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リアルタイム忍者ビジター
samurai 【夢と現の狭間に有りて】作者本名鈴木峰晴

この小説は、【謎の小説家 未来狂冗談(ミラクルジョウダン)】の小説です。
このWEBサイトに関するすべての著作権は、作家・未来狂冗談に帰属します。
☆ペンネームFONT color=#FFFF00>未来狂冗談(Miracljoudan)の由来は、
    「悪い未来に成った事は冗談ではな無い」と思う気持ちからです。

This novel is a work of novel writer【novelist 未来狂冗談 (Miracljoudan) of the mystery】.
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【本作品は著述業未来狂冗談(ミラクルジョウダン)の作品です。】

短期間無償で公開しますが、
著作権はあくまでも作者にありますので、作者の了解無く
本作を金品収受の対価とはしないで下さい。
もし違法行為を発見した場合いは、法的手段に訴えます。
なお本作に登場する組織、団体、人物キャラクター等は創作であり、
実在の人物、企業、団体を描いた物では無い事をお断り申し上げます。

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このまま下にお読みいただけます。

【小説・現代インターネット奇談 第二弾】


==(現代インターネット風俗奇談シリーズ)==

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戦 後 大 戦 伝 記

夢と現の狭間に有りて

(ゆめとうつつのはざまにありて) 完 全 版


未来狂 冗談 作

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お断り夢と現の狭間に有りてはあくまでも文学作品です。
全て架空なので、多分、モデルになった企業、団体、人物は無いはずです。

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この作品のセールスポイント

あなたは何を信じ、どんな生き方をしたいのか、答えをお持ちですか?

作品リスト(短編)
第一弾・ 「青い頃・秋から冬へ」・・・・・・・・・HP無償公開中
第二弾・ 「楢山が見える」・・・・・・・・・・・・・・HP無償公開中
第三弾・ 「我にしてこの妻あり」・・・・・・・・・・HP無償公開中
第四弾・ 「凌虐の裁き(りょうぎゃくのさばき)HP無償公開中
作品リスト(長編)
第一弾・ 「たったひとりのクーデター」・・・・・冗談小書店発刊中
第二弾・ 「仮面の裏側」・・・・・・・・・・・・・・・・HP無償連載中
第三弾・ 「冗談 日本に提言する」・・・・・・・冗談小書店発刊中
第四弾・ 「八月のスサノオ伝説」・・・・・・・・・冗談小書店発刊中
第五弾・ 「侮り(あなどり)」・・・・・・・・・・・・・冗談小書店発刊中
第六弾・ 「茂夫の神隠し物語」・・・・・・・・・・・HP無償公開中
第七弾・ 「鬼嫁・尼将軍」・・・・・・・・・・・・・・・冗談小書店発刊中
第八弾・ 「倭(わ)の国は遥かなり」・・・・・・・冗談小書店発刊中
第九弾・ 「電脳妖姫伝記・和やかな陵辱」・・HP無償公開中
第十弾・ 「夜鳴く蝉・葉月」・・・・・・・・・・・・・・HP無償公開中
第十一弾・「蒼い危険な賭け・京香」全四巻・・HP無償連載中
第十二弾・「夢と現の狭間に有りて」・・・・・・・・HP無償公開中
第十三弾・「皇統と鵺の影人」全五巻・・・・・・・HP無償公開中
第十四弾・「受刑の集落」・・・・・・・・・・・・・・・・HP無償公開予定



未来狂冗談が最新作を、
第十二弾・「夢と現の狭間に有りて」として企業内幕小説に挑みます。
企業が、夢を現(うつつ)の中で具現化するには、闇のプロジェクトが存在する。
違法性なくして、企業の急成長、大勝利はありえない。
宗教、政治、企業、闇の連鎖が暗く静かに潜んでいる。

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あらすじ

主人公茂夫は、インターネットを通じて、或る初老の男と智故を得る。
彼は「と在る田舎」の村で、ひっそりと暮らしていたが、茂夫の何が気に入ったのか、或る重要な告発を、話したのだ。


巨悪の中にあって無力な存在、それが村人(民)である。
だが、村人は別の顔で、したたかに権力と対峙し、しなやかに生きる。
彼は、村のしたたかさと権力の狭間の中で、愛する妻を失った。
それでも、真面目に精一杯生きるのが人の道と、信じていた。
しかし彼は、それと知らずに闇の中に引き込まれた事に気付く。
村の因習から始まり、宗教と企業の闇が、織り成しながら彼の行く手に立ちはだる。


彼に言わせると、罪にこそ問われないが、明らかに「反社会的な戦略」もいとわず、業界のシェア争いは熾烈を極めるものだった。
最初は合法すれすれで始めた事でも、やがて違法の領域に踏み込んでしまうのが、人の弱さだ。
その闇の戦いの渦中、彼は「稼ぐのが正義」と言う企業の論理の中で、何時の間にか犯罪に手を染めそこから這い出そうとして、娘を失った。


織り成す悠久の神と人の欲、彼は魂を売り渡し、味方を増やしながら、娘の仇を討つ。
しかしそれとて、権力闘争の一部に過ぎない空しい結果だった。
正義感の強い彼はその戦場で傷つき、都会の生活を捨てた。
人は振り返り気付くは虚しい性(さが)、失望と無力感が支配して彼は、死にたかったのだ。


時が流れ、やがて彼は、生あるうちに最後の告発をする決意をした。
彼の最後の戦いに、選ばれたパートナーが私だった。
「真実を、知らないのが他人なのです。」
愛(精神愛)と性(SEX)は、伴うものなのか、分けられるべきものなのか?
人は善に生きるのか、悪に生きるのか?
それは、残る者への強烈なメッセージ、夢と現(うつつ)の狭間(はざま)に有りて、人の本音が問われながら、歴史は時を刻んで行く。


この物語は戦後の日本の闇を、或る意味象徴しているのではないだろうか?


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主な登場人物

私(茂夫)-----------------------作家
暮雅チャン---------------------元・某家電メーカー幹部
靖子---------------------------元・暮雅チャンの妻
内海健太-----------------------靖子の幼馴染み
良子---------------------------暮雅チャンと靖子の娘
大内---------------------------暮雅チャンの上司(役員)
鷲頭創元(多々良直吉)------------怪しい教団の教祖
青柳---------------------------広告会社・電広堂映像社長
坂口---------------------------電広堂映像幹部・青柳の部下
西山---------------------------暮雅チャンの部下
美佐---------------------------内海健太の姪
市川---------------------------暮雅チャンの上司(役員)
伊都田葵-----------------------市川の姪・暮雅チャンの会社の秘書
伊吹正二-----------------------市川の部下・暮雅チャンの会社の社員
武藤---------------------------長野県警刑事(警部補)
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夢と現の狭間に有りて

これからの展開

記載目次ジャンピング・クリック

第一話  (予期せぬ出会い)
第二話  (青春は走った)
第三話  (新婚生活)
第四話  (訪れた崩壊)
第五話  (番小屋)
第六話  (企業的論理の陰謀)
第七話  (不自然な再会)
第八話  (背後関係)
第九話  (一人ぼっちの暗闘)
第十話  (危険な潜入)
第十一話 (反撃の烽火)
第十二話 (美佐の結論)
第十三話 (最後の決戦)


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(予期せぬ出会い)
夢と現の狭間に有りて◆第一話(予期せぬ出会い

◆◇◆◇◆(予期せぬ出会い)◆◇◆◇◆◇

ほんの些細(ささい)なきっかけから、その男とのメール交換は始まった。
或る夜、私が生(なま)の地域情報をその土地の住人から直接取る為に、ネット上のホームページを漁(あさ)っていて、その男のページに迷い込んだのだ。
最初はさして興味が湧いた訳ではなかったのだが、何故か何度かその男のページをネット上で訪れた。
まさかその事が、恐るべき物語を知る切欠に発展するとは夢にも思わない私だった。


平成十五年の春の事である。
ちょうど映像媒体がビデオからDVDに切り替わる動きが出て来た時だった。
その男は、勤めていた会社を五十五歳に達する前に中途でリタイアして、信州の山深くの小さな村に住んでいた。
東京から転居して、「かれこれ十三年になる」と言う。

日本経済の高度成長期以後は、都会に夢を求め、村を捨てる若者は多い。
それは、バブル経済崩壊後も続き、過疎化に歯止めは掛からない。
同時に、出生率が高かった農漁村部の過疎化で、日本全体の出生率が下がって、少子化が進んでいる。
日本の人口増加を支えてきた農漁村部の荒廃は、やがて日本の荒廃に至るのかも知れない。
彼は、放置され、廃屋化しつつある古い家を借り、僅かな手直しをして「終(つい)の棲家と定めた」と言う。

彼は、私より一回り年上の七十歳にあと少しの初老の男で、見識に富、聡明だった。
彼のホームページのメインを飾っていたのは、リタイアした都会育ちのサラリーマンの、「田舎暮らしの新鮮な発見記、にわか農民の奮闘日記」と言った内容で、或る種「世捨て人」の哀愁を帯びていた。
最初の数回は互いのホームページで、差し障りのない話題を掲示板に書き込み、差し障りのないやり取りをしていた。
それが少し進んで、「人の生き様の話題」などが、意見交換される様になると、論議が白熱してきた。

そうなると人生経験豊富な彼の方に、時代を生きた強みがある。
生の体験は、その時そこに居なければ出来ない。
その内、私の反骨精神を理解したのか、「生きて居る内に、自分のただ一度の心残りを吐き出したい。」と、言って来た。
「死にたいが、死ぬに死ねない。」と言うのだ。

自分の人生を左右した或る事件を、「あなたの記憶に残したい。」と、切々と訴えていた。
そこまで行くと、穏やかな話しではない。
どうやら聞いてしまえば責任が生じそうな話だが、勿論、物書きとしては大いに興味をそそられる。
しかしこちらか非力な物書きで、あまり期待されると反動が恐い。

それでも哀しい物書きの性で興味はふり切れず、少しばかりの躊躇の後、意を決した私は、彼に会う事にした。
交信を始めて、およそ五ヶ月経っていた。


八月の終わり頃、私はおんぼろの小型乗用車で、御殿場から国道百三十八号線を走り、標高千百米余りの籠坂峠を越えると山梨県河口湖町に入る。
中央高速道河口湖インターから高速に乗り、暫く走ると、遠く八ヶ岳が眺望できる。
その後、岡谷ジャンクションを経由して長野高速道至り、ようやく目的地に近付いた。
搭載されたエアコンは、あえぎながらもかろうじて効いていた。
一路、長野県の「と或る駅」に向かったのだ。

訳あって、本名を名乗れない彼は、ネット上で使っているハンドルネームの「暮雅(ぼが)チャン」で通してくれ」と言う。
「と在る駅」としたのも、暮雅チャンの希望で、「現在の住所を知られるのは憚(はばか)る」と言う。
若い頃あこがれたハンフリー・ボガードと言う映画俳優から「勝手にもらった」と、説明を受けた。
それと、恐らく「晩年を優雅に」と言う思いをかけていると、私は解していた。

標識を頼りに、約束より十分ほど遅れて駅につくと、暮雅チャンはすぐにそれと判かった。
あらかじめ、ビートルズを白くプリントした「黒いTシャツを着ている」と聞いていたからだ。
私が近寄ると彼は気がつき、早足で近付いて来た。
左手には、スーパーの名が入った大きめの袋を携えている。

そのうれしそうな顔は、まるで長年の友人に、久しぶりに会った様な優しさがあった。
暮雅チャンの勢いに、私は「そのまま抱きつかれるのではないか」と、驚いたくらいだ。
彼は、その寸前で立ち止まって、笑顔のまま軽く頭を下げた。
「茂夫さんですね。遠い所をありがとうございます。」

ラフな格好に似合わず、手本の様に丁寧な挨拶を受けた。
長年の都会暮らしで身に付いた、企業人の話し振りである。
「お話、楽しみにして来ました。」
私は差し障りない返事で、挨拶を交わした。
この時点では、何が飛び出してくるのか、私にはとんと見当が付かなかったのだ。


「長距離運転でお疲れでしょう、良かったら、一休みして、蕎麦(そば)を食べてから家にご案内したいのですが?」
暮雅チャンは、あらかじめ私を案内する心算(こころづもり)でいた昼食を持ちかけてきた。
「良いですね、信州と言ったら蕎麦ですから・・・お言葉に甘えましょう。」
こう言う時、相手のプランに乗るのが、礼儀で、遠慮すると返って相手も対処に困る。

駅前の無料駐車場に車を置いて、徒歩で百メーターばかり歩き、地元では「特に有名だ」と言う蕎麦屋に案内された。
お品書きの値段を見て、「蕎麦にしては高い」と思ったが、口にしてみると、なるほど美味い。
蕎麦の打ち方が自慢で、他所が真似できない技らしい。
遠路尋ねて来た私に、歓迎の心使いであろう事は、言うまでもない。

蕎麦屋では、長野にまつわるうん蓄を話題に、たわいのない会話で終始した。
暮雅チャンは「お疲れの処申し訳ないが、もう一走りありますので・・・。」と、済まなそうに言った。
どうやら、旅にはまだ少し先がありそうだ。


暮雅チャンを私の車の助手席に同乗させ、彼の住処(すみか)に向かった。
駅前の商店街をゆっくりと走り抜け、二分もするとすぐに家並みもまばらになった。
「暫く、まっすぐ走ってください。」
田舎道だが流れに乗ると、自然に車のスピードが上がった。
時折、こちらの気持ちを察する様に、彼は的確に誘導した。

幹線道路を走りながら、畑越しに農家が散見されるのどかな風景の中を、車は十分ほど走った。
やがて、かなりの幅員を有する河原を持つ河川の脇に沿って、堤防の上に作られた道路を走り、アーチ作りの欄干を持つ鉄の橋を渡った。
真夏の照りつける日差しに、影になった部分も色濃く見え、欄干がかもし出すコントラストが、私の運転する車のフロントウインドーを流れた。

橋を渡り終わってハンドルを直すと、私は声を掛けた。
「あの川が、千曲川ですよね?」
「えぇ、信濃川(しなのがわ)水系ですが、この辺りではそう呼ばれます。」
暮雅チャンが応えた。郷愁を誘う原風景が続いていた。


「その先の、コンビニの角を左折してください。」
曲がって五分もすると、山が迫ってきた。
道幅も狭くなり、急カーブが多くなった。
私はギアを一段落とし、そろそろと山道を上って行った。

先ほどの河川の支流なのか、道に平行して流れる谷川を何度か小橋で跨いで、川の右側を走ったり左側を走ったりしながらの気の抜けないドライブだった。
谷川沿いに、細くアップダウンの多い舗装道路は、ずっと続いていた。
「此れから、少し下りになります。」と、暮雅チャンは言った。

なるほど道は下りに入り、行く手の下の方にさほど規模の大きくない集落が、見え隠れしてきた。
想像以上の山里で、谷にへばり付く様に石垣を組み、僅かな平地を捻出して、階段状に畑や家が存在していた。
エアコンを切り、外の風を入れると、涼しく気持ちが良い。


「この辺り、雪はどうですか?」
ふと、冬の事が心配になり、私は唐突に聞いた。
「雪は積もりますが、多分ご想像より少ないですよ。」
暮雅チャンは、私の想像を見透かす様に答えた。
「その、石垣の脇に止めて下ださい。」

道路の脇が少し広くなり、軽トラックが一台止っていた。
言われた通りにすると、軽トラックの陰に石段があった。
私はふと、暮雅チャンがどの様にして「駅まで行った」のか、不思議に思った。
しかし、その疑問は口にしなかった。

石段を登ると、藁葺き屋根の民家がどこもかしこも開けっ放しで、建っていた。
庭に、大輪の向日葵が無数に背を伸ばしている。
「ここに来てから、戸締りの習慣がなくなりました。」と、暮雅チャンは笑った。
そして、「もっとも、取られる物もありませんが。」と、付け加えた。
真夏の陽光は強烈だが、山の上は流石に涼しい。


太い梁がむき出しの、重厚な座敷に上がり込むと、明け放たれた家の中を、涼風が通り抜けて行く。
この谷合の下を流れる谷川の支流で「清水で冷やした」と言う西瓜(すいか)が出た。
西瓜(すいか)を頬張りながら、「人間、野心がなくなると本当は良い生活が出来るのかも知れない。」などと、私は漠然と考えていた。
「話は晩飯の後にしましょう。今のうちに一度昼寝をすると良いです。」と、暮雅チャンは言った。

この時間に昼寝とは豪勢な贅沢だが、言葉に甘える事にした。
街中と違い、時間はゆったりと流れている。
暮雅チャンが、避暑もかねて三日ばかり滞在する様に勧めた気持ちが、判る様な気がした。
残念だが三泊は無理で、ギリギリ二泊、都合を付けてきた。


目が覚めると、外が赤かった。
谷合全体が、夕日に染まっていたのだ。
「目が覚めましたか。」
私が起き上がり、自然の芸術を眺めていると、暮雅チャンが声をかけてきた。

「此れは、贅沢ですね。」
私は答えながら「ふー」と、溜息を吐いた。
話し相手が居なくて人恋しかったのか、さほど距離の無い台所と、四角い座卓を置いた座敷とを行き来しながら、暮雅チャンは話し続けた。

「実は、此処の日暮れが優雅なので、暮雅と漢字を充てたのです。
「そうだったのですか。」
「此処に辿り着くまで、死にたいとばかり考えていたのです。此処の景色が、それを引き止めてくれた・・・。」
「この景色、心が洗われます。」

「そうでしょう、でも私は、本来田舎を好きでなかったのです。」
「それはまたどうして?」
「私の田舎の印象の原風景は、集団疎開だったのです。」と、暮雅チャンは言った。


「私は、東京生まれの東京育ちで、子供の頃、父親は横須賀の海軍工廠に出仕していました。技術畑で、設計の技術者でした。おかげで召集は免れましたが、兄二人は戦士で失いました。」
「それは残念、お気の毒でした。」
「私は、五人兄弟の末っ子でして、長兄、次兄、姉、姉と居たのですが、大戦当時は上の兄二人は戦地に取られて、とうとう帰って来ませんでした。」



戦時中の昭和十九年、暮雅チャンは、九歳だった。
昭和十九年六月三十日付閣議決定された「学童疎開促進要綱」に、当時東京中野区で国民学校初等科三年生だった暮雅チャンは、最下級生で疎開対象に組み込まれていた。
「此処ではありませんが、杉並の疎開先は、長野が割り当てられたのです。」

都会育ちの十歳に満たない子供が、親元を離れ、寺の本堂で集団生活をする。
「戦況が逼迫していましたから、食事も粗末な物でした。」
親は恋しいし、夜は暗く寂しいし、腹は減るし、田舎のガキ大将は恐いし、暮雅チャンとしては惨めなだけで、良い思い出はなかったらしい。
「ちょうど、一年ほど疎開生活を送りました。終戦で疎開から引き上げる時、二度と田舎には住みたくないと思ったのです。」 暮雅チャンは縁側に出て、遠くを見つめるように子供の頃を語ってくれた。

「それが、不思議ですねー、いざ死のうと思ったら、長野の夕日を見に来ていました。」
毎日、両親や戦地の兄達を思って見上げた田舎の原風景が、幼心に滲み込んでいたのだ。
まさに、三つ子の魂である。

「キット、否定しながらも心の隅に残って居たのですね。」
「さぁ、どうなのですか。今ではこんな山間部の集落まで立派な舗装がしてある。戦時中の事を思うと、隔世の感があります。」
「そうですね。世の中はめまぐるしく変わりました。」
この国の経済成長とともに無舗装道はなくなったが、昭和の四十年代初頭頃までは、間道や田んぼ道、山道のほとんどはまだ無舗装の道ばかりだった。


「仕度が出来ました。そろそろ飲みながら本題に入りましょうか。」
私は、座敷の真ん中に設えた暮雅チャン心づくしの夕飯に誘われた。
座卓の前に落ち着いて、私は先ほどの夕暮れに目をやった。
外の燃える様な朱赤色は、少しずつ青く色あせ、やがて暗みを帯びて来ていた。
「さぁ、何も無いですが、やって下さい。」

手作りの山菜尽くしに蒲鉾、厚く切ったハムなど、一人住まいの座卓には乗り切れないほど所狭いしと並んでいる。
「この刺身、お住まいの静岡の様には行きませんが、下の駅前の店で一番の奴を仕入れてきました。」
先ほど携えていた、スーパーの名の入った袋の中身と思われる。
マグロの刺身は今夜の為に買い求めてきたのだろう。

物流が発達した現在でも、海辺と違い長野の山の中では、海産物を入手するにも割高である。
「恐縮です、山奥で刺身は贅沢なご配慮です、それじゃあ遠慮なく。」
暮雅チャンの気使いが、嬉しかった。
山間のすがすがしい風が、吹き抜けて行く。


「私達日本人は、この六十年間、何をして来たのでしょうか?」
苦しい胸の内を、ぶちまける様に暮雅チャンは話し始めた。
「あのぅ、正確を期したいので、録音して良いですか?」
「名前と住所だけは伏せてください。」
「それはもう、間違いなく。」


始まった話の内容が凄かった。
のどかな山村には、およそ似つかわしく無い彼の人生だった。
私、大岡茂夫が「物書き」だと知って、暮雅チャンは、胸に秘めて封印していたものを吐き出す相手に選んだのだ。
それは、「内側で携わった者でないと判らない」、熾烈な企業間戦争の内幕だった。

その企業間競争は、やがて資本主義の利潤追求論理、「勝てば良い。」を膨らませ、禁断の領域に躊躇う事なく入り込む。
闇は広がり、人が死ぬ。
戦後の日本繁栄の歴史は、綾なす光と影に彩られて今日に到っている。


いよいよ私の尋ねて来た目的の話しが、始まるのだ。
暮雅チャンは、何を語るのか?


(青春は走った)
夢と現の狭間に有りて◆第二話(青春は走った

◆◇◆◇◆(青春は走った)◆◇◆◇◆◇

暮雅チャンは、少し重そうに一升瓶を持ち上げながら、「日本酒ですが夏場ですから、冷で良いですか?」と、茂夫に聞いた。
「やぁ、酒でしたら、何でも構いません。」
暮雅チャンは「手間いらずで、助かります。」と、湯飲み茶碗を二個手元に置いて、一升瓶から直に注ぎ、「どうぞ。」と突き出した。 茶碗酒とは気楽で良い。
それに、吹き抜ける山の空気は良いツマミになりそうだ。


「茂夫さん実は私、長い事或る大手家電メーカーの営業畑に居まして、最後は営業推進事業部の特販副部長まで行きました。」と、暮雅チャンは、話を切り出した。
「ほー、それは凄い。」
「いぇいぇ、酷い物でした。」
メーカーの姿勢は、「高度成長期に変わった。」と彼は言う。

「どう言う風に変わったのですか?」
疎開先から帰って来て、一面の焼け野原を見た我々戦中世代は、「何とか日本を立ち直らせようと、心に誓ったはずです。」だから皆、純真に仕事に没頭した。
戦後の復興期は、「もっと世の中の為に成ろう。」と言う気概で仕事をしたものです。

当時の日本人は、「日本を豊かにする事を目標にがんばった。」と、暮雅チャンは言った。
「そうでしょうね。私もそう思います。」
「まぁ、戦後直ぐはまだ子供でしたから、親の仕事振りから思ったのですが、私が入社(就職)してからも暫くはその真面目な姿勢が生きていました。」



終戦時十歳だった暮雅チャンは、都立中学都立高校と順調に進み、神田に在る某私立大学に入学した。
戦後十二年目の昭和三十二年、暮雅チャンは大学を卒業した。

この年岸内閣が成立し、売春防止法が、翌三十三年四月施行で可決した年だった。
ちょうど家電業界が上り調子に業績を伸ばし始めて、暮雅チャンも、「此れからは電器製品の時代だ。」と目星を付けた。
当時花形の重工業と比べ、家電業界の歴史は浅いが、その分採用意欲も旺盛だった。
暮雅チャンは、或る大阪本社の、後に「経営の神様」と言われた創業者が率いる家電メーカーに就職した。


暮雅チャンの最初の大阪入りは、東京を夜の二十三時に発の夜行の寝台列車(ブルートレイン)・急行・銀河だった。
急行・銀河は、千九百四十九年(昭和二十四年)に無名の夜行急行寝台列車・ブルートレインとして誕生し、翌年に「銀河」と言う名前が愛称となり運転されるように成った歴史ある夜行急行列車である。

「会社の独身寮に入って、大卒初任給が一万六千円、そこから寮費を三千円払って、諸費を何がし引かれて、手取りは一万を少し切っていたと思いますが、それでも、中卒の集団就職組と比べたら、エリート扱いでした。」
暮雅チャンは、懐かしそうに当時を話している。
大阪の本社工場で、一年間工場で生産ラインの仕事を研修した後、二年間営業のイロハを教わり、東京に配属されて戻って来たのは、二十五才の年だった。

産まれ故郷に戻って来ると、関東甲信越地方一帯の営業部門に配属された。
振り出しの三年間、営業を担当したのは甲信越方面だった。
大阪本社の為に、関東は少し苦戦だったが、単メーカー取扱い系列店の新設育成に力をいれチエーン化に成功、百貨店にも力を入れてブランドは定着した。

暮雅チャンは、オリンピックの年には、二十九歳である。
担当地区が北関東に代わって一年目だった。
「売れましたねぇ、洗濯機、冷蔵庫、テレビジョン、それはもう作っただけ・・・・」
「そうでしょうね、私も子供心にすごい時代が来ると思った物です。」
漫画の方は、「鉄人二十八号、鉄腕アトム」と既にロボット時代に入っていて、次々と発売される最新の家電製品が、その夢に現実味を持たせていた。


日本経済の上昇と伴に、暮雅チャンも順風に乗って人生を駆け足で上って居た様だ。


茶碗酒を煽りながら、暮雅チャンは一息付いて先を話し始めた。
「茂夫さん、実は私には娘が居りました。娘と言っても、少し微妙な間柄ですが。別れた女房の靖子との間に出来た娘で、良子と言います。」
「微妙な関係・・・ですか?」
「経緯がありますから、私の結婚の事から始めます。」


「靖子とは、大阪勤務の時に社内恋愛で結ばれました。」と、暮雅チャンは言った。
靖子は、昭和二十九年に集団就職で採用され、大阪家電工場の生産工程の現場に居た。
暮雅チャンが工場研修で、生産ラインの仕事に配属されている間に、二人が知り合ったのである。
靖子は中卒入社三年目の十八歳、現場勤続が丸三年を過ぎ、四年目にもなると、組立の作業班長で、後輩の面倒を見る立場だった。
それ故、暮雅チャンが年長の大卒とは言え、配属当初は靖子に指導される立場だった。

上司に連れられて現場に始めて行って、靖子に引き合わされた時、暮雅チャンは、「密かに幸運を喜んだ」と言う。
「何しろ花も恥らう十八歳です。靖子は若く、美しく、純朴そうだったので、私は一目で気に入りました。」
「青春真只中と言う訳ですね。」
「靖子は同期入社のマドンナでした。」

「競争率が高かったのですか?」
「いやぁ、大変でした。飾り気無い話し、私の方から口説いて、付き合い始めたのです。」
「とにかく、上手く行った。」
「いや、簡単ではない、同期入社の五人の間では一斉に靖子フアンに成りまして、競争は激しかったのです。」


暮雅チャンは幸運だった。
運良く靖子の班に研修配置が大当たりで、何しろ話す機会が多い分、仲間内で有利だった。
幸いにも、靖子には付き合っている男の影もまったく見られなかった。

それで、食事だ、映画だと誘って、当時賑やかった大阪の繁華街に繰り出しては、「口説いた」と言う。
通天閣、新世界の映画街は、我が町のように親しんでいた。
それが功を奏し、半年後には靖子ファングループから一歩抜け出し、恋人として靖子を独占していた。

日本経済のダイナミックな躍動期だったから、大都会大阪の街は弾んでいた。
大阪の下町は、町工場の町だ。
それが好景気で舞い上がって、工場主は札束を握ってミナミの繁華街に通う日々だった。
昼間は油まみれでも、札束が湧いて来るような日々だったから、そんな町工場の親父が繁華街に溢れていた。

中卒の集団就職組が、町工場にも廻って来ていたから、安い労働力の補充は出来た。
その職人の熟練技は、大企業のラインでは生み出せない。
先輩から後輩へ、教え継がれた業だった。
それが、昭和四十年代に入ると、急速に労働力供給源の村落地帯が様代わりをして、時代と伴に集団就職の補充が利かなくなり、工員の年齢が高齢化して行く。


「とにかく青春時代、大阪は輝いていたから、小使いが少なくても、楽しかったです。」
暮雅チャンは時折私に酒を勧めながら、懐かしそうに当時を振り返っている。

「当時は若者が、誰しも夢が追える時代で、皆前向きに努力していました。」
「無くなりましたね、その夢が。」
「そぅ、日本中から夢が無くなりました。」
暮雅チャンが溜め息をついて、茶碗酒を口に運び、スーッと啜(すす)った。


暮雅チャンは、工場を一年、大阪本社で二年間営業の研修を叩き込まれて、予定通り東京に配属された。
今と違い、東京と大阪は国鉄で八時間以上掛かる遠方だった。
遠距離恋愛と言ってもかなりの困難が伴った。
しかし、その頃はもう、二人の間は恋から愛に代わっていた。

二人とも純情だったから、暮雅チャンが漸く靖子を抱いたのは、この転属の旅の前夜だった。
後で聞いたが、靖子はこのまま棄てられるのも覚悟の上で、「暮雅チャンに抱かれた。」と、言った。


実は、靖子の前に、暮雅チャンは一人だけ経験があった。
学生時代の遊び友達に一人、「東京にいる間だけ破目を外そう」と言う女子学生がいて誘われ、幾度か寝た事があった。
行為については相手が上手で、暮雅チャンは翻弄されたが、その女子学生に「女を教えて貰った」と言うのが、現実だった。
その関係は、大学二年から卒業まで、思い出した様に続いた。

互いに若さを癒した都合の良い付き合いだったのだろう。
彼女の場合、最初から遊び気分で、暮雅チャンの同期生とも遊んでいたから、卒業して分かれても何の未練も無かった。


靖子とは違った。
自分の生涯の伴侶は「彼女しか居ない。」と真剣だった。
だから、遠く離れたが月に一度は高価な寝台列車・急行・銀河の乗車券を買い、長い時間をかけて大阪に通い、何とか一年は付き合いを繋げた。

「結婚したのは四年後の五月です。」
ちょうど東京オリンピックの年で、結婚した年の十月に開会式で始まった。
「あの年は、オリンピックの観戦目当てで、テレビが飛ぶ様に売れました。予算が付いて、学校にも納めましたので、その納入でもメーカーはしのぎを削ったのです。」


暮雅チャンの若い頃の営業活動は、年中無休二十四時間営業みたいな気分で、何事にも勢いがあった。
相手の店主達の方にもゆとりがあったから、男気を感じれば江戸っ子気質の関東人は値段より付き合いを大事にしてくれた良い時代だった。
そうなれば打てば響くで、こちらも悪い様にはしない。
甘える時も在れば、サラリと相手に儲けさせてやる事もした。

「お互いに心意気が通じた、良い時代でした。」
暮雅チャンの偽らざる気持ちが、滲み出ていた。
そんな光景が、今では夢のまた夢で、ギスギスした取引が主流の、量販店バイヤーとの商売に変わりつつあった。

バイヤー相手の商売は一見格好が良いように見えるが、人間味は薄くなる。
互いの遊びの部分が無くなって、悪く言えば騙しあい見たいな取引になる。
こんな取引形態から、何が残るのだろう?それが、日本中の業種を問わず進んで居た。


暮雅チャンが東京の営業に赴任して一年、長距離恋愛も限度を感じる頃の、靖子が二十一歳、暮雅チャン二十六歳の時だった。
忙しい最中の結婚決意で、当時大阪から特販部長で赴任して来たばかりの上司・大内は渋い顔をしたが、暮雅チャンはもう待てなかった。

暮雅チャンは、長距離恋愛でズルズルと靖子との縁が遠くなる事を恐れていた。
東京支社の取締役に直訴して、「身を固めた方が仕事に身が入る。」と、大内部長に口添えをして貰った。
それで漸く大内特販部長の同意を得た。
大内部長は、噂によると、「祖父が会社設立時の出資者」と言う恵まれた立場にあり将来は役員の呼声も高かった。


「結婚式は靖子の田舎でする事にしました。」
「それも、めずらしいですね。普通新郎の方で挙げるのでしよう。」
「幸い親戚が少なかったので、私の両親を説き伏せました。」

靖子の田舎で挙式するには理由があった。
会社が、「始まって以来」と言うほど、忙しい時だった。
それ故、上司に仲人や出席を煩わせる心配がない状況を作る狙いがあった。
「式は妻方の実家で、極内輪でやる」と押し通した。

今一つは心情的なものだった。
暮雅チャンは、十五歳で親元を離れた娘の晴れ姿を、靖子の故郷の人達に見せてやりたかったのだ。
「なるほど、良い選択をしました。上手く言った訳だ。」
「茂夫さん、それより靖子を嫁に貰いに行く方が大変でした。」
「靖子さんの実家ですか?」


結婚となると、二人だけの問題では無い。
とにかく、靖子の両親に許しを得なければならない。
靖子は瀬戸内海沿いの人口千三百人ほどの漁村の出身だった。
靖子が電話で親に概略を伝え、二人で靖子の故郷を訪れた。

前日のうちに、暮雅チャンが大阪に出向いて一泊し、朝方連れ立って大阪を発った。
山陽本線とバスを乗り継いで二人が靖子の田舎についた時は、夕方四時を回っていた。
バスを降りると、潮の香りと潮騒の音がした。


村は典型的な漁師村で、気は荒いが底抜けにお人好しで、古風な人々の居る村だった。
靖子はその村で産まれ、中学卒業まで育った。
そして、口減らしを兼ね、大阪の電気製品工場の職工に就職したのだ。
田舎の事で、分け与える土地も少なく、まだ仕事口の無い時代だったから、毎年三分の一から半分は集団就職で村を離れるのが当たり前だった。


その漁村は、すぐ後ろまで山が迫っているような猫の額ほどの平地に村落を構えていた。
僅かばかりの畑と、両側を山に囲われ、入り江の海とに挟まれた漁師村で、後ろに迫った山さえも切り開かれて畑と宅地になり、段々と折り重なっていた。
海岸の一部に岸壁が築かれ、小さな港が設けられていた。

港の隣には鉄筋二階建ての漁業組合、その横には、海の物見を兼ねた火の見櫓が立っていた。
その火の見櫓の脇には「番小屋」と言う、村の若者達のボランティア組織の本拠があった。
村内の道は細く、急な坂が多く、所々階段で、車が通れない所もあった。
中学校の所在は、近くの大きな隣町、人口が七千人ほどの、やっと町に昇格したばかりの町で、町と言っても典型的な農漁村、三個村が合併して誕生したばかりだった。


バスの停留所は、海岸沿いを走る、唯一幅員の広い県道に沿って、村内に三ヵ所ほどある。
そのうちの一つ、漁協前停留所に二人は降り立った。

漁師村の道は狭い、港と漁協のある県道(本通り)以外は、当時普及していた軽三輪自動車が、一台やっと通れるくらいの細道が張り巡らされ、両側から人家が迫っている。
その少し薄暗くなった狭い坂道を、暮雅チャンは靖子と二人、重い足取りで家へと歩いていた。
暮雅チャンは、両親に会うのは気が重かった。
大阪でも結構遠いのに、「東京に嫁にくれ」と言うのだ。


村の狭い坂道を歩いて、自宅まであと五十メートルくらいまで近付いた頃、靖子は後ろから不意に声を掛けられた。
「靖チンか、やっぱり靖チンだ。」
「あら、健君。」
近所の同級生で、幼い頃からの「悪餓鬼仲間」の内海健太だった。

内海健太は海仕事(漁)帰りらしく、船から降りたばかりと思しき格好で、黒く潮焼けした顔を向け眩しそうに立っていた。
「靖チン、お前凄いなぁすっかり都会者だ。」と、健太は憧れの目で靖子を見た。
垢抜けたデザイン、当時流行(はやり)の膝上ミニ丈のワンピース姿は、確かにこの素朴な村の風景からは浮いて見えた。


健太は根っからの漁師らしく、日焼けして色浅黒く精悍な顔をしていたが、良く見ると整った美しい顔をしている。
「ところで靖チン、どうした。盆、正月でも無いのに。」
「ケンちゃん、私、盆も正月も合わせた用事で帰って来た。フフ、この人私の良い人。」
暮雅チャンは靖子に紹介されて、健太に軽く会釈をした。

この村には、暮雅チャンの知らない就職前の靖子の過去がギッシリと詰まっている。
「何と、靖チン結婚するのか?」
「フフ、ケンちゃんと結婚する子供の頃の約束は止めたワ。」
「いいって、いいって、ありゃ、子供の時の約束だ。」

「ケンちゃんはまだ良い人は出来ないの?」
「靖チンも奈津子(ナッコ)も、お恵(オケイ)も、皆都会に行っているからなぁ。」
健太の口ぶりからすると、田舎の事だから、靖子達は幼い頃、海、山、川と、どこに行くにも良くつるんで遊び歩いていたらしい。
「そうね、残っているのは年増ばかり・・・」


「そちらさん、靖チンは、村で評判の美人で人気者だったから、取られたと皆に恨まれますよ。」と、健太は言った。
そして靖子が、如何に人気があるのかを力説した。
元々、村の若い衆の間では、靖子は人気者だったのだ。
それが、「東京者と結婚する」と大学出の男を連れて来た。
中卒の女工が、大会社に勤める大学出の東京者と「一緒に成る」と言うのだから、彼らにしたら「大した、もの」だ。


健太は張り切って「今夜、歓迎会をやる。」と言い出した。
「ケンちゃん、そんな事やらなくても・・・」
靖子は断ったが、健太は後に引かず、その場から漁協に駆け込んで電話を掛け捲り、沖に出ている者まで、無線で仲間を呼び始めた。
暮雅チャンが靖子の両親と挨拶を交わしている間にこの歓迎会話はどんどん進んでいた。

村でたった一つの居酒屋が、トントンと会場に決まった。
その後が二次会で、そちらは若い者のアジト「番小屋」に決まった。
漁場らしい気風で二次会は、「始める時間も決めず、終わりも、帰る気になるまで」と、アバウトだった。
「番小屋なら、酔い潰れても寝泊りできるから。」と、健太は言った。
彼等にしてみれば、何かと理由をつけて飲めれば良いのだろう。


村の若い衆の歓迎会は夕方九時からだった。
夜の漁を休みにする船も出た。
その間に暮雅チャンは、靖子の両親と親族に挨拶をしたのだが、これがまた難解だった。
とにかく大人数で誰が誰だかとても一度に覚えられない。
しかも、一様に無口なのだ。

それが時々、方言交じりに「ぽつり、ぽつり」と声を掛てくる。
この状況は、よそ者にとっては拷問に近い。
しかし、暮雅チャンは辛抱強く対応した。
「バス停留所の所に立派な火の見櫓(ひのみやぐら)がありますね。」
突然思い付いて突拍子もない話題を振ったが、何しろ何を話し掛けて良いのかトンと見当がつかんない。

「あぁ、あの火の見櫓(ひのみやぐら)は、以前は木造だった物を戦後の全国的な火の見櫓(ひのみやぐら)ブームの時に寄付を募って鉄塔に建て変えました。」
指して意味が無い話題に、親族の一人は急に言葉を改めて応えた。
「町場ではもう周りの建物に埋もれて、見櫓(ひのみやぐら)が役に立たなく成っています。」
「あれは、この村の団結の象徴ですから、大事にしとります。」

あの時、何で火の見櫓(ひのみやぐら)の話などしたのか、暮雅チャンにも判らない。
その何気無く話題にした見櫓(ひのみやぐら)が、暮雅チャンの人生の「原風景の一つに成る」と気付くのはもっと先の話だった。

しかしまぁ、最初から靖子を遠方に嫁に出す事は諦めているのか、結婚についての反対の話しも無かった。
どちらかと言うと村の結婚に対する「しきたり」なり、靖子家のチョイトした歴史なりを聞かされて、この結婚の挨拶は終わった。


それから後は、健太が企画した村の消防団主催の臨時歓迎会に付き合わされた。
これが、「居心地が悪い」なんて物ではない。
何しろよそ者は暮雅チャンだけで、彼らの話題はトンと理解出来ない。
たまに思い出して話しかけられるが、大半は蚊帳の外で、彼らが勝手に騒いでいる。

「ゴメンネ、つまらないでしょう。」
靖子が気を使ってくれるが、唖然として見ているより成す術がない。
まぁ、この村から娘をひとり「掻っ攫って行くのだから多少の辛抱は仕方が無い。」と言い聞かせて、この酒宴の傍観者になっていた。


しかし、靖子がこの村の出身だった事から、暮雅チャンには想像を絶する数奇な運命が待っていたのだ。




(新婚生活)
夢と現の狭間に有りて◆第三話(新婚生活

◆◇◆◇◆(新婚生活)◆◇◆◇◆◇

暮雅チャン達の結婚式は、靖子が中学時代に通学した隣町の会館で上げた。
こちらの親族には申し訳なかったが、親父が「別の土地の、珍しい結婚式を見るのも良いじゃないか。」と、苦しい援護射撃をしてくれた。

それで親戚一同が新幹線を利用、途中大阪で一泊したり或いは寝台列車・急行「あさかぜ」で駆けつけるなどして、東海道、山陽道を下り、遥々中国地方の海辺の村に、三日がかりで来てくれたのだ。
寝台列車・急行あさかぜは東京駅〜博多駅(末期は下関駅)間を東海道本線・山陽本線経由で運行していた寝台特急列車(ブルートレイン)である。


式の前日は嫁方の親族の家に分宿し、その夜は村中総出で東京の町場では見る事が無い略式の嫁取り儀式が村を挙げて行われる。
小さな村だけに、村中が縁続きに成るらしく、都会の感覚では判らない地縁、血縁が支配していた。

最初は花婿が一人で花嫁の家に入り、嫁の家族と食事をする儀式から始まる。
この時点では花婿側の両親親族は、花嫁側の親族の家に分宿して儀式が終わるのを待つ。
どうも、「足入れ婚の体裁を、形だけでも採る」と言う事らしかった。
本来の花婿は、式を上げる前に、花嫁の家で数日間暮らすそうだ。
足入れ婚らしき食事の儀式が終わると、急に村内が騒々しくなる。


紋付の羽織袴、紋付の着物で正装した年配者年配者の間を掻い潜り、女性の着物を着て化粧をした若い衆が、集団で花婿を拉致する。
戸惑うこちらを、置いて行き放りのまま、盛大な嫁取りの奇習が行われ、暮雅チャンは「六尺フンドシ一丁に女の着物一枚は織っただけで、岩壁から海に投げ込まれた。」と笑った。

投げ込まれた花婿に続き、若い衆も海に飛び込み、花婿に向かって四方八方から海水をバケツですくってぶちまける。
頃合を見て花嫁が若い衆に嘆願をし、海から助け出すのは花嫁の父親や兄弟の役目だった。
助け出された暮雅チャンは、近くの「番小屋」で、六尺を外し、全身を靖子に拭いてもらい、着替えを済ませた。
「自分で拭く」と暮雅チャンは言ったが、靖子は「これも村のきまりだから」と言った。
膝間付いた靖子に、丁寧に股間を拭かれた時の事を、暮雅チャンは今でも鮮烈に覚えていた。


着替えを済ませて外に出ると、先ほどの若い衆達が、「立派ジャッタカ?立派ジャッタカ?ナニは立派ジャッタカ?」と囃し立てる。
靖子が、「ナニは立派ジャッタよぅ。」と応えると、ドッと歓声が上がった。
正に村を挙げて「イベントを楽しむ」と言う演出で「ははぁ、こう言う段取りなのか」と、暮雅チャンは、開け広げで素朴な、村人達の知恵に感心した。


それで村内が結婚を認め、正装に着替えた花婿が、花嫁の先祖の墓に結婚の報告に行く。
この習慣、地元同士の結婚を本式にやると、今でも前後一週間近く費やすそうだ。

「古い村だから、大変な事をさせてゴメンネ。」
靖子は済まなそうに、絶えず都会者の私を気使っていた。
別に靖子のせいでは無い。
その村から嫁を貰うのだから、暮雅チャンも村の習慣に合わせるより仕方が無い。


翌日の結婚式は、今風に設定してあり、式次第が東京とあまり変わりは無かったが、村長、校長、郵便局長、漁協の組合長、助役、駐在(警察)と、肩書き付が続いた。
酒が入ると、もう止らない。
例の消防団(若い衆)が異様に盛り上がって、騒ぎ捲くり、「殆どぶっ壊し」と言って良い有様だった。


年輩の者は年輩の者で、しつこく土地の自慢話をする。
この日本の国の歴史は、西国から始まっている。
だから東国より歴史が古い。
主な神話の世界は全て西国に偏っていて、関東では話しにならない。

村に関わる神話も多く、それを下る歴史の節々に、神武東遷、源平合戦、南北朝、毛利攻め、関が原、朝鮮征伐、公家の都落ち、明治維新、この土地柄は、永い事水軍の本拠地でもあった。
特に維新の大業以後、傑出した人物を多数輩出した土地柄を誇っていた。



そんなこんなが有って、暮雅チャンの東京での新婚生活が始まった。
西武池袋線の石神井駅近くのアパートでその第一歩を始めた。
当時としては、六畳、四畳半、八畳相当のダイニングキッチンとアパートとしてはかなり高級だったが、住宅手当てが厚かったので、何とか借りる事が出来た。

仕事が仕事だから、家電製品はテレビ、洗濯機、冷蔵庫と、最新を揃え、近隣の家の羨望を買った。
結婚の時期は申し分なく、昭和四十年から始まり、四十五年の大阪万博まで続いた好景気、「いざなぎ景気」の真最中だった。
日本中が向上心に燃えていたから、暮雅チャンの前途も洋々たるものだった。


「社内結婚ですが、その時代、会社の反応はどうでした?」
「会社は結婚に好意的でした。」
暮雅チャンが結婚報告の為、靖子を伴って大内特販部長の家を訪ねると、大変上機嫌で靖子の美貌を褒め、「うらやましい奴だ。」と結婚を祝福された。

それからの大内部長は、何かと新婚の暮雅チャン達に声を掛けてくれる良い上司だった。
「靖子さんは、専業主婦で家庭に入ったのですか?」
「いぇ、靖子は六年も家電生産工程に居て、製品にも熟知していましたから、大内部長の口利きで、都内のサービスセンターに、臨時職員として転属を斡旋してくれました。」


関西で発祥した会社が、市場の大きい「関東の基点を強化しょう」としていた時期だから、靖子のキャリアを放っては置けなかった。
当時は家電製品が高価だったから財産感覚で、ユーザー側に買い替えの意識は低く、故障などのアフターサービスの質が販売の武器になった。
サービスセンターでの靖子の仕事は、販売店の店主に修理の講習をしたり、手に負えない修理を引受けたりと結構役に立って、周囲に喜ばれていた。


当時のサラリーマン家庭は、今の様に共稼ぎは少なく、パートと言う働き方は浸透しては居なかった。
それで靖子は、「子供が出来るまでは」と言う半ば口約束の、お手伝い気分で勤めていた。
「正直助かりました。」
靖子の給料は、臨時職員扱いだからたいした事は無かったが、それでも二人合わせるとまぁまぁの金額になり、新婚家庭としては相当恵まれていた。
それに、東京に来て右も左も判らない妻を、忙しい営業活動に追われる暮雅チャンとしては、家に一人にさせて置くより「余程安心でした。」と言う。



日が落ちて暫くすると、外はうるさい位に虫達の大合唱である。
戸は明け放たれているが、蚊は見当たらない。
そよそよと表現するのが適当、と思える柔らかい良い風が入って来る。
「茂夫さん、人の人生なんて、夢と現(うつつ)の狭間を漂う様な物ですね。」
暮雅チャンが、新婚時代を話し始めた。


若い夫婦だったから、当然の事、始終愛し合った。
靖子の肉体は、美しく柔らかく暮雅チャンはそれを独占出来る喜びに震えた。
誰にも遠慮が要らないから、二人の目くるめく夜が続いた。
勿論、子供が出来る事を期待していた。
それが、自然な期待だった。


「子供が出来たのは三年後でした。それで、靖子は会社を完全に退職して子育てに入ったのです。」
靖子は二十四歳、暮雅チャンは二十九歳だった。
東京生活にも慣れ、会社の関係と子供の学校の付き合いから、靖子もそれなりの生活を築いていた。
暮雅チャンが出張から帰って来ると、靖子は妊娠を告げた。
身体に異変を感じて、「もしかしたらと、診察を受け、医者が太鼓判を押した。」と言う。


「出来た。」と、聞いた時は正直言って実感が湧かなかったが、靖子の腹が膨らんでくると、やはり「父親に成るのだ」と言う事は、自然に思うものだと、暮雅チャンは言った。
女の子だったが、妻に似て赤子のうちから整った顔立ちで、当時の出産した産科病院の看護士の間で評判になるくらい、整った顔をしていた。
「私は娘を、良子と名を付けました。」


可愛い子供が出来て、嬉しくない筈は無い。
暮雅チャンとしては、それこそ手塩にかけて育てた積りだった。
良子は、二歳、三歳と歳を刻んで、益々美しく育った。

小学校に進む頃には、靖子と良子の美人母子は、すれ違う人々が振り返るほど目立つ様になっていた。
「ご自慢の御家族ですね。」
「えぇ、妻も私を大事にしてくれましたし、何一つ不満は有りませんでした。」


会社の上司、大内特販部長の所へも、年に一度は妻子を連れて挨拶に行き、その都度「美人母子が来た。」と可愛がられていた。
大内に可愛がられた事もあって、暮雅チャンの会社での出世も順調で、主任、係長補と駆け上っていた。
全てが順調で、恐いほど幸せだった。
しかし、事が上手く進み過ぎている時には必ず裏がある。


「それが・・・十年しか持ちませんでした。」
その幸せな家庭が、娘が九歳の時に、夫婦の間に決定的な問題が表面化し、突然壊れたのです。
「決定的出来事ですか?」
「娘の血液型が、合わなかったのです。」
暮雅チャンは、悔しそうに言った。


娘の良子が小学校に通い始め、三年生になった頃、学校で血液検査をした。
その通知書を、幼い良子は無邪気に暮雅チャンに見せようと持って来た。
それを見て、暮雅チャンは凍りついた。
結果はB型だった。

有り得ない結果だった。
暮雅チャンがA型で、妻の靖子はO型ではB型の子は出来ない。
何かの「間違いでは無いか」と、渋る靖子を強引に病院に連れて行って、三人の血液検査をやり直した。
事情を察した掛かり付けの医師は、暮雅チャンだけを診察室に呼び、結果を告げると同時に、「お子さんが可愛ければ、目を瞑(つむ)る選択もある。」と諭(さと)した。
「せきをする。熱が出た。」と言っては駆け込んで、診てもらった医師だった。

しかし暮雅チャンは頭に血が上っていた。
もう、疑いの無い事態だった。
無理も無い話だが、九年間近くも騙まされていた事になる。
妻と娘に、最大の愛情を注いでいただけに、暮雅チャンにそれを黙っている懐の深さはなかった。


それで、靖子を問い詰めた。
「浮気はしていないが、心当たりは有る。」
靖子はあっさりと可能性を認めた。
靖子は、「説明しても、貴方には村の掟の意味は理解出来ない」と、首を振った。
心当たりはあるが、血液検査の結果が出るまでは、靖子も「暮雅チャンの子供で有って欲しい」と思っていた。

暮雅チャンに問い詰められて靖子が言うに、村のしきたりで、「帰郷の度に夜這いを受け入れていた。」と言う。
まさか靖子の故郷にそんな風習の土地が在るなんて、暮雅チャンには想像も付かない。
暮雅チャンには信じられない事だが、靖子の両親も含め村中が公認の事だった。
その、村のしきたりは、確かに暮雅チャンには理解できない。
「夜這い」と言う都会育ちの暮雅チャンに、思いもしない事を靖子が告げたのだ。


この血液型発覚事件の昭和四十九年年当時、暮雅チャンは若干三十六歳で異例の出世を遂げ、会社の北関東地区の営業地区長(課長代理)をしていた。
運にも恵まれて成績が良く、会社はお誂え向きに、ヒーローを作って士気を鼓舞する狙いだった。
営業成績で目に付いた暮雅チャンを大内部長が強く推薦して、異例の出世をさせたのだ。
つまり、夫として父として、精一杯頼れる存在で居たはずだった。


娘の良子が生まれたのは、九年前の昭和四十年代に入ったばかりだった。
当時、二十代後半の暮雅チャンは、仕事が「いざなぎ景気」で乗りに乗っていた。
何しろ、扱っていたのが庶民の夢を叶える品々、掃除機、洗濯機、冷蔵庫、モノクロテレビなどの電化製品である。
まだ、手に入れた家庭の笑顔が、想像出来る時代だった。
暮雅チャンにしてみれば、自分が懸命に仕事をして居さえすれば、「幸せな家庭が築ける。」と、信じていたのだ。

それでがむしゃらに働いて来た。
それが間違いで、蓋を開けてみると、家庭的には仇に成った。
「誰でもそうでしたが、あの頃はみんな猛烈社員でした。」
「確かに、当時は世の中が全て猛烈社員時代でしたねぇ。」
「今思えば面白かったのです。けして会社に強要されたのではない。やれば、やるほど成績が上がる。良い時代でした。」


暮雅チャンは、新婚早々から家庭を振り向けないほど、仕事に追われていた。
それで、地方出張が重なり、滅多に妻の靖子を構ってやれない日々が続いていた。
特販営業だったから、量販店、デパートが主力取引先で、日曜祭日も駆り出される。
五月の大型連休にも付き合え無い暮雅チャンは、靖子を不憫に思い、度々里帰りを進めたのだ。
靖子はその里帰りで、良子を仕込んで来た事になる。


「複雑な心境とはあの事を言うのでしょう。靖子も良子も愛している。しかし二人が他人に見える。」
「お苦しみになりましたね。」
「靖子は私への愛は変わらないと言うのです。身体を赦したのは別の理由だと・・・・」
暮雅チャンは腹を立てていたが心中複雑で、場合によっては無理やり納得しても、生活を続ける積りもあった。

靖子は冷静で、泣きもわめきもしなかった。
ただ、淡々と暮雅チャンに経緯を話した。
「私は靖子の芯の強さを改めて知りました。そして、靖子の村のしたたかさも知りました。」

暮雅チャンは「フー。」と一息つくと、「人間の強さが見掛けじゃない事に、気が付かされました。」と言った。
所詮夫婦は他人だから、「判ってやりたかったが、判かってやれない」そんな葛藤が、修復できない所まで、互いを追い詰めていた。
暮雅チャンの両親は、突然の息子夫婦の破局に困惑したが、理由は言えなかった。


穏やかで、お人好しで、素朴な人柄の村人が、一皮剥けば、生き残る為のしたたかな鎧を身に着けている。
瀬戸内海に面した歴史ある小さな村落が、独力で今日まで生き延びて来た。
つまり企業の身勝手な論理と同じように、村の身勝手な論理が、村を支配する光と影に積み重なって営々と築き上がっているのかも知れない。
「素朴な村人のしたたかさですか?」
「それを、これから解き明かします。」


(訪れた崩壊)
夢と現の狭間に有りて◆第四話(訪れた崩壊

◆◇◆◇◆(訪れた崩壊)◆◇◆◇◆◇

五時半か六時頃から飲み始めて、もう二時間以上になる。
「何故、靖子さんは貴方を愛しながら、他の男の子を身ごもったのです。」
「そうですね、その訳を説明しましょう。先ほども言いましたが、靖子は瀬戸内海沿いの、当時人口僅か千三百人の小さな漁村の出身でした。」


暮雅チャンが言うに、靖子の故郷の村は、人口こそ少ないが神武東遷記にも出てくる山陽道沿いでは歴史のある地方の村で、昔からの古い伝統が、未だに生きていた。
その伝統は、地元の者なら合意の事で、後から暮雅チャンが調べた限りでは靖子を責められない独特の物だった。
「少し長くなりますが、靖子が唯のふしだらな女では無い事を説明します。」
暮雅チャンは、少し顔を赤らめて話し始めた。
久しぶりの話し相手に、日頃はコップ一杯の酒が、今夜は二杯、三杯と進んでいた。


「茂夫さん、夜這いの本当の意味を知っていますか?」
「夜女性の寝屋に忍び込む事ですね。」
「まぁ、普通の理解はそんな所でしょう。しかし、実は深い意味があるのです。」


昔、「夜這い」と言う、ロマンチックな響きを持つ性風俗が日本の農漁村のほぼ全域にあった。
いや、その昔の上代の頃には貴族社会でさえ「夜這い」はあった。
昔は、私権を中心に発想していたのは「権力者階級」だけである。
庶民は物質的には貧しかったが、互いに信じ合え皆んな助け合って、素朴でやさしい庶民生活が営まれていたのだ。
その原点にあったのが、「夜這い」の精神である。


「夜這い」の起源、或いは全国でここまで広く行われていた「理由」については、諸説がある。
暮雅チャンは、「初期妙見信仰の名残ではないか」と勝手に考えていると言う。
簡単に言うと「渡来呪詛宗教の影響」と、後ほど記述する自然発生的な「集団婚」、初期渡来人がもたらした「妻問婚」が、合致したのではないかと考えていたのだ。


「妙見信仰ですか。庶民の信仰ですね。」
「妙見信仰には、言わば古代の隠れ信仰みたいな一面があります。」
「確か、中世の妙見信仰・北辰信仰の担い手として有名なのは周防・長門の二ヵ国(山口県)の武将・大内氏が西国では有名でしたね。」

「流石、歴史にお詳しいですね。靖子の村は昔大内氏の影響下にありました。」
「山口県ですか。」
「誤解が生じるといけないので、村の特定は避けて欲しいです。」
「判りました。」


天体の中で動かない様に見える北極星は、方向を指し示す事から世界中で神格化されて来た。
北極星の化身としての妙見信仰(妙見神呪経)が日本に渡来したのは紀元後五百〜六百年代である。
伝来当初は渡来人の多い南河内など辺りでの信仰であったようだが、次第に畿内などに広まって行った。
しかし朝廷の統制下にない信仰であったため、延暦十五年(七百九十六年)に妙見信仰最大の行事「北辰祭(妙見祭)」を禁止した。
表だった理由は「風紀の乱れ」であった。


つまり全国にある妙見宮は、朝廷の禁止があるまで「性的なものを許容もしくは奨励する教義だった」と推測される。
この教義の元が「真言密教」であり、その全国流布には修験者(山伏)があたり、辺境の漁村から山深い猟師村まで分け入って布教に努め、村人を導いていた。
中央の権力者の意向に添わない宗教は、いつの世も草深い野に身を隠す。
隠れ妙見信仰は、修験者(山伏)と伴に村々に散って行った。


かつて、医学の発達していない時代、庶民の間では寺や神社(小祠)と同じくらい修験道士(山伏)は信仰の対象で、生きて行く上で重要だった。
昔、病は「祟(たた)り」と考えられ、信仰深く素朴な庶民は恐れていた。
「つまり、山深い里にまで修験の山伏は、庶民にとって頼り甲斐ある拠り所だった。」
「そうです。そうです。」
その修験道の山伏達は、渡来した様々な宗教を駆使して庶民の平穏を願い、祟(たた)りを治めて信頼を勝ち得た。


農漁村(猟村を含む)に於ける村落共同体の性意識は「とても解放的」で、一夫一婦制はあくまでも「建前的なもの」にしか過ぎなかった。
従って、「結婚したから」と言って、その相手を性的に独占できる訳ではなく、離婚も簡単だった。
町場のような「出戻り意識」は農漁村には無く、風呂敷包み一つ持って家を出れば済むような、「極めておおらかな事」だったのだ。


まず、農漁村部における「夜這い」の前提を「ハッキリさせておきたい」と暮雅チャンは言う。
元々の百姓、漁師などの身分と生活環境を考えてみる。
百姓や漁師の生活環境は村里集落であり、身分はその地名に住む誰々(山里村のゴンベイ)で苗字に当るものは無いので有る。

公家や神官、武士、僧侶階級の家系単位と違い、村里集落が一つの共同体単位で、「**村のゴンベイの所の娘っ子のオサト」と言う表現の集団だった。
つまり、村の所属であり、村の名が一体化した村人の苗字の代わりだった。
別の身分として、神官は武士兼業などが居た。
僧侶は寺や宗派に所属、別な僧名を使用した。


権力者の搾取、或いは隣村との土地や水利権の争いなどから彼らを守る自治組織としての村には、村人の団結が唯一の手段で有る。


従って、団結を壊す様なルール違反が村人にあれば、「村八分」と言う形で制裁を受けた。
と成ると、「夜這い」はルール違反ではなく、「積極的公認の事」と解釈するべきである。
これは、「集団婚、妻問婚」の名残とみる説が定説で有る。


元々性交は「自然行為(繁殖行為)」であるから、ルールは後から付いて来た。
その点では他の動物と余り変わりは無い。
例として挙げ易いので「おしどり」と言う鳥を揚げてみると、「つがい」の仲が非常に良いので、仲の良い夫婦を「おしどり夫婦」と形容するが、実際は大半の「つがい」は一繁殖シーズンだけの仲で、次のシーズンは別のペア(つがい)になるそうだ。


「集団婚」という婚姻形態は、一言で言えば「複数の男と女がグループ」で婚姻関係を結ぶもので、日本を含めて採取狩猟時代から歴史的に長く行われていた。
或いは、先住の日本列島の民、蝦夷族(エミシ族)に、この習慣があったのかも知れない。


「妻問婚」とは、男が女性の下へ通う婚姻形を指している。
中国・雲南省の水耕稲作発祥の地は、未だにこの「妻問婚」が行われて居る土地だが、正月や節分の風習など、わが国の習慣に共通点が多いので、昔から初期日本民族(統一大和族)に於ける「習慣の遠いルーツでは無いか」と指摘されている。


この「妻問婚」の呼び名が、「夜這い」の語源で、動詞「呼ばふ」の連用形「呼ばひ、が名詞化した語」と言うのが定説で、「夜這い」と書くのは当て字である。
「呼ばひ」は上代から見られる語で、本来、男性が女性の許に通い、求婚の呼びかけをする「妻問婚」事を意味した。
この求婚の呼びかけ、今ほど厳密なものでなく、「唯の口説き」と区別は付き難い。
当時は男性側に、「多妻・重婚」が多かったのだ。


やがて、後発で入って来た渡来人や経典の影響で、貴族社会から徐々に「嫁入り婚」が支配的になり「妻問婚が、不道徳なもの」と考えられる様になった。
当時は照明が発達していないから昼間働き、「夜、性行為をする」イメージが定着していた為、「夜這い」の文字が当てられた。
時代が下がり、「夜這い」の字が当てられて以降、求婚の呼びかけの意味は忘れられ、「男が女の寝床に忍び込む意味」として用いられるようになった。


その性交習慣の名残が、つい五十〜八十年前まで密かに村里に生きていた。
村人の結び付きの手段で有り、団結の象徴だが、価値観の違う為政者(支配階級)は認めない。
それで、建前は「一夫一妻制」を取ったが、現実には「夜這い」は、本音の部分で村内は公認だった。


「夜這い」は男が女の家に侵入して交わって帰る事である。
現実問題として、相手にも家人にも了解がなくては成功(性交?)は難しい。
つまり余程の事が無い限り、小さな家だから家人の妨害があっては殆ど成立しない。


「合意の上だったのですね。」
「そうです。そしてあの土地では、靖子の行為は何も悪行ではなかった。」
暮雅チャンは私の目を見て、頷いた。
「しかし、そんな事がひと集落まん丸加担しているなんて信じられませんね。」

「そりゃあ、私も同じ思いでした。しかし考えて見れば、娯楽の少ない辺鄙な土地柄でも若者達の性欲は町場と同じように在る訳ですから・・」
「そりゃそうですが、だからと言って・・・」
「茂夫さんには判らないでしょうが、とにかくあの村の習俗として、言わばボランティア・セックスと言う考え方が在ったのです。」

「ボランティア・セックスですか。」
「年上のお姉さんが筆おろしをするのも、見張り小屋の若い衆宿も、性の機会からあぶれる若い衆が居ない為の千年から続く制度でしてね、村落の平穏と団結の為のボランティアなのですよ。」

「う〜ん、確かに工夫された制度ですね。」
「そこで生まれ育った妻の靖子には村内でのボランティア・セックスは半ば義務でして、悪意も後ろめたさも無かったのです。」
「すると、カルチャーギャップですね。」
「それが、都会者には理解出来ない・・・。」


夜這いだけは、年の上も下もない。
身分、家柄もへったくれも関係ないのが村の掟である。
そして、相手は頻繁(ひんぱん)に変わっても良い。
つまり、「夜這い」を仕掛ける相手も未婚の娘とは限らない「総当り制」で、婆、後家、嬶、嫁でも夜這いが許される村も多かった。


その場合は、夫もそれを平然と受け入れなければならなかった。
妻や妹、そして娘を「夜這い」されても、夫や親兄弟は文句を言わない。
それが、村を挙げての合意された「掟」だからで有る。
夜這いによって妊娠し、子供が生まれる事があっても、夫はその子供を「自分の子として育てる」のが当たり前だった。


村のルールであると同時に、自分達にもその権利がある「集団婚姻的な性規範」であったからだ。
目的は村の団結(全て身内の気分)で有り、人口の維持発展、治安維持である。
少人数の村では、男女の比率が平均化されない事態がしばしば発生したので、この手段の「総当り制の夜這い」が問題解決の最高手段だったので有ろう。

一夫一婦制で男女の比率が違うと、当然、あぶれる(相手に恵まれない)事態が起こる。
これを、手をこまねいて居ては村落が少子化に陥るから、救済手段が必要だった。
この考え方、今の日本ではまったく支持されないだろうが、「少子化」に悩む当時の小部落の「有効な対策」だったので有る。


村の人数が相対的に多く、若者と娘の員数が均衡している所では、若者仲間にのみ「夜這い」の権限が公認され、対象は「同世代の娘や後家に限られる」と定められていた村の事例もまた多いが、いずれにしても表向きは、一夫一婦制だが、実態的には皆が性的満足を得られる「夜這い」システムで補完されていたのだ。
つまり、おおらかに性を楽しんでいた。
そして現在のように、身体的に婚姻が不利な者やもてない者も、見捨てられ事も無く救われ、その手のトラブルを起こす事もなかった。


「夜這い」を実践していた村には、「修験者(山伏)の指導」と考えられる性に関する様式がある。
勿論、村によりかなり多様な形態があり、アバウトなので、全てがこの様式ではないが、およそのところを要約すると、村の男は数え年の十三歳で初めてフンドシを締める「フンドシ祝い」、数え年の十五歳で「若い衆入り」と言う通過儀礼があり、年齢が達すると成人と見做され、若い衆と言う成人男子の集団への参加が許される。

この若い衆入りを果たすと、「筆下し」と言って、村の女が性行為を教えてくれる。
その相手は、後家、嬶(かかあ)、娘、尼僧と様々で、くじ引きなどで決められる事が多かった為、場合によっては実の母親や肉親がその相手になる事もあった。
その場合でも、相手の変更は禁じられた。


それは、「筆下し」が宗教的儀礼だったからで、神社や寺院の堂がその舞台となった。
この辺りに、妙見信仰(真言密教)による「宗教的呪詛」の一端が垣間見える。
この「筆下し」が済むと、漸く公に「夜這い」をする事が許される。


女性の場合は初潮、或いは数え年の十三歳を節目として成人と見做され、おはぐろ祝い、またはコシマキ祝いが開かれ、暫くすると「水揚げ」となる。
この「水揚げ」、親がその相手を探し、依頼する事が多かった。
「水揚げ」は村の年長者で、性行為の経験が豊富なのは勿論の事、人柄が良く、その後も娘の相談相手になれる後見人として、実力者の男性が選ばれた。

その水揚げを経る事によって、その娘に対する「夜這い」が解禁となる。
これらは、信仰深い人々にとって「神の計らい」だったので有る。


「すると、靖子さんは夜這いをされたと言う事ですか。」
「えぇ、相手は内海健太を始めとする村の消防団の若い衆連中でした。」
「それは酷い。結婚式に出席して祝福していながら、共謀してそんな犯罪を。」
「しかし、その土地ではその土地の伝統でして、靖子も拒めないし、村中総ぐるみですから靖子を責められないし、犯罪の立証も出来ない。」

「彼女も貴方と言う夫が居ながら、何故拒まなかったのですか。」
「まぁ、もう少し聞いてください。私も靖子の気持ちを理解しょうと随分苦しみました。」
そして、暮雅チャンは、「或る事を思い出した」と言う。

それは、暮雅チャンが東京へ引き上げる前夜の二人にとって初めての夜の事だったが、靖子は、既に男を知っていた。
しかし靖子は、「過去に付き合った男は居ない」と言う。
村の若者達の話しの感じでも、靖子に男の影は無い雰囲気だった。

「おかしい」と心に引っ掛かっていた謎が、この時になって解けた。
靖子は「水揚げ」、と言う村の古い習慣を経験していたのだ。
「そりゃあボランティア・セックスですからね、付き合った男は居なかった訳です。」


(番小屋)
夢と現の狭間に有りて◆第五話(番小屋

◆◇◆◇◆(番小屋)◆◇◆◇◆◇

暮雅チャンは妻の事を理解したくて、彼女の生まれ故郷の村の因習と、その背景を調べてみた。
靖子の「本心では無い」と、納得したかった。


「夜這い」とは、村落共同体を維持する為の有用な慣習だった。
そのしきたり(規則)は住民達によって細かく決められていて、その取り決めは村ごとに異なる。
その差異は、「村の規模や性格によるものだ」とされている。

夜這いが解禁される基準も、村によって異なるが、数え年の十五歳という年齢が一つの目安となっている。
この事は、武士社会の「元服式」にも通じるから、数え年の十五歳の身体は立派に大人なのである。
それ故これは、自然に成熟する若い男女に、大人としての自覚(社会的責任)を身体の成長に合わせて廻りがきちんと教える「理に適った」習慣だった。


村落共同体の存続を賭けた「少子化対策」のこうした様式は、広義に解釈すると国家にも通じる。
村民が減っていけば「村の力が落ちて行く」と同様、国民の居ない国家は成立たない。
従って、「夜這い」を現在の固定観念で安易に「低俗」と判断する人は「無知な人」と言わざるを得ない。
「再開しろ」とは言わないが、先人の知恵に「教えられる所は多多ある」と言う事だ。


少なくとも、昭和の始め頃までは「夜這い」はほぼ全国で行われていた。
最後まで残ったのが、昭和二十年の敗戦の頃までで、西日本の漁村を中心として、まだこの慣行が残されていたらしい。
しかし、高度経済成長期の集団就職、出稼ぎ、などの影響で村落共同体の崩壊と共に「夜這いは全滅した」とされている。

何も農村落から若者が消えた原因が、「喰って行けないから」ばかりではない。
戦後の日本復興の為に「集団就職」で農村落から若者が消え、永く農村落の若者達を繋ぎ止めていた楽しみ「夜這い文化」のシステムを崩壊させた所に、決定的な原因があった。
つまり、鹿鳴館外交に代表される欧米化の波の中に庶民の性文化は弾圧され政治的に洗脳されて、「足らぬを補う知恵」を「建前」と言う【左脳域】思考一辺倒の「机上の論理」だけで否定した所に、「限界集落を生み出す原因があった」と言える。



昭和二十年の初めまで、関東から以西の主に沿海部の漁村に分布する独特の風俗習慣に「寝宿(ねやど)」と言う制度があった。
北日本、東日本ではその存在が希薄である「寝宿」は、地方により「泊り宿」や「遊び宿」とも言う。
若い衆には「若い衆宿」、娘衆には「娘衆宿」があるのが普通だが、男女別のものばかりではなく、土地によって同宿のものもあった。


集会場や仕事場としてのみ用いられるものは「寝宿」とは呼ばない。
「寝宿」は文字通り寝泊宿で、男子の場合、若い衆へ加入と同時に「寝宿」へ参加するものと、「寝宿」へ加入する事が、逆に若い衆への加入を意味する「形態」とがある。
娘衆の場合、集会としての娘宿は多いが、寝泊宿の例は比較的少なかった。
たとえ、寝泊宿があったとしても、いずれにせよ、一つの寝宿に兄弟姉妹が同宿する事は避けるものであった。
寝宿の機能は、「婚姻媒介目的」と「漁業目的」の二つに大別され、双方を兼ねる場合もある。


婚姻媒介目的の場合、若い衆は「寝宿」から娘衆の家・娘衆宿・娘の寝宿へ夜這い(よばい)に訪れ、将来の伴侶を選んだのであり、そのさい宿親と呼ばれる宿の主人夫婦や宿の若い衆仲間達が、助言や支援を行った。
つまり、明らかに村落共同体としての合意ルールによる「夜這い」である。
いずれにしても、この制度は「夜這い」を容易にする手段でもあったと言える。
したがって結婚すれば寝宿から卒業する地方もあった。


一方、漁業目的の場合は、寝宿から夜間の漁に出たり、寝宿に宿泊して非常に備える現実的な目的があった。
村の防災は「寝宿」が請け負っていて、これが後の消防団に継承して行く。


「寝宿」としては、一般に新婚夫婦のいる家屋の一部屋を利用するものが多いが、漁業に関係した「寝宿」は網元の家が用いられる事もあつた。
また寝宿専用の家屋が常設されている地方もあった。
こうした慣習が、関東以西の広範囲に大正末期までは顕著に続けられ、その名残は、地方によっては、村の青年団や消防団などが、こうした習慣を継承して、昭和の二十年代初めまで続いていたのである。


近世から近代にかけて、為政者主導の社会制度に、民が「性的なものに対する嫌悪感」を植えつけられ、次第に性に対するおおらかさを失って行く。
主として為政者の目が届きやすい平野部が、その制度に染められて行った。
一夫一婦制は、重大な別の効果をもたらせた。
庶民が異性に対する独占欲を、強く意識する第一歩となったのだ。

つまり、本来脳の別の部分で考えている「精神的愛情」と「性的衝動」を集合させ、「独占欲」と言う私権で括(くく)ってしまった。
そして、それが徐々に進んで「私権(私欲的個人主義)」の意識だけが、日本中のあらゆるものに及んで行くのだ。


しかし、山間部の民や漁場の民は、昔ながらの「未開」の領域を「その制度の中におおらかに残していた」と言う事だろう。

「すると、靖子さんの村では、一度絶滅したはずの習慣が、形を変えて生き返った。」
「えぇ、今にして思うと、きっと、古い因習と近代化の狭間で、集団就職の荒波に揉まれ、小さな村は、声に出せない悲鳴を上げていたのでしょう。」
暮雅チャンはしんみりと言った。
その姿勢は、何とか自分の元妻を真摯に「判ってやりたい」と言う思いが溢れていた。


靖子の村の若い女性の大半は集団就職で国を離れ、村を守るべき責任を負わされた村の若者は、一様に相手になる女性にあぶれていた。
つまり、圧倒的に年頃の女性が減り、大事な村の宝(跡継ぎ)に惨めな思いをさせる事に成る。

このままでは村の若者が意欲を失うか、村を棄てる様になる。
それでも今までは、町場に行けば「赤線」と呼ばれる公の売春宿が在って、幾らかは逃げ場があった。
それが売春防止法の成立で、深刻な事態になった。

集団就職と売春防止法は、小さな村の現実にとってダブルパンチだった。
村と言う生活共同体の「存亡の危機」と言う訳だ。


それで「きも入り」と呼ばれる村役を中心に、村人が密かに集会を行い、「昔の風習を復活させよう」と、大胆な密約を交わした。
その制度は、靖子が集団就職で大阪に行った後の昭和三十二年から始まっていた。
つまり、売春防止法の成立年度と時を同じくしているのだ。
村人全てが縁戚、親戚関係にある血縁の小村ならではの合意がなされたのだ。
相互の互助制度「公認の夜這い」だった。


この新しい掟は、村で生まれた全ての女性と、村に残った独身男性に限られ、女性に義務が発生する条件は、村の内外を問わず、結婚をしてからだった。
つまり、十八歳を迎えた独身男性には、若い嫁と後家を番小屋に呼び出し(誘い)、「夜這い」を掛ける権利が与えられた。
この呼び出し、独身の若い衆組織(消防団中の独身仲間)から嫁の亭主や親兄弟を通して行われ、その責任の下で番小屋に嫁を向かわせる事で公認性を維持していた。

帰郷した靖子には、村人合意の上の、当然の申し合わせとして、「夜這い」を受け入れる義務があったのだ。
誰が悪いでもない、存亡を賭けた村のやむおえない合意だった。
靖子が拒めば、両親も兄弟も村では生きられない。


消防団の番小屋は、村の若者が、風水害、地震遭難などから、奉仕で村を守る象徴の場所だった。
十八歳を越えた独身の若者は、自宅を離れ、緊急に備えて交代で番小屋に寝泊りする。
その若者達に報いる奉仕が、村の若嫁の義務だったのである。
靖子は、村に帰郷する都度、呼び出されて消防団の番小屋に通った。
番小屋の二階の十畳間が、その為に使われる場所、つまり現代の「寝宿」だった。


日に五人、一度帰郷すると、三泊から四泊したので、延べ十五人から二十人は靖子の身体を通り過ぎた。
村を離れているのだから、帰郷した時に、まとめて若い衆の相手をさせられても、仕方が無い。
村を守る若い衆の奉仕に対して、守られる村の嫁や、親を守られて居る嫁に出た娘が、独身の若い衆に奉仕する。
極端な言い分だが、理屈は成立っているのだ。

何故なら、若い衆が風水害、火事山火事などから村を守るには、命を賭ける場面もある。
それに「見合うだけの奉仕が必要」と考えられたのだ。
昭和三十三年の四月一日「売春防止法」が施行され、日本人の性意識も変わりつつあったが、地方の田舎村にその意識が浸透するには時間が必要だった。
そして、理想だけでは対応しきれない寒村の現実的な事情が存在していた。
靖子が良子を孕んだ頃は、まだ「売防法」から五年しか経ってはいず、都会と田舎では意識にかなりの格差があったのだ。


そんな具合だったから相手は多人数不特定で、良子の実の父親の相手が特定出来ない。
元々村の掟では、個人的に情が移る事や、父親が特定されない為に、確信的に一度に大人数を相手にさせるルールだった。
つまり、愛情は介在させない事で、夫婦間とは一線を画していた。

生まれてくる子は、その母親(女性)の家庭が育てるのが掟だった。
「靖子は、私を裏切るつもりだった訳ではない。靖子はただ、村の掟通りにしただけなのです。」
暮雅チャンが、目頭を赤くして言った。
当時の村の悲鳴が、判らないでもなかったのだ。
眼前の村の危機に対し、素朴で、酷く現実的な対処をしたのかも知れない。


「やはり、赦せなかったのですか?」
「そりゃあ、赦せないかと何度も自分に問いました。」
嫉妬は独占欲に起因し、愛情と独占欲には微妙な違いがある。
それを混同するから奇妙な倫理観が生まれる。
今になって考えると、暮雅チャンは靖子を愛していたし、靖子の村で取った行動は、理不尽では有ったが避けられない村の習慣だった。


靖子のゆるぎない愛情は、充分感じていた。
「何故赦せなかったのか」と後悔の念が脳裏をよぎる。
「それじゃあ、何故そのままに?」
「靖子の意志が変わらなかったのです。」
「すると奥さんは、そのまま番小屋通いは続けると言うのですか?」

「結局それを私が認めるかどうかに結論が掛かったのです。」
しかし暮雅チャンには、呼び出され無抵抗に身体を開く靖子の番小屋での光景が執拗に浮かんで来て、拭い去る事が出来なかった。
靖子の番小屋での顔も、自分(暮雅チャン)とした時の、あの顔と同じだろうか?


避けられない村の習慣とは言え、それを承知で村に里帰りする靖子の本音を「正直に言え」と正すと、最初はともかく、「慣れると満更嫌ではない」と言う。
村内の約束事だから、番小屋での事はその場に居る者には開けっ広げで、全て公開している様なものだった。
最初こそ抵抗があったが、元々、見せたい見られたいは女性の基本的な性(さが)であるから、その衝撃的な見られる快感を一度経験してしまうと、後はもう止らない。
靖子は、暮雅チャンとの行為とはまったく違う喜びを感じてしまったのである。


人間は、性行為や食事、音楽や映像鑑賞の際に「ベータ・エンドロフィン」と呼ばれる快感ホルモン物質を分泌させ快感を得る。
言うなれば、宗教行為と性行為、音楽の演奏などは、ある意味同質の目的、快感ホルモン物質の分泌を促す為にある。
快感ホルモン物質が大量に分泌されると、人間はトリップ状態になる。

この快感ホルモン物質がモルヒネと同じ作用を持つ「脳内麻薬」で、精神的ストレスの解消と肉体的老化防止の特効薬であり、必要なホルモン物質なので、健康な性行為の抑制は必ずしも人間の為にはならない。
当然の事ながら、気の持ち様で「自然治癒力が増す」などの奇蹟は現に症例が多いから、宗教の奇蹟も存在する。
靖子の場合、番小屋での事は「ベータ・エンドロフィン」と呼ばれる快感ホルモン物質を分泌させ快感を得る事を体が覚えるきっかけになった。


宗教に陶酔したり、音楽に聞き惚れたり、視覚、嗅覚、五感の刺激がこの快感ホルモン物質の分泌を促すのなら、人は神の教えで救われても不思議はない。
それを経験的に学習しているから、いかなる宗教にも音楽や雰囲気創りの演出は付き物で、そのトリップ状態は、けして否定すべき物でもない。
「靖子は、刺激がないと生きては行けない身体になっていたのです。」と、暮雅チャンが締めくくった。


「可愛い娘さんが居て、奥さんも嫌いで無い。そして二人を赦している。それでも何故、貴方が別れたのか、やっと判りました。」
私は暮雅チャンの選択を不思議に思っていてが、その訳が判った。
娘さんの事は目を瞑るとしても、それだけでは終わらない。
村の掟が、ズット続くからだった。

「そう、前までの事は赦せても、先まで赦すのは、私にはとても我慢出来なかったのです。」
「それで、靖子さんの為に別れた。」
「靖子に、村の掟を破らせる事は出来ないと、思いました。良子を手放しても、自由にしてやるしかなかった。」


「良子さんとは血の繋がりが無いとしても、父親としての愛情は有ったのですね。」
「そりゃあ、有りました。九年も育てれば、急に他人にはなれません。」
「別れるのは辛かったでしょう。」
「未練はありました。茂夫さん、今居るこの山里、ここも昔は猟師の村で、似たような因習が残っていました。ここに住んで、過疎の村の気持ちを知りたかったのです。」

「つまり、条件が違う人間に批判は出来ない。」
「そうでしょう、金持ちに貧乏人の気持ちなど判らない。恵まれた二、三世議員に、庶民の生活が判る訳が無い。」
「それで、過疎の村の気持ちを知る為にこの山里に来た。つまり、最愛の良子さんの出生の秘密を赦し認めたかった。」
「私は、当初から赦していました。ただ、その心理と理由を知りたかった。」
「それで、益々難しい事態に気が付いたのですね。」

「あぁ、私の私情が立ち入れない次元の問題だった。」
「立ち入れない?冷静ですね。」
「世間が聞けば、そんな馬鹿な事は否定しろと言うでしょうが、村の悲しみが判るのです。」
暮雅チャンには苦渋の選択だった。
土の匂い、漁場の匂い、そうした「したたかな暮らしの匂い」は悠久の次元であり、暮雅チャンには、軽薄な都会の物差しでは計れない気がしたのだ。


結局、靖子は良子を連れて村に帰り、消防団の団長になっていた幼馴染の内海健太と子連れ再婚をした。
健太なら、村のルールは問題ない。
靖子に番小屋の若い衆から呼び出しが掛かれば「済まないが行ってくれ。」と送り出す。

それ以外は何の問題も無く、靖子も娘の良子も健太は大事にした。
てっきり「それで落ち着いた」と暮雅チャンは思っていたが、二年と続かないで、靖子はまた村を出た。
理由は誰も語らないから、暮雅チャンは知らなかった。


昭和五十一年秋、突然靖子から暮雅チャンに「良子と東京に出て来た。」と連絡があり、靖子母子の新らたな生活の開始を知った。
それ以来、暮雅チャンの方から申し出て、僅かだが良子の養育費を送っていた。
再び上京した時、靖子三十三歳、良子は十一歳だった。

その養育費を払ったのも七年、良子が十八歳になり、高校を終える頃には「送金を辞退したい。」と言って来た。
戦後も四十年近くを経て、昭和五十八年になっていた。
プッツと、それ以来、靖子達とは音信不通だった。


暮雅チャンは離婚を機に、借りていたアパートを引き払い、両親の家に転がり込んだ。
一人でアパート住まいは、出張の多い暮雅チャンには無駄だった。
離婚の訳は、散々責められたが、遂に両親にも真相は言えなかった。
暮雅チャンは末っ子だったから、その両親も六年後に父、八年後には後を追う様に母が病死した。
戦死した兄二人は独身で問題は無いが、二人の嫁に行った姉が居たので、暮雅チャンは家を処分、綺麗さっぱり三等分して、再び小さなアパートに移った。


「考えて見れば、身内に縁が薄い人生でした。」
一息入れて、暮雅チャンは刺身をつつき、茶碗酒を煽った。
「しかし、昭和の三十年代に、まだ、村の因習なんてものが、地方で密かに息付いていたなんて、知りませんでした。」
「あれから四十年、その後の社会変化で靖子の村も様代わりして、集団就職も無くなり、あの因習もただの昔話、年配者の語り草です。」
「娘の良子さんとは九歳で別れたきりですか?」

「えぇ、理由も知らされないまま、靖子に手を引かれて、振り返り、振り返り出て行きました。あの娘は、涙は見せませんでした。あの光景は今でも鮮明です。」
「堪えていたのでしょうね。子供心にも、泣いてはいけないと・・・・・」
上司の大内部長には、「何で別れた。」と問い詰められたが、理由は話せなかった。
その内、その話題も大内の口から出る事はなくなった。


「茂夫さん、実はその戸籍上の娘、良子は殺されたのです。」
「えっ、殺された?」


(企業的論理の陰謀)
夢と現の狭間に有りて◆第六話(企業的論理の陰謀

◆◇◆◇◆(企業的論理の陰謀)◆◇◆◇◆◇

「茂夫さん、少し休憩して星を見ませんか?」
突然暮雅チャンが提案した。
「星ですか。」
「ここらは空気が良いから、綺麗に見えます。」
暮雅チャンは、もう立ち上がって縁側に向かっていた。

慌てて立ち上がり、追いかけて空を見上げると満天の星が見えた。
都会で見上げるよりも遥かに数が多く、近く見えている。

「ほぅ。」
私はしばし、星を見上げて絶句していた。
星が降る様に輝くとはよく言ったもので、町場の空が汚れているのが良く判る。
「凄いでしょう、秋から冬にかけては、こんなものじゃありません。」
「その頃、また空を見にこちらに伺いたいですね。」


「茂夫さん、ビデオデッキのシェア争い、エスターニー方式とブイレーS方式の二方式が争いましたが、何故最終的にブイレーS方式が圧勝したのか判りますか?」と、暮雅チャンは問いかけた。
「さぁ、部外者ですから想像も付きません。」

「でしょう、世の中そんなものです。あれには作戦と言うか、陰謀がありまして。」
「陰謀とは、穏やかではないですね。」
「企業倫理、企業の良心なんて、現実の企業間競争の最中には浮かんできません。現実に、資本主義社会は食うか食われるかで、何処もギリギリの危ない橋を渡っています。」



昭和六十二年当時、暮雅チャンは会社の甲信越地区の特別販売部副部長をしていた。
上司の大内は、常務取締役事業副本部長に出世していた。
特別販売とはロットの大きい取引を担当する部署で、デパートやスーパーチエーン、家電量販チエーン相手に取引を行い、一度に扱う台数が多い。

彼に言わせると、罪にこそ問われないが、明らかに「反社会的な戦略」もいとわず業界のシェア争いは熾烈を極めるものだった。
その闇の戦いの渦中で、暮雅チャンは娘を失った。
正義感の強い彼はその戦場で傷つき、都会の生活を捨てのだ。


「もうDVDの時代で、ビデオの時代も終わりを迎えています。二十年から昔の事で、もう時効でしょうから、日本を代表する家電メーカーの企業犯罪を昔話としてお話します。」
これが、伝えたかった暮雅チャンの話しの核心部分なのだろう。
ただ、暮雅チャンが言う「死にたい。」と何処で繋がるのか、まだ謎ばかりだった。



二十年前、暮雅チャンは、東京へ直通電車で通勤可能な東京郊外とも言うべき、埼玉県の、「と或る街」にいた。
この昭和六十二年は、暮雅チャンの最悪の歳になった。

一人住まいの上に出張も多かったから、小さなマンションを借りていて十分だった。
食事も外食が多く、コンビニ弁当も食べるから、台所に立つ事は少ない。
独り者だから、幾ばくかの女遊びは金で購(あがな)ったが、概して女気はなく、決まった女は居ない。
当時暮雅チャンは五十歳代に手が届こうかと言う年齢で、本来なら妻と高校生の女の子がいるはずだった。

しかし、女の子の血液型が一致せず、昭和四十年代も終わろうと言う頃、彼が三十歳代後半に離婚して、もう長い事暮雅チャンは一人身だった。
しかし、暮雅チャンは片時も忘れた事は無い。
彼の生涯にとって、唯一の妻であり、娘だった。


その手放した娘のとんでもない映像を、暮雅チャンは、離別十一年後の冬、厳寒の二月に、ひょんな事から目にしてしまった。
暮雅チャンの半生は、モノクロ映像の歴史だった。
若い頃の猥褻(わいせつ)映像は八ミリフイルムが主流で、四国の某所で密かに作成され、大阪を経由で「全国に散らされる」と噂されていた。
それが、自分が関わるビデオ機器販売の仕事で、映像の扱いが個人で簡単に出来る様になって、偶然目にしたのが手元を離れた娘のあられもない陵辱映像だったのである。

娘の良子は、その年二十歳になる筈であった。
離婚して生き別れたが、再婚をしなかった暮雅チャンにとっては、娘と呼んだ唯一人の存在で有る。
代理店との商談の行きがかりで、代理店の主催する販売店の店主達と、裏ビデオ観賞を付き合っていた時の事だ。


販売店の電気屋によると、「今巷で密かに人気の娘が主演だ」と言う。
そのビデオを見ていて、暮雅チャンは思わず身を乗り出し、次に声を上げそうになった。
暮雅チャンが見たのは、何と娘の良子が強姦されて、あえいでいるシーンを収録した裏ビデオだった。
もろだしのグロテスクな物が出入りする、良子の股間がアップで映っていた。

良子を手放した時の面影からは随分育って、暮雅チャンが知っている頃よりは、遥かに大人びていたが、直感で直ぐに娘の良子と判った。 若い時の靖子に瓜二つだったのだ。
「手放すじゃなかった。」
言い知れぬ後悔が、暮雅チャンの胸中に渦巻いていた。
その帰り道、東京に雪が降り、国電が止って交通が完全に麻痺した。


念の為に、自宅へ持ち帰り、良子の裸体を映像で観察、確認したが、普段見る事の無い左の乳房、臍の斜め右下、右の内太腿と、ホクロの位置が一致していた。
見ていて腹がたった。
一緒に生活している筈の、母親の靖子はいったい何をやっているのだ。
もう、四十歳を超える年齢の筈だった。

暮雅チャンは、ほんの少し前まで養育費を送金していたから、靖子に久しぶりに連絡を取った。
住所も転居して行方知れず、電話も止っていた。
靖子の実家に離婚後初めて電話したが、電話は止っていた。
なおも村役場に問い合わせると、両親は既に他界していていた。

代替わりした兄夫婦は、新たに始めた牡蠣(カキ)の養殖に失敗して村を後にし、既に行方知れずだった。
歳月の重みを感じた。
「これは、思ったより手強い事になりそうだ。」と、暮雅チャンはあせった。
全ての糸が、プツリと途切れていたのだ。



実はこの裏ビデオ、当時ライバル会社と激しく販売合戦をしていた二機種の方式が違う「ビデオレコーダーのシェア争い」と無縁ではない。
その片方の当事者が、暮雅チャンの会社だった。
エスターニー方式とブイレーS方式だった。
エスター方式は、少しカセットケースがコンパクトで、比較すると画質が良い。
それに比べ、暮雅チャンが売ろうとするブイレーS方式は長時間録画が売りだった。

当初エスターニー方式が先行して市場を広げつつあったので、暮雅チャンの会社は苦戦していた。
シェア争いに負けると、膨大な需要は全てライバル企業に取られて、つぎ込んだ開発費は無駄になってしまう。
テレビ普及以後、最大の商材がビデオデッキで、これに負けると予測されるビデオカメラの需要も失う事になる。
しかも、コンパクト差と画質の両面で、ライバルに劣っていた。


劣勢を覆すには、生易しい方法では間に合わなかった。
そこで、闇のプロジェクトが立ち上がった。
密かに提案されたのが、家庭用ビデオデッキの普及とともに始まった裏ビデオテープ市場を、戦略的に押さえる事である。
それまでこの手の猥褻映像は、八ミリビデオが主流で、大掛かりで面倒な準備手間と、稼動操作が必要だった。

そこが手軽な物に解消されて、世の男性は裏ビデオに飛び付いた。
家庭用ビデオデッキは、誰が見ても有望な市場だった。
建前はともかく、当時高価だった家庭用ビデオデッキの普及に、裏ビデオテープの存在が貢献したのは間違いない。
と言っても、一流家電メーカーが裏ビデオテープなど直接作れないのは言うまでも無い。


発売当初の家庭用ビデオデッキは、定価が十五万から二十万円と、非常に高価な電気製品だった。
少し普及し初めで価格が下がったが、それでもまだ十万円以上はした。
高額家電品だから、購買の決定権は旦那さんに有った。
それでも人気があったのは、本音の所、まだ上市された作品の少なかった映画などを見たいのではなく、違法猥褻ビデオテープ(裏ビデオ)を、家庭で手軽に見る事が出来るからだった。

当然、裏ビデオが沢山「見られる」のか、「見られない」のかが勝負の分かれ目になる。
そこで目を付けたのが、「市場にリリースされる裏ビデオテープの方式を「ブイレーSで独占してしまおう」と言う作戦だった。

暮雅チャンの会社は、一人のカリスマ経営者の経営理念で成長し続ける企業だった。
このカリスマ経営者の経営理念は、蛇口をひねると生活必需家電が水のごとく溢れる事を理想とした。
それ故、世に溢れ出した裏ビデオも、溢れ出るのはライバルメーカーのエスターニー方式カセットではなく、暮雅チャンが売ろうとしていたブイレーS方式で録画された裏ビデオのカセットでなければ成らなかった。


裏ビデオテープが珍しかったので、マニアでなくても興味本位の需要もあり、一家に最低一本はある時代だった。
それで思い付いたのが、「裏ビデオテープのダビング業者のブイレーS方式への取り込み」である。

要は市場に出てくる裏ビデオが圧倒的にブイレーS方式で有れば購買層は「裏を見る事が出来る方を選択する」と踏んだのだ。
それで、裏のダビング業者にブイレーS方式のデッキを格安で販売する事にした。
これは、双方の利害が一致した。
この作戦で、市場に出回る裏ビデオテープは、ブイレーS方式の物ばかりになる狙いを満たす計画だった。


この作戦を考案し、強力に推進しようと動いたのが、当時の事業副本部長・大内常務だった。
当然、リスクを考える反対派も現れ、最終的には市川専務兼事業統括本部長まで行き、専務は強行に反対した。
伝え聞く役員室での事業副本部長・大内常務と市川専務兼事業統括本部長の論議は「白熱した」と言う。

「この計画は実行に移すべきだと私は思う。市場に出回った包丁で、魚を裁こうが殺人に使われ様が、使い方でメーカーが責任を問われる事は無い。」
「確かに使い方でメーカーが責任を問われる事は無いでしょう。しかし、企業の倫理感としては問題がある。」
「しかし、プライベートで映像を楽しむと言う事は、本質的にそうした期待の部分は否定出来ないでしょう。」
「大衆の本音はそうだろうな・・・」

「でしょう。エスターニー方式に持って行かれたら、こちらの負けは確定です。いずれにしろ社長はご存知ない事として、我々が大衆の期待に応えると言う事ですな。」
「エスターニー方式に持って行かれても困るから止む応得ぬか・・」
「宜しいですな、市川専務。」
企業の生き残りの問題だったから、企業論理が優先される役員会で押し切られ、密かに「GO」の決断が為された。
「大内常務にまかせましょう。」



数年後、長野・山梨両県で、数百台から数千台を保有する裏ダビングの業者数社を当局が摘発した際、ブイレーS方式ばかりが、三百台、五百台と、まとまって出て来た。
しかもメーカーは、一社だけが異様に目立った。
しかし、売っただけでは犯罪ではない。
つまり、ブイレーS方式のメーカーが、自社製品を、半値以下で大量に売ろうが、自由主義社会では勝手である。
買った相手の使い道まで、メーカーは知らない建前だった。

知っていれば、「猥褻図画等販売の共犯、または幇助」と言う罪に限りなく強い。
限りなく灰色ではあるが、メーカーは使い道まで問いただして売った訳ではない。
言わば暮雅チャンの会社は、ギリギリの「崖の淵」を歩いた事になる。
メーカー側は、「ロットが大きかったので価格を下げた。」と言い逃れが出来る。
それで、裏ビデオのリリース作品が多いブイレーS方式が市場競争に勝ち、エスターニー方式はジリ貧になってやがて市場から消えた。

このエスターニー方式とブイレーS方式のビデオデッキ戦争は、ネットワーク外部性のシェア戦略に大内が「裏ビデオのシェア」と言う禁じ手を使った事になる。

ネットワーク外部性とは経済学上の考え方で、共通性に拠る利便性の拡大戦略を指して言う。
簡単に言えば、「同じ財・サービスを消費する個人の数が多ければ多いほど、その財・サービスの消費から得られる効用が高まる効果」を指す。

例え、電話機やFAXが世の中に一台だけしかないとすると、その電話機やFAXは全く受け取る相手が居ないのでまったく機能しない。
利用者が少なければ電話機やFAXを利用する価値は乏しいと考えるだろうし、逆に多ければ通信できる相手が増えるので、電話機やFAXの利用者が更に増え、それだけ電話機やFAXの利用価値は高くなる。

電話機やFAXそのものの性能とは無関係に、利用者の数に依存して価値が変化する。
この様に、ネットワーク外部性は通信ネットワークに於いて顕著に見られる性質で、近頃の携帯電話の「何とか割り」と言うシェア戦略もこの「ネットワーク外部性(共通性に拠る利便性の拡大戦略)」である。

そしてお察しの通り、受信機・受像機の類の技術方式は、地上デジタル化の様に共通性に拠る利便性のネットワーク外部性から外れてしまえば、無用の長物と化するのである。



何の因果か、良子が出ていた裏ビデオは暮雅チャンの仕事に関わりのある闇の大手業者だった。
ルートが探れるから、暮雅チャンは娘の経歴と現状の居所を追った。
「あんな事はさせたくない。」
極まともな親心である。

「血が通ってない」とは言え、一度は娘として大事に育てた可愛さがある。
暮雅チャンが密造ルートを探っている間にも、良子のえげつない第二弾、第三弾がリリースされてくる。
親の心境とすれば目を覆いたい代物だが、因果な物で、仕事上は闇の有力な販促物だから、結果的に娘の出演している裏ビデオを、親がばら撒く事をしている。
しかし暮雅チャンの仕事には、組織の一員としての責任がある。

心の葛藤はあっても、多くの部下を指揮する立場であれば、それを放棄出来ない。
違法行為に加担する「身勝手な企業倫理」と言われればそれまでだが、家族を含め大勢の生活が掛かっている。
それに、他人の娘なら平気で、自分の娘は困るでは余りにも身勝手な思考ではないか。


暮雅チャンは密かに娘の救出を誓った。
映像に映った良子の痴態が、脳裏に浮かんで来る。
たとえ本人が、好きでやっていたとしても、親としては当然改めさせたい。
あんな生活では、やがて彼女の人生は完全に崩壊してしまう。

暮雅チャンの立場が、表側の責任者の一人だったから、裏との連絡ルートが、無い訳ではなかった。
それで三月に入ると、窓口をさせていた部下の山西に紹介させて、闇の側にアプローチした。
窓口の山西の上司で「特販部の責任者」と聞き、相手は丁寧だった。
彼らにとっては、言わば金弦(ずる)なのだ。


話は、人目に付かない様に、会社で使う小料理屋の離れ座敷でした。
山西には出張を命じて、単独で逢う算段をした。
闇の窓口の男は坂口と名乗った。
本名かどうかも判らないが、想像と違い、その筋の匂いは感じさせない。

仕事の話しをしながら、暫く杯を交わしてくつろいだ所で、目的を持ちかけてみた。
「ねぇ坂口さん、少し頼み事があるのだが、聞いてくれないかなぁ。」
「何でしょう。日頃お世話になっている他ならぬ貴方の御以来だから、小使い程度なら用立てますよ。」
「いゃ、金じゃあない。どうだろう、話の種に撮影現場を見たいのだが。」
「ハハ、お好きですネェ。安心しました。もっと硬い方かと思って居ました。」

「僕も男だから。」
「良いですよ。今度機会を作りましょう。ついでに、美味いものもご馳走しますよ。」
闇の窓口の男、坂口は、何の疑いも無く乗ってきた。
この場は「恩を売っておくのが得策」と判断したのだろう。

無理もないが、坂口には、こちらとの共犯意識が育っていた。
「すまんな、それで、もう一つ甘えさしてもらいたいのだが、最近出た、暴行ゲームに出ているあの娘の現場が良いのだが。」
「うわぁ、チャンと見ているのですね。判りました。あの娘は人気ですから、近々また一本、凄いやつを取らせますから。」
「そりゃ、楽しみだ。」


ギブ・アンド・テイクで、土産にダビング用デッキを二百台、通常より千円安で出荷する商談をまとめてやった。
そして社の販促費で、販促用のテープを三百本買う事にした。
上手くカラクリが出来ていて、裏ビデオのテープの取引決済は指定の広告会社「電広堂映像」を経由し、広告宣伝費の勘定科目が使える。

闇の窓口の男、坂口は、上機嫌で帰って行った。
この世界、旨みがあれば話が通じる。
所在が知れ無いから、とりあえず、「手段を選ばずに良子に近付かなければ、次の手が打てない」と暮雅チャンは考えていたのだ。


坂口からは、思ったより早く連絡があった。
「あぁ、私です。この間は色々とお世話になりました。先日のお申し付けの件ですが、ご希望が叶えられそうです。」
「あの娘に、会えそうですか。」
「来週の金曜日、伊豆の別荘で一本取るそうですから、お迎えに伺ってご一緒します。」

「判りました、予定をキャンセルしても、必ず行きます。」
「先方も、歓待するそうです。お楽しみにしていてください。」
流石にこの世界は義理堅い。
坂口は、早速裏ビデオ撮影見学の機会を作って来た。


(不自然な再会)
夢と現の狭間に有りて◆第七話(不自然な再会

◆◇◆◇◆(不自然な再会)◆◇◆◇◆◇

「茂夫さん、先ほど下の方で大きな河原のある橋を渡りましたね。」
暮雅チャンが言った。
言われて私の脳裏に、此処までの道程(みちのり)が浮かび上がった。

「そう言えば、橋がありました。」
「あの橋の一キロ半ばかり上流の河原で、娘の良子が焼き殺されました。」
「えっ、焼き殺された。」
茂夫は思わず声を上げた。

先ほど見た千曲川の、のどかな風景が私の脳裏を掠める。
「あの子は炎上する車の中で、黒焦げになっていました。」
「それじゃあ大事件じゃないですか。」
「まだ犯人が上がっていません。」
そう言えば私は、そんな事件があった事を思い出した。


場所などは忘れたが、確かに河原に止った乗用車軽四輪が炎上して、「中に若い女性が居た」と言う未解決事件があった。
「娘の焼死については、当時の長野県警が焼けた車から十数メートル離れて焼け死んでいた交際相手の青年の無理心中と結論付けられましたが、その青年の家族がその結論に不服を表明しています。」

「あなたはどうなのですか?」
「それは、青年の家族の訴えが正しいと直ぐに感じました。事件当時私を洗い出して訪ねて来た武藤と言う刑事も県警の結論には疑問を持っていて、本部解散後も休みの日を潰して独自で捜査を継続していました。」
武藤警部補に言わせると、その青年の親も言っているが「青年と良子が交際していた形跡が浮かんで来ない」と言う事が引っ掛かっている。

車は確かに青年のものだが、良子がその車の中で焼死する合理性が見えないのだ。
武藤警部補は、犯人別人説もしくは別グループ説を主張したが、県警の捜査本部で「採用されなかった」と言う。

相対自殺や無理心中では無いとすると、そこに第三者が居ての殺人事件の可能性が大である。
謎が多く、青年の家族の訴えも有り、当時ワイドショーで大きく取り上げていた。
確か、焼け死んだ女性の遺体の損傷が激しく、身元の確認に手間取り、「判明した」と発表があるまで一月近く掛かった様な気がした。

「青年の家族側の言い分が正しければ、あれは確かまだ真犯人が挙がっていませんね?」
「えぇ、警察の武藤警部補は闇の裏ビデオ映像組織と良子の交友関係の両方を洗っていた様ですが、相手は想像以上に強大な組織です。彼の片手間の捜査では尻尾は出しませんでした。」
「すると、殺された娘さんの事件の真相は知っていると・・・。」
「武藤さんには済まない事をしましたが、判っていました。」


事件の在った川原の土手は、雑草が背の高さまで生い茂っていた。
軽乗用車が焼失した現場は、ちょうど河川の土手に設けられた道路からは死角になっていて、火の手が上がるまで誰も異変には気付いていない。
昼間その土手の道路を、犬の散歩で通った初老の女性が若い女の声を聞いたが、「季節外れのキャンプ遊びでもしているのか」と、さして気にも留めなかったらしい。
証言を得られてのはその一件だけで、声を聞いただけでは目撃とも言えず、捜査は難航していた。

暮雅チャンには、それが「裏ビデオの撮影現場」と直ぐに察しがついた。
しかし武藤警部補にそれを言う事は、自分が良子やビデオの撮影の事実を承知している接点を認めなければならなくなる。
「武藤さん、川原で娘は何をしていたのでしょう?」
「言い難い話ですが、どうやらお嬢さんはあの場所で新聞報道通りのビデオ撮影をしていたと推測されます。」

「やはり、新聞報道は本当でしたか。それにしても昼間から川原で撮影とは・・・」
「物が刺激を要求されるものですからねぇ、人目は避けますが観る者にはインパクトがある撮影をします。」
「親としてはとても信じられませんが、現実は受け止めないと・・・。」
「親御さんの心情は判りますが、娘さんの為にも捜査の協力を願います。」

「そう仰(おっしゃ)られても、生活費を送って居ただけで永く接触が無かったのですから、娘に関する情報は武藤さんの方が遥かに詳しい筈です。」
「そうですか、それじゃあ何か気付きの点が有りましたら先ほどの名刺の電話で知らせて下さい。」
「承知しましたが、多分ご期待には添えないと思います。」
武藤警部補は、「お父さんとしても敵は討ちたいでしょう。真相は必ず解明しますから。」と言い残して帰って入った。


武藤警部補は、その後も折に触れて暮雅チャンに「連絡を取って来て居た」と言う。
「どうやら武藤警部補は私が何か知っているのではないかと疑っていたようです。」
「それで度々訪問を。」
「会社と裏ビデオ業界のつながりは滅多に結び付けられるものでは無い仕組みでしたが、摘発されて出て来るデッキは内の物ばかりでしたから、武藤刑事になんらかの接点を想像されても仕方が無かったのです。」

暮雅チャンの淡々とした話し振りに、私はかすかな「違和感」を感じていた。
「それにしても娘さん、残念でした。」

「それなのですが、或る意味、私が良子を殺したのかも知れません。」
暮雅チャンは、自分が良子の所在を探し、裏ビデオ関係の闇を追った事に、事件のきっかけを見ていた。
「茂夫さん、私は、あの日の事を、鮮明に覚えています。」
暮雅チャンは、私を見つめながら言った。



それは、衝撃の再会だった。
暮雅チャンの計画は功を奏し、裏ビデオの撮影現場に案内される事になった。
間違いなく良子の撮影現場だと、太鼓判をおされた。
三月も二十日を廻って、日に日に暖かさが感じられていた。

金曜日の朝十時、闇の窓口の男、坂口が待ち合わせに指名したのは、東京駅八重洲口近くの広告会社電広堂映像のビルの前だった。
ビルの一階に、喫茶店が設けられていたから、教えられた通り窓際に座り、迎えの車が来るのを待った。
どうやら坂口は電広堂映像に席があるらしい。
コーヒーを飲みながら五分ほど待つと路肩にベンツが停まり、後部座席の窓が開いて坂口が顔を出した。
暮雅チャンはいそいで支払いをすませ、外に出た。


「やぁ、お待たせしました。どうぞ、どうぞ」
暮雅チャンの姿を見つけると、坂口がドアを開けて、フレンドリーに声をかけて来た。
路肩駐車なので、悠長な挨拶はしていられない。
乗り込みながら、「今日は宜しくお願いします」と、挨拶を済ませた。

「今日はドライブ日選りです。目的地まで三時間ほど掛かりますが、お楽にどうぞ。」
坂口は、そう言いながら缶ビールを渡した。
「朝っぱらからですか?」

「目的が目的です。固いのは似合わないでしょう。」
坂口がニャリと笑った。
「それもそうですね。じゃあ、柔らかく行きましょう。」


晴天の中、首都高速道に乗り、皇居を半周して246号線経由で東名高速道に入り、一路西進して御殿場インターチェンジに向かった。
途中足柄サービスエリアで、つかの間の休息を取った。
ビール腹で、トイレが近い。

「今回の撮影は見所が多いそうで、あの娘も五本目になり、かなり撮影に馴れてきたので輪姦(まわし)をさせるそうです。」
「そりゃ、楽しみだ。近くで見られるかね?」
「ハハ、何ならあの娘を、撮影の後で部屋に行かせましょうか。」
「本当かね、そりゃ期待させてもらうよ。」


本音の所暮雅チャンは、こんな嫌なシュチエーションで娘の良子とは会いたく無いのだが、これしか娘に接触する方法が無い。
内心、「心に決する処」があるから、胸の内は複雑で、とても笑える話では無い。
しかし、状況が状況なので「期待に弾んでいる」様に見せないと、坂口に怪しまれる。
それに、うまく部屋に呼び寄せる事が出来れば、良子と直接話が出来る。
多少の事は我慢で有る。

話せば、「良子を救い出す糸口」が見付かるかも知れない。
「抱けるのなら、君にもまたお土産をもたせなきゃあならんなぁ。」
「そりゃあ、ありがたい。精々儲けさしてもらいます。」


御殿場のインターチェンジから国道138号線で箱根に入った。
もう桜の花が、そこかしこと咲いていた。
一見「七分咲き」と言う所か?

あらかじめ計画していたのか、箱根の仙石原で、ベンツがあるホテルの駐車場へ滑り込み、坂口にレストランに案内された。
運転手の男と坂口、そして暮雅チャンの三人で、昼食にはもったいない高級ステーキの食事をした。
箱根から芦ノ湖スカイライン、十国峠を越えて伊豆スカイラインに入った。

伊豆スカイラインの終点に突き当たり、東に進んで大室山の脇を抜けて八幡野に下った。
伊豆の東海岸の桜は、もう満開だった。
「そう言えば、もう直ぐ連休か。」
暮雅チャンはふと、妙に場違いな事を考えていた。
顔には出せないが、動揺していたのだ。


この辺り一帯は、「伊豆高原別荘地」と言われる大型別荘地区で、金融機関、一流企業、公共団体などの別荘が、競い合う様に、誇らしげに看板を掲げて、広く散在していた。
似た様な細道が張り巡らされ、各々の敷地が広く、うっそうと茂った植栽の奥に、瀟洒(しょうしゃ)な建物が並び建っている。

その中の別荘の一つに、ベンツは吸い込まれる様に入ったが、持ち主の判る看板は付いていなかった。
「この別荘は天然温泉付です。」
坂口が自慢層そうに言った。
「ほぉ、たいした物です。」


撮影隊の車両だろう、駐車場にはマイクロバスやライトバンが、エンジンキーを外す事も無く乱暴に並んでいた。
降りて坂口がチャイムブザーを鳴らすと、覗き穴から確かめる気配がした後、ガチャとドアが開いて若い男が現れた。
「ご苦労様です。」
若い男は、慇懃(いんぎん)な態度で頭を下げた。
何やら坂口と二言三言、言葉を交わした後、通された現場は、本格的に機材がセットされていた。

食事を挟んだ「午後の撮影が始まる前の良い所に到着した」と、坂口が言った。
まだ、良子の姿は見えないが、セットの中心、ライトの明かりに浮き上がって相手役の男が四人、パンツ一枚の半裸でスタンバイしていた。
驚いたのはスタッフの多さで、明かりから外れて十数人、薄明かりの中を忙しく立ち働いている。
ライトの外に居る分には、良子側からは影になる。
恐らく、私がいる事に気が付かないだろう。


やがてスタッフに導かれて、白いガウン姿の若い女性が、笑いながら入って来た。
照明のテスト代わりなのか、ライトが女を追い、顔を照らした。
その顔を見て、暮雅チャンは「矢張り良子だ」と確信を持った。
顔が、若い頃の靖子そっくりだった。
隣室でメイクアップでもしていたのだろう、髪型も化粧も決まっていた。

監督らしき男が近寄って、簡単な指示を与えると撮影が始まり、良子はガウンを脱いだ。
けばけばしい赤いパンティ一枚の裸身がライトの明かりに浮き上がった。
円錐形に盛り上がった両の乳房が、良子が大人になった事を、暮雅チャンに見せ付けた。
一緒に風呂に入った、幼い頃の良子ではなかった。


午後の最初のシーンは、良子が四人の男性器を口で愛撫するシーンで、裏ビデオだから男優は容赦がない。
三台のカメラが要領よく角度を変え、良子の口元のアップが、暮雅チャンの為に別に用意したモニター画面に大きく映っている。
男優は、休む間もなく次々と咥えさせて、縦横無尽に良子の口中を陵辱して発射した。
それが十五分ほど続き、良子の口から、白い液体が垂れ下がるシーンで、OKがでた。
口を拭って五分ほど休むと、良子はベッドに大の字に縛り付けられ、取り囲んだ男達に大人の玩具で弄ばれるシーンに臨んだ。

最初履いていたパンティは途中から鋏で切り離され、秘所が剥き出しになって隠すものがない。
それぞれの男達の手にした玩具が、良子の股間を陵辱している。
カメラワーク宜しく、良子の股間を出入りする玩具の場面が、アップでモニターに映って居る。
芝居では無い良子の悲鳴に近い善がり声が、途絶える事無く響き渡った。
良子が絶叫とともに果てると、三十分ほどの休憩に入った。


「どうです、迫力でしょう。今度の拡販にこの映像を使えば好評ですよ。」
坂口が声をかけて来た。
「そうですね。ところで、あの娘は納得尽くなのですか?親御さんも居るでしょうに?」
「多少経緯があって、本人も母親も承知の上です。」

「へぇ〜、それは何ですか?」
「彼女達の都合ですが、それを言わない方が良いでしょう。」
坂口は口ごもった。
いずれにしても、「何かに縛られている」と言う事だろう。


カット割りの次のシーンの前は、必ず監督が指示を与えてから撮影に入る。
見る前は、「たかが裏ビデオ」と思っていたが、結構本格的だった。
次のシーンは、クライマックスの輪姦(まわし)のシーンで、男優四人が一度に絡らみ、良子は口も股間も陵辱されながら、苛酷な三十分ほどを奮闘して、悶絶して果てた。
いや、奮闘と言うより「犯られ続けた。」と言ってよかった。

次々に良子を襲う男優を見ている暮雅チャンは、靖子が故郷の番小屋で村の若者達の相手をしているシーンが「想像されて、ならなかった。」と言う。
因果なのか、良子は母と同じ生き方をする運命だったのか?


ビデオを取り終えると、良子は引っ込み、「三時間ほど休息させる」と坂口は言った。
その間に、備え付けの温泉を進められ、暮雅チャンはそれに応じた。
何しろ三時間も間がある。
スタッフも男優も、思い思いに温泉に浸かり、一仕事為し得た開放感に浸っていた。

夕方からは、少し時間の早い「打ち上げの酒宴がある」と言われ、案内された。
並んだ料理は、「近くのホテルから取り寄せた」と言う豪華な宴会料理だった。
「日本酒にするか」と聞かれたが、ビールを選択した。
形だけは飲まなければならないが、酔いたくは無かったのだ。


宴が始まって一時間ほどすると、酒宴に良子が参加した。
何故か、ガウン姿のままだった。
賓客と紹介された暮雅チャンを見て、良子は一瞬凍りついたが、直ぐに素知らぬ顔で「始めまして」と挨拶をし、ビールを注いた。
明らかに良子は、暮雅チャンを父と認識していた。
そして坂口から、「後でお客様の部屋に伺うように」と指示されて、黙って頷いたのだ。

その後は坂口に酌をし、暮雅チャンに一言だけ「後でお部屋に伺います。」と告げて、若いスタッフの方に退いた。
若いスタッフの輪に入ると、酒を掛けたジャンケンを始め、飲めない良子は、負ける都度にガウン、ブラジャー、パンティと脱がされて、恥じらいも見せず大騒ぎをしていた。


馬鹿騒ぎの酒宴が終わり、また誘われて一風呂温泉を浴び、部屋で横になってあれこれ考えていると、良子が来た。
漸く「良子と話す事が出来る」と思って起き上がりかけたが、良子は行き成りガウンを脱ぎ捨て、暮雅チャンに抱き付いて濃厚なキッスで口を塞いだ。
ガウンの下は素肌だった。
「駄目、この部屋はカメラもマイクも回っている。何も知らないふりをして。」
良子は耳元で囁いた。

坂口は保険をかけていたのだ。
後で取引交渉に利用する気かも知れない。
それを聞いては、もう、うっかりした事は出来ない。
それからの暮雅チャンは、良子のするに身を任せながら小声で囁きあって意志を通じ合った。


暮雅チャンのガウンと下着は、良子が剥ぎ取った。
一通り男と女の行為をしないと、モニターを見ている坂口達に怪しまれ二人とも危険になる。
幸い良子は、母から暮雅チャンとの離別の訳を靖子から聞いて、知っていた。

唯一の救いは、血が繋がってはいない事だった。
もっとも、この血の繋がりがないばっかりに、この異常事態がある。
暮雅チャンの男性器が良子の口に含まれ、固さを増していた。
そして柔らかく若い裸身が、暮雅チャンに覆いかぶさって来た。


暮雅チャンと良子は、行為をしながら合間に意思を囁き合った。
心情的には複雑だが、反面、暮雅チャンは不覚にも興奮していた。
恥ずかしい事に、男の感性が勝手に働いて、男性器は固くなっていた。
それで、良子と身体を繋げる事が出来、モニターで看視する者に怪しまれずに済んだ。

いずれにしても、二十人ほどが居るこの別荘から、良子を連れ出すのは困難を極める。
良子もそれを承知していて、暮雅チャンを助けたい一身でこの行動に出た。
つまり坂口の言い付けをこなして、何事も無く暮雅チャンを無事に帰すしかない。
良子はそう選択したのだ。
親子と判れば厄介事になるほど、危険な相手なのだ。


カメラで看視されていては、まともに行為に及ばなければ怪しまれる。
無法の世界だから、翌日暮雅チャンの死体が、伊豆の海に浮いていても不思議は無い。
良子は十分にそれを認識していた。
それで暮雅チャンは、良子と性交しながら囁き合って、靖子の近況やら、良子との連絡方法を聞いた。
良子は、暮雅チャンの連絡先だけを聞いて、それ以外は「後で連絡する。」と繰り返した。

ただ、長い事育ての親の暮雅チャンを思い続けていたから、「抱かれてうれしい。」と幾度も言った。
そして、まるで感触を身体に刻みつけ様としているがごとく激しく腰を使った。
どうやら靖子たち親子は、抜け出せない強靭な組織に取り込まれている様だった。
結局暮雅チャンは、成す術も無く、翌朝、伊豆高原の別荘を離れた。


それから二ヵ月後に、一ヵ月前に長野の河川敷で焼死体となって発見された女性が、良子と断定された。
衣服は身に着けていず、身元を特定するのに時間が掛かったのだ。
身元不明の焼死体が良子と聞いて、暮雅チャンは戦慄した。
「近付いちゃ駄目、裏に凄い政治家まで付いている。」
自分の行動が、「良子の死を招いた」と直感したのだ。

良子の死に、坂口達闇の組織が絡んでいる事は容易に想像出来る。
暮雅チャンは、その組織と会社の仕事絡みに、いささか後ろめたい仕事をしている責任者の一人だった。
そして何よりも、恐らく暮雅チャンと良子の行為の全ても録画されているはずで、とても告発には踏み切れない。
じくじたる思いだった。

戸籍上の親子だったので、長野県警が東京に出張して来て、事情聴取も受けたが、事前調査でも、両親が離婚してから十年近く暮雅チャンと良子の接点が無い。
暮雅チャンが一流企業の中堅幹部という事で、捜査官も丁寧な対応だったが、「まるで接触がない」で、押し通した。
聞いて見たが、母親の靖子の行方は掴んでいない様だった。
長野県警も、裏ビデオ七本に主演した人気の女性と言う事から、色めき立って背後関係を洗ったが、元々が闇の世界の事で、結果に結びつける事は出来なかった。


「声を大にして告発する事が出来ないでは、無念でしょうね。」
「いやぁ、無念なんてものじゃあ無かったのです。それに、靖子の事も心配でした。」
「それで、お一人で調べる気になった。」
「そんな所です。」

長野県警の武藤と言う警部補が、独自の捜査を開始して暮雅チャンの動性をマークしていたが、彼には遠方の長野在住と言うハンデがある。
味方として充てには出来ないし、まだ先方には元妻の靖子がいる。
悔しいが警察は充てに出来そうもないし、良子の敵は自分の手で何とかしたい。

「ここは、自分で戦うしかない」と心に決めた暮雅チャンは、個人的な調査を開始した。
危険を伴っていたが、いざと言う時の覚悟は出来ていた。
しかしその結果、暮雅チャンには予想外の闇組織の背後関係が浮き上がって来た。


(背後関係)
夢と現の狭間に有りて◆第八話(背後関係

◆◇◆◇◆(背後関係)◆◇◆◇◆◇

暮雅チャンは、どうしても良子の事が知りたい。
何でこんな事になったのか?
幸い暮雅チャンと良子の戸籍上の繋がりは警察が把握していたので、「この上連続して、暮雅チャンに手は出せない筈」と考えていた。
それで休みの度に、時間のある退社後に、少ない情報を手繰り寄せて調べ歩いた。


暮雅チャンは、良子が生きた短い人生を辿ってみないと、到底納得は出来ない。
それを追求するのが親の心だった。
益してや、暮雅チャンの取った行動が、良子の命を「縮めた」とすれば、悔やみ切れない。
素人が、「安易に動いた結果」なのかもしれなかった。
それで、靖子と良子が、故郷の再婚相手内海健太の下を去った理由から探り始めた。


当時三十三歳だった靖子に、何があったのか、彼女の故郷の村に行って見る事にした。
暮雅チャンは、およそ三十年ぶりに、靖子の故郷に降り立った。
漁協前の停留所は健在で、火の見櫓と番小屋は建て直され、新しくなっていた。
相変わらず潮騒の音と潮の香りが、村を包んでいる。
民家の殆どが建て直され、集落全体の印象が明るくなっていた。


内海健太を尋ねると、彼は遠来の暮雅チャンを、快く家に招き入れた。
「そうかぁ、出て行ってもう九年になるのか、俺はとことん靖チンに縁が無かったなぁ。」
内海は、旧知の相手として、暮雅チャンを迎え、呑気に切り出した。
「良子が死んだ事は知っていますか?」
「えっ、死んだ。」

「焼き殺されたのです。」
「ばかな、何故そんな事に・・・・」
「その何故を調べる為に、こちらに伺ったのです。」
こんな事もあるだろうと、暮雅チャンは新聞の切り抜きを持ってきていた。
内海健太が、ニユースの時間は「チャンネルを娯楽番組に切り替えるタイプ」と見ていたからだ。


暮雅チャンは、単刀直入に聞いた。
「こちらに戻った靖子に、いったい何があったのですか。」
「靖チンは、ある男に騙されたのです。あれ(靖子)は、おかしな宗教に夢中になって居ました。」
「その宗教が家出の原因ですか?」
「えぇ、ばかな事を言い出したので、止めたのですが、それを振り切り、俺が出漁している間に良子を連れて出て行きました。」

「どんな宗教ですか?」
「隣町の神主の不良息子で、鷲頭という男が居ました。あいつは、靖チンを自分が興した宗教でその気にさせ、東京の方へ連れて行きました。」
内海健太の話から、暮雅チャンが調べて突き当たったのが、某新興宗教教団だった。
元の妻靖子が、隣町の神主の不良息子の始めた宗教に傾倒して入信し、幼かった娘の良子も、巻き込まれていた。


この十年で、その新興宗教教団は目覚しく規模を拡大していた。
教義の元になっているのは、古くからある神仏習合の教えだった。
天之御中主神(あめのみなかぬしのかみ)を奉じるその教団は、今では本山を秩父山中に構え、全国に十幾つかある講和会場と呼ぶ施設に信者を集め、講和を行っている。

表向きの講和の内容は、「天空の支配する自然則を素直に汲み取れ」と言う教えで、北斗妙見信仰の独自解釈の教義だった。
つまり、水は高い方へは流れない。
私欲を持って自然に逆らい、男女の立場を逆さにするのは最もおろかな事で、何事も旦那様を立てれば自然に幸せの流れが出来る。
家庭環境が良ければ、子供は素直に学ぶようになり、優秀な子供が育つ。


性の事に関しても、努力して旦那様を喜ばせる事は、けして恥ずかしい事ではない。
旦那を大事にすれば夫婦円満、夫婦仲が良ければ、良い子が育つ、憂いが無ければ、幸せになれる。
性を冒涜する事は自然を冒涜する事で、全ての動植物はその種の保存作業を懸命にする事で、未来を作って来た。
つまりそうした繁殖行為は、未知のエネルギーが発生する。
そのエネルギーが、「好結果をもたらす。」と言う現世利益の教義だった。


教祖の名を鷲頭創元と言う。
教祖の鷲頭創元の代わりに講和をするのは先生と呼ばれる「教祖に認められた」最古参クラスの信者で、教祖のメガネに適った者が当っている。
少し上席の信者になると、世話人と呼ばれ会場の維持や運営などに奉仕する役目が割り当てられる。
世話人の上に講和会場ごとに副会長が二人、会長が一人いる。

つまり、埼玉会場会長、神奈川会場副会長、千葉会場世話人と言った具合だ。
基本的に講和会の会費と言う形で月幾らの定額を徴収して運営資金にしていた。
先生は一人で二、三の講和会場を受け持って、教祖の次の序列にあたる。
別に本部事務局があるが、局員は僅か五人ほどで、大概の仕事は講和会場にやらせ、とりまとめだけの仕事だった。


そしてこの教団には、先生や世話人と呼ばれる幹部とエリート信者だけが参加する密教の呪詛儀式が存在した。
呪詛巫女と呼ばれる女性を輪姦し、世間で「イク」と表現する無我の境地に誘い込み、その発生する性交エネルギーを持って、妙見神の使いである犬神(狼=オオカミ)に祈願をする呪法を施す儀式である。
靖子はその呪詛巫女を務めていた。

靖子が世話人と呼ばれるリーダーみたいなものに昇格した時、高校生だった良子は、美少女だったので、会場の受付に抜擢されていた。

受付は教団の若手エリートが勤めるもので、名誉な事とされている。
同時に、この受付嬢は、見習いの呪詛巫女に指名される事が多い。
受付嬢はエリート信者だから、教祖の指示は絶対で、教義が教義だから巫女になる事には抵抗はない。
世間では馬鹿ばかしい事でも、妄信している者には、むしろ喜ばしい事なのだ。
先生と世話人は、密かに呪詛巫女をリクルートする使命を帯びているのだ。


この宗教組織に、裏で咬(かん)んでいたのが闇の裏ビデオ組織だった。
彼らのメンバーは、世話人の中に潜んでいた。
教団に巣食っていた彼らの表の顔は、某中堅広告宣伝会社、電広堂映像の経営陣だった。
つまり、映像技術は本物だった。

本業の広告の方でも、全部ではないが暮雅チャンの会社の、宣伝の仕事を三分の一は請け負っていた。
これも、闇の方の付き合いがある為で、もくろみ通り、安定した取引になっていた。
電広堂映像の経営陣と、社員が、ある目的を持って、世話人のネットワークを築いていたのだ。


電広堂映像は、教団の大口寄付先でもあり、内部にしっかりと根を張っていた。
この世話人連中が、彼らの隠語で、裏の撮影活動を「芸能部」と呼び、「タレント」をリクルートするのに教団組織を利用していた。
大概の所、何処の宗教でも楽器や合唱の演出で、信者を軽いトリップ状態に引き込み、信仰心を煽るのは「共通したテクニック」と言える。
そう言う役わりを担わせる一団が「教団芸能部」であり、闇のタレントの卵だった。


都合の良い事に、何しろ信仰が深い信者達は、性行為に抵抗が無い。
信仰の為の呪詛には、必然性として巫女が必要だったから、愛情と結び付かない性行為に違和感が薄れていた。
良子は、教団内部に張り巡らされた闇の組織に、取り込まれてしまったのだ。

この教団と広告宣伝会社、そして闇の組織は、暮雅チャンの調査で或る一点に結び付いていた。
結び付いたのは、靖子の故郷の村がある地方だった。
何と、教祖である鷲頭創元の出身地が、靖子の故郷の隣町だった。
卒業年次は二年ほど違うが、中学は同じ学校だった。


年齢は暮雅チャンより二歳下になる。
つまり、鷲頭創元の生まれたのは、昭和十二年の戦時中だった。
本当の名を「直吉」と言う。
父親は妻の妊娠を知りながら出征して、南方戦線で戦死したので、鷲頭創元(直吉)には、生まれた時から父親は居なかった。

この出生の経緯が、後の直吉の考え方に影響を与えたのは事実である。
乳飲み子を抱えて困った母親は、仕方がなしに後妻の口に再婚したのだが、その相手が十五歳も年上の「鷲頭」と名乗る町の神社の神主(宮司)だった。
したがって教祖は、元々鷲頭姓ではない。
元の姓は「多々良」と言った。


教祖には鷲頭の家に義理の兄が二人出来た。
その義理の次兄が古い信仰を研究していて、その研究の発表相手が、義弟の鷲頭直吉だった。
鷲頭直吉は、妙見信仰の密教部分を「解説されて育った」と言って良い。
それで鷲頭直吉は、十五歳になるか成らないかの内に、自分の教義を確立して行った。

教団設立と同時に、鷲頭直吉は鷲頭創元を名乗る様になる。
高校時代は、高校に通いながら既に信者を集め始めていた。
それが、多々良氏に所縁のある古代妙見信仰と、土着の村落の論理を習合させたもので、その教義は、本来酷くエロチックな密教の経典から取った教えだった。
しかし一般信者には、その部分は教義の中に柔らかく包み隠して、本来の教義は一分幹部信者の秘伝の呪詛儀式となっていた。
その教えが、土着信仰としてストレートに通じたのが、靖子の村一帯の地方だったのだ。


教団は靖子の村の隣町で起こり、靖子は共感して入信し、教団の本部移転に伴って上京したのだ。
当時靖子は傷付いていた。
村の因習と暮雅チャンの心とのせめぎ合いに疲れていた。
本心、暮雅チャンを愛していたからだ。

内海健太と再婚したが、暮雅チャンへ思いは癒えなかった。
そんな時、靖子の為した事を容認する宗教が現れた。
靖子は、救われたのだ。


教団が信仰する天之御中主神(あめのみなかぬしのかみ)は別名を妙見さんと呼ばれている。
北辰北斗星信仰が所謂妙見さんだけれど、その使いの神が居る。
「使い」と言っても甘く軽い神ではない。
妙見菩薩は宇宙を支配する最高神だ。その使い神だから霊力が格段に強い。
それで、「狼(オオカミ)がその使い神だ」と言われている。

明治維新前は全国的に妙見宮と言う神社があったが、それが、夜との関わりが強い。
つまり種の保存本能を祈りの基本にした信仰だ。
その使いが、狼と梟(フクロウ)で、狼の方には夜夫座神社と言う意味深な名前が付いている。


狼神社として知られていた兵庫の養父神社筆頭に「夜夫座神社」がその名もズバリ妙見山という山の麓にある。
所謂山犬(狼)神社である。
この神社の狼は「北斗(妙見)の使い」と言う事になっている。
これが北辰信仰の中にあるヤマイヌ信仰である。

梟(フクロウ)の方は秩父神社で、創建は古く、知々夫国造・知々夫彦命が先祖の八意思兼命をまつったのがはじまりで、関東でも屈指の古社である。
秩父妙見宮、妙見社などと呼ばれてきたが、明治維新後の神仏分離期に名称が秩父神社と定められ、それとともに祭神名も妙見大菩薩から天之御中主神(あめのみなかみぬしかみ)に改称された。
秩父神社の使いは「北辰の梟(ふくろう)」である。
フクロウが一晩中目を見開く姿を形取り、夜を制する「神の使い」である。


私は、夜が更けるのも忘れて、暮雅チャンの話しに耳を傾けていた。
もっとも、話しの内容もさる事ながら、昼間の一眠りは今になって効いている。
しかしまだ、暮雅チャンが私を此処に呼んだ本当の狙いは、別にあるような気がする。
別に確信がある訳ではない、「単なる感」と言う奴だ。


関東の狼神社を代表とするは、秩父三大神社のひとつ「三峯神社」である。
狼神社において狼が「神の使い」であると言う思想はどこから来たか、どうも密教・修験道にその源が有る。
かつて、医学の発達していない時代、庶民の間では寺や神社(小祠)と同じくらい修験道士(山伏)は重要だった。

昔、病は祟(たた)りと考えられ、信仰深く素朴な庶民は恐れていた。
つまり、山深い里にまで修験の山伏は庶民の頼り甲斐ある拠り所だった。
その修験道の山伏達は、渡来した様々な宗教を駆使して庶民の平穏を願い、信頼を勝ち得た。


そこで、密教・修験道の「山伏」は、その山岳信仰から山岳の主「日本狼」と重ね合わせて「神の使い」と敬われて行った。
従って、その根底に流れている密教の北辰・北斗信仰の使いが狼信仰で、{狼=オオカミ=大神}と言う訓読みの意味合いもある。
夢を壊して悪いが、各地の山里に語り継がれる「人身御供伝説」の仕掛け人はこの修験道の「山伏」と考えられる。
なぜ、修験道の山伏が村人をだまし、素朴な村娘を「人身御供」にさせたのか、その目的は誰でも思い当たるであろう。
その目的が「密教の呪詛を為すため」なのか、個人的な欲望を癒す為なのかは、今になっては不明である。
いずれにしても密教の部分で、性的呪詛の教えが色濃く影を落とす宗教だった。


鷲頭創元は、多々良氏の系図を引っ提げて、この秩父神社近くに新たな神社、多々良神宮を創設した。
そして教団の発展と伴に、靖子の信仰上の地位は上がり、表向きは世話人の一人だが、幹部として「裏の呪詛を行う巫女」に成って居た。
つまり、教祖やその取り巻きの大幹部達の呪詛祈願の巫女の一人として、「三十代前半の肉体を教団に提供していた」と憶測出来る。


靖子の精神(価値観)の原点は、互助組織としての村の番小屋(寝屋)にある。
あの時代背景での靖子の行為は、村人の正義だった。
その精神(価値観)は、教団の教義に拠る呪詛行為に共通する。
しかし、靖子の呪詛巫女としての地位は、加齢と伴に衰えてくる。

四十代に入ると、実質的に教祖からのお呼びが掛からなくなるからだ。
そうこうしている間に、娘の良子が年頃になって来た。
それに目を付けたのが、教団に巣食っていた広告会社の裏組織だった。


三年ほど前、「教団の広報ビデオの作成」と言う単純な仕事の経緯だった物が、「大口取引」と言う事で、電広堂映像の青柳社長が挨拶に行き、互いのトップが意気投合してしまった。
電広堂映像の青柳社長の出身地が、教祖と同じだったのだ。
当初は、教団の潤沢な資金を使って行う広報ビデオの作成、宣伝ポスター、パンフレット、などを一括受注した事もあって、互いに得る処があった。
青柳は、上場企業のトップだから、教団でも特別扱いで、そのうち教団の資金的相談も受ける様になった。

当初は電広堂映像の社長「青柳」と制作部の部長「坂口」が、たまたま教祖のお声掛かりで、祈願呪詛に参加した。
そして、呪詛巫女の色香に引きずられて信者に成ったのが、事の発端だった。
しかし、経営トップと言っても青柳はサラリーマン社長で、自由になる金は少ない。
小使い稼ぎに編み出したのが、闇の裏ビデオの仕事だった。
今の撮影スタッフも、全て社内信者で固めていた。


暮雅チャンは知らなかったが、実は最初の一本が、靖子を主演で取られている。
教団の呪詛巫女として、宗教儀式としての祈願性行為を為していた靖子が、教祖である鷲頭創元の指示に従った撮影だった。
当時靖子は三十八歳で、所謂「熟女物」として大ヒットした。
それで、教団は大いに潤った。
教団所属の女性は、その出演料の大半は教団に吸い上げられたが、教団での発言権は増した。

元々の教団の教えの中で、性本能行為と精神的愛情は分けて考える教えがあり、愛の無い性を肯定していたから信者を裏の仕事に従事させるのは容易だった。
妙見信仰は、性交による陀羅尼神呪経(妙見神呪経)によりご利益を願うエロチックな教えの仏教で、「北辰祭(妙見祭)」は乱交を伴う呪経行事だった。
地方の夜祭には、この北辰祭(妙見祭)の伝承が未だに残って居る。


本来、男女の交合は尊い物だった。
男女の陰陽を現世の基本として、人々の生活の向上、平和と幸福を願う呪詛(法力)の為のエネルギーの源が男女交合であり、密教の理念としていた。
絶頂(イク瞬間)感が密教で言う「無我の境地」で、法力のパワーの「源」と考えられている。
良子も小さな頃から母の靖子に教団の考え方を教え込まれて育った。
靖子にしてみたら、良子を孕み、産んだ経緯説明は、この教義以外、良子に説明が付かなかったのだ。


そんな訳で、教祖の鷲頭創元から呪詛巫女に成るよう指名されれば、信者としては大変名誉な事だった。
良子は高校卒業と同時に、会場の受付をしながら、見習いの巫女として、世話人に専念する母の靖子からバトンを受け取った。
良子は靖子から、靖子が暮雅チャンと分かれた訳と自分の出生の秘密を聞いていた。

靖子は、良子が高校に入る頃に、自分が愛した暮雅チャンに、間違った恨みを持たない様に、全てを話していたのだ。
結果、愛以外の性行為の存在も、理解できる女性に良子は育っていた。
そんな事も有り、良子には性への嫌悪感は余り無く、素直に運命に従ったのだ。


宗教儀式であったから、呪詛巫女としての性行為は、信者内では開け広げで有る。
いゃ、むしろ「開け広げ」と言うよりも、公開を前提とした「業」なのである。
つまり良子は、呪詛巫女として、性行為を見られる事に、抵抗が無い感性の娘に仕込まれていた。

二年も鷲頭創元に性行為を教え込まれ、女の喜びを身体が知ってしまうと、良子は教祖からビデオ出演の指示を受ければ、疑いも無く、無条件で受け入れた。
それでも、良子は高校を卒業していたから、一方で裏ビデオが非合法であり、自分のしている事が、教団の中だけで通用する論理で有る事は、十分に理解していた。


そんな仕事をしていた現場で、親の離婚で別れた懐かしい「育ての父親」に出会った。
暮雅チャンの顔つきを見て、「これは偶然ではない」と利巧な良子は確信した。
暮雅チャンが自分の顔を見て、驚きを示さなかったからだ。
母に瓜二つの自分を見かけて、平然と知らぬ顔を決め込む理由は一つ、父は危険を犯して良子に会いに来たのだ。

良子にとっても、父と呼べるのは暮雅チャンを於いて他に無い。
良子は最良の選択をして、暮雅チャンを救ったのだ。
そして、何らかの理由で殺害されてしまった。
それも、「焼き殺す」と言う、父親としてはやりきれない酷い方法だった。
その謎を解き、「仇を討とう」と、暮雅チャンは調べ歩いたのだ。




(一人ぼっちの暗闘)
夢と現の狭間に有りて◆第九話(一人ぼっちの暗闘

◆◇◆◇◆(一人ぼっちの暗闘)◆◇◆◇◆◇

この年二月、昭和天皇が崩御され、年号が平成に変わっていた。
暮雅チャンは五十四歳になった。
実は前年の後半が、携わっていたビデオ業界としてのピークだった。

昭和天皇の容態が悪化したのに伴い、テレビ局の番組が自粛した為、映像の娯楽に飢えた民衆が、ビデオ映像に群がったので有る。
デッキが飛ぶ様に売れ、レンタルビデオショップは店頭の在庫が底を付いた。
暮雅チャンも仕事はしていたが、これと言って何もしなくても、ビデオデッキは売れた。
もう、エスターニー方式との勝負は、粗方(あらかた)決着が付いていたのだ。


株式市場が高騰を続け、土地価格も高騰していた。
「バブル景気」と呼ばれる凄まじいマネーゲームが世の中に進行していたが、暮雅チャンには無縁な事だった。
暮雅チャンは、良子の仇討ちに凝り固まっていたのだ。
何しろ、良子を焼き殺した凶悪な連中である。相手は強力な組織を持っている。
何処に仇の目があるか判らないから、誰にも告げず一人で調べた。


暮雅チャンが調べて驚いたが、教団は意外に手広く根を張っていた。
電広堂映像の社長青柳やその部下、そして闇部門の責任者坂口、そして暮雅チャンに坂口を紹介した会社の部下山西も、良く調べると信者だった。
それ処か暮雅チャンの上司、事業本部長を務める大内常務も、実は信者だった。
これは特に、暮雅チャンには強烈な衝撃だった。

今度の、かなり強引なビデオデッキのシェア争いの手法は、相応な環境が整った上での事だったのだ。
各々が何処まで関与しているかは知らないが、全てが教団を通じて深く繋がっていた。
そして、裏や表の仕事が絡み合って、仕事が進み、金が流れていた。


あの伊豆高原の温泉付別荘は、電広堂映像所有の会社名義だった。
そして別荘とは名ばかりの偽装だった。
つまり、誰にも妨害されずに裏ビデオが撮影出来る、秘密スタジオだったので有る。

AV(アダルトビデオ)や裏ビデオに、ユーザー(客)はストレス解消の刺激を求めていた居ただけで芸術なんてこれっポッチも考えては居ない。

脳が欲しがる人間の感性なんてそんなものだから、ユーザー(客)の要求に応えて、映像の内容が当初の想像を超えてドンドンと卑猥(ひわい)にエスカレートして行く。

今思えば、表作品のAV(アダルトビデオ)撮影が擬似性交から生本番嵌め撮り中出しに変わり、その表作品を悪用したビデオテープが大量に裏ビデオとして市中に出廻ったのがこの頃だった。

電広堂映像の別荘付近の住宅図を調べてみると、何の事は無い、近くに教団の広大な宿泊研修道場がある。
研修道場も、呪詛巫女研修や祈願呪詛の舞台になっていると憶測出来る。

これも、計画的に立地が為されているに違いない。
全ては一体化した組織の一端が、かい間見える。

教団を通して、互いを信頼する鉄の団結が形成されて、それが闇の仕事を容易にしているのだ。
暮雅チャンは、張り巡らされた教壇の網の中に、知らぬうちに手繰り寄せられていた。
そう、オオカミ(大神)の群れの中に取り込まれていたのだ。


全容が見えてくると、暮雅チャンはある事に思い当たり、戦慄し、そして猛烈に怒った。

信じていた大内常務は、暮雅チャン達が結婚した直後の昭和三十九年当時から夫婦で交流があったから、「靖子が暮雅チャンの元妻だ」と言う事を知っている。

知っていて、呪詛巫女としての靖子の痴態を見ていたり、呪詛儀式で大内本人が、靖子を抱いていたりした疑いが濃い。
靖子の方は相手が暮雅チャンの上司で顔見知りの大内で有っても、呪詛巫女の務めでそれを拒む事は出来ない。

大内にしてみれば、部下の元妻を抱くのは面白い事に違いない。
暮雅チャンの顔を浮かべながら、靖子を陵辱する大内常務の光景が浮かんだ。

大内は、靖子を抱いた翌日、何も知らない暮雅チャンに、何食わぬ顔をして、内心笑いながら仕事の指示をしていた事になる。
はらわたが煮えくり返った。


そして、教祖の鷲頭創元、電広堂映像の青柳、坂口に、次々と輪姦される靖子の痴態が浮かんでいた。
何しろ男女の和合のエネルギーが、「呪詛の効果を呼ぶ」と言うのが教義で有る。
疑う余地は無い。

そしてその毒牙が、娘の良子にも及んでいた恐れは多分にある。
いゃ、良子に会った時の様子から、それも確信がもてる。

靖子と良子の親子は、宗教教義の名の下に陵辱され続けた事だろう。
何と言う事だ。
良子の撮影時の輪姦風景が、大内達のそれとダブっていた。


それでは、良子を死に追いやる直接の決断と手を下したのは何者達か?
教祖の鷲頭創元、電広堂映像の社長青柳、闇の窓口で有る坂口、容疑者になりうる人物は多い。

しかし、今回の経緯を推察すると、暮雅チャンが良子に接触した事に、最初に気付く可能性があるのは、大内常務を於いて他にない。

元々暮雅チャンと靖子、良子の母子との関係は大内常務が承知していた。
暮雅チャンが、坂口を騙し、良子を尋ねて行った事を、大内は「部下の山西の報告から気付いた」と言うのが自然だった。
暮雅チャンと良子の、隠しカメラを意識しての完璧な隠蔽が、後日壊れた事に不思議さを感じていたが、これでその謎が解けた。


暮雅チャンが良子に接触した事は、彼らの保身上脅威だった。
何らかの全容が、明らかになる事を恐れた。
それが何かは不明だが、彼らは前後策を共謀し殺害を決断し、良子を虫けらの様に絞め殺し車に火をかけて焼いた。
その背景には、単に「良子に接触した」と言うだけでない、未だ暮雅チャンの知らない理由が、潜んでいるのかも知れない。

実行犯は、恐らく「坂口とその配下」と思われる。
身近に「敵が居る」となると、既に暮雅チャンは看視されている筈だ。
怒りは込み上げて来たが、迂闊に動けない事を、暮雅チャンは自覚した。
彼らは、自らを守る為なら手段を選ばない連中だった。



「なるほど、上司の大内常務が怪しかったのですか?」
私は一呼吸する為に話を切った。
話が確信に近付き、良子殺害に経緯が少しずつ明らかに成って居た。
少し、暮雅チャンの話しを、整理したかった。
用意されたツマミは粗方無くなり、二人とも酒のペースは落ちていたが、話は佳境を迎えていた。

しかし私には、あの「違和感」が付きまとって離れない。
「他に、可能性がありません。恐らく奴は、靖子や良子を抱いて、ほくそ笑んでいた事でしょう。或いは私を話題に、嬲りながら抱いたのかも知れません。赦せません。」

「まさか、単身で復讐を考えたのではないでしょうね。」
「そのまさかです。」
事情があって警察の手が借りられない。
か、と言って、泣き寝入りはする気が無い。

「嫌な事思い出させますが、娘さんの死因はやっぱり焼死ですか?」
「いや、生体反応が出なかったらしいです。武藤刑事に拠ると首に擦過傷らしきものが見受けられ、どうやら縄状のもので絞め殺された後に焼かれたと・・・、しかし何しろ全身黒焦げで、解剖初見もあやふやな所が残ったそうです。」
「そうですか、生きながら焼き殺されたでは余りにも酷いですから・・・」
「私に取っては似た様なものですが、やっぱりそうでしょうね。どちらにしろ私は泣き寝入りはしたくなかったです。」



身の危険を感じながら、暮雅チャンの孤独な戦いが始まった。
幸い彼らの方も、暮雅チャンの知り得た情報の範囲を知らない。
暮雅チャンは「大内が信者だ」と気付いた事をお首にも出さず、変わらぬ素振りで仕事を続け、一切の調査行動を慎重に秘す決意で行動を開始した。
全てを隠密に、一旦帰宅消灯後に、「暗闇のまま密かに外出する」など最大限の気を使い、昼間は所在をなるべく明らかにして、仕事に熱中して見せ、彼らを安心させた。


まずは靖子との接触が必要だった。
暮雅チャンはその方法を調べていて、靖子の失踪を知り愕然とした。
住まいから、忽然と姿を消していたのだ。
家賃は引き落としで支払い続けられているが、もう数ヶ月も帰宅した痕跡は無い。
教団に泊まり込んでいるのか、監禁されているのか、或いは不測の事態も考えられる。

靖子の生死を確認し、良子の仇を討ちたい。
しかし相手の全容が掴めない。
気は焦っていたが、思う様に行動出来ない。
暮雅チャンは、決断を下した。


何か想像以上の大きな力を感じていた。
そこで疑問に思ったのが、鷲頭創元の教団設立の経緯である。
良子が囁いた「近付いちゃ駄目、裏に凄い政治家の先生や役人まで付いている。」の意味が判った。
あくまでも想像だが、良子が「代議士の存在を知る。」と言う事は、良子の肉体がその代議士に、供せられたのかも知れなかった。

裏ビデオと代議士の組み合わせを奇妙に思ったが、宗教なら話は別だ。
宗教は、金にもなるし、選挙では票にもなる。
宗教法人は非課税だから資金操作が楽で、政治家としても秘密の活動資金の出所としては頼りになる。
宗教側でも、政治家は利用価値がある。
従って、双方持ちつ持たれつの関係が築き易い。


若い鷲頭創元が、名門の出とは言え脅威の速さで教団を興し発展させた原動力は何なのか?
或いは誰か、影の後ろ盾が居るのではないか、鷲頭創元の地元に「そのヒントが隠されているのではないか」と暮雅チャンは目星を付けた。
調べて判ったのが鷲頭直吉(創元)の旧姓が「多々良姓」だと言う事だった。
義父である神主(宮司)が、何故後妻の連れ子の多々良直吉を、実の子以上に可愛がったのか謎が解けた。

多々良姓は、あの地方を平安時代の昔から長く治めた大内氏の古い姓である。
そして大内氏は、妙見信仰の最大の庇護者だった。
大内氏は配下の陶(すえ)氏に下克上に会い、その陶氏は毛利氏に取って代わられたが、大内氏の血脈が神主などの武門以外の立場で多々良姓や大内姓を名乗り、家名の脈を永らえていたとしても不思議は無い。


下松(くだまつ)市、光市、田布施町などの町々は、瀬戸内海に連なる北辰尊星妙見大菩薩(ほくしんそんじょうみょうけんだいぼさつ)と朝鮮半島、百済(くだら)の国の琳聖(りんしょう)太子の来朝帰化の伝承の地である。
この降星伝説、周防、長門に五百年間と長く君臨した「大内氏の政治工作」とも言われているが、いずれにしてもこの地では妙見信仰が長く庇護され人々に根付いていた。

この小さな地方の町々から、伊藤博文を始めとして、三人もの総理大臣を輩出している。
怪しげな教団がこの地方で興こり、暮雅チャンと靖子が結婚し、番小屋に靖子が通っていた頃の総理大臣が田布施町出身の佐藤栄作氏だった。
靖子の生まれ故郷は、そうした維新以後の政治家に縁のある土地柄だった。


「茂夫さん、日本の国民(村人)はお上に(官僚・役人)に弱いでしょう。あれ、植え付けられたトラウマなのです。」
「トラウマですか?」
「日本人の見っとも無いブランド好きも、植え付けられた物です。」

暮雅チャンは、「日本の民人(たみびと)は、長い事血のブランドを、価値観として強いられて生きてきた。」と言う。
日本の歴史は、実は征服者と被征服者の歴史だ。」と暮雅チャンは言う。
つまり、日本列島の本来の先住民は蝦夷(えみし)だった。
それを、朝鮮半島から南下した武力に勝る和族(加羅族・呉族)や琉球列島を北上してきた和族(隼人族・呉族系)に、次々と征服されて行き、征服部族は支配者になった。


つまり、武力に勝る少数部族が支配者となり、その血を維持しながら被征服者の民人(たみびと・村人)から永久に搾取し続けるシステムを構築した。
それが、皇統であり、血統だった。
それは混血の歴史の中でも、脈々と生きていたが、この血統、枝別れするごとに枝は落とされて下位の身分になる冷酷なシステムだった。


先住・蝦夷(えみし)の村人は「面従腹背」を強いられながらも、支配者の恐怖を、学習のトラウマとして醸成し、二千年の遠い記憶の中に持ち続けていた。
「抜けないのですね、トラウマ。」
「そうですねぇ。」
支配者の歴史と支配者の文化が、日本の唯一の文化だろうか?


「ちょうど十五年前の今頃でした。あの時も暑かった。私は、或る人間に協力を求めたのです。」
「味方を作る算段をしたのですか?」
「私は靖子の故郷の事は殆ど知りません。それに、ノーマークの協力者が欲しかった。」
「内海健太さんでしょう、彼以外に、この問題は共有できない。」

「そうです、その通り。今日話した様な事を、彼に話したのです。」
「そして、彼は協力に応じた。」
「判りますか?」
「彼も、教団の為に自分の人生を失った。それに、靖子さんに対する心情は、本物だった。」
「或る意味、中年同士の恋敵が、一人の女の為に、未練たらしく手を組んだ、と言う事です。」

「反撃開始と言う所ですか。」
暮雅チャンは、相手に知られて身動きの出来ない自分に代わって動ける、信頼出来る相手を、内海健太と考えていた。
そもそも暮雅チャンと靖子が別れた要因でもある内海健太だが、その後靖子と良子を引受けるなど、互いに共感する事も多い。


暮雅チャンは、羽田から札幌に飛び、再び札幌から福岡に飛ぶ慎重さで福岡に降り立った。
そこから、列車で関門海峡を渡り、靖子の故郷の県の県庁所在地に向かった。
無理を言って、内海にそこまで出てきてもらった。
駅前で待ち合わせると、そのまま新幹線に乗り、空席が目立つグリーン車に席を取って、大阪まで車内で話した。
全ては、教団側に察知されるのを恐れた行動だった。


暮雅チャンの提案に対して、内海健太の理解は早かった。
彼は、意外に聡明な男で、暮雅チャンは認識を改めた。
五十歳近くなって、内海も世間の事を充分に知っている。
そこへ暮雅チャンから、一度は夫婦親子を名乗った二人の事を聞かされた。


話を聞いた内海は、怒りを露にした。
「あいつら、そんな事をしているのか。」
「あいつらと言うと、知っているのか。」
「知らいでか、家柄を鼻に架けてろくでもない、土地のダニだ。」

内海が言うには、教祖の鷲頭創元、電広堂映像の青柳、大内常務、闇組織の坂口は、元々あの土地に於いて「同じ旧支配者階級の出自だ」と言う。
鷲頭の旧姓多々良の家と大内の家は親の代のいとこ同士、青柳は大内の妹を嫁に貰っていて、坂口は代々大内の使用人頭にあたる家柄だった。
「あの辺り一帯は、維新まで妙見宮の神領地、多々良氏の拝領地で、財力もあったから、維新の志士達も、出入りしていた。」
「そんな名士なのか。」

「とんでもない、直吉(創元)は、多々良の本妻の子ではなく、多々良氏当主の妾の子だ。多々良は本妻の子が継いで、もう子供の代になっている。」
大内に付いても分家の次男で、青柳も然りだが言わば「名家の部屋住み、厄介者」の群れだった。
それが鷲頭創元の教団創設を機に集まり始め、関東に移って活動を始めた。
「学歴があるから、悪知恵が働く奴らさ。俺は手伝うよ。」


「しかし弱った。俺が乗り込んで中を探ってやりたいが、俺が靖子と再婚していたのは直吉が知っていて無理だ。」
内海健太は首をひねった。
「漁を休ませる事になる。生活費と活動資金を兼ねて、三百万持って来ている。」

暮雅チャンは、預金の一部を取り崩して来た。
一人身の上に仕事が忙しくて、遺産を分配した金が残っていた。
それに、元々贅沢でも無いから、預金は溜まっていた。
「良いのか?金は要らないと言いたい所だが、漁が不振で格好も付けられない。」

「いゃ、無理をさせるのだ。遠慮なく取っといてくれ。」
「ありがたく受け取っとく、中に潜り込ませる女が欲しいからこっちで捜してみる。俺達は当分会うのを止めよう。」
連絡は「電話が良い」と内海は言った。
朝六時と夕方十時、どちらかの時間に捕まる様に、互いが待機する約束をした。


一週間ほどすると、内海から電話連絡が来た。
美佐と言う名の姪を「教団に送り込む」と言う。
内海は、「一度暮雅チャンに美佐を逢わせたい。」と言ってきた。
若い娘を送り込むのは、酷く抵抗がある。
教団に潜り込めば、確実に貞操を棄てねばならない。

万が一、バレれば良子の二の舞だからそれを平気で「やれ」とは言え無い。
「しかしその娘が危険だ。」
「美佐はやると言っている。もっとも、可哀想な事をさせるので、金は二百万ほどやったがとにかく会ってやってくれ。」
電話口の内海は、姪の美佐がもう決心した口ぶりだった。


美佐は大阪で、昼間美容院に勤めながら、美容専門学校に通っていた。
独立資金が欲しいので、たまたま内海に相談した所、「こう言う話があるけど。」と打ち明けられ、「面白そうだ。」と乗って来た。
美佐は、「どうせなら、稼ぐだけが目的で無く、相応な目的を持った事に参加して稼ぎたい。」と考えた。

「これ以上の人選は無い」と、内海は確信した。
内海が先走って、勝手に事を起こしても困る。
組んだ早々仲間割れも困る。
強引に進められて暮雅チャンは、美佐の資質を確かめる気に成った。


九月の或る日、暮雅チャンは、大阪のシティホテルで待ち合わせる事にした。
まだ、暮雅チャンの行動に、教団側のマークは続いている恐れがある。
ひと目に付くのは「はばかられるから」、暮雅チャンが宿泊する部屋で待ち合わせた。
ドアのノックの仕方まで打ち合わせて、万全を期するほど気を使った。
やってきた少女は、顔立ちは良いのだが見るからに地味で、大人しそうな娘だった。


「健太オジに頼まれてきました。美佐と申します。」
薄いピンク色の前ボタンワンピースを着ている美佐は、しっかりとした挨拶をして頭を下げた。
「まぁ、座って話そう。」
部屋のミニ応接の椅子を美佐に勧めて、座って話す事にした。

「ご苦労さん、まだ頼むかどうか決めてないけど、ところで、君は幾つになる。」
「今月で十九歳になりました。」
「大人しそうに見えるけど、君は何を頼まれたのか、承知しているのかね。」
「健太オジから聞きました。潜入捜査ですね。面白そう。」
「遊びじゃないのだよ。嫌な事も、危険な事もやる事になる。君の様な大人しい娘に出来るかね。」

この娘は、どう見ても、教団に潜入出来そうにない。
「呪詛巫女になる」と言う特殊な条件が要求されるからだ。
内海健太は、何を考えてこの娘を選び、ここに寄越したのか?
疑問だった。


(危険な潜入)
夢と現の狭間に有りて◆第十話(危険な潜入

◆◇◆◇◆(危険な潜入)◆◇◆◇◆◇

大人しく清楚な少女に見えた美佐が、意外な行動に出た。
「ハハ、オジサマ騙された。私美容師の卵だから、清楚に化けるのは得意なの。」
美佐は突然笑い出し、立ち上がってワンピースの前ボタンを外し、着ている物を脱ぎだした。
「オィ、何をしている。」
暮雅チャンが慌てて美佐を「押し止(とど)めよう」と、立ち上がった。

美佐は「私に嫌な事が平気で出来る事を、オジサマに証明するの。」と言った。
一気に前ボタンを外した美佐は薄いピンク色のワンピースを脱ぎ、ブラジャーを外すと白い乳房がこぼれ出た。
パンティ一枚の半裸になった所で、美佐が近寄る暮雅チャンを手で制し、「待って、健太オジの伝言がある。」と言った。
白いレースフリルの縁取りがあるパンティからはみ出た太腿がまぶしい。

「伝言?」
「オジサマに、昔の奥さんの借りを美佐で返すから。と伝える様に言われました。」
それを聞いた暮雅チャンから、力が一気に抜けて行った。
暮雅チャンが内海健太の伝言に怯んだ隙に、もう美佐は最後のパンティを取り、暮雅チャンに柔らかく弾力のある身体を預けて来た。

暮雅チャンは内海の伝言を聞いて、美佐の行為を止めさせる事を放棄した。
美佐の弾力が有る若い肌のさわり心地が、暮雅チャンほ自制心を奪っていた。
「ね、オジサマの言う嫌な事、私には出来るでしょ。」
美佐が耳元で囁きながら、暮雅チャンのベルトを緩め始めた。


内海にしてみれば、姪を差し向けて、昔のわだかまりを水に流し、五分の気持ちで、目的に力をあわせる「意味合い」を伝えたかったのだ。
内海健太なりの気持ちが込められていて、このメッセージを固辞するのはチームワークに反する。
それに、美佐の覚悟もこれでハッキリする。
腹を決めて美佐にリードに任せ、されるがままにた。

思考と違って、暮雅チャンの身体は正直で、直ぐに戦闘体制に入った。
それを確認すると、美佐は暮雅チャンをベッドに誘って、騎上位で受け入れた。
「アァ、アァ〜。」
美佐の吐息混じりの善がり声が耳元で続いた。


美佐は暮雅チャンに繋がったまま、「消防団の番小屋、村の強制は無くなったけど、年頃の若者達が今も使っている。」と言った。
あの村独特の風習は生きていて、美佐は、愛のない性行為を番小屋で鍛えられていた。
そして、暮雅チャンの過去も知っていた。
村の伝統は、強制力が無くなってもチャッカリ若者の間で、「単純な交流の場」として生きていたのだ。

内海健太の人選が間違いはなく、美佐は度胸も性技も一級品だった。
美佐は、こちらからの反攻の手駒として申し分は無い。
暮雅チャンは、美佐の中で果てていた。


反撃体勢が整った九月の終わり頃、暮雅チャンは会社に辞表を提出した。
大内が慌てて、形通りの引き止めを図ったが、腹の内は判らない。
しかし暮雅チャンの辞表提出は、想定をしていなかったらしい。
暮雅チャンを野に放つ恐怖で、疑心暗鬼に陥ったのかもしれない。


内海健太は自分の船を、同じ港の友人を借り手にして預け、上京して来た。
船を貸した相手も、靖子を知る昔番小屋の若い衆だった男だ。
「なんぼか賃貸料が入る」と笑った。
美佐も無事、教団の東京講和会場に潜り込んだ。

まだ信者としては新顔で下端(したっぱ)だが、あの容姿だから、いずれ受付に昇格し「呪詛巫女」の誘いもあるだろう。
「清楚に見える方が、警戒されないでしょ。」
そう言い放った美佐の度胸だけが、今は頼りだ。



暮雅チャンが辞表を提出したきっかけは、二つあった。
一つは会社の首脳人事だった。
ビデオデッキのメ-カー対決を制した大内常務は、その手腕を評価されて、時期社長含みの筆頭副社長に昇格した。
お陰で良識派の市川専務が相談役に退く事になった。

続いて行った幹部の人事では大内が本性を現し、暮雅チャンの部下だった山西が引き上げられ、副部長の暮雅チャンを飛び越えて、特販部長に就任した。
大内は、信頼する右腕を強引に引き上げ、勢力を固めた事になる。

会社の正義は、企業利益だ。
大内は、大胆にも企業倫理より利益を優先して、危ない橋を見事すり抜けに成功した。
バブル景気で、その風潮が幅を利かせている。
大内が社長になるのは目に見えていて、暮雅チャンは彼の下ではやっては行けない。

それに、二つ目のきっかけとして、今後の暗闘には資金がいる。
資金確保の目的で、退職金を受け取る事にした。
何としても、大内は引きずり降ろさなければ、暮雅チャンの溜飲は下がらない。
絶頂で有るほど、ひきずり降ろす事に衝撃がある。


退社すれば、教団も二十四時間フリーになった暮雅チャンを、今までの様には看視出来ない。
動き易くなるのは確かだった。
内海健太や潜り込ませた美佐にも、当座の資金は必要だ。

今、内海健太は、暮雅チャンの手先として情報収集に動いている。
美佐も教団の東京会場に入信したが、まだ教団には通いで、昼間は美容師見習いをしている。
二人とも、暮雅チャンが食わせなければならない。
幸い、退職金と預金で三年ほどは持ちそうだった。

二人とは殆ど会わずに、電話で連絡している。
送金も各々の口座に振り込み、特に関係発覚は恐れた。
闇の世界が絡む連中が相手だから、潜入している美佐など命が掛かっているのだ。
まだ、靖子の安否は判らないが、いずれにしても連中は赦せない。
暮雅チャンは、相討ちでも奴らを潰す覚悟だった。


美佐が東京講和会場に潜入して、二ヶ月が経過した。
東京はもう晩秋を迎え、冬の気配さえある。
暮雅チャンは地に潜り、安宿を二日おきに移動しながら尾行の有無を確認し、徐々に伊豆方面に移動していた。
連絡は日に二回、暮雅チャンが所在を教えているのは内海健太だけだ。
暮雅チャンが所在を隠した事に、大内は何を思っているだろう。

大内の動向を探るには、会社の内部に協力者が欲しい。
散々考えたが、特販部には該当者がいない。
退社前、日々通った本社ビルの威容が、暮雅チャンの目に浮かぶ。
あれは日本文化の牙城だったのか、それとも伏魔殿だったのか。


暮雅チャンの脳裏に、一人の老人が浮かんでいた。
今回の首脳人事で大内に破れ、相談役に退いた前専務兼事業統括本部長の市川だった。
市川相談役は会社の創業時に入社、まだ洗濯機にローラーの絞り機が付いていた時代に売り歩いた伝説の人物だった。

愛社精神の塊みたいな男で、もう野心も無い年齢だから、事情祖説明し、「大内の失脚を協力要請してみよう。」と暮雅チャンは考えた。
近付く為の口実はある。
「退社の挨拶を無礼したから、改めて在職時の礼を述べたい。」と言えば、拒む事もあるまい。

十一月の終わり頃、風の強い日に市川相談役の家を訪ねた。
古い木造の二階家で、庭が広く手入れは行き届いているが、日本を代表する総合家電メーカーのナンバースリーまで登った男の家とは思えない質素な佇(たたず)まいだ。
家人は妙齢の和服姿の女性が一人居て、「市川の孫娘だ」と言った。
その女性に案内され、応接に通された。

市川相談役は会社の設立当時からのメンバーで、設立当初から会社の株を二割ほど持っていたのだが、会社の発展と共に増資を重ねて大きく膨らんだ資本金に対して今でも無償増資分を含め二パーセントを持つ個人筆頭株主だった。
つまり相談役は、まだ会社に発言権も持っているし途方も無い大金持ちでも在る。

「おぉ、良く来た。達者だったか?」
「退社の折、ご挨拶も致さず御無礼しました。」
「いゃ、まぁ座れ、こうして来てくれただけで充分だ。それより、突然会社を辞めたと聞いて心配していた。」

市川相談役は、気さくに笑った。
上下の差はあれ、同じ時代を同じ会社で過ごして来た。
共有する思いも多かった。


孫娘が、お茶を入れて持って来て、直ぐに別室に退いた。
「心配をおかけました。お忙しい処を押しかけまして。」
「いゃ、相談役に退いて、めっきり尋ねてくる者が減った。年寄りには用がないらしく寂しいものだ。」
「その、相談役の職責、お飾りでなければ嬉しいのですが。」
暮雅チャンは、思い切って持ちかけた。

「と、言うと?」
「実は、私が辞めた訳は大内副社長に原因があります。このまま放置すると、社が大きな傷を負う可能性があります。」
「なに、会社が傷を負う。それは何だ。」
市川が身を乗り出して来た。

「大内の奴は、企業の良心を説くワシに、経営感覚が古いと抜かした。奴だけは赦さん。」
ビデオデッキの方式戦争に勝利した勢いを背景に、大内が、「今は利益が正義で、戦前の考え方では生き残れない。」と、役員会で罵倒し、退任を迫ったそうだ。
事前に根回しが済み、体制は決まっていた。


「奴を沈めるのはわしも前から考えていた。何か問題があるなら早く話せ。」
「その前に、確かめさせて下さい。これは命が掛かっています。」
「判った。葵、こちらに来てくれ。」
市川は、孫娘の名を呼んだ。

「はぃ、何か。」
「ここに来て座れ。これは孫の伊都田葵と言う。嫁に行った娘の二女で、苗字は違うが正真正銘の外孫だ。手足に使うので、話に同席させるが異存は無いか。」
「承知しました。」


伊都田葵が、市川の脇に腰を落とした。
「君は知らないだろうが。この娘は本社の秘書課に勤め、役員室の秘書をしている。今でも会社の動向は逐一耳に入る。」
「流石(さすが)に相談役、布石は打っていたのですね。」
「人事部にも伏せて、自力で入社させた。」

「なるほど、これ以上信頼できる情報チャンネルはありませんね。」
「さぁ、こちらの秘密を明かした。これで話せるか?」
「判りました。お二人に事情を話します。多少、お嬢さんには聞き難い男女の性(さが)の部分もありますが。」
「構いません。これでも三十路に入る大人ですから。」

暮雅チャンはこれまでの経緯を、出会いから細かく説明した。
若い娘が聞いていたが、自身の下半身も含めて、包み隠さず話す事で、相手に信頼をして欲しかった。
「判った。葵に裏を取らせ、君の話しに矛盾が無ければ、一緒にやろう。」



「新しい登場人物が、二人増えましたね。」
私は、合いの手を入れた。
興味或る展開に聞き入っていたが、意外な人物の登場に興奮していた。

「その二人、後に力強い味方になりました。」
「どうやら、市川氏は信頼できる人物だったのですね。」
「彼は、会社を愛していました。会社を危うくする者は赦せなかったのでしょう。」
暮雅チャンが市川相談役の心情を一言で表現した。


二週間ほどして、市川相談役と連絡が取れた。
「何をしていた。こちらは気を揉んでいたぞ。」
暮雅チャンの連絡待ちをしていたらしい。
「すみません。今後は最低でも、三日おきには連絡します。」
改めて伊都田葵に調べさせ、「暮雅チャンの話しの裏が取れた。」と言う。

確かに、電広堂映像とは不可解に突出した取引がある。
新任の山西特販部長と電広堂映像の青柳はベッタリで、始終伊豆のゴルフ場に行っているが、伊豆高原で一泊して来る事が多い事も判かった。
大内副社長は、社の熱海保養所を頻繁に利用しているが、隠密の外出が多く、暮雅チャンの告発が真実とすると、熱海はカモフラージュで、目的は伊豆高原だと、推測出来る。

「君の言う通り、殺人や失踪が絡んでいるとなると、発覚すれば会社のダメージは大きい。これは内密に処理せねばならないと思う。」
「判って頂けましたか。」
「葵を君に預ける。資金も、取り敢えず二千万ほど出そう。好きに使え。」
大卒初任給が十五万円に跳ね上がってはいたが、それでも当時の二千万は、今よりも大金だった。

「有難うございます。」
「明日十時、帝国ホテルのロビーに行き、フロントの呼び出しで八丈島からお越しの市川様と呼び出されたらメモを受け取り、葵に逢え。」
「判りました。」


翌朝、帝国ホテルに行った。
ロビーはクリスマスのデコレーションが飾られ、年の瀬を迎えている事を告げていた。
指定された時間には少し間があった。
ソファーに座って、国電(JR)の売店から買って来た日経新聞に目を通して時間を潰した。
バブル経済の行き過ぎが指摘されて、日本経済に暗雲が漂っていた。


呼び出されてフロントに行くと、メモを渡された。
部屋番号が書いてあり、ドアのノックの仕方が指定してあった。
部屋は、エレベイターを降りて長い廊下を歩く奥まった部屋で、ノックをする前に尾行を確認しろと念が押されていた。
振り返ったが、人影は無い。

ノックをすると、中から「カチャり。」と音がして、「どうぞ。」と女の低い声が聞こえた。
中に入ると、スーツ姿の伊都田葵が立っていた。
市川の家であった時は、和服姿で落ち着いていたが、今日は活発なキャリアウーマンの風情だった。
そしてもう一人、想定外だったが葵と年恰好が同じ位の若い男が部屋に居た。


「こちら、伊吹さん。おじい様の秘蔵っ子です。」
「葵さん、秘蔵っ子は止してくれ。伊吹正二と言います。今は販売促進部、マーケット調査課の課長補佐をしています。」
「そうか、何処かで見た顔だと思った。」
「私は貴方を存じ上げていました。相談役から指名されて、お手伝いする事にしました。」
「孤独な戦いでした。心強いです。」

「バラしちゃうと、伊吹正二は私の男。だから信用出来ますよ。」
「なるほど、そう言う事ですか。」
部屋のベッドが、僅かに乱れているのが暮雅チャンの目に入った。
どうやら二人は、昨夜から宿泊したようだ。
「何処を見ているのですか。ホラ、葵が余計な事を言うから、バレちゃったじゃないか。」

「なに格好を付けているの、こちらのオジサマ、アクシデントとは言え戸籍上の娘さんと寝た事まで恥を忍んで話したのよ。」
「まぁまぁ、お二人の関係がハッキリしている方が、納得できます。」
「で、しょう。それからこれ、おじい様が渡してくれって。」
この日は、以前見かけた時の清楚な伊都田葵と立ち振る舞いがぜんぜん違う。



伊都田葵は、思った以上に「じゃじゃ馬姫」かも知れない。
葵と言い、美佐と言い、女は皆役者の素質があるのか、それを知らなかった事が、そもそも靖子と別れた悔やみきれない暮雅チャンの後悔かも知れない。

その葵が手渡したアタッシュケースの中身は、約束通り百万円の帯び付きが二十束、市川相談役は本気だった。
「私達の分は、おじい様が別に用意しましたから、これはそちらでお好きにとの事です。」
「感謝するとお伝え下さい。教団内部に入った娘からの連絡も、相談役には報告させてもらいます。」
暮雅チャンはアタッシュケースを提げて部屋を出た。


三十分後に、二人も「バラバラで社に向かう」と言う。
帰り掛けに、国電(JR)の駅舎で営業している立ち食いの蕎麦屋に寄った。
天蕎麦をすすりながら、「内海達に、少し活動費を渡そうか。」と考えていた。

社内の情報も、葵達から入る体勢が整った。
これで、両面作戦が取れる。
時間が掛かるが、慎重に事を進めるのが、暮雅チャンの信念だった。
その三日後、教団に居る美佐から内海を通して連絡があった。


(反撃の烽火)
夢と現の狭間に有りて◆第十一話(反撃の烽火

◆◇◆◇◆(反撃の烽火)◆◇◆◇◆◇

暮雅チャンが外に視線をやった。
見ると辺りが白んで来て、夜明けが近い事を知らせている。
既に鳥のさえずりが「チチチチ」と聞こえ始めている。
真夏の明け方に、冬場の話を聞いていたが、違和感が無かったのは高原の涼しさだった。

「流石に明け方は涼しいですね。」
「茂夫さん、どうでしょうもう直ぐ夜が明けます。一度休息を取りませんか?」
取り貯めた録音テープは、八時間に上る。
まだ暮雅チャンが、この山奥に隠棲した理由まで行き着かないが、これからまだかなりの道程がありそうだ。
暮雅チャンの様子にも疲労の色が伺えた。

「お疲れなら、休みましょうか。」
「そうですね、流石に疲れました。話しに手間取りました。少しごろ寝をしましょうか。」
毛布一枚でごろ寝が出来る季節だった。
三時間ほど寝る事にした。
寝過ごしても、昼前には熱くて目が覚める筈だった。


五分もすると、暮雅チャンの寝息が聞こえて来た。
私は、暮雅チャンの話を頭の中で整理していて、中々寝付けない。
にわかには信じ難い部分もあるが、犯罪は押し並べて信じ難いものだ。
暮雅チャンの話が、事実に元付いている事に疑いは持てなかった。

しかし、かすかに感じていた「違和感」は、何故か益々膨らんでいた。
何か、暮雅チャンの話の中に、引き掛かるものを私は感じていたのだ。


その内、知らずに私も寝入った。
この長丁場の物語に、私も流石(さすが)に疲れていたのだ。
何時間か寝入った後、言われた通り、暑さで目が覚めた。

気が付くと、暮雅チャンが台所で何やら作っていた。
「起きましたか。裏に岩清水を引いた竹の樋(とい)があります。顔を洗われたら気持ちが良いですよ。」
勧められて裏に行き、岩清水で顔を洗った。
指先が痺れるほど冷たかったが、シャキットした。


戻ると、冷やしラーメンが座卓に載っていた。
洋辛子が、タップリと添えられている。
「いゃ、恐れ居入ります。」
「こんな物ですが、召し上がって下さい。」

麺をすすりながら、ビールを勧められた。
「何処まで話しましたか?」
「えぇと、教団に居る美佐さんから内海さんを通して連絡が来た所です。」
「そうでした。録音を始めて下さい。」
蝉の鳴き声が、激しく鳴っていた。



偽装入信していた美佐が、「受付役を打診された。」と電話で内海健太に言って来た。
一度教祖に挨拶に行く様に勧められた所を見ると、どうやら美佐に喰い付いて来たらしい。
「美佐が、直接話をしたがっている。聞いてやってくれ。」
互いの危険が増すので、直接の電話連絡は避けたいが、美佐が強く希望した。

どうやら直接で無いと詳しい報告が聞けないようだ。
心を定め、直接話をする事にした。
誰とも相談は出来ない。
自分が司令塔で、責任は全て自分で持つ覚悟だ。


宿泊先の安宿の電話を、「美佐に教える様に」内海に伝えると、翌日の夜、美佐から電話が掛かって来た。
三日ごとに移動しているから、ギリギリ間に合った事になる。
「私、美佐。健太オジから聞いてくれた。」
「あぁ、聞いた。それで、受付の話は誰に声を掛けられた?」
「青柳って人、その気になったら、仕事も世話するって言っていた。」

「その仕事、裏ビデオの撮影だよ。」
「ふーんそうなの、オジサマ私やるよ、何でも良いから食らい付くけど、その前に逢って。」
裏ビデオの撮影と聞いても、美佐は動じない。
「無理をするな、今逢うのは危険だ。」
「お願い。」

美佐が「会いたい」と言って来た。
暮雅チャンには、美佐に「裏ビデオに出ろ」とは言えない。
だが、内部の事を調べるには他に術がない。
この際鬼になって頼むしかない。

せめて美佐の希望通り、「会ってやろうか。」と、暮雅チャンは考えた。
「判った。何とかしよう。」


いざ会うとなると、その方法も検討しなければならない。
何としても、危険は避けねばならない。
幸い内海健太は、どうやらノーマークの様なので、彼に警戒を手助けして貰う事にした。
混んでいない時間帯の新幹線こだまのグリーン車が、比較的警戒に便利だ。

平日の短い距離に、グリーン車を使う人間は少ない。
三人が、座席もバラバラに乗車して様子を見、内海健太に車内を警戒してもらおう。
内海と美佐は別々に東京駅から、暮雅チャンは横浜駅で乗り込み、車内で尾行の有無を確認して熱海駅で降車、合流する事にした。
狙い通り、こだまのグリーン車の乗客は僅かで、怪しい動きをする者は居ない。


熱海駅で三人バラバラに降車し、他の乗客が美佐を尾行していないか確認した。
初冬の早朝九時、平日の熱海駅新幹線ホームは、まだ閑散としていた。
コートの襟を立てて、暮雅チャンはホームに降り立ち、二人の姿を視認した。
後続で降車したのは、高齢者の団体客の一団とやはり高齢者の夫婦と思しき者が二組、およそそれらしき影はなかった。

熱海駅頭のタクシー乗り場で自然に合流してタクシーに乗車、喫茶店で時間をずらし、飛び込みでホテルに美佐が一部屋、内海と暮雅チャンで一部屋取った。
万が一、後日教団関係者に美佐の軌跡を辿られても、単独宿泊に偽装する為だ。
宿の証言でも「美佐は一人旅」と解するよう、表立っての合流は夕食後にする事にした。

幸い少人数で宴会無しの客は、レストランで夕食を取るシステムなので、そこで互いが知り合って意気投合した事に、芝居をすれば良い。
したがって昼食は、ばらばらにホテルを出て待ち合わせ、外食する事に打ち合わせた。
面倒だが仕方が無い。


ホテルから五百メートルばかり行った中華レストランで待ち合わせて、漸く三人で食事をした。
美佐は暮雅チャンに「神経質過ぎる」と言ったが、組織の大きさは実感していた。
信者は幅広く、警察官、教員、自衛隊員、公務員、マスメディア関係者、何でも居る。

その中から、使えそうな人物をセレクトして世話人に引き上げやがて中堅幹部へと取り込んで行く。
美佐は妙にハイテンションで、暮雅チャンとの再会を喜んだ。
何故か美佐は、この中年男の暮雅チャンを気に入っていた。
理由は判らない。

ただ、暮雅チャンの役に立ちたがっていた。
美佐には、暮雅チャンに何か伝える事があるらしく、「核心部分は夕食後に話す。」と、思わせぶりに言った。
美佐なりに、気を引きたかったのだろう。


その後、内海と暮雅チャンは、夕食まで二人で部屋に居た。
その場で暮雅チャンは、内海から気になる事を聞いた。
内海は、「俺もいたずらに日を送っていた訳ではない。」と、自慢げに話し始めた。
美佐は内海の実兄の娘に当るが、実は良子同様の両親と血液型が合わない。
つまり、「父親が不明だ」と言う。

内海の兄嫁が「番小屋に呼び出されて、美佐を孕んだ」と言う事になる。
こうした宿命は、番小屋制度の時代、あの村ではさして珍しい事ではない。
内海が、「実は内密に、美佐の血液型と妊娠時期から、記憶を頼りに父親を推測してみた。」と言う。
「俺はかなり有力な奴を見つけた。それで、同じ様に良子の場合もやって見たが、どうやら同一人物らしい。」

「本当か、すると美佐もB型なのか?」
「いゃ、母親がA型なので、あの娘はAB型だが、聞いて驚くな、あくまでも推測だが、二人の父系は一人に絞った。」
「一人・・・、番小屋の掟は、父親の特定が出来ないのが前提だろう。」
「それが、判ったのだ。」


内海健太が言うに、あの村の村民の血液型は圧倒的にO型で、A型が僅かに居る。
あの村は、長い事村民階級の婚姻が孤立していたので、極端な血液型分布に陥っていた。
「するとまさか、B型は村にたった一人しかいない。何て、言うのじゃないだろうな?」
「いゃ、何人も居る。」
「それじゃあ、さっきの話と違うじゃないか。」

「多々良氏族系の血はB型なのだ。」
「多々良氏族系?」
「あぁ、つまりあの土地の旧支配階級、家柄を大事にしていた連中だ。奴らは圧倒的にB型で、O型が少し居る。」
支配階級と言うと、多々良、大内、鷲頭、青柳、と言った姓の連中で、遡ると五百年ほど前の支配階級の末裔にあたる。


内海が言うに、「奴らは、俺達とは婚姻関係ではまるきり赤の他人だった。」と言う。
「しかし、多々良の人間が何故、良子の親になれる。番小屋の掟は、村の漁師の若い衆だけじゃないのか?」
始めて訪れた時の、あの村の潮騒と潮の香りが、暮雅チャンによみがえってくる。
細く張り巡らされた路地、火の見櫓と番小屋、ゆったりと田畑の海に沈んだ人家が点在していた。
「居たのだ。一人だけ鷲頭直吉(創元)が。」

「鷲頭直吉が、何故。」
容易ならない事態だった。
そんな事は、想定しては居なかった。
「あいつ、俺より二年年上だが、俺が番小屋に行く歳になった時には、既に寝泊りしていた。」

「神主の子が、漁場の番小屋に、・・か?」
暮雅チャンは合点が行かない。
これは、まるで悪夢だ。
暮雅チャンの脳裏に、暗雲が立ち込めていた。


「今考えてみると、直吉は自分の興した宗教の布教が目的だったのだろうが、漁協の組合長に頼み込んで、漁師の見習いに来ていた。」
まさか、こんな事が現実に成るとは、当時の若い衆仲間では思いも至らない。
「すると、良子や美佐は鷲頭創元の子と言うのか・・・何て事だ。」
「あの時期、他に番小屋の若い衆でB型は居なかった。」

暮雅チャンは内海の話しを聞きながら、「因果」と言う言葉を思った。
知らぬ事とは言え鷲頭創元は、血を分けた我が子の良子を抱き、人に抱かせ、仕舞いに焼き殺す指示を与えた事になる。
本人が知ったら、何を想い、どんな顔をする事だろうか?
信仰心が薄い暮雅チャンには似合わないが、「罰当たり。」とはこの事では無いだろうか。


ふと、暮雅チャンは思って口にした。
「それじゃあ、美佐を教団に潜入させるのは、まずいじゃないのか?」
呪詛巫女になれば、教祖の鷲頭創元と親子姦通の事態は免れない。
暮雅チャンに、頭から離れない良子のビデオ撮影の輪姦シーンが浮かんでくる。
「その事だが、俺も迷っている。」

「迷う?決まっているだろ、美佐を押し留めるのが人の道じゃないか。」
「待て、ここは考え所だ。俺は、早まらずに、美佐の意見を聞いてみたい。」
「美佐にこの事を告げるのか?」
「俺は考えたが、単なる血の繋がりと育ての親の精神的親子の情、つまり夢と現(うつつ)の価値とは何なのか?」

あくまでも、村の論理が先にありきが内海の主観だった。
内海は、「人間の心情に踏み込もう」と言うのか?
そこは、神の領域ではないのか?


「美佐に、その酷(むご)い答えを出させると言うのか。」
これは、父親と思しき男と「寝ろ」と言っている様なものだ。
「あの娘は冷静な性格のAB型だ。感情でなく理論的な答えを出すさ。」
内海が、自信ありげに応えた。

「確かに私も、美佐の答えには興味が無い訳ではない。」
いずれにしても、今夜の食後には結論が出る。
美佐の出す答えに、暮雅チャンが興味をもったのは、その答えが、「良子の心情」と思え、育ての親として知りたかったからである。
それにしても、どうやら「計画を白紙に戻す」覚悟をする必要がありそうだ。


夕飯まではまだ時間があった。
折角温泉地に来ている。二人は、風呂に入って時間を潰す事にした。
大浴場は、人影もまばらだった。
湯船に浸かって考えた。
「美佐はどう出るだろうか?」


(美佐の結論)
夢と現の狭間に有りて◆第十二話(美佐の結論

◆◇◆◇◆(美佐の結論)◆◇◆◇◆◇

暮雅チャンがこの物語の背景を話し始めた。
「明治維新後の日本は、絶えず村を搾取し、見捨てて来ました。」
私が、彼の論を補足した。
「いゃ、維新後と言うよりも、これは有史以来の権力による非権力への搾取ですよ。」
「すると、面々と流れる血脈(ブランド)の搾取と言う事か?」と、暮雅チャンが唸る。

そぅ、何時の時代も村を踏み台にする所から、歴史は始まっている。
なるほど、綺麗事を抜きにすると、「いかに村から搾取する手腕があるか。」が、権力者の存在価値だった。
その感性、その本音は脈々と続いている
それに耐える為のしたたかさを、村は「寝宿」と言う風習の掟で独自に維持して来た。
戦後の政治は、その逃げ口さえも潰してしまった。

戦前の小作世帯の娘が遊郭に売られようが、戦後村民の娘が集団就職で居なく成ろうが、「血脈(ブランド)の意志は、そんな事はお構い無く。」と言う制度上の歴史があった。
昔の村人は本能で為政者の本音が見抜けた。
今はなまじ半端な知恵が付いて、甘言で騙される。
村の本質そのものが無くなって、日本から隣人愛がなくなった。


熱海のホテルの夜、晩餐の時間に一人で食事をする美佐に、これ見よがしに声をかけた。
暮雅チャンと内海は予定通り美佐と意気投合する芝居を見せ、部屋に改めて酒席の容易をさせた。
これで行きずりの出会いは、ホテルの従業員の記憶として演出出来た筈だ。


部屋で飲み始めると、内海が切り出して美佐の出生の疑惑を伝えた。
黙って聞いていた美佐は、あっけなく明快な答えを出した。
「そんな事、気に成らない。その教祖、基本的に父親なんかじゃないでしょ。私は生まれも育ちも村の娘だよ。」
「しかし、血液型が・・・・」

「そいつ、良子さんの事も案外承知していたのじゃないの、靖子さんを教団に引き入れたのだから、二人の経緯は知っていた筈だもの。」
「言われて見れば俺もそう思う。奴に人間味なんかない。」
内海は、鷲頭創元が「冷たい悪魔」だと言う。
「そうそう、だから私やるよ。良子さんが腹違いの姉なら、尚更仇をうたなきゃ。」


美佐の決意は固かった。
そして、本格的に中に潜りこみ、教団内部で何がなされているのか身を持って探る前に、「暮雅チャンに抱かれたかった。」と言う。
「何故こんな親父に?」と不思議がると、誰の為にやるのかはっきり身体に覚えこませないと、「呪詛行為に、身体が流されそうで不安だ」と美佐は言った。
つまり、しっかりした精神軸を構築する為に、「暮雅チャンに抱かれたい。」と言うのだ。

「ハハ、美佐の本音は理屈抜きに惚れたのだろう。」と内海が言い、気を利かせて別室に消えた。
二人きりになると、美佐は宿着の帯を解き、積極的に雅チャンを誘った。
雅チャンは、美佐と二度目の夜を過ごした。
そして翌朝、美佐は雅チャン達とは一時間ほど早く、ホテルを後にした。
「これで思い残す事無く、巫女修行に入れる。」と言う美佐に、暮雅チャンは複雑な憐憫の思いを抱いていた。


熱海から帰ると、市川相談役の手の者・伊吹正二から連絡があった。
「良かった。夕べから捜していました。」
電話口で、さわやかな声が聞こえた。
彼らは、大内副社長と西山部長の動きを逐一探っていた。
大内達は、密かに暮雅チャンの足取りを追っているらしく、二人でなにやら内緒の打ち合わせが多くなっていた。

どうやら暮雅チャンの、退社後の行方が不明になり、足取りが掴めない事に不安を感じているようだった。
それで居て、社内に暮雅チャンサイドの人間が居る事には気付いていない。
そちらは安心し切っていた。
そんな訳で、暮雅チャンの所在追跡にジタバタしたのが、返って人目についていた。


伊都田葵が、「報告と打ち合わせをしたい。」と言っている。
指定して来たのは、何故か東名高速道の下り方面最初の「港北パーキングエリア」だった。
次の海老名サービスエリアの規模が大きいので、港北は比較的客が少ない。
その辺りを計算したので有ろう。

「暮雅チャンは、免許は持っているが車は持たない。
一人身の上に地方出張が多かったから、移動は電車とタクシーで十分だった。
それで、レンタカーを利用する事にした。
葵とは、エリア内にあるレストランで待ち合わせていた。
比較的コンパクトな駐車エリアだから、直ぐに相手が互いに確認出来た。


三度目の出会いは、葵がまた違う、まるで別人のような一面を見せた。
暮雅チャンには毛の質まで判らないが、毛皮のハーフコートをはおり、白いブラウスに紫色の超ミニに、何故か生足と言う挑発的な格好をしていた。
暮雅チャンは「おやッ。」と思ったが、偶然の人目を気にした事も考えられ、服装については口にしなかった。
昼食を選んで、食事をした。
「食事をしたら、車で出かけましよう。」と葵は言った。


葵は、愛車の赤いBMに乗っていた。
まるで、一方的な葵の言うままに、駐車場にいざなわれた。
葵は、愛車の脇に暮雅チャンを誘い、助手席側のドアを開けて言った。
「乗ってください。オジサマ、ドライブしながら話しましょう。」

葵は、暮雅チャンに同乗を進め、暮雅チャンが乗り込むと、一気にBMを発進させて西に向かった。
メーターが一気に上がって行き、百キロ前後に達すると、追い越し車線をキープして走り続けた。
運転は荒く、他車に抜かされると闘志を燃やして抜き返した。

肝心の話は、何も言わない。
葵の、負けん気の性格が運転に表れていた。
暮雅チャンは、葵の気性に驚いた。
あの温厚な市川相談役の姪とは思えない。
葵は、そのまま沼津インターまで飛ばした。


沼津のインターチェンジに差し掛かって、葵はハンドルを左に切り、ランプウエイを下がり始めた。
料金所を通過すると、右に折れてインター線の側道を右に登った。
二分もすると、左右にモーテルが林立していた。
市川に連れられて、このモーテル街の上のゴルフ場に来ていたから、「この辺は土地勘がある」と葵は言った。

そのモーテル街一軒に、赤いBMは滑り込んだ。
車には、男と女が乗っている。
葵の意図は明らかだ。
「オジサマ、何も言わずに一緒に入って。」
暮雅チャンにすれば、意外な展開だった。

「君には伊吹君が居るだろう。」
「伊吹とは結婚している訳じゃないわ、まだ縛られたくない。」
「相手が、こんな親父で良いのか?」
「私、抱かれた男以外信用しない性分だから。」
葵の目が、有無を言わさない光を放っていた。


不思議なもので、この騒動が無い時の長い間、暮雅チャンは女性に持てた覚えなど無い。
それが、この騒動が動き始めてから、急に若い娘に持てる様になった。
どうやら、暮雅チャンの復讐を心に秘めた、「不幸な香り」が、若い娘の母性本能をくすぐるらしい。
「私、運転をすると興奮するの。」

葵の行動は、まるで洋画のワンシーンを彷彿させる様に、部屋に入るや否や暮雅チャンをベッドに押し倒してミニスカートを捲り上げて暮雅チャンに伸し掛かった。
そうなると、考える暇など無い。暮雅チャンには遠慮する連れ合いが居ないのだ。
それに葵に「抱かれた男以外信用しない」と言われては、一戦犯らねば収まらない話だ。
それからはもう組みつ解れつで衣類を剥がし合い、暮雅チャンもその勢いで年甲斐も無く燃えた。


気性の激しい葵らしく、行為は激しかった。
葵主導の目くるめくひと時は、とても他人に話せる内容ではないが、「二匹の獣が絡み合った」と表現するに相応しい生涯忘れ得ぬ出来事だった。


別れ際、「これでオジサマに心を赦せる。」と言った葵の言葉が印象的だった。
男と女の間には、「友情は成立たない。」と言うのか?
もっとも今回の場合は、より強い結束が要求されているのかも知れない。


二日後、暮も押し迫った頃、伊吹正二から再び連絡が来た。
葵が、「また会いたい。」と言って来たのだ。
「どうでした。葵の身体は・・・。」
その事を、伊吹は平然と口にした。

伊吹は、伊都田葵の性格を熟知していたのだ。
暮雅チャンが返事に窮するすると、「別に構いません。あなたとの事は、葵にすれば挨拶代わりですから御心配なく。」と伊吹はクールに笑った。


葵の生き方は、葵の好きにさせる積りで、伊吹は居た。もっとも、押さえが利かない奔放さが、葵の魅力そのものなのだ。
伊吹は、そうした事も冷静に判断をする。
しかし、一方で冷酷な野心の固まりの様な不気味さを持ち合わせたクールな男だった。
「今度は、少し深刻な相談ですから。」
伊吹は、淡々と待ち合わせの方法を暮雅チャンに伝えた。


場所は以前と同じ帝国ホテルを使い、方法も前回と同じフロントでの伝言メモを使った。
大内副社長達が必死で捜している以上、人目には付けない。
慎重に指定の部屋へ向かった。
部屋に入ると、意外な事に市川相談役と葵が居た。

葵は、最初市川邸で出会った時の様に、清楚な着物姿に戻っていた。
二日前の事が幻と思えるほど、あの葵が別人に見える。
和服は女性をしとやかにさせるらしい。
御大が自ら姿を現すからには、「何か重要な話がある。」と見た。
「相談役がお越しになると言う事は、何か大事な決断がある。と言う事ですか?」

暮雅チャンが若い頃は、市川相談役は雲の上の存在だった。
その畏怖の念は、歳月を経た今でも威圧感になって残っている。
市川相談役は、終戦後早い時期に現在の会社に入社した生え抜きで、会社一筋の人生だった。
暮雅チャンは、以前まだバリバリで営業の現場責任者をしていた頃、一度だけ普段は滅多に話さない彼の青春時代の話を聞いた。
相談役の年代の人間は、多かれ少なかれ壮絶な青少年時代を経験している。

市川相談役は、戦時中海軍予科に入隊した練習生、通称「予科錬」に在籍していた。
「最初は京都の海軍予科に入隊し、航空機の操縦を訓練されたのだが、鹿児島の航空隊に配属された後、山口に転属になった。」
「戦闘機のりですか?海軍のエリートですね。」
「なぁに、私が入隊したのが昭和十九年の二月で、もう大分戦局が悪化していたから、ろくな飛行機はな無かった。」
「飛行機乗りに飛行機が無いのは辛いですね。」

「それで飛行機から小型艇の乗員に転属された。戦時中、大津島(おおつしま)に居た頃の事は今でも思い出す。」
「大津島(おおつしま)と言いますと?」
「あの雷回天(かいてん)の基地だよ。」

大津島(おおつしま、/おおづしま)は、山口県周南市、徳山港の沖合い10数kmのところに浮かぶ島である。

「あの有名な人間魚雷ですか?」
「私は特攻兵の生き残りでな、特攻志願してからは昇任が数ヶ月と早い早い。直ぐに准尉まで上がった。」
人間魚雷回天(かいてん)とは、艇首部に爆薬が搭載されて一人乗り小型潜水艇小型の潜水艇で敵艦に肉薄し、体当たりでそれを爆撃破する兵器の事で、空の特攻機と並ぶ海の特攻艇である。

「凄い経歴ですね。」
「自慢には成らない。ただの生き残りだよ。」
人間魚雷回天(かいてん)は、第二次世界大戦中に日本海軍(大日本帝国海軍)の特攻兵器の一つで人間が魚雷に乗って直接操舵し、敵艦に「体当たりして敵艦を沈める」と言う自爆型の兵器で、的(てき)、〇六(マルロク)などの別称もある。

搭乗員は潜望鏡で敵艦の位置を確認し潜航操舵、敵艦へ確実に突入して命中させる。
人間魚雷、「回天」という名は、「天を回らし、戦局を逆転させる」という願いを込めて名づけられ、山口県の大津島に基地が設けられて本格的な開発が始まった。

回天は水上艦用の酸素魚雷(九三式三型魚雷)を改造したもので、日本海軍の九三式三型魚雷は、直径61センチ、重量2.8トン、炸薬量780キログラム、時速約90キロで疾走する無航跡魚雷であり、主に駆逐艦に搭載されたのだが、回天は、これを改造して、全長14.7メートル、直径1メートル、排水量8トンで、魚雷の本体に外筒をかぶせて、一人乗りのスペースと潜望鏡を設けた。

破壊力は炸薬量を1.5トンとして、航行性能的には最高速度時速55キロで23キロメートルの航続力があった。
当初突入前に乗員が脱出するハッチがあったが後に廃止され完全な自爆型の特攻兵器に成った。

「三度出撃命令が下り、回天に搭乗したが故障が多くてな、とも発進が不能だった。」
「命拾いをした訳ですね。」
「しかし、母艦の潜水艦に水中帰還するのも半端ではなかった。」
「海中でハッチを開けて乗り移るのが大変なのですか?」

「そうじゃない。内圧が上がっている潜航艇のハッチを、内側から外すのは容易な事ではない。ありゃ棺桶で、操縦者がハッチなど開けられるものか。」
「そんなに潜航艇の内圧が高いのですか?」
「そう、だからたまたま艇が故障して発進出来ない時、潜水艦側の整備兵にハッチを開けて貰ってもバスゥーンと内気圧のエアーが爆発的に溢れ出し、乗組員は一瞬で気絶してしまう。」

「現実は想像以上で、聞いてみないと判らないですね。」
「あぁ酷い話だが、そのままだとあの世行きだから、ハンマーでコンコンと軽く撲(なぐ)って正気にさせる。」
「ハンマーで撲(なぐ)るのですか?」

「私も出撃の度に気絶した。撲(なぐ)られなければ、今頃ここには居ない。」
「見かけの格好良さばかり映画に成りますが現実は厳しかったのですねぇ。」
「あぁ、同期や上官を何人も失ったが、果たして成果が有ったのかどうか・・・。」

「そう言う生死の堺を抜けて来ているから、戦友の絆は特別な思いがあると言いますね。」
「そうそう、わしが所属していた海軍時代の元上官が防衛大の教官をしていてな、伊吹はその紹介で内に来た。」



「所で君に相談じゃが、大内達の事は、黙ってこちらに任して欲しい。」
「お任せすると言う事は?」
「社内の始末はこちらですると言っている。」

市川相談役の立場は、企業の論理の延長だった。
彼にとってはあくまでも自分の会社を守りたいだけで、暮雅チャンの思いとは微妙にズレがある。
そのズレをすり合わせて整理をする為に会いに来たのだ。


「仕方が無い、我々幹部が黙って泥を被って来たから、創業者が経営の神様で居られる。」
市川は、「フー」と溜め息をついた。勿論何かあったら、全ての責任を個人で被る覚悟は出来ている。
この頃の会社勤めの意識は人生と会社が一体感覚で、こんなものだった。
戦中とは言え、一度命を捨てる気に成った男は肝が据わっている。

市川はその為に資金援助もしている。
「葵は君に預けてある。葵と相談して、良い答えを出してくれ。」
そう言って、市川は葵を置いて部屋を出た。


「市川のオジサマ、キット私にベッドの上でオジサマと話をさせる積りよ。私は肉体(からだ)ごとオジサマに預けてある積りらしいから。」
葵が笑いながら、「市川のオジサマは、私達がもう予行演習が済んでいる事を知らないから。」と言った。
葵を抱かせる事が、市川相談役の精一杯のメッセージなのだ。

「そうと決まればさぁ、どうぞ。」
葵は、思い切り良く着物の裾を巻くり上げ、腰を掲げてベッドに両手を着いた。
目の前に、いきなり葵の下着を身に着けていない尻が現れた。
暮雅チャンは不覚にも生唾を飲み込んだ。


ソファーに座った暮雅チャンの目に、葵の白い尻が露わに誘っている。
菊文様の蕾も、ピンク色の花弁も、恥ずかしそうに暮雅チャンに見つめられ、水気を帯びていた。
ジッパーを下げ、張り詰めて居たものを外に引き出すと、それは暮雅チャンの思いの他硬くそそり立っていた。
暮雅チャンは立ち上がり、後ろから葵の中へ入って行った。
「アッ。」

葵が小さく声をあげ、やがて暮雅チャンの腰の動きに合わせて善がり声をあげ始めた。
「肉体(からだ)ごと預けた」と言うなら、この肉体(からだ)の使用権は預かった私にある。
存分に使用(つかわ)させて頂く事にして、腰のリズムを合わせ、抜き差しをユックリと楽しみ始めた。
「市川のオジサマが伊吹に任せたって・・・」
葵が、暮雅チャンを受け入れながら、伊吹が二人を始末する事を告げた。

葵の話を聞きはしたが、もう暮雅チャンは、それどころではない。
目の前の快楽を貪るのに夢中で、事の重大さなど考える余地もなかった。
腰の動きが激しさを益し、突き入れる強さも益してガッンガッンと葵の恥骨にあたる。
獣の咆哮が響き渡り、部屋の外まで聞こえそうだった。



年が明けた正月の四日、テレビが大内副社長の乗ったベンツが伊豆高原近くのゴルフ場に行く途中で雪道に運転を誤り、崖から転落した「事故」を報じていた。
あの辺りは、明け方路面が凍結する。
同乗していたのは、運転していた広告会社電広堂映像常務の坂口、大内の部下で特別販売部長の山西、そして身元不明の五十絡みの女性だった。
暮雅チャンは、その身元不明の女性が気になった。


正月明けのワイドショウは、身元不明の女性が、「大内の愛人だった。」と報じていた。
靖子だった。
その靖子の娘・良子が、以前に焼死体で発見され、「殺害された」と断定された謎を大々的に報じていた。
良子が裏ビデオに出演していた事は報じられなかったが、恐らく被害者と言う事で、マスメディアが自粛したのだろう。
いずれ週刊紙が嗅ぎ付けて取り上げるかも知れない。


「そうそう、靖子の事故の後に良子の焼死事件を担当していた長野県警の武藤警部がヒヨッコリ現れましてね。良子と靖子が立て続けに亡くなったのは不自然に思ったらしく、私に会いに来ました。」
「その武藤と言う刑事は、何か掴んでいたのですかね?」
「さぁ、どこまで核心に迫ったのか・・・何しろ本人曰(いわ)く個人的な捜査で、私の方は離婚して長く二人には会ってはいない事になっていましたから。」


フラリと、武藤警部が暮雅チャンの所へ現れた。
当時暮雅チャンは居場所を転々と変わり、西武練馬と中央線中野を結ぶ幹線道路の途中、中野寄りの幹線から少し入った場所にある安アパートに身を潜めていたが、どうやら警察にとっては直ぐに居場所を特定できるらしい。
娘の良子の「事件を追ってくれている」と言う感謝の念はあるのだが、暮雅チャンにとってはうっとうしい存在でもある。

武藤警部が「散々歩き回って腹が減った。」と言うので近くのラーメン屋に行く事になった。
「安アパートに近い」と言うだけあまり旨いとは言えないラーメン屋へ、暮雅チャンは武藤警部を案内し、店の一番奥のテーブルを選んで座った。
二人の会話は、あまり人聞きの良い内容ではない。

「いったいあの青年と娘さんは、どこで会ったのでしょうか?」
ラーメンを啜(すす)りながら、武藤警部補は、「良子と長野の地を結ぶ接点も見つからなかった。」と言う。
いったい良子に何があったのだろう?

考えて見れば、養い子の良子と一緒に暮らしたのは良子が十歳くらいの少女の時の事で、大人に向う思春期から今日まで、良子がどんな人生を送って来たかも暮雅チャンは知らなかった。


「あなたは、武藤刑事を適当にあしらってしまった。」
「えぇ、妙な形で靖子の死に関わってしまいましたからね。仕方が無かったのです。」
「それにしてもその武藤と言う刑事は熱心ですね。」
「昔かたぎなのでしょう、本人も近頃の今風の警察には馴染めないと言っていましたから。」


報道がされた頃、伊吹正二から連絡があった。
「・・・始末した。」
「済みません。手違いで、奥さんまで巻き添えにしてしまいました。」
「やはり、君だったか。」

「同乗していた女性が、大内の愛人だとは判ったのですが、身元まで調べ切れなかったのです。この件では、市川も葵も済まながっています。」
「仕方が無い、私も靖子が大内の愛人とは思い至らなかった。せめて彼女が、どんな生活をしていたか教えてくれ。」
「それは・・・あなたは知らない方が良いでしょう。余り、良い報告は出来ませんが。」
「構わない、私は知りたい。葵を含め、君達は知っていたのだろう。」
「判りました。私も貴方には説明責任がある。」


伊吹とは、新宿東口の有名な喫茶店で、会う事にした。
大内が死亡して、今や暮雅チャンの監視も緩んでいるはずだった。
指定した喫茶店に行くと、待っていたのは伊吹ではなく、葵だった。
「私は、まだオジサマに預けられている身らしいの。伊吹が私に、行って慰めて来いって。」

「いゃ、靖子がどんな生活を送っていたか知りたいだけだ。」
「やはり、まだ愛していたのだ。靖子さんの事は、ここで話すのは、少し抵抗がある話なの。」
暮雅チャンには、凡その見当が付いた。
「判った。何処で話す。」
「私の部屋へ。」


(最後の決戦)
夢と現の狭間に有りて◆第十三話(最後の決戦

◆◇◆◇◆(最後の決戦)◆◇◆◇◆◇

葵の部屋は、新宿から歩いて五分くらいの一等地にあるマンションの五階だった。
さして広くないが、一人で住むには充分で、女性好みの、しゃれたオープンスペースの部屋だった。
当然の事の様に、葵は慣れた風情で暮雅チャンにビールを勧め、自分はさっさと衣類を脱ぎ、全裸でシャワールームに消えた。

やがて、シャワーの水音が聞こえて、曇りガラス張のシャワールームの仕切りは、葵の裸身を、水しぶきの陰と伴に映していた。
「お待たせ。良かったらオジサマもシャワーを使って。」
タオルを巻いた葵が、暮雅チャンに告げた。
若い女に翻弄されるように、暮雅チャンの行動はまるきり葵のペースだった。


暮雅チャンがシャワーから出て来ると、葵は、「必ず会社を立て直すので、黙って任せてくれって。」と、市川の伝言を話した。
大内副社長の「事故死亡」を受けて、臨時役員会が開かれ、市川相談役が社長人事絡みの、繋なぎの執行役員に就任した。
二ヵ月後に臨時取締役会を開催し、市川副社長の就任を決議する段取りになっていた。
結果的に、市川相談役の社内復権に力を貸した事になる。

恐らく大内副社長乱行の事実が、「他の役員の発言を封じた」と暮雅チャンは推測した。
総務部副部長が、山西の後の特販部長に昇格し、総務部副部長には伊吹正二課長補佐が、異例の抜擢で栄転した。
結局、「企業内の闘争だった。」と思うと、暮雅チャンは空しい気がした。


その後の成行きで、靖子の事は葵と行為に及んでから、その最中に聞いた。
「大内には変な性癖があったの、それを満足させる為に、靖子さんは囲われていたの。」
内容は刺激的で、葵は、その内容を興奮に利用していた様だった。
「大内に囲われているのを、何時から知っていた。」
「名前は判らなかったけれど、女性の存在は、調べ始めてから直ぐ掴んだわ。」

それにしても、市川相談役の手の者は、やる事が早い。
「ところで、奴の性癖は何で判った。」
「大内の妾宅を、徹底して盗聴器で録音したの。」

「盗聴器で録音したなら、会話の中に靖子の名は出なかったのか?」
「名前は一度も呼ばなかったわ。大内は、ただ卑猥な事を命令するだけ。あれだけ従順な女性は、私には考えられない。」
その内容が、「凄かった。」と言いながら、葵は、上半身を暮雅チャンに密着させ、腰だけが器用にリズムを刻ませている。


「それで、大内は靖子にどんな事をさせていた。」
「今更聞いてどうするの?女の私からは、内容がきつ過ぎて言い難いわ。」
「それじゃあ、ヒントだけ。」
「あれは、SMって言うのだと思う。」

どうやら靖子は、大内にかなりの手荒い行為をさせられていた様だ。
伊吹正二の調査によると、靖子が出演した組織の最初の一本は、大内の立会いの下、大内の趣味で撮影された物で、S気の強い大内らしい内容だった。
伊吹は、何処からか靖子のデビュー作を手に入れていた。
葵は、伊吹正二からその映像を見せられ、その強烈さに興奮し、伊吹正二の前で「自らパンティを下げた」と言った。

「だって、激しく責め立てられている凄い場面が、大画面ですもの。」
暮雅チャンを受け入れた葵の腰が、激しく動いて興奮を告げている。
葵は暮雅チャンの元妻の痴態を思い出して、興奮していたのだ。
それでも葵は、「あれは、オジサマは見無い方が良い」と暮雅チャンに言った。
勿論、言われなくても暮雅チャンに見る気はない。


「何で靖子がそこまで大内の性玩具(おもちゃ)成ったのか不思議でしたが、徹底して犯られてしまえばそれが普通感覚になり、異常とは思えなくなるのかも知れないですね。」
「人の心は本人でなければ判らないですからね。」
「そぅ本人でなければ判らないもので、傍(はた)でとやかく考えても何もならんですね。」

感情が入れば「何でなのだ」と成る事も、冷静に客観視すれば理解出来る事もある。
世の中で人と人がぶつかる切欠の多くは、主体性と客観性の「思考バランスの悪さ」からである。
主体性ばかりで思考すると、凡そ不満ばかりの人生になり多くの敵を造る事になる。
気が付いたが、どうやら暮雅ちゃんが「終始冷静を保とう」と感情を抑えて客観視して話す事が、私に違和感を感じさせている様だった。


仕事柄、葵の部屋の映像機器は、自社製品の最高のものが据えてある。
靖子の、見せる為の猥褻映像はもの凄(すご)く、若い女性には目の毒だったのだ。


葵の腰の動きが早さを増した。
「アァ。」
葵の口から、歓喜の声が漏れ始めた。
私は靖子の事を、それ以上問いかけるのを辞めた。
もう、葵の口から何か聞きだすのは無理だった。
暮雅チャンも、行為に没頭する事にした。元妻である靖子のSM裏ビデオの痴態など、想像しても仕方が無い。


帰り掛けに、「市川からの軍資金だから。」と、葵にアタッシュケースを渡された。
帯付で三十束、三千万円入っていた。
靖子の香典の積りなのか、それとも口止め料の積りなのか、市川の真意は判らない。
葵の話しによると、靖子は教団を離れ、大内専用の玩具にされていた事になる。
それも、大内の卑猥なSM要求に従順に従い、ゴルフにも伴われていた。

外にも連れ歩いた所を見ると、靖子はその境遇から逃れる気は無かった様だ。
良子の死を、靖子は知っていたのだろうか?
知っていたのなら、どう解釈したのだろうか。
その心境は伺い知れないが、靖子には、それ以外に生きる道がなかったのかも知れない。
大内は大内で、靖子に暮雅チャンを重ね合わせて、行方の掴めない鬱憤を、靖子を責める事で、晴らしていたのかも知れない。


兎角、男と女の事は奇妙なものだが、最近の暮雅チャン自身も、他人の事は言えない品行で、他人が見ればただのスケベ親父だ。
人間なんて、「馬鹿な者だ」と、暮雅チャンは思った。


「処で、靖子の最後はどんなだったか知ってたら、教えてくれ。」
「いいの、そんな事聞いて。」
「あぁ。」
暮雅チャンは、長い事靖子を手放した事を後悔していた。
せめて最後くらいは知りたかったのだ。

彼女の証言に拠ると、二台の大型車両で逃げ場を塞ぎ、最後は「トコロテン式に崖に押し出した。」と言う。
伊吹らは用意周到で、押し出したトラックの全面にタイヤを括りつけ、ゆっくり押したらしく、「乗用車に痕跡を残さなかった」と言う。
あっさりと殺人を犯す伊吹は、何者なのだろうか?葵も、殺人遊戯を楽しんでいる節がある。
恐怖に引き攣った靖子や大内達の顔が、窓から覗いた様な気がした。


内海健太とは、大内「事故騒ぎ」の詳細を連絡取り合っていた。
実はこの時やっと、暮雅チャンは内海に別働隊の存在を伝えた。
そして別働隊が、成果を上げた事になる。

良子の仇の生き残りは、広告会社電広堂映像社長の青柳と教祖の鷲頭創元の二人だった。
それぞれ思いは違ったが、「次はこの二人だ。」と言う思いが、暮雅チャンと内海にはあった。
主力の半数が消えたから、相手が体勢を再構築する前に、「こちらが攻勢を掛けよう」と、マンションを借りて内海と合流した。
今は教団の詳細が判らない。
美佐の情報があり次第、手を打つ積りだ。


二月に入って、伊吹正二が「後の始末も手伝う」と言って、マンションにやって来た。
そして、大内の件の礼を言った。
「おかげさまで、会社の病根を取り除けました。」
伊吹は「市川に命ぜられた。」と言うから、暮雅チャン達のお目付けを兼ねているに違いない。

その日は、北陸、東北は豪雪だが、東京は青空が出て、日差しが明るかった。
世の中奇妙なもので、伊吹がやって来て五分と掛からないうちに、美佐が尋ねて来た。
このタイミングで、急に暮雅チャンに報告の必要が出来、「理由をこじつけて休暇をとって来た」と言う。
美佐が、青柳から「明日撮影に入る。」と言い渡され、「チャンス」と見たからだ。
内海と美佐は伊吹正二と初対面だが、目的を共有している安心感からか、直ぐに打ち解けた。


美佐は、青柳に教団の神奈川講和会場の受付に配属され、教祖の鷲頭創元に挨拶に、秩父山中の本部に連れて行かれた。
そこで、奇妙な呪詛儀式を見せられ、見習い巫女に成る事を勧められた。
「それがね、おかしいの。教団の修行道場に行くと、大きな板の間に、丸くおびただしく火の灯された蝋燭が並べられていて、その中に星をデザインした様な形に、また火の灯された蝋燭が並べてあったの。」
美佐によると、その真ん中にマットレスが敷いてあり、巫女は、般若心経の読経の唱和される中、「そこで教祖や幹部による輪姦を受ける」と言う。


この星型のマークを、五芒星(九字護身法によってできる図形マーク(セーマン)と格子状のマーク(ドーマン))と言い、意味は、一筆書きで元の位置に戻る事から、「生きて帰ってくる」という意味でもある。
多分に怪しげだけれど荘厳な雰囲気で、美佐も「思わず引き込まれた。」と言う。

灯された蝋燭の列は結界であり、輪姦でイキ続ける巫女は無我の境地を彷徨(さまよ)い、その性的エネルギーは、万物を生み出す力を持っている。
実際に呪詛中の巫女は、「凄いパワーの精神波動を周囲に撒き散らす。」と言う。
巫女の姿をジット見ていると、「美佐もその気になった。」と言う。
「あれは、結構やばいワ。」


「教団の演出の効果だろうか?」
伊吹正二が口を挟んだ。
「うぅん、私、実際に呪詛巫女を三回経験した。あれは本当に何か来る。これ以上は正気が保てないから、抜け出して来たの。」
「正気が保てない?」

「えぇ、事前に承知の私でもあぁ成るのだから、あれじゃあ無防備の靖子さんや、良子さんが教祖の言いなりに成っても仕方が無いわ。」
「すると、何らかの力が、鷲頭創元にあると言うのか。」
「少なくとも周りの人間は皆、鷲頭創元のコントロール下にあると思うわ。凄いパワーよ。」
「そいつ、化け物か?」
伊吹正二が信じ難い面持ちで言った。


「いずれにしても、信者が増えて行く。信教の自由で、余程の証拠が無い限り、野放しだ。」
美佐が、教祖も、青柳も、「明日は伊豆高原に居る。」と言う。
どうやら美佐を連れて、伊豆高原の教団研修道場と例の電広堂映像の別荘に行く予定らしい。

伊豆高原でも、人数は大いに違いないが、教団本部から比べると遥かに手薄だ。
それで、美佐が知らせに来た。
ましてや美佐が主演で撮影する時に好き者の教祖が見学すれば、撮影隊以外の人数は僅かだ。
あの別荘を、急襲すれば勝機がある。
暮雅チャンはそう考えていた。


「美佐ちゃん、心細いとか何とか言って、撮影に鷲頭創元を立ち合わせられないかな、そうすれば青柳も同席するだろう。」
「教祖に撮影を見てくれと言えば良いの、やってみる。」
「内海さん、伊吹さん、伊豆高原の電広堂映像の別荘が、裏ビデオ用の隠しスタジオだ。撮影中は警戒が手薄になる。」
「よし、そこを襲おう。」

内海が勢い込んで言った。
「手段はどうする?」
伊吹が暮雅チャンに聞いた。
「昼の三時前後に、撮影カット割の休憩がある。その時に、美佐には裏口から外へ抜け出してもらう。」
「あぁ、あの別荘は利用の空き日が結構あるから、防犯上、窓には全て頑丈な轍の泥棒避けが設置してある。」

内海が下調べをしていた。
「そうか、その後は出入り口を全て塞げば良い。」
「そりゃあ、お誂(つら)え向きだ。火を付ければ逃げ場は無い。」
伊吹の脳裏に、閃きのランプが灯った。


「着る物を必ず持って来てね、着替えをしたら怪しまれるから、裸で抜け出すわ。」
「判った。意表を突くにはそれが良い。まさか裸で抜け出すとは奴らも思うまい。」
「その、ドアを塞ぐのはどうする。」
「良い手がある。構造上可能だから、ボックスタイプの車両の荷台で、出入り口をピタリと塞げば良い。」

「なるほど、上手く操作すれば一分も掛からず閉鎖出来る。」
「しかし、その車両、今日に今日、何処で調達する。」
「心配するな、あぁ言う現場だ、現場に鍵付きの撮影隊の車両が何台もある。」
「そうか、それなら、指紋さえ残さなければ証拠が残らない。」
伊吹が、ニヤリと笑った。


「チョット待ってください。私は犯罪の一部始終を聞く事になる。」
これ以上、話の先が聞けなかった。私は暮雅チャンの話を制した。
黙って聞いていれば、彼は明らかに犯罪を告白していた。
それも、大量殺人の話しだ。

私の脳裏には、燃え盛る別荘のイメージが、写し出されていた。
暮雅チャンが冷静に話しているからではない、ズーット感じていた違和感の正体はこれだった。
ドラマのストーリーなら、「復讐お見事」でも、これは「犯罪だらけの実話」と言う事だ。
本来なら私ではなく、武藤と言う刑事に告白するのが筋である。

「この話、どんな意図で私に話すのです。」
「出来れば、あと五年ほどしたら、作品にしてもらえませんか。」
「しかし何故?これは犯罪です。」
「もう当時の関係者は、若手以外何人も残っていません。私ももう長くはない。それに茂夫さんも彼らを特定できません。」

「しかし、私は名前を聞いています。」
「ハハ、美佐も、葵も、伊吹も、全て偽名です。それに、伊豆高原の別荘の火災は事件にもなっていません。」
「どう言う事ですか?」
「別荘の火災は、ただの失火で決着が付いています。現場は綺麗に片付いて十五年、今更新事実が出てきても、何の証拠も残っては居ません。」


「もう跡形も無く成っていますから。」と暮雅チャンが言うに、大内副社長の車両事故、別荘火災事故、市川相談役がしっかりと手を打っていた。
「ベットで葵から聞いた話だが」と断って言うに、或る検察官僚上がりの与党大物代議士の支援を得て、しっかりと押さえ込んでいたのだ。
その代議士は、検察官僚時代のキャリアを生かし、政財界から「切れ者」と恐れられていた。
彼に力が在ったのは、検察をコントロール出来るからだ。


三回に分け、億単位の献金を大物代議士のホテルの部屋に運んだのは、葵だった。
「葵が行った」となれば、金の受け渡し以外に何があったか、暮雅チャンには見当が付いた。
暮雅チャンは、テレビにも始終顔を出すあの大物代議士の顔を思い浮かべ、葵の大胆なSEXを思って思わず嫉妬した。
それで暮雅チャンは、知らず知らずに股間の物が硬さを増し、抱いていた葵を乱暴に攻め立てて居た。
それが葵には望む処だったらしく、激しく応戦し、互いに酷く乱れて二人とも果てた。

奔放な葵らしく、そうした仕事は「面白くて止められない。」と言う。
勿論、何時もこの企業ゲームを積極的に楽しむつもりでいるから、相手の「殿方には喜ばれる」と言う。
暮雅チャンは葵をふしだらとは思わない。
世間では、男の多くが始終遊び相手を探しているのに、女性にだけ貞淑を求めるのはフェアではない。
葵が暮雅チャンにここまで話すのは、暗に「私で、SEXを遠慮なく楽しむだけ楽しめ。」と言う意味だろう。見上げた女だった。

実はビデオデッキ戦争当時も、この大者代議士の存在が、あの裏ビデオメーカーの秘密工場から、大量に一社のデッキが出て来た不自然さをも押さえ込んでいた。
暮雅チャンの在籍(いた)会社とは通産省課長から代議士転身した当初からの腐れ縁で、窓口は若き日の市川だった。

大内や鷲頭創元も故郷選出の地元大物代議士は使っていたが、相手が相手で、勝負は直ぐに付いた。
この派閥の違う与党代議士同士の裏の戦いは、検察に弱みを握られていた大内側の代議士が、白旗を上げて泣きついた。


「どうやら全てかたずいたよ。」
「それにしても、伊吹君は冷静沈着、それに度胸が座った男ですね。」
「あの男はチョット変わった経歴の持ち主でな、防衛大学を卒業してどう言う訳か内の社に入った変わり者だよ。」

「防衛大と言えば自衛隊の幹部候補生ですね。」
「奴は、詳しい事は余りわしにもしゃべらないが、特殊訓練も受けていたらしく、わしの下で社の裏工作を一手に引き受けてくれておる。まぁ、これ以上は知らん方が良い。」

流石(さすが)特攻の生き残り、市川は暮雅チャンが考えて居た以上に老獪だったのである。



「そんな汚い話があったのですか。それは知らなかった。」
茂夫が、暮雅チャンのビデオ話に感心していると、暮雅チャンはこう付け加えた。
「あの時のビデオデッキ戦争の教訓から、エスターニー方式で敗れたメーカーが、今度のDVDの発売に於いては自社方式に付加価値をつけた。もう時代的に裏映像は弄れないから市場で有利に運ぶ為に、得意分野のゲーム機でも見れる様にした。」

「なるほど、最初からゲーム機でも再生出来る様にしたのは、往時の裏ビデオ作戦の代わりですか?」
「えぇ、余程悔しい思いをしたんでしょうね。今度は抜かりなく、当初から市場をリード出来る策を講じた。」
「そんな背景があったと言われると、頷けます。」
つまり、企業間戦争の駆け引きは、「未だに後を引いている」と言う事だった。


「それじゃあ、電広堂映像と教団のその後はどうなったのですか?」
「電広堂映像は息子が跡を継ぎましたが、その後吸収合併で違う会社になっています。」
「つまりもう、会社が消滅している。」
皮肉な事に、「息子は正攻法一本やりで、生き残れなかった。」と、暮雅チャンは言った。

「教団の方ですが、実は火災事故の後直ぐに内海健太が教祖になり、美佐と二人で教団を乗っ取っています。その健太も亡くなり、今は女教祖と言う訳です。」
実は、内海健太と美佐は元々血縁関係が無い事に気付いていて、男女の仲だった。
そこに、暮雅チャンの話が来た。
したたかな事にあの二人は、当初から乗っ取りを画策していたのだ。
名は出せないが、教団が支援していた大物代議士は、既に孫の代になって総理を目指している。


暮雅チャンは、「箱根で別荘の火災事故が有った後に武藤警部補が、定年退職の挨拶に来た」と言う。
「これで私がこちらに伺うのも最後です。娘さんの件は残念です。どうやら、どなたかが上手く始末を着けたような気がしますが、私は時間切れです。」

「いゃ、武藤さんには色々お骨折り頂きまして・・・ご苦労様でした。」
「いや〜、ご主人が余り捜査に協力して頂けなかったものですから、何か訳が在るのじゃないかと過去を洗って見たのですが、奥さんの田舎は昔の事を言いたがら無い土地柄ですね。」
あの海岸にへばり着く様に家並みが続く寒々とした靖子の故郷が、「暮雅チャンの脳裏に浮かんで来た」と言う。

バス停傍の、若い者のアジト「番小屋」と火の見櫓(ひのみやぐら)が並んでいる何の変哲も無い風景だったが、あの土地独特の風習の象徴だった。
「その土地柄が私達夫婦を引き裂いたのですが、あの土地も時代とともに変わりました。もぅ何も聞かんで下さい。」
「そうですか、私の勘ですがね、ご主人が何か隠しているとズット思っていました。」


暮雅チャンは、「あの翌年、株式が市場最高値を付け、政府が金融を引き締めてバブルが崩壊、日本の繁栄が終わった。」と、言った。
暮雅チャンは戦後の日本の繁栄に携わり、その終焉にも立ち会ったのだ。
電広堂映像は企業力を失い、暮雅チャンの在籍していた会社も大量の人員整理で凌いだ。
その先頭に立ったのが、市川社長と葵の夫・伊吹正二人事部長だった。
日本中の企業が、受難の時代を迎えていた。


「すると、市川新社長にしても、内海新教祖にしても、前任と入れ替わっただけじゃないですか。」
「そうです。何も変わらない。良子の仇討ちには、確かに彼らに協力して貰いましたが、空しいですね。私のした事は、結果的に次の権力者を作っただけでした。」
「それで、こちらの山里に隠棲(いんせい)をされた。」
「茂夫さん、私は世捨て人です。人は皆、夢と現(うつつ)の狭間に生きているのですね。」


暮雅チャンの七十年、戦後の六十年は、「いったい何だ」と言うのだ。
企業の利益優先の論理は、時々暴かれて新聞紙上を賑わしているが、けして後を絶たない。
宗教は、相変わらず善人を食い物にする事に余念がない。
権力者の手腕は、すなわち、民からの富の収奪そのものだった。


私は、大きな疲労感を覚えながら、山間の村を離れ、長野の山里を後にした。


これは大人の御伽噺である。
山道を下りながら、私は彼の所在を忘れた。
下界は、うだるように熱かった。
静岡に帰る途中、ハンドルを握りながら、暮雅チャンの別れ際の言葉を思い出していた。

「茂夫さん、実は別荘の焼け跡から、鷲頭創元だけ死体が上らなかったのです。」
「教祖の創元の、焼死体が確認出来なかった?」
「見つかった遺体の身元は、全て警察で確認出来たのですが、鷲頭創元は見当ら無かったのです。未だに謎です。」
「それは本当ですか?」

私は、戦慄の現(うつつ)の中にいた。
鷲頭創元は、やはり特殊な能力を秘めた怪物だったのか?
「えぇ、例の武藤刑事が遺体が見つからないと言って来ました。あぁなるともう、彼の執念ですね。」
「すると、その武藤と言う警部補はまだ娘さんの事件を追っていると?」

「前後の状況から別荘に居る筈の鷲頭創元の遺体は見つからず、生きているなら現す筈の姿が忽然と消えて、以後の足跡は見つからないらしいです。」
「まさか、・・・・。」
「創元は何処かに生きているのかも知れませんし、信者が遺骸を隠したのかも知れません。」


下界のアスファルト道路は、陽炎(かげろう)のような熱気を立ち昇らせていた。

帰宅後連絡を試みたが、暮雅チャンのHPは閉鎖されメールも既に受信されなかった。


連絡が取れないのは、明らかに「暮雅チャンの意志だろう」と見当が着く。
しかし何故か暮雅チャンの話がどこまで本当なのか気に掛かったので、思い切って長野県警に電話で武藤刑事の所在を確かめて見た。

武藤刑事が実在なら、暮雅チャンの話の裏が取れる。
丁寧に頼み込んだら、一課(刑事課)の主任と名乗る警官が電話口に出た。
「あぁ、武藤なら数年前までここの一課(刑事課)に在籍していました。」
「一度お目に掛かって伺いたい事が在るのですが、武藤さんの連絡先を教えて頂けませんか?。」

「折角ですが、本人は既に死亡しておりまして。」
「亡くなった。ご病気ですか?」
「事故死です。」
「交通事故ですか・・・。」

「それが、ハッキリしないのですよ。彼が何故あんな所で転落したのか?」
「転落ですか。また、どんな所で?」
「伊豆の山道で道路脇に車を止め、崖を覗き込んで落ちたらしいのですが、何でそんな所でそんな事をしたのか、何しろ遠方で管轄も違いますから、現地の所轄署の捜査で結局事故と言う事に成りました。」
「・・・・。」



            




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未来狂 冗談 作

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【非日常の愛・妻の調教物語】

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陵 辱 の 貴 婦 人 シリーズ

◆蒼い危険な賭け・京香◆

(あおいきけんなかけ・きょうか)  完 全 版

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未来狂 冗談 作

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◆某出版社応募(予定)未公開予定作品◆

==(現代インターネット奇談シリーズ)==
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「小説・現代インターネット風俗奇談」

【電脳妖姫伝記】

◆ 和 や か な 陵 辱 ◆

(なごやかなりょうじょく)

未来狂 冗談 作
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未来狂冗談(ミラクルジョウダン)の

冗 談 小 書 店

【この作品群は著述業未来狂冗談(ミラクルジョウダン)の著作品です。】

公開はしていますが、
著作権はあくまでも作者にありますので、作者の了解無く
本作を引用等しないで下さい。
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なお本作に登場する組織、団体、人物キャラクター等は創作であり、
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日本人の祖先は何処から来たのか?
世界文化遺産・富士山名称の謂(いわ)れ
天孫降(光)臨伝説と木花咲耶姫(このはなさくやひめ)
神武東遷物語・神話顛末記最新版
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「日本の天皇家の祖先は朝鮮半島から来た」を検証する
日本史時代区分大略・一覧表
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】【御女中(おじょちゅう)と腰元(こしもと)の違い
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】【「異聞・隠された明治維新」(明治維新にまつわる噂の謎)最新版
】【西郷隆盛・命を賭した西南戦争(西南の役)
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】【歴史・領土問題と反日運動を考察する
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】【安倍姓安倍晋三と安倍姓二千年の歴史 のメモ」

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【◆】巨大地震記録・年表
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【*】短編人生小説 (4)

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裁判員制度シュミレーション

凌 虐 の 裁 き

(りょうぎゃくのさばき)


未来狂 冗談 作

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ショート・ストーリーです。よろしかったら、お読みください。


【*】短編人生小説 (3)

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短編小説(1)

「黄昏の日常」

我にしてこの妻あり


未来狂 冗談 作

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ショート・ストーリーです。よろしかったら、お読みください。

【*】女性向短編小説 (1)

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短編小説(1)

「アイドルを探せ」

青い頃…秋から冬へ


未来狂 冗談 作

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ショート・ストーリーです。よろしかったら、お読みください。

【*】社会派短編小説(2)

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社会派短編小説(2)

「生き様の詩(うた)」

楢山が見える


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ショート・ストーリーです。よろしかったら、お読みください。

◆HP上 非公式プロモート・ウエブサイト公開作品紹介◆

【小説・現代インターネット奇談 第一弾】


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「小説・現代インターネット奇談」
【電脳妖姫伝記】

【*】和やかな陵辱


(なごやかなりょうじょく)


未来狂 冗談 作

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【小説・現代インターネット奇談 第二弾】

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戦 後 大 戦 伝 記

夢と現の狭間に有りて

(ゆめとうつつのはざまにありて) 完 全 版◆


未来狂 冗談 作

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「あえて、暴論」

ジョウダンの発想

◆冗談 日本に提言する◆

未来狂 冗談 作

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冗談 日本に提言する・・・(来るべき未来に)

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ぜひぜひ読んで、感想をお聞かせ下さい。
異論・反論も大歓迎!!

====(日本史異聞シリーズ)第六作====
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「小説・怒りの空想平成維新」

◆たったひとりのクーデター◆

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 愛の形ちは、プラトニックにいやらしく

◆仮面の裏側◆

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とくに男女の恋愛に関しては・・・
ちょっとHでせつない、現代のプラトニックラブストーリー。

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◆仮面の裏側外伝◆

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◆{短編集 仮面の裏側・外伝}・・・・・・・・(現代)

◆ウエブサイト◆「仮面の裏側外伝」

====(日本史異聞シリーズ)第一作====
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東九州連続怪死事件・事件は時空を超えて

◆八月のスサノウ伝説◆

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八月のスサノウ伝説・・・・・・・・・(神話時代)

◇◆◇メルマガ・サンプル版◇◆◇ 東九州で起きた連続怪死事件。
そして現代に甦るスサノウの命、
時空を超えたメッセージとは・・・

====(日本史異聞シリーズ)第五作====
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「権力の落とし穴」

本能寺の変の謎・明智光秀はかく戦えり

◆侮り(あなどり)◆

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侮り(あなどり)・・・・・・・(戦国〜江戸時代)

◇◆◇メルマガ・サンプル版◇◆◇ 天才信長とその最高の理解者、明智光秀。
だが自らを神と言い放つ信長は
「侮り」の中で光秀を失ってしまっていた・・・

====(日本史異聞シリーズ)第四作====
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南北朝秘話・切なからず、や、思春期

◆茂夫の神隠し物語◆

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茂夫の神隠し・・・・・・・・・(室町南北朝時代)

◇◆◇メルマガ・サンプル版◇◆◇ 誰もが通り過ぎる思春期、
茂夫の頭の中はHなことでいっぱい。
そんな茂夫が迷宮へ迷い込んでく・・・

====(日本史異聞シリーズ)第三作====
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鎌倉伝説

非道の権力者・頼朝の妻

◆鬼嫁・尼将軍◆

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歴史上他に類を見ない「鬼嫁」が存在した。
その目的は、権力奪取である。

====(日本史異聞シリーズ)第二作====
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うその中の真実・飛鳥時代へのなぞ

◆倭(わ)の国は遥かなり◆

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倭の国は遥かなり ・・・・・・・・・・・(飛鳥時代)

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今、解き明かされる「二千年前の遥か昔」、
呼び起こされる同胞の血

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