屋)
【*】 *******第三話 **************(おとり作戦)
【*】 *******第四話 **************(謀略のきっかけ)
電脳妖姫 第二部【へ戻る】
【*】 *******第五話 **************(ミレアの執念)
【*】 *******第六話 **************(陰謀と赤い影)
【*】 *******第七話 **************(京子拉致される)
【*】 *******第八話 **************(縺れた糸・陵辱)
電脳妖姫 第三部【この部です。】
【*】 *******第九話 **************(しずか・潜入)
【*】 *******第十話 **************(強制捜査・圧力)
【主な登場人物】
◆ 九条民子(佐々木和也の婚約者・社長令嬢)
◆ Bワン(ハンドルネーム)本名佐々木和也(最初の失踪者・社長の子息)
◆ ナカヤン(ニックネーム)本名中山敬二(主人公・サラリーマンデザイナー)
◆ 石井京子(中山敬二の恋人・パソコンインストラクター)
◆ ミレア(ハンドルネーム)本名松永直子(謎のHP運営者)
◆ 永田 ? (千葉県警・巡査部長・・・実は)
◆ 静(しずか/ハンドルネーム)本名森田愛(HP運営者・短大生?実は・・・)
◆ クロさん(ハンドルネーム)本名岩崎誠一(HP運営者・エリート会社員)
◆ 岩崎由美(クロさん・岩崎誠一の妹)
◆ 川端警部と西川巡査部長(この事件の警視庁捜査員)
◆ 谷村生活安全局次長(警視正・警視庁側の捜査総責任者)
◆ 佐々木昭平(佐々木コンッエルン総師・憲政党代議士・党財政再建委員長)
◆ 島美紀(女性タレント)
◆ 大供みどり(財務省主計官・女性キャリア官僚)
◆ 岸掘孝太(憲政党代議士佐々木昭平・東京事務所私設秘書・アンダー担当)
◆ タンク(ハンドルネーム)本名大石辰夫(個人アダルトサイト運営者)
◆ リュウちゃん(ニックネーム)本名小川隆(失踪者・主人公の友人)
◆ ゆきちゃん(ハンドルネーム)本名 不 明(HPの達人・謎のHP運営者)
◆ 高橋警察庁管理菅(警視正・捜査の警察庁側責任者)
****************では、第三部をお楽しみください。*******
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(しずか・潜入)
======「現代インターネット風俗奇談」======
小説・電脳妖姫伝記
◆ 和やかな陵辱 ◆第九話(しずか・潜入)
民子の体当たりの奮戦から三日後の十二月の八日。
その日は、朝から木枯らしが吹き荒れ、枯れ葉が路面を転がるように走り舞っていた。
此処の所、多くの情報確保に成功し、永田警視達は、いよいよ確信に迫っている。
合同捜査本部としては、一網打尽にして組織の壊滅にまで追い込みたい。
本部は、活気に包まれていた。
幸い佐々木和也は、自分が警察のマークから外れたと思い込んでいる。
だから、結構大胆に動いた。
九条(佐々木)民子にも和也の正体を知らせていないが、仕方が無い。
そのうち二人の入籍も確認した。
一番身近に居るから、事実を知らせれば捜査に支障が出るのは明らかだった。
それ故民子には、今の境遇を暫らく我慢してもらうしかない。
大麻絡みのプライベートのパーティも監視はしているが、そんな微罪は、今は構ってはいられない。
それでも、幾ばくかの成果はある。
合同捜査本部は名前を公表しない事と、不逮捕を条件に、任意同行をかけたプロデューサーと女性タレント島美紀の夫婦カップルを脅し、中のパーティの様子は二日掛りで詳しく聞き出している。
二人には、今後の協力も約束させた。
プロデューサーと女性タレント島美紀の夫婦カップルの供述に拠ると、民子も今回の事件に責任を感じて和也に好い様に玩具にされ、犬の相手までしているが、この一件には、元々本人にも責任(罪)が有るから、酷(むご)い様だが当面は陵辱に耐えてもらう。
とにかく事件の全容を掴み、関係者の一網打尽が望まれるので、佐々木和也を泳がしている。
それにしても、佐々木和也の父親、佐々木昭平代議士の関与も限りなく黒に近い。
ここを、どう落とすかも、腕の見せ所だ。
「佐々木昭平代議士の経歴は判ったか?」
「やはり、半島に関わっていました。」
公安の調査によると、佐々木昭平は、戦前「かの地」の半島総督府に奉職して、事務官の一人だった。
どうした経緯かは知らないが、敗戦で昭平が引き上げてきた時は、両親の所在は不明だった。
引き上げる途中で何かの不幸が会ったのかも知れないが、その一切を昭平は語らなかった。
「すると、岩崎誠一(金英男)の親とも接点が会ったかも知れないな。」
「敗戦後、半島から引き上げて直ぐの頃、昭平は、相当危ない仕事をして伸し上がっています。」
「戦後の混乱期に、旧陸軍や米軍の闇物資などを扱い、闇市を取り仕切るその道の組織とも付き合いがありました。」
「変わり身の速さは、定評があります。」
戦後が落ち着いて来ると、その仕事振りも次第に落ち着いて、儲けた財力で、母方の故郷埼玉県を地元に不動産経営、バス、タクシー、などを経営して、佐々木家を名家に伸し上げている。
その後、埼玉の地元から衆議院議員に立候補し、当時の中選挙区制で最下位のギリギリ三位当選を果たし、間に二回落選を挟んで、現在まで当選九回を数えている。
調べてみると、和也の父親の会社のメインバンク(主力銀行)は、東京の地銀(地方銀行)トップを使っている。
この銀行、前身は戦前の旧満州銀行だった。
手間の掛かるやり方だが、その銀行との取引のどうも半分くらいは、ドリームV(ブイ)と言う遊技場経営会社の担保保証が入っている。
ここらが、佐々木昭平のアキレス腱かも知れない。
ドリームV(ブイ)は、北の赤い国系の在日帰化三世が経営し、その運営資金は彼らの在日特殊金融組合から流れている。
赤い国は経済基盤が貧弱なので、日本で稼ぎたい。
稼いだ金は、赤い国にかなり強引な還流が疑われる。
つまり、稼がせる為だから元に必要な金を出す。
言わばアウトロー社会で言う「企業舎弟の国家版」と言った所だ。
「それで、外食チェーンは急成長を・・・迂回融資みたいなものですか?」
若手の捜査員がうなった。
表も裏も、常識外な会社の成長には何かある。
「判らんが、和也の両親の経歴を調べさせたら、戦前半島で育った半島国民学校の卒業生だ。日本人だが、半島に所縁(ゆかり)がある。」
「状況的には繋がりましたね。」
調べて見ると和也の両親は終戦の混乱時に共に半島で両親を失い、周りの引揚者の善意もあり、幼い同級生がたった二人で助け合って漸く日本に帰国を果たした。
関東軍に見捨てられて、半島に死んで行ったそれぞれの両親、そして、命からがら祖国の地を踏んだ自分達に、日本政府は冷たかった。
祖父の故郷の親戚も、当主は代替わりして自分達が生きるに精一杯でとても甘えられない。
頼ったのは、渡日して来た父の半島時代の知人で、半島人だった。
その人物の下で、成人前から相当に荒っぽい事もして修羅場を潜って来たが、おかげで何とか生き抜いてそれなりの人生を掴む事が出来た。
やがて独立した事業は戦後の混乱期に強引に成功して財を成し、国会議員にまで上り詰めたのが佐々木和也の父親・佐々木昭平である。
二人の恩人で後見人の半島人は、やはり戦後の混乱期を泳いで財を成し、在日居留総連の大幹部を勤めた後に他界している。
「他に、関係が有りそうな佐々木代議士の過去を調べて見ました。」
「何か接点があったか?」
「ええ、実は二十年ほど前に党副総裁が団長で行った超党派・北の赤い国訪問団のメンバーの中に、目立たないですが、しっかり混ざっていました。」
「そうか、あの当時は、副総裁と野党女性党首の影に隠れて他の代議士(訪問団員)は目立たなかったが、佐々木も正式訪問しているのか・・・」
「どうもその当時から、党の窓口として影のパイプ役をしていた様ですね。」
「非公式外交チャンネルと言う事で、決定的な話だな。恐らく外務省でもトップシークレット扱いだろうな。」
「いざと言う時は、時の政府もチャッカリ利用しているのか?」
「もっと大きな政界の闇がありそうですね。」
「背景が見えて来た。後は何処まで立証出来るかだな。」
谷村合同捜査本部長が言った。
「岩崎誠一(金英男)の件ですが、もう少し調べないと断定は出来ませんが、どうも佐々木代議士は昔半島時代に岩崎家と交流があり、誠一の引き取られた経緯も知っていた様な痕跡があります。」
「親父の方も直接絡んでいると言う事か?」
「いやぁ、立証は難しいでしょう。何しろ敗戦の混乱で、何もかも途切れています。」
いずれにしても北の赤い国の影が、見え隠れしている。
此れは佐々木和也が副社長を勤める外食チェーンや、佐々木和也の掌握している枝の組織で終わらせてはいけない。
途中でトカゲの尻尾の様に途切れては何にも成らない。
何としても全容の解明が為されないと、ぬくぬくと大物を取り逃がす。
無条件で特殊金融組合が資金の面倒を見る訳が無い。
何か、秘密の見返りがある筈だった。
「佐々木事務所から、私設秘書の岸掘孝太の失踪の届出がありましたが、何かありますね。」
森田愛が、まるでドラマの警察官のような口振りで言った。
「いずれにしても、佐々木の周辺はきな臭い事ばかりだ。一気に炙り出してやる。」
川端警部補が、高揚した雰囲気でそれに応じた。
「肩の力を抜け、そう上手く行けば良いが・・・何しろ簡単な相手ではないぞ。」
「手配は済ましてありますから、岸掘孝太の行方もやがて上がってきます。」
「もう、生きていないかも知れないぞ。」
この新興宗教の話し、傍目(はため)には異常かも知れないが、中身が異常で無ければ本当は話にも成らない。
理屈が合っているのだからこの方法が間違いで無く、「それに付いて来ない奴が悪い」に、理屈が成ってしまう。
実は本質的に、信仰と性交は脳域の中で至近な位置にある。
人間を含む生物の機能は便利に発達していて、脳に拠る状況感知により必要な時にはその状態に対応したホルモン物質を生成して送り出し、自らをコントロールする力を持って居る。
これが「信仰の奇跡」に結び付く。
そこら辺りを熟知して利口に応用するか、無知のまま何もしないかで長い人生々活に結構な差が付くかも知れない。
その脳の能力として、ホルモン物質「脳内快感物質ベータ・エンドロフィン」の発生が数えられる。
ベータ・エンドロフィンは、脳と深く関わる脳内麻薬(快感ホルモン)であるが、アルコールや、麻薬を含む薬剤と違い、体内で生成される無害の分泌ホルモンである。
体内分泌ホルモンベータ・エンドロフィンは肉体(からだ)に「最も安全な脳内麻薬(快感ホルモン)」と言う。
そしてそれだけでなく、体調や精神を整える効果がある良質な脳内麻薬で、老化と伴に訪れる肉体(からだ)の痛みをそれと知らずに緩和する鎮痛作用の働きもある。
鍼灸のツボ治療も、刺激によって脳の受け持ち部分を、ピック・アップ・ワンポイントでベータ・エンドロフィンを分泌させる為の行為である。
ベータ・エンドロフィンには麻薬作用に拠る痛みの緩和に止まらず、その発生に誘発されてセロトニンが送り出される。
セロトニンには細胞の活性効果による自然治癒効果や、精神を安定させる効果もある。
セロトニンは、「脳内快感物質ベータ・エンドロフィン」の発生に誘発されて送り出される伝達阻害物質である。
医学的には、脳内麻薬・ベータエンドロィンや痛みの伝達を阻害するセロトニンが、脳で感じる神経性の痛みを抑止作用が働く。
この抑止作用が上手く働けば、その間に自分の免疫細胞が活躍して半年から一年で自然治癒するケースが存在する。
現に椎間板ヘルニヤの自然治癒症例が、医学界では常識に成って来ている。
この痛み抑止・セロトニンや脳内麻薬・ベータエンドロフェンが脳内に噴出して痛みを抑止する切欠に成る物の一つが「信仰の奇跡」で、「信じる者は救われる」の主因である。
この脳内麻薬・ベータエンドロフェンの生成に大きく働く刺激が歌舞音曲に拠るダンシング・ハイや性交に拠るセックス・ハイの快感認識で、昔から大きく結び付いている。
実は、SMプレイに於ける鞭(むち)打ちなどの痛みが大した事に感じ無い理由は、この「痛みの気を紛らわせる脳内でも使われる物質・セロトニンの活生」に拠る結果である。
つまり、M性が強い固体に於ては、被虐感自体が「脳内快感物質ベータ・エンドロフィン」の発生に誘発されて伝達阻害物質・セロトニンを送り出す要素に成るのである。
それだから、脳内麻薬・ベータエンドロフェンに拠る「快感」とセロトニンの「痛みの阻害」と言う合い矛盾した二つの感性が性行為のプレイとして成立するのである。
このM性、実はまともな女性なら誰でも持っている資質である。
女性には「出産」と言う痛みを伴う大役がある事から、基本的にはセロトニン拠る痛みの遮断機能は男性より優れていなければ成らない。
しかしながら、年齢を重ねると、誰でも身体的機能が低下し痛みを止めるセロトニンの調整機能も低下して行く。
「身体の節々が痛い」と訴える中高年女性は、恋愛感情や性的感情から縁遠く成って、「脳にそう言うシグナルが行かなく成っている」と考えられる。
女性の場合、痛みを遮断するセロトニンの生成機能は出産に対する痛みを和らげる目的が最大である。
だから、本人が自ら老化を意識し、性的興奮を抑制すると脳が必然的にセロトニン生成の必要性を考えなくなる。
本人の意識の問題もあるのだが、人間は老化を意識するとこの痛みを抑えるセロトニンの脳内生成が衰えて手足に痛みを感じる。
つまり性的な色気に対する意識は女性の痛みの制御に大切で、特に女性は子供の成長に合わせて性欲を抑え、自分で気持ちが老け込む特性がある。
だから中年になると、結果的に性を回避しセロトニンの脳内生成を抑えて手足に痛みを抱えてしまう。
つまり、齢(よわい)を重ねると脳の自覚が「出産」の現実から縁遠く成ると伴にセロトニンに拠る痛みの遮断機能が衰退して行くのではないだろうか?
女性が何時までも若々しく居る為には、育児にかまけて旦那様との性行為を疎(おろそ)かにするのは持っての他である。
精神的に色気を手放さない事で脳を活性化し続けなければ、セロトニンの生成機能は維持出来ず、信仰の奇跡にはめぐり合わないのである。
つまりこの場合の信仰効果は、宗派・教義が問題では無く本人の信心具合でセロトニンやベータエンドロフェンが脳内に活躍する環境を作るのである。
だから本来、「信じる信仰は何でも良い」のであるが、この宗教を信仰する男女にとっては今の教祖の教えが絶対なのだ。
信仰は右脳域の感性に宿るから、脳内麻薬・ベータエンドロフェンの脳内に噴出に応じて「幻影を見せる事」も在る。
そしてこう言う事象に遭遇すると、その信者の信仰は拠り一層深まって行く。
勿論精神の安定を求める方も多いから、その方が信じる信仰を一概に非難や否定は出来ない。
只、「信仰の奇跡」は、脳科学の発達に拠って解明されつつある。
中村(旧・岩崎)由美に特別修行をさせている宗教は、戦後の混乱期に現在の教祖の父親が勝手に真言宗の経典勉強会から始めた新興の宗教だが、勿論真言宗の総本山はその存在を認めてはいない。
現在も互いに相手を批難し合って譲らない。
今の息子の代になって大きく発展、東北や東日本を中心に公称「信者数三十五万人」と言われる。
集票力、集金力もあるから、政界にも幾らか顔が利く。
政治家・佐々木昭平としてもその利用価値は大きい。
ここまで大きくなるには、教祖に相応のカリスマ性や運営力もあったのだろうが、一時、政官界に「女性信者を宛がっている」と週刊紙に叩かれ、醜い告訴合戦をしていた。
能(よ)くしたもので決局決定的な事はお互いに示せず、うやむやに終わっている。
表ざたにすれば大スキャンダルで、政府も役人も望まないから週刊紙も長いものに巻かれた。
実は、その某週刊紙が把握していたより遥かに多かったのである。
教祖が音頭を取って結党させた政党はまだ一桁の議員だが与党とパイプが深く、閣外協力から始めて大臣ポストを一つ占めるまでに成っている。
協力から連立への過程では、祝儀代わりに「若い女性信者を宛がわれた」と噂される与党・憲政党議員もいる。
由美の嫁ぎ先の家は、もう四十年来の信者で、当時青年部の幹部だった義父に、同じく女子青年部の幹部で、教祖が副教祖時代の住み込み世話係だった義母を教祖が結びつけている。
当然ながら、夫婦でかなり上位の幹部職を勤めている。
三流の週刊誌などで「お下げ渡し」と、噂されたりもしたが、夫婦仲は他人が羨むくらい円満だった。
その伝で行くと、教団幹部夫婦は「すべてその類」と言えた。
しかし中村家同様どこも円満で、立派な家庭を築いている。
つまり、信心に拠って家庭が上手く行く現実が有り、此れを本人達が「ご利益」と思えば、思えない事も無い。
中村家の義父母は典型的なお下げ渡し結婚だったが、この教団のお下げ渡しで有名なのが教団出身の教団の全面支援で当選を果たした大阪在住の参議院議員夫妻である。
夫の方は青年部の統括部長を経験した幹部信者で、妻の方は教祖の住み込み世話係から「和合修行会」を経て婦人部の上級幹部になり、教祖の意向で下げ渡されていた。
公称「信者数三十五万人」は結構選挙では力を発揮する。
佐々木昭平の所属する与党憲政党も、バカには出来ない宗教勢力だから教祖推薦の夫には選挙区を世話し、互いに利用しあって夫が参議院の議員、妻が関西地区の責任者と言う立場を与えられている。
「お下げ渡し結婚」と言われるくらいだから、教祖が関西方面へ来た時など大変で、妻の方は付きっ切りで教祖の世話をする。
元々お下げ渡しだから当然夫公認だから風呂の背中流しなど当たり前で、湯上りに身体を拭くにしても、自分は全裸でしゃがみ込んで、「教祖の前を丁寧に拭っ居ていた。」と記事にされたりしてもこの慣例は変わらない。
そんな事は教団内部では当然な事で、教祖がそれ以上の事を求めれば関西責任者の妻は過って知ったる教祖好みの行為で喜んで応じる。
教祖・教団の野望は進んでいて、こうした心身ともに信頼出来る夫婦を増やし、国会に送り出す計画がある。
その戦略上の一環に中村由美夫婦が育成されているらしく、それらしい声も漏れ聞えて来る。
ヒョットすると、教祖の機嫌を中村由美が損なわなければ、数年後に由美は代議士夫人かも知れないのである。
十二月十日は、中村由美のおひろめの日だ。
九条民子も和也に連れられて、その会場に足を運んだ。
教団の広大な敷地は、裏山の中腹まで広がっている。
世間と隔絶しているその修行場所は、鬱蒼(うっそう)とした竹林の中に構えられた教祖の屋敷内に在るゲストルームで、普段は女信者の特別修行に使っている。
中に入ると、世間とは隔絶された修行場は、五十畳の大広間の和室と廊下兼用の板の間で、中央にマットが引かれ、吊り用の天井柱や、固定台など、見るからにずばりその為の造りである。
この宗教、内部ではかなり性的な教義の様で、中村由美の日々の修行が察せられた。
何処からか、信者の般若心経の読経が流れてくる。
この日の由美のおひろめも、彼らにとっては修行なのだろう。
参加組数は異常に多く十一組を数え、少し平均年齢は上がるが、此処では名を上げるのをはばかるような大物有名メンバーが十組ズラリ揃った。
恐らく十一組目のおまけが佐々木夫婦と思われた。
十一組と言えば二十二人、それに教祖が加わるから、相手をするのも生半可な事では済まされない。
流石(さすが)の九条民子も、参加人数の多さに中村由美の体力を思った。
しかし、此れは結果的に九条民子の杞憂(きゆう)だった。
中村由美は此れを積極的に受けて立ち、あの、日頃大人しい由美とは思えない激しさで、性的感度良く善がり続けた。
これには、民子の知らない中村由美の現在の修行生活に秘密があった。
由美が一ヶ月間の修行に入った時、由美は教団の医療チームから普通の女性としては屈辱的な健康診断を受けた。
その時は驚愕したが、実はこの教団ではそれが驚くに値しないと、由美は後から知った。
性病検査はともかく、性感テストと称して性器具で散々に弄られた。
その後「修行に欠かせないから。」とピルを処方され、「この修行は体力的に大変だから、貴女が頑張れる様に」と、親切粉なしに栄養剤を射たれた。
射たれると気持ち良くなり気力も増して、性的感度も上がる。
実際教祖に抱かれて、由美は今までに無い快感を得た。
中村由美は教祖との修行の都度にその栄養剤を射たれて臨むのが日課に成って居た。
その修行と栄養剤が、教祖の設定した大人数の「おひろめ」の修行を可能にしている。
そう、中村由美の射たれている栄養剤は、個人的に和也から出ていたシャブなのだ。
シャブは以前から教団の修行用に、和也が渡していた。和也がその代わりに手に入れていたのは、由美に与えていたピルの処方だった。
教祖相手に修行する意外の時間、由美は教祖に従順に成るべく教団から日々徹底的に仕込まれ、洗脳されている。
教祖の意向に少しでも躊躇い(ためらい)を見せたら、全裸に縄をかけられ、座禅縛りで般若心経の読経がながれる修行場の板の間に股間を丸見えにされて転がされ、何時間も放置されるきついお仕置きが待っているのだ。
身動き出来ない事だけでも苦しい上に、信者に嬲られ放題で、気が狂いそうになる。
その都度このきついお仕置きをされると、女性信者は誰でも大概大人しく教祖の言う事を聞く様に成る。
このお仕置きを「改心の行(ぎょう)」と言いう。
つまり修行中の由美に取って、教祖に対する躊躇い(とまどい)は「世俗の煩悩(ぼんのう)」なのだ。
それを超越した所に、本物の信仰がある。
由美の様子からは一切の躊躇いは消え、その効果は出ている様だ。
教祖はもう初冬と言うのに、始まる前から由美を裸に剥き、外の玄関前で無防備に参加者の出迎えをさせた。
「改心の行の成果が出ている」と言う事だろう。命じられているのか、寒空の中、全裸で参加者を迎える由美は終始笑顔を絶やさない。
これから過酷な事が親友の由美に起こるが、民子は同情しない。彼女は自分でそれを選び、この場に居る。
民子を迎えた時も、「この間の事が有るからご遠慮なく。」と耳打ちをした。
旧知の和也にも「宜しくお遊び下さい。」と挨拶をしている。
凡そ察しが付くが、教祖の手前、由美の方も教義に反するので手加減されては困るのだ。
参加メンバーに、巨大生け花流派の宗家の息子夫婦も居たので、由美の女体を花器にした花生けのパホーマンスをして見せた。
これは、宗家の家元が参加した時の恒例で、以前民子にも施された覚えがある。
他人が生けられるのを見るのは初めてだが、なるほど、純粋に美として見れば美しく見事だ。
花が生けられる穴は、由美の下半身には二つある。
仰向けに拘束され、露(あらわ)に上を向いた由美の下半身から、二つの生けられた花の束が立ち上がって、卑猥に美しく見る者の溜息を誘い、圧巻だった。
この人生け花、家元に言わせると、「生けてみないと器の良さが判らない。この花器は確りと咥え込む名器だ。」と絶賛した。
その後由美に起こった事は、民子が体験した事とさして変わりないが、何しろ人数が多い。
由美が一通り参加者に弄られるのに三時間は掛った。
その間由美は、大声で感じ続け、善がり続け、ルール通りに応じ続けた。
和也は「岩崎の妹」と言う事で大いにハリキリ、特に熱心に彼女を責め、民子に責めさせた。
中村由美に取って、この陵辱を乗り切り、無事教祖のパートナーになるのが、夫の要求であり、家族の意志だ。
その為には、何を求められても「ハッスル、ハッスル」で、参加者の残酷な要求に応じ続ける。
「これは中村家の家族に迎え入れる為の修行だから。教祖の期待に応え皆様に喜ばれる様に。」
亭主にそう言い付かって、中村由美は此処に来ている。
そこに、理屈や感情は存在しない。素っ裸になって修行を受け入れ、中村家の家風に染まりさえすれば、由美の将来は開けるのだ。
佐々木民子(九条民子)のおひろめ輪姦三昧を見ているから、何が起きても心の準備は出来ている。
後は参加者が満足するまで、ひたすら応じ続けるだけだった。
その後が大変で、お約束の大乱交になった。
勿論民子もルール通り下着は付けていないから、求められれば誰とでも応じる。
十二組が入り乱れると、すごい事になる。
何人目かで民子は教祖にも抱かれた。
彼は九条民子と中村由美が親友だと知っている。
だからこそ由美のこれからを耳打ちした。
民子にしても由美の将来は心配には違いない。
それで教祖は、由美の将来を耳元で語りながら、民子を抱いた。
修行が終われば、「中村由美は亭主の望む幹部になる」と言う。
亭主の願望は由美に修行をさせ、教団幹部の修術巫女になる事である。
いずれ中村由美は、男の幹部信者達の団体「和合修行会」に下げ渡され、此処で荘厳な般若心経唱和の中、毎週上級幹部三十人を相手に和合を勤める荒修行が待っている。
その「和合修行会」には、当然教団幹部である由美の夫や義父も含まれている。
元を正せば夫も義父も同じ他人の男だから、倫理観を超越すれば、およそ男女の性行為の対象範疇には違いない。
それを義父だと拘っては、煩悩を引きずっている事になる。
宗教行事だから、個人の俗世のしがらみは超越した所に、この和合の荒修行は位置付けられている。
夫の前で義父に抱かれるのは当たり前で、この団体ではそうした事例は数が多く、由美が初めてではない。
今の内に由美をみっちり仕込んで、その義父との場で躊躇う事の無い様にするのは夫の希望でもあった。
一見世間の倫理観では背徳極まりないが、浮気としてでは無い義理の親子の絆として、公開しながらの性行為は家族として通じ合える究極の事かもしれない。
その「和合修行会」での修行が教団のルールだから、中村由美はいずれ義父との和合を受け入れ和やかに陵辱を受け入れる。
由美が、修行を受けるようになって「家族が優しくなった。」と言うが、儀父など嫁が抱けるのだから息子夫婦が可愛くてならないのも当たり前だ。
つまり家族が信仰のおかげで結束した事になる。
「和合修行会」の目的は女性信者の教団忠誠心を量り、幹部の団結を強め、家族の絆を強める事にある。
教えにおいては男女の和合が発するエネルギーが、「幸福を呼び寄せる」とある。
この教団では、男女和合は信者にとって大事な信心の要素で、心底それを受け入れないと、宗教儀式そのものが成立たない。
つまり、理屈や個人感情を抜きに「身も心も教団に帰依しろ」と言う事なのだ。
この一連の修行が終わると、由美は祈願和合を司る修術巫女に任じられ、己の和合に「幸福を呼び寄せる法力」が得られる。
傍から見ればえらくアホな話だが、信者達は到って真剣である。
もっとも、価値観や倫理観に共通の定義は無い。つまり、正解は存在しない。
倫理観は、あくまでもその国家及び宗教や社会観の蓄積などの社会合意でその基準が決まる。
日本でも、戦前は食べる為に半ば公に公娼制度があり社会合意の上で娘を売った。
一夫多妻も、宗教によってはその国の定めた社会合意であり、他国(よそ)から是非は言えない。
つまり、ルールは自分達で作ったものだから、別に他の思考や思想にもとずく物が存在しても不思議は無いのである。
元々男女の性行為を縛っているのは保身的な倫理観で、そこを理論的に除けばたいして抵抗は無い。
つまり、生活基盤の安定の為に合意した保身的な倫理観こそ「世俗の煩悩(ぼんのう)」なのかも知れなかった。
こうした理屈は、奇麗事で塗り固め、建前の既成概念に囚われた女性には理解出来ないが、由美の様な知性的で利巧な女性には本質(教団で言う真理)を理解できる。
民子も由美も筑波大教育学部卒の才媛だから、知性が邪魔して表向きの建前(既成概念)には囚われない。
聞いてみれば、教団の教義にも人を信じさせるそれなりの理屈と歴史観が有る。
弾力的に考証すれば、まんざら出鱈目と否定は出来ない。
つまり性的に開放された女性は、保守的人間には厄介な事に、押しなべて知性的な「心の美人」である。
言い方を変えれば、これはこれで可愛いのだが、知性に欠ける女性ほど世間お仕着せの倫理観を一途に信じて、疑問さえ持たずにいる。
それをひっくり返して、教団は成長し続けている。
これだけ現在の世間の常識(倫理観)とかけ離れた教祖の教えが、何故この教団で支持され、「男女和合が密かに執り行われている」には、それなりのれっきとした「由緒ある」教義がある。
この宗教が提唱しているのは、実は遠く鎌倉室町時代にかけて勢力を有していた真言密教を取り入れて、教義としていたからで有る。
鎌倉時代より少し前の平安末期、真言宗の密教で、「真言立川流」を始めた人物が居た。
その教義は、遠く印度の仏教に遡る。印度の仏教の教えの中に、白い狐に乗り移った茶吉尼(だきに)天と言う魔女が、大日如来(だいにちにょらい)の教えで、「仏法諸天の仲間入りをした」と言うのがある。
此れが日本では、後に稲荷神社に成る。
出自(しゅつじ)が仏教なのに神社に化ける所が凡そ日本的知恵ではあるが、後述する理由で、「現世利益」の為に神社の様式に変えざるを得なかった。
財産や福徳をもたらすとして信仰され、老舗(しにせ)の商家の奥庭に、祭られたりしていた。
つまり、生きている人々を幸せにしてくれる仏様(神様?)で、そのダキニ天が、真言立川流の御本尊である。
ダキニ天の法力を高める秘法が、密教の男女和合の儀式と、経典にある。
ダキニ天の法力を高めるには、日常を超えた激しい男女和合のエネルギーがいる。
この激しい男女和合の教義を取り入れた事がこの新興宗教の基となり、原始性本能の煩悩に悩む人々の支持を得、密かに信者を集め増やしている。
真言とは呼んで字のごとく「真理を言ずる」と言う事である。
およそ理性と性欲では司る脳の部分が違う。
だからこそ人間は原始性本能の煩悩に悩まされる。
従って全ての人類がこの葛藤に悩まされ、中には犯罪さえ引起す。
その性欲を正面から受け止めて、肯定し実践する所に、信者が解放される真の救いがある。
そこを建前で押さえつける宗教こそ、人間性を否定した邪教なのだ。
日本では室町時代以後、呪いの強い隠避(淫乱)な邪教とされているが、ヒンズー教のカーマ・スートラに影響された印度仏教や、ネパール、チベットなどのラマ教では、こうした性的教えは、仏法と矛盾しない。
性は生きる活力の源と理解されている。
弘法大師(空海)、伝教(でんぎょう)大師達が、我が国にもたらした密教は、強力な「現世利益の秘法」であったのだ。
つまり、初期の仏教は信じればご利益があると言う「現世利益」の教えで有ったものが、時代とともに変遷して、社会合意の道徳的な目的から「悪行をつむと地獄に落ちる」と言う死後の利益に変わって行った。
その大きな切掛けは、歴史の中ではさして古い物ではない。
ずうっと下って、高々三百数十年前の徳川政権成立の頃の事で有る。当時神社と寺院の宗教的勢力争いが絶えなかった為、政権安定の為に「神仏混合政策」を取って、幕府主導で分業化させた。
すなわち、生きている間は神社の担当であり、神様にお賽銭でご利益を願う。お寺のお布施は、仏様(死者)を媒介にお寺にもたらされる物である。
身内の弔いの為にお布施をする様になったのはそんな訳で、日本仏教界の「苦肉の作」と言えない事も無い。
江戸時代以後、死んでからの心の拠り所を寺院が担当した事から、現世利益は言いにくい。
死後の利益を主に説く様になった。
従って形(外観)は似ているが、「日本の仏教は政治の都合によって本来の教えでは無い独特の進化を遂げた」と言って過言ではない。
良く言えば仏教は新たな教義に活路を見出した。
悪く言えば「死後の不安を掻き立てて、お布施を稼いでいる」と言う罰当たりな表現も考えられる。
本来の仏教は祈りによる「現世利益」で、まずは手っ取り早く、「長命や裕福の願い」と言った幸せを願う物だった。
この「現世利益」については、現在の中国式寺院にその面影を見る。
お金(札)に見立てた寺院発行の紙の束を、供え物として火にくべ、金持ちに成る様先祖に祈るのだ。
本来仏教で言う所の「極楽往生」は、言うまでもなく死んでから先の事ではない。
あくまでも「楽しい人生を送り死んで行きたい」と言う庶民の素朴な「現世利益」の願いで有る。
庶民の願いなどささやかな物で、ストレートに言ってしまえば、その中に気持ち良い性行為をする楽しみも極楽として含まれる。
そうした庶民の生きがいを取り入れた教えが、真言宗の密教として伝えられ、男女和合に拠る「現世利益招来の秘法」、真言密教・立川流が成立した。
「罰当たり」と言われそうだが、それを捻じ曲げて、禁欲とお布施を強いるから、今では坊主は信用されなくなった。
だいたい、その辺の寺の僧侶自身がどう見ても「現世利益」を追い求めていて、今の日本式仏教には説得力が無い。
理屈はともかく、本質がぶれているから、現代の若者達には仏教は肌に馴染まず、通じない宗教になりつつある。
そもそも、弘法大師(空海)が日本にもたらした真言密教の教えでは、男女の性的和合は肯定されていた。
理趣経(りしゅきょう)によると、男女の愛欲、性の快楽は「菩薩の境地」とある。
この理趣経は、正式には「般若波羅蜜多理趣本(品・ぼん)」と言う経典で、いかがわしいものでは無い。
真言立川流は此れを主な経典として、多くの信者を集め、南北朝並立時代から室町初期にかけては政局にかかわるほどの力を有したのだ。
南朝・後醍醐天皇の軍師と言われた京都醍醐寺の僧正文観(もんかん)は真言密教の提唱者であり、北朝・持明院統派と南朝・醍醐寺統派は同じ真言宗で覇権を争い、南朝の衰退と供に醍醐寺統派も衰退、戒律の厳しい持明院統派の教義が全国的に広がって「女犯」なる戒律の教えが広がって行った。
「菩薩の慈悲」を何時の間にか本質から変えてしまったのも後世徳川幕府と結びついた禁欲主義仏教界で「、求められれば与える」と言う優しい「菩薩の慈悲」は、ただのふしだら女と定義付けられてしまった。
昔は春をひさいで居ても心優しい女性は居た。
今は自分の主張だけで、そんな気使いは無い。貧しさ故、或いは観掛けが悪い故、「相手に恵まれない」などの不幸な者は、菩薩に見捨てられて、性的欲求のはけ口がおかしな方向に変わらざるを得ない。
本来、男女の交合は尊い物だった。
男女の陰陽を現世の基本として、人々の生活の向上、平和と幸福を願う呪詛(法力)の為のエネルギーの源が男女交合であり、密教の理念としていた。
絶頂(イク瞬間)感が密教で言う「無我の境地」で、法力のパワーの「源」と考えられている。
つまり現世利益の一つとして、素直に「性感の幸福も有難い事」と、されていたのだ。
その理念は、けして浮ついた邪教ではない。
至極まじめで、日本に入って来た初期の頃の真言宗の教えの一部として、間違いなく存在した。
平和と愛、五穀豊穣の実り、その全てを激しい男女和合の秘法、つまり未来に繋ぐ生命力で呼び寄せようと言うのだ。
それはそうだろう、武器を携えて破壊と殺戮に行くよりよほど良い。
中村家の信仰する教団はその真言密教の理念を教義として復活させていた。
だから男女和合の儀式や修行が教団内で行われている事に矛盾輪なく、由美が修行をしていても不思議は無い。
中村由美はその教えに心酔した訳ではないが理論的には理解できた。
ベトナム戦争当時、ジョンレノン・ヨーコ夫妻が「公開ベットイン」による反戦抗議をしたように、男女の和合は平和と安定のシンボルだからである。
従って般若心経の読経の中、激しい男女の和合で法力を高める現世利益(幸せの追求)がこの宗派の教義であるこの幹部相手の男女和合の修行は、中村由美に毎週一回五年間続き、終わると婦人部の上級幹部になる。由美の義母も十年程昔に修行をなし終えているそうだ。
由美があえて納得しているのは、この修行が、「好きだ、嫌いだ」の好みや相手選別の個人感情が排除され、個人の意思が入り込まない無差別和合の処である。
その点「潔い宗教儀式」と思えない事も無い。
若い女性信者には挺身布教隊と言う、某国の「喜び組」みたいな組織があり、色々なイベントで色気を武器に若い男性信者獲得に活躍している。
通常はいくら若くて美人でも教祖の修行は受けられない。
日頃の布教活動で、自分が獲得した信者数が多くなると、初めて幹部になる修行が受けられる。
まるで、マルチ商法のランクを見る様な話ではある。
それ故入信の勧誘は熱心なのだが、由美の場合はそれを手っ取り早く多額の寄付で補った事になる。
いずれにしてもこの宗教の仕組みでは、女の信者は教祖に抱かれなければ意味が無いのである。
この辺りの物差しが世間と違うところで、わざわざ成績を上げるか金を積む事で、ご褒美に「やっと教祖に陵辱していただく」と言う珍妙な事がまかり通るのが、宗教の恐ろしい所である。
周りが冷静に見ると途轍もなく異常な事だが、由美がそれを受け入れたのは、今回の事を「家族の素朴な信仰」と捕らえる事にしたからだ。
信じられないかも知れないが、信じてしまった信者は、盲目的にその教えを信じる。
他国の宗教の信仰に拠る自爆テロだって、そんなものである。
たまたまこの宗教の幹部修行(無差別和合)やその後の祈願和合は、由美にとって常識外のものであったが、嫁いだ一家がそうであれば、今後の家庭内の平和維持の為に受け入れるのも選択肢の一つだった。
由美もまた、般若心経の読経の中、和やかに陵辱され続ける平和の道を選んだのだ。
近頃、由美は思っている。
宗教や倫理は価値観を共有すればさしたる問題はなくなる。
修行は、受けて見ると存外に辛くは無い。
あの栄養剤を注射(うち)さえすれば、どんな事でも、幾らでも出来る。
およそ男女の原始性本能は、男は「見たい、犯りたい。」であり、女は「見せたい、犯られたい。」が基本で、此れに何か自分を騙す理由が付けば、刺激的な生活は、それなりに魅力的な人生かも知れない。
理性以外の処で、原始性本能は中村由美にも確実に存在しているのだから、教団の教義を受け入れて、お仕着せの倫理観から突き抜けてしまえば、無差別和合の修行もそれなりに楽しめる。
まだ教員の仕事を続けているが、そちらのもろもろのストレスは、教団の修行で救われ、確かにホッとするほど発散出来る。
それほど教育現場は荒(すさ)んでいるが、世間はその教育現場に建前だけ押し付けて、「無いもの、有っては成らないもの」と言うだけで、本質とは向き合わず、教師に問題の全てを押し付けている。
つまり世間は、問題に真剣に取り組む厄介さを避け、その場限りの押し付けを繰り返して、取り繕っている。
こうした社会の無責任さを改めて見てみると、教団の本音の教義の方が、正直で真理に思えてくる。
中村の亭主、義理の両親とも、この事を除けばごく普通で、日頃は穏やかに優しく暮らしていて、世間との摩擦は一切ない。
むしろ社会人として立派な暮らしぶりで、嫁姑の争いもなく由美にも到って優しい。
和合の戒律の中で、日常生活との摩擦なき共存に対する教えを説く事に特に力を入れているからだ。
つまり彼らにとって、由美に課されたのはあくまでも立派に生きる為の宗教儀式で、由美が此れを受け入れれば、後は平穏な主婦生活が送れる。そう信じてしまえば、波風立たずに幸せに暮らせるのだ。
表面化しないが、この手の「教祖やりたい放題の宗教」は、社会の必要悪の一部で、案外多いのである。
パーティの帰り、和也は民子に言った。
「中村由美はもう型に嵌まったな、此れで俺は何時でも由美を弄れる。」
「貴方は、あの教祖様とは仲良しなのでしょうね。」
「そうよ、実は由美のおひろめの話しは俺が教祖にけしかけた。おまえを抱いていた岩崎の妹を弄るのは思っただけで面白いからな。」
「そうですのぉ、それはお楽しみですね。」
BワンのHP交信の文脈が、特定の相手だけに不安定におかしい。
「何か暗号通信をしているのではないか?」と言うナカヤン発見から、永田警部補、森田巡査長達インターネット班が、解読班と取り組み、北の赤い国から持ち込まれている覚せい剤のルートの解明に光明が見えてきた。
どうやら和也の関わる輸入冷凍蟹に、そのカラクリがあるらしい。
覚せい剤(シャブ)は、主にその筋のアウトロー組織が扱う。最近の傾向として、末端の売り子(売人)は、不良外国人が多い。
今日本のアウトロー組織はかなり様変わりして、現在では様々な国籍の者が、それぞれに組織をつくり、違法行為を行う。最近では繁華街の街角でもシャブは売られ、高校生まで「常習患者に成っている」と言われている。
その供給元として、密輸業者がある。
北の赤い国の国策事業としての覚せい剤の流入は、当初夜陰に紛れた「不審船に拠る船上沖渡し」など相当荒い方法を取っていたが、海上保安庁の摘発が多くなって、地下に潜った。
最近摘発され難くなったのは、けして「量が減った」とかではない。むしろ量は増えている。
摘発を逃れて正規の輸入に紛れる、巧妙な手口に切り替えたからだ。
佐々木の会社が食材として買い入れる蟹の量が、実需と合わない。
大半の食材は下請けの指定先から半加工された物を仕入れる。
処が、蟹だけが自社仕入れでセンター処理をされている。
此れ自体がイレギラーで、必然的に疑問が生じる。
水産商社からの直接契約による、ケース買いの冷凍蟹だが、此れがどうも、和也の担当する食材管理センターで消えていた。
厳密に言うと、甲羅を除く部分は蟹ご飯メニューになる。
人気の蟹めし・セットである。
所謂、胴の部分の使い道が不明だった。
「うぅーむ、冷凍蟹の輸入ケースの中身が怪しいな。」
「はい、四十フィートコンテナのロットで北の赤い国から輸入して、全て佐々木の所へ一括納入しています。」
「すると、そのブランドのケース分は他の所には納入されていないと言う事か?」
谷村本部長は、彼の癖で有るメガネのズリ上げを無意識にしながら聞いた。
「はい、確認済みです。余程少量出荷なのか、他所への輸出実績はありません。」
これには重大な意味がある。
正規品の冷凍蟹に偽装して、シャブを輸入している疑いを、捜査本部の幹部は抱き始めていた。
「安物のバラけた蟹足に隠して、薬(ヤク)の袋を入れてあるのかな?」
可能性とすれば、それも考えられる。
「そうですねー、所謂クズ蟹ですか、中が、見られませんかね?」
「何か、手が無いか考えよう。」
「手入れが出来れば。」
北の赤い国で収穫した蟹を、第三国を経由して産地の表示を偽り、輸入するものもある。
「やって見るか?川端。」
そう考えられるが、確証は無い。捜査は行き詰まっていて何か手を打たねば成らない。
「物(ぶつ)が出ない場合も考えて、輸入冷凍食品の表示違反の嫌疑でどうでしょう。」
「良ぉし、それで行け。責任は俺が取る。」
谷村総指揮(捜査本部長)の指示が飛んだ。
岸掘孝太の他殺体が発見されたのは十二月になってからだった。
岸掘孝太は考えが甘かった。
佐々木昭平代議士が表の事しかさせてない秘書が、サル知恵で裏の仕事に手を出して通用する訳が無い。
元々昭平は、身の安全を図って、裏の仕事は身内の和也にしかさせては居無い。
佐々木代議士の本当の恐ろしさを、アンダー担当の私設秘書・岸掘孝太も見誤っていたのだ。
岸掘孝太は優秀だったが、基本的な性格にヒガミぽい所があった。
そのヒガミぽさは、彼の経歴から来ている。
岸掘孝太は東京六大学の一つである或る大学の法学部を卒業している。
世間ではそれだけで十分優秀なのだが、彼は日本の最高学府の受験をめざし、夢破れて挫折感を味わった。
在学中から司法試験を狙ったが、これも挫折し、知人の親の紹介で佐々木昭平の秘書に拾われていた。
しかし、与えられた仕事は、日の当たらない政治工作で、本人には不満が有った。
今のままでは使い捨てにされるのが、関の山だと言う自覚も岸掘孝太にはあった。
当然ながら、くすぶり続けた不満は、岸掘孝太を見てはいけなかった夢に走らせる。
偶然の調査で、親分である佐々木昭平の公には出来ない弱みを握って、「これで浮かび上がれる」と踏んだのである。
少し「ばらすぞ」と脅せば、公設秘書に格上げや、どこぞの県議くらいにはさせて貰える積りで居たのだ。
所が、秘密を握られた方はそんな軽いものではない。
表ざたになれば、佐々木昭平の政治生命も終わる。
佐々木昭平は、もっと過酷な世界を生き抜いていたのだ。
他殺体は、シャブを射たれ、散々にいたぶられた痕跡を残す無残な遺体だった。
当初、事件の管轄は山梨県警だったが、顔写真と指紋の照合から害者(被害者)の身元が「佐々木代議士の私設秘書・岸掘孝太」と割れて、手配中だった本庁と合同捜査になった。
見つかったのは山梨県河口湖町にある別荘地帯の一角、廃屋になっている別荘跡地の敷地の中に止っていた「目撃証言により手配中の」乗用車の中である。
その車両は盗難届けが出されていて、本来の持ち主は平凡な会社員だった。
可哀想に、発見されてもこの惨劇では、引き続きその車両に平気で乗れる訳は無い。
発見したのは隣の別荘を受け持つ通いの管理人で、「最初は今流行の集団自殺か」と思って慌てたらしい。
それが射殺体で、なお更「腰を抜かせた」と言う。
至近距離から二発、胸と首に打ち込まれていて、二発目の首筋のものはどうも確実に殺害する為の駄目押しで、相当冷静な殺し屋の仕事と推察された。
その少し前、西川巡査部長が松永直子の電話、メール、から割り出した地道な捜査が実を結び、ハプニングバーの聞き込み裏付けの線から、スガワラが浮かび上がっていた。
スガワラと佐々木和也の関係を洗っていると、佐々木代議士の個人秘書、岸堀孝太が同じように探っているのにぶち当たった。
松永直子事件に佐々木代議士の何らかの間接関与の疑いが強まって捜査が進み、岸堀に任意の事情聴取が予定されていた。
しかし、憲政党代議士佐々木昭平・東京事務所私設秘書の肩書きがあるので、慎重を期している間に行方が判ら無くなっていた。
岸掘孝太の失踪から死体で発見されるまでの足取りは掴めなかったが、捜査陣としては経緯の事情から、「口封じ」と考えられ、捜査も途切れて遠回りを予感させた。
岸掘孝太の事情聴取に大反対したのは、事務方の高橋警察庁管理菅(警視正・捜査の警察庁側責任者)である。
高橋管理菅は、相手が一般人で「立場が弱い」と判ると強気になるが、権力者にはカラッキシ弱い。
彼は、相手が憲政党代議士佐々木昭平の関わり合いと知れた時点で、見苦しいほど腰が引けている。
奇妙な話だが、岸掘孝太の死体が上がって「ホッ」のが見え見えだった。
殺害を実行した者は、たまたま二台の車両が待ち合わせていた富士吉田地内のファミレスの従業員などの目撃情報から直ぐに割り出され、一味の一人は逮捕に到っている。
その男が完全黙秘の為、首謀者及び動機の解明には到っていない。
佐々木和也が裏の仕事(シャブ)で懇意にしている某アウトロー組織幹部スガワラのヒットマンと推測されたが、その繋がりを立証するには到っていない。
アウトロー組織と佐々木和也の接点が繋がらないのだ。
いずれにしても、捜査陣は追いつき難いテンポで次々に発生する事案の動向にあせりを覚えて殺気立っていた。
四日後の十二月十二日、サイバーパトロールの課長永田警視と、公安課内(外事二課長補佐?)の川端警部が、小会議室の一つで、掴み合いに成ろうかと言う派手な口論をしていた。
階級は永田が上であっても、本来ならベテラン警部の川端に敬意を払う永田が今日は引かない。
西川巡査部長が、身体を割り入れて、必死で両者の間を開けている。
その声は、嫌でも合同本部中に聞こえた。しかし二人ともそれに気付き、どちらとも無く声を落とした。
捜査方針に、「重大な選択の場面」が訪れていた。
それは、元を正せば森田愛警部補の並々ならない決心から始まった。
彼女は例の冷蔵倉庫の時は現場に行かず、金沢署で周辺警備や海上封鎖の連絡指揮を取っていた。
従って、この一連の事件には最初から関わっているが、佐々木和也とは直接の面識が無い。
捕まえた細目の男は完全黙秘で、まったく身元も判らない。
よほど訓練を積んでいる様で、彼から何か得るのは至難な事に思えた。
聞き込みからの追跡は、遅々として進まず、永田達もあせりの色が濃い。
冷凍蟹の一件だけでは、組織の上の方まで波及させる事が出来ない恐れがある。
繋がりが途中で切れれば、裏組織の全貌は立証出来ない。
彼らの親密な接触を、具体的に証明する必要がある。
それには、同じ場所で同時に逮捕と言う立派な事実が必要だった。
そう考えられはするが、捜査本部に確証は無い。
此処二日ばかり、森田警部補は、自分が付いていながら、京子を守れなかった責任の取り方と捜査の進展を考えていたのだ。
それで、「次のパーティの際に参加者として、和也のマンションに潜入する。」と言い出した。
森田警部補は、当然プロデューサー夫婦の供述を読んでいるから、パーティの実体は百も承知で、九条民子の境遇に女性として同情していたくらいだ。
それでも、早期解決の為に潜入すると言う。
森田はプロデュサーカップルの供述書を読んで、静(しずか)を名乗ってマンションを訪れた時の部屋の様子を、思い出していた。
「あれは、その為だったのか。」
広い部屋の窓と反対側の壁一面に、普通の家のドアと同じ大きさの鏡が三枚並べて設えてある。
よく見ると、その手前の天井に、太いパイプが数本通され、スポット照明の器具も数個、同じ方向に向かう形で設けられていた。
鏡の前の床が少し上がっているから、舞台らしき所だけで縦に四畳ほどの広さがあり、今考えると、そこが民子の陵辱の舞台だった。
メインの十人は座れそうなソファー以外に、二人掛のソファーが左右の壁際に二脚ずつ、舞台を両側から囲む様に置いてある。
森田愛には、大勢の参加者に見守られ、弄ばれる九条民子の顔が浮かんでいた。
「婚約中のおよそ十ヶ月間も・・・・・」
九条民子は和也に言われて、どんな思いで何度あのステージに立ったのだろうか?
調書を読んだ森田愛の脳裏に、ショパンのピアノ・ノクターンが流れていた。
あのマンションの一室が、どう言う場所なのか、森田愛は漸く理解していた。
それが、キットこの事件のきっかけとなった背景に違いない。
だが、その情景を思い浮かべた時、愛は微妙な感触に襲われた。
股間の芯にジンと感じる物があり、知らないうちに下着を濡らしていた。
愛は、内心「自分も一度くらい民子の様にされて見たい」と思い始め、それの思いが胸を締め付けられる様に段々に膨らんで来ていた。
そんな事を考えると、世間では「ふしだら」と決め付けるが、おおきなお世話だ。
今の世の中では、結婚前に複数の経験があるのは自然な話しになりつつある。
一度に多数と年月掛けてボツボツ多数と、やる事は同じで、いか程度の違いがあるのか森田愛にはその線引きに疑問で有る。
それを違う事と言うのは、自分を「まだ増し。」と騙す言い訳に過ぎない。
経験も無いのに、先入観で結論を出すのは論理的ではないのだ。
既存の常識に懐疑的な森田愛としてみたら、そんな事は食わず嫌いみたいなもので、ここは実践して答えを出すべきである。
調書に明記された民子の言葉「覚めた思考で考えれば、事情に拠っては、貞操に拘るのは論外の感情なのだ。」が、愛の脳裏から離れないで居る。
そんな訳で、愛は世間お仕着せの建前には賛同し無い。
今、森田愛はその舞台に「立とう」と言う。
当然川端警部や永田警視は、そんな提案を受け入れる筈が無い。
処が森田は譲らない。
どう考えても、女性で全容を把握している自分にしかこれは出来ない。
幸い協力を約束しているプロデューサー夫婦に紹介させれば、「参加は可能だ」と判断出来る。
それで、直接合同捜査本部長(総指揮)の谷村警備局次長(警視正・公安部長?)に直訴した。
建前非合法だが、元々公安絡みは治安維持の必要からスパイもどきの潜入捜査もするし、場合によっては多少の荒い仕事もする。
まぁ、そこが公安の公安たる由縁と言えばその通りだった。
しかし今回は、森田が貞操を使うと言う。
「幾ら何でも・・・・」と、谷村総指揮(捜査本部長)も反対した。
森田の方はその返事も織り込み済みで、「御心配なら、本部長がご一緒して下さい。面が割れていません。」と、森田が潜入の相方に歳格好も合う谷村総指揮を指名する。
「本部長、任務で私の裸が見られて、しかも抱けるなんて機会、此れを逃したら二度と無いですよ。」
これでは「娼婦の呼び込みそのものの手口」だが、愛としても仕方が無い。
森田の言う通り、佐々木和也のパーティメンバーは秘密の交流の場だけに、組織壊滅まで遡るのに可能性が高い。強引だが、立派な公務と捉える事も出来る。
「それも、そうだな。そこまで言うなら上に内緒でやって見るか?」
好色な総指揮(合同捜査本部長)が、据え膳を持ちかけられて若い森田の裸身に思いを馳せ、此れに乗ってしまった。
勿論、まともに上に言えば「ばか者、何を考えている。」と、話にもならない。
何しろ女性幹部警察官の職務上の性行為が絡むから、週刊紙沙汰のスキャンダルになりかねない潜入捜査である。
失敗すれば合同捜査本部内の独断と言う事で、上位七人くらいは処分の対象を免れない。
谷村総指揮から話が降りて来た時、永田と川端は意見が対立した。
川端警部は、谷村警察庁・警備局次長(警視正)の腹心で此れまでやって来た。
谷村の意向だけには、川端警部は逆らえない。
川端はノンキャリアのたたき上げで、実は谷村より年齢は七歳ほど上だが、キャリア幹部で谷村ほど話しの判る上司はいない。
彼(谷村)が、このポジションに就任してからノンキャリの自分達現場はやり易くなった。永田や森田の事もキャリアの建前に縛らず、影で古い感覚の勢力達の盾になり、自由に捜査をさせている。
その滅多に無茶は言い出さない彼(谷村)が、「やろう」と言っている。
「川端警部、いかに本人が言い出したと言っても、問題が多すぎます。」
永田警視は、必死だった。
パーティに参加させれば、森田の身に何が起こるか知っていた。
初参加の女性には例の「おひろめ」が待っている。
あの新参の女性を、パーティ仲間に向かい入れる為の洗礼儀式の事だ。
プロデューサー夫婦の供述から、あきれたセレブパーティの実体は捜査幹部が全員承知している。
つまり周知の事実で、それを森田愛は甘んじて受ける覚悟らしい。
しかも谷村本部長と川端警部は、「承知で送り込む」としている。
何よりも本人が納得尽くで、「自分の身に何かあっても、それは任務の一環で、犬に噛まれたほど以上の精神的ダメージは無い。」と、ドライに言い切った。
「裁けている現代っ子の秀才」とは思っていたが、森田がそこまで言い出すとは、永田も想定外である。
手品は人間の意識の意表を突くから成立する。
つまり誰もが思い付く事に手品は成立しない。
まさかと思う所に実は真実がある。
所が、世の中の善男善女は、極めて常識的にしか物事を見る物差しを持ち合わせない。
そんな常識の物差しは、秀才の森田愛警部補には持ち合わせが無い。
森田愛には、性について世間で言うような偏見は無い。
性的な欲求は、人間が生きて行く上で必要だから備わった快感欲求で、何も繁殖の為だけにあるなら、他の動物のように繁殖期を設け、発情期だけのものに限定すれば良かったのである。
生き物の身体は、生きる為にあらゆる進化を遂げて、その為の備え調整装置を作り出している。
神が人間に繁殖期を設けなかったのは、複雑に発達した人間の脳の負担を、性交の快感に拠って軽減させる「自然の恵みである」と考えるべきで、それ故に、複雑で知的な仕事をして居る人間ほど、日頃の性的な欲求は大きくなる。
つまり愛は、性に拘りなく、「格好良く生きたい」と思って居たのだ。
二十四歳、国立大学卒の女性キャリア警官は、頭で物を考える。
最初から「任務」と考えれば、それは感情の伴う恋愛でも貞操被害でもない。 精神的ダメージがなければ、たとえ性的な刺激を肉体がいくら受けても、心とは違う肉体が感じるだけだから、「恥じる事無く、体験として楽しめば良い。」
谷村本部長にも、「任務だから、その場になっても絶対に躊躇(ためら)うな。」と、愛には特に念を押した。
穏やかな中にも熱いものを持つ谷村は森田愛の憧れの上司で、特殊任務の相手として信じられる。
森田愛の覚悟の潜入で、躊躇(ためら)って怪しまれ、相手にバレては、自分の折角の決意と行動が無駄になる。
「構いませんので、本気で弄り、本気で抱いてください。」
その場においては、好色夫婦を演じなければ怪しまれる。
森田愛は、谷村本部長に何度もしつこくその点を念押した。
男の私としては正直望む処だが、君は年頃のお嬢さんだ。
「本当に良いのか?」と、メガネをズリ上げながら、谷村本部長に少し好色の視線で念を押し返された。
これは捜査の一環である。
森田愛は「目的を忘れなければ、本能のままに扱ってくれて構わない。」と答えた。
潜入先は変態乱交の場で、犯らなければその場で疑われる。
現場の上級では、谷村本部長が愛を抱かない訳には行かないから、愛が「構わないから犯ってくれ」と言っているのである。
マァ、密かに「一度くらいは抱かれてみたい」と思って居た谷村相手だから、丁度良い「後腐れの無い理由が出来た」と言うものである。
実は愛の本音の部分で、民子の陵辱経験に興味があった。
森田愛警部補は、現代的に進化した類稀な才女で有る。
その才女たる源は、際限ない好奇心にある。
その好奇心の蓄積が、日本の最高学府を易々と卒業させ、警察官僚の道を歩ませている。
貪欲な好奇心は、この余りにも動物本能的な背徳遊戯の体験にも向けられて、それを恥とはしない。
オタオタしている周囲の男供の考えが、固定観念に囚われて滑稽に見える。
どんな体験になるか「一度くらいは味わっても良いだろう。」と、考えている。
そんな愛だから、この捜査計画を譲る気持ちなど有る訳がない。
他に代替案が無い永田は押し切られ、この作戦を渋々承知した。
森田の貞操に拘ら(こだわら)なければ、何としても捜査の進展は望む処で、それを留める手立てが無い。
永田警視は、森田愛の思考の中に、大供みどりと同様のものが宿っているのを感じ、最初は驚愕した。
そして、自問自答した結果、そんな愛の全てを含めて「愛せる」と結論着けた。
ここで拘るのは、男の勝手な「唯の独占欲」で、愛が精神も含め自分に愛情を持ってくれるなら、その方が男らしい。
結局永田は、当日万一の支援の為に、三十人程を率いてマンション近くに配置、緊急事態に備える事になった。
大物が混ざっているのを森田が確認すれば、踏み込んで微罪でも何でも良いから逮捕して、じっくり、吐かせれば良い。
この一件、またも事務方(警察庁管理菅)の高橋は、蚊帳の外に置かれる事になる。
彼に漏れたら、どんな手を打つか判らない。
身内に安心できない奴が居るのは厄介だが、立場が違う、行政機関の事なかれ主義に現場が振り回されては仕事が出来ない。
永田は本音の所、先日来森田愛に真面目な交際を申し込んでいる。
少し以前から、永田の異変に気が付いていた愛は、「最近になって着たきり雀を止めて、服装が小ざっぱりしたのはこの為だったのか」と苦笑した。
この申し込み時期と、森田愛の潜入計画の発想が時期を同じくしており、永田が陵辱付きの潜入に拘るのを心配した愛の、はぐらかしが続いていた。
いよいよ止められないと、愛の計画に折れた永田が、渋々「十二分に気を付けて捜査してくれ。」と念を押した。
もし潜入が発覚すれば、陵辱所では済まされない。
命に関わる事になるのだ。
森田にとっては任務と恋愛は別の事だが、永田が同じ様に考えるとは限らない。
森田はこの任務の後でも、「永田の気持ちが変わらなければ、交際を喜んで受ける。」と、返事をした。
森田愛警部補はナカヤンを「えらい」と思った。
貞操を汚された京子への、彼の変わらぬ態度である。
犯罪被害者が「貞操を汚されたから」と言って、一々それを気にする方が可笑しい。
その点、被害者の京子も立派で、先日の被害を気にする様子も無い。
彼らが精神的に深く結び付いているのが判る。
つまり、肉体的な汚れを問題にするのは独占欲で、愛情とは違う。
理屈で言うと、自分が任務で肉体を汚しても、永田の愛情が本物のなら気にもしないはずである。
こうした愛の感性を、直ぐに不道徳と批難する庶民が多いが、「本当はどうだろう?」と愛は考える。
庶民は、この安っぽい倫理観を権力者の作り出した「幻想」とは思わないか?およそ権力者ほど欲深い物は居ない。
逆説的に言えば、欲が深いから権力者になれる。
最近は生まれ育った環境による世襲が目立っている。
その欲は権力のみに留まらず、金銭欲から色欲まで止め処も無い。
それを隠して、都合よく庶民に「勤勉だけ」を求めるのが「権力者の権力者たる由縁」と理解した方が自然で有る。
彼らにとって、一億人の真面目に働くしか能の無い善良な禁欲者が居るのは、願っても無い事だ。
これが有史以来の統治の原則と言うものだが、都合の良い事に、庶民は「幻想を頑なに信じて」面白い。
「言うなぁ、森田にそう言われると、俺の拘りが庶民の発想と言う事になる。」
永田は愛に言い負けた。
近頃のインテリ女性は、中々男の独占欲に組しない。
永田は考えた。その独自性を認めるしか、愛との共存の方法は無いのかもしれない。
川端警部は東京税関と該当所轄の港区保健所に協力依頼を要請、パーティの翌日の早朝、輸入冷凍蟹の品質検査の名目で、佐々木の食材冷凍倉庫を、急襲する段取りを取っていた。
この抜き取り検査で、公安部の目的の物が出てくれば、パーティ参加と絡めて全容を繋げ、リストアップした全員を容疑で引っ張れる。
既に各所轄所の応援を得て、嫌疑のあるもの全てに尾行を付けている。
京子とナカヤンは通常の生活に落ち着きを取り戻し、体力が回復して戻って来たリュウちゃんと三人、以前の平凡な生活に戻りつつある。
二人の仲は今度の一件で、以前より数倍も仲良くなった。
一般人としてはすごい経験だが、二人だけの秘密で取り立てて他人に言う話でも無い。
リュウちゃんにも、京子がさらわれた事以上の出来事は言っては居ないし、言うべき事でも無い。
未だに、永田警視と森田警部補は捜査の進展を報告してくる。
彼らは京子を巻き込んで辛い目に合わせた負い目を感じていた。
しかし二人にすれば、あの不幸は互いの思いを確かめる事が出来る究極の試験紙で、あのモーテルでの出来事には二人とも拘る(こだわる)感情は湧かなかった。
京子の心が汚された訳ではないと、ナカヤンは思っている。
此処だけの話し、体が覚えたのか以前より少し京子の性的感度が良くなって、色々と具合が良い。
ナカヤンとしてはおかげで「楽しみが増えた」くらいに前向きに思っている。
「所で京子、ミレアの偽者をしたハンドルネームがゆきちゃんて言うHPの主は、誰だったのだろう?」
ナカヤンが、思い出したように言い出した。
「まだ気が付かないの、民子さんよ。」
京子が、苦笑いをしながら答えた。
「えぇ、民子さんが電脳姫か?彼女はPC出来無かったのじゃあないのか?」
「何か、思惑が有ったのでしょうね。」
十二月十三日の夜、仕事から帰ってきた和也が、「急な話で悪いが、十五日に此処で新人のお披露目をやる。」と、目を輝かした。
キッチンに居た民子が、ビールを開けて持って来た。
グラスに注ぎながら、民子は和也の話しを受けた。
「私でなくて、他所の方のお披露目ですか?今度は私に何時(いつ)してくださるのかと思っていましたら・・・」
「あぁ、心配するな、お前も一緒にお仕置きだ。」
あのプロデューサー夫婦が、此処を「是非おひろめに貸してやってくれ。」と言って来た。
何でもアメリカ駐在から最近帰国したオーナー経営者の息子夫婦らしい。
他人のおひろめに場所を貸すのもなんだと思ったが、横からあの島美紀とか言う生意気なタレント女房が、「ついでに民チャンのお仕置きもして差し上げたら、きっと面白いのに。」と、けしかけた。
亭主の方が、「そりゃ、ふたり一緒と言うのも面白い。」と乗り気で、俺も「民子も一緒なら。」と、その話、受けてきた。
グラスを持ち上げたまま、和也が経緯を話した。
「アラアラ、そうでしたか、それじゃぁ今度も何か面白くして差し上げないと、いけませんね。」
和也はビールをぐいと喉に通して、「ハハ、あの、島美紀とか言う嫁さんは、お前を虐める事に妙に熱心だ。」と、何か思い出しながら、楽しそうに言った。
「美紀さんが私を辱めるのもお弄りになるのも、貴方の意志ですから・・・」民子は和也にそう言うと、「貴女がもうお受けしたのなら、お好きになされば。」と、付け加えた。
そして、まるで日常の夫婦の会話の様に自らの陵辱計画を話題にし、ビールの酌をしながら、民子は柔らかに笑いかけた。もう民子に迷いは無い、余計な事は考えない事にした。
理不尽に陵辱され続けても、それを幸せと思い、和やかに対応していれば平和に暮らせる。
「今度は、私にはどの様になさいます。」
「そうだな、今度は若い新人のおひろめと二本立てだから、パーティに慣れたお前の方のお仕置きは、参加者の手前甘くは出来ない。いっそ趣向を変えて、お前にはきつい荒事(SM)でもしてやろうか?」
セレブの仲間内では、SMプレイの事を歌舞伎用語の「荒事」と言う単語を使う。
まぁ、上流ぶった誰かが歌舞伎用語を使い始め、仲間内で広がっていた。「誰々に荒事を掛ける」と言えば、それだけで意味が通じる事に成っている。
「それなら、面白いと皆さんに喜んでいただけますか?」
「そりゃ、喜ぶだろう。俺も、そろそろ民子に荒事(SM)をと考えていた。」
性行為は刺激を求めるものだから、ともするとエスカレートをする。
もう、「和也と生きる」と覚悟を決めたのだから、それも想定内だった。
「ブラックとしたのですもの、恐い物なしですゎ、是非そうなさいませ。もろもろのお支度は私がして置きます。」
自分の受けるお仕置きは自分で支度をする。
マンションに戻って以来、民子はそう心に決めている。
翌日の午後、家事を終えた民子は明日の支度を始めた。
以前和也から「民子の為に買い求めた」と、民子の反応を試す為に見せられていた拘束用のパイプ椅子を、クローゼットの奥から引き出し、縄や道具類を揃えながら、民子は落ちる所まで落ちた自分に「此れで良い」と納得していた。
最初に拘束用のパイプ椅子を「お前に使う。」と見せられた時は、嫌悪を感じた民子だけれど、今は悟りの境地だった。
「子供じゃ無いのだから、我が儘は言わないで、和也さんの言う事は何でも素直に聞くのですよ。」
母の言った事が、正しかったのかもしれない。
今揃えている物は、本来ならモット以前に使われた筈だが、それを嫌い、運命に逆らって多くの人に不幸を招いた。
元々倫理観は、個々の異性に対する独占欲から発生するものか、自分の好みの良し悪しの感情から発生する物で、連れ合いが望む遊びの性交渉は、その範疇に当ら無い。
精神的には、裏切る処か尽くしている。
個別の意志による浮気等の背信行為とはまったく異質のもので、それを拒むのはあくまでも個人の我が儘な感情かもしれない。
自分の「稚拙で表面的な倫理観」で全てを量った愚かな結果が、此処にある。
民子は取り出した物を一つ一つ手にとって眺めた。
バイブ類もローターから模造男性器付、アナル用バイブ、強力マッサージ器、それに皮製の拘束具、縄の類も揃っている。
今夜は、この並べられた物を眺めながら一晩暮らす事になる。
目に付く都度に嫌でも、明日自分に課される激しい情景が目に浮かぶ。
今は嫌悪感と期待感が入り混じって、複雑な心理で有るがまた違う自分が出現しそうで楽しみだった。
今は何をさせられても、自分の楽しみに変える自信がある。
それが利巧に生きる者の知恵だ。
此れも、巡り合った宿命とも言うべき「自分の生き方だ」と思い納得している。
揃え終えた頃、和也が仕事から戻って来た。
支度が進んでいるのを見て、和也は「おぉ、揃えたな。」と満足そうに言って、「明日のおひろめの娘は、相方の男もルールを良く知らないから、民子の番が来るまでその娘の教育は、民子がする様に。」と指示をした。
民子が、「承知致しました。」と答えると、和也は揃えられた物に目をやり、「此れが民子に使われるのが楽しみだ。」と言った。
和也の声は、嬉しそうに弾んでいる。
まさかこの企てが森田愛の罠とは、和也が知る由も無い。
和也はネクタイを引き解きながら、民子の顔を見て言った。
「あの島美紀が、また張り切るぞ。」
「そうですね、キット・・。」と、民子は応じた。
「あの馬鹿娘に毎回嬲られる気分はどうだ。」
「貴方のお望みですから、美紀さんに何をされても私は宜しいのです。」
「そうか、また良い顔を見せてくれ。」
「はい、お楽しみなさいませ。」
民子は微笑んで応えた。今度こそ、和也は望(のぞみ)通りの妻(九条民子)を手に入れたのだ。
十二月十五日、森田愛のおひろめの日が来た。
民子が、愛のおひろめのサブとして奉仕に参加するので、この日もピアノ曲は流れている。
以前に学生に化けた森田愛を九条民子は知っている。
森田愛は周到な準備をした。
谷村良子と名乗り、まず肩まで有った長い髪を短く切って、キュートなショートヘアに変え、衣装もメイクもまるで見違える様にして、マンションに乗り込んで来た。
民子は、谷村良子(森田愛)を「誰かに似ている」とは思ったが、髪形と言葉使いからしずかとは気が付かなかった。
だから、この娘には自分の過ちを犯さない様に、「素直に現状を受け入れなさい」と諭した。
連れ合いが望む場合の、他人との遊びの性交渉は、浮気や背信行為ではない。
考え方としては、単に大人の玩具代わりに、自分の行為の代わりを他人にさせているだけに過ぎないのだ。
谷村良子は民子の教えを真面目に聞き、素直だった。
民子は何と「覚悟の定まった娘だ」と、感心した。
自分のおひろめの時の戸惑いと比べると、遥かに度胸が良い。
何となく誰かに似ているのだが、もどかしい事に、それが誰かは思いつかない。
民子は谷村良子(森田愛)に着衣を全て脱がせ、参加者全員が帰るまで、けして身に着けないように命じた。
それが、「主催ホステス」の礼儀作法なのだ。
若く柔らかく、しなやかで美しい体だった。
参加者は主催ホステス側四人の他に六組総勢十六人になる。
新人のおひろめと、ついでに「民子に荒事(SM)を掛ける」と言うので、皆楽しみにして居る。
谷村良子(愛)が、これから起こる事は承知の上だと言うので、ルールと心構えを教えた。
まず、私と貴女は今日の生贄で、「主催ホステス」になる事。
「おひろめ」のルールでは、パーティ終了の最後まで、参加者の要求の全てに、「けして逆らわない」のが決まりである事。
何よりも、パーティではいかなる事にも和やかに応じ、身を呈して盛り上げるのが、「主催ホステス」の役目である事。
そして、主催ホステスの口上を教えた。
段取りが進んで、谷村良子(愛)の洗礼儀式が始まる。
犬の皮首輪意外何も身に着けていない良子(愛)を、犬紐(リード)で鏡ステージに引き出すのは夫役の谷村で、彼自身酷く興奮して、忙しなくメガネをズリ上げながら良子(愛)の裸身を食い入る様に見ていた。
谷村にして見れば思わぬ役得で、部下の裸身が目の前で眩しく輝いている。
谷村とて男で、本音で言えばかなり美味しい。
愛の裸身を拝むなど「二度と無い」と思われる機会だから、遠慮なしに見せてもらう事にした。
支度を終えて部屋に入った愛が見たマンションの内部は、以前「静(しずか)」として通っていた頃の落着いた間取りではなく、スライド式の壁やドアは全て開け放たれたパーティ様式に変わっていた。
豪華な家具や調度品は同じだったが、舞台を意識したソファーの配置を施した大広間に変身していた。
その舞台に、愛は全裸で犬首輪に犬紐(リード)鎖付きで、スポットライトの光を浴びながら、谷村に引き出されたのだ。
覚悟の上だから、良子(愛)に悪びれる様子は無く、堂々としていた。
むしろ、普段は穏やかな中にも熱いものをもつ谷村の方が、勝手が違うのか流石に少しうろたえて見えた。
今夜は二人が「主催ホステス」と言う都合で、いきなり全裸の良子(愛)による、「今夜は私でお遊び頂きますので、如何様(いかよう)にも存分にお楽しみください。」の、挨拶から始まった。
谷村良子(森田愛)は、脱がしてみると筋肉質に引き締まった裸身で、小柄ながら均整がとれ、胸の二つの乳房の膨らみも、ウエストのくびれも、丸みを帯びて膨らむ恥丘に、生え揃う恥毛も尻肉の丸みも、弾けるように溌剌としている。
良いも悪いも無く、森田愛警部補(谷村良子)は全裸後ろ手拘束のまま、やや腰を前に突き出し気味に腰に手をやった仁王立ちの佐々木和也の欲棒を、床に膝を着いた形で上半身前後に動かしながら熱心にシャブっている。
和也唾液に濡れ光る淫茎の丈が、森田愛警部補(谷村良子)の口元で唇を擦(こす)りながら見え隠れする様を僅(わず)か一メートル足らずの目の前で見た谷村本部長のインパクト(衝撃)は強烈だった。
鏡ステージの前に引き出された良子(愛)は、たちまち容赦の無い陵辱の責め苦に翻弄され始める。
何も考えている暇は無い。
次々に求められる卑猥な行為を全て受け入れて、良子(愛)はこなして行く。
相手の数が多いから、休ませてはもらえない。
直ぐに恒例の「ハッスル、ハッスル」の掛け声も巻き起こり、谷村良子(愛)は、自らの陵辱に進んで応じる事を強いられる。
要求される卑猥な行為に、進んで応じる姿勢と努力が「主催ホステス」の使命である。
夫役の谷村も「本能のまま扱え」と愛から念を押されているので、部下とて容赦はしない。
当然、愛と一戦交える積りでいた。
その谷村は、パーティと言う事で、フランスブランド製のタートルネックスェーターとイタリアブランド製のジャケットで決めていた。
それが、躊躇えば返って怪しまれるから、いざ始まると、周りの男達の動きに見習って、スラックスとパンツを脱ぎ捨てた。
下半身だけ露にした谷村の格好を見た愛は、その間抜けな滑稽さに、思わず置かれた現状を忘れて噴出しそうになった。
「日頃の威厳は何処へ行ったのやら?」で、ある。
それでも、笑いたくても笑えない。
谷村は表情こそ表に出さないが、照れ屋の彼なりに必死に押し隠して居るにちがいない。
可愛くなって、その欲棒に喰らい付き、愛の口で硬く大きくしてやった。
その谷村が、ジャケットも脱ぎ捨てて男の欲望を露に、良子(愛)の乳房を弄り、周りの「ハッスル」の掛け声で、良子(愛)を犯すが、愛も呼応してM字開脚で応戦、堪らず谷村はあっけなく一蹴された。
プロデューサー夫婦にも手加減は禁じてある。
彼らも事情聴取の仇とばかり遠慮はしない。
良子(愛)を激しく器具攻めで弄ぶ女性達も負けては居ない。
何かを要求し、何かの行為を課せる都度、その報告を良子(愛)にさせる。
責め続けられながら、自分が何をさせられているか言わされるのは刺激が強い。
彼女が快感に気を失う度、取り巻く参加者からは歓声が沸いた。
しかしそれで終わらない、次が始まるのだ。
良子(愛)の人間として被っている皮は引き剥がされ、獣の本性が引き出されていく。
残されるのは、愛が「一度は経験したい」と密かに望んだ、肉体の被虐の快感だけだった。
何時もの様に、和やかな陵辱が良子(愛)に続いて行く。
良子(愛)は、歯を食い縛り身体を仰(の)け反らし、腰を振り続けて快感に耐え、応戦をする。
事情聴取の調書を読んでいたから、凡その見当を付けて輪姦陵辱に臨んだ。
しかし実際に行ってみると半端ではない。
愛の脳裏から、余裕は消えていた。
良子(愛)は一時間に渡った絶え間の無い陵辱に耐え抜き、漸くそれが終わると、息も絶え絶えに、「主催ホステス」の感謝の言葉を口にした。
「皆様には私でお遊び頂き、ありがとうございました。お楽しみ頂けたでしょうか?」
谷村良子(森田愛)の脚は、暫くの間閉じる事を忘れた様に大きく広がったままだった。
花弁も広がり、ピンク色の内壁が伺える。それほど、激しかったのだ。
参加者から、「ご苦労様。頑張ったね!」と声がかかり、拍手が起こった。
それから五分ほど、良子(愛)は床に転がって息を整えていたが、彼女にはまだ仕事が残っている。
民子の時間の間に、それを成し遂げなければならなかった。
いよいよ、民子が荒事(SM)に掛けられる番が廻って来た。
鏡ステージに拘束用のパイプ椅子が置かれ、民子が登場する。
全裸の民子がM字大開脚に両手は万歳の体制で、両手足を拘束され、その艶かしい格好のまま、「如何(いか)様にも存分にお楽しみください。」と挨拶をする。
民子の秘所は開け広げられ、全てを迎え入れる見事な生け贄の態勢が出来上がっている。
「お好きにどうぞ」で、物理的にもけして抗えず、これ以上の無防備はない。
それが目的だから、思い思いの責め具を手に、あっと言う間に参加者は民子に群がって行く。
十秒もしないうちに民子は快感に打ち震える。
器具で責めるもの、そのまま圧し掛かって抽入する者、何をされても身動きできず、相手が民子から離れるまで、唯、快感に耐えるしか成すすべが無い。
花弁を押し広げて深く浅く出入りする様々な物が、愛液に濡れて音を立てている。
すごい善がり声を上げ続けて、民子はパイプ椅子の上で気を失った。
その民子のお仕置きの最中、少し落ち着いた森田愛は全裸のまま参加者一人ずつに、お礼の挨拶をして回る。
実は愛は、この為に捜査対象の資料ファイルを熟読して任務に臨んだ。
勿論まだおひろめのルールは終わっていない、望まれればその場で欲棒をしゃぶりもするし、抱かれて相手もする。
捜査対象の大物が、三人混ざっていた。
愛は弄られながらも、抱かれながらもしっかり相手の顔を確認して廻った。
例の特殊金融組合の有力理事の息子で、彼には何か不審な無許可薬品販売活動の疑いがある。
もう一人は、収入が無いのに贅沢をしている男で、北星会谷山組総長谷山高進企業舎弟鈴木正信と認められた。
彼は、何か非合法な事に秘密裏に手を染めているらしく、今までも粗い仕事に影がちらついていた。
それに、企業舎弟の消費者金融、エコーエンジョイの社長夫婦もいた。
女の方が曲者で、尻込みする旦那をけしかけ、目の前で愛を抱かせた。
これで岸掘孝太の事件など、多くの繋がりが立証出来る。
愛が計画した、もくろみ通りの結果だった。
愛はそれを確認すると、谷村への報告を試みた。
耳元で囁くにしても、ただ耳元に近寄っては不自然で、方法はどう考えても一つだ。
谷村とは、どうせ先程行為に及んでいるから、愛にすれば、今更一度も二度も同じだった。
周りに怪しまれない様に、座って居た谷村の欲棒を咥えて元気付け、向かえ合わせにまたがり、谷村の欲棒を自ら導いて座位で受け入れた。
そしてゆっくりと腰を上下しながら耳元で彼らの報告をした。
谷村は「捜査対象三名在室」の報告を聞いて頷いたが、その後も谷村の膝の上に抱えられた愛の動きは止まらなかった。
固定されたまま責め立てられて、民子は限界だった。
しかし、和也は民子を休ませない。
この鏡ステージは天井にロープを通す太いパイプが据えてある。
民子を抱き起こすと、鏡ステージの前に立たせ、両手を縛って縄を天井のパイプに通し、縄を上に引いた。
民子の両手は天井に向かって目いっぱい挙がり、足がやっと届く所で止まった。
鏡をバックに立たされた民子の裸身が、縄で半分吊られた状態にされつつある。
参加者も民子の吊り支度が終わるのを待ち構えている。
これから、半吊りの状態で「自由が利かない民子を弄ぼう」と言う体制だ。
民子の片足に縄をかけ、和也が上に絞って、民子が片足立ちに成っている。
民子の身体はバランスを保てずに揺れ続け、股間は大きく広がって大事な所が丸見えを晒していた。
数人が近寄り、民子の股間にローターを挿(お)しこんだ。
「あっ、」と民子の小さい声が聞こえる。
暫く出し入れをして、民子の反応を楽しんでいたが、タマゴ型ローターをアナルに押し込んだ。
続いて花芯にもローターを宛がうと、細縄で固定をして両方のスイッチを入れた。
ものすごいローター音と同時に、民子の悲鳴に近い善がりのさえずりが起こり、片足吊りの不安定な身体は、ビクンビクンと絶頂を向かえ続けて揺れ続けた。
「気持ち良いです、良過ぎて死にそうです。あぁ」
民子は、快感を押し殺すように訴えた。
掛けられた縄は食い込んで痛いが、それとて妙に快感を覚える。
民子は、自分が完全に「マゾ」に仕込まれたのを改めて自覚した。
もう、脳も肉体も、明らかに陵辱される事に日頃の癒しを依存している。
お仕着せの理性に拘らなければ、この状態を楽しみながら生きていける。
島美紀に、今は感謝の念が湧いている。
彼女は今度、黒人でも連れてくるだろうか、どんな経験が出来るか楽しみである。
その時森田愛は谷村の膝の上で、快感に揺れながら、まだ特殊任務を続けていた。
始めたら、気持ちが良くて愛も任務を直ぐには止められない。
もう都合三度目だったが、前の二回は慌ただしくて味わう暇が無かった。
その点今のは、少しはじっくりと出来る。
今、本部長の欲棒が愛の股間を貫き、愛の腰の上下に深く浅く出入りしている。
「この際だから、サービスしておこう。」と、愛は思っていた。
そこに、彼女なりの心意気があった。
元々このサービスを条件に、愛が谷村本部長を引き込んだ。
これは任務の計画段階からの遂行条件なのだ。
この先、彼とこう言う事をする機会は二度とない。日頃尊敬していたから、その分の気持ちは伝わった。
本部長の気持ち良さそうな言葉にならない声が、耳元で聞こえている。
相手の反応がよければ、愛も嬉しい。
そんな時、愛はふと異様な気配を感じた。
それに、僅かだが首に痛みも感じる。
「この感覚、以前にも感じた事がある」と、記憶を辿って戦慄した。
異様な気配は、あの京子の居場所を伝えて来た時と同じ感覚だ。
「出た・・・」
森田愛は、意外と冷静な自分を感じていた。
不思議なもので、超常現象も度重なると、当時者は落着いて受け入れられるものだった。
森田愛は谷村の肩越しに見える大鏡に、鏡に映るはずの無い白い影を見た。
白い霧状の影が、少しずつ女性と思われる輪郭を整え、鏡に見る見る白い顔が浮かび上がって来たのだ。
良く見ると、それはすごい形相の白い女の顔だった。
森田愛が気付いた怒れる顔の白い女は、やがて少しずつ上半身がボーッと映り始め、鮮明になって行った。
ちょうど民子が片足立ちで吊るされて、美紀に極太のバイブを股間に挿し込まれ、深く浅くと、抜き差し責めで、善がり声を上げている時だった。
民子の身体はバランスを保てずゆれ続け、股間は大きく広がっている。
鏡の白い女は位置が真後ろなので、二人には見えない。
「あっ、ミレアだ。」本部長の膝の上で繋がったまま、愛は鏡に見とれた。
一瞬でパーティルームの熱気が消え、周囲も凍りついて見えた。
また、ミレアが「逢いに来たのだ」と思うと、森田愛は火照って居た筈の肉体(からだ)の背筋に、ゾクゾクッと寒気を感じた。
参加者の多くもそのミレアの像に気付き、一様に驚愕して後ずさりし始める。
彼らにとっては、理解不能で不気味な超常現象だった。
後ろに目の無い和也は事情が飲み込めず、怪訝な顔を参加者に向けた。
その白い女は段々鮮明になり、「立体的に成った」と思うと、その一瞬後には、鏡の中のその女がウワーと言う感じで大きくなり、和也を襲っていた。
不意を突かれ、「ギャアーッ」と、和也の悲鳴が部屋中に響き渡った。
和也は吹き飛ばされて倒れこんだが、ミレアはその和也になおも迫って、後ずさりする和也を広間の片隅に追い詰める。
この事態を森田愛は、谷村の上に乗って交わったまま腰が立たずに、しかし気持ちは冷静に見ていた。
谷村の方は突然の出来事に状況が把握出来ないまま、森田愛と下半身を繋げて固まっていた。
和也は、突然鏡から現れた白い女が、「ミレア」だと、気がついているのだろうか?
確か和也は能登の海岸でもミレア襲われている筈である。
しかも今度は室内で、和也に逃げ場が無い。
民子は突然現れた白い女に、追い詰められる和也を目にしては居たが、身動き出来ない姿で天井から吊り下げられていて、逃げる事も出来ない。
参加者は突然の怪奇現象に驚き、マンション内は悲鳴と怒号で騒然となった。
その騒ぎは、外で待機していた永田達に、中の異変を伝えるに充分なものだった。
「緊急事態発生、行動開始。」
これだけ大騒ぎになると、外の永田達が動き出す。
それでなくとも永田は、繰り広げているであろう森田愛の痴態を想像して一人やきもきしていた。
中では確実に愛が陵辱を受けている。
心逸って(こころはやって)いる所へ、中から尋常では無い騒ぎ声でもう止れない。
ドンドンと音がして「ドアを開けろ。」と永田の声が聞こえる。
森田愛が乗っていた谷村から身体を外してダーと玄関に走り寄り、内側からロックをふたつ外してドアを開けると、永田警視が目の前に立っていた。
永田は一瞬全裸の森田愛を眩しそうに見た後、押し退けて真っ先に中へ飛び込んで来た。
「動くな、全員逮捕する。」
ドッと警官隊がなだれ込み、瞬く間に全員の身柄は確保した。
逃げ場がないから、抵抗した者は居なかった。
吊るされていた民子も捜査員に吊るしていた縄を解かれ、後ろ手に縛られたまま床に蹲(うずく間)っている。
一瞬何が起きたか民子には判らない。
鏡から飛び出した怨念を湛える女の影と、捜査員の踏み込みがほぼ一度に起こったから、全容が飲み込めない。
呆然と蹲るより、成する術(すべ)が無い。
ただ、混乱の中ほぼ全員の身柄が警察に押さえられて、和也もその中に居る。
現場の証拠写真の撮影があるから、民子の後ろ手の縄は解かれてはいない。
極太バイブは抜け落ちて床に転がり、まだ唸り声を上げていてが、アナルのタマゴ型ローターは民子に入ったまま音を立てていた。
そんな事はお構いなしに誰も抜き取ろうとはしない。
時折快感に襲われるのか民子は小さく声を漏らすが、必死でそれを押さえていた。
民子としても、それを捜査員に中々言出し難かった。
踏み込んだ方は大量検挙で混乱していたから誰も個々の逮捕者に気など使っている暇はない。
現状の保全と証拠の確保保全が優先で、個人のプライバシーに気を使うのは事後の事である。
捜査員の一人が、森田警部補の指示で現場の写真を取り巻くっている。
逮捕者は現場から早急に離す為、着の身着のままで次々に連行された。
可哀相と言おうか、幸せと言おうか、民子は身体にローターを入れたまま忘れられて誰も気付かない。
そして、他の半裸の参加者同様、民子も後ろ手に縛られたまま、コート一枚羽織っただけでパトカーに乗せられ、やっつけ仕事で本庁まで連行された。
ドア開ける為に入り口に駆けつけた森田警部補は、突入後も捜査員達に現場保存を指示する為にまだ全裸だったが、谷村本部長は立場上すばやく身繕いをしている。
騒然としていた室内には、恐怖で真っ青になった和也がいたが、ミレアの亡霊は消えていた。
ドアが開いた瞬間、谷村には一瞬ミレアが民子に重った様に見えたが、混乱の中、そこから先の事は誰も見ていない。
谷村が近付いて来て、彼の癖で有るメガネのズリ上げを無意識にしながら、「ご苦労さん、中での事は他言無用。」と森田に声を掛け年押した。
まったく、判りやすい御仁だ。
永田が愛に自分の捜査用ジャンバーをかけながら、「ヤッパリ本部長とホントに犯ったのか?」と、確かめるように言った。
「疑われると困るから、特殊任務として犯ったけど、ただそれだけ。」
「特殊任務ねぇ、俺とは任務抜きで頼む。」と言った。
愛はにっこり笑って「はい、今からでもお願いします。」と、本気でハッキリ返事をした。
永田が嬉しそうに「何だ、今からでも良いのか、ばかに素直だな。」と言ったが、愛は黙っていた。
心の中で、「今日は求められたら断れないのがおひろめのルールだもの。」と呟(つぶや)いた。
それでなくても今夜は、このままでは愛の興奮が収まりそうにない。
強がっていても、想像以上の刺激だった。同僚達が、森田の奮戦後の裸姿を眩しそうに見ている。
経緯(いきさつ)は噂に成って居たので、森田警部補の現在の裸姿は理解できる。
堅物の西川巡査部長など、目のやり場に窮していた。
此処で何がなされたか想像するのはそれぞれの勝手で、森田愛の裸体は彼ら踏み込んだ同僚達の好奇な目に晒されている。
しかし愛は逮捕者の分類や現場保存の指示に夢中で一向に肩に掛けられた捜査用ジャンバーも掛けっぱなしで、丸出しの前さえ隠そうとしない。
実はパーティに入る前の会食時から途中でも、森田は景気付けに参加者に混じって大麻を吸い、ハイに成っている。
杓子定規ではこんな自分を投げ出す捜査は出来ない。
谷村もこの際の事だから承知で目を瞑っている。
「その格好早く何とかしろ。」
永田が堪り兼ねて愛に言うが、愛の方は見られる事に慣れてしまって、恥ずかしさが消えていた。
先ほど来のすごい体験からすれば、今更裸を見られたくらい何でもない。
「どうせ直ぐに脱がすつもりなのに・・・」と、永田に呑気な返事をした。
「ばか、本部に戻って、調書を取り終わってからだ。」
聞き付けた谷村が割り込んで来て、「おぃおぃ、後はやっとくから、永田君は、早く森田君を何処かに連れて行ってあげなさい。」と言った。
先ほどの特殊任務のお返しの積りだろう。
今日、森田警部補は充分働いた。
谷村本部長が、まさしく身を持って知っている。
森田愛は永田に促されて、ようやく下着を身に着け始めた。
谷村は、森田の開けっ広げな度胸の良さに舌を巻いて、まだ身繕いする森田の傍に居た。
「処で森田警部補、あれが例の鏡の奴か?」
「そうです、あれが捜査の守護霊です。」
「まったく、森田の頭の中と言い、不思議な現象のあれと言い、俺には理解できん。」
谷村本部長が、呟(つぶや)いていた。
間違いなく、「度々起こる」と、非公式に聞いていた超常現象である。
軽々しく見えるが、谷村はこの作戦の成否にキャリア官僚の職を掛けていた。
失敗すれば今以上に上に昇る道は絶たれる。
それどころか、地方の警察に左遷も有り得る話なのだ。
森田も、それを百も承知だったから、せめてもの好意であんな積極的な行動で応えたのだ。
一方、あんな事を受け入れた後なのに、森田愛には「責任を果たした達成感」と言うか、充実した思いが湧いてくる。
彼女の解釈では、性行為で肉体的に汚れたからと言って、そんな事は問題ではない。
もしそれを問題にするなら女性の恋の相手は「一度きり一人きり」で、それこそあきれるくらい保守的な建前である。
それに、犯罪被害や家庭の事情などの性行為で肉体を汚す事態でも、汚されたと決められては堪った物ではない。
肉体と精神は別だから、精神が汚れなければ、輪姦性行為も唯の任務である。
それでも永田が拘るなら、とても自分の彼氏には成れない。
森田愛の杞憂は問題ではなく、永田警視は「俺とは任務抜きで頼む。」と言った。
正直大麻を吸い、森田警部補はハイに成って、とてもこのままでは火照る体が納まらない。
悶々としているから、一気に永田に抱かれる事を望んだ。
永田に抱かれれば、肉体的汚れは精神的愛に洗い流される筈(はず)だった。
それから一時間、永田警視と森田警部補が、漸く心の制服を脱ぎ捨て、獣同士に変身する頃は、もう明け方近かった。
そろそろ川端警部達一隊が、例の冷凍蟹の冷蔵庫に踏み込む時間だった。
この混乱の中、民子には望まない再会があった。
踏み込んで来た公安部捜査員の中の若い一人が、全裸で吊るされている民子を見て驚き、「九条先生」と呟いた。
ミレアの超常現象と警察が踏み込んだドサクサで、気が動転していた民子は、相手を中々認識できなかったが、彼は黙って、自分の着ていたトレンチコートを肩が掛けしてくれた。
民子は、口を利いた訳でもないこの若い捜査員を「何処かで目にした若者だ」と思っていたが、搬送中のパトカーの中で、漸く何者か気が付いて赤面した。
名前も忘れたが、彼は民子が教育実習生時代に担任した教え子だったのである。
もう、他人に裸を見られるくらいは慣れっこに成っていた民子だったが、流石にこれには参った。
幸い、彼はマンションの現場に残ったので、一緒に成ったのは、ほんの十分間程だったが、教員時代が思い出されて辛かった。
それにしても、短い間とは言え教え子だった若者に再会するには余りにも酷い格好だった。
とは言え、起きてしまった事は今更どうしようもない。
教え子に「見っとも無い所を見られた」と言う耐え難い羞恥心は有ったが、こう言う生活をして居る以上「有り得る事」と開き直るしかなかった。
民子は、念願である教諭の免許状を授与される為に、大学四年の時教育実習を受けている。
教育職員免許法・教育職員免許法施行規則の規定により、教員として採用される為には、教育実習の単位を修得する必要があるのだ。
実習校として民子を受け入れたのは、母校筑波大学の付属高校で、民子が教育実習で通った高校では、美人でスタイルバツグンのお姉さん先生は大人気だった。
実習を嫌がった同級生も居たが、慕ってくれる民子は楽しかった。
実習期間は二週間から二ヶ月弱が通常だが、教育学部生であり、属高校を持つと言う恵まれた環境だったから、二ヶ月ギッチリ勉強させてもらった。
教員時代の民子はブラウスにスーツが制服みたいなものだった。
教育実習生になった民子は、実習期間中実習校である付属高校の校長および指導教諭の指導を受け、教育活動のほぼすべての領域に参加する事になる。
実習生が担当する教科(民子の場合は)を専門とするクラス(学級)担任が、教科・ホームルーム両方の民子の指導を担当する。
その民子を担当してくれたクラス(学級)担任の学級・ホームルームにおける児童・生徒への連絡報告指導、つまり教科以外にクラス(学級)担任とともに朝、帰りの学級活動・ホームルーム活動や給食、清掃などを、民子は実習担当したのだ。
その時民子が担任となったクラス(学級)に、特に優秀な男子生徒が一人居て、控え目で大人しかつたが、クラス(学級)中で光り輝いていた。
短い間で、「民子の教え子」と言えるかどうかは判らないが、印象に残る男子生徒である。
教育実習から六年経ち、その子の名前も忘れていたが、顔には見覚えがあった。
その「教え子」が、目の前に現れたのだが、再会の場所が悪かった。
彼は、警視庁に採用され、若手の公安部捜査員だったのである。
彼の方は、憧れのお姉さん先生、九条先生の酷い姿を見せられ、愕然として口も利けなかったのである。
パーティ参加の容疑者達は全員パクられて、本庁の別館に送られて来た。
男供は護送車に詰めて来たが、女達はパトカーに乗せて来た。
女性の容疑者に対応したのは生活安全局の婦警達だが、民子を見た婦警達もただの人間だから、当然好奇の眼でこの奇妙な格好(なり)の逮捕者を見た。
恥ずかしい格好だが、民子には顔を下げ、目を合わせない事ぐらいがやっとの事だった。
唯、その婦警たちも、民子の裸身に燦然と輝くダイヤとプラチナの装身具には息を呑み、溜め息を付いた。
その内一人の婦警が、豪華な装身具と、麻の荒縄の間に、白い紐状の物を発見した。
辿ると縄の間に小型のスイッチも挿んである。
「あら、このコード何?」
「何ヨ、カマトト!知らない振りして、使って知っているくせに・・・」
「なにょ、知らないわよ。・・・」
「ハハ、これ、後ろの方に入っているゎ。やぁねぇ。」
「面白がって居ないで、誰か早く出して上げなさいょ。」
署に着いてから、対応処理に駆り出された婦警にそれを発見され、じゃんけんの挙句勝った一人が笑いながら抜き取った。
小型のローターは抜き取られたが、その後も民子の拘束された姿はそのままで、公安部の尋問室の一つに座らされ、待たされた。
機転が利かないのか、意地が悪いのかは知らないが、婦警達にすれば、民子のその格好と、していた事が赦せない。
「公務で連れてきた」と言う大義名分があるから、晒し者のまま、誰も何かしてやろうとはしなかった。
民子が縄を解かれ、着衣を渡されたのは、谷村が返ってからで、婦警達は大目玉を食った。
「まったく、組織が硬直しておる。命令が無いと、放置していて当然の判断も出来ないのか。」
馬鹿馬鹿しいが、余分な事をして叱られるのを恐れる本庁の役所体質は、谷村もうんざりして居る。
マンション側の怪しげな連中は一網打尽にした。
後は川端警部の隊が、食材冷凍倉庫で物証の麻薬を抑えれば、一挙にルートを壊滅し、関係者を地検に送致できる。
谷村本部長は、眠たい目を擦って、翌朝の急襲を指揮する為に本庁に居た。
不謹慎だが、まだ森田愛警部補の裸身がチラツキ、性交の余韻がよみがえって来る。
「遺憾、遺憾、あれは任務だったのだ。」と、谷村警視正は、呟いた。
この事案も、目鼻が付くまで後一歩だった。
(強制捜・査圧力)
======「現代インターネット風俗奇談」======
小説・電脳妖姫伝記
◆ 和やかな陵辱 ◆第十話(強制捜査・圧力)
十二月十六日早朝、川端警部の隊は佐々木の会社の食材冷凍倉庫を急襲する。
元々この会社は終夜(二十四時)営業のレストランを経営しているから、本部にも現場に対応する為に深夜担当幹部がいた。
食材冷凍倉庫も緊急に備えて、対応要員が配置されている。
この辺がミソで、輸入品が闇にまぎれて深夜に入荷する事もある。
今朝の此処には、一昨夜十一時半に新たに入荷した蟹が山積みされている。
川端警部の部下が、半月も張り込んで、やっとの事で現認した。
つまり、長い事公安がマークしていた不審な商標表示の蟹が、二百ケース程有るはずだ。
早朝、公安の川端警部が名目上輸入冷凍食品の表示違反の嫌疑で、東京税関と該当所轄保健所の協力の下、十五名ほど引き連れて、食材冷凍倉庫を訪れた時、現場は慌てて和也に連絡を試みた。
しかし和也は、昨夜のうちに自宅のパーティ会場で身柄を押さえられていて、勿論連絡が付かない。
現場の責任者クラスの三人ほどはどうも胡散臭く、組織の者かもしれない。
彼らが慌てて連絡を試みた佐々木和也はパーティ会場で検挙され、もう取調べの最中で、本庁の別館に秘密裏に拘留され尋問を受けていた。
彼を押さえたのは、強制捜査の対応指揮をさせない為だが、森田警部補の捨て身の活躍で上手く行った。
それで、現場が和也から何の指示を得られないまま、帳簿点検による入出庫の詳細照合が、始まった。
その後、強制捜査と言う事で、七時から該当品の二百ケースの現品抜き取り検査を開始した。
何しろ、冷凍庫内の作業と言う事で、捜査員が中に長くは居る事が出来ない。
開封作業は難航していた。
しかし、出て来るのは甲羅付の立派な物ばかりで、とてもクズ蟹ではなく、麻薬に結び付く物は見つからない。
麻薬犬を連れて来たが、どう言う訳か反応が鈍く、動きを見せない。
「う〜ん、吼えないなぁ、寒くて臭わないのか?」
踏み込んだ捜査隊は追い込まれ、梱包を解いた箱が山に成ってあせり始めていた。
永田は、森田愛のマンションに居た。
佐々木和也のマンションにはとても及ばないが、小奇麗で落ち着いている。
愛には「さっきの約束をしましょう」とストレートに誘われた。
愛の実家が鎌倉に有るのは事実で、このマンションは父親が警視庁の課長時代に、勤務の都合で求めた物だった。
警察官僚用の官舎はあったが、愛の父は役人がお手盛りで予算を使う、その豪華な存在その物を疑問視していた。
大勢には逆らえないので、面と向かって物申す事は無いが、自分だけは同僚の見え見えの陰口もめげず、自腹を切ってマンションを購入、個人的に抵抗していた。
愛の父親は、現在転出していて大阪府警の本部長(警視監)を務めている。
何人も居ない上級幹部官僚で、戻って来た時は、相当の地位(警視総監か警察庁長官)に就くと目されている。
愛はその父に憧れて、父親の後を追った。
成績優秀だった愛は日本で最高峰の国立東京大学の法学部に現役で合格。
四年に進級する前には司法試験にも合格して、父親は、てっきり愛が法務畑を歩み、「判事(裁判官)にでもなる。」と思っていたが、予測を裏切り公務員上級試験(国家公務員一種)を受験、合格して警視庁入りを果たした。
父にあこがれていた子供の頃からの夢を、愛は果したのだ。
徹夜明けに近いのに、朝から永田の携帯と森田の携帯に殆ど同時に着信があった。
電話があった時、まだ永田は愛の上に重なって奮闘していた。
何度目かの愛の要求に答えている所だった。
永田の知る限り、昨夜の特殊任務は相当に過酷なはずで、愛のスタミナには驚いたが、彼女にしてみればその興奮が中々収まらず、永田にぶつけていた。
強がっては居るが、愛とて年頃の女に違いは無いから、理屈は頭で考えられるが、身体の刺激は強烈過ぎて当分忘れられそうに無い。
電話は永田の方にナカヤンから、愛の方には京子からで、内容は同じものだった。
彼らは、まさか二人が一緒にベッドの上とは想定していないから、手分けをして連絡してきたのだ。
二人は佐々木和也のPCに進入、過去の通信記録を丹念に調べていた。
それは本来違法行為で、警察では検察の令状を取らねばならない。
しかし民間人の二人が勝手に犯罪行為をしていた訳である。
それで掴んだ情報が、緊急を要していた。
永田と森田の二人はそれを聞くと、飛び上がって衣服を身に着け、谷村本部長に連絡の上、川端警部のガサ入れ現場へ向かった。
「そう言う訳で、川端警部の居る食材冷凍倉庫に向かいます。」
「うん、そうか、了解したのでよろしく頼む。」
連絡は愛がしたのだが、何故か谷村は何時もより殊更他人行儀で、彼は昨夜の事をまだ意識している様だった。
もっとも、此処で慣れ慣れしければ、それはそれで、捜査本部内に誤解が生じかねない。
二人が現場に到着した時、川端警部達はあせっていた。
相当数の梱包を開封したが、怪しい物は無い。
まともで立派な蟹が、凍って入っているだけだ。
イライラしている所へ永田が顔を出した。
「警部、どうですか?」
「アッ、永田警視、イヤァ、見つからないです。もうケースを開け始めて二時間になるが、庫内が低温で中に長く居られない。」
「実は、良い情報を持って来たのです。」
「何でしょう、こちらはもぅ藁をも掴みたい心境です。」
「今中山さんと京子さんから貴重な情報を聞きました。しかし情報の入手々段に問題があるので、警部が見事発見したという事で。」
「何ですか、思わせぶりに・・・・」
「甲羅ですよ、甲羅。」
「エッ、う、ん?おいっ、その凍った蟹を此処に持って来い。」
「此れで、良いですか?」西川巡査部長が蟹を一ケース持って来た。
彼は、昨夜のマンション突入を志願して付き合って居たから、本命のこの捜査と連続して現場を掛け持ちしている。
タフで有名だが流石に目が赤い。
「それに、熱湯ぶっかけて、解凍して見ろ。」
「あっ、そう言えば事務所脇の調理試験室に電子レンジが五台有った。」
「五台も!ちっ、何でそこに気が付かなかったのか。」
まさか、冷凍にしてある蟹の甲羅の中身まで解凍して開けて見るとは思い付かない。
相手は生鮮食品で心理的に解凍は傷ませる事を意味する。
そのまさかに嵌まっていた。
如何した訳か、常温と違い冷凍庫の中で麻薬探知犬も反応は無かった。
川端警部は、自分の頭を左手で軽くコツコツと叩いて、永田達に照れた。
「警部ありました。それにしても大胆に考えましたね。」
野田巡査長の手には、甲羅の上側を外した中に、二枚重ねにしたポリエチレン袋に入れた白い粉がある。
ヘロインと言う名の、怪しい粉に違いがなかった。
「凍っているので、まさか一度甲羅を外して有るとは、気が付かないだろう。」
「それにしても、通関は上手い事した物だ。」
「他に細工がないか、持ち帰って、調べるさ。」
手間のかかった事をする物だが、やつらの手口が推測可能だ。
赤い北の国漁船で取れた生の蟹の甲羅を一度開け、身やミソなどを上手く取り除いて、そこにヤクを仕込み、その後一部身を入れなおして冷凍し、一旦第三国に設営した息のかかった出先企業に売却する。
そこを経由して、和也の会社が輸入していた。
日本側から見れば、表向き赤い北の国からの輸入では無くなっている。
甲羅内の外した身やミソは、現地で缶詰にでもしているのだろう。
「えぇっ、永田警視達のおかげで発見しました。」
谷村総指揮(捜査本部長)に川端警部が報告している。
報告をし終わると、川端は永田達二人に告げた。
「関係容疑者全員拘束の緊急指令が総監から出ました。もう張り付きの専任担当者が、おのおの逮捕拘束を始め、一網打尽です。」
「やりましたね。警部。」
「いや、森田君の決断のおかげだ。夕べはご苦労さん。こっちだけじゃあ物は上がっても上まで辿れない。」
川端はこちらの手入れだけでは、佐々木の会社止りなのを強調した。
永田達の突入後の経緯と成果は同行した西川巡査部長から聞いていた。
「それにしても、近頃のお嬢さんは思い切った事をする。これこそ体当たりだ。無理をさせたが、私達が無駄にはしない。」
森田の潜入捜査を支持した手前、自分達冷凍庫隊の捜索が滑ったら、川端も面子が無くなる所だった。
「しかし、」と、川端警部は言葉を繋いで、「森田君にあんな事をさせて、大阪府警のお父さんに怒られるな。」と言った。
永田が、「今に総監で戻られたら、全員左遷ものです。」と、混ぜっ返したのを、「いぃえ、父には事前に了解を取ってあります。皆さんには迷惑は掛けません。」と、愛がキッパリと否定する。
「えっ、もう知っている?反対しなかったのか?」
「えぇ、どうしても掴みたい捜査に、自分から女の武器を使う申し出を谷村警視正にしたと報告しました。」
「随分ストレートに言ったものだな。」
「私が言い出したら聞かない正確なので、必要なら仕方がないと・・・・。」
「じゃじゃ馬の親も大変だ。とても手綱を持ちきれない。」
「じゃ、放って置けば良かったんですか?捜査進みませんでしたよ。」
確かにトカゲの尻尾きりをさせない為に、愛は潜入した。
それでなければ、一箇所で全員検挙など出来ない。
「そうは言っても父親の気持ちは心中複雑だろうよ。」
「この件は、自分を捨てるだけの価値が有りましたから。最期は自分の身の安全に気を付けて、がんばれと。」
「すごい、親子だ。」
永田警視は、森田警部補の芯の強さに、少しだけ将来の不安を感じた。
もしかしたら、「俺は凄い女に惚れた」のかも知れないと。
一応唾を付けたが、警察側の当事者は、この年の瀬にこの後が大変だった。
これは、マスコミに気付かれたら、日本中が引っ繰り返る大騒動に成る大事件だった。
しかし、国家間の陰謀が根にある事案で、平和憲法との兼ね合いが国内の混乱を招くのは目に見えている。
処理の落し所に、相当の政治的配慮が必要だった。
それで、検察庁も警察庁もガッチリ異例のガードをした。
「奴らの東京地検(東京地方高等検察庁)へ送致の件だが、今回は札(逮捕状)を出す検察も慎重で、取り敢えずは微罪で拘留する事になった。」
「はっきり言えば別件か?それじゃぁ、長い拘留は出来ないじゃないか?」
「そこはそれ、微妙な外事二絡みの案件だで、全体がはっきりするまでは、機密性を保って誤魔化すしかない。」
「無茶な話だが、検察菅も大人の解釈をして居る。」
「どの道、これだけでかい山(外事二・公安絡みの案件)だ、公訴の提起(起訴)の罪状は地検の捜査後の追起訴で行くしかない。」
マンシヨンでの逮捕者で、赤い国関連の大物と目されるのは、外食レストランチェーン鮮食万雷亭グループ副社長佐々木和也(34)、特殊金融組合関東北総連信用組合の有力理事の息子で、金村良治(35)、彼は母国特産の薬効人参を薬事法の許可なく大げさな薬効を歌ってネットで販売する組織にも関っていると見られ、この方面の捜査も絞り込まれて来ている。
それに、指定暴力団東関連合北星会谷山組総長谷山高進企業舎弟鈴木正信(40)や、遊技場、アミューズメント、ラブホ経営ドリームV(ブイ)の大西孝雄(32)と、その妻達で、そこから芋ずる式に親や交友関係、アウトロー組織トップと、幅広く警察の手が入っていた。
これだけの面子が集まるのは、単なる乱恥気パーティが目的とは考え難い。
どうやらパーテーに紛れて、その筋の密談をするのも目的だったのである。
蟹の身の甲羅から出てきたのは、分析の結果高純度の麻薬(ヘロイン)だった。
税関すり抜け(通関)の件だが、麻薬犬対策に、個人の仕事ではない大掛かりな仕掛けが発見された。
それは、キトサンの使用である。
ご存知のように、キトサンは蟹の甲羅から取る。
実は今回の摘発品について分析した所、この蟹の甲羅の微粉末(キトサンパウダー)が、ダンボール製の輸出箱の内側の紙と、麻薬を小包装に使ったポリエチレンの袋から検出されている。
蟹のキトサンの脱臭力は半端でない。
その蟹の身の甲羅の中に隠して犬の臭覚まで惑わす消臭力のキトサン、これで麻薬摘発犬の臭覚を撹乱させる目論見だった。
調べて見ると、生身の蟹に隠しただけでなくパッケージにもキトサンの臭覚バーリアは施されていた。
いずれも、ダンボール紙や包装紙には漉き(すき)込み、ポリエチレンには練り込みと、長期的に蜜輸出する為の資材に至る工夫がなされていた。
これはとても個人や小さな組織で出来る仕事ではない。
考えられるのは、国家単位の陰謀である。
逮捕者が多いので、取調べは大勢で分担しても大仕事で、中々消化できない。
麻薬関係は谷村、川端が主に指揮して、枝の方まで追求している。
拉致誘拐(失踪)殺人、拉致誘拐(失踪)の処理もあるから、森田愛がそちらを担当して、この案件の供述調書をまとめた。
東関連合北星会武山組総長武山一進企業舎弟鈴木正信(40)の麻薬密売は担当部署が違うが、大石辰夫(タンク)の「開放の館HP」乗っ取りを画策し、拉致の依頼をした容疑の方は愛の担当だった。
同じく、東関連合北星会武山組には、幹部にミレアの拉致を実行したスガワラが在籍している。
武山組には岸掘孝太殺害教唆の嫌疑があり、こちらは西川巡査部長が担当している川端警部は部内の係長級を動員して、大物逮捕者を担当させ、谷村と常に連絡を取って一度に証言の食い違いなどを精査して追及を欠かさない。
当然ナカヤン(中山敬二)や、被害者の石井京子、加害者九条民子の調書も取ったが、九条民子(佐々木民子)の供述はさながらポルノ小説で、愛も九条民子の犯行動機については、若干の同情を感じている。
厳密に言うと、民子が加担したのは、佐々木和也失踪の一件だけで、それも、和也が承知の上で自演したとなると、民子の犯罪は、拉致を計画しただけで実行はしていない。
組織に利用されただけだ。
ただしそれが切っ掛けで、人の命が失われる結果になっている。
佐々木和也の裏の事業がシャブと判明した事から、パーティ参加者に、シャブの常習者が居る可能性が示唆される。
しかしこの件では、参加者の大半は陰性反応だった。
唯一引掛かったのが、岩崎誠一の妹中村由美で、その後教団の専属医師が栄養剤と詐称し、由美に与えて居た事が判明した。医師は逮捕された。
医師は由美の受けている修行を告白、その過酷な内容に同情して、「個人的に与えた」と主張した。
教祖主導の怪しげな修行が、教団内で行われている事が判明した。
しかし、たとえ怪しげな修行でも、大の大人が、合意の元にしている行為である。
ただの、合意の上の浮気と同じでその事で罪は問えない。
由美もその修行を受けている事実を認めた。
しかし亭主も家族も合意して送り出しており、由美本人も強制されたのではなく「進んで修行を受けている」と証言した為、その事で犯罪性は問えない。
うっかりすると「信教の自由」を振りかざされそうである。
医師の個人的な違法行為と単純に結論付けざるを得なかった。
勿論、教祖の「シャブ使用の指示」が疑われたが医師の口は固く、立証できなかった。
医師は全てを自分が負う構えを崩さない。
残念ながらシャブの出処の特定にも至らなかった。
由美は「明確なシャブ使用の意志が無かった」と認められ、不起訴、入院加療の上保護観察処分にされたが、結局教団に帰って行った。
妥協しているのと確信しているのとは、明らかに違う。
長い事そう言う環境に身を置くと、それに依存する様になり、由美の心境は完全に変わってしまっていたのだ。
宗教絡みの権力者は強力でしぶとい。
この宗教の政治力はかなりのもので、いざとなれば国会議員を十数人は動員できる。
結局検察も警察も腫れ物に触る扱いで、結果教祖は無傷で何食わぬ顔をし、由美の和合修行を再開した。
永田や森田、川端などの間で話題になった事だが、教団の修行場にも鏡はあった。
しかし不思議とミレアの現れた形跡が無い。
まったく合理的とは言えないが、或いは、絶える事なく流れている般若心経の読経が、「魔除けになっているのでは。」と、縁起担ぎに凝る古い体質の捜査員達は、誰とはなく噂し合った。
合同本部の捜査員の間で、近頃の女性の性行動に付いて、その奔放さが話題になった。
女性が強くなって、自分の意思が確立している。その意思の発露に、SEXを愉しむ事も含まれる。
古い世代からの批判では「日本女性に昔の様な貞操観念が無くなった。」と言うのだ。
その辺りの社会合意が時代と伴に少しずつ崩れている。
最近では日本の女性が半島の俳優にフアン熱を上げ、半島旅行が盛んであるが、一部現地報道で逆売春が批難されている。
つまり日本の旅行女性が「現地で男を買い漁っている」と言うのだ。
まぁ、一昔前には日本の男性旅行者が売春で批難されていたから、「此れで男女平等になった。」と言えない事も無い。
しかしながら、フアン熱を上げる事も、売春騒ぎを起こす事も、男女の権利の平等化が、反面「責任の重さ」と言うストレスをより大きく背負う結果になって、女性もより過激なはけ口が必要なったのではないか。
今回の一連の事件には、この風潮が色濃く反映している。
此れが合同捜査本部の素人分析だが、真面目な女性にすれば立前論に起因する「ふしだら」の一言で、分析論など身も蓋も無い。
年が改まった一月、京子は例の「文字化け」と取り組んでいた。
この奇妙な文字化け誘発ウイルスは、サイバーやサイト、メールの頁などを、ピックアップ攻撃で、目標だけを破壊する高度な物で、生半可なプログラムではない。
文字化けした文字が小さな閃光と伴に消滅して行くバケ・プログラムの特徴は、目標以外はスルーで何の悪さもしないのだが、あらゆるサーバーを通して何処からでも進入してくる。
「あんなウィルスは、国家的なプロジェクト開発でないと作り出せない。」と京子は考えていた。
例の「文字化け」と取り組んだ理由は「復帰させる事が出来なくて悔しい。」と言う京子持ち前の負けず嫌いで、単純な動機だった。
単純、明快、快活は京子の身に着いた天性の物で、時として罪の無い暴走をする事が有る。
つまり、考えるより実行で、ナカヤンをハラハラさせるが、たまには驚くべき結果を出してしまう。
しかし、「文字化け」、流石に我が国の専門家が梃子摺(てこず)るだけに、京子も何としても歯が立たない。
京子は一週間以上唸っていたが、手掛りが無い。
「コンチキショウ」と言いながら、デスプレィ画面とにらめっこを続けていた。
京子の信念も相当なものだが、今回ばかりは手に負えない。
ナカヤンも「もぅ無理だろう、ソロソロ諦めたら。」と言い始めていた。
処が、そのナカヤンとの会話から、京子はひょんな事に閃(ひらめ)いた。
「BワンのHPにヒントがないのか?」
「そうか、自分で解くばかりが能じゃないゎネ!。」
京子は以前失踪騒ぎの折に、Bワンこと佐々木和也のPCから、データーを吸い取って持ち帰ったのを思い出したのだ。
中身を当たって見ると、一つ面白いファイルがあった。
「あった。これよキット。」
和也も結構茶目っ気があるらしく、ファイル名が「おばけ物語」と、ふるって居た。
京子がそのデーターの中に「文字化け」を通すと、「化けたデーター」が、あっさり復元した。
「やった。」
和也はワクチンを隠し持っていたのだ。
京子が、ナカヤンに自慢すると、「何の為に苦労している。物好きな奴だ。」と笑われた。
処がこの時、警視庁サイバーパトロールの永田課長(警視)の処は大騒ぎの最中だった。
警視庁の業務ソフトが次々にダウンして、業務が止って行くのが、大型スクリーンに映し出されて、もう、首相官邸の危機管理室にも報告が行く事態だった。
突然の赤い北の国からの報復サイバー攻撃に遭い、「捜査データーが化けて」手の付け様が無くなりかけていた。
文字化けした文字が小さな閃光と伴に消滅して行くのは、正にリュウちゃんの時と同様だった。
当然コピーを回線の影響を受けない所に別に保管しては在るが、いたちごっこで、復帰は出来ない。
それが翌日には全国の警察に広がり、テレビでも謎のウイルスの攻撃を受けているとの報道が為され始めて、ナカヤンは動転した。
「京子、今その文字化けの事、テレビで騒いでいるぞ。」
「でしょ、永田さんに直ぐ携帯かけて。」
「まかせろ、こりゃ大ヒットだ。」
何しろ、元々偽ドルまで作るような「ならず者国家」だから「ひとさらい」や「ヤクの売(ばい)」だけではない。
核兵器だけでなく、細菌兵器もサイバー攻撃も核より安易で出来る。
後で永田警視に聞いたが、水面下で「株式や金融などのシステムにもサイバー攻撃を仕掛ける」と、日本政府は脅されていたらしい。
それで、「寸での所」で援助の金品をむしりとられ、逮捕者の保釈をする所だったのである。
まぁ、ならず者国家だから、「脅し、たかり」が国家単位の規模になる。
常識が違う相手に説得など出来ない。
本来なら国内の警察権にあたる自衛権を使用する所だが、何しろこの国は戦闘が出来ない平和国家である。
早速ナカヤンが永田にワクチンの存在を連絡、粗方(あらかた)間に合って事無きを得た。
しかし、やられた分の修復は「少し時間が掛かる」と言う。
あのままでは、相当やられて大混乱に陥る所だった。
行きがかりとは面白い物で、この危機を民間人の京子が救った事になるのだが、何しろ相手は北の赤い国である。
警視庁は、正式に京子の協力を表ざたにして危害の及ぶのを恐れた。
それで、マスコミ発表も表彰も無い。
警視庁の極一部の者しか知らない事として処理されている。
ナカヤンは、永田達の済まなそうな報告を「もう気にしないでくれ。」と、断った。
本音の所、一市民で生きて行くには、今度の一件は巻き込まれなければ縁の無い話で、巻き込まれたのが不幸だった。
無責任なようだが、力を持たない市民は、当事者に任せて、関わらない事が唯一の対処で、利巧な生き方である。
今度の事を期に、京子の親に正式に挨拶を済ませ、正式に婚約をしたのだが、先方の勧めで今千葉の石井京子の親元から、仕事に通っている。
少しずつ絡め取られて、この分では石井家に養子に入って、ナカヤンはイシ(石)ヤンなりそうだ。
京子に笑われたくないから黙っているが、忘れようとしても、ミレアに肩を掴まれた感触は、今でもナカヤンによみがえって来る。
心優しいミレアには悪いが、あの霧の集まったような白い顔も、思い出したくは無い。
ナカヤンは、生きている人間相手なら余り怖いとは思った事が無い。しかしアア言うのは、見っとも無いくらい苦手だ。
赤い闇の組織の摘発を主眼にした芋ずる式の大量検挙に、外部はその目的が掴めず、マスコミが注目し、あれこれ推測した。
元々治安目的の公安が絡むと、操作はベールに包まれる。
マスコミに気付かれたら、日本中が引っ繰り返る大騒動に成る。
それで、検察庁も警察庁もガッチリ異例のガードをした。
本庁(警視庁)は、あくまでも輸入冷凍食品の表示違反の嫌疑で押し通し、まだ本丸の赤い非合法組織の壊滅作戦は漏らしては居ない。
マスコミには担当部署の違いを疑問視されて追及を受けたが、「捜査過程で浮かび上がった事案で、たまたまのイレギラー」と、押し切った。
警視庁の記者会見はそれで押し通している。これから点と線を繋げ、全容を洗い出す。
その端緒に、まだ付いたばかりだった。
その後捜査官の努力で、頑強に黙秘または否認していた検挙者の一部から、漸く自供する者も出始めて、裏付け捜査も含め、僅かながら明かりが見え始めていた。
今度こそ、大きな成果が見込まれる。
部署内に期待の空気が流れていた。
処が、警視庁警備局の努力をよそに、もっと大きな国家的陰謀が進んでいる事に、警視庁は気が付かなかった。
突然の事だが、この事件の主力捜査関係者が警視総監室に呼ばれた。
それ自体が異例の事で有ったが、呼ばれた理由が、突然の昇任の内示だった。
谷村警備局次長(警視正・ネット公安事件合同捜査本部長)は警視庁参事官(警視長)に栄転。
川端警部はノンキャリながら警視、永田警視は特進で同じく警視正、驚いたのは森田愛の処遇で、最速でも三年かかる警視の内示を行き成り二階級特進で提示された。
警視と言えば本庁の課長級、署に出れば署長か副署長で、川端などの高卒ノンキャリでは殆ど最高峰で有る。
まさに大判振る舞いで、本人にはまだ内示していないが、出先捜査の為不在の西川巡査部長にも警部補特進の話が付いていた。
不思議な事に、高橋警察庁管理菅もチャッカリ一階級昇任して警視長、警察庁参事官にご出世である。
この、警視総監直接の異例な昇任の内示に、一同めんくらった。
そして、彼らは、喜ぶより耳を疑り、怪しんだ。
こんな事例は過って無い。異例中の異例である。
確かに、大きな事案を扱って成果も出しているが、公式には非公開扱いで、関係者しか良くは知らない。
それも、まだ事案解明の途に着いたばかりで、成果の評価が定まった訳ではない段階での、不可思議な内示発令だった。
それに、この集団逮捕劇以来、高橋警察庁管理菅(警視正・捜査の警察庁側責任者)が沈黙を守って出世している。
「裏に、何かある。」
一同釈然としないまま、退出した。
総監室には、谷村だけが総監に呼び止められ、「まだ話しがある。」と残された。
総監と今後の打ち合わせが有ると言う。
「川端警部、いや、警視と呼びますか?」
「まだ警部で良い、この話、素直に喜べない。」
「どう言う事ですか?確かに気持ちが悪いですね。」森田愛が言った。
「裏に在るのが、とんでもない事じゃないかな?」
一同考え込んで黙ってしまった。暫(しば)し無言の時が流れ、漸く永田が沈黙を破った。
「谷村さんが何を言われて来るやら。」
総監室では谷村が強い憤りの下、総監に食い下がっていた。
「総監これはどう言う事ですか?」
「君が今回やっている件、今後天の声(上)から指示があった時点で、すぐに手を引いて欲しい。」
「しかし、今やっているのは、公安・・いや、警察庁、検察庁の長年の悲願です。」
「十二分に承知している。勿論私の悲願でもある。」
「それなら、何故。」
「天の声(警察庁長官)だ、君達の労は、先ほどの内示で充分報いた積りだ。」
「確かに充分過ぎますが、そう言う事ではなく、やりかけで放り出せと。」
「それなら言うが、君の所の永田君、森田君の事は各方面から批判も出ている。本来のキャリアの立場からすれば、現場に出過ぎだ。」
「しかし、その事によって、成果は出ていますし、現場の連中の評価も高いです。」
「それはそうだが、キャリアにあるまじき軽率な行動との批判が、キャリア組から出ておる。この一件、私や大阪の森田警視監が居るから表に出ないだけだ。」
「そんな、キャリアだのノンキャリだと言っているから組織が硬直するのです。現場を知らないキャリアは使い物になりません。」
「谷村君、大人になれんかネ。判るだろう。言わないだけで、私が君らを応援して居るのを。」
総監の口ぶりには、ほとほと参っている心境が露わだった。
「しかし、・・・・・」
「この件で、私が君らにしてやれるのは、あれだけだ。だが、出世せんと本庁の改革などできんぞ。」
総監は苦しそうに言った。
「何処からの話ですか?」
「外務省、内閣官房、法務省、勢ぞろいだよ。警察庁長官を通して言って来ている。」
「どう言う事でしょう、それだけ動くとは?」
「判らんが、早々と検察にも話が行っている。どう見ても、何か大きな力が動いている。」
「総監がご存知ないなら、少し調べても良いですか?」
「派手にはやるな、目立たないようにナ。」
訳は、総監も知りたいらしい。
「ご迷惑は掛けません。」と谷村は返事をした。
谷村が退室した後、総監は溜息混じりに呟いた。
「この国には、突き止めると返って政府が処置に困る事もある。」
谷村は自分の席へ戻ると、先ほどのメンバーを小会議室に呼んだ。
「厄介な事になった。思いもよらぬ圧力が天の声から懸かった。」
「総指揮、どんな圧力ですか?」
「指示が来たらその時点で、今の事案から手を引けと言われた。」
「えぇー、やはり裏にそんな話が、おかしいと思いました。まさか、了承した訳じゃ無いですよネ?」
「良く判らないのは、総監も今の所我々と同じらしい。手を貸して欲しい。」
谷村は、今に正式な要請があるらしいが、それまで少し時間がある、「職務外だが今のままでは俺も後に引けない。」と、一同に言った。
「裏に何が在るのかを、調べようと言う事ですか?」
「当たり前だ、ここまでやって、手が引けるか。」
「判りました。我々も同じです。」
「ここまで辿った潜在一隅のチャンスを、何故だ。」
永田が悔しがる。
「さっきのあれは、取引の餌ですか?汚いなぁ。」
川端警部も憤慨している。
「ならば、どうする?」
「皆で手分けをしょう、外務省、内閣官房、法務省関係です。」
森田警部補が真っ先に手を上げた。
身を呈してまで、思い切った任務を買って出たのに潰されては適わない。
「そしたら私の同期が法務省に二人居ます。」
「じゃ、外務省に親友が居ますので、自分がやります。」
「良ぉし、私と川端君で内閣官房を当ろう。」
捜査は彼らの本業である。全員が、一斉に走り出していた。
三日後、外務省を当っていた永田警視が面白い事を掴んで来た。
目的が何かは判らないが、最近日本に居留して、北の赤い国を祖国とする居留総連の幹部と、外務省アジア局の幹部が、盛んに交流している。
どうも、文字化けウイルス騒ぎの交渉の折に佐々木代議士を通じて開かれたチャンネルが、その後も生きているらしい。
此れが、天の声の圧力と「何か関係が有るのではないか」と、永田は報告した。
しかし外務省なら、頻繁に接触しても不思議は無い。
処が、谷村と川端の調べた内閣官房も、外務省アジア局となにやら接触を繰り返している。
谷村の同期が外務省から内閣官房に出向しているが、「勘弁しろ」と、今度ばかりは詳しい事を何も語らない。
ただ、「大きな事が在るので、余り突っ込むな。」と言う。
やがて、それぞれの友人ルートから、秘密裏に大きな事が進行しているので、「触れない方が良い。」が、外務省からも、法務省からも有った。
その大きな事が何かは、まるで掴めない。
こちらも捜査が専門なのに、省庁の厚い壁があった。
「大きな事」とは、一体何だ。その間にも谷村達は、組織の摘発を続けていた。
中止指示が無い内は、仕事を休む訳には行かない。
ただ、総監からの指示で、当初以上に報道管制が敷かれ、逮捕も拘留も一切表に出さない。
或る日、川端警部が息を切らしながら飛び込んで来た。
「いやぁー、今流行りのサプライズ人事だ。」
佐々木和也の会社が、九条民子の父親を社長に迎え入れたと言う。
和也が、食品表示法違反で逮捕拘留になり、佐々木代議士も逮捕に到らないまでも参考人で呼ばれた。
例のメインバンク(主力銀行・東京の地銀)が、事業継続を疑問視し、圧力をかけて落とし所に社外取締役の民子の父親に目をつけ、代表取締役社長に送り込んだ。
佐々木代議士は会長職に退いて政治に専念する名目だった。
佐々木家の株式保有比率は、思ったほど高くはない。
創業者だから利得はあったのかも知れないが、既に株式売却でかなり現金化している。
保有比率が低ければ、上場企業だから機会が有れば佐々木家も外される。
ただ、佐々木昭平には財務官僚が数人ついている。
金融機関の態度が微妙な所だが、以前のような支配力は失われるかも知れない。
「和也と民子の立場が逆転しましたね。」
「さぁ、それはどうかナ?男と女は判らん。」
人間の心理など本人しか判らないが、事実とすれば、それも考えられる。
ただ、民子は以前の民子ではない。
「民子の方は保釈したが、和也は間違いなく起訴される。」
「民子さん、此れからどうするのかしら?」
「可哀想に、彼女の人生狂ってしまったな。」
そこへ、今度は谷村総指揮がやって来た。
「ちょっと、二番の小会議室に一緒に来てくれ。」
四人はゾロゾロと、会議室に向かった。
一同が席に着くと、谷村はしかめ面をして話し始めた。
「今総監室に呼ばれて、行って来た。」
「それで、どうだったのですか?」
「内閣官房と外務省が内密に動いていた件、判った。」
谷村は皆の視線に急(せ)かされて、彼の癖で有るメガネのズリ上げを無意識にしながら話し始めた。
谷村が言うに、「正式な内閣からの指示だ」と総監に念押しされた話しだと言う。
「明日、尾泉総理が国交も無い赤い北の国に、特別機を使い、日帰りで行くそうだ。」
長い事外務省が水面下で接触していたらしいが、それが合意になりそうなので、総理が「自分で乗り出す」と言い出したらしい。
どうも、和也逮捕前に佐々木昭平が近隣の大国の首都を度々訪れていたのも、その環境創りの為と推測された。
「どうやら総理はお得意のパホーマンスで人気が取れると踏んだようだ。」
「良い処だけ外務省から総理が手柄をかっさらおうて、魂胆ですか?」
「外務省も、珍しく仕事をしたな。手柄を立てさせて、総理に恩でも売る積りだったのか?」
「まぁ、外務省側も、改革派の女性大臣を更迭させて一安心だが。あの更迭劇と今回の話、バーターで、改革の矛先を収めさせたらしい。」
「すると外務省は、当分改革の標的から安泰か?」
「珍しく仕事をすると思ったら、自分達の保身か・・・」
「尾泉内閣は国民の支持率だけで持っている。人気取りのパホーマンスは欲しい。」
「やれやれ、利害が一致した訳か。」
「まぁ、それは良いのだが、アチラさん例によってずうずうしく、こちら側にも友好的な態度を示せと来た。」
「それで、今回の話ですか?」
「あぁ、我々の摘発が敵対行為だと。」
「盗人猛々しいですね。」
「経済的に困窮しているから、今日本の闇資金ルートを押さえられるのは、先方には相当の痛手ではないか。」
「それで、なりふり構わず。」
「何を取引材料にしたか知りませんが、無法者国家の手先を黙認するのが国益でしょうか?」
「それは私も言ったが、尾泉総理は国交を回復する交渉を開始する積りらしい。」
「また、援助外交ですか?」
「その交渉基盤整備に、ウチ(公安)に手を引けと。」
「超法規処置ですか?」
「あぁ、奴らは微罪釈放だ。」
「チキショウ。物証は山ほどあるのに、殺人や誘拐も無しか・・・」
メガネをずり上げた谷村の、その目は赤く充血し悔しさに涙が溜まっていた。
「佐々木代議士の件や国内の殺しは、別に摘発出来ないのですか?」
「駄目だ、上で結論が出た。絡んでいる要人が多過ぎる。どこをやっても芋ずる式になり、国家的スキャンダルに発展する。」
じろりと各自を見回して、谷村は続けた。
「暴かない方が国益と言う判断は、常に為政者に付き纏う。また、闇の中だ。」
「此処まで追い詰めたのに、割が合わない話ですね。それに奴等の場合、獣を野に放す結果になる。」
「大きな土産があるらしい。」
個人の論理は正義感があり、正直でまっとうだが、これが組織の論理になると組織の利に走り、その延長線上にある国家の論理になると、美名の影に何故か権力者の利が見え隠れする。
政治は、「妥協の産物だ」、とも言われて居る。
間尺に合わないが、この辺りの見極めが国家運営には大切である。
国益も守っているかも知れないが、権力者個人の利も、チャッカリ確保するのがしたたかな所と言える。
「一連の事件、黒幕は、佐々木昭平代議士なのか?」
「尾泉総理の父、尾泉準也代議士の盟友だった政界の重鎮だ。一筋縄で行く相手ではない。いずれにしても、今回は奴に手を出すなと、内閣から上(上司)が念を押されている。」
「恐らく佐々木昭平は戦後の政治史の裏を知り尽くした妖怪だろう。」
「しかし、当時の佐々木昭平代議士は尾泉準也代議士に比べかなり若手だったはずだが。何故尾泉に相手にされた。」
川端警部が両者の年の差をいぶかった。
中堅と若手で、政治の世界では格が違うはずだった。
「確かに佐々木昭平は当時若かったが、資金面で尾泉準也を支え、それを足場に政界で力を着けた。」
「やっぱり金がものを言うのか?」
「佐々木昭平は、最初から目立たない政治家に徹して、黒幕に廻った。それだけに司法当局も迂闊に手が出せない。」
「国民が知らない所で、目立たない闇の権力を握っていると言うのか?」
「真相解明を拒んでいるのが、政府の思惑とは・・・」
彼に手を付けると、歴代総理を始め歴史の闇が明るみに出て、国家がひっくり返る騒ぎになるらしい。
一同溜息だった。
「いずれにしても、天の声(警察庁長官)が聞こえて勝負あった訳だ。」
「佐々木昭平の正体、どれだけの人間が知っているのだろう。」
国交の無い国も、闇の社会にも交渉ルートを持つ男は、本音の部分で必要悪であり、誰かが引き受けなければ成らないのは、ずるいかも知れないが大人の判断ではある。
佐々木昭平代議士にそれだけの力がある事は、日頃肌を合わせている、女性キャリア官僚の大供みどり財務省主計官でも、流石に知らない。
彼女にして見れば、多少政治力のある年上のスケベ親父位に付き合って抱かれて来た。
気が付いては居無いが、佐々木昭平がかもし出す危険な香りが、それと知らずに彼女を引き付けていたのかも知れない。
翌日の夕刻、尾泉総理が拉致被害者を五人伴って、誇らしげにタラップを降りて来た。
テレビを見ていた谷村が、メガネをずり上げながら言った。
「まさか、あの五人で手を打ったのじゃあないだろうな。」
「やはり、裏工作には佐々木昭平が関わっているのかな?」
「判らんぞ、佐々木昭平は政界の怪物だからな。」
それを切っ掛けに、メンバーが口々に言う。
「他の被害者が死んだと言うのも、信じられん。」
「まだ相当数の該当者がいるはずだ。」
「救出者が無いより増しと言えばそれまでだが、これで終わらせては、我々が手を引いた意味が無い。」
「これで外務省の行革は、当分先送りかな?」
「外務省が何時に無く真面目に仕事をしたのは、行革から回避させる目的が計算ずくか?」
「まぁ、点数は稼いだが、例の北海道の議員が帰り咲けば、足元に火が付くだろう。」
悔しいが、警視庁は「時の政治家達の事無かれ」に抗し切れず、彼ら拉致被害者を守る事も、救う事も出来なかった。
あらゆる状況証拠を無視して、被害者や家族を見捨てて来た日本政府が、正式に拉致被害を認めたのは、つい、最近の事である。
この不条理に誰も言及しない。
それは法治国家の極限の虚構と言える。
現総理の尾泉にしてから、その長い政治生活の上で、これを熱心に問題視した経歴は彼には無い。
二国間の状況好転を期に、初めてこの問題に首を突っ込んだが、本来尾泉総理が本気なら、チャンネルは無かった訳ではない。
それに、尾泉総理の父親・尾泉準也も同じ代議士で、北の赤い国の「戦後帰還事業」の日本側の責任者だった。
どちらかと言うと縁が無い訳でもない。
野党の影響力が強かった超党派の会「日北協会」の代表委員三人の内の一人が、個人レベルの活動で参加したのが、元「かの地」の総督府で事務官だった与党議員の尾泉準也氏である。
そして、佐々木昭平代議士と尾泉準也代議士の二人は長い間盟友だった。
実は、和也の名前の也は、尾泉準太郎総理の父尾泉準也代議士から貰って居た。二人はそれほどの仲だったのだ。
確かに、手のつけ難い案件には、わざわざ「寝た子を起こすような真似はしたくない。」と言う役人根性も、政治家や官僚の心理の中には在った。
人間、他人事には冷たくてその程度が普通である。
それでは何故今頃に成って「拉致問題」が動き出したのか?
政治的利用価値が出て来た事と、相手国が少々譲っても「得るもの(戦後補償や援助)を得たい」と、方針を変えたからである。
「ずるい」と言えばずるい話だが、今の尾泉総理も、明らかに状況が好転したから、慌てて御輿(みこし)に乗ったのが見え見えで、これを我が国では「君子危きに近寄らず」と言うらしい。
国家とは何が支えになっているのか?
冷静に考えれば、疑いを持っても不思議はない。
もし、憲法だと言うなら、国家は国家そのものの為に存在するのか?
そう考えられるのだが、確証は無い。
つまりこの捜査に、結末は無かった。
毎度の事だが、国家の都合が絡むとろくな結果にはならない。
逮捕後、最期まで口を割らなかった名さえ判らない細い目の男は、保釈後、公安の一年間に及ぶ尾行をまき切れずに逃避行を続け、最期は鹿児島の薩摩半島沖から、呼び付けた不審船に乗った。
そして、追尾する海上保安庁の巡視船と銃撃戦のあげく、東シナ海で自爆、船諸共沈没した。
彼は逮捕後自爆に至るまで、一度も鏡を見る事はなかった。
永田達が「パクった」連中は政治判断で、密かに全員微罪確定で罰金を払い保釈になっておのおの自分の家に帰っている。
政治取引による保釈後、佐々木昭平は、一人民子を選挙区である埼玉県の屋敷に呼んで話をして居る。
保釈順は民子が一番早く、後の人間は二〜三日の間に目立たないように順次保釈する予定で、和也はまだ拘置所の中だった。
昭平は和服姿で、民子が保釈されて出て来た所を車で待ち構えて、行き成り地元埼玉へ連れて行った。
「民子、ユックリ話したいので、乗りなさい。」
義父の昭平が迎えに来たのでは、付いて行かざるを得ない。
さほど折り入った話しなどした事の無い義父が、今回ばかりは民子を迎えに来たのだ。
連れて行かれた佐々木家の地元の家は、六百坪に余る敷地に、建坪百坪に余る本格的な和風建築の家が立って居る。
重厚な作りで、和也が生まれる少し前の新築だと言うから、もう三十年は経っている。
庭木は生長して落着いた雰囲気のたたずまいを見せている。
婚約時代に統一選挙があり、和也と応援に訪れた以外、四〜五度ここを訪れているが、和也は「使い難い家だ」とこの屋敷を嫌っている。
民子が訪れた時、意識的だったのかは不明だが、家人は誰も居らず、昭平が自ら玄関まで出迎えた。
冬の屋敷は静寂に包まれ、時折遠くで単車が走る音が聞こえてくる。
応接に通されたが、昭平の和服姿に威圧感を感じて、民子は落ち着かなかった。
昭平は着物の袂(たもと)から黄色い小箱を取り出し、中から四角い紙包みを取り出すと、包みを開いて中身を口に放りこんだ。
好物の「キャラメル」だった。
「わしはこれが好物でな、苦労した若い頃の生活を思い出す。」
「キャラメルですか?今でも売っているのですね。」
「発売を止めたら、メーカーに抗議する。」
その義父、佐々木昭平の話は、民子を驚愕させる内容だった。
一言で言うと、今度の事も政府内部で「政治的綱引き」になる複雑な扱いだったらしい。
「今度の事では、民子には辛い思いをさせたな。もう警察庁を動かして警視庁とは全て話が付いて、表には一切出ない。安心して良いぞ。」
「はぃ、ご心配をおかけしました。これで少し落ち着きました。お義父様今日は何か?」
「捜査当局から聞いていると思うが、和也には北の赤い国の事で苦労をさせている。全て俺の指示で和也の事は俺の責任だ。」
「どう言う事でしょうか?」
「民子は筑波大出の秀才の上に教師をしていたから、話が通じると思ってな。話して置きたい。」
「一応捜査段階の話は聞きました。和也さんが首謀者の一人だと。」
「そう言わずに、俺の話を聞いてくれ。悪い事を悪いと言える警視庁の奴らは幸せだ。政治家として国益を考えれば、北の赤い国との裏チャンネルは捨てる訳には行かなかった。」
「裏チャンネルですか?」
「そう、細くて頼りない裏チャンネルだったが。民子、平和憲法のわが国が、話の通じない異常な相手にどうすれば良かったのだ。起こり得る北の暴発は、誰が止める。政府も非公式には承知している。」
「でも、拉致被害者に罪はありません。お義父様は国会議員でしょ、国が拉致被害者を見捨てて良いのですか。」
「それは表向き拉致被害者は見捨てる訳にはいかない。しかしな、武力行使が出来ない国が、多くの国民を守るには、今までレイプされても騒ぎ立てずに、無かった事にして来た。」
「拉致はレイプですか?」
「あぁ、法治国家のわが国で、強引に違法行為をされても、武力行使が出来ない国は何も物が言えない。言った所で相手には何の脅威もない。ろくに抵抗できずに犯られ放題だ。わが国は繁栄と引き換えにレイプされ続ける道を選んだ。」
「やっぱり、政府は拉致を以前から知っていたのですか?」
「武力行使が出来ないから手も足も出ない。表面化しても、事が大きくなるだけで処理できないから、無い事にして見て見ぬふりで、事なかれを貫いた。」
「国家は、国民を守る義務があるのでしょう。」
「そこまで行くと、当時は拉致被害者と国家の平穏を量りにかけて、適切に判断したと言う事になる。」
「拉致被害者やその家族には酷い話しですね。」
「まぁ、いつの時代でも国家の論理と言う化け物が居るものだ。国家体制維持の為に、総体的に被害の少ない方を選んだ。民子、戦中から戦後直ぐに掛けての時代を生きた者は、飢えていた。まずは食う事で、正義はその次だった。」
「まずは生きる事だったのですね。」
「そぅ、生きる為には、皆、法を破っても食った。そして、二度と戦争はしたくない。それが、当時の価値観だった。」
「だから、レイプされても耐えたのですね。」
「無情な選択だが、歴代政府は大局的実利を取った。現在の日本繁栄の人柱が、拉致被害者だった。」
「でも、和也さんの場合、彼らに直接協力しています。」
「それはな、北の赤い国の要求に応えないと、彼らと繋がって居れなかったからだ。虫が良い事に、歴代の政府もいざとなると俺を頼ってくる。あの国は、細菌兵器も核にも手を出す危険な国だ。防ぎよう等はない。戦えないならへりくだるしかあるまい。」
「他に選択の余地は無かった・・・・」
「有ったら教えて欲しいわ。」
佐々木昭平に言わせると、「犯罪」と一口に言ってしまえばそれまでだが、中村家の関わる宗教にしても、スガワラの所属していた闇の組織にしても、国家でさえ無視出来ない力を持っている。
政治の世界も経済の社会も、奇麗事ではないサバイバルの世界だから、裏ではその力を利用している。
「建前と本音で、奇麗事だけじゃないのですね。」
「法律は多分に建前で、だからこそ裁判で本音とすり合わせる。和也には可愛そうだったが、あいつに北の赤い国の付き合いを任せていた。参った事に、相手は絶えず踏み絵(犯罪を要求)で忠誠を確かめてくる。」
「じゃあ、和也さん、建前の為に無理していたのですか?」
「建前は奇麗事だで、一部の罪の無い者を傷つける事は多い。第九条で交戦権を縛って、日本は守るべき目の前の国民を守れなかった。」
「目の前を航行する拉致したと思われる不審船を、停船させられなかったと言うのは、本当なんですね。」
「あいつ、小さい時から根は真面目で優しい男だった。俺に、赤い北の国と繋がって居るのが国の為と言われて、強がって必死でやった事だ。民子への愛情もズット本気だった。」
「チョット癖がありましたけど、優しい事も、私を愛してくれている事も判ります。」
「多くの日本人が感情的に成って、視点を変えてみる事を知らない。哀しいかな、政治には泥を被る事が必要な時も有る。」
「そう言う考え方もあるのですね。」
「俺が、赤い北の国との繋りの工作をさせる為に、あいつは俺から、お前の愛する国は丸裸(軍事的に)だと言われ続けて育った。それで、愛するものは丸裸と心の底にこびり付いているから、民子にもそうさせたがる。」
「お義父様は、私達のしていた事、知っていたのですか?」
「あぁ、知っていた。民子も立派な大人だ。やつも葛藤に押し潰されそうなのを、民子との気晴らしの趣味で紛らわしていた。そう思ってやってはくれないか?」
「私に、今まで通りに和也さんと暮らせと・・・」
「俺からも頼む、民子が居てやってくれれば、あいつは潰れなくて済む。」
切ない話だった。父親の昭平の話を聞いて、民子は和也が愛しくなった。
言われて見れば彼の生来の優しさは本物だ。
彼は、押し潰されそうな重圧と戦いながら、必死で生きていたのだ。
「判りました。その代わり、今回の事件で関わった一般の人達に、今後手を出さないように、北の赤い国の連中にも約束させてください。」
「判った。組織に伝えて置く。その代わり和也の事をくれぐれも頼む。」
「私、覚悟を決めました。彼の気晴らしの趣味も含めて、今後も面倒見ます。」
「そうしてくれるか・・・・済まんな。」
佐々木昭平の顔が、ただの父親の顔に成って、優しい目で民子を見て居た。
和也は、仮面を被って生きる運命を背負わされていたのだ。
和也が楽になるには、私(九条民子)に重圧を吐き出す事だ。そう言う事ならそれなりの必要性が、彼にあった。
「私がそれを許して和やかに生きる事で、周囲は全てハッピーになる。」
私(九条民子)は、そう確信した。
結局の所、私(九条民子)は、まるで日本国のように、自分を守ってくれるかも知れない米国のような力の強い者に身を預けて、守りの代償に言い成りに生き、そのくせ争いを避けて、北の赤い国のような野獣にまで犯されながら生きている。
常に権力者の論理に欠けるのは、その目的に於いて正義が抹殺されている事かも知れない。
政治の世界も経済の社会も、奇麗事ではないサバイバルの世界で、国家を論ずる余り、国民弱者に対し思い遣る想像力が無い政治家は、残酷である。
国家の理念は、時に国民の見方ではない。国家と国民は常にせめぎ合う存在なのだ。
ミレア(松永直子)誘拐を実際に指揮したスガワラは、拘留中から首の痛みを訴えていたが、保釈後、何者かに拠って殺害された。
羽田埠頭沖の海に死体が浮いていたのだが、川を流れて到達したのか、海に出てから放り込まれたのかさえ判定できなかった。
マル暴が管轄したのだが、所属団体の尻尾切り、ただの喧嘩の成り行き、北の赤い国絡みのトラブルによる抹殺など、様々な説が浮かび上がって決め手に欠けた。
スガワラは、愛車の濃紺色のベンツを運転中に寒気と違和感に襲われた。
誰も居無いはずの後部座席に気配を感じて、肩越しに振り向いた。
左ハンドルなので、右の後方は良く見えるが背後は、死角だった。
この奇妙な出来事に、スガワラは全身の髪の毛が逆立つ恐怖を感じたが、それが何んなのかは、まだ気が付いてはいなかった。
室内ミラーで背後を覗くと、見覚えの有る色の白い女の顔があった。
生きている訳の無い、顔だった。
ぞっとして、一瞬恐怖が走る。
荒くれ者のスガワラでも、理解出来ない現象は流石に怖い。
スガワラは思わず「ギーッ」とブレーキを掛け、ベンツを減速させると、路肩からちょうど目に入った誂え向きな空き地に入った。
ベンツが「グーン」と前のめりに停車した途端、「ガバッ」と言う感じで、後ろから腕を廻された様な気がした。
「取り殺される・・・」
もぅ、彼に正常な判断をする余裕は、無かった。
ただ、恐怖から逃れたい一心だったのである。
スガワラは慌ててドアを開け、外に出ようとして上部のドア受けのフレームに思い切り頭をぶつけた。
「ゴキッ」と鈍い音がして、スガワラの首の骨は複雑に折れていた。
スガワラの遺体を発見したのは組下(下部団体)の若い衆で、走行中に不自然な空き地に停車する高級車を見つけ、スガワラの愛車である濃紺色のベンツを知っていたから、「兄貴の車が何故あんな所に・・」と不思議に思ってUターンして空き地に入り、ベンツの運転席で息絶えていたスガワラを見つけた。
慌てて携帯で連絡を取ると、組の者が「バラバラ」とやって来て、若い衆に口止めをして車ごと何処かに運んで行った。
組が、何故スガワラだけ遺体を他所に運んで放置したのか、意図は不明だが、憶測では、彼の死を組と結び付けたくなかったのだろう。
スガワラも実は在日三世で、親の代まではもう一つ朴(パク)を名乗っていたが、親が帰化して、今は日本籍になっていた。
日本名の由来は、親の代に九州の「大宰府天満宮近くに住んでいた事から」と推察された。
このスガワラ変死の難問、永田警視正と森田警視には、非科学的だが心当たりがあった。
しかし、その証明が自分達に出来ない事も判っていた。
スガワラの死因が、首の骨が折れた事によるものだったからだ。
警察庁参事官に出世した高橋警視長など、こんな話をしたら、「サイバーパトのメンバーが全員可笑しく成った」と言いふらすに違いない。
ただ、二人が不思議に思っている事は、ミレア(松永直子)にそれだけの力が残っているなら、「何故佐々木和也と民子が無事に過ごして居られるか?」と言う点だったのである。
高橋参事官と言えば、警視総監から意外な事を聞いた。
谷村警視庁参事官の指揮で、永田警視正と森田警視が佐々木和也のマンション急襲、川端警視が冷凍倉庫の蟹を立ち入り検査した時、警察庁ではその手法について問題視され、査問会を検討したのだが、高橋参事官が「強行に谷村や永田達を弁護した」と言う。
高橋参事官は、「警察庁も事務方としての立場を外して、一警官として考えれば、自分も谷村達と同じ事をする。」と、彼の言い分で頑張って、「警察官の心を守ってくれ」と、警察庁長官を説得したのだ。
事務方の「出世主義者」かと思っていたが、案外「骨のあるナイスガイだ」と一同感心した。
赤い国の読み違いだったのか、それとも裏の約束を国民世論で日本政府が反故にしたのか、その後の両国間に進展はない。
どうも北の赤い国はあの五人で体裁が整えば「そこら辺りで日本政府は妥協してくる」と読んだらしい。
現在はわが国の北の赤い国との関係は当時より悪化しているが、微罪確定者は、新たな犯罪を起こさない限り、「一事不再理」の壁で以前の罪は問えない。
それに、事が公に成れば国家間の闇取引が白日に晒され、国家体制が動揺する。
事件の解決は結構困難がともない、失敗や未解決もあり、テレビドラマの様に明快には行かない。
今、谷村参事官(警視長)率いる永田警備局次長(隠れ公安部長?)、森田ネット犯罪対策課長チームは、中村由美の所属する宗教団体の政治工作事件を追っている。
こちらも相当に根が深く、難題だが、相当の資金が政界に流れているのは想像がつく。
森田警視の捨て身の潜入捜査は、早くも庁内公安関係部署の伝説になりつつあった。
当の森田愛は、恋人の永田に向かって、「ハハ、あれはキツかったけど、良い経験だわ。」と笑い飛ばしている。
佐々木和也は九条民子の下へ帰って行った。
捜査陣は、てっきり民子は、今度こそ「和也には懲りた」と思った。所が、民子にはその様子はない。
民子は和也の釈放を喜んでいる様で、森田は女心の複雑さを目の当たりにした。
外食産業の会社は、メインバンクの後押しで民子の父親が社長になったが、和也は副社長に復帰して、相変わらずの生活ぶりだ。
考えて見れば、まだ株式の二十五パーセントは佐々木の名義だし、財力も雲泥の差で、民子の父は当面のお飾りに過ぎない。
このまま順当に行けば、やがて佐々木和也が社長になるだろう。
タレントの島美紀のその後だが、マンション急襲の後、プロデューサー夫婦だけが簡単な事情聴取だけで直ぐに帰宅を許された。
その事実から、佐々木和也は今回の逮捕劇に協力したのが「プロデューサー夫婦」と当たりを付けていた。
それが参加者達に判り、怒った参加者達が有り余る財力を使って金銭スキャンダルを暴き、プロデューサーを退社に追い込んだ。
セレブ仲間を十数人相手にしては、人脈、金脈とも、彼一人ではとてもでは無いがひとたまりも無い。
島美紀のタレント生命も佐々木和也達の圧力で怪しくなり、「警察に脅されていた、助けてくれ。」と、彼らは泣き付いて来た。
民子の希望で助けてやる事に成ったが、裏切りの責めは妻の島美紀が一身に負う事で合意した。
佐々木和也は契約書を書かせ、製作会社として独立する為の資金を出資してプロデューサーを独立させて居る。
美紀が民子にしていた事は、何倍にもなって美紀に降りかかるが、美紀はその覚悟をした。
当然の事ながら、今回の手入れで多くのメンバーを巻き込んだ美紀に、公開処刑パーテーが開催される事になる。
主催ホステスルールのSM版で、民子の提案だった。
今まで、どちらかと言うと、パーティで「我が物顔」でいた美紀だから、常連の参加者の責めは厳しい。
それに、彼らセレブは生来冷酷な人種である。
縛られ、吊るされ、鞭打たれながら男の欲棒を迎え入れ続けて美紀は絶頂を迎えた。
休む間もなく、吊るされたままの美紀の花弁を押しのけて、民子の極太バイブが出入りを始める。
それは「ユックリ、ユックリ」とした速度で長い事繰り返されていたが、生殺しの感覚に堪り兼ねて「お願いですから、もっと早く動かしてしてください。」と、美紀は掟破りの懇願をした。
これは、この仲間内ではルール違反で、取り返しが出来ないほど罪は重い。
主催ホステスの美紀には、自ら要望する権利が一切無いからだ。
メンバーが社会的地位の抹殺を含む処分を主張したが、それを民子が条件を出して救った。
本来なら、これだけのメンバーで、その気になれば美紀を国外に売り飛ばし、一生娼婦をさせるくらい造作は無い。
それで島美紀は、今佐々木家の「飼いメス犬」になっている。
仕事のスケジュールは一切佐々木に管理され、オフは佐々木家で命令服従のメス犬生活を送っている。
民子の首輪とリードは島美紀に下げ渡され、佐々木家に飼われている時の衣装はそれだけで、着衣は許されない。
メス犬だから、全裸四足で、民子に付従って暮らす。
優雅に暮らす民子の気分しだいで、何時でも何でも美紀はメス犬の勤めを果たす。
一日中バイブを入れて善がり続けながら過ごすなどは序の口で、全てが民子の気分しだいだった。
和也の友人が訪ねてきた時は、引き出してきて奉仕をさせる。
民子の方は日々の優雅な日常に対する刺激にセレブパーティで鬱憤を晴らすが、美紀の場合は日頃が惨めなメス犬で、たまに有る仕事が、僅かに華やかな光の当たる時となっている。
そうそう、和也の注文した調教済みのオスのラブが来ているから、佐々木家では犬が二頭飼われているのだった。
納犬に来た調教屋の夫婦は、メス犬になっている美紀を見て、「あら、メスが一頭いて、丁度良い事。」と言った。
調教屋の夫婦も、以前客で来た時の態度が横柄で、民子に対する執拗な態度も余り印象が良くなかったから、美紀のメス犬調教には容赦がない。
早速、和也と民子の前で、厳しく「躾(しつけ)」をしてメス犬美紀にオス犬と交尾をさせて見せた。
夫婦のメス犬に対する調教は厳しく、覚えが悪いと遠慮なく鞭が飛んだ。
新しいオスラブの名前は、和也が岩崎誠一のハンドルネームを取って、「クロさん」と名付けた。
当然セレブパーティの時は二頭を連れて行き、前座の余興として公開交尾をさせている。
オスラブの「クロさん」の方は、もうすっかり「美紀が自分のメスだ」と思っているから、美紀にはそう言う態度をする。
民子もメス犬の「躾(しつけ)」は厳しくと教わったから、言う事を聞かなければ、鞭を飛ばす。
それで、メス犬美紀も今ではすっかり従順になった。
京子の気分で半日くらいオス犬のペニスを美紀に意地悪くしゃぶらせ続ける事もある。
時々亭主のプロデューサーも事業報告に呼び寄せるが、その時は、「クロさん」の後にメス犬美紀と交尾をさせる。
「クロさん」の方は、亭主のプロデューサーが自分のメスと交尾する時は、怒り狂って所有権を主張していた。
家にいる時は民子の気分でクロさんと始終交尾をさせるが、もう二頭とも上手になって、手を借りなくても出来る様になった。
そんな生活が身に付いて、民子も立派な(?)セレブ婦人に落ち着いている。
たまに和也の要求で民子もクロさんと交尾をさせられるが、とても美紀のようにシックリは行かない。
これも不思議な現象だったが、中村由美が遊びに来た時にクロとメス犬美紀の交尾を見せた所、由美が予想外の事を言い出した。
変われば換わるもので、キットお喜びになるので、自分がクロさんと交尾している所を是非教祖にお見せしたいから「クロさんを貸し出せ」と言うのだ。
もう義父との交わりの祈願和合も回を重ねていて、教団の教えもあり、「必ず家族の前で「幸福を呼び寄せる祈願和合を行う」の限定付だが、家でもそれを実行していると言う。
ご利益は凄いもので、義父は若返って元気になり、その後必ず義母も抱くので、義母もそれには大喜びで、一家は仲良く心配事も無しに暮らしている。
子供もスクスク育ち、本来なら、結婚生活も暫くすると夫婦互いの相異から間柄がギクシャクし、嫁と姑の確執など露になって波風の枚挙に暇が無いはずだが、共通の価値観が築けてその弊害は全くない。
どうやら中村家では、教祖の教えは間違いなく「現世利益」を実証しているらしい。
もう、「教祖様に喜んでいただくなら、何でもお見せしたい。」と、由美は目を輝かして懇願した。
どうも、最近教祖様からのお声がかからなく成って来たので、自分から仕掛けるつもりらしい。
これだから、宗教は怖い。ヘタをすると理屈さえ超越してしまう。
傍から冷静に考えれば、由美の所(教団)の教義とは矛盾すると思えるが、由美は教祖の関心を引きたい一心で有った。
和也に相談した所、知らない相手では無いので、此れを了解した。
中村一家の亭主と義父母、和也と民子の立会いの下、般若心経の読経の下、そのイベントは為されている。
警視庁の永田達メンバーも監視を続けているから、プロデューサー夫婦のその後の受難も承知しているが、元々派手な二人だったので、同情する者は、彼の部署には誰も居ない。
ナカヤンと京子は、すっかり庶民のつつましい日常生活に戻っている。
どうやら、事件は闇から闇に葬られそうだった。
国家の威信とは、時に正義に優先する事なのだろうか?この結論は、誰にも出せないのかも知れない。
直接自分が関わって見ないと、日頃庶民の危機管理意識がいかに甘い物かは認識出来ない。
「自分が大人しくしていれば相手も危害を加えない。」などと思うのは平和ボケの幻想である。
相手が調子に乗って一方的にやられ続けられるのが関の山だ。
今度の一件も、たまたま当事者になったが、こんな事で自分に降りかかって来ないと、所詮他人事で、拉致問題も関心を持つと言うより野次馬レベルの関心が正直な処だ。
北の赤い悪魔の使いは、案外近くで機会を伺って居そうだが、庶民にはそれを避ける手立てが無い。
ナカヤン達は元の、さして自慢も出来ない平凡な生活に戻ったが、それで、良いのかもしれない。
陰謀渦巻き、凌ぎ合う影の世界は、自分達二人には似合わない。早く正式に籍を入れ子供を二人以上作り、子供達を伴ってデズニーランドやデズニーシーに出掛けるのがささやかなナカヤンの夢だ。
「不条理だけど、クロさん(岩崎誠一)は死に損だよね。」
「北の血を受け継いだだけなのに、利用されて可哀想・・・」
佐々木和也も九条民子も苦労して金や地位、生活レベルを守っているけど、その裏側は案外汚いもので、けして「素敵な一生」とは言い難い。
ナカヤン達の様な平凡な人生は、格好良くないけど、やましい事も庶民レベルのささやかなもので生きて行ける。
二人とも少し強くなったのは事実だ。
「鏡は恐くないのか?」ですって、ミレアは我々の友達だから、「今度会ったら礼を言う」つもりだ。
リュウちゃんは、ナカヤン達の出資協力を得て、本格的にデザイン会社を立ち上げた。
まだ、個人の下請け時代にやっていた事と仕事量はさして違いが無いが、夢が広がって、後輩達の格好な溜まり場になっている。
それにしても、抵抗の手痛い「シッペ換えし」に懲りて、一切の抵抗を封じた九条民子の心理はどんな思いだったのか?
そして家族との家庭の平和の為に自らを教義に捧げた中村由美の心境はどうだったのか?
この、抵抗出来ない者を相手に「和やかな陵辱」をし続けたのが、拉致事件と言う国家犯罪ではなかったのか?
日本には憲法九条がある。
世界的にも稀な事だが、自衛の為の交戦権が無い。それを良い事に、赤い北の国は領海を侵犯し国民をさらい、麻薬を持ち込んだ。
何か得れば、何かを失う。憲法第九条(平和憲法)の中の第二項に付いて、賛否はともかく自衛権まで放棄して得た平和の六十年は、拉致被害者の影の苦しみの上に成立っている。
歴代日本政府は「違憲である交戦の事態を避ける為」に、拉致事実を知りながらこれを否定して、和やかに陵辱され続けた。
「君子危きに近寄らず」は、国民を守る立場の人間には、被害者やその家族に対する犯罪でもある。
国民もまた、平和と言う幻想と引き換えに大切な何かを「失い続けて来た」のではないのか。
「自分は国家に守られたいが、自衛権(自衛の為の交戦権)は認めない。」では、明らかに矛盾した言い分で有る。
衆議院が総理大臣の意向で突如解散し、政界が突然活気付いた。
何やら尾泉総理の狩念とも言うべき政策を、選挙で「直接民意を問う」と言う。
そんな事より優先課題は幾らも有ったのだが、総理は持論の達成に執心していた。
このタイミングで、大供みどりは官僚からの転進を図って、憲政党から立候補する事になった。
マスコミは勝手に「刺客マドンナ」などとはやし立てている。
勿論、佐々木昭平代議士の強い引きである。
彼女には、「預金封鎖と新円切り替の為に財務省が政界に送り込む秘密兵器」と言う噂もある。
ここで、誰もが振り返らないような小さな事件が、片隅で起こった。
当時の捜査を担当した幹部には「ピン」と来た。明らかに口封じだった。
「開放の館」の大石辰夫(タンク)が、強制わいせつ罪で検察(東京地検)に挙げられたのは、大供みどりが初立候補をした時期と一致している。
真相など判らないが、「佐々木昭平の政治力が動いている」と想像出来るが、確証は無い。
恐らく、大供みどりの一件を口外しない事が、大石辰夫の保釈条件になるだろう。
和也はあのマンションを売り払い、ベイエリア(湾岸沿い)にペントハウスを買い換えた。
あの検挙で懲りたのか、佐々木和也の怪しい動きは鳴りを潜めている。
北の赤い国は和也に見切りをつけ、別の組織構築にシフトを移したのかもしれない。
最も、日本と北の赤い国の関係はめまぐるしく変化していて、静かなのは、「その様子見」と言う事も考えられる。
セレブに限らず、日本人はすべからく豊かさと引き換えに、心を失った。
どう言う訳か、和也の相変わらずのセレブパーティに、民子は嫌がりもせず付き合っている。
あの、「和やかな陵辱の世界」から抜け出せないのか?彼女の心境は聞いて見ないと判らない。
和やかに陵辱され続ける彼女の名は「九条民子」と言う。
結局の所九条民子は、自分を守ってくれそうな力の強い者の言い成りに生き、そのくせ争いを避けて人間では無い獣にまで犯される道を選んだ。
九条民子は、手酷い一年を過ごして、ニ十八歳に成っていた。
出先から返ってきた和也が、化粧台の前に居た民子に声をかけた。
「民子、教祖が来週の日曜日にどうかって言って来たが?」
「宜しいですヮ、良い事が有りそうですね。私は何時でも構いません。」
もう、民子の頭の中にはあのピアノ曲、ショパンのピアノ夜想曲が流れ始めて居る。
「教祖が由美も呼ぶそうだから、良い事も有るだろう。」
中村由美は、男の幹部信者達の団体「和合修行会」に下げ渡され、此処で荘厳な般若心経唱和の中、毎週 義父や亭主を含む上級幹部三十人を相手に、和合を勤める荒修行を続けている。
「由美も来るのなら、楽しくなりますね。貴方、由美を可愛がって犯ってくださいね。」
和やかな表情で、民子はそう言った。
言われなくても、和也はタップリと由美を可愛がる積りだ。
「所で民子、最近左手でよく首を揉んでいるけど、痛いのか?」
「ねぇ〜、私覚えがないのですけれど、首の骨がゴキゴキと鳴って、痛いのです。寝違えたのですかねぇ。」
「そーか、首が痛いのじゃ、縛りものは由美に引き受けてもらおうか。」
「由美さんを荒事(SM)に掛けるのですか?それなら私は、裸でピンクレディでも踊りましょうか?」
「それは止めろ、民子には似合わない。」
「教祖様のおもてなしは、首が痛くてもしますから。」
流石に懲りたのか、新たに求めたマンションには、民子の化粧台以外に鏡は無い。
その、化粧台に映る鏡の中の民子の顔だけが、あの「ミレア(松永直子)の白い顔」そのものなのを、鏡を見たがらない和也は知らない。
その顔は、何故か穏やかな表情をして居る。
そう、ミレアの残留思念は、未だに民子を通して和也に取り付いている。
和也が抱いている女は、民子なのかミレアなのか、それはもう判らない。
ほんの数年前、「電脳姫と呼ばれるPC(パーソナル・コンピューター)の女王が居た」と言う伝説が残った。
完
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時空を超えたメッセージとは・・・
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誰もが通り過ぎる思春期、
茂夫の頭の中はHなことでいっぱい。
そんな茂夫が迷宮へ迷い込んでく・・・
====(日本史異聞シリーズ)第三作====
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇ 鎌倉伝説 非道の権力者・頼朝の妻
◆鬼嫁・尼将軍◆ 未来狂 冗談 作
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◆メルマガサイト◆ 鬼嫁 尼将軍・・・・・・・・・・(平安、鎌倉時代)4>
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今は昔の鎌倉時代、
歴史上他に類を見ない「鬼嫁」が存在した。
その目的は、権力奪取である。
====(日本史異聞シリーズ)第二作====
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇ うその中の真実・飛鳥時代へのなぞ
◆倭(わ)の国は遥かなり◆ 未来狂 冗談 作
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◆メルマガサイト◆ 倭の国は遥かなり
・・・・・・・・・・・(飛鳥時代)
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韓流ブームの原点がここに・・
今、解き明かされる「二千年前の遥か昔」、
呼び起こされる同胞の血
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