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samurai 【和やかな陵辱】作者本名鈴木峰晴表紙ページ【サイトナビ】に戻る。

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公式プロモート・ウエブサイト短期公開作品

この下が、作品です。このままお読み頂けます。

◆本作はまぐまぐ作品ではありません。
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【小説・現代インターネット奇談 第一弾】

==(現代インターネット風俗奇談シリーズ)==
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【電脳妖姫伝記】

和 や か な 陵 辱

(なごやかなりょうじょく)

未来狂 冗談 作

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======「現代インターネット風俗奇談」======
小説・電脳妖姫伝記

【あらすじ】

或る日突然、ナカヤンの友人、リュウちゃんが居なくなった。

奇妙な事に、部屋の中にはたった今までリュウちゃんが居た痕跡が残っていた。

何もかもそのままに、忽然と姿を消したのだ。

ただ姿が見えないだけでは、警察も事件にならない。

ナカヤンが恋人の京子と二人でリュウちゃんの安否を捜す。手がかりはインターネットサイトに残された「奇妙な文字化け。」だった。

この文字化け、パソコンがプロの京子が懸命に挑戦しても歯が立たない異常なものだった。

失踪したリュウちゃんの部屋には霊気漂う鏡があり、その無気味さはナカヤンだけでなく、恋人の京子も感じていた。

「リュウちゃんを探す。」と言って見たものの、ナカヤンは何とも表現できない無気味さに付き纏われていた。

ナカヤンは言い知れぬ不安を感じながらも、京子の勢いに引きずられる様にリュウちゃん捜索の深みに嵌まって行く。

ネット上を捜索していて、リュウちゃんのHP交信仲間も判明、やがてその交信仲間も捜索に加わって、物語は思わぬ方向に進展して行く。

失踪した男の、豪華マンションに残された婚約者は、気品溢れる美人令嬢・九条民子だった。

どうやら、PC(パソコン)と鏡にその秘密がありそうだ。

罠を仕掛けた一同は、「身の毛もよだつ恐ろしい体験」をする。

「オネガイキヲツケテ」、鏡の中から現れる無気味な白い影は何かを訴えている。

その素人捜索に、途中から永田と名乗る奇妙な警察官が個人の資格と言いながら勝手に参加してくる。

その警察官の正体は・・、何者か。

女性の全裸他殺死体が公園の植え込みに棄てられているのが発見され、それが失踪事件と線が繋がって、やっと警察の本格捜査が開始された。

思いがけない人物が警察官だったり、被害者が犯人だったり、意外な展開に鏡の霊が絡みながら、話が複雑化して、個人の小さな事件のはずが少しずつ思わぬ方向に膨らんで行く。

怪奇な現象と国家単位の陰謀、そして重大犯罪が次々に起こり、ナカヤンの手には負えない。

この閉塞感が漂う文明社会に生きる者達の、互いが織り成す打算と欲望と、安らぎを求める精神の攻めぎ合い。

自ら生み出したIT文明に人は葛藤し、人は便利さと引き換えに時間と余裕を失い、精神が耐え切れない。

人は安らぎを、原始の生存本能(暴力的な)と生殖(性・SEX)本能に救いを求める。

つまり、文明が発達すればするほどバランスを取る為にこの手の欲求は強くなり、上手く逃がさないと暴発する。この心のケアについては世間の建前が理解の邪魔になっている。

被る(こうむる)方が平穏を臨む時、それは始まる。

ルールに自ら縛られた者に、抵抗は許されない。ただ和やかに陵辱されるのみ・・・・・。強いられる秘密パーテー、「今夜は、私でお遊び頂きます。」今始まる・・・・・和(なご)やかな陵辱の宴(うたげ)。

物質的豊かさと平和を維持する為に、日本は何を失ったのか?弱い個人は誰が守るのか?国は見捨てては居ないのか?

ナカヤンの恋人京子が拉致され、山梨、長野、富山、石川、大追跡が始まる。物語は謎が謎を呼び、殺人事件と超常現象に発展しながら、ナカヤンの想像を遥かに超えて、組織的陰謀の背後が見え隠れする。

前途には、現代のモンスターが居る事を、メンバーが誰も知らずに・・・「和やかな陵辱」の意味する物は一体何なのか?

本当の悪魔は何なのか?

混沌として、未だ覚めやらぬIT文明の混迷期に立ち向かう警察庁生活安全局・ハイテク犯罪対策総合センター・ネット犯罪対策課の精鋭がいる。

HP交信、ハプニングバー、アダルトサイト、セレブパーテー、麻薬密売、オカルト教団、アンダー組織、そして生贄の輪姦陵辱、縺れ合いながらその先に見え隠れする赤い北の影・・そして警視庁公安課など。

娯楽小説ですが、自衛の為の交戦権すら持たない日本の現状をこの作品の登場女性達の姿に託してみました。


脳味噌の事を、中国語で脳筋と書いて(ナオチィ)と言う。コンピューターは電脳筋と書いて、(ディェンナォチィ)と言う。

コンピューターは人間の脳が作り出した物で、人間が情報を与えれば、大いに活躍する。

しかし生身の人間の脳には、自分達でコントロール出来ない恐ろしい部分が潜んでいる。

「とてもそんな風には見えない。」と言うけれど、人は理性と性を脳の違う部分で考える。

全ての人間は、その両方を持ち合わせて逃げ場の無いストレスと対峙しながらこのコンピューター社会を生きる定めとなった。

電脳妖姫・九条民子の物語は、コンピューターを使う側の人間に何か警告している。
きっとそうだ。

「オネガイキヲツケテ。」


インターネット上に現れる人間の情念をテーマに、ネット社会の裏に潜む怪しい人々のうごめきやめまぐるしく変遷する情報化社会との間で揺れる性的心理を描きます。

そして、「キットあなたはこの作品に裏切られ続ける。」はずです。

此れは、日本の未来への警告で有り、進み行くインターネット社会への警告でもあるのです。




公式プロモート・ウエブサイト短期公開作品

======「現代インターネット風俗奇談」======

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【電脳妖姫伝記】

◆ 和 や か な 陵 辱 ◆

(なごやかなりょうじょく)

第一部

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◆和やかや陵辱◆

(なごやかなりょうじょく)

【これからの展開】

記載目次ジャンピング・クリック

電脳妖姫 第一部【この部です。】
【*】*******第一話 **************(リュウちゃんの失踪)
【*】*******第二話 **************(Bワンの部屋)
【*】*******第三話 **************(おとり作戦)
【*】*******第四話 **************(謀略のきっかけ)


電脳妖姫 第二部【へ飛ぶ。】
【*】*******第五話 **************(ミレアの執念)
【*】*******第六話 **************(陰謀と赤い影)
【*】*******第七話 **************(京子拉致される)
【*】*******第八話 **************(縺れた糸・陵辱)

電脳妖姫 第三部【へ飛ぶ。】
【*】*******第九話 **************(しずか・潜入)
【*】*******第十話 **************(強制捜・査圧力)


【主な登場人物】

九条民子(佐々木和也の婚約者・社長令嬢)
Bワン(ハンドルネーム)本名佐々木和也(最初の失踪者・社長の子息)
ナカヤン(ニックネーム)本名中山敬二(主人公・サラリーマンデザイナー)
石井京子(中山敬二の恋人・パソコンインストラクター)
ミレア(ハンドルネーム)本名松永直子(謎のHP運営者)
永田 ? (千葉県警・巡査部長・・・実は)
静(しずか/ハンドルネーム)本名森田愛(HP運営者・短大生?実は・・・)
クロさん(ハンドルネーム)本名岩崎誠一(HP運営者・エリート会社員)
岩崎由美(クロさん・岩崎誠一の妹)
川端警部と西川巡査部長(この事件の警視庁捜査員)
谷村生活安全局次長(警視正・警視庁側の捜査総責任者)
佐々木昭平(佐々木コンッエルン総師・憲政党代議士・党財政再建委員長)
島美紀(女性タレント)
大供みどり(財務省主計官・女性キャリア官僚)
岸掘孝太(憲政党代議士佐々木昭平・東京事務所私設秘書・アンダー担当)
タンク(ハンドルネーム)本名大石辰夫(個人アダルトサイト運営者)
リュウちゃん(ニックネーム)本名小川隆(失踪者・主人公の友人)
ゆきちゃん(ハンドルネーム)本名 不 明(HPの達人・謎のHP運営者)
高橋警察庁管理菅(警視正・捜査の警察庁側責任者)



****************では、第一部をお楽しみ下さい。*******

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(リュウちゃんの失踪)
======「現代インターネット風俗奇談」======
小説・電脳妖姫伝記
◆ 和やかな陵辱 ◆ 第一話(リュウちゃんの失踪)

漸く秋めいて来た十月の初旬の事である。この物語は、何の前触れも無く始まった。
東京近郊エリアの片隅で、一人の若い男がそっと消えたのだ。

それも酷く奇妙な消え方だった。
その現場に誰も居合わせた訳でもなく、消えた理由も謎だった。

消えた若者の名前は小川隆と言う。
隆(たかし)が本名だが、仲間内では「リュウちゃん」で通っていた。
大都会の死角に紛れて彼が消えた事を、最初は誰も気付かなかったのである。


三日後の十月五日、その事を発見したのはリュウ(隆)ちゃんの学生時代の友人中山敬二だった。

中山敬二も仲間内では「ナカ(中)ヤン」と、呼ばれている。

ナカヤンは昨日(十月四日)リュウちゃんと、Jリーグのサッカーを観戦する約束が有ったのだが、時間になってもリュウちゃんが待ち合わせ場所に現れない。

「間違えて先に試合場へ行ったのか」と思って球戯場の中に入って探したが、球技場にも現れない。
携帯は空しくコールするばかりで、応答がない。
好カードの試合観戦も、ナカヤンは気がそぞろだった。

翌朝、心配になってナカヤンは再度リュウちゃんに連絡を試みた。
携帯はコールするが、やはり出て来ない。

今までの付き合いから、リュウちゃんは連絡も無く約束を破る男では無かったので、ナカヤンが心配して、その日の夕方にリュウちゃんのアパートを訪ねた。

しかしその時点ではまだ、「キット風邪でも引いて居て、身動きが出来ない」と言った程度に、ナカヤンは思っていた。
必要なら、「無理やりでも医者に担ぎ込めば良い。」そう思って、軽い気持ちで訪ねたのだ。


リュウちゃんの住むアパートは、千葉県の総武線沿線に在る人口三十万人程の、ソコソコに大きな街(市)の郊外に所在していた。
典型的な東京の衛星都市で、昭和三十年代の後半と言う早くから「東京のベッドタウン」と称されて発展して来た。

そのリュウちゃんのアパートは、今では余り見かける事が少なくなった波形トタン屋根・木造二階建ての見るからにボロボロで、あのバブル景気にも忘れられてポッンと取り残された様なやつだった。

キット大家(アパートのオーナー)にも関心が無い状態で、世の中から置き忘れられた存在なのだろう。

そのアパートは、戦後直ぐに建てたのか板張りの廊下は黒く光り天上も柱も何処もかしこも灰色か茶色にくすんでいる。

内壁は合板ベニア張りに、リュウちゃんが入居する時点で新しく壁紙クロスを張り替えていた。
二階の奥の六号室が、リュウちゃんの現在の住処である。

リュウちゃんは「家賃が安くて通学通勤には便利」が魅力で、そこを寝蔵(ねぐら)を兼ねた仮の仕事場にしていた。
それでも、何時(いつ)もアパートの家賃を「ボロの癖に高い」と嘆いていた。

そのボロアパートを、ナカヤンが訪ねてドアをノックした。
「リュウちゃん居るか?」
角材の骨に合板ベニアを張った作りの、蹴飛ばせば穴の開きそうな見るからに安価なドアだから、ボコボコと鈍い音がした。

返事がないので、部屋のドア・ノブを利き手で掴んで廻して見ると、ドア・ノブは思いがけ無くガチャリと音を立て廻った。

「アレッ?」とナカヤンの胸が一瞬高鳴った。
施錠は、為されて居なかったのだ。

ナカヤンはドアが開くので「何だ、リュウちゃん居るのか?」と思った。
それで簡単に部屋に入れる事に成った。

彼は出掛ける時に鍵を掛けない事など、過去に一度も無い。
室内は点灯され、正面に置かれたパソコンも電源が入っているのが見えた。

勝手知ったる友人の部屋だから、ナカヤンは「何だ。おぃ、居るか?」と声をかけ、中に入った。
リュウちゃんの返事は無く、やはり、リュウちゃんは居なかった。

ドアを開けて一歩中に入った時、ナカヤンは妙な違和感を覚えた。
ゾグゾグっと、悪寒(おかん)の様な寒気に襲われたのだ。寒気の理由は思い当たらないが、とにかく感じる。

「何んだろう?」
ナカヤンは、思わず独り言を呟いていた。
肝心のリュウちゃんは、室内には見当たらない上に寒気(さむけ)に襲われたのだ。

すると、何か後ろに人の気配を感じてナカヤンは振り返った。
だが、人影はなかった。
おかしい、何だろう?「うん?」振り返った時に首をひねったのか少し首が痛む。


ここのドアの並びの壁に、大きな鏡がある。

リュウちゃんが仕事で深い関係が有る、或るデザイン会社から要(い)らなくなった古い鏡を貰って来て取り付けたのだ。
外出する時、リュウちゃんはその鏡で髪型をチエックしている。

「何だ、鏡か。多分自分自身が映ったのが、気配に感じられたのだろう」と、ナカヤンは思った。

この安アパートの間取りは、六畳間に三畳程のキッチンスペースが申し訳に有るだけだから、押入れにでも隠れなければリュウちゃんに身を隠す場所は無い。

ナカヤンは注意深く室内を見回した。
男の一人住まいだから雑然としているが、一見して変わった処は無い。
ただ、リュウちゃんの姿が見え無いないだけで、部屋も荒らされた様子は無かった。

「無用心な奴だ、鍵もせずにコンビニにでも買い物に行ったのか?」
ナカヤンは呟きながら、パソコンの前に座った。

パソコンは電源を入れっ放しで、大手のネット・プロバイダーに接続していた。
繋がっては居るが、画面はただのまっ白で「接続失敗の表示」も無い。
試しに、ナカヤンがエンターキーをポンと叩くと、簡単に初期画面に戻った。

パソコンの画面は、玄関方向に向いていて、先ほどの鏡とは向かい合わせだった。
振り返ると、鏡にパソコン(PC)画面が映って見えていた。
それにしてもあの鏡は、この部屋には不釣合いに大きい。

安物のCDラジカセは音楽専用チャンネルに入りっ放しで、最近のヒット曲がボリュームを絞って流されていた。
それに、此処(ここ)で何度か使用して、ナカヤンに見覚えのあるガラスコップが、使い掛けで置いてある。

何処かの景品で貰ったらしいガラスコップには、腑に落ちない事に飲みかけの茶色の液体が半分ほど入ったままだった。
彼はマメな性格で、飲みかけのコップを放置するような男ではない。

ナカヤンには、その中身を確かめる勇気はとても無い。
六個揃いのコップは一個そこに出ているだけで、来客も無さそうで有る。
リュウちゃんは「チョットそこまで」と言う感じで、何もかも置き去りに、忽然と姿を消していた。

ナカヤンはそこまで確かめると、奇妙な胸騒ぎを感じて「リュウちゃんが事件か事故に巻き込まれたのではないか」と疑った。
そうでなければ、この状態の説明が付きそうにない。

しかし、ナカヤンはまだ慎重だった。

大騒ぎをして後で勘違いだと困るので、警察に連絡する前に自分でもう少し事件性の有無を確かめる事にした。
にわか探偵の推理だが、ナカヤンはテレビアニメの「名探偵コナン」のフアンで、推理は嫌いな方ではない。


その気で調べて見ると、リュウちゃんが何時(いつ)まで部屋に居たかは、おおよその見当が付いた。

どうやら三日前の午後マデは、間違いなく此処(ここ)に居た。
ゴミ箱に十月二日と言う、その日が賞味期限の刻印シールを貼ったコンビニ弁当の空箱があったからだ。

十月二日の夕刊を読んだ形跡もある。
その日付の夕刊は、パソコン脇の床に無造作に置いて在った。

リュウちゃんは、近頃の一人住まいの若者に珍しく、新聞を取っている。
デザイン関係の仕事柄、折り込チラシ広告が参考に欲しかったのだ。

一昨日の朝刊から今朝(十月五日)の夕刊まではまだ手付かずで、ポストの口から放り込まれたままだった。

そのポストの口は、ドアの内側横に張られている鏡のちょうど下辺りに設けられていた。

板壁に四角い穴を開け外に箱型を組んで突き出し、上蓋を付けて部屋の内側に落ちる様にした新築当時の大工の工夫だろうか?
郵便物と新聞は、その木製のポストから放り込まれたまま、床に手付かずで積み上がって散乱していたのだ。

つまりリュウちゃんは、かなりの確率で三日前に消えた事になる。


リュウちゃんは、今年美術系大学の商業デザイン科を卒業したばかりの、二十四歳だった。
え、歳が合わない。

「いえ、いえ、合っていますよ。単に一浪しただけだから、さして不思議は無いのです。」
多分、リュウちゃんなら澄ましてこう答えただろう。
美術大学を卒業しても、この御時世で正規の就職口は無かった。

バブル崩壊後の政治的対処が出来ずに、「失われた十年」と言われる悪化した経済情勢の中で、尾泉準太郎が総理に就任していた。
尾泉準太郎総理は、「党をぶっ壊しても改革を断行する。」と訴え、国民にも「痛みに耐えろ」とうそぶいていた。

だが、一向に経済環境は好転せず、失業率は五パーセントを超え、大企業も中小も新規の採用は控えていた。
それでも、当初の夢をリュウちゃんは捨てられない。

リュウちゃんは、先輩達の勤める広告デザインの会社に頭を下げて出入りし、持ち前の人懐濃さ(ひとなっこさ)で下請けの真似事を個人営業して、一寸(ちょっと)した仕事を貰っていた。

バイト程度の金額ながら、格好良く言えばフリーデザイナーだ。

広告会社の方も、必要の有る時だけ外に仕事を出した方が、本音では効率が良いらしく、月に3〜4本の安い仕事を割り振って、三〜八万を稼がせてくれていた。

リュウちゃんはそうした先を要領良く三軒ほど確保して、生活の方は何とか遣り繰りが出来て居たのだ。

順調に仕事先を広げれば、「いずれ後輩を仲間に、事業化するのも夢ではない。」と、目を輝かしながら、ナカヤンに話した事もあった。

つまりリュウちゃんは、まだまだ純粋に今の仕事に対して夢や希望を持っていて、失踪の理由など友人のナカヤンには考えられない。

何しろナカヤンにとって、リュウちゃんは在学中からの親友中の親友である。
そのリュウちゃんが失踪しては、ナカヤン的には大事件だった。
何か在ったのなら、「奴を、捜してやらねば。」と、ナカヤンは純粋に思った。


ナカヤンはこの事件を追うに当たって考えた。
一人ではきっと「見落しも限界もある」と考えられる。どう考えても、頼りになる助人が必要だった。

それに、リュウちゃんはどうやらパソコンの操作中に失踪した様なのだ。
パソコンと言うと、心当たりは大いに有る。
ナカヤンは、急遽(きゅうきょ)、今付き合っている石井京子を携帯で呼び出した。

「リュウちゃんが失踪した。」と聞いて、恋人の京子は吹っ飛んで来た。

石井京子はナカヤンと付き合って居るが、知り合いになったのはむしろリュウちゃんの方が早い。

彼女は、パソコン教室のインストラクターをしていて、デザインのPC加工技術を習いに来たリュウちゃんを担当している。
そこで、リュウちゃんの人懐濃さ(ひとなっこさ)に釣られて、自然に親しく言葉を交わす様に成った。

或る日冗談で、リュウちゃんが「友達に良い奴が居るけど」と、からかい半分で京子に言ったのを、「本当、是非お願い」と、何故か大真面目で食い付いて来て今のカップルが出来上がって居た。

ナカヤン本人が、何で京子に気に入られたのか判らなくて驚いたくらいだから、紹介したリュウちゃんの悔しがる事悔しがる事。

それで、「世の中何んて、ミステリーだ。」と、リュウちゃんはイジケテ居た。
勿論、悔しがりながらも祝福してくれたのは、紹介した友人のナカヤンが大事な友人だからである。

石井京子は、身長が170センチ近くあり、女性としては大柄のナイスバデイで、一重瞼(ひとえまぶた)だが目は大きく、精悍な感じがする顔付きの美人顔をして居る。

スッキリした上下薄い唇の持ち主で、純粋に日本人だが、日本人離れした雰囲気がある。

中学生までは町道場で空手を習い、高校時代は演劇部に所属してた。
パソコンは、専門のスクールで習得して相当に使いこなす。

そんな出来る女性が、何故か自分(ナカヤン)と付き合っているのだが、京子に言わせれば、「ナカヤンは奇跡的に自分にピッタリ」だそうだ。

そんな経緯があるから、リュウちゃんの失踪は言わば「結びの神」の失踪で京子も放っては置けない。

電話口でリュウちゃんの失踪を聞いた石井京子が真っ先に叫んだのは、「そのパソコン、触らないで。」だった。
携帯でナカヤンからおおよその事を聞いていた京子は、此処(ここ)へ来る間に最初にする事を決めていたのだ。

マイカーで駆(や)って来た京子は、リュウちゃんの部屋に入ると真っ直ぐにパソコンの前に向かった。
リュウちゃんは作品の宣伝と仕事の連絡を兼ねて、ホームページ(HP)を開設していた。
テーマは「商業デザインとのコミュニケーション」と、リュウチャンらしい。

京子は仕事柄見当を付け、ネットの通信記録から何か手掛かりを探すつもりだった。

ナカヤン達の知らない所で、リュウちゃんが今問題になっている自殺サイトなどに関わって居ないかが京子の心配だったので有る。

それに詐欺(さぎ)紛い(まがい)の「宗教的押し付け商法」の勧誘等も在る。

幸いパソコンは立ち上げてあり、パスワードも不要だった。

京子は、パソコンを前にすると、すごい勢いでマウスをクリックしてメール・トレーやら掲示板の内容を、一つ一つ確認して行った。

「京ちゃん、何か判りそうか?」
「それがね、おかしいの。」
京子はキィを叩く手を止め、ナカヤンの顔を見た。

受信したメールがピックアップしたかの様に、部分的に三十二、三通、痕跡(こんせき)は有るが、「奇妙な文字化けでまったく読めない」と言う。

パソコンのメールデーターに「細工が見られる」と言う事は、何かが来(受信)てはいるのだが、内容が全く判らない。
それだけではない。

何か特殊な仕掛けがプログラムされているのか、文字化けした文字が小さな閃光と伴に消滅して行くのだ。

「此れ、普通じゃないわ。見た事ないバケの症状・・・それに開くと消える細工もしてあるし、もぅ、どうやったらこうなるの?」
ブツブツ言いながら、あれこれ復元を試みたが、京子の腕前を持ってしてもまるで歯が立たない。

掲示板の方も、妙に他の掲示記載内容とチグハグで、相当削除文が多い様だ。
それも、正規の削除方法ではない。
外部から何らかの方法でそれは為されている。

「これは、リュウちゃんの通信相手と交信して、ヒントを掴まない事には何の手がかりも無いわ。」と、京子は言った。
「どうしょう、俺達、明日仕事だよ。」
時計の針は、十二時近くを指していた。

気が付いたら、ナカヤンは四時間もこの部屋に居たのだ。
どのみちリュウちゃんの交信相手も、夜遅くは捕まり難い。
「今日は撤退して、明日は、リンク先から当たりましょう。」

京子はキーボードを叩いて掲示板に手短な文章で状況を説明、協力依頼を書き込むと、明日、六時から通信作業を始める事をナカヤンに提案した。

明日になれば、もしかすると、何か手掛かりになる書き込みが来ているかも知れない。

帰りがけに、たまに二人で訪れるラーメン屋に寄った。
この時間になると、開いている店が中々ない。
それで、リュウちゃんの所からの帰りは、勢い同じ店に拠る事になる。

京子は、明日の段取りをまくし立てながらラーメンをすすった。
京子は日頃からナカヤンより威勢が良い。
その京子のハキハキした雰囲気が急に影を落とし、「あのドアの所に在る鏡、何故か気味悪いのね。」と、話の途中にポツリと言った。
「何も感じて居ない」と思ったが、京子もやはりあの鏡を気にしていた。

「あれ?」
覚えの無い首の痛みがした。何なんだろう、この首の痛さは?

今は妙に骨がガクガク音が鳴る。
言い知れぬ不安が、ナカヤンの心の片隅に育っていた。

ヒョッとして・・・、念の為に聞いて見ると、彼女も少し「首が痛い」と言う。
何かあの鏡と、関連があるのか?奇妙な現象だが、何の確証も無い。

ナカヤンは「気のせい」と打ち消す事にした。
考えて解決出来ない事を、一々拘っては居られない。
この時ナカヤンは、リュウちゃんには悪いが、安否の心配と同じくらい「にわか探偵」にワクワクもしていた。

不謹慎な事に、危険な香りと好奇心が、平凡な社会人生活の刺激と成って居たのだ。
しかし、こうした密やかな楽しみには必ず思わぬリスクがある。
それにナカヤンが気付くのは、まだ先の話だった。


翌日(十月六日)の日中、ナカヤンは気もそぞろで、勤務先で何をしたかも覚えていない。

今朝起きたら寝違えたのか首が痛かった。
時折、首の違和感でリュウちゃんの失踪を思い出す。

彼の失踪は疑問だらけで、どう考えても納得が行く結論は無い。
言わば「理由無き失踪」である。

仕事中、幾度か上司に生返事をして怒鳴られた。
ナカヤンの興味が、すっかり仕事から逸(そ)れていたのだ。

ナカヤンは紙器メーカーのデザインを担当する職場に勤めている。

会社は、ブリスターパックと呼ぶデザインした台紙に塩ビプラスチックの製形品を被せて貼り付け、中身をそのまま見せる様に表示するパッケージ様式の製作と包装加工を手懸ける仕事だ。

工具や文具、部品などの店頭販売をする商品に、この方式が多い。
そのパッケージ様式の紙の部分を、ナカヤンはデザインしている。


今日は早めに仕事を切り上げると、ナカヤンは電車を乗り継いで再びリュウちゃんのアパートに向かった。

交際を始めてから、遊び以外に京子と共同で何かやるのは初めてだった。
しかも今の処は、京子の得意分野が主な手掛かりである。

普段有り得ない友人のにわかな失踪は、平凡な日々には無い刺激で、こう言う理由で共同作業をすれば、京子といっそう親密に気持ちを通わす事が出来るに違いない。

ナカヤンの方は出来上がったソフトを頼りに仕事で少しパソコンを扱う程度で、余り得意ではない。
あれこれ考えながら、京子のキーをたたく端正な横顔が浮かんでいた。

リュウちゃんが惜しそうに紹介しただけあって、少し大柄だが均整の取れたナイスバデイで、恋人として恥ずかしくない容姿を備えた二十三歳である。

付き合い始めて七ヶ月、ナカヤンの「何が気に入ったのか」は未だに不明だが、二人の仲は上手く行っている。

何事にも積極的な京子は初対面からナカヤンと良い感じで、四回目のデートでナカヤンの要求に応じ、身体を許していた。
図に乗るので内緒の話だが、今では、「ナカヤンの命」と言っても過言ではない愛しい存在である。

経緯(いきさつ)がそんなだから、元々京子の生活範囲の方がリュウちゃんのアパートに近い事になる。
従って、勢い恋人と親友の居るこちらの街(市)に、普段のデートや遊びの場所が偏ってくる。

京子とは、互いの気が向けばどちらからともなく愛し合う。
大人の交際を始めてからは自然な事で、その時だけはナカヤンも京子も若い獣に変身する。

およそ男女の営みを、気取って居ては興ざめで、行為は激しいほど「愛されている」と、互いに心が通い合う。
そんな事情でナカヤンは、この衛星都市に電車を乗り継いで「足繁く通う羽目」に成って居た。


駅からは、あのアパートまで毎度歩きである。
駅前の近代的な商店街の雑然とした人混みも、少し繁華街を外れてからの人の行き来も、何時もと変わらない。
人が一人、そっと消えたくらいでは、世の中何も変わらないのだ。

ナカヤンは秋の夕暮れの中、早足でリュウちゃんのアパートに向かっていた。
通り過ぎる車も、そろそろヘッドライトを点灯し始めている。

十分ほど時間を掛けてアパートの前まで来ると、京子のブルー色の愛車が薄明かりながら目に入った。
京子は千葉県が地元で、親が「マンションや家作を持つ資産家地主」と言う裕福な家庭の長女である。

金持の我侭娘ではないが、控え目な贅沢はする事もあり、「可愛い」が理由で、京子は大柄にも関わらずイタリアの小型車・ブルー色のパンダに乗っている。

石井家は、戦後の農地解放で手に入れた土地を、祖父の代から地道に運用していた。
それが戦後の日本経済の隆盛と首都東京のベットタウン化で地価が上昇し、資産はかなり膨れている。

資産家ではあるが一家の生活は到って地味だった。
父親はこの街(市)の地方公務員(市職員)をしている堅物なので、近年のバブル経済の崩壊騒ぎにも無縁だった。

親元住いなので、給料の使い道はナカヤンより京子の方に余裕がある。
通勤先も近くで、混んでいる時間帯でも車で十二分ほどの所に通っていた。

ナカヤンは、静岡県中部の地方都市でサラリーマン家庭の次男坊として生まれた。
父親は地場産業に成長した模型会社の製作部に在籍し、その影響もあってナカヤンは美大の商業デザインを専攻した。

美大のデザイン科入学時から上京して来て居たから都内のアパート住まいで、運転免許は持っているが移動はもっぱら東京メトロとJRの電車である。

都心での独身生活では、車は容易に使い難く維持費は割高で日々の負担でしかない。
現実主義者のナカヤンは、都内通勤なので滅多に使う事が無い自家用車を所有する気は無い。


ドアを開けると、早くも京子がパソコンと向き合って居た。
また、後ろ方向にゾクゾクとあの嫌な気配を感じた。

それに、何か首に原因不明の違和感があったたが、ナカヤンは振り切った。
リュウちゃんは、あんな所に何故(なぜ)鏡を付けたのだろうか?

チラリと振り返った京子は、来室したのがナカヤンと確認するとキーを叩きながら「食事まだでしょ、そこに置いてあるから。」と、言った。

見ると、高そうな折詰めの「うなぎ弁当」が置いてある。
「判った」と応えながら、「サンキュー京子。」と心の中で、呟やいた。
隣には食べ終わった空箱が紐でくくり直してあるから、京子も此処(ここ)で食べている。

ナカヤンは、早速(さっそく)うなぎ弁当を頬張りながら、「早いな、こっちは会社から即行で来て此れ(これ)で目一杯だ。」と、言った。

「ねぇ、それが変なの、昨日(きのう)確かに私が書き込んだ掲示板の呼び掛けが、またバケで消えているの。」
京子は当惑顔で訴えた。
勿論、相手からの情報の書き込みも無い。

「このサイトを誰か監視している・・・。」
ナカヤンはスーッと血の気が引いて行くのを感じた。
ゾクゾクと寒気を覚えて腕を見ると、鳥肌も立っている。

不気味だった。
意識がそちらに集中して、うなぎ飯を口に運ぶ箸も、ピタリと止っていた。
昨夜から嫌な予感がして居たのだ。

ナカヤンは、口に残っていたうなぎ飯をやっと飲み込むと、「何だろう?」と漸く口にした。
そして、京子が半分飲み残した五百ミリ・リットル入りのお茶のボトルを口に運んで「フー」と、一息ついた。

いくら嫌な予感がしても好物のうなぎ飯だからナカヤンが残す訳が無い。
ナカヤンはチョットうなぎ飯を見つめたが、気を取り直して一気に胃袋へかき込んだ。

「不思議ねぇ?」
そうは言ったが、京子は度胸が据わっている。
大して恐がってはいない様子で、せっせとリュウちゃんのリンク先を当たっていた。

HPの常連と呼べる者は、およそ十五人。
「ねぇ、この七人・・・・・当たって見ようか?」
京子のキー操作で、ディスプレィ画面にリストが映し出された。

京子は問合せ候補先のHPウエブ・リストを、得意の直リンク仕様で作り上げていた。
相手の凡(おおよ)その事も、京子はナカヤンの為に紹介文で添付している。

リストの内容は一目瞭然で、ナカヤンの意見が入り込む隙はない。
「うん、そこらかな?」

京子任せで悪いが、ナカヤンは同意するだけである。
特に親しそうな七人ほどが、京子に選ばれていた。


親しそうな七人は、二時間程でほとんどコンタクトが取れた。
此処(ここ)四日ばかり、リュウちゃんとの連絡がプッリと途絶えていたから、先方も「どうしたのか?」と、気にはして居たらしい。

メールの遣り取でこちらの事情を説明すると、五人は心当たりが無いと言って来たが、二人は「チョット気になる事がある。」と言う。

書き込まれた掲示板を見て、ナカヤン達は顔を見合わせて頷いた。
どうやらヒット(当たり)したらしい。

取り敢えずの小当たりも、「無いよりは増しだ。」と、ナカヤンは思った。
それが相手に良く尋ねると、思わぬ大ヒットだったのである。


一人は女子短大生で、「十九歳だ」と言う。
HP上のハンドルネームを「静(しずか)」と言った。
鎌倉のお嬢さんで、「静御前物語」と言う趣味のHPを開設していた。

HPの中身は、およそ若い娘らしくメルヘンチックな手書きの絵や人形、ぬいぐるみの写真が並び、コンテンツと言うより、「意見交換の場」と言った方が良いかも知れないが、鎌倉に関わる人物像をテーマに結構真面目な論議をしている。

静(しずか)は、身長が160センチと、やや小柄、あどけない感がある丸顔で、クリリとした瞳の持ち主だった。
メチャメチャ・ハイテンションで、今時の若い娘の典型である。

毎日都内に電車通学しているそうだ。
父親は「公務員だ」と言うのだが、見るからに良い所のお嬢さん風だから、高い地位に着いていそうだ。

もう一人は中央区に本社の在る大手商社に勤める三十代のエリート男性社員で、HPのハンドルネームは「クロさん」だった。

クロさんのHPを覗いてハンドルネームの由来は直ぐに判った。
バイク好きで、コンテンツの大半はモトクロスの画像ウエブ・サイトだった。
HPのコンテンツはバイクで埋め尽くされていて、その道の同好者のアクセスは多かった。

十代、二十代は相当慣らした様で、モトクロの「クロさん」と言う訳だ。
そう言えば、リュウちゃんもバイクが好きで、彼の夢は将来ハーレーダビットソンのオーナーに成る事だった。

趣味の「HP仲間的な付き合い」と合点が行った。
いずれにしても二人ともサイト上の付き合いで、リュウちゃんと面識はなかった。

二人がサイト上の書き込み交信で言うには、およそ一月以前の八月にも似た様な事が在ったらしい。
二人ともリュウちゃんとの交信頻度は極端に高く、信用が置けそうだった。

京子はチャットに切り替えて、クロさん、静(しずか)、と三人で、情報交換をしている。
京子の叩くキーボードの音がシャカシャカとせわしく鳴って、画面には、逐次三人のやり取りが文字となり、写し出されて行く。
そのやり取りをナカヤンは傍(よこ)から読んで、内容が理解出来る。

その内容によると、ほとんど似た様な事が他でも起こっていたのだ。
ヒョットすると、「インターネット連続失踪事件」と言う事に成るかも知れない。
しかし、ナカヤンみたいな一市民で、この雲を掴むような話をどう辿って行けば良いのか?

この時点で、リュウちゃんの行方不明はかれこれ六日になる。
「やはり、失踪と判断しても良いだろう。」
ナカヤンは確信を持つと、意を決して警察を呼んだ。


もよりの警察署に通報をしても、最初は「本当に失踪なのか?」とたらい回し気味の対応をされた。
人一人行方が判らなく成っているのに、全く緊張感が無い。
それでも粘っていると、最後に電話に出た警察官が漸く詳しく話を聞いてくれ、一時間以内の来訪を告げた。

四十五分後、まったく慌てた様子もなく県警のパトカーが静かに現れる。
待ち侘びていたナカヤンが、手で合図してアパートに誘導した。

電話で凡(おおよ)その事は言ってあったので、静かに回転灯をクルクルと点灯しただけでやって来たのだ。
目敏(めざと)い近所の住人が群れて来たが、パトカーが来た理由を何も掴めないまま、やがて散った。

「電話を頂いたのはこちら様ですか?」
パトカーから降りて来た若い制服警官が、ナカヤンに声を掛けた。

「はぃ、失踪者の友人で中山と言います。」
「それじゃあ中山さん、その部屋を見せて頂いて届け出書類に起こしますのでお話を聞かせて下さい。」

「はぃ、電話で話した通り、小川隆(リュウちゃん)は全て使いかけの最中に居なくなっています。」
アパートのリュウちゃんの部屋に案内して、室内で事情を聞かれる事になった。

やって来た警官は、興奮気味に一気に経緯を話そうとするナカヤンを制止し、「落着いて整理して見ましょう」と言って、箇条書き的に質問を開始した。

「なるほど、パソコンも飲み物もそのままだった。」
「最初は失踪と確認出来なかったので、確認にパソコンのキー操作はしてしまいましたが。」
「判りました。この場合は仕方ないでしょう。届け人に成りますのでまず関係者のお二人の住所氏名から一つ。」


警察が来ると、ナカヤンは事情を聞かれ、形通りの調書を取ったが、何とも漠然とした話で確たる事件の証拠がない。
死体がある訳でもなく、血痕が発見された訳でもない。
此れでは、リュウちゃんも単なる不明者である。

「該当者が、フラリと旅行なんて事は無いでしょうね。」
「いぇ、私と野球観戦の予定でしたから、連絡無しに出かける事は在りません。」

「なるほど、それに石井(京子)さんが言うパソコンの怪現象は、確かに少し気に成りますね。」
この段階では、警察が此れを事件と認定するに足り得る具体的な証拠が有る訳では無かった。

永田と名乗る若い警官に、「此れだけでは警察は動けない。」と言って溜め息を付かれた。
話しの辻褄から、電話で相談に乗ったのが彼である。

二人組の警官だったが、どうやら永田と名乗る若い方が上役らしく、口は丁寧だが、もう一人の鑑識が専門らしい年配警官にあれこれ指示をしていた。

警官は、あっけないほど一方的に話を聞き、書類を作り、ほとんど説明も感想もナカヤン達には言わなかった。
「うぅ〜ん、一応警察も留意して置きますが、現況では事件性の有無まで判断出来ませんね。」

「拍子抜け」と言えば、拍子抜けだった。
「ご苦労ですが、何か有ったら知らせて下さい。」と言い置いて、結局警官達は引き上げて行った。

とても、テレビドラマのような突っ込んだ質問は無く、淡々と事実関係を整理して失踪を受け付けただけだったのだ。

この分では、警察が真剣にリュウちゃんの安否を捜査するのは期待薄に感じた。
仕方なくナカヤン達は、二人で調査を続行する事にした。

警察が来て「新たに判った事」と言えば、立会いの下(もと)で室内を調べた結果、現金二万三千円入りの財布と、残高四十二万円ほどの預金通帳が、せんべいの入っていた四角いブリキ製の缶の中に、通称三文判と言われる安物の印鑑と伴に残されていた事だけだった。

警察が来て初めて中年男のアパートの大家も呼び出された。
当然ながら店子(借主)の事など放り放しで、変わった事など何も気付いては居ない。

彼は事態が入居者の失踪と寝耳に水で驚いていたが、ナカヤン達が「何とか探し出すから、暫くはこのままにして置いてくれ。」と説得して、正式に部屋の鍵を預かった。

リュウちゃんの親元の連絡先も大家から聞いて、ナカヤンが電話した。
最初に電話に出たリュウちゃんの母親は、当然ながら、にわかには信じられない。

今流行(はやり)の「振り込め詐欺かと」身構えたが、ナカヤンの「警察に連絡して永田と言う警官に確認してくれ」と言う、細かな説明でやっと息子の失踪を納得した。


大家には「あぁ言った」が、別にナカヤンに勝算が有った訳ではない。
その場凌(しの)ぎのハッタリだった。
もう、「以前に似た様な事が有った」と言う、HP仲間の情報だけが頼りとなった。

二日ほどの遣り取りの後も、依然としてリュウちゃんは現れず、もどかしかったのか相手の二人はチャット通信の最中に協力を申し出てくれた。

「私も捜索に加わりたいと思うが、どうでしょう?」
「え〜とぉ、クロさんが参加するなら〜ぁ、私も仲間に入れてもイィンジャナア〜ィ。」

静(しずか)ちゃんが前の別の失踪の一件を「詳しく知っている」との事なので、一応明日の夕方に四人で会う事にした。
その後の事は、会ってから決めれば良い。


十月九日水曜日の夕方六時半、東京駅八重洲口地下街の有名な喫茶店で、四人は待ち合わせた。
追っ付けリュウちゃんの両親も田舎から駆けつけ、此処(ここ)に現れる筈だった。

それで待ち合わせ場所を東京駅にしたのだ。
それぞれが集まるには此処が一番妥当で、皆が納得した。

ナカヤンが東京駅に着いた時、八重洲口駅頭では北の赤い国の拉致問題で、家族会が救出の署名活動を行っていた。
派手なの昇り旗が何本も立ち、拡声器からは連呼する声が聞えて来た。

「どうか、私たちの子供を返して下さい。」
「御通行の皆様、救出嘆願の署名協力をお願いします。」
この辺りで以前にも何度か聞いた事のある呼びかけだが、その声は、ナカヤンには空(むな)しく聞こえた。

行きかう人々は内心同情しているが所詮他人事で、皆早足で通り過ぎ立ち止まる人は僅かだ。
その、悲壮なハンドマイクの声を聞きながら、ナカヤンは地下に降りて行った。

店内に入ると、入り口を気にしていた京子が、席で小さく手を振った。先に来て居たのだ。
待ち合わせ時間にナカヤンも京子も間に合ったので、昨夜の打ち合わせ通り店内呼び出しをかけた。
「リュウさんのお友達の方は居られますか?」

ほとんど同時に、待ち合わせの相手二人は手を上げて立ち上がった。
「静(しずか)」と「クロさん」は別々に座っていたが、水の入ったコップを携え、ウエーターに声を掛けて慌ただしく席を合流した。

移動し終わると、それぞれに飲み物のオーダーをして、簡単な挨拶を始めた。
「私、クロさんと申します。或る上場企業で水産資源のルート開発を担当しています。」

バリバリの企業戦士が、スーツ姿でそこに居た。
年の頃なら三十五歳前後、会社では主任か係長と言った所か?

バイク野郎と言う事で、背が高く細身だが精悍(せいかん)な雰囲気が漂っている。
見るからに頼りになりそうで、ナカヤンはそれだけで助けられた気がした。

この事態が、心優しいナカヤンの気持ち的には相当のプレッシャーだったのである。
もう一人の方は、ナカヤンでも世代の違いを感じさせる、見るからに若い娘だった。

「初めましてぇ、静(しずか)って言いますぅ。えっと、HPルールのハンドルネームで呼び合いませんかぁ?その方がイイですョねっ」

こちらは金持ちそうで、いかにもお嬢さん然としている。
その表情や仕草は年に似合って初々しかった。

静(しずか)は髪の毛をストレートに肩の辺りまで伸ばし、その一部をバンダナで止め、おでこを出しているのが嵌り過ぎるほど学生然としている。

ナカヤンは詳しくないので良く判らないが、高価そうな身なりで恐らくブランド品で固めている事だろう。

「ナカヤンと京子です。少し厄介な事に・・・」
「まぁまぁ、堅苦しい挨拶は略して作戦会議と行きましょう。気心は自然に通じます。」

「そうですね。」
四人は顔を寄せ合う様に話し始めた。
「どうでしょう、私が感じたHP運営の感想から始めませんか?」

クロさんが年長者らしく口火を切った。
三人が同意すると、まずは一般論から話し始めた。

「HPの運営は、相手が見えないだけに難しい。」と、言われている。
そもそも、顔が見えないから、微妙な相手の心理状態が判らない。
それで、手探りで付き合う事になりる。

その時々の相手の心理状態が判らないから、励ましの積りに善意で書き込んだ事でも、相手を傷つける事がある。
相手は非難されたと誤解して受け取る事もある。

そうなると「何で素直に取らないのだ」と、いわれの無いトラブルに発展する事になる。
だから、結構神経を使う事になり、そのくせ自分のホームページ(HP)では自分が主役だから、各々(おのおの)プライドが高い。

そうした事で相手に気を使い過ぎ、疲れ切って辞めてしまう人も出る。
しかし、現実の生活とかい離したHP社会の舞台は魅力的でもあるのである。

「うんぅん、そうょ、或る面もう一人の自分を演じる事が出来るモン。」
静(しずか)ちゃんが同意する。
私(わたし)的にも、「すっかりヒロイン気分になれるからだ」と、静(しずか)ちゃんは言う。


個人のホームページ(HP)のサイト上では、普段の生活ではとても出来ない事を求める人も少なくない。

極、稀(まれ)ではあるが、日頃の生活で身内や社会から疎外感を抱いていて、ホームページ(HP)に話し相手の救いを求める者も居る。

悪い奴だとそこにつけ込んで相手を騙し、事件を起こす。
「典型的なのはぁ、若い女性にしか声を掛けない奴、もぉ、見え見えじゃ、なぃ。」

「そう言うのは最初から下心がある。本来から言えばルール違反だけど、それを待っている女性も居るから、何とも言えない。」

「えぇとぉ、人によってぇ、目的がぁ違うのですよぉ。」
「そうそう、趣味を公開したり、主張したい事があったり、情報を発信したい者ばかりではない。」と、クロさんが、静(しずか)に同意する。
「危険なのは救いを求めるタイプ、同情してもらいたいやつ。」
「居る居るぅ、すごぉい身勝手な奴、とかじゃなぃ。」

一番気を付けなければいけない相手の台詞(せりふ)は、「判って欲しい、何で判ってくれない。」だと言う。
それを質濃(しつこ)く言い出したらもう危ない。

そう言う相手の要求する物は、話し相手でも、教えてくれる相手でもない。
かなり身勝手な話しであるが、黙って「話を聞いて欲しい」だけの要求で、HPを運営している。

そこで、メチャメチャに悲劇のヒロインを演じる。
すると、励ましやら物の考え方等、対処の仕方などの書き込みが集まって来る。
しかし、本音では相手の意見など聞きたくないのである。

「指図された」と感じるから、中身に関係なく「他人にとやかくと、何も言われたく無い」のである。

その事に、本人も「気付いていない」かも知れないが、目的がそれだから、何を書き込んでやっても「気に入らない」。

厄介な事に、下手に相談に答えてやるだけで、返って「心を傷付けられた」と言い立てられ、うっかり善意で声を掛けた方が、巻き込ま れて参ってしまうのである。

只々、同情して欲しいだけの、「悲劇のヒロイン」も居る。
こちらも、余りの悲観的な考えを変えようと、アドバイスでもしようものなら、態度が豹変(ひょうへん)する。

批判されたとしか思わないで、またも悲劇に遭遇した事になり「悲劇のヒロイン」が加速する。
「私は優しい言葉が欲しいの、お説教など聴きたく無いわ。」

「優しくない人ね、貴方何か死ねば良い。」
こうなると理屈ではないから説得で話しなど通じない。

相手が非難し続けるので、まるで蟻地獄に落ちた様で中々抜け出せなくなる。
そう言う相手に出会ったら難しいかも知れないが、何を言って来ても上手に逃げるしか無い。

「此れが結構難解で、HP上で質濃(しつこ)く付き纏われる事もある。」と、クロさんは丁寧に解説した。
「相手が見えないから難しいですね。」と、ナカヤンが話を受ける。
「そう、潜在的トラブルメーカーが、 この世界結構に多いのです。」

HP上のトラブルで、考えられるのはこの手が多いと言う。
つまり、リュウちゃん達の失踪は、ホームページ(HP)の交信が原因で、「間違いない」と確信して居た。

「それで、心当たりと言うのは静(しずか)ちゃんの交信相手ですが、やはり今回と同じように突然消えた男の人が居るのです。」
「えぇとぉ、微妙なのだけどぅ。」

静(しずか)の話しに依(よ)ると、失踪したのはやはり三十代中頃の若いサラリーマンで、ハンドルネームを「Bワン」と名乗っていた。

Bワンの由来は、「A(上位)でなくても、B(普通)の人生でも一番幸せに生きよう」と言う趣旨で、平凡な人生の中に幸せを見つけようと呼びかけていた。

まともな内容で目新しさは無かったが、掲示板で親身に相談に乗るので、相手の評判は良かった。

それが、夏も終わりの頃に近い八月の末、「変な女に関わって大変苦労をしている。」と、静(しずか)に助けを求めて来た。

コンタクトした当初の頃は、差し障りの無い書き込みのやり取りで良かったのだが、段々相手の思い込みが激しくなって来た。

何でも「すごく愛されている。」と、勝手に思い込んで、質濃(しつこ)いので、「恋人がいる。」と言ってやったら、「信じない。」と来る。

放って置いたら「冷たくなった。」と掲示板に書き込んで来る。
昼間仕事に出ている間の書き込みの量が、半端じゃない。

当初は彼女を納得させようと丁寧に相手をして居たが、彼女は、彼女の意に反する内容の書き込みを頭から拒絶する。
ほとほと「Bワン」は手を焼いていた。

「Bワン」はホームページ(HP)の閉鎖を考えるほど悩んだが、何かその女に負ける様で、何とも不本意な思いが嫌だった。
最後には、徹底対決を考えていたらしい。

処が、「静(しずか)」が、「クロさん」に相談している間に、その「Bワン」が失踪した。

失踪から二日経って、「Bワン」の彼女が「クロさん」に相談の書き込みを入れて来て、静(しずか)達はその事態を知った。

幸い「Bワン」の場合はその彼女と「クロさん」が連絡が取れて住所確認が出来て居た。
「Bワン」の彼女も、彼氏の突然の失踪で、「途方に暮れて居る」と言う。

本来ホームページ(HP)仲間は匿名開設者が多く、互いに素性を明かさないし、顔も会わせない。
相手の望まないプライベートには立ち入らないのが暗黙の了解なのだ。

しかし、クロさん達二人もリュウちゃんの失踪と言う仲間内二例目の出来事の発生に、放っては置けなくなってしまった。

知ってしまっただけに、放置して第三、第四の失踪者がでると、それこそ一生責任を感じる。
既に悪魔が次の獲物を狙っているかも知れないのだ。


ウェーターから「リュウちゃんのお友達の方」と、呼び出しが掛かった。
店の入り口付近にリュウちゃん(小川隆)の両親と思(おぼ)しき年配の夫婦が不安そうに立っている。
京子が直ぐに迎えに行き、当惑顔の二人を連れて来た。

皆、立ち上がってリュウちゃんの両親を迎えた。
「小川です。この度は皆さんにお世話になります。」

リュウチャンの両親は深く頭を下げた。
年長の「クロさん」が、挨拶を代表した。

「いえ、ご心配でしょうが、私達も全力を尽くします。」
続いて、「私がお電話をした友人の中山敬二です。」と、ナカヤンが挨拶をする。

「中山さんには大変ご心配頂きまして・・・」父親が型通りの礼を述べた。
すると、「隆は如何したのでしょうか?」と、母親が口を挟んだ。

そう聞かれても返事に困る。
ナカヤンが京子と静(しずか)を紹介した後、此れまでの経緯を説明すると両親は途方にくれた。
まるで、雲を掴むような話だった。

「自分達で捜すしかないとしても、何処をどう捜したら良いのでしょう。」
「手掛かりも少ないので、取りあえずコンピューターの線を私達が追って見ます。」
「年寄りの私達では、コンピューターはまるで判りませんので、厚かましいですが、宜しくお願いします。」

ナカヤン達の説明を聞いても、年配の二人には何とも理解出来ない事態で、警察が駄目なら手の打ち様が無い。
頭を下げて若い四人に頼むしか無いのだった。
ナカヤンは重荷だった預かり物、現金二万円余り入りの財布と通帳を渡してホットした。


「処で、そのBワンさんの彼女に会ってみませんか?」とクロさんが提案をした。
実は既に話をしていて、「先方もそれを望んで居る」と言う。

手がかりは多い方が良い。
「そうですね、何か判るかも知れませんし。」
ナカヤンは頷いた。

明日(十月十日)の夕方、四人でBワンさんの住まいへ行く事にした。
ナカヤンと京子はBワンの部屋とパソコンに興味があったのだ。

Bワンさんの彼女には、そこで立ち会ってもらう。
彼女も、リュウちゃんの事例の経緯(いきさつ)を聞きたがっていた。

リュウちゃんの両親には、進展が有るまでホテルで待機してもらう事にした。
とても、この大都会を連れて歩けないからだ。

しかし小川夫妻は、長期戦に備えて一旦田舎に帰り、後日捜索の進展を見て父親だけが再び上京する案を提示した。
両親にも、地元での生活があるのだ。

気が付くと、蛍の光の曲が流れている。
この喫茶店に二時間半も粘っていた。
閉店時刻を五分ほど超過して会計が終わり、一同は外に出た。

せめての気持ちだろうが、喫茶店の代金は小川夫妻が支払った。
八重洲中央口の改札付近で別れ、メンバーはそれぞれ散って行った。


二人だけになると、京子は「明日は仕事を休む」と言う。
駅ビルデング地下街のファミレスで、名物のカニチャーハン・セットを食べ、時期外れの生ビールを飲んだ。
妙な興奮が、二人に共通して存在していた。

その夜京子は、自宅に外泊の連絡を入れ、ナカヤンの借りている水道橋のアパートに転がり込んだ。
明日、Bワンの所へはこちらから行く方が近い。
野球好きのナカヤンは、後楽園球場が近いので、此処、水道橋を選んでいた。

此処は神田の古書店街にも近く、ナカヤンの本好きも満たしてくれる。
リュウちゃんの所より、部屋の作りが少しまともだが、その分家賃は五万円も高い。

以前はほとんど寝るだけの部屋だったが、京子と付き合う様になって、最近は、いくらか見られる様に小奇麗に整理している。

女性と付き合うと心境に変化が有る物で、ナカヤンがそれなりに小物を買い揃えたのは京子と付き合って、部屋を気にする様になったからで有る。

京子は都内で飲んだりすると度々(たびたび)このアパートを訪れているが、その時は勿論愛を交わす。

今夜も、部屋に入ると二人は直ぐにシャワーを使った。
その後は、バスローブ一枚で冷えたビールを飲むのがお決まりである。

話題は殆ど一方的に京子の職場(パソコン教室)の出来事で、内容にたわいが無い。
時折相槌を入れて居れば京子は胸の内を一通り吐き出して満足する。

ナカヤンは京子と付き合う様になって、バスローブを買い揃えている。
それまでは、そんな事に気が付くナカヤンではなかったのだから、異性の存在は偉大で有る。

飲み始めて暫らくすると、京子の姿勢が緩み始める。

普段の彼女は結構飲める方だが、ナカヤンの部屋で飲む時は、気が緩むのか意識してして居るのか、段々姿勢が緩んで景色が良くなる。

先ほどから、バスローブの合わせ目からはみ出た京子の太ももが、ナカヤンを頻(しき)りに誘っている。

ビールに酔ったのか、笑顔の下の胸元も少しずつ緩んで、乳房の膨らみも、半ば覗き始めていた。

京子は、およそ平均的な日本人らしい黄色味を帯びた肌の大柄のナイスバデイである。

彼女なりにガッチリした身体はやや太身だが、その分たわわな乳房もふくよかな尻肉も煽情的肉感を見せ、膨らむ恥丘に蔭る恥毛は、薄めで女性器が堂々と見え、ナカヤンの男心に期待を抱かせた。

そうなれば、今更遠慮するものでもない。
ナカヤンは、「さて、そろそろ始めますか」と、頭の中で呟いた。
腰を浮かしかけた所、ナカヤンの腰を折る様にクロさんから、携帯に急ぎの連絡が入った。

「野暮な時に・・・」と思ったが、発信人がクロさんでは明日の件に違いない。
放置出来ないので電話を受けた。

クロさんの話によると、Bワンさんの彼女が「早い時間に来られないか?」と言って居るらしい。

聞かずとも判るが、「今夜は夜更かしをして、朝はユックリしたい」が、京子の仕事を休む理由である。

京子を見ながらクロさんと話をして居る間に、京子の姿勢が益々緩んで太ももの根元までチラついて居る。

「チョット待ってください、一旦電話を切って京子に相談します。」

電話を切って経緯を京子に話した。京子の意見は「乗りかかった船だから、前向きに対応しよう。明日は上手い事仕事を断るは。」で、明快だった。

こちらの意志が固まったので改めて連絡を取り合い、打ち合わせの末、結局京子ばかりか全員が仕事や学校を休む羽目になった。
「二人で行く」と返事をすると、クロさんは「静(しずか)さんも了解した」と答えた。

京子が言い出した仕事休みの場合は、ただ、今夜ナカヤンにタップリ愛されたかっただけなのだが、話は思惑とは別に進んだ。

想像以上に速いテンポで、事が進みつつある。結局の所、全員が少しずつ深みに引き込まれて行く様だった。


その夜、二人の愛の行為は殊更(ことさら)激しく燃えた。
知人が失踪すると言う非日常との出会いに、二人ともいささか興奮していたのだ。

その行為の最中、ナカヤンはふと誰かに見られている様な気がした。気のせいだろうが、視線を感じたのだ。

おまけに、またも覚えの無い首の痛みもしている。何なんだろう?
それで、どうも京子との行為に集中出来ない。

気に成ったナカヤンは起き上がって、バスローブを取り出した後、開いたままになっていた木製ロッカーのドアを閉めた。

嫌な気配は、スゥーと、消えた。

突然の中断に「ねぇ、どうしたの?」と、京子は聞いた。
「いや、何でも無い。」
ロッカーの内側に、鏡が取り付けられていたのだ。


(Bワンの部屋)
======「現代インターネット風俗奇談」======
小説・電脳妖姫伝記
◆ 和やかな陵辱 ◆第二話(Bワンの部屋)


十月十日は、朝から雨だった。雨の日は薄暗く、うっとうしく、物悲しい。
こんな日は、人間誰しも人恋しくなる。

十月の十日前後は統計的に晴れの日が多く、昭和三十九年の東京オリンピックの開会式の日もそれで決められたそうで、体育の日の制定以来、十月は体育行事が盛んで有る。

しかし、今日は雨だった。

今朝は、今月に入って初めての雨の日で、急に気温が下がっていた。

昨夜京子と一戦交えてそのまま眠ってしまったから、二人とも素裸(すはだか)で、ナカヤンは明け方五時頃肌寒くて目が覚めた。

起き上がつて、京子と熱いコーヒーを飲もうと、インスタントの粉をカップに入れた。

昨夜のポットの湯を注ごうとしていると、後ろから、素裸のままの京子に両手を首に巻かれた。
危ないので、持ちかけたポットを置いた。

続いて、京子の両足がナカヤンの腰に巻き付いて来た。
後ろから、隙間が無いほど密着して、負(おぶ)い付かれたのだ。

京子が小さな声で「オンブ・オンブ」と、甘く囁いた。

今度の一件から京子も何時(いつ)に無く興奮している様で、ハッキリ口に出さなくとも明らかに「もう一戦愛し合おう」と言う意志表示である。

朝っぱらから裸体を晒して、こうした行動をする事例は今までの京子には無かった。

京子の胸の柔らかい膨(ふくら)みが肩に押し付けられ、硬くなった乳首がコリコリと当たっている。
ナカヤンのでん部に、京子の茂みのざらざらとした感触が伝わって来る。

それで、硬くなったのは京子の乳首だけでは無くなった。
何しろ初めから二人とも全裸で手間は掛からず、他愛無いじゃれ合いから次に進む目的は一つしかない。

ナカヤンは京子の尻に手を回し、背負ったままベッドに行き倒れ込んだ。

京子の手がナカヤンの欲棒に延びて来て握りしめ、そこに顔が近付いて唇に触れ、ナカヤンの欲棒は気持ちの良い刺激に襲われた。

何時に無い京子の積極さにナカヤンも興奮し、体制を入れ替えると、優しく京子を組み敷いて待ち受ける京子の花芯の中へ入って行った。

花弁を押し分けてナカヤンの欲棒が深く浅く出入りを始めると、安物のベットがギシギシと振動しきしみ始める。

気持ちが入っているから、あうんの呼吸で、口に出さずとも互いが意志を通じ合わせ、行為に勢いがある。
そんな時は、「愛し合っている」と言う充実感と強い絆が感じられる。

二人の動きが激しくなり、体を入れ替えた時に木製のロッカーの角を「ドン」とナカヤンが蹴飛ばした。

その拍子に、「カチャ」と小さな音を立ててロッカーのドアが開き、鏡に白い影が映った様な気がしたが、もうナカヤンの動きを止める事は出来なかった。


八時になると、二人は見繕いをして、それぞれの職場に「体調が優れない。」と仮病の連絡をした。
職場には内緒だが、二人は元々働き過ぎの平均的日本人で、どうせ有給休暇は余るほど残っている。

いささか不謹慎ではあるが、こちらの方が仕事より数倍面白い。
身支度を整え、朝食はトーストとコーヒーで済ませた。

メンバー全員が仕事や学校を休んで、Bワンの部屋へ行く約束だった。

昨夜の携帯での打ち合わせの時、「どうせ仕事が手に付かない。」と、クロさんは言った。皆同じ思いだった。

雨の中、御茶ノ水駅から中央線を新宿方面に向かった。
もう慣れていて苦にならないが、朝のラッシュ時は流石(さすが)に混む。

新宿を経由して丸の内線に乗り換え、JR高田の馬場駅下車が、目的のBワンの部屋が有るマンションだった。

高田の馬場駅に着くと、改札口にクロさんと静(しずか)が待っていた。

その中に、見慣れない顔の女性が一人混じっていて、会釈をする。

白いブラウスに、地味だが高価そうな紺色のカーデガン、白いミニ丈のタイトスカート姿が、ピタリと決まっていた。
それが迎えに来たBワンの彼女、「九条民子」だった。

九条民子は、身長が163センチ、女としては中肉中背、股下が長いのが目に付くスラリとした体型(からだつき)である。

たまご型の顔に均整の取れた目鼻立ち、プリッとした上下の唇、髪をストレートに肩よりほんの少し長くし、顔立ちは清楚な丸みを感じさせ、瞳は大きく、ハッとさせる憂いを帯びて印象的だった。

一見した所、九条民子の年齢は三十歳前後と見受けられ、ナカヤンが一言で言うと「あかぬけた都会美人」と言う所か?

年下のナカヤンから見ると、成熟して落ち着いた大人の色気を感じる。
実際、「上品でしとやか」と表現するに足りる気品に満ちていた。

マンションに向かう間は、先導する九条民子の後を、しずかと京子、クロさんとナカヤンの組み合わせで傘に入り、四方山話を交えて、互いの気心を構築した。

道すがらの雑談に拠ると、どうやら「水産関係の仕事をして居る」と言うクロさんは、目下韓国からの日本海の蟹(カニ)の輸入を手がけているらしい。

クロさんは、日本の食卓の蟹のほとんどは、「ロシア近海や北朝鮮の近海の物が入って来る」と言う。

日本海側の地方出張が多く、扱うのが生鮮だから「輸送に神経を使う仕事だ。」と言っている。
日本の商社の事だ、札束にものを言わせて買占め、儲けているに違いない。
実態は知らないが、ナカヤンの他業界の知識などそんなものだ。

九条民子は道すがら、「マンションは失踪当時のままにしてある。」と言った。
それは、好都合だ。失踪当時のままなら、何か手掛かりが掴めるかも知れない。

「エッ、これですか?」
駅から五分ほど歩いて、見上げる様なそのマンションに着き、その意外性に、ナカヤンは驚かされた。
リュウちゃんのボロアパートとは比べられないほど、豪華なマンションだったのである。

廊下の床まで大理石で、女性が歩くヒールの音が、コッコッと響く。

僅か三十歳を少し出た位で、このマンションの住人だった自称サラリーマンのBワンは、いったい何者なのか?

九条民子の案内で、エレベーターに乗り十五階まで上がった。

部屋番号は最上階の1501号、眺めの良いペントハウスで、鍵は恋人の九条民子が合鍵を以前から持っていた。

部屋に案内され、玄関を上がった処で靴の向きを直そうとナカヤンの方に振り返った京子が、小さく「あっ・・」と叫んだ。

京子は、鏡の中に白い影を見たような気がしたのだ。

ナカヤンが驚いて京子を見た。その京子の顔は怯えて、引き攣(つ)っていた。
「ナカヤンあれ・・・・・」

京子が指差すドアの脇方向には、普通の玄関ドア一枚ほどもある大きな鏡(姿見)が、取り付けられて居たのだ。

ゾグゾグと、ナカヤンはあの嫌な気配と気味悪い首の違和感にまた襲われた。

部屋こそ豪華と並み以下の違いは有るが、鏡の位置関係は、小川隆(リュウチャン)の部屋とまるきり一致していた。

京子が、忘れていた奇妙な首の痛みを感じて、鏡の存在に気が付いたのだ。

ナカヤンも言葉を失ったが、後の三人には意味が判らない。
偶然とは思えない無気味な思いが、そこにあったのだ。

しかし二人は、湧き上がる不安感を一旦押し殺した。
まだ訪れたばかりの初対面の家だったから、説明が着かない奇妙な現象を口に出来なかったのである。

九条民子は廊下右手の広く豪華な応接に案内し、一同に着席を勧める。
えらく高価そうな応接セットに、ナカヤンは座るのを躊躇(ちゅちょ)した位のしろものだった。

クロさんがサッサと座ったので、一同その勢いで座り込んだ。
民子は用意してあったレモンを添えた紅茶を入れて「どうぞ」と勧め、自己紹介から話し始めた。

落ち着いて見えたので、ナカヤンは九条民子が三十歳に届いていると思ったが、実際は二十七歳になったばかりだった。

彼女が落ち着いて見えたのは物腰や言葉使いが大人びていて、その上にゾッとする色気を感じたからだった。

あまり女性の身なりなど気にしないナカヤンでも、よく見るとさりげなく身に着けて居る物が高価そうだった。

言葉使いと言い物腰と言い、この豪華なマンションに民子は相応しい女性だった。

民子の背中の壁には、小さいが良い絵が掛けてある。
自然の中に佇む裸婦像で、どうやら、ルーベンスの習作らしく、品のある絵だった。

彼の絵の特徴は、輪郭線の重ね合わせと重量感を感じる内部の肉付きの豊かさで、作品には動感を感じさせる。

ナカヤンはこれでも美大出身である。デザイン課であっても基礎知識はある。

目見当だが、横幅五十〜五十五センチ高さ三十〜三十五センチだから、その絵画はM十号サイズで、えらく高そうな本物だった。

見たところ絵はこの一枚きりだが、ナカヤンには想像できない効果な代物だった。
「良い絵ですね。」
「あぁ、この絵ですか?私が好きなんです。彼に無理を言って買ってもらいました。」


話しによると九条民子は昨年の秋、互いに親交の有った親達の勧めで見合いをし、佐々木和也(Bワン)に気に入られた。

トントンと話が進み、まだ民子の心も落ち着かない内から、「そうと決まれば早いに越した事は無い。」と言う両親の熱心な勧めで、なし崩しにこちらのマンションに居る時間が長くなっていた。

それも、もう見合いから一年近くなる。
本来なら、この十月に挙式をする予定が決まっていた。

つまり、九条民子は佐々木和也の婚約者である。
既に事実上同居をしていて、現在は結婚の準備で優雅な花嫁修行中だった。

ナカヤンが余りの豪華さに感心しながら広い室内を見渡すと、この部屋にも窓と反対側の壁一面に分厚い赤いカーテンが掛けられ、下半分がベルト状のカーテン止めで洒落た形に絞られ、その後ろに玄関と同じ大きさの鏡が三枚も並べて設(しつら)えてある。

カーテンを開ければ壁一面に見事な鏡の壁が現れる凝った作りに感心した。
これだけ凝った内装をするには、高級ホテルのラウンジ並みの費用が費(かか)りそうだった。

部屋が広いので、民子と話す応接セットの位置からは気が付かなかったが、良く見ると、その手前の天井に太いパイプが数本通され、スポット照明の器具も数個、同じ方向に向かう形で設けられていた。

鏡の前の床が、長く二坪ほどの広さに少し上がっているから、設備は見えなかったがカラオケの舞台にでもなるのか?

広さは舞台らしき所だけで、鏡に縦長に四畳ほどの広さがあり、メインの、十人は座れそうな大ソファーセット以外に、二人掛のソファーが左右の壁際に二脚ずつ、舞台を両側から囲むように置いてチョットした劇場である。

その舞台の右脇には大型の液晶薄型テレビも置いてあり、此処には、どう見ても庶民とはかけ離れた半端で無い金持ちしか住めそうもない。

金持ちの生活は常識離れしている。個人の部屋に設(しつら)えた贅沢な舞台に、ナカヤンは目を見晴らされた。

金持ちの社交は、自宅にゲストを招待する「ホームパーテー」と言うから、ナカヤンは「多分そんな時の為の設備なのだろう」と推測した。

個人のマンションとしては贅沢な話しで、ナカヤンには無縁で有る。

「しかしこの部屋、立派な舞台装置付きですね。」
「えぇ、たまにお客様を招待する時に使います。」
素っ気ない民子の返事が返って来た。

しかしこの時はまだ、この舞台がズバリ民子の為に用意され、「失踪にも関わりがある事」とは、ナカヤンは夢にも思わなかった。

ただ、「佐々木和也(Bワン)と言う奴は、何とも鏡好きな奴だ」とナカヤンは思ったが、この時はまだ、こちらの鏡にはあの嫌な気配を感じなかった。


佐々木家は、現在の当主(和也の父親)が外地から引き上げて来て、戦後の混乱期に旧陸軍や米軍の闇物資などを扱い、相当危ない仕事をして伸し上がったが、戦後が落ち着いて来ると、その仕事振りも次第に落ち着いた。

この辺りの変わり身の速さは持って生まれたものらしく、その後の事業経営にも如何なく発揮されている。

今では儲けた財力で、母方の故郷埼玉県を地元に不動産経営、バス、タクシー、などを経営していて、いっぱしの名家だった。

和也の父親が手がけた物で最も成功したのが、名前は伏せるが或る大手外食チェーンで、埼玉県の県庁所在地に創業、今は全国に一千六百店を数える全国チェーンに成長させ、上場に成功している。

その大手外食チェーンの他は地元主体のローカル企業だが、大手外食チェーンだけは上場を果たしている。

佐々木家は株式上場で手持ちの自社株式を放出した事から、創業者利得を得、「総資産は数百億に上る。」と言われている。

それで、跡取り息子の和也は佐々木コンッエルンの副社長をしていた。

えらい金持ちだが、それだけではない。

ナカヤンは政治に余り関心が無いのでピンと来なかったが、Bワンの父親は「中堅の政治家でもある」と知った。

なるほど、言われてみれば聞き覚えがある。

実の所、父親の佐々木昭平は家業の方を番頭的な重役供に任せ、憲政党国会議員を八期も勤めていて財務大臣などを経験し、現在は党財政再建委員長の要職にある。

討論会などのマスコミの露出が少ないので目立たないが、有力議員には違いない。
言わば「地位も名誉も財力も」半端では無い一族だった。

佐々木和也はその佐々木家の跡取り息子で、外食チェーンの副社長と申し訳に父親の私設秘書の肩書きを持っているが、実質佐々木コンッエルンの全体を見渡していて、父昭平の代理として経営全般の指揮を取っている

必要なら父と相談しながらコンッエルンを運営するのが役目であった。
言わば「なに不自由ない生活」だから、Bワンに、突然の失踪の理由は尚更思い当たらない。
ナカヤン達にしても、こうしたアクシデントが無ければ、けして出会うような人種の類ではない。


九条民子の家は、その姓から判る通り遠い枝葉ながら落ちぶれ公家の出自だった。

早い時期に都の本家から分家し、都と幕府のパイプ役として関東に僅かばかりの拝領地を得、細々と家脈を繋いでいた。

公家の出と言っても、何しろ本家そのものが、室町時代に遡って漸く下級公家の名前に辿り着く程度で、名前以外にこれと言うものは無かった。

その分家であるから絵に書いたような貧乏公家で、土地の宮司職を受け継いで、半ば百姓同然に江戸期を過ごしていた。

言わば家名だけが財産だったが、それだけでも何とか世間が持ち上げてくれるので、土地では名士だった。

それでも朝廷の書付(お墨付き)が幸いして、明治期に華族の端に加えられたが、それも敗戦で意味が無くなった。

今の九条家は、祖父の晩年に創業された加工食品の中堅メーカーで、佐々木家の外食チェーンに、共同開発した食材を納めていた。

最初は単なる取引上の付き合いだったが、同じ組で廻ったゴルフコンペのプレイから二人の父親同士は気が合い、互いに親交を持つようになる。

佐々木昭平にして見れば、九条家は旧華族で交際相手として不足はない。

戦後の叩き上げの佐々木にして見れば、名ばかりとは言え「九条の名」は、付き合う相手として棄て難いブランドだったからだ。
それに、付き合って見ると個人的にも馬が合う。
その後は、取引で佐々木に助けられながら、共に二人三脚で成長して来た。

そうした事で両者の付き合いは深くなり、民子の父親の会社が茨城県の安くて広い土地の紹介を受けた相手が和也の親・佐々木昭平だった。

たまたま、外食チェーンの方には副社長をしている息子がいて、加工食品メーカーには年頃の娘が居た。
言わば二人は、今流行(はやり)のセレブ婚予備軍である。

それはそうだろう、若いサラリーマンと聞いての先入観に反して、いきなりこの豪華なマンションのペントハウスには驚かされたが、上場会社の御曹司なら話しは判る。

しかも、政界で少しは知られた「佐々木昭平代議士が父君だ」と言うのであれば、「お似合い」と納得である。

戦後直ぐはまだ、新興企業主の佐々木昭平にとって没落貴族の娘・九条民子は安く成った高値の花だった。

元貴族の娘・九条民子は、血統至上主義の壁に苦しんだ佐々木和也の父・佐々木昭平には、まだ成功の証として乱暴に手折(たお)る価値があったのだ。


その、Bワンが「突然失踪した」と言うのだ。
とにかく、和也と民子の二人もその日までは全て順調だったのである。

処が、民子が何時もの様にパソコン教室から帰ってくると、「チョット、トイレに」の風情を残して和也は消えていた。

何もかも遣り掛けの、つい今しがたまでパソコンをいじっていた状況そのままだった。

それが、七月の或る日の出来事で、大手プロバイダーに繋がれたままのパソコンの脇には、氷の溶けかけたウィスキーのロックグラスが水滴で湿りながら、置かれていた。

広いマンションだから、最初は「その辺に寝て居るのか。」と思ったが、一向に姿が見えない。
それで履物を当たったが、見慣れた物は全て有る。民子には、何事が起こったのか見当も付かなかった。

父親には秘書を通して相談したが、「直ぐには騒ぐな」と静観の構えで、その後二日ばかり思案して秘書が警察に届けたが、事件性が証明出来ない為にやはり相手にされず、思い余ってBワンの交信相手、「クロさん(岩崎誠一)に相談した」と言う訳だった。

息子が失踪して、親が平然としているのはナカヤン的に腑に落ちない。
しかし、身分があるから表ざたにしないだけで、裏で警察と連携して行方を追っているのかも知れない。

民子の方には、今の処、身代金の要求などの目立った動きも無い。
動きが無い事は、そのまま手掛かりが無い事に通じる。
失踪の動機、或いは原因がまったく掴めないのだ。

ただ、佐々木家は有名な政治家の家柄であり、事業家でもある。

警察としても放って置く訳には行かないので、内々に捜査班を立ち上げているが、政治家の父親がスキャンダルを恐れ、まだ公には出来ないで居る。

「あのぅ、済みませんがそのパソコンの中身を見ても宜しいでしょうか?」
京子が本来の目的を言った。
二件の事例の共通性が確認出来れば、連続失踪事件が確認出来る。

その趣旨を言うと、九条民子は「この際ですから。是非、お願いします。」と答え、立ち上がって廊下に出、「どうぞ、こちらです。」と廊下中央突き当りの書斎に向かった。

パソコンの設置してある書斎は、玄関から伸びた広い廊下の突き当たりに在った。

書斎のドアは重厚な木製造りで、廊下一杯に開けられるバリアフリータイプで、おしゃれな横スライド式だった。

部屋は中に入ってから左右に広がりを見せ、右手側はアコーデオン壁で仕切られた右手前の応接室と繋がり、応接室のドアも柱一本残しての横スライドと、廊下、書斎と一体化する凝った作りである。

左手側は同様に左手前のダイニングキッチンルームと繋がっていた。

広い廊下と此れらの部屋は、各々の仕切り戸を開けてしまえば全て一体化する造りで、ホームパーティを意識した設計と見られた。

なるほど、各部屋とも豪華で大き目のソファーが多数配置されている。
応接に二十人は入ると思ったが、広げればそれ処ではない。

静(しずか)が「凄ぉい、この部屋、広くなって直ぐに大パーティが出来ちゃう。」と、感嘆の声を上げてはしゃいだが、民子は答えず一瞬顔を曇らせ目を伏せた。

それで流石の静(しずか)も、少しバツが悪そうだった。

部屋の主が失踪していては、流石(さすが)にパーティ話でにこやかにして居られない。
ナカヤンと京子は顔を見合わせ、ナカヤンが九条民子に聞いた。

「あの、すみません、この書斎のドアは何時(いつ)もは、閉めていますか?」

「はぁ?」ナカヤンの奇妙な質問に一瞬戸惑った様子だったが、「和也は真冬でもない限り、ドアを閉める習慣が無い」と告げた。

確かにセキュリテーと冷暖房のしっかりしたマンションで、二間幅のスライド・ドアをいちいち開け閉めするとは思えない。

民子が家事をしている間、和也は何時(いつ)も背中を向けてパソコンをいじっていた。
ドアが開いていたから、廊下を通っても、和也の様子は伺える。
和也は、およそ隠し事をしない性質で、ドアを閉めて、「中でこそこそする」みたいなのは、嫌いだった。

と言うか、ボンボン育ちの彼は、開けっぴろげでおおらかな性格と言えた。
ナカヤンは、「ちょっと、確かめて見る。」と言って、玄関まで行った。

ふたりの奇妙な動きに、後の三人は理解出来ず思考が付いては行けない。
静(しずか)が「ネェ!何々、うぅ〜んネェ教えてぇ。」と、甘える様に言った。
京子が「ナカヤンが帰って来たら説明します。」と答えた。


ナカヤンは、「間違いない。」と言いながら、戻って来た。
今はあの言い知れない嫌な気配が甦っている。

「映っていたの?」と、京子は念を押した。
「あぁ、しっかり。」

二件の失踪者の状況で、玄関の鏡の位置とパソコン画面の方向が、まったく同じ事を説明すると、「なるほど、意外な共通点が有るのですね。」とクロさんが言った。

静(しずか)は「いやだぁ、恐ぃ。」と、身を引いて見せたが、顔は余裕に笑っていた。
度胸が良いのか、能天気なのか、ナカヤンにすれば静(しずか)も謎である。

「今度はパソコンの中身を探りましょう。」
京子がパソコンの前に座って、キーボードに手を触れた。
すっかり、ナカヤン達二人のペースだった。

京子がシャカシャカとキーボードを叩き始めると、一同その速さに注目が集まった。

マウスをクリックして中を覗くと、ほとんどが「例の文字化け」をしていて、相手や内容が判然としないが、所処(ところどころ)にまともに読めるのは、クロさんや静(しずか)ちゃんのものだけで、明らかに、誰かが意図的に消している様だった。

「駄目、まったく同じだわ。」京子が叫ぶ様に言った。
リュウちゃんの時と同じで、まるで掴めない。
「えぇと私、Bワンと良く交信していた女性のぅ、ハンドルネーム覚えてぇますぅ。

確か、ミレアだったと思いますぅ。」と、後ろから覗き込んで居た静(しずか)が言った。

クロさんが身を乗り出して来て、「ミレアだったら、私も此処の掲示板で頻繁(ひんぱん)に見た事が有る。」と付け加える。

「それ、検索して見ましょう。」と、京子が言った頃には、「このコンテンツは在りません。」の検索結果が明示されていた。
「此れも駄目、うん、何処かに古いやつが残っていないかな?」

「どうも手分けして、ミレアを捜す所から始める事になりますか?」
クロさんが、手詰まりを指摘した。

「えぇとぉ、そしたらぁ、掲示板で皆にぃ警告するのがぁイィかもぉ?」
静(しずか)が言う。
「だめ、企んだ奴に警戒されると不明者が余計に見つからない。」

ナカヤンが即それを否定する。
「そっかぁ、犯人も見ているかもねぇ。」

長期戦を予想してか、九条民子が提案した。

「どうでしょう、皆さんの都合さえ良ければ、此処(ここ)を捜索の拠点にしませんか?私一人で此処に居るのは気味が悪いし・・」

どうも、今日昼間無理して集まった経緯(いきさつ)と言い、この提案と言い、セレブ・九条民子には他人の生活(収入源)を心配する感覚が無い。

「しかし、皆仕事を持っているから、どうかな?」と、クロさんが疑問を投げかける。

そこに、お気楽元気娘が割って入る。
「うぅん良いわぁ、学生で時間が作れるから私が居てあげるぅ。そしたら何とか成るンじゃなぁい。」

「そう言う事なら、後の人は体が空いている時に参加すると言う事にしましょう。」
クロさんが、そう言った。

そんな話し合いの最中、ナカヤンはふと気になって九条民子に聞いた。
「佐々木さんのお友達の方とか秘書の方とかの中には、相談出来る相手が居ないのですか?」

相談など出来る訳が無い。現在のリッチな生活を維持する為に、情を捨て、冷酷に踏みつけにする事を覚えた連中である。
父親にしたところで、スキャンダルを極端に恐れる政治家だ。

「それが・・・・お友達の皆さんは遠方ですし、お忙しい上に私には馴染まない感覚の方達ばかりでして。」

ナカヤンに聞かれて民子は気付いたが、和也の友人は、全て都合の良い遊び友達で、ナカヤン達のように、心底友人を心配するような人種ではない。

彼らセレブ社会の根底にある物差しは、「利」であり、基本的に「利」にそぐわない事をする意識が無いままに育っている。

だからこそ、金持ちで居られるのだが、こう言う事の前には、到って冷酷に無視して「平然」とするのが彼らの本性である。

それを民子は、潜在的な無意識の内に承知していた事を、ここで確認したのである。

なるほど、金持ち同士の付き合いは、上辺だけの都合の良い友情なのかも知れない。

和也の父親は「外聞もあるので騒ぐな」と言い、静観の構えなので、相談する相手が居ないから「皆様を頼った」と、九条民子は言い難そうに答えた。

息子が行方不明でも「外聞を気にする」とは、国会議員の先生もろくな仕事ではない。


ここで、京子が囮(おとり)作戦を提案した。
話を総合すると、この謎の失踪事件の鍵がパソコンの通信と鏡である。

そう考えられるのが、普通ではないだろうか?
荒唐無稽な話だが、数々の現象からすると、ミレアとのコンタクトはこの際一案だった。
それで、誰からも異論はでなかった。

「ミレアさんとコンタクトを取るのに、環境を整えてみてはどうでしょう。」
「それ、具体的にはどう言う事。」

「ここや、リュウちゃんと同じ条件の鏡のある部屋を作って試したいのです。」
「すると、囮り(おとり)を仕掛けて先方から接触させると言う作戦ですか?」

二人の失踪に、ミレアが何らかの関わり合いが考えられるが、確証は無い。

具体的には、ナカヤンがホームページ(HP)を持っていないから、彼のアパートにパソコンを持ち込み、ホームページ(HP)を開設する。

玄関脇に例の鏡を取り付け、正面にパソコンを設置して、今回の二件と同じように室内の条件を揃える。

別に室内に監視カメラを数箇所設置して、カメラ映像を別室からネットで見て、部屋の変化など、異変が無いか監視する。

勿論、人的なものなら怪しい影が映るはずだが、ミレアにそう言う共謀者が居るとは思えない。

部屋にはナカヤン一人残るが、ホームページ(HP)運営は、インターネット回線で京子が遠隔操作をする。
「それじゃぁ、ミレアを発見したら、ナカヤンの名前で書き込んで、相手を誘い込む訳ですね。」

「ミレアが関係あれば、動きが監視出来るゎ。ナカヤンどう?」
「そうだな、やって見よう。」と、ナカヤンは同意した。
「それって、静(しずか)的にもイイじゃぁン。」

話をしていると、ナカヤンの携帯が鳴った。
出ると、リュウちゃんのアパートに来たあの警官だった。
彼は「以前小川隆(リュウちゃん)さんの件でお話を伺った警察の永田です。覚えていますか?」と名乗った。

「はぃ判ります。そのせつはどうも。で、何か判りましたか?」
「まだ何とも言えませんが、少し調べて見ました。」

何でも、あれから妙に気になって、永田が個人的に調べた所、「関東エリアだけで五件程度の似た様な失踪事案が有る」と言う。

こちらの状況を簡単に説明して確認すると、Bワンの事もリストに載っている。

「その件なら、私も把握しています。そうですか、そこまで辿られましたか。実は、お願いが有るのですが。」

永田が、電話の本当の目的を言い始めた。

ナカヤンには思いかけない事だが、永田が非番の日だけでも「捜索に参加させて欲しい」と申し出てナカヤンを驚かせた。

世間の風評からすると、警察はおよそ組織第一で、そんな行動をする警官の話しを聞いた事は無い。
勝手な行動をすれば、組織からはみ出す事になる。それをやろうと言うのだ。
ナカヤンには、永田は少し間抜けな警官に思えていた。

所が、案外間抜けではない。

今時の警官なのか永田はパソコンも得意で、自分で警視庁の行方不明者のデーターをアクセスして覗き、似た状況の関東エリアの失踪者を検索抽出していた。

「不謹慎な言い方ですが、やりがいのありそうな事件です。」

彼の言によると、個人的興味がドンドン膨らんでいるらしい。

奇妙な男だが、警察の情報が得られるのなら拒む理由も無いし、こちらは善良な市民の集まりだから、警官を恐れる必要は無い。

ナカヤンは、永田の事を一同に報告しながら、どうやらこの捜索が、次のステージに向かっている事を感じて居た。

静(しずか)の関心は的を外れているのか、「その人格好は良いの?」と、彼の容姿を気にしていた。

クロさんは不機嫌そうに、 「そいつ、踊る走査線とやらに被(かぶ)れているのかなぁ。」と言ったが、別に永田の参加を反対しなかった。

まだ、永田の存在がこの先どう左右するのかは不明だった。
それにしても、同様の失踪者が六人も居ると言う。
彼らの生死は、どうなったのか?生きて居るなら、何処に居るのか?

帰り際、マンションの出入り口辺りで京子が言った。
「あの九条民子と言う人、上品で綺麗だけれど、何か謎めいた感じがする人ね。」

そう言われて見れば、気品の裏に何か不思議な雰囲気が在る。
マンションの外に出ると、雨は上がっていた。


大都会の片隅に、HPのハンドルネームを「ミレア」と名乗る若い女性が居た。
年齢は今年で二十五歳を数える。

ミレアは心優しく、目立たないが良く気が付くので、中学生の頃から現在の職場まで、皆に頼りにされ続けて生きて来た。

だから、その時々の何処(どこ)を見ても、特段居心地が悪かった事は無い。

処が、ミレアは今日まで満たされない思いで生きて来ていた。
ミレアには、未だかって「男に持てた」と言う経験がない。

実は、ミレアはお世辞にも社交的とは言い難かった。
ミレアの極度な引っ込み思案の為に、彼女の思いやりに満ちた美しい心に「誰も気が付か無かった」のである。

人は何時も、満たされない思いに苦悩する。
それでも、この年齢だからまったく男の経験が無い訳ではない。

酒の勢いで、一夜を共にした男は何人か居たが、その時限りで、その男達とは二度と続かなかった。
何時も、「身体目当てに遊ばれた。」と言う乾いた思いだけが残って寂しかった。


そんなミレアが、一年程前にインターネットに出会った。

就職先の会社で、業務の一環として習い覚えたパソコンの操作技術で、HP(ホームページ)を立ち上げる事を覚えた。

多少の苦心はあったが、日に二時間ほど費やし、三日ほど掛け、手探りでそれらしくして何とかデビューを遂げた。

その半信半疑で立ち上げたホームページ(HP)の掲示板に、開設を見つけた人々から暖かい歓迎の言葉が並んだのだ。
ミレアは心の中で喝采を上げていた。

夢の様な事に、HPネットの中ではミレアはお姫様だった。

ミレア自身、現実の味気ない日常生活と大きくかけ離れて、若い男達と活発に接する「別の仮想(バーチャル)人格」がそこに居た。

ミレアは本質を失った訳ではないが、この仮想(バーチャル)世界をこよなく愛していた。楽しかったのだ。
そして、初めて「生きて行ける。」と思った。

しかし、暫くすると問題が生じた。
ミレアのホームページ(HP)には、集客の売りに成る情報アイテム(コンテンツ)が無かったのである。

残念ながら彼女自身、此れと言って、発表出来る情報を持ち合わせてはいなかった。
それで、新参の珍しさがなくなると、訪れる人数がめっきり減ってくる。

この頃には、オフの時間をすっかりネットの面白さに依存していたミレアは、ネット仲間から忘れられる不安に駆られた。

編み出したのが、「訪問書き込み」の乱発だった。
書き込みの数を増せば、相手の反応も増える。

ミレアのホームページ(HP)は、再び賑合いを取り戻した。
交信の相手が増えると、HP上で親しくなる。

若い男達を中心に取り巻きの様な関係が形成され、さながら、ミレアは女王様の気分も味合える様になる。
ネット上でのミレアの別人格は輝いていて、饒舌に男達を翻弄させる位、男あしらいに慣れていた。

ミレアは、日頃憧れる女性像を演じられる舞台を手に入れて、活き活きと交信が出来た。
HPの上では、ミレアは眩い位に輝いて居たのだ。

しかし良くしたもので、得る物があれば確りとマイナスも用意されている。
一旦良い気分を味合うと、それが手放せなくなる。

此れはチヤホヤと自分に注目が集まり、優しくされ癖に陥る「ホスト狂い心理症候群」と同じで、歯止めが効かなくなる。

ホストに金を貢ぐ様に、阻害(そがい)される不安にかられて、強迫観念に落ち入り、自分の生活時間をつぎ込み、せっせとHPの交際範囲と書き込み頻度(ひんど)を増やして行く。それで最終的には「二十四時間交信でも足りない。」ネット依存症になる。

結果、仕事は休み勝となり、実社会での気力も薄れる。
こうなると、ほとんど病気で、好かれて居たいから、相手との書き込み内容にも必要以上の神経を使う。

所謂オーバーフロー(満杯に成って溢れ出る)状態になるのだが、結果、相反する二つの心理状態を共存させる事になる。
「期待感」と「負担感」である。

気を付けないと、HPの遣り取りに神経使い、一喜一憂から「躁鬱(そううつ)」を繰り返す事になる。

本人の意思で有れば「余計な口出し」ではあるが、余裕のある範囲で、HPの運営する事を念頭にしないと、「精神に恐ろしい怪物が育つ事も」しばしば伺えるのが、ネット社会である。


ミレアが生まれたのは千葉県の外房総九十九里浜の一郭だった。
高校までは、毎日浜で海を見て育った。

本名は松永直子と言う。勉強は同級生の中では出来た方だが、存在が地味で、同級生に言わせると、「松永は、居るか、居ないか何時(いつ)も印象が薄かった。」と、評されていた。

中学生になる頃には胸も膨らみ始め、地元の商業高校生の頃には、ミレアは立派な女の身体になっていた。

本来なら、言い寄る男が居てもおかしくないのだが、何しろ地味な万年メガネをかけ、私服の時も目立たない。
ミレアは、その方が安心していられる性分だった。

最初の内は級友から様々な部活に誘われたり、他校との学校行事などに誘われたが、無口な上に参加しても後ろに隠れる事が続いて次第に孤立して行った。

そんな性格が災いして、地味な高校生活だった。
一人仲の良い友達も居たのだが、その友達に彼氏が出来てなし崩しに疎遠になった。

ミレアの家は、祖先が駿河の国(今の静岡県中部)に住んで居たそうだが、明治の初め、曽祖父の代に明治新政府の命令により、江戸の徳川家が旧駿府(駿河の国)に静岡藩として移封(いふう)されて来た時、幕府の大家臣団が大挙して駿河の国に付いて来た。

その為、元々駿河(静岡)に居た在郷武士が居所を失い、トコロテン式に押し出されて、房総半島(千葉)に強制移住させられたのである。

移住してきた当初は、山間部で畑の開墾などに挑戦していた様だが中々苦戦の連続だったらしい。
そのうち千葉県下を二、三度転々とし、現在の九十九里浜沿いの半農半漁の寒村に定住した。
現代ではそんな話に何の価値もないが、祖父の代まで松永家は士族の出を誇りにしていた。

現在、ミレアが親元を離れて住んで居る所は、あこがれた大都会、東京の下町である。
高校を卒業して、千葉の地元で就職した大手スーパーの支店での仕事振りが認められた。

今は、新店の惣菜部の指導を手掛けるスーパーバイザーになる為の実施研修をしていたから、台東区の同社女子社員寮が住まいだった。

中堅幹部を育成する施設だから、与えられた部屋は結構豪華で、広めの一人部屋だった。

中堅幹部社員のパソコン技術の向上は企業としても望ましいので、各室にネット回線が引いてあり、パソコンも貸与されていた。

ミレアが個人のHPを立ち上げるに「お誂え向きだった」と言える。

男に縁の無い地元生活を送っていたミレアは、忙しい時は良いのだが、夜や休みの日が寂しかったから、なるべく長い時間仕事に打ち込んだ。

それが抜擢(ばってき)に結び付いて、今この寮に居る。

しかし、此処に来て以来ミレアがHPで輝きを増すほど、実社会の松永直子は影が薄くなり、近頃では、彼女に対するバイザー育成の評価に黄色い信号が灯り始めていた。

パソコンは便利だけれど、危険も多い。
一歩この世界に踏み込むと様々な誘惑が待っている。

様々な商品がデェスプレイされて、購買意欲をそそり、寂しさや空しさにつけ入る様々な罠も仕掛けられている。

豊かな物資文明の影で貧富の差は広がり、ストレスが蔓延して未来に夢が無い。自殺サイトや殺人請負サイト、この閉塞感が漂う文明社会に生きる者達の、互いが織り成す打算と欲望と、安らぎを求める精神のせめぎ合い。

自ら生み出したIT文明に人は葛藤し、人は便利さと引き換えに時間と余裕を失い、精神が耐え切れない。

人は安らぎを、原始の生存闘争本能と(暴力的な)生殖本能に(性・SEX)救いを求める。つまり、文明が発達すればするほどバランスを取る為にこの手の欲求は強くなり、上手く逃がさないと鬱積して暴発する。

この心のケアについては世間の建前が理解の邪魔になる。
このままではとんでもない怪物が次々と育つのかも知れない。
ミレアも正にこの口で、長い事異性の居ない寂しさに苛まれていた。


ミレアのHP取り巻きの中に、Bワンと言うハンドルネームの心優しい男が居た。
彼はログ廻りをしていて、偶然ミレアのサイトに迷い混んだのだが、何かのきっかけで、親しくなっていた。

Bワンは、ミレアのHPデビュー当時からの常連で、ホームページ(HP)デザインの更新にアドバイスし、ミレアのHP運営の危なさに、いつも気を掛けていた。だから、自然にミレアの愚痴の聞き役にも成ってくれた。

そのやり取りが、何時(いつ)の間にか数ヶ月続いた。
そのうち互いにリンクと言う方法で、相手のHPを紹介する様になり、互いに親近感が増して行く。

優しい心に触れて、何時しかミレアはBワンに、心引かれて行った。
このミレアの心の動きは、傍から見ると「危ないもの」に違いなかった。

ミレアのBワンへの書き込みの雰囲気に、明らかな変化が現れた時、一人のHP仲間が直ぐにその変化に気付いた。
リュウちゃんだった。

元々リュウちゃんは、自分の学生時代からBワンとHP上の親交があり、ミレアともBワンを通して親交が始まっていた。

リュウちゃんはBワンに婚約者が居る事を知っていたから、ミレアにはそれとなく注意をして、深入りをいさめた。

HPの付き合いは、あくまでも仮想(バーチャル)の世界で有り、現実の愛情に結び付けるのは通常誤解に等しかったのだ。

所が、ミレアとBワンはその禁を破って密かに会う処まで約束を漕ぎ着けていた。

コンピューターの上以外で交流する事から、この手段を「オフ(ONの反対OFF)」と言う。
会って話す様になると、Bワンの苗字は佐々木と知った。

本来、女性は男性に優しさを求めるが、これが曲者で、「優しい性格」と言うのは誰にでも優しい事を意味し、「優しい男性が、自分だけに優しい」という幻想は、将来破滅の道を歩む可能性が高い。

ミレアはこのデートに漕ぎ着けるまで、様々な妥協をしている。

佐々木にすれば、後で厄介事になるのは困るので会う事に消極的だったから、散々に条件を付けたのだが、ミレアはその条件を全て飲んでいた。

その時、「妻が居るので、何の発展も望めない交際だけどそれでも良いか?」と念を押され、返ってBワンが誠実に思え、「都合の良い時だけ会えれば良い」と答えている。

ミレアにとって、佐々木の存在は寂しさを埋め合わせるバーチャルな存在で、たとえ目先の一定期間でも、日々の励みが出来ればそれで良い。

この時期、佐々木和也は精神的にかなり参っていた。
佐々木和也が参った原因は、とても他人には言えない。いや身内にも言えない苦悩だった。
それを一人で背負う苦悩に押し潰されそうだった。

それで、今までなら避けていたHPの交信相手のミレアに、フラフラと逢ってしまった。
自分と何の関わりも無い女性との出会いに、逃げ込みたかったのだ。

逢って見ると、ミレアは素直で良い娘だった。
それでついついその娘に甘えてしまった。

しんどい現実から逃げ出すには、非日常の世界でストレスを発散しなければ身が持たない。
その相方に、ミレアは素直に成ってくれたのだ。


巷に溢れる報道から、こうした見ず知らずの相手と会うのは危険な場合も予想され、ミレアは今までは極力避けて来た。

処が、こうしていざ直面すると「自分がしっかりしていれば大丈夫」と、勝手に決める心理が働いていた。

会って見ると、Bワンは見るからに紳士で、立ち振る舞いに余裕を感じさせ、身に着けている物も裕福そうだった。

彼はミレアの想像以上に大柄な身体だったが、それに似合わない優しい態度がミレアをホッとさせ、初対面の危惧は薄れた。

年齢の割に少し髪が薄い為に若干更けて見え、「太り気味と思った」のだが後で肉体を見せる間柄になって凄い筋肉と知った。

最初に連れて行かれたのは有名なブティクで、「気に入った物を選べ」と言う。
遠慮しょうとしたが、「次回合う時のものだ。」と言われ、再会の為にそれを受けた。

ミレア(松永直子)が恐る恐る気に入った目も眩む様な高価な服を、「あなたはどちらを着せたいか?」と着て見せた処、「両方似合う。」と無造作に二着とも買ってくれた。

あげくに「それに似合う履物も買え。」と言い出し、結局ブランド物のヒールと揃いのバックもと、二揃えが手荷物となった。

ミレアにすると、初めての男性からのプレゼントで、舞い上がってしまった。
それからは時たま呼び出され、豪華な食事と、クラブで楽しく飲酒をして過ごす日々を過ごした。
ミレアにとって、それこそ降って湧いた人生最高の日々だったのだ。

三回ほどデートをすると、クラブの後にホテルに誘われた。
それとて、ミレアにすれば遅過ぎる位待ち侘びていたのが本音だった。
男と女の気持ちが接近したのだ。

性的交流に発展するのはミレアの臨む所だった。
佐々木に抱かれて、ミレアは幸せだった。
「自分はこの人に抱かれる為に生まれて来た」とさえ思える。

良くした物で、見られる相手が居ると、下着もそれなりの物を身に着けるようになる。
めがねもコンタクトに変えて、アヒルは白鳥に変身した。
しかし、女性特有のメルヘンな感情は、現実には程遠いもので、白馬の王子様は居無いのである。

しかし、恋する乙女は盲目と相場が決まっている。

最初の内は、誘われるままにホテルで一夜を伴にしていたが、その内「社会勉強だから。」と、生まれて始めてハプニングバーに連れて行かれた。

勿論Bワンは連れて行く前にミレアにその趣旨を説明して了解を取っている。
「およそ日常とは違うHな場所だけれど、こんな世界もあると人生勉強に行って見るか?」

「佐々木さんが私を連れて行きたいなら、連れてってください。」
噂では「かなりいかがわしい」と聞いていたが、Bワンの要求だった。
ミレアの方は背伸びしても、彼に付き合いたい。

松永直子にとってかなりのカルチャーショックだが、Bワンに連れて行かれたそこは、世間の常識とはかけ離れた非日常のひと時を実現する世界で、日常のストレス解消を求める人々の集う場所だった。

客はセクシーで怪しげな夜に、他の客に迷惑を掛けない程度に羽目を外す。
自発的に裸を見せる事や、性行為を見せる事は誰も咎めない。

見せるだけでなく、気に入った相手には性行為に参加させ、パートナーの交換をする事も目的として存在するのが、ハプニングバーである。

ハプニングバーは、一見PC(パソコン)ネットに関係ない様に思えるが、実はネットとの関わりは大きい。

全国の大都市の繁華街を中心に、千店を超える繁栄を見せているハプニングバーは、来店者主導の遊び場所提供型の風俗だが、その宣伝手段はネットである。

相互ネットであらゆる風俗サイトと連携が可能になって、初めて採算が取れる様になった。

店の存在を告知宣伝するにしても、その手の遊びの希望者達が求める横の連絡にも、ネットが役割を担っている。

何しろ私的で不道徳な遊びを、半ば公然とさせる為の空間を提供するのがハプニングバーの役割りで、宣伝媒体におのずと制約があるからだ。

ミレアは最初驚いたが、「Bワンが求めるなら」と覚悟を決め、全て言うに任せた。
誰に何と言われようが、ミレアはBワン(佐々木)を愛していたのだ。
けなげにも、「Bワンに従うのが愛の証」と信じていたのだ。

店内に入ると、覚悟はしていたが想像以上の異様な空間がそこにあった。
ミレアは「この場の雰囲気に合わせる為」と、来店早々ロッカー室で半裸のランジェリーを着せられた。

店の決まりでそうした扇情的な衣装着る事が義務付けられ、衣装は揃っていた。

始めて試みる妖艶な格好を自分がする事に、ミレアは恥ずかしかったが、Bワンに嫌われてまた一人になり、寂しい思いをしたくないから言われた事に従った。

ミレアの様に、自分を騙せる他の理由が有れば、少し位疑問を感じる事でも、それなりに納得出来るのが人間で有る。

最初のうちは薄暗さに目が慣れず、二人は大人しく寄り添って飲んでいた。

ミレアの目が店の明るさに慣れてくると、そこかしこで怪しげな人影がうごめいていた。
そのうち酒が入って気分が盛り上がったのか、Bワンに素早くブラジャーを外された。
薄暗がりとは言え人の大勢居る店内で、実は少し自信の有るミレアの乳房が露になる。

ミレアが大人しく従うと、「えらい、えらい」と佐々木に褒められ、やがて「これも取ろうね。」とパンテーも脱がされて、美穂は丸透けのランジェリー一枚の恥ずかしい姿になった。

この頃にはかなりグラスを重ねていたから、ミレアも酔って気が大きくなり、「どうせこの店の中だけの事だから、少し位気晴らしに羽目を外しても良い」と思えて来た。

暗がりを透かせて良く見ると、周りの客達も似た様なもので、皆半裸や全裸でうごめいている。
自分だけが裸では無いと知ると、ミレアも幾らか安心した。
それでミレアは、薄明かりの店内でBワンの愛撫を受けながら飲酒を続けた。

そのうちBワン(佐々木)は、「こうなれば大して変わりは無いから」とミレアのランジエリーも取り上げてしまった。

それでもミレアが逆らわないと見ると、ひとしきり酒を飲ませた後、Bワンは、「場を盛り上げて、皆様に楽しんでもらえ」と、強引に背中を押してステージに立たせてカラオケを歌わせた。

全裸でカラオケのお立ち台に立つのは、スポットライトがもろに当って流石に恥ずかしいが、もう此処までくればミレアも破れかぶれで有る。

ミレアの裸身はスポットに照らされて白く浮かび上がり、暗がりから無数の視線を感じたが、ミレアの方からは、暗い客席は何も見えない。

返って相手の顔が見えないのは、申し訳の仮面と共に救いだった。

どうやらBワンは女性を裸にして晒し者にするのが好きらしく、ミレアがステージでカラオケを歌う事を承知すると機嫌が良い。

それはBワンの生来の性癖ではあったが、何しろ彼は日常のストレスから逃げたがっていた。

「好きな相手の要求だから」と、ミレアはけなげに頑張ってそれに応えた。

ミレアのカラオケの持ち歌は、母親から教わったピンクレディのヒットナンバー位しかないが、それを思い切りよく「振り付け付きメドレーリレイ」で歌い踊った。

スポットライトに照らされて歌い踊るミレアの裸身に、彼女の黒い影が壁に映って寄り添うように踊っている。
何しろ、全裸にあの脚を上げ、股を開くおなじみの振り付け付きである。

ミレアの秘所も隠し様がない。
傍目、ミレアも乗って見えるから、その場のボルテージは盛り上がった。

此れが他の客に大いに受けて、大勢の注目を集めたから、ミレアはたちまちその店で人気者になった。
この非日常の視線が結構刺激で、ミレアの股間は愛液が滴るほど潤んでいる。

ガブリ付きで見ていた酔っ払い客がそれを見つけて「この娘、すげぇ感じている。」と面白がり、歌っているミレアに持参した卵形の振動バイブを挿し込んだ。

ミレアは驚いて歌と踊りを中断したが、Bワンの「そのまま歌い続けろ。」には逆らえず、股間に堪らない刺激を感じながら腰を振り、歌い続けた。

見物の輪が出来てボルテージが上がり、歌い終わる頃には、ミレアを取り囲む様に合唱の輪が出来ていた。
此処に集まる多くの者が、世代的にピンクレディで育った世代なのだ。

ボックスシートに戻ると、かなりの人数が付いて来る。Bワンが合図のOKサインを出すと、それこそ見知らぬ客達の手が無数に伸びて来た。

その遠慮の無さが「店のルールだ」と知った時は、ミレアは大勢の男に身体を触れられていた。
「座ってないで、立て。」

何時になく、Bワンのきつい声がした。
反射的にミレアが立ち上がると、触らせ易くするのが立たせ意図で、前も後ろも胸も尻も、何処にでも手が伸びて来る。

ともすればバランスを壊しそうになる姿勢を踏ん張って、ミレアは彼ら手が意のままに動くのに任せていた。
その異様な感覚に歪むミレアの顔を、Bワンは満足そうに見ている。

ミレアは生来廻りに気を使う性格だから、相手を気使って、「嫌」とは言えない。
だからBワンは、彼らにミレアを好きに弄らせた。
それでも客達に乱暴な者は居ない。

こんな所に来るにしては、彼らは本質的に女性に優しく、よく気使って接してくれる。

もっとも、それくらい安心安全感を持たせ、女性に気を使って接しない事にはこの場は成立せず、遊び場として持続もしない事をここのメンバーは充分に知っていた。

そんな雰囲気だから、ミレアはヒロイン扱いで楽しかった。
まるで、日頃の生活では味わえない主役気分にさせてくれる。
「此処もバーチャルの世界なのだ。」と、ミレアは納得した。

そのハプニングバーは二人のデートコースとなり、それが刺激となって、ホテルでの二人の行為は濃密になった。

何をさせても従うから、Bワンの要求は段々にエスカレートして、そのうちミレアはSM系のハプニングバーにも連れて行かれる様になる。

会えば続けて二〜三日逢瀬が続くが、Bワンに会うのは月に一〜二度だから、ミレアは縛られても、吊るされても、他の客に貸し出されて嬲られても、会いたいし、会うのが楽しい。

SMハプニングバーに連れて行かれれば、縛られて輪姦が待っている。
確かに、「私は何故こんな事をしているのだろう?」と言う思いは、何時も頭の角から離れなかった。

それでも、Bワンに都合の良い女で居れば、関係は続けられる。
ミレアの、精一杯の思いだった。

それに、ひと時でも即席の物語の主人公になれるバーチャルの世界は棄てがたい。
ミレアは転げ落ちる様に、その人生に置いて背徳の中に身を沈めて行った。

女は付き合う相手の男性次第で、幾らでも変身出来るのかも知れない。
処が、三ヶ月ほどでその付き合いは佐々木の態度が急変して一方的に音信が途絶えている。

実はこの頃、Bワンには二度と巡り合う事が出来ないと思われる婚約者が見つかり、「勝手」と言えば勝手だが、彼は律儀にもミレアとの関係を清算する事にしたのだ。


九月の終わり頃、ミレア(松永直子)は必死にHPで佐々木(Bワン)に「会いたい」とメールや書き込みを送っている。
理由も告げられず突然付き合いが途絶えたので、ミレアには現状を認める事が出来無い。

「何故」と言う思いが湧き上がる。
ミレアには別に何の要求も無い、ただ、今まで通りに遊んでもらえばそれで良い。
しかし、佐々木は頑なに会おうとしない。

ズルズルと引きずる事が、互いに得策でない事は判っている。
しかし、何故今なのか?
ミレアは気持ちに絶望を感じた。

寂しかったので、ミレアは一人で佐々木が行き付けのハプニングバーに行った。
偶然にでも彼に「行き会わないか」と一類の望みがあったからだ。

そこで、顔見知りに成っていた店のおかま風マスターに「ねぇ、今夜のお勘定はいらないから、何時ものピンクレディをやってよ。」と乗せられ、景気付けに定番の全裸カラオケを歌っていた。

暗がりからの無数の視線は、ミレアに取って気晴らしにさえ成っていた。
泡沫(うたかた)とは言え、店で人気者だったからだ。

すると、以前からの佐々木の顔見知りで、スガワラと名乗る男に「今夜はひとり?」と声を掛けられた。
タイミングが良かったから、ついついそのまま酒の相手を始めてしまった。
スガワラは佐々木和也の顔見知りだったから、ミレアに警戒心が欠けていた。

一所に飲んでみると、スガワラが妙に優しくしてくれる。
元々、自分から声を掛ける経験に乏しいミレアにしてみたら、優しい言葉には「クラッ」と来た。

髪を短く刈り上げて眼光するどいスガワラは、見るからにその業界の人間と判る。
その危険な香りが、時としてフラリと女を引き付ける。

彼は、業界の見栄もあり、濃紺の高級車ベンツを乗りこなしていた。
その男にホテルへ誘われ、寂しさと酒の勢いで付いて行ったのが、ミレア他殺事件の発端だった。

若い娘が付いて行って、無事で済むような相手ではない。

ミレアは、態度が一変したスガワラに、ホテルで麻薬を注射(うたれ)て、抱かれた後、背中に刺青を背負った若い衆を三人ばかり呼ばれて、メチャクチャに弄ばれてしまった。

「これからは佐々木の事は忘れて、組の若い衆の女に成れ。」
相手は、和也に依頼されてミレアに近付いたプロのアウトローだったのである。

スガワラの方は、ただの一夜の遊びだった。
それに、佐々木を諦めるように、佐々木本人から依頼されていた。

計算では、酷い目に遭わせればミレアは懲りてこの辺りをうろつかない筈だった。
世間の若い女は、大方そんなものだから、ミレアもそれで片が付く筈だった。

目的を達すればミレアに用は無い。
犯り倒してホテルに放置した。

処が「恐い物知らず」と言うか、「一途に思い詰めていた」と言うのか、ミレアが、スガワラが想像もしなかった大胆な行動に出る。

何時の間にスガワラの携帯ナンバーを控えたのか、翌日にはミレアから着信があった。

スガワラは、佐々木と店で会うと何時も親しそうに何やらコソコソ話していた相手だったので、麻薬をネタにミレアは相手を脅し、「佐々木に合わせろ」と詰め寄った。

「会わせてもらえなければ、薬の事で警察に行く」とまでミレアは言い切った。
それで、馬鹿な女を騙した軽い遊びと思っていたスガワラの方は、笑い事ではなくなった。
麻薬の話は、冗談では済まない。ヘタを打つと、スガワラでも自分の命さえ危険になる代物だった。


リュウちゃんの立場ではミレアとBワンが直接会う様になって、暫く二人の書き込みは外目疎遠に見えた。
処が七月の或る日、リュウちゃんの心配をよそに、ミレアのBワンへの書き込みの内容が一変する。
病的な質濃(しつこ)さで、Bワンに愛を求め始めたのだ。

此れにはBワンも、流石(さすが)に慌てた様で、説得を試みたがミレアは聞かない。
しかも精神に異常をきたした様に、時々まともな書き込みも混ざる。

メールの内容も、まるで二人の違う人格が居る様に、その内容に混乱があった。
リュウちゃんが事態の収拾にミレアに書き込みを入れたが、ミレアは「その大半は知らない。」と、とぼける。

リュウちゃんとのメールでのやり取りでは、いかにもまともそうに思えるミレアだったが、此れがBワンのHPの掲示板となると、ハチャメチャで、始末に負えない。

この整合の無さは返って不気味で、リュウちゃんはミレアの精神状態を疑った。
そうこうしている間に、BワンがHP上から消えたのだ。

それで、リュウちゃんはミレアを責めた。
しかしミレアは「自分もBワンを心配している」と、言い張って譲らない。
掲示板の書き込みは自分でないと、関与を否定したのだ。

そんな話しは、誰にも信じられない。此れが言い逃れでなく、本気で言っているなら、なお更厄介で有る。明らかに、分裂の傾向だった。

このリュウちゃんとのやり取りの後、八月の中頃には、ミレアのHPは無気味に沈黙した。
ミレアは誰のHPにも現れず、それにも増して書き込みもしなくなった。
そして相手を問わず、相手の書き込みにもメールにも応じなくなった。

暫くの間、HPは閉鎖されていなかったが、ミレア本人の活動は完全に止った。
そして、見慣れたミレアのHPトップを飾るマリア像の画面は、何時(いつ)の間にか消えて行った。

それが半月ほど前の九月の中頃、ミレアがまったく違うデザインのHPを立ち上げた。
突然現れたミレアが、必死でBワンとのコンタクトを試みるリュウちゃんに、真っ向から非難を開始したのだ。

仕掛けられたリュウちゃんと仕掛けたミレアは、当然非難の書き込みの応酬になるのだが、無気味な事に、メールでミレアの別人格が、まったく違う内容を呼びかけて来る。

流石のリュウちゃんも、ミレアの心理作戦に翻弄されて行った。
暫くHP上でごたごたが続いていた。そのうち、今度はリュウちゃんが影形無く失踪した。

発見したのがナカヤンである。
それが、十月の初旬の事だった。

この時はまだ、ナカヤン達はそんなに複雑な背景など知らないから、探偵ごっことお化け退治が一度に来た気分で、半ばこの推理ゲームを楽しむ側面も有った。

ナカヤンに確証は無かったが、インターネットが絡んでいる事は容易に想像が付く。
それなら、囮り(おとり)作戦で、何らかの成果が掴めるかも知れない。
所が、その軽い気持ちが想像も着かない大事件に繋がって行くのである。


(おとり作戦)
======「現代インターネット風俗奇談」======
小説・電脳妖姫伝記
◆ 和やかな陵辱 ◆第三話(おとり作戦)


ナカヤン達の囮り(おとり)作戦計画が始まっていた。
ホームページ(HP)を持つには、正式にどこかのプロバイダーと契約しなければ成らない。

此れには申し込みから、回線が割り当てられるまで二週間程度かかるので、まともに手続きをしていては、今回の作戦には間に合わない。

それで、急遽(きゅうきょ)京子の回線を契約変更し、ナカヤンのアパートに住所移転させ、いかにも初心者風に、ナカヤンのホームページ(HP)を立ち上げた。

HPを立ち上げたら、次は罠のセッティングである。
段取りは順調に進み、京子はこの計画の成功に多いに期待していた。

このたわいない罠のおかげで、ナカヤン達一同が「身の毛もよだつ恐ろしい体験」をするとは、この時はまだ思いも掛けなかったのだ。

十月二十日、最初のマンション行きの日から十日が経っていた。
京子はメンバー各自が持ち寄った機材を、ナカヤンのアパートで忙(せわ)しなく整理している。
今はリアルタイムの動画監視カメラ映像がネット回線で見る事が出来る。

カメラの類は買い揃える事になる。
今は、小型で高性能のものが、秋葉原辺りで手に入る。
購入資金は九条民子が出した。

自分は何も出来ないから、「せめてそれくらいはさせて欲しい。」と、自ら申し出たのだが、ナカヤン達は正直助かった。
総額六十万円からの大出費だったのである。

仕事の合間の作業だから、気はあせったが準備に十日費やした。
その間も、何処からも情報は入らず、リュウちゃんもBワンも現れず、消息不明状態は続いていた。
これだけ、はっきり人が居なくなっているのに、警察は何故動かないのだろう。

あの永田と言う男が個人的に動いて、いかほどの事が「出来る」と言うのか?

京子に煽られて、千葉のリュウちゃんの部屋から例の鏡を外して来たが、気味が悪いので取り付けは最後にするつもりだ。

ナカヤンの水道橋のアパートで、ナカヤンと京子が機材の取り付け作業をしていると、訪問を知らせるチャイムが鳴った。
ナカヤンがドアを開けると、永田がヒョッコリ顔を出した。

まるでテレビドラマの下端刑事の様にくたびれたスーツと、余りセンスが良いとは言えないレンガ色の細身のネクタイをタイピンもなく締めている。

「住所を教えた訳ではないのに何故だろう?」と、不思議に思ったが、とにかくやって来た。

ナカヤンに言わせると、永田の存在も何か不自然さを感じさせるものがある。

しかし後で考えると、リュウちゃんの失踪届けの際に、調書に住所を書き込んだ事に思い当たった。
「今回プライベートで捜索に参加する打ち合せに来た。」と、彼は言った。

ほぼ配線と取り付けの作業は終わっていて、後は例の鏡を取り付ける作業が残っただけだったから、一服がてら、永田と話をする事にした。

永田は冷蔵庫から出された缶コーヒーを京子から受け取ると、それをおいしそうに飲みながら、ナカヤン達が聞きもしないのに、警官になった経緯(いきさつ)を話し始めた。

彼は子供の頃から警察官に憧れていて、都内のある私大を卒業すると、地元千葉県警の採用試験を受け採用された。

現在三十二歳だそうで、この十年の間に二度昇進試験を受け、少し同僚より若くして巡査部長を拝命していた。
自称、今では少なくなりつつある根っからの熱血警察官で、「今回は興味をそそる格好の難事件だ。」と、言うのである。

永田の目的は、互いの持つ情報の交換だった。
彼は、今度の失踪が「同一の原因」と証明出来れば、連続失踪事件として、「正式に認定され、警察も動く」と言うのだ。

ナカヤンは、取り敢えずBワンとリュウちゃんのネット上の繋がり、失踪現場の道具立て等、この舞台の共通性を教えた。

彼が言うに、普通犯罪捜査では関係者は全員、一応容疑者に分類される。

勿論、ナカヤンも京子もその範疇(はんちゅう)にあるが、実は、彼としても「裏を取らせてもらって、協力相手に選んだ。」と言う。

従って、情報も相手によって流す内容に分類を加へ、個々の動静から、不審の有無を推し量る事も有る。

同じ情報への接触人数が多くなると、情報が均一になり後で絞り切れないので、後の三人には、流す情報も「意図的に一部分になるよう協力してくれ。」と、言った。

永田の話を聞いて、ナカヤンは「なるほど。」と思った。

改めて言われて見れば、京子以外は誰も素性なり人となりを良く知らない。
ナカヤンに言わせてもらえば、永田だって大いに怪しいのだ。

それで京子と打ち合わせて、永田との接触は他の三人には当分伏せる事にした。
流石(さすが)餅は餅屋で、永田はナカヤンの気が付かない事を教えてくれる。


永田が帰ると、ナカヤン達はドアの横に鏡を取り付けた。
面と向かって見る分には、何の変哲もない鏡だった。

それが、ナカヤンが背を向けると、ゾクゾクと異様な感触を感じる。
ナカヤンの先入観も手伝ってか、ゾーッとする鳥肌が立つ嫌な気分だ。

特に京子が意図して、向かい合わせにセットされたパソコンの電源を入れると、その異様な感覚は数倍になった。
そして何か後ろから、小さな声が聞こえて来る様な気がした。

それは、女のすがる様な声に聞こえた。
「ねぇ、何か聞こえなかった?」と、京子が言った。

ナカヤンの気のせいでは無い、京子も何か感じ取っている。
薄気味悪い声に、先程から鳥肌が立って居るが、京子に「弱虫」と見られるのも、ナカヤンは潔しと出来ない。

ナカヤンはそれに答えず、「おぃ、明日から俺は此処に一人きりか?」と、心細そうに言った。
声が聞こえた事を、認めたくなかったのだ。
「何ぁに言っているの、男でしょ。」

機材のセットが終わると「確りしてよ」と一言残し、その日京子は千葉に帰って行った。
男の癖に心細かったが、明日は二人とも仕事だったから、一人で夜を迎える以外に選択の余地はない。
ナカヤンはあのリュウちゃんの鏡と部屋に一人取り残され、心細い一夜を過ごした。

実を言うと、京子が帰ると直ぐに鏡を風呂敷の布で覆って画鋲で止め、見えなくした。
どうしても、せめて今夜はお付き合いしたくなかったのだ。

首の痛みは和らいでいた。

ナカヤンは、リュウちゃんの部屋でこの鏡が気になってから、胸騒ぎの様な不安感に絶えず襲われ、覚えの無い首の痛みに悩まされている。

布団に入り、目を瞑(つむ)ったが寝付けない。
ナカヤンは「俺は何でこんな事をして居るのだろう?いや、今出来るのは俺しか居ない。」と、自問自答していた。

いよいよ翌日の夕方六時から、囮(おとり)作戦が始まる。
果たして、ミレアは捕捉出来るのか?眠れぬ夜が、更けて行った。


翌日(十月二十一日)、夕方六時にはナカヤンは自分の部屋に居た。
昨夜は、何時ごろ寝付いたのか未だに思い出せない。
ほとんど寝て無い様な気もするが、気が付いたら出勤時間が迫っていた。

これから囮作戦の開始である。

その頃には京子、クロさん、民子、静(しずか)達メンバーは、高田の馬場のBワンの高級マンションに集まっていた。

こちらも、準備に余念がない。

京子がマンションを訪ねた時、玄関脇の大鏡がない事に気が付いて民子に言うと、ナカヤン達に話を聞いて以後、どうも気に成るので、「クロさんに外してもらった。」と、民子が答えた。

実は民子も、あの異様な人の気配の霊気に以前から悩まされていた。
それが鏡の為とは思わなかったから、早速取り外したのだ。

ナカヤンがコンビニで買ってきた生暖かいカツカレーを食べ終え、鏡の布を外していると、携帯が鳴り、京子からパソコンを立ち上げる様に言って来た。

インターネット回線のカメラの映像は無事向こうに届いているらしく、「カツカレーを食べ終えるのを待っていた。」と言う。

「やっと鏡の布を外したわね、カメラ位置を合わせるわよ。」

京子が、何時もの調子で歯切れ良くまくし立てる。
それを聞いて、カメラが既に作動している事を知った。
「此れではうっかり下着姿にも成れない」と、ナカヤンは苦笑した。

ナカヤンは京子の要求で、携帯で連絡を取りながら、カメラの角度とズームを合わせた。
一本はパソコンを、一本は例の鏡を、一本はナカヤンの様子を捉える様にセットする。

「此れで良いか?」
「もうちょっと右、そう、OK、OK!」

映像はコンピューター回線を使って、リアルタイムでマンションに送られ、京子がHPの操作を、後の三人がそれぞれのパソコンカメラ映像を担当する。

肝心の、鏡に向けられたパソコンカメラの映像監視は、何故かクロさんと民子が嫌がるので、若い静(しずか)が引受けた。

ナカヤンの部屋のパソコンは、京子の作ったHP「親友リュウちゃんは何処に行った?」が、画面に映し出されている。

つまり、尋ね人がメインの友人捜索サイトと言う訳である。 京子が考え、ミレアが見つけて食い付きや易いように、題名そのものがメッセージに成っている。

スイッチを入れ、HPを立ち上げて五分もすると、ナカヤンは背後に人の気配を感じた。
あのリュウちゃんのアパートで、最初に感じたゾグゾグと言う感覚だ。
ゾーッとする鳥肌が立つ嫌な気分が、最高に激しく感じられる。

おかしい。
まるで追突でもされたようにガクガクと首が痛い。
まさか、こんなに早く現れるとは思わなかったが、確かに何か来ていた。
或いは、あの鏡に最初から居付いているのか。

ナカヤンは鏡を見る度胸は無かったが、彼の背後で異様な冷気とともに霧状の影が鏡に浮かび上がって、白い顔が輪郭を整えて行く。

心なしか、部屋の明かりがほの暗くなり、冷気が漂っていた。

ナカヤンは鏡が気になって、振り返りたい感情にかられたが、恐さからくる躊躇(ためら)いの気持ちがそれを打ち消した。

鏡を忘れる為に、ディスプレー画面に神経を集中しようとするとグィっと誰かに右肩を掴(つか)まれ、ナカヤンは一瞬凍り付いた。
衝撃的な予期せぬ出来事だった。

部屋には誰も居ない。
しかし今、無いはずの実感がある。払い除けようと左手を肩にやったが、空(むな)しく空(くう)を切った。

空(くう)を切ったが、間違いなく掴(つか)まれている感触は存在する。
誰も居ない部屋で、それは無いだろう。

鳥肌が立って、この恐ろしさは脳が充分実感している。
やはり、実体はないのだ。

ナカヤンはこの呪縛から逃れようと焦るが、意の様にはならない。
何故か、もがいても身動きが取れないのだ。

「これは幻想に過ぎない」と、ナカヤンは思おうとした。
しかし肩を掴まれた感触は強烈にリアルだった。
ナカヤンは、次に何が起こるのか判らない恐怖に、全身からサーッと血が引いて行くのを感じた。

「リュウチャンの様に俺も消えて無くなるのか?」
そんな不安が、ナカヤンの脳裏を過(よ)ぎる。

それにしても、この部屋の冷気は何だ。
あのゾクゾクと言う感触以後、急に室温が下がっている。

続いて、誰かのか細い声が、耳元で囁(ささや)いた。
「お願い、気を付けて。」
若い女の声だった。

ナカヤンは「ギャーッ!」と、男の癖に黄色い悲鳴を上げていた。
正に恐怖で「心臓が止るか」と思った。
完全にパニック状態だったのである。

その途端、肩に感じた力はスーッと軽くなった。
しかしナカヤンは、腰が抜けた様に立ち上がれなかった。

ほんの一瞬、金縛りに会った様に力が入らない時間が経過した。
冷気は霊気なのか?この金縛りが事実とすれば、そう考えられる。
説明はし難いが、ここに漂う霊気は、過去に経験した事の無い不安感をナカヤンに抱かせる。

その後、ナカヤンは意を決して机に手を掛け、恐る恐る椅子を回転させて後方に身体を向けたが、勿論、誰も居ない。

しかし、ナカヤンは白い影の様なものが、慌てた様に鏡に入って行くのを見逃さなかった。

「あの白い影が・・・・あれがミレアか?」
鏡の事は、自分で他人に言いながらも、半信半疑だったナカヤンだが、此れで確信した。

「アワワ、本当に・・・・居た。」
ミレアが、「逢いに来たのだ」と思うと、ナカヤンの背筋は寒く成った。

繋ぎっぱなしの携帯から、京子の怒鳴る声がした。
「ねぇ、ナカヤン、ナカヤン、ねぇ、どうしたの?」

送られてくる映像には、ナカヤンの奇妙な一人芝居が映し出されている。
ナカヤンは携帯を取り上げて叫んでいた。

「来た、今来た。」
「何を言っているの、こっちは何も映って・・・・エッ!」
隣に目をやった京子の声も、そこで途切れた。京子の横で、後の三人が凍り付いていた。

京子はHPの書き込み操作に追われて気が付かなかったが、モニター画面で監視していた静(しずか)は声も上げられず、アワアワと画面を指差していた。

静(しずか)の担当する、ナカヤンの部屋の鏡を映し出している画面にある筈のないものが映し出されていた。
鏡の中に、白い衣装の上半身だけの女の悲しそうな顔が、少し首を傾けて、ジット見詰めていたのだ。

此れには、気丈な京子も流石(さすが)に衝撃を受けた。
「うそ・・・・何、これ!」
思わず口から突いて出た。

一方ナカヤンも携帯を握り締めたまま、鏡の中の女に見据えられて動けなく成って居た。
だが、良く見ると女は何か訴えかける様に、口を動かしていた。

「オネガイ、キヲツケテ。」
言っている事は、先ほどの囁きと同じだった。

「これは警告ではないか?」と、ナカヤンは思った。
ナカヤンが鏡の中の女に向かって必死で「判った」と念じながら二度頷くと、女はスゥーッと鏡から消えた。

何故か鏡の中の女からは、敵意が感じられなかった。
むしろ何かを訴えたいように、そこに映った女の顔が悲しそうだったからだ。

ナカヤンの脳に、「オネガイ、キヲツケテ」の声がこびり付いていた。
ひどく長く感じたが、後で冷静に考えると、それはほんの一瞬の出来事だった。

この囮作戦計画は、直ちに中止に追い込まれた。
もう、すっかりナカヤンに継続の意志はなかった。

「ねえ、あの白い影、首が傾いていない?」
そう言われて見れば、不自然に首が傾いていた。

忘れていた首の痛さが、急によみがえって来る。
「やめてくれ、京子、俺にはもう囮はコンリンザイ出来ない。」

恐らく、五年は寿命が縮(ちぢ)んだ事だろう。
思い出しても血の気が引く信じられない強烈な体験だった。

これは当分魘(うな)されるに違いない。
あんな目に会うのは、誰だって二度とゴメンのはずだ。
これは、間違いなく超常現象である。

恐怖体験からか、クロさんと民子も中止を強く訴えていた。
ナカヤンは鏡を直ぐに取り外し、毛布をぐるぐる巻いて部屋の外に置いた。

だが、それでもとても落ち着けない。
恐ろしくて居た堪まれないので、携帯で京子に助けを求めた。
「しょうがないねぇ。」と、京子は小一時間でやって来たので、二人でホテルに行った。

もっぱら恐怖だった。
滅法怖がりのナカヤンが、今夜あの部屋に一人で寝るのは勇気が居る。
理屈で割り切れぬ現象には、人間誰しも弱い。

覚悟をしてない時にあんな現象に襲われたら、ナカヤンの心臓はキット止まる。
一瞬の出来事だが、気のせいにしては妙にリアルな肩を掴まれた感触が、今も肩に残っているのだ。

ヘッドライトに照らされて、突然浮かび上がった己の影さえ、何か言い知れぬ恐怖感が脳髄に響き、先程から拭い去れずに居る
まさしく、「逃げ出した」と言う事だが、ナカヤンはまったく「恥ずかしい」とは思わなかった。

怖いものは怖いし、第一、怪奇現象とどうやって対抗するのだ?
せっかく二人でホテルに行ったのに、京子を抱く気に成らないほどナカヤンの受けた衝撃は大きかったのだ。

不思議な事に、あの白い影を見た者のほとんどが首に痛みを感じる。
九条民子も例外ではない。

それにしても、あの鏡の中の女が、ミレアなのだろうか?
「ミレアが警告しているとするなら、何を意味している」と言うのだ?

悲しそうな女の顔が再び浮かんで、ナカヤンは身震いをした。
「オネガイ、キヲツケテ」


あれから数日が経った。
風に一層秋風をたたえて、カレンダーは十月二十六日を指していた。

ナカヤンは、恐ろしい記憶がやっと、少しは客観的に考えられる様になった。
あの体験以来、九条民子は恐がって、徹してナカヤン達を避けている。

「落ち着く時間が欲しい」と言った。どうも、ショックであれから二日ほど寝込んだらしい。
クロさんも見かけによらず参っている様で、やはりナカヤン達への連絡の頻度は落ちた。

意外な事に、元気娘の静(しずか)だけがあの恐怖にもめげては居ない。

「チョウーコワで、まいった、まいった、トカじゃなぃ。ハハハ」で、本音は判らないが、笑い飛ばしている。

京子も然したるショックは無い様だから、本当は女の方が幽霊話には強いのかも知れない。

囮作戦は挫折したが、京子は立ち上げた捜索サイトHPで、情報収集を継続している。

此れと言った情報には巡り合わず、膠着(こうちゃく)状態で、アクセスしてくるのは知らずに迷い込んで来た者か、クロさん、静(しずか)で、いずれも様子を聞いて来るだけで有る。

鏡の現象は間違いなく有ったが、ミレアからのサイト訪問はなく、彼女が現在HPを使っていないのは確実かもしれなかった。


夜の八時頃、永田が「今日は非番だ」と言って、ナカヤンのアパートを訪れた。
くたびれたスーツとレンガ色のネクタイは相変わらずである。

ナカヤンは三日目にして漸く落ち着きを取り戻し、今は自分の借りているアパートに戻っている。
京子は、自宅でミレアからのサイト訪問を待っているから、今夜はこのアパートには居ない。

それにしても、永田は「都合良く」と言うか、まったくタイミングの良い時に現れる。
まるで、見張って居るかの様だ。
ナカヤンは、永田に囮作戦の事は言ってない。

あんな怪奇じみた事、言っても警察はおそらく相手にしないだろうし、第一に、怪奇現象が犯人では話しに成らない。そう判断していたからである。

私服の永田はどう見ても田舎のアンチャン風で、クロさんが言う、あの湾岸走査線の有名俳優とは似ても似つかない。

前回ナカヤンに会った後、今彼は、「失踪した五人をもう一度洗い直し(身元追跡)をしている」と言う。

一番の共通点は、いずれもインターネット回線が接続されたままだった事である。

地元の各所轄署の調書を読んだだけでは、判らない事もあるので、実際にその失踪場所へ行き、「現場の状況と失踪者の身元をいちいち確認をして来た。」と言う。

共通して一人暮らしの為、失踪時に目撃者は居ない。

まぁ、厳密に言えばBワンには半同棲相手が居が・・・・従って失踪の発見が遅れ、実際の失踪日時は、Bワン意外の件は全て状況からの推測で有る。

目の前にいる冴えない警官は、アンパンと牛乳を携(たずさ)えて来て、ナカヤンに「アンパン食べませんか?」と、勧める。

「いゃあ、食事は済ませましたから。」

ナカヤンは、それを辞退しながら、「まんまじゃん。」と思った。
此れじゃぁ三流の刑事ドラマだが、この男、何処まで本気なのだか・・・・

「それで、やはり皆若い男ですか?」ナカヤンは聞いた。
ミレアの女の情が原因なら年配の男は絡まない。処が、意外な答えが返って来た。

永田は口にアンパンを頬張りながら、聞き辛い声で返事をした。
「若い男?うむ、いーやぁ、男四人に女二人です。うぐ、全員若い事は若いですが・・」

てっきりミレアが絡んで「若い男ばかりが失踪している」と思って居たので、ナカヤンには意外だった。
それで驚いて、思わず叫んでいた。

「えっ、女が二人?」
そうなると、「ミレアが彼らの失踪を演出した」と言うのは間違いか?

「私はミレアが失踪に関わって居るものとばかり・・・・」
話し辛いのか、永田は慌てて牛乳のパックを口にしている。

「いぇ、彼女は被害者の可能性もあります。」と、今度は牛乳で口中のアンパンを飲み下したらしく、はっきりした口調で返事が来た。

続いて、「いやぁー、飛び回っていると、食事がまともに出来なくて、失礼、失礼。」と、取って付けた様に誤った。

この辺もナカヤンに言わせれば芝居臭い。
永田が言うには、この事件はそんなに単純なものではなく、「かなり複雑で大掛かりなものだ。」と言う。

そう言われれば、あの鏡の中に現れた無気味な女性は、確かナカヤンに、「キヲツケテ」と言っている気がした。
すると、ミレアは善意の警告者か?

「えー、まずBワンは本名・佐々木和也、次いでリュウちゃんは本名・小川隆、これは良く知っていると、もう一人の男性はタンク、本名は大石辰夫、それから、松永直子、此れが多分ミレアです。」

「後の男一人と女一人は、身元が確認出来ていない。」

「エッ、身元が確認出来ていないと言われますと?」
「家財道具もパソコンも残っていて、その人物は一定期間その部屋に存在したのですが、全て偽名でした。」

それにその二人、近所での目撃者証言と不動産屋の証言では、顔がまるで違う。
恐らく、成りすました別人が賃貸手続きをしたらしい。

不思議な事に、ひと部屋丸々遺留品が残っていて、ドア・ノブからパソコンのキーボード、部屋の中に雑多に置かれた品々からも、指紋ひとつの手がかりもなく、その徹底振りが、他の三件と違っていた。

鑑識班二十名を動員して、それこそ全ての物をひっくり返し、マグネシュームの粉を叩いたが、異常な事に指紋は一つも現れなかった。

「偽名なんて事出来るのですか?」
今の日本で、偽名でインターネット回線が登録出来るとは思えない。
「そぅ、簡単には出来ません。」

永田の答えは明確だった。最近は銀行口座などの身分照会などがうるさいので、プロバイダーなどの引き落し契約が難しく、簡単に「これをクリアーした」となると、余程の組織が絡んでいる可能性がある。

しかしネットトラブルとは言え、感情の行き違い程度で拉致事件に発展するのだろうか?

大の大人を跡形も無く拉致するには、単独では難しく、ネットトラブルが理由では、納得できる拉致の動機としては明らかに薄い。
そこが大いに謎である。

「私はこの二人、断定は出来ないが怪しいと思っています。」
「何か根拠が有るのですか?」

「一番の疑問は、二人とも部屋を借りて間がない。二人とも六月頃借りて、十月には失踪しています。偶然でしょうか?」

二人とも計画的に部屋を借り、失踪した可能性を示唆していた。
該当者五名、いずれも発見に至らず、現在の処、残念ながら生死不明である。
ただ、全員が被害者なのか、中に加害者が含まれるか等(など)、詳しい事は不明である。


永田巡査部長から、仕事中のナカヤンに電話があった。
秋も深まりを見せ始めた十月二十八日の事だった。

一連の失踪者の中からひとりだけ、「今回始めて安否確認が出来た。」と言う。
「見つかったのですか?」

「えぇ、死体が見つかったのですが、指紋照合の結果一致して松永直子と断定されました。」
「何処に居たのですか?」

「江戸川区の死体安置所です。」
「えっ、死んでいるのですか?」

「残念ながら、そうです。」
「すると、松永直子の口からリュウちゃんの安否は聞けない訳ですね。」

これには重大な意味がある。
リュウちゃんの生命の危険性は、冷静に受け止めなければ成らないが「増した」と言う事だ。

「そうです、しかし此れでかなり捜査が絞れます。それに害者(被害者)の存在がはっきりしたので、正式捜査に切り替えます。」

彼女の直接の死因は、「首の骨を折られた事だ」と聞いて、背筋が凍った。
鏡の妖気を感じて以来、首が痛いのだ。

失踪事案がやっと死体と繋がったので、殺人事件として正式に捜査が開始される。
ただし、「暫くは非公開にしたいので協力してくれ」と永田は言う。

「後ほど状況説明とお願いに行きますので、京子さんにも同席願いたいのですが?」
「判りました。伝えて見ます。お会いする場所は何処にしますか?」

「いやーぁ、こちらから中山さんのお住まいに伺います。今夜七時でどうですか?」
「判りました。お待ちしています。」

電話を切ると、ナカヤンは京子に電話して永田の意向を伝えた。
京子はそれを快諾して、「直ぐにナカヤンの所へやってくる」と言う。

それはそれで用が済んだが、ナカヤンは考え込んでしまった。
「死んでいた」と成ると、あの鏡の女性はミレアの霊魂と言う事になる。

そう考えた途端、背筋が寒くなった。
「霊魂がナカヤンに危険を知らせに鏡に映った」と言うのか?
そうなるとその事実が、「益々怪奇現象の裏付け」と言う事になる。



今から二十日間ほど遡るが、十月八日の朝、江戸川区に有る大きな区民公園の植え込みの中に、女性の変死体があった。

見つけたのは、早朝に飼い犬を散歩させていた近くの主婦だった。

連れていた犬が立ち止まって、植栽に向かって激しく吼えるので、吼えた先の茂みを覗くと、白色が勝る茶色のマネキン(人体人形)が捨てられていた。

この場所は、時々ガラクタを捨て逃げされる場所だった。

主婦は以前から、幾度か家電品などの塵(ごみ)を発見していた。
「誰がこんなに大きな粗大塵(そだいごみ)を捨てたの?」と、主婦は思った。

手間だが、放置すると次の捨て逃げを呼んで次第に山になる。
「また、区の公園管理課に知らせなければ成らない。」と近寄って、ワァ、ァァ、と腰を抜かした。

女性の全裸死体だった。
主婦は、人生最初で最後かも知れない渾身の大声を上げた。
「ダ、誰か来てえー」

主婦の騒ぎを聞いた近隣の通報で、パトカーが五台も来た。
首の骨を折られ、全裸で捨てられた明らかな殺人死体遺棄である。

刑事や鑑識も駆け付けて来て、発見された死体に取り組んだが、見るからに捜査の先が思いやられた。
「化粧品も使っていない素ッピンの素っ裸か・・・」
「こりゃ、鑑識泣かせだな。死後ナンボも経っていないのに、下着の後さえない。」

殺害場所が別の場所なのは明らかで、害者(被害者)は全裸で、慰留品は何も発見されなかった。

長く時間を費やしては目撃される危険が高い場所だから、恐らく多人数で「瞬時に行われた遺棄」と思われる。

土が固いので足跡は取れず、タイヤの痕跡や目撃者もない。
死体の遺棄、放置だけ見ると一見乱暴だが、「プロの仕事か」と疑うほど鮮やかに痕跡を消していた。

目撃者はその後も現れず、それこそ当人の捜索願でも出ない事には、取っ掛りがまるで無い。
歯形の確認をするは、掛かり付けの歯科医の線が辿れなければ目暗捜査になる。
可愛想にこの変死体、害者(被害者)の身元が判らず暫くは番号で呼ばれていた。

遺体解剖の結果判った死因は、首の骨をいきなり折る高度な殺人手口で、素人がやったものではない事が明らかになった。

全裸ではあるが、死ぬ直前の性的暴行の痕跡は無い周到な手口である。

つまり、相当の特殊な軍事訓練を受けた者の仕業と、断定された。
その手口が公安に着目され、報道は最小限に抑えられて、何処のニュース番組でも派手な報道はなされなかった。


九月の終わり頃、ミレアは必死にリュウちゃんに警告を試みていた。
リュウちゃんに危機が迫っている事を感じていたからだ。
しかし、相手の偽ミレアは手強(てごわ)く、ミレアは劣勢だった。

そんな或る日、十月に入って直ぐだったが、リュウちゃんからメールが入った。
メールは偽ミレアに知られていないはずだったので、ミレアはこの内容を信じた。
リュウちゃんが「会いたい」と言って来たのだ。

会えば当然誤解も解け、危険も知らせられる。
ミレアは一計を案じ、翌々日(十月七日)インターネットカフェで会う事にした。

幸い安全を確かめるまで自分のHP経由で通信しながら、相手を直接観察できそうな店が近くに有る。
以前手持ちのパソコンを修理に出した時、臨時で使用して様子を知っていた。

その店のコーナー仕切りは低く、一箇所だけ後ろを向けば店全体を眺められる所があった。
深夜営業をするので、防犯の為か入り口脇に大きな鏡が据えてあった。

相手に座られると流石(さすが)に見えないので、来店の気配を感じたら振り向いて鏡を見る。
相手が座る前と立ち上がった時は、鏡を使って観察が可能だった。

夜九時の約束に、ミレアは一時間も早く行き、幸い空いていたその場所を確保した。
しかし、リュウちゃんはジリジリと待ちわびるミレアの気持ちも届かず、時間に現れなかった。

ミレアは一時間余りネットカフェの鏡とにらめっこしたが、リュウちゃんは現れず、仕方無しに寮に帰った。

寮に帰ってパソコンを覗くと、十時半に時間変更依頼の書き込みがある。
時計を見ると、残り十分余りと余裕が無い。
慌てたミレアは、何もかもそのままに外に出た。

ネット喫茶の店の前まで戻って来ると、「ミレアさんですか?リュウです」と、声をかけられた。
見ると、先ほど店内で見かけた顔だった。
「何だ、来ていたのか。」とミレアは腑に落ちないながらも気を許した。

処が、ミレアが頷いた途端、相手から腹部に当て身を入れられて気を失った。
一瞬の出来事で、その後の事は覚えていない。


気が付いた時、ミレアは見覚えのない部屋に居た。

よく見ると、部屋と言っても周囲はコンクリートの壁に囲まれた地下室みたいな所だったが、それ以上は判らない。

上半身を起こして周りを見ると、四、五人の男に囲まれていた。
ミレアには何が起こったか判らない。
自分が「囚われた。」と把握するのに僅かの時間を要したくらいだ。

うかつだった。
ミレアは拘束されて居なかったが、この多人数に囲まれた状況では脱出は不可能に思える。

リュウと名乗って声をかけてきた男は、ハプニングバーで見たスガワラと言う男だ。
悔しい事に、ミレアは何時(いつ)も暗がりでしかスガワラを見ていなかった。

男達のひそひそ話しが聞こえてくる。
よく見ると、取り囲んだ男達以外にまだ三人、隅の方で話をしていた。

「どうする?指令は男だけだぞ。」
「だが、この娘の存在が、計画に支障をきたす危険があった。」
「面倒な事になったが、後には引けない。」

「ひとりでは集団自殺を装う事は出来ないぞ。」
「ばか、一人始末するにも困っているのに。」
「それじゃあ、二号処理か?」

一瞬の沈黙の後、乾いた冷たい声が答えた。
「それしかない、俺がやる。その前に、楽しまさせて貰おうぜ。」
男がひとり名乗り出た。

どうやら自分の扱いが決まったらしい。ミレアは身を起こし、身構えた。
男が歩き始め、靴音が近付いて来る。
目の細い角刈り頭の顎のエラが張った男で、見るからに凶暴そうだった。

スガワラとは違う角刈り頭の目の細い男が一人、近付いて来てミレアに笑いながら「服を脱げ。」と言った。
「ゾッ」とする様な目付きだった。

続いて五人の男が「ドヤドヤ」とやって来て、ミレアは囲まれていた。
皆一様に目付きが獣のの目をして居る。

ミレアは、「この人数に犯される。」と思ったが、命を取られるより「益しだ」と判断して、素直に素早く服を脱いだ。

下着だけになったが、「それも取れ。」と命令され、それに従った。

Bワンに仕込まれてハプニングバーに出入りしていたから、知らない男達に弄られるくらい何でもない。
暫らく目をつぶっていれば、通り過ぎるはずだ。

ミレアが全裸になって立っていると、机を持ってきて「腰を持ち上げた姿勢で手を着け。」と命じられた。

「こいつら、後ろから犯すつもりだ。」と、ミレアはそう思った。
一番ドサクサ紛れの反撃が出来ない姿勢を選択する辺り、いかにも計算づくの選択である。

「けして姿勢を崩すな」と命じられて、じっとしていると、男の欲棒が強引に花弁を押し分けて入って来た。
「アッ、痛い・・・」
その強引さに、股間に痛みを感じたが、ミレアの受け入れ態勢など意に介さ無い冷酷な仕打ちだった。

収まると、ミレアの肉体(からだ)の準備などお構いなしに、直ぐに抜き挿しが始まった。

激しく突き上げられ、ミレアの姿勢が崩れそうになると、「バカ、外れただろう。しっかり踏ん張っていろ。」と、平手で尻を叩かれた。

角刈り頭の目の細い男は、ミレアの蹂躙にまったく容赦が無い。

逆らう事は赦されない囚われの身だった。
歯を食いしばって堪えるしかないが、悲しい事に体の方は感じてしまう。

「アッ、アア。」
思わず声が漏れた。
「こいつ、感じているぜ。」

男の勝ち誇った声が聞こえる。
ミレアは、ひどく惨めな気持ちで、成す術もなく深く浅く激しく犯され続けた。

やがて最初の男は「ウッ」とうめいて目的を達した。
それから、男達は入れ替わり立ち代りミレアを後ろから犯した。

拉致された当日は男達に散々に犯されたが、翌日は何事も無く、脱走防止の為か着衣は許されなかったが食事もシャワーも与えられて、ミレアも一息ついた。

どうやら、ミレアの他にも一人拘束されているらしく、何やらそれらしい話声も洩れ聞こえて来る。
ミレアの気分はギリギリの限界で、この先の自分の運命をあれこれ心配したが、自分ではどうにも成らない。

心理的極限状態のまま、二日間が過ぎて行った。
三日目になって、集団暴行の痕跡が薄れた頃、ミレアはまた同じ場所に引き出された。

同じメンバーの男達五人が、またミレアを取り囲んだ。
「また、犯されるのか」と思って立っていると、最初に犯した男が近寄り首に両手を廻して来た。

ミレアは目を閉じて、男の次の行動を待った。
これで押し倒され、「男の物が入ってくる」と思っていた。

しかし、次の瞬間、松永直子(ミレア)の首の骨が折れ、呼吸は止っていた。

男達は殺して捨てる為に、ミレアにシャワーを使わせ、丸二日全裸のまま休ませ、暴行の痕跡を消したのだった。

ミレア(松永直子)は戻りたかった。
まだ自分の人生は終っていない筈だった。
その思いが、そのまま鏡の中を彷徨っていた。


ミレア(松永直子)の勤めるスーパーでは、寮に住む女子社員がひとり、失踪していた。
しかし自信をなくした幹部研修生には良く有る事で、最初の一週間は、会社も様子を見ていた。

いずれ、退社届けが送られて来るのが良くあるパターンの為、まさか「殺されている」とは思い至らず、「また一人脱落者が出た」くらいに思っていても、仕方が無かった。

それが、どうした事か一向に進展しないので、管理部は流石(さすが)に慌て始めた。

日が経つに連れ、いよいよ尋常でないと判断されると、十日目に実家に照会、不審な点があれば初めて警察に届出を出す。
それから警察の方が照会作業を始める。

身元不明の全裸死体が、指紋照合と顔写真から、松永直子と断定されるのに、一週間、永田に届いたのは、更に三日後だった。
それで、身元が判明するのに都合二十日余りかかった。

その間、松永直子は冷たい安置所で、番号で呼ばれていた。

およそ世間とはそんなものだが、仇を取るのは永田の熱意しか無い気がした。

ナカヤンと京子に対する永田の依頼は、他の三人、クロさん、九条民子、静(しずか)に極力接触して、不審な態度不審な行動がないか「確かめて欲しい」と言う依頼だった。

どうやら、メンバーの中に不審者がいる可能性を、捨て切れない様だ。
そう言えばクロさんは今度の一件が、HP交信上のトラブルで有る事を、殊更(ことさら)強調していた。
あれが、「捜索の誘導を狙ったもの」と言う事も考えられる。

疑い始めたら切りがないが、冷静に考えればメンバーの中も疑いを持っても不思議はない。
こう言う時は接触の機会が多いほど、挙動の不審に気付く可能性が高い。

永田とすれば、ナカヤンと京子が居て、始めて五人が自然に集まる。
その機会を作らないと、外からでは手の打ち様がない。

話しを聞いた京子は、松永直子の不幸に痛く同情して涙した。
いったい松長直子はどんなトラブルに巻き込まれたのか?

彼女の短い一生は、何の為に在ったのか?

直子は生前一度もあった事の無い人物だったが、この一連の事情を背景に、京子は何故か知らない相手の気がしなかった。

京子はナカヤンを誘い、永田から聞いた死体発見場所を訪れ、花を捧げて冥福を祈った。

生前顔を合わせた訳でもないが、不思議な縁でその不幸な最後を知った以上、京子は花束を手向けずには置けなかった。

ミレアは、故郷に帰り両親の手で荼毘(だび)に付された。
しかし、娘が変わり果てた姿に成った事の訳は、誰からも語られる事は無かった。

警察としては、松永直子(ミレア)の足取りをあたっているが、最後に寮の近くのインターネットカフェに姿を現して以後、プッツリと線が切れていた。
路上でいきなり誘拐された可能性が高い。

これは、ナカヤン達は絶対に信じられないが、リュウちゃんが失踪中で、松永直子がリュウちゃんに呼び出されている為、警察としては松永直子の死にリュウちゃんが絡んでいる可能性も捨てきれない。

二人は永田の捜査に協力する事を約束した。
リュウちゃんの安否は、ミレアの死体の出現で、希望は薄くなりつつあった。

友人が一人失踪しても、庶民のナカヤン達には一大事で有る。
それが、段々雲行きが怪しくなり、小さい謎は大きく膨れ上がって行く。
これはもう、並みのネットトラブルを超えている。

それにしても、ミレアはネット上で悪意に利用され、理不尽に疑いの目を向けられ、挙句の果てに殺されたのか?
その怨念が鏡に篭(こ)もってなお、その優しさ故に「他人を助けよう」と言うのか?

彼女の霊は、確かに「オネガイ・キオツケテ」とナカヤンに伝えた。
ナカヤンは、鏡の中の悲しげな顔のミレアが、哀れにさえ思えてきた。


今から三年程前、およそ二年間、日本のプライベートホームページ史上に、燦然(さんぜん)と輝き、一世を風靡(ふうび)した謎の女性が運営するHPがあった。

彼女はハンドルネームを、「ユキチャン」と言った。
彼女は多くのフアンに好かれて、いつの間にか仲間内で「電脳姫」と言われて居た。

一時は一部のメデイアにも取り上げられ、女性週刊紙で組まれた特集が評判を呼び、マニアル本出版の話しが有った位だ。

しかし、「ユキチャン」は表に出たがらず、ハンドルネームのユキチャンで通した。
ユキチャン騒ぎは謎の運営者のまま、やがて騒ぎも沈静化して行った。

「ユキチャン」が電脳姫と言われたのには相応の訳が有る。

パソコンの技術力とホームページ作成の知識が、半端ではなく、トラブルに対する対処方法のアドバイスも的確だったからだ。

この三年間で、「ユキチャン」の世話に成ら無いHP運営者は、余程の上級者か、余程の素人しか居なかった。

それで、「仲間内では知らないものは居ない」と言われ、何時の頃からか、電脳姫と言われていたのだ。
その「ユキチャン」のHPが、七ヶ月ほど前から活動が止っていた。

突然の活動休止に、ネット上を噂が乱れ飛んだ。
重病説、死亡説、結婚引退説、果ては、本当は男説まで飛び出した。
しかしその話題も、沈黙の前に何時しか忘れられて行った。

処が、密かにその「ユキチャン」のパスワードが使われ、九月の中頃ミレアの新HPが立ち上げられたのだ。
しかしこのHP開設、目的の性質上ひっそりと始まった。


話は変わるが、今年の五月頃ミレアの偽者が突然現れた。
最初に偽ミレアの標的にされたのが、ミレアの心の支えBワンだった。

ミレアにすれば、思いもかけない偽ミレアの出現で、大いに慌てた。
しかし、相手は恐ろしく腕が良く、自分が本物で有る事を証明する術(すべ)がなかった。

必死で訴えれば訴えるほど、ミレアへの疑いは深まって、サイト仲間の信頼は失われて行った。
そう、偽ミレアは電脳姫「ユキチャン」だったので有る。


某都立中学校で理科を教えていた九条民子が、プライベートHPを立ち上げたのは、三年程前、二十四歳の時だった。

民子の一家は、元を正せば東京北区の出身だけれど、たまたま親の経営している会社が、土地代が安く気候が良い茨城県の土地を他人の勧めで買って、本社工場を移転させた事から、六年ほど一家で茨城県に移住していた。

当時は地元だったので、高校生だった民子は筑波大学をあこがれ受験した。

母親が教育熱心で中学までは家庭教師が付いていたから、成績は常に上位で、易々と入試に合格、伸び伸びと学生生活を送り、教育実習を受けて教員免許も取得して卒業した。

当初、地元茨城での就職の積りで居た。
処が、事業をしていると父親の方は取引先との付き合いが欠かせない。

製品の販売窓口に以前の自宅兼工場を東京支社にしていたから東京の自宅は健在で、そこに泊まる事が多かった。

それで結局、民子の卒業と同時に一家はまた北区に舞い戻って来ていた。
民子は現在、都立中学で理科の教員を務めている。

勿論パソコンは学生時代から現在の教師まで、使い慣れてはいるが自分のHPは経験が無い。
運営に結構手がかかり、「面倒だ」と聞いたので長い事敬遠していた。
それが、親友の強い勧めで立ち上げる事になる。

民子には筑波大教育学部時代の友人で、卒業後も付き合いを続けている最も親しい教員仲間が三人ほど居た。
年に一度はグループ旅行に行く中間で、交流は今も続いている。

その内の一人が、偶然北区の自宅から歩いて五分の近場に住んでいて、特に交流が深かった。
その友達の名前を、岩崎由美と言った。

知人に紹介されて付き合っている男と近く結婚の話が有るが、由美は現在母校の付属小学校で二年生の担任をしている。

学生時代の延長で、職場は筑波だったが土日には北区に帰ってくる。
最近知人の紹介による結婚話が進んで、都内の小学校に転職先を当たっていた。
生来子供好きだから、自分の子が出来たら「さぞかし可愛がる」と思われる。

由美はIT企業に勤めている兄に教わって、高校時代からHPを開設していた。
そして、楽しいから夢中になってのめり込んでいた。

民子は二〜三度覗かせてもらったが、顔も知らない遠くの相手と、距離を超え、年齢を超えて交流している。

HPを知らない者には味わえないプライベートの通信世界が、そこに有った。

民子は「楽しいからやってみたら?」と勧められ、最初は由美に教わりながら半ば強制的にHPを開設した。

ハンドルネームは「ユキチャン」にした。
「ユキチャン」は、昔民子が飼っていた愛犬の名から取った。

まだ何も無い民子のHPに最初に訪れ、書き込みをしてくれたのが、由美の七歳上の兄・岩崎誠一だった。

妹に頼まれたから「賑やかしに、訪問した」と言う。
それでも、民子はうれしかった。

やがて、HP運営にのめり込んだ民子は、由美の実家に通い、兄、岩崎誠一から手解きを受けた。

パソコンの「いろは」からHPの運営までアドバイスを受け、密かに恋を育みながら、腕を上げて行ったのである。

岩崎と知り合う前、学生時代に二人程男付き合いは有ったが、今度こそ本物に思えた。
好ましい相手に教わるから真剣で、上達も早い。

何時しか、岩崎誠一を凌ぐ腕を身に着け、世のHP仲間から勝手に「電脳姫」と呼ばれるまでに成長して行った。

凡(おおよ)そ人間の恋愛は、思ったより狭い範囲で起きるのが一般的である。

当然岩崎と肉体関係も出来、「いずれ幸福な家庭を築きたい」と、心に決めて、二年間の日々を送って居た。

民子にしてみれば、男女の仲としては極普通の経過を辿って身体を赦し、抱かれて幸せを噛み締める日々だった。

それが二年も続いたのだから、岩崎と肉体関係は生活の一部に近かったのだ。

誠一に抱かれる度、民子は幸せだった。

しかし人生は上手く行かないもので、誠一は勤めていたIT企業を突然やめ、商社マンに転進する道を選んだ。

彼は極端に出張が増え、民子は会う機会が減っていた。
誠一は民子に相談無く転職して、日本中を飛び回る生活を始めたのだ。

それで、少し民子に心の隙間風が吹き始めていた。
裏切られた思いだった。
運命なのか、そんな時に民子の両親が見合い話を持ち込んで来た。


見合い話を持ち込まれたのが昨年の秋十月の事である。
両親の話しを聞くと、どうやらこちらの方に見合いを断れない義理が有るらしい。

会っても「相手に気に入られなければ良いだけの事」と、民子は応じざるを得なかった。

処が、会ってしまうと相手が気に入り、親はメチャクチャに乗り気で、「直ぐにでも先方と交際しろ。」と薦める。

そのうち、「相手が独身で不自由しているから、先方のマンションに通え。」と言い出し、切羽詰った民子が誠一に相談した。

すると意外にも誠一は、「俺に引き止める資格が無い。」と、民子のすがる様な期待を裏切った。

それでも、民子はあきらめ切れず、「知人としての互いの繋がりだけは切らないで。」と、誠一に訴えた。

彼は黙って民子を抱き寄せ、狂った様に愛を注いだ。
彼には民子にも言えない何らかの事情があり、どうしても、民子の思いを叶える事ができない様だった。

別れ際、彼は「今後も味方だから、何かあれば何時でも相談して欲しい。」と言って、涙ぐんだ。
今思えば民子は、彼の周りに漂う謎めいた危なげな雰囲気に、強い魅力を感じていたのかも知れない。

翌日、民子は両親の勧めで、初めて見合い相手のマンションを訪れた。
気は進まなかったのだが、両親の勢いに負けたのだ。

相手の名前は佐々木和也と言った。

民子は「これ以上の良縁は無いから、先方に嫌われない様に努力して、暫く真剣にお付き合いをして見なさい。」と、母に念を押す様に言われて送り出された。

実はこの時、既に民子の運命は決まっていたのだが、本人はそれを知る由もない。


(謀略のきっかけ)
======「現代インターネット風俗奇談」======
小説・電脳妖姫伝記
◆ 和やかな陵辱 ◆第四話(陰謀のきっかけ)


九条民子は、両親の熱心な勧めで佐々木和也と見合いをした。

実は真剣に付き合っていた岩崎と言う相手が他に居たのだが、岩崎が仕事の都合で出張が多くなり、その事を言いそびれている間に、この見合い話が持ち上がった。

聞くと、相手は父の友人の息子さんで、父の会社の取引の大半を占める「大のお得意さんだ」と言う。

疎(おろそ)かに「断れない義理が有る」と言うので、民子は付き合いの積りで見合いをした。

幸い先方が「あまり堅苦しいのはどうか?」と言って来たので、それに甘え、普段着のまま二人きりで会う事に成った。

会ったのは都内の高級ホテルのレストランで、フランス料理が有名だった。

会って見ると、身体の大きい真面目そうな男で、男前とまでは行かないが髪の毛が幾分薄い以外醜くも無い。

民子の印象としては、「堅苦しいのはやめよう」と言う心使いや、食事中の食べっぷりと言い、民子には少し好感を持てる相手だった。

この民子の身に起こった見合い話は、勿論リュウチャンやナカヤン、京子には預かり知らない事で、何の関係も無い他人の物語だった。

九条民子が、個人的に遭遇した極個人的な難問である。

見合いの席上、佐々木和也は「インターネットHPの運営が趣味だ」と言った。
「そうですか、私にはパソコンは丸きり判らないわ。覚えれば、面白いらしいですね。」

「そう知らないの、もったいないなぁ、機会が有ったらお教えしますよ。」
佐々木は得意げに言って、民子を見つめた。

「私、あぁ言う物に、まるで弱くて・・・勤務先の学校でもオタオタ使っています」
「趣味が合う」と思われると気に入られそうだったから、パソコン操作はろくに出来ない事にした。
それに、心情として岩崎に繋がるパソコン操作の話題は、佐々木和也とする気には成れなかったのだ。

「ハハ、慣れれば簡単です。是非始めて欲しいものです。」
民子には、何故か豪華な懐石料理の味が判らないほどの、ギリギリの緊張があった。

民子は、見合いの席で、非礼と感じ無い程度になるべく素っ気無く相手していたのだが、先方は早くも翌日には「気に入った」と言って来た。

民子本人は当惑したが、両親は酷く喜んだ。

九条民子も、結婚はともかく佐々木和也がいかなる人物か興味を持ったから、彼のHPをこっそり覗いた。
そして、その何処を取っても誠実な内容には驚かされた。

何か「断る理由はないものか」と、捜す為だったが、いよいよ断り難い。

そのうち親同士でトントンと話が進み、嫌々では在るが、まるで追い立てられる様に佐々木のマンションに通う事になった。

通い始めは、母が服装までチェックする力の入れようで、「先方に気に入られるように。」と、何故か少し肌の露出が大きいものを薦める。

行って見ると、親が進めるだけ有って、佐々木和也は豪華なマンションに一人で住んでいる。
その内父親がうるさく言うので、なし崩しに「食事洗濯」と度々通う様になった。

すると今度は母親が「子供じゃないのだから、たまには泊まって来い。」と言う。
「うぅ〜ん、お母さん何を言い出すの。まだ結婚を決めた訳ではにのに。」

「民子、良いお相手なのだから、決めても良いじゃない。」
つまりは、娘の気持ちは無視で、「早く抱かれろ。」と言う事である。

余りの露骨さに親を疑った。
民子も三十路に近付きつつあるから、両親が「焦っているのか。」と思ったが、実はこの話し、裏があった。

三度目の「たまには泊まって来い。」の日、民子は佐々木からそれを直接言われた。
民子が帰ろうとすると、佐々木が「何時(いつ)までも待てない。」と、切り出した。
この縁談、「断っても良いが民子の親の会社は間違いなく潰れる」と言う。

民子は親から会社の事など一度も聞いた事は無かったが、佐々木に言われて見ると親の態度が頷ける。

九条家が経営する工場の設備投資に金がかかり過ぎ、資金繰りに詰まって佐々木家からの借入金と引き換えに民子を嫁がせる融資話が双方で出来ていた。

それも、一年試験的に同棲してみて「相性を確かめる」と言う融資条件を「両親が承諾した」と言うのだから、言わば民子の「貞操のお試し期間付き」と言う非常識な話だった。

この話、切羽詰っていた九条家に取っては地獄に仏の様なもので、見境なく掴んだ藁だった。
だから、体良く娘の貞操を売り飛ばした様なものだ。

「そこまでお約束が進んでいたのですか・・・」
話を聞いて、民子は覚悟を決めた。

何時(いつ)の間にか、逃れられない所に追い込まれ、くもの巣に取り込まれた様に見えない糸でがんじがらめにされて居たのだ。

人一人生きて行くとなると、思わぬ不条理に遭遇しても不思議は無い。
どうやら今回の事がそう言った類のものらしい。

「佐々木さんがそうおっしゃるなら。」
「佐々木は他人行儀だ。和也で良い。」
「判りました。和也さん、今夜は泊めて頂きます。」

考えて見れば、恋人の岩崎には突き放されて二人で夢見る将来はない。
彼とはもう、思い出の世界でしかないのだ。

多くの女性が決断するように、民子は自分に「メルヘンから現実へ、シフトし直す時期なのだ」と、言い聞かせて居た。


元々生命科学的に言えば、人類の男女は惚(ほ)れ脳内ホルモン・フェール・エチル・アミンの作用に後押しされ、出会いを持って「性交相手の選択行為」をする生物である。

「惚(ほ)れる」と言う事は「恋する」と言う事で、気取らないで生物学的に言えば脳内処理的には「性交相手の選択行為」である。

その男性と女性の脳内ホルモン的な「性交相手の選択行為」の「惚れ薬」がフェール・エチル・アミンと言い、これが、「恋のトキメ」を促進させる影の立役者の物質である。

フェール・エチル・アミンは、異性に対して脳内で分泌されるトキメキホルモンで、この時点では「惚(ほ)れ行為」であるが、その「惚(ほ)れ行為」に集中力や快感を倍増させる作用がある。

簡単に説明すれば、「恋する」や「惚(ほ)れる」と言う行為そのものに快感を感じさせたり、その想いを募(つの)らせる(集中させる)作用がある脳内ホルモンなのだ。

つまりフェール・エチル・アミンは、「人類の種の保存」を脳科学的に促進させる作用があるホルモンである。

そしてその「惚(ほ)れる」が片思いであれ両思いであれ、パターンに関係なくフェール・エチル・アミンの作用であるから、迷惑なストーカー行動の源も「惚(ほ)れる」の範疇にある。

当然ながら、フェール・エチル・アミンに後押しされて、双方が「惚(ほ)れの合意」に到れば性交に及ぶ事に成るが、「愛」は連れ添ってから時間を掛けて育(はぐく)むもので、この時点での価値観はまだ「恋止まり」である。

昔から「恋の病」と言う様に、ここを勘違いしているから「こんな筈ではなかった。」とカップルの解消や結婚を解消し離婚する事に成る。

つまりフェール・エチル・アミン効果で、良く知らない相手とでもフィーリング(感覚)で性交が可能で、ならば深い意味での「愛情」なんかなくても別の理由でも性交は可能である。

だから、誓約(うけい)目的だろうが、親の薦める結婚だろうが、地位や財産目的だろうが夢を適える手段で在っても、永く続いて「愛情」が芽生えればカップルとしては最高の結末と言える。



初めての夜、和也は優しかった。
覚悟を決めた民子はシャワーを使い、待ち構えていた和也に身を任せた。

和也は年齢の割に少し髪が薄い為、若干太り気味と思っていたが、裸になると鍛えられた筋肉と知った。

民子も誠一に出会う前に二人ほど恋人らしき者が居て肉体(からだ)の関係も有ったから、教員とは言え性に対しそれほど堅物ではない。

それに、抱かれてしまえば女の肉体(からだ)は正直で、それなりに快感もある。

BGMには、何故かクラシックのピアノ曲が流れていた。

聞き覚えの有る曲だったが、民子は曲名まで結び付かず、和也に尋ねて「ショパンのピアノ夜想曲(ノクターン)」と知った。

その夜以来、和也が求めれば民子は逆らわずに応じた。

おシャブリも覚えた。

民子の口中に挿し込んだ欲棒が、ヌメヌメと舌先で嬲(ね)ぶられる快感で、和也は目を細めてそのおシャブリを愉しんでいた。

和也の生身の陰茎が民子の唇を擦(こす)り、口中の粘膜を擦(こす)りながら抜き挿しされ、連れて口中から押し出される涎(よだれ)が顎(あご)に垂れ下がって床に落ちて行く。

こんな愛情を感じない形態の男女から、一体何が残るのだろう?
民子には疑問だったが、それは構わず進んで居た。

人間、建前もあれば本音もある。
暫らく建前で民子接していた和也が、慣れると伴に徐々に本音を露わにして来る。

暫くすると、和也は処方も無しに何処から調達したのか、避妊薬の「ピル」を民子に渡した。
彼は、「此れからの一年間、民子には此れが必要だ。」と言った。

民子を労わっての事なのか、自分の都合なのかは判らないが、此処の婚約関係がお試し期間なら、「もっともだ」と、民子は直ぐに納得した。

和也の性行為の要求は少しずつエスカレートしたが、民子もそれ位はどの男も変わらない事を知っていた。

それに立場が、半分大金で体良く買われた様なもので、民子の方から「良いの、悪いの」と注文は付け難い心理が働く。

勢い二人の性生活は、和也の独断ペースで事が進む。

和也が民子を抱く時、常に和也がお気に入りの全九作のショパンのピアノ夜想曲(ノクターン)集が、ピアノ演奏されているBGMが流れている。

勿論、世間では有り勝ちな事だが、ネット販売で求めたのか大人の玩具も多数持ち出して来た。
この関係、出発がそうした無理強いだったからいずれ育つにしても、民子の愛情は前提に無い。

現状では逆らえないセックス人形みたいな物で、口には出さないが、「どうぞ、お好きな様に。」の気分で受け入れるしか選択肢はない。

もう性的関係を暗黙に了承した以上、二人だけの秘め事は和也のするに任せる積りで居た。

だから、和也の要求のままに、和也の男の欲棒を口に含む(和也はおしゃぶりと呼んでいる)事も覚え、和也の細かい仕込みで、欲棒を愛でる唇や舌の使い方も上達した。

そうした事が、要求されるくらいの予備知識は持ち合わせていたから、そこまでは和也の期待を裏切らずに出来た。

なまじ関係が民子に選択肢の無い始まりだったから、和也にして見れば思い通りになる民子がそこに居た。
はっきり言うと、これほど扱い易い性人形はない。

そのうち少し要求がきつくなり、民子は酷く抵抗があったアナルにバイブや和也の欲棒を迎え入れる事も覚えた。

最初和也の欲棒がそこを訪れようとした時、「そこは違う」と抵抗を試みたが、今ではあきらめてそれも許している。

器具を使われる事には暫く抵抗があったが、バイブなどは使われると結構感じて気持ちが良い。

はしたない話だが、花芯をなでる奇妙な振動に身体の方が勝手に反応して腰が浮き上がり、腰を振るほど感じさせられる。

そんな時に「お前だって楽しんでいる。」と指摘をされると反論は出来ない。

和也は、「ほら、学校の先生だって、気持ち良ければこうして腰を振る。」などと、わざわざ民子を追い込む。

「道具は卑怯」と言う想いはあるが、微妙な心理の葛藤は在っても民子は現実の性的官能の肉体反応は認めざるを得ない。

一方で嫌悪感を抱きながら、一方では身体が容認する。
人間の感性は一筋縄で行けるほど単純では無い。
民子は、自分の体が和也に拠って、堪能的に仕立て上げられて行くのを感じた。

その内「ビィ〜ン」と言うモーター音に、民子の抵抗感は薄れて来る。

そう言う性感調教が進むと、民子は和也の目論み通り極太のバイブも抵抗無く花弁の奥へ飲み込み、腰を使って善がる様になる。

元々人間の身体の感性は、性的経験の数を重ねると、誰でも「思いとは別に」身体の方はそれを覚え、それなりに受け入れて快感を求める様に出来ている。

何の事は無い、何時の間にか時折宅配で送られてくる大人の玩具を、受け取るのが民子の家事の一部になった。

後で気が付いたが、和也は着々と民子を或る目的の為に仕込んでいたのだ。

BGMには、相変わらずクラシックのピアノ曲、和也が拘るショパンのピアノ夜想曲(ノクターン)が流れていた。

身の置き場を失った民子にとって、互いの合意によると、此れは民子の全てに一年間の御試用期間の内と言える。

考えてみれば、二ヶ月も男の下に通い続けていて「この、関係への進展」は至極普通だった。

それで、教員生活を続けながら、和也の求めるままに民子の婚約生活は同棲状態に入って行った。
まぁ普通の同棲生活で、食事洗濯性交と日々は重なって、平穏だった。


和也は仕事の関係で毎週五日から一週間ほど地方に出張して家を空けた。
大半は「地方支社や店舗に視察」と言う所で、残りが食材の買い付けだった。

近場に行くにはベンツで駆ける事もあった。
そう言う時に、民子はホッとして実家に帰っている。

生まれ育った家だが、気分の問題か以前ほど落ち着かない。
もう、和也との生活が染み付き始めていた。

たまに和也の出張が長くなると、週末抱かれる為に出先へ呼び出される事も有った。
民子の気持ちには、どうしてもまだ何処か引っかかる所がある。

気持ちは半々だったけれど、身体の付き合いとしてはもうこれ以上無い処まで許していたから、民子はふとした機会に不謹慎にもそれを思い出す事も増えた。

反射神経みたいなものか、教壇に立っていてよその教室からクラシックのピアノ曲など流れると、思わず和也との破廉恥な行為を思い浮かべ、股間を湿らした事もある。

つまりそれなりに、和也との生活が民子の肉体(からだ)に固定していた。


この半分同棲状態の生活の合間にも、和也はHPを運営していた。
和也が不在の時に覗いて見ると、まとも過ぎる位まともな意見を言っている。

最初の経緯(いきさつ)から、見合いの時に「パソコンは苦手」と答えている民子は、パソコンをいじれる事を和也に言い出せなかった。

暫くの間は、教員の勤めも続けているが、和也の強い要請に抗し切れず、近い将来退職の決断を余儀なくされた。
教員をやめれば、当然民子にはする事が無い。

それで、パソコン教室と料理学校に通う事を命じられた
料理学校は、いずれ和也の仲間内の「ホームパーティ」に必要だと言う。

和也は、セレブ生活では「パーティが付き合いの重要な位置を占める」と言う。
確かに、このマンションの間取りは、ホームパーティを前提に作られている。

言われて見れば、間取りの全てが開け広げられる様になっていた。
暇と金のある連中が、暇を持て余して群れる為の舞台である。

舞台と言えば、和也が業者をマンションに呼んで部屋の一部を壁面鏡張りの小舞台に改装した。
観客ソフアーも増やし「パーティのイベント」に使うと言う。

和也の気まぐれにしてはかなりの出費で、民子の実家にはまだそこまでの力はとてもない。
庶民には想像すら出来ない別世界だったから、セレブパーティの実体など民子に知る由もない。

民子は中学に入る頃から日舞を習っていたが、此れも「続けろ」と言われ、体形維持の為にフイットネスクラブに行く事も命じられた。

流石に佐々木家の財力はものすごく、なじみの買い物先は民子のサイン一つで数百万でも通った。
渡されたクレジットカードは無制限で、民子はその生活に呆れ交じりの戸惑いさえ覚えた。
確かに、佐々木家の財力を見せ付けられれば、九条の両親が手放しで喜ぶのも仕方がない。

佐々木の両親も、「息子が気に入ったのなら」と申し分なく優しい。
そうした環境が何時の間にか揃い、民子は今年度限りで教職も去る予定を組んだ。

そして、年度代わりと伴に教壇を離れたのだ。
いずれにしても、さしたる不都合は無く、民子はそれなりに佐々木家に納まりそうだった。


それが、或る日一変する。
和也がそろそろ友人達に「二人のおひろめ」をすると言い出した。

婚約者が決まって、同棲を始めた事を大勢の親しい友達が知っている。

風の便りで「相手が公家の血筋を引く美人の女教師」と聞いてはなお更で、もう「おひろめ」を期待している友人連中を、もう「抑えきれない」と言う。

日時は、民子の了解を得るまでも無く、聞かされた時には既に次の土曜日と決まっていた。
かなり強引な展開に、民子は当惑して尋ねた。
「あの、もう予定まで決まってしまって・・・そのパーティ、やはり開かないといけないのですか?」

和也は言下に「やらないと友人付き合いが出来なくなるから断れない。」と、日頃聞かない強い口調で開催を肯定した。
日頃優しい和也の顔付きが不機嫌そうなので、民子が折れた。

「そうなのですか、それじゃあお付き合いしないといけないみたいですね。」
「判ったらそれで良いけれど、パーティだけは嫌な顔はしないように。」
また、強い口調で念を押された。

和也の強い口調の勢いに押され、民子は「はぃ。」と応諾の返事をした。

その返事を聞いて和也の機嫌がガラッと良くなり、ついては「言い聞かせたい事が有る。」と和也は改まって言った。

改まって和也が言うに、「実は、おひろめパーティにはルールがある。

自分も、もう何組ものお披露目パーティに出席しているから、今更自分だけ「そのルールは破れない」と過去の事情を説明する。

そして、今回は君が主役で、当日の「主催ホステス」になる。
自分の面子も有るから、「何が有っても素直に頼む。」と、珍しく頭を下げられた。

続けて、自分達の付き合いは、皆、公私共に疎(おろそ)かには出来ないそれなりのメンバーだから、そこを理解した上でかなり乱痴気パーティなので「覚悟をして置く様に。」と言われた。

つまり、民子には選択肢の無い話なのだ。

和也の言い方が、強引な上にかなり回りくどい。

日頃の和也には珍しいくどさで、何分にもお披露目パーティの出来は、「ひとえに主催ホステスの頑張りに懸かっている。だからくれぐれもルール通りにする様に」と念を押された。

そして、「これも結婚を前提にした同棲中のテストだから、おひろめを受けて友人達皆に認められ、歓迎されないと婚約を解消せざるを得ない。」と脅された。

民子も、噂程度だがセレブパーティの存在に予備知識はあった。
子供ではないから、和也の言う意味は「破廉恥な大人の遊びをする事だ」と見当が付く。
それを承知で、「覚悟してくれ」と今度は必死の表情で和也が頼む。

これだけ下出に出る処を見ると、お披露目パーティで民子にはかなりの事が要求される。
まさかそんな事を言い出されるとは思わなかったので、民子は心中穏やかではない。

この話、どう見ても「ヤバそう」だったが、今の自分には、九条家の両親と妹と弟の生活が掛っていた。
話をして居る和也にも必死の表情が浮かんでいて、民子には断り切れない。

そう勝手に言われても民子は戸惑うばかりだけれど、どうやらこの男(和也)と生きて行くには「到底避けられない事」らしい。

そう言えば、時たま訪れる和也の友人と称する連中は、妙に気取っているが民子を見る眼は無遠慮で、全身をジロジロ見て薄気味が悪く、好きに成れそうも無い。


だいたい成功した企業家は、加齢と供に権力に溺れ、庶民では考えられない身勝手強引な方法で会社を運営する。

最近では、時折老害と思われる古いタイプの権力者の馬脚が、企業の衰退に合わせてむなしく世に現われる。

親にそうした過剰な自惚れ慢心が有るから、その子女達も右に倣え(ならえ)で我が侭な人間に成る。

彼らはその育ち方に於いて、生意気にも自分達を特別な存在と捉えている。

だから、庶民のつつましい倫理観は生活の維持の為に必要なのであって、「自分達金持ちはそんなつまらない倫理観には拘束されない」と、おかしな自惚れ(うぬぼれ)が有った。

贅沢な話だが、「何不自由ない生活」くらい退屈なものは無い。

生活の上で金銭や、立場の変化などの心配が無いから、庶民の様な、日々降って湧く生活維持の為の絶えず緊張を伴うリスクやスリルを感じない。

良くした物で、そう言うストレスが無い事その物が「退屈」と言う名のストレスになる。

金持ちには、小さな幸せはめぐり合わせない。
贅沢に慣れて小さな事を「幸せ」と感じる心を失っているから、めぐり合えないのだ。

セレブ生活は、傍目幸せに見えるが、退屈は案外不幸である。
従がって生活に不安がない分、遊びに過剰な刺激を求める。

そうなると、相応の刺激で無いと目的は達成されない。
スリリングでワクワク感があるSEXの機会が無いと、人生が詰まらない。
それ故、プライベートなパーティでは、庶民の出来ない奔放な遊びに刺激を求める。

もっとも、仕事もしない暇な婦人達に勝手に怪しげな相手と浮気をされたり、亭主にやっかいな愛人を作られたりするよりも、「素性の判る相手と、夫婦揃っての遊びの方が互いに安心」と言う側面もある。

そう言う図式が、理屈で判らない民子ではない。

だが、望みもしない民子に、それを強いるのは「理不尽と言うもの」ではないか?
しかし、面と向かって「自分の面子も有る」と言われると民子も、立場上断り難い。

戯れに、「私に皆の前で裸踊りでもさせる積りか?」と聞くと、和也は真顔で、「それも有るかもしれないが、もう少しきついかも知れない。」と答える。

いよいよそのパーティ、民子には相当の覚悟が必要な事らしい。

心配だから、何をさせられるのか質濃く問い質した。

和也が具体的な表現を避けて言うに、お客様を御披露目に御招きする時の「マナーと御もて成し」の心得は、あくまでもお客様の要望に添う姿勢が肝心である。

だからお客様に幾ら過激な事をさせられても、「身も心も裸になって、参加者に和(なご)やかに遊んでもらわなくては成らない。」と言う。

和也のこの大胆な要求に、民子は困惑し葛藤した。

この世間では考えられない極端な条件を、平然と「セレブ仲間入りの条件だ」と和也は言う。
つまりその仲間内において、新人を晒し者にするのはさして異例ではない事を示している。

聞いた民子は目の前が暗くなり、思い直してその理不尽な言い付けに抗議した。
「それって、私がもろに晒し者じゃない。」
「そうだよ、でも仲間入り初参加のルールだから受け入れないと・・・」

和也は平然と応える。民子は和也の態度に腹を立てていた。
「信じられない。そんな事を私にさせて、和也さん楽しいの?」
今度は、民子からすがる様な言葉が口を突いて出た。

「もぅ、良い年齢(とし)をして子供みたいにゴネルなょ、もう犯ると決めたのだから。」
最後は和也も「何が何でもやれ」とばかり、語気を強めて引導を渡す。

日頃は優しい和也だけに、民子もその強引さに彼の強い意志を感じた。
彼は、不機嫌に「まったく、何時まで小娘の様な事を言っているのだ。」と、聞こえよがしに呟いた。
そこまで強引に言うとは、民子にすればまったくふざけた話である。

「愛する男の為」と言うならまだしも、どちらかと言うと民子は環境のせいで和也に従って居る。
納得など行く訳は無い。
納得はしないけど、それでも従うしかない。

此処までお膳立てが出来て追い込まれてしまえば、民子は肉体(からだ)を供してもけじめを着けねばならず、この状況に空(そら)を使ってばかりは居られない。

「そんなに仰(おっしゃ)るなら、私が晒し者になれば良いんでしょ。」
自棄(やけ)になって、民子は毒付いていた。


民子も筑波大教育学部を卒業して五年、教師をしていてもけして世間を知らない年齢でもない。
大学時代から、年相応の男遊びも経験している。
理科を中学で教えているから、オス・メスの生殖本能についても理解はある。

実際、教師と言う職業も世間の見る目の制約が多く、ストレスの溜まる職業だから、性的失敗絡みの問題を起こす者も多い。

職場内の男女でも、結構ドロドロした浮気話が持ち上がったり、およそ聖職者の職場とは言い切れない。

周りの女教師仲間の友人達も、二十七歳にもなると、その手の話題もあけすけで飾らない。

「性に理解がある」と言えばそれまでだが、実の所、その卑猥な話題に「内心興味深々」と言う所だろう。

上流家庭の子女達の乱れたパーティの噂はつとに有名で、親友の岩崎由美を始め、大方知らない者は居なかった。

九条民子の身に付ける物が見る見る豪華になって、益々美しくなり、今では誰が見てもセレブである。

グループ旅行に行く教員中間の友人の一人は、パーティにゲスト参加を経験していて、民子のこの縁談を聞くと、「民子もセレブの仲間入りネ。

庶民とは違うのだから、お付き合いの意識を変えなきゃ。」と、意味深に解説した。
そして自分のたった一度しかない上流パーティの凄いお遊びの体験を、旅行先の寝物語に話して自慢した。

そう言う訳で、まさかとは思ったが、パーティの存在に予備知識はあった。
ただ、自分には無縁と勝手に思い込んで居ただけかも知れない。
それも、自分のセレブデビユーの為に、主催ホステスを勤めなければならないのだ。

民子としたら、現在の他人が聞けば羨ましがるセレブ生活その物が、親に関わる逃れられない運命的なもので、この和也の破廉恥な要求も「その続きの災難の内」と言えた。

民子も、親に強いられた結果とは言え、仕事もせず、「お稽古事や買い物だ」と贅沢な日々を送っている。

此れが終われば仲間と認められ、「民子を堂々と公の場所やショー・観劇に連れて歩ける。」と、和也は言う。

考えて見れば、佐々木家もタダで数億の金を九条家に用立てる訳は無い。

高い買い物にならない様に和也の言う事を良く聞いて勤め、自分の両親の期待にも応えなければ成らない立場を民子は背負っていた。

民子には、両親の他に八十歳近い祖母と高校三年生の妹、それに高校一年に成った弟が居る。
理不尽かも知れないが、その人生は民子の態度に掛っている事になる。

まったくドラ息子達は、日頃から生活に満たされ過ぎている。
日々に刺激が少ないから、ろくでもない遊びしか考え付かない。

セレブパーティとは言うものの、民子には程度の低いどうしようもない遊びに思えた。
しかし、「逃げ場は無い・・・」

和也は、初めてのパーティ体験だから、その都度指示を出すから「その言う通りにすれば心配しなくても無事に終わる。」と言う。

「民子の考え方が変わるかも知れないが、代わってもらわなければ困る。」
何としても民子を納得させ、まな板の上に乗せる意志が、和也にはありありだった。

そんな全てを量りに掛け、揺れ動く是非の思いを胸に、あれこれ総体的に考えた末の結論を出さざるを得ない。

結局民子は追い詰められて、「どうにでもなれ」と、半ば捨て鉢に和也の破廉恥な要求を受け入れる決意をした。

屈辱と引き換えに、少しの間利巧に目を瞑(つぶ)っていれば、そんな事は勝手に民子の体の上を通り過ぎる。

「自分は大人の女だから、そう思う事にすれば良い。」

不本意な事だけれど、そう自分に言い聞かせた。
逃れられない運命とすれば、民子は佐々木の要求に頷(うなず)くしかなかった。

そんな訳で、「すごい」と、風の便りに知っていたけれど、民子は主催ホステスとして多少の破廉恥な事もする覚悟をした。

「判りました。仰(おっしゃ)る通りに何でも指示に従います。」

結局は「これも運命の内」と受け入れるのが、民子の生き方に思えたのだ。

しかしこの「おひろめパーティ」、後で振り返ると、見事に構築され、計算し尽くされた、「抜け出せない蟻地獄」だったのだ。

そうとも知らず、「噂ほどの事はないだろう」と、民子は和也達の怪しげな遊びに高を括(くく)っていた。

しかしそのお披露目パーティで、庶民派の民子としては想像に絶する、「これでもか」と言う、輪姦三昧の酷い恥辱を味合わされた。

民子は、全てを許す生け贄に供され、グチャグチャに犯されたのである。


人間は 社会性(集団で生活する必要性)から 側坐核(そくざかく/脳部位)を機能的に成長させて「善悪の概念」を持つ。

「善悪の概念」を持った人間は、自らを「ヒューマン」と呼び、その意味はつまり性善説で「人間らしい、人間味、人間的」と言う。

しかしながら、現実に「人間て何だろう」と考えた時、本当は「性善説」は綺麗事で、一人の人間が結構善人でもあり結構悪人でもある。

本音で言って、場面場面で善悪併せ持つのが人間ならば、人間何て然程(さほど)上等なものでは無い様な気もする。

まぁ、「人間らしく生きる」と言う事は、思いがけない事も犯ってしまう恐ろしささえも「在りうる」と言う事で、ヒューマン(人間らしい、人間味、人間的)の「建前のべき論」と現実には、明らかな矛盾を感じる。

そして当然ながら人間は繁殖時期を持たず、他の動物種では滅多に無い年中発情型で、「擬似生殖行為」と言う生殖目的以外の「癒し目的」と言う性交を必要とする生物である。

つまり発達した「脳の苦悩を緩和する(脳を納得させる)為の行為」として、生殖を伴わないSEX行為の合意が、人類の意識の中に「必要な行為」として与えられた。

人間のスケベ差を難しく言えばそんなものだが、簡単に言えば性交を愉しむ目的だけでも行為に及べるのがヒューマン(人間らしい、人間味、人間的)と言う事になる。


気取って自分大事に何も犯らない女性より、這い上がる為には「あほな遊び」をさわやかに犯れる女性の方が男性に取っては遥かに魅力的で、これは妥協では無く工夫である。

九条民子の頑(かたく)なに閉じた倫理観のドアを抉(こ)じ開けるには、「欲棒の鍵」を挿し込んで輪姦(まわ)すしか手がない。

民子を素っ裸のガチンコSEXハイターに仕立てる事が、佐々木和也の性癖であり目的だったのである。



その日の参加は男女六組、和也達二人を入れると総勢十四人になる。
驚いた事に、遠路東京や名古屋、大阪から来ている夫婦も多い。

以前から、この日皆楽しみにしていて、期待に胸を膨らませて「民子のおひろめの為にやって来た。」と言う。

和也の住むペントハウスは最上階の十五階にあり、その階を全て占めて(しめて)いるから他にこのフロアーに来る客は居ない。

和也と民子はスーツとドレス姿に着飾って十五階のエレベーターの前まで行き、客を迎えた。
BGMには、相変わらずクラシックのピアノ曲、ショパンのピアノ夜想曲が流れていた。
民子が和也に訳を尋ねると、「民子のイメージに合っている」と言う。

マンションの内部は何時もの間取りではなく、スライド式の壁やドアは和也に拠って全て開け放たれ、舞台を意識してソファーの配置を施(ほどこ)した大広間に変身して、内部全体が見事なパーティ様式に変わっている。

最近和也は、舞台の正面一面に大型の鏡を三枚並べて貼り付けさせたが、その前に引かれていたカーテンは今は開け放たれ、鏡が舞台後方の壁一面を覆っている。



パーティは、参加者全員がホーマルスーツとパーティドレス着用の正装で、華やかに始まった。

高級洋酒が並び、幻の大吟醸を何本も瓶ごとアイスキューブの大きなボックスで冷やす演出もなされ、料理も市内の高級店から取り寄せた。

全員仮装用のパーティアイマスク(目だけ隠す仮面)を着用する乱痴気パーティで、それを身を呈して盛り上げるのが、「主催ホステス・民子」の課せられた役目であった。

本来、社交パーティの基本は男女入り乱れて交流で、露出度が高い女性の衣装なり密着ダンスなり、そこに胸をときめかせる色気が介在しなければ面白く無い。

その究極のパーティ交流が、エンジョイ・トゥギャザー(ごいっしょに愉しみましょう)のソーシャルセックス(社交的な性交)と言う濃厚な遊びで在っても納得できる。

出席者は互いに判別出来るので、パーティアイマスクの着用は単なる照れ隠しで、破廉恥な事を気軽にする為の配慮だった。

彼ら勝ち組階級は、豊かで退屈過ぎる日々の鬱憤(うっぷん)を、安心して一方的にぶつける事が出来る刺激的な生贄(いけにえ)が欲しい。

良く考えたもので、新参者をそのイベントの生贄にすれば、我侭を言えない遠慮があるから逆らえない。

和也が客を集めてお披露目パーティを始めたこの時点でもう、民子への陵辱舞台の幕が上がってしまっていた。

民子は、夫の和也が生贄(いけにえ)として裸に剥(む)いてパーティ仲間に引き渡した、メンバーの意のままに弄(もてあそ)べる性玩具(おもちゃ)である。

本音の所、清く正しい性交など誰が望んで居るだろうか?
性交など、その行為の味付けとして依り濃い猥褻(わいせつ)な物でなければ興奮はしない。

つまり世の中、表面的な綺麗事だけで済む筈も無く、民子が人生の裏側も認めて曝(さら)け出さないと良い夫婦生活など望むべくも無い。

こう成ったら、「小娘じゃあるまいし」と民子は自分に言い聞かせて、ポルノ映画の様に生ライブ(生実況風景)のセックス・ヒロインを務めるしか選択肢は無い。

現在のリッチな生活を維持する為に、情を捨て、他人を踏みつけにする事を覚えた連中である。
かれらは、残酷な遊びをする事に良心の呵責など持ち合わせては居ない。

当然、和也の婚約者民子は、この残酷な試練を乗り越えて、初めて仲間内のデビユーを果たす事になる。

彼らは、「民子の内臓まで覗いてやろう」と、興味深々に「おひろめパーティ」を、今や遅しと待ち受けていたのだ。

民子の立場は、狼の群れに素裸で飛び込む様なものだった。

本能で言えば、人間の雄は出来るだけ多くの雌に種をばら撒くようにインプットされているのを、普段は自制心で抑えているだけである。

しかし亭主公認で素っ裸の女が目の前に居、その自制心を必要としない場面であれば、何も遠慮する事などない。

その男達にしてみれば、自分の抜き挿し攻めでその女がどんな表情を見せ、どんな善がり声をサエズルのか、舌舐め摺りしてその反応が愉しみに違いない。

つまり夫としてが複雑な心境ながら、「この女を早く犯りたい」の彼らの想いは、夫の和也も男として充分理解できるのだ。


さて、ヒロイン(主催ホステス)の登場だが、それは民子にとって相当衝撃的だった。
何と、民子だけは別室で和也にいきなり全裸に剥(む)かれ、下着の着用も許されない。

両脇にウエストに届くまで深く切れ込んだスリットが入り、ウエストから脇の下まではまた開いていて、少しかがめば横乳が乳首まで見える白く薄い古代ギリシャの衣装の様なネグリジェ一枚を宛がわれた。

その姿で「他人(ひと)前に出ろ」と言うので、恥かしさに目で和也に救いを訴えたが、「これが主催ホステスの決まり衣装だ。」と和也は言う。

民子は中肉中背い、スラリとした体型(からだつき)で、日本人としては異例なほど、白く張りのある滑らかな触り心地の肌の持ち主である。

その美しい肌が肉体(からだ)が、このお披露目の儀式で強引に人前に晒された。

おわん型の二つの乳房、くびれたウエストに縦長の臍、やや薄めの恥毛に、三角形に覆われて柔らかそうに丸身を帯びて膨らむ恥丘、その下の二枚の肉花弁も、最早誰の目にも隠し様が無い。

民子の驚愕をよそに、その恐ろしい忍従の時がいきなり始まったのである。
全裸がもろに透け通り、ネグリジェなど気休めでしかない。
仕方なくその姿で、火の出るような恥ずかしさを抑えて、参加者の拍手喝さいを浴びた。

一瞬静まり返ったパーティ会場が、民子の透け透けのネグリジェ姿にどよめき、何処(そこ)かしこのテーブルで憶測を交えた民子の品定めが広がった。

「何なの、この連中・・・」
民子にはとても割り切れない。
この連中の遊びを目の当たりすると、気持ちは引いてしまう。

民子は、たわわな乳房も乳首も股間の茂みもさえも露に、鏡ステージの真ん中に引き出されたのだ。

民子の予想など甘いもので、多少の破廉恥どころか、主催ホステスには最初から「全てに無防備」が要求されていた。

それが、お披露目パーティにおける主催ホステスの決まりで、和也は有無を言わせない。

その代わり、和也が「この日の為に用意した」と言う、セレブの身分を現わすネックレスとブレスレットだけは、ダイヤとプラチナのオーダーメイドで「時価数千万円」と言う豪華煌びやかな物を身に着けさせられた。

それらが、民子の裸身に怪しく光って和也の狙い通り映えている。

あくまでも美しく清楚で豪華な女教師が辱められ、汚される事が参加者に期待されていて、その落差は大きいほど参加客の民子に対する加虐の趣は強くなる。

設宴(宴を設ける)には、場を盛り上げるヒロインが必要である。
つまり人間の愉しみなど残酷な物で、普段観れない催し物が在って初めて良い宴会なのである。

だから宴を開催する側からすれば参加者に愉しんで頂くには目玉になる生贄(いけにえ)のヒロインは欠かせない。

そのヒロインが素っ裸で、皆で容赦無く犯りたい放題の陵辱の生贄(いけにえ)なら宴は成功する。

宴の参加者にしてみれば、「ヒロインの輪姦(まわし)に参加して犯るも良し、犯られてあえぐヒロインを観るも良し」の刺激的な愉しみである。

ふと、民子の脳裏に妹や弟、両親の顔が浮かんだ。
「何を命じられても、素直に聞かねばならない。」

そんな思いが湧き上がってくる。
和也の面子を潰せば、何もかにも失う恐怖があった。

眩いばかりの高価な装身具を頂いた九条民子の色白の裸身は朱鷺(トキ)色に染まり、これ見よがしに眩しく輝いて、「汚せるものなら、汚して見ろ」と、見る人を挑発する。

まろやかな曲線を描く民子の程好い胸の膨らみ、柔らかくくびれた腰、丸みを帯びた男を誘うような白い尻、両足の付け根に蔭る頼りなげな草むら・・・・・。
その一つ一つは、常識的に考えれば、本来こうして他人に見せるものではない。

自分一人だけが恥ずかしい裸体姿で皆の前に引き出され、晒し者にされた民子の美しい顔は不安げで、向け場所の無い戸惑いに彩られる。

しかしその民子の戸惑いは、むしろ参加者の期待に火を付け、此れからの「あそび」を殊更過激にさせるに充分だった。

「主催者だから、ご挨拶がてらお話のお相手し、皆さんに大吟醸酒をお注ぎして歩きなさい。」
和也が目に怪しい光をたたえながら、ほとんど全裸に近い格好の民子に命じた。

立場からして、民子は招待した側だから、客を楽しませるのが当たり前である。
「はい。」

「お注ぎして歩く間、脚は半歩、必ず開き気味して、お客様から何があっても知らぬ顔で話のお相手をしなさい。これはパーティのルールだからね。」

「はい。判りました。」

和也に命じられた「脚を半歩必ず開き気味」の魂胆の察しは直ぐ着いた。
言わば民子の股間を「無防備にしろ」と命じているのだ。
「判りました。」

和也は、参加者を遊ばせる為の心得として、「何があっても、知らぬ顔をしろ」と言う。

素っ裸に透け通るネグリジェ一枚で連れ出された時、民子は「露骨な視線が集まるもの」と会場の目を意識した。

所が案に相違して参加者の視線はそ知らぬふりで、反応はクールだった。

お披露目パーティのお約束だから顔も肉体(からだ)もお披露目するのがむしろ当然な事で、主催者の民子がほぼ全裸の透け通るネグリジェ一枚で現れても誰も驚いたりしない。

暫くの間は、和也に命じられてその姿で談笑しながら飲み食いする客の間を、「民子です」と新参の挨拶がてら大吟醸をお酌して廻っていた。

和也の面子が、「このパーティに掛っている」と、キツく言われて居る。
民子は既に開き直っていた。
女性特有のものだが、事実男性より遥かに「開き直り」は得意である。

民子がお酌して廻ると、パーティ会場での話題は至極まともな内容で、まるで民子が全裸同様でいる事など気が付かないような日常の話題や、最近の政治経済の話題などで、民子の姿に相応しい浮いた話や民子の裸身は話題ではない。

むしろ民子の裸身をわざと無視する様に難しい内容を、真面目に論じていて民子の透き通るネグリジェ姿が奇妙な場違いに浮き上がっている。

まるで真面目な懇談会の会場に、露出狂の女が紛れ込んだようなものだった。
ただしその演出には一つだけ、意図的に「まともで無い事」があった。

それは民子の両手を意図的に塞ぐ様に演出し、脚は必ず開き気味にして、参加客の間をお酌しながら歩き廻る様に和也から言い付かった事で、狙いは明白だった。

和也からはあらかじめ、「挨拶回りの時は、そ知らぬ顔で心行くまで触らせるのが主催ホステスの礼儀だから」と念も押されていた。

民子は和也の言い付けで、左手で吟醸酒の入った水差しをアイスキューブの中に漬けたお盆を持ち、右手で冷やした水差しからお酌をさせられて両手が塞(ふさ)がり、足は開き気味を心掛けて歩き酌をして廻る。

勿論お約束だから、参加者の男女はまるきり真面目な話題を話しながら、平然と無遠慮に民子の肉体(からだ)に手を伸ばし「強制お触り」をした。

全裸に剥かれて提供された肉体(からだ)だけのシエアリング(共同所有)は、仲間内の既成事実だった。

当然男達は民子の肌触りを愉しむべく裸身を撫(な)で廻すが、此処まで来ればそれは極自然な行動と言える。

それで民子は、手始めに裸身その物を男達の玩具(おもちゃ)にされる。

民子は被虐感と伴に、乳房を掴(つか)まれ乳首を摘(つま)まれようが、股間を撫(な)でられようが指先を入れられようが、相手任せに触り放題で弄(もてあそ)ばれるしかない。

男達の利き腕が民子の尻に廻って手の平が尻肉を撫(な)で廻し、指先がモソモソと菊座の穴や二枚の肉花弁の間に潜(もぐ)り込んで弄(なぶ)り廻している。

その弄(なぶ)りに、民子は恥ずかしそうに顔を赤らめながらも身を捩(よじ)って避けもせず、股間を広げて男達のお愉しみに為すがままに耐えている。

乳房は乱暴に揉みしだかれ、尻は掴まれ花芯は弄られ花弁の間にも指が潜り込み、アナル菊座にも指は伸びて来る。

そして参加者の手が、民子の肉体(からだ)の何処を這おうが何処に潜り込もうが、その手を避ける事も振り払う事も民子には禁じられていた。

それらは、まるで民子の肉体(からだ)にまつわりついた蜘蛛の糸の様に、無数の手が図太く民子の肉体(からだ)に触れ続けて放さない。

民子の肉体(からだ)のそこかしこに他人の手の感触が、民子の肉体(からだ)を悶えさせながら別の真面目な話題と伴に無遠慮に襲ってくる。

それでも民子は表情を変える事も、身をよじる事も許されてはいないから触れさせ放題で別の真面目な話題の受け答えを続ける。

民子は、自分の身体がジワジワと紅潮して来るのが判った。

その襲いくる他人の手は男女の別が無く、女達も顔色一つ変えずに民子のアナルや股間の割れ目に触れながら、平然と民子の教員時代の話を要求するなど、彼らの扱いはしたたかで何の容赦もない。

民子は内心、酷く惨めな気持ちでその陵辱に耐えていたが顔には出せなかった。

民子の方も、どうやらこの連中が、「民子の表情を楽しんでいる」と察しが付くから、意地でも冷静に笑顔を絶やさず談笑を続けそれらの行為が無い事の様に素知らぬ顔で酌をして歩く。

これだけの人を集めておいて、今更民子が愚図ればこの場が台無しになる。
そう理解して、民子はそ知らぬ顔で触らせ続ける。

例え不本意であろうとも、こう公に参加者の合意の下、自分にその役目を課せられてはその場に合わせる以外の選択肢は無い。

異常な状況に置かれているのに、肉体(からだ)が抑えきれずに興奮し、民子の女の部分からは、愛液が滴っている。
そこを無言で触れられても、和也の言葉の呪縛があるから抗えない。

民子は感じている事を隠せず、必死で身悶える肉体(からだ)を抑えながらも、良家の令嬢として育ち、教職に在った民子の自尊心がズタズタに引き裂かれて行く。

意地が悪い事に、その民子の肉体(からだ)の変化さえ誰も口にはせず、別の真面目な話題をしながら民子の肉体(からだ)をいじり倒す。



それは否応なしに、民子が獣に落ちる瞬間だった。
この状態では、民子の人間として被っている皮は、容赦なく全て引き剥がされる事になる。

何よりも、流れているクラシック曲・ショパンのピアノ夜想曲がいけない。

望まなくても、大勢の視線に晒されながら弄られれば、肉体(からだ)が勝手に脳内でアドレナリン(興奮ホルモン)を噴出して被虐の快感に襲われる。

むしろ民子は、開き気味の足の言い付けを守り、話題とは別に相手の妖しげな手の意図にも目的を遂げ易い配慮して身を処しながら、ショパンのピアノ夜想曲(ノクターン)がBGMに流れる中、平然と肉体(からだ)を弄らせながら挨拶回りを続けなければならない所に追い込まれた。

おかしな物で、民子の体勢が悪いと、相手の手の動きが意図した所にヒットせず、居に反して「いっその事、清々触れ。」と、正直もどかしい事もあった。

そうなるとおかしなもので、「えぇい、じれったい。」と、肉体(からだ)をずらしても、まともに中心に触れさせる自分が居た。

何をされても、あくまでも和やかに上品に、民子は挨拶回りを続ける。

それは、民子にとって苦しい忍従のはずだった。
処が身体の方に異変が起きる。

この状態では、民子の思いなど何の意味も無い。
襲いくる被虐の快感に、肉体が勝手に脳内でアドレナリン(興奮ホルモン)を噴出している。

暫くすると、まるで愛撫を受けている様に、恥ずかしさと受け続ける刺激で体温が上がり、望まずとも民子の女の部分から愛液が滴る様になる。

そこを触れられれば、恥ずかしい事に自分が感じている事が触れた相手に判ってしまう。
誰も口には出さないが、それを指先で充分に確認した彼らは、民子の異変を承知しているはずだった。

「恥ずかしい。」
そう思っても、刺激を受け続けながら、自分のその状態をコントロールする事は民子には難しい。

民子の女の部分に触れた参加者の手は、民子の身体の異変を確認している。

望まずとも、身体が勝手に応じる羞恥心もあって、この時には肉体の快楽の序章を向かえ、民子の意識は崩壊しつつあったのだ。

しかし、そんな事で終わる筈(はず)は無い。

三十分もすると、非情にも「民子さんが出来騰(あ)がった様だから早く始めよう」と声が架かる。

「そぅね、随分良い色に騰(あ)がったわ。」

確かに民子の肉体(からだ)は、挨拶回りの間に容赦なく嬲られ続けて火照り騰(あ)がっていた。
正直民子の気分はもう、半分犯されたようなものだった。
それが狙いで、これは一種の前戯のようなものだった。

「出来騰(あ)がる」と言うからには、民子の変化を確実に観測していた事になる。

恐らく一連の「強制お触り」の出来事は、前戯に該当するおひろめパーティの手馴れた「段取り」なのだろう。

逃れられない、「刺激的な、無言のお触り」の洗礼を受けて、もう民子の花芯は恥ずかしいほどに濡れている。

「お待たせ、お待たせ、民子はもう出来騰(あ)がったの?」
和也が弾んだ声で問い返した。

「あぁ、こんだけ濡れれば充分だろう。」
「それじゃぁお待ちかねの輪姦(まわし)を始めましょう。」

和也が、最近大金の内装費をはたいて新設した舞台のスポットを灯し、その光のサークルの中に素っ裸の民子を立たせ、和也が目の前でいそいそと鏡ステージの舞台に固めのマットレスを四枚引いたので自分の身に何が始まるかは察せられた。

もう、後戻りは出来ない。
「これは私に、このマットレスの上で行く所まで行けと言う事だ。」と民子は、思った。

自分を衆人監視の下で犯す為のマットレスが引かれるのを、民子は周囲に無意味な愛想笑いをしながら、為すすべもなく立ち尽くして、和也の次の指示を待った。

目的が公開性交だから、視覚角度から言えば舞台は床から十五センチほどの高さがベストで、椅子に座った位置でギャラリーに性交遊技を見下ろされる角度が一番良く観える。

それで床に畳を三枚敷いて、その上にシングルサイズの柔らか目のマットレスを敷き、周りを性交参加者が囲んだ上に、ギャラリーの椅子が取り囲む形になる。

和也が支度している間もセレブ達の談笑は続き、周りの雰囲気はまるで当然の事をしている様に和やかなもので、民子には信じられない。

だが、どう見ても目の前には自分を陵辱する道具立てが整って行く。

和也が言うように、裸踊りでは済まない現実が、考えられない事に和也の手に拠って目の前に整って行くのだ。

大勢の参加者の前で、自分は見世物にされながら、まだ氏名も一致しない相手の屈辱的な性行為を受け入れる・・・。

考えただけで、答えの無い不安が募る。
「この人達は、そして和也は一体何を考えているの?」

その凄い非日常の出来事が、この集団の中では、まるで行われて当たり前のような雰囲気の中、今現実に起こっているのだ。


民子が、夫を含む周囲が「必ず自分に合わせてくれる」と想っているのは傲慢な心得違いで、当然ながら自分が周囲に合わせる必要もある。

開き直ればものは考えようで、一対多数の変則マルチSEX(複数性交)は、スケベ女なら涎(よだれ)が出そうな御褒美で、「豪華フルコースの贅沢」と言えない事も無い。

これは妥協では無く生きて行く為の工夫で、こう成ったら民子は実家・九条家の為に相手が何人だろうが元気を出して犯るっきゃ無いのだ。


性的行為に於いて、五感(視覚、聴覚、触覚、味覚、嗅覚)を刺激する興奮が必要である以上、その形態に確たる定型はない。

形態に定型が無い以上、社会的に「性的行為の、何処までが許容範囲であるか」の線引きは在り得ない。

だ、と言うのに、個人の感性で他人の性的行為をあれこれ判断するのは、明らかに間違いである。

そこまで行くと、その相手が単数であろうが複数であろうが、その形態がアブノーマルであろうが、合意の上の遊びなら何処に問題があるのだろうか?

元々遊びの性交に貞操観念など在る訳も無く、愛とSEXは脳の違う部位で情報として処理される。

従って、誤解を恐れずに提案するなら、不倫の性交に「愛の感性を条件」とするべきではない。

それ故、愛の無いSEXをするのは不倫ではなく只の遊びで、大いに愉しめば良い事なのである。

そして只の遊びであれば一度に多数相手のコレクティブセックスプレィ(集団乱交)が理想的で、相手は限定されない方が後腐れはない。


こう言う時は、劇的な場が求められる。

サーカスは古代エジプト時代に始まり、ローマ時代にその原型がなされた動物を使った芸や人間の曲芸など複数の演目で構成される見世物の事である。

一般的に円形劇場や天幕劇場などで催され、舞台を群集が取り巻いて見下ろす形態が取られる。

マルチSEX(複数性交)やマルチタスクSEX(同時実行性交)、コレクティブセックスプレィ(集団乱交)も複数の演目で構成される見世物と言えない事も無い。

どうせ現代人は溢れるストレスの中、僅かな幅の塀の上を歩いて正気と狂気の堺を彷徨(さまよ)っている。

まぁ、群集が取り巻いて見下ろす中での「公開輪姦嬲(こうかいりんかんなぶ)りのプレィ」も、ある種のサーカスかも知れない。


この連中は本気で、「嫌だ」と言っても止める連中では無く、素っ裸の民子はもう、どうせ輪姦(まわし)で大勢に犯られるのが避けられない。

こう成った以上、恥ずかしがったら面白がっている連中の思う壺だし、嫌がっても、泣き喚(わめ)いても、見苦しいだけで余計に良い事はない。

それならば、腹を括(くく)って覚悟を決め、堂々と彼らとの性交にアクティブ(前向き・攻撃的)に応じて観せ、見っとも無い態度は止め様と想って心に決めた。


民子は、和也から主催ホステスの口上を耳打ちされると、土下座をさせられて挨拶をする。

お披露目の「主催ホステス」の口上は、決まっていて、土下座の挨拶を指示された民子は「今夜は私でお遊び頂きます、存分(ぞんぶん)にお楽しみください。」と言わされ、頭を下げた。

その頃には、酒はおろか何処から手に入れるのか非合法の大麻まで持ち込み、会場の全員がハイテンションに包まれている。

口上を言わされて気が付いたが、「私でお遊び頂きます。」なのである。

「主催ホステス」は、パーティ終了の最後まで、参加者の要求する事の全てにけして逆らわないで応じる事が、「おひろめ」のルールだった。

これには新参の女性を、パーティ仲間に迎え入れる「洗礼儀式」の意味合いがある。
人間誰しも、結婚前に過去がある。

このお披露目パーティは、一度こっ酷くグチャグチャに輪姦(まわ)して、今まで引きずって来た過去をご破算にする禊(みそぎ)みたいなものだ。

民子は、夫の和也が遊び仲間友人達への生贄(いけにえ)として裸に剥(む)いて引き渡した性玩具(おもちゃ)である。

「さて、この美乳の触り心地はどんなかな?」
和也の遊び仲間は、天に向かって丸く膨らんだ民子の乳房をムンズと掴んだ。

友人達が意のままに弄(もてあそ)べる性玩具(おもちゃ)として手に入れた民子の乳房や今から使用する股間の柔らかそうな感触を、和也の遊び仲間は露骨にニヤつきながら面白がって撫(な)でて確かめている。

手始めに、ポルノ映画のように、乳首を硬くした柔らかそうな民子の乳房が無遠慮に和也の遊び仲間に揉みしだかれて波打ち、掌(てのひら)の指に幾分コリコリと挟まれて間から突出した民子の可憐な乳首が刺激を受けている。

まぁ友人の男達はおろか女達まで、民子の裸体の乳首を容赦無く摘(つま)もうが太腿(ふともも)を撫(な)でようが、二枚の肉花弁の中に指先を挿し込もうが民子は耐えるしかない。

こんな輪姦(まわし)の状況で、民子が素に戻ったら犯っては居られないから、犯られ役のAV女優気分に徹するしか無い。


人間は残酷な生き物で、自分が安心する為に「見下す相手」を作りたがる。

そこが精神心理上の虐(いじ)めの原点だが、この「おひろめパーティ」、無抵抗を命じた主催ホステスを素っ裸にヒン剥(む)いて大勢で嬲(なぶ)り、犯し倒す事でストレス解消の「擬似的虐め(SMプレィ)」と言う効果があるから、仲間内では人気の催しだった。

つまりセレブ生活の鬱憤(うっぷん)晴らしだけでなく、新参を迎え入れて、心身供に、仲間にしっかり馴染ませる目的がある。

だから口封じを兼ね、最初に「おひろめ」をして、口では言えない位に「こっ酷く」辱めて置く。
そこまで皆で烙印を押してしまえば、大抵の女性は諦めや、踏ん切りも付く。

まぁ、「恋だ愛だ」と何だかんだ理屈をこねても、突き詰めてしまえば赤の他人と性交する為の事前の感情に過ぎない。

そして綺麗事の建前を言った所で、売春やら浮気がデンジャラス(危険)に成立するくらいが、偽(いつわ)らない世間の現実である。

大人同士がその気に成れば、恋人や夫婦でなくとも肉体(からだ)だけシエアリング(共同所有)の遊びの性交が、民子に犯れ無い事はない。

そしてその遊びの性交が夫婦揃っての合意の上であれば、内緒で犯る売春やら浮気依りは遥(はる)かにリスクが少ない好適環境ではないだろうか?

輪姦(まわし)にしろSMプレィにしろ、「とんでもない事」と想っているのは未経験だからで、一度経験するとその快感体験から味を占める女性は案外多い。

つまり経験こそ重要な事で、何ら経験も無しに想像しているだけで他人や他人の行動を非難していて、それを正義と勘違いしている女性は滑稽な事である。

それで民子が、そのM性交プレィやマルチSEX(複数性交)プレィに馴れてしまった事で「調教された」と言うのならその通りかも知れない。

その試練を終えて、初めて淫靡な遊びを共有するかれらのシエアリング(共同所有)の仲間内と認められるのである。

それが目的だから、和也本人が嬉々としてその場を盛り上げ、要求のエスカレートを煽(あおる)るのに躍起だった。

「サァサァ構わないよ、おひろめで全て無礼講だから遠慮はいらない、民子を思い切り感じさせてやって。そら、此れを使えば彼女が喜ぶよ。」

気が付くと、民子を弄(なぶ)る小道具も和也が揃えている。

ローターから模造男性器付バイブ、アナル用バイブ、強力マッサージ器、それに皮製の拘束具と選り取り見取りで、顔を赤らめうつむく民子の前で披露しながら「民子は一通り経験があるから好きに使え」と言う。

だから出席者達はおおいに乗って、基より遠慮が無い。
小道具に群がってそれぞれ好みのものを確保し、民子陵辱の準備に怠りない。


「主催ホステス」の口上の後は、もう民子に取っては信じられない事の連続で、一つとして納得できる事は無かった。
しかし、民子には彼女なりのプライドがあった。

ここでどうせ陵辱されるなら、堂々とされてやる。
みっともなく泣き叫んで、哀れな笑いものにされる態度は取りたくない。
全ての選択肢を失った彼女なりの、せめてもの心意気だった。

人間の生活には裏と表があり、裏はもっぱら本能の世界で、本能の世界はより変態の方が満足度は高い。
メチャクチャな連中だが、こう言う場面は、元々メチャクチャな変態行為をするのが目的である。

皆、パーティの流れは熟知していてする事に澱(よど)みはない。

民子はたちまち僅かに身を覆っていた薄いネグりジェを剥ぎ取られ、参加者から入れ替わり立ち代り、大勢の前で、思い切り辱められ思い切り弄ばれる事になる。

「私でお遊び頂きます。」の口上の後、土下座のままにしていた民子が、頭髪を上に引かれて半身を起こした時には、目の前に男の欲棒がそそり立っていた。

「咥えて。」と言われて思わず言われた通りにすると、後ろから腰を持ち上げられて女性器にも何かズブリと刺し込まれた。
無数の男女の手が延びて来て、ネグリジエも一気に剥ぎ取られる。

咥えた途端に、和也の友人はもう腰を使って民子の口中に硬く張り詰めた欲棒を抜き挿し始める。

その男のやや膨らんだ腹が、民子の鼻を潰す様に腰を使ってクイクイと押し付けられる度に、民子も上半身を使ってウゴウゴと和也の友人の欲棒を喉の奥に必死に迎えに行く。

和也の友人のカリ首を喉の奥まで飲み込めば、流石(さすが)に「オェッ!」と苦しいが、口をすぼめて咥えた和也の友人の欲棒に歯を立てられないので、民子は涙を流しながら我慢する。

和也の友人の欲棒を咥えた民子の口元で、唇を擦(こす)りながら唾液に濡れ光る陰茎が生々しく見え隠れしている。

良いも悪いも無く、妻・民子は、全裸のまま、やや腰を前に突き出し気味に腰に手をやった仁王立ちの和也の友人の欲棒を、床に膝を着いた形で上半身前後に動かしながら熱心にシャブっている。

和也の友人の唾液に濡れ光る淫茎の丈が、妻・民子の口元で唇を擦(こす)りながら見え隠れする様を僅(わず)か一メートル足らずの目の前で見た和也のインパクト(衝撃)は強烈だった。

和也の友人の腰の動きに連れて、坊主頭・海綿体のカリ首が民子の口中でまで届いて口蓋垂(こうがいすい/喉チンコ)を押し分け、和也の友人の欲棒の根元の恥毛が民子の唇に容赦無く押し付けられている。

これは男性が女性に対する征服欲を満たす行為としては一種の服従儀式で、喉の奥まで欲棒を挿し込む行為は中華大陸で一般的なので大陸式フェラチオとも呼ぶ。

だからこの大陸式フェラチオは単なるおシャブリ以上に過激だが、その方に服従するお遊びのSEXのお相手を、これから始める「挨拶代わりの礼儀」と言う事になる。

気が付くと咥えさせた目の前の男処か何時の間にか参加男性七人は、躊躇(とまど)う事もなく全て下半身を露にし欲棒もそれなりにスタンバイしていた。


このお披露目パーティで、和也の友人達に輪姦(まわ)される為に素っ裸で引き出された民子だった。

男の手の平が指先が民子の膝頭を撫でながら這い進み、太腿(ふともも)に達していよいよ大きく開放され露(あらわ)に成った股間の二枚の肉花弁に触(ふ)れる。

民子の脳が、この先の欲棒の受け入れを意識してか、二枚の肉花弁のスリットの奥は既に淫液に潤んでいた。

男の一人が、「どうです、コイツで少し感度を上げも良いですか。」と指を二本揃(そろ)えて見せ、和也に了解を促(うなが)した。

「えぇ、お願いします。」と和也が応じた。

素っ裸でこの場に居るのだから、民子も此処まで来てしまえばまな板の鯉で、今更プレィに抵抗は見苦しい。

結局の所、「どうにでもしろ。」と覚悟を決め、股を開いて相手を待つしか選択枝は無い。

民子に取り付いた男が、仰向きに横たわる民子の両足首を握って左右に開くと両脚の間に割り込んで取り付いた男に両膝をグィと床方向に押さえ広げられて、民子は蛙(かえる)の脚様に足を開いた仰向き体制を強いられる。

開かれた脚は、相手の男が目的を遂(と)げるまで閉じては成らない事くらい女性の本能的に察せられる。

恥毛が生(は)えるなだらかな曲線の三角デルタ地帯もその下の秘所も丸観えにされた蛙(かえる)開きの体制のまま民子は動きを止め、相手の動きを待つ事になる。

「旦那の前で奥さんに指攻めを犯るなんて、興奮するな。」と取り付いた男は顔をニヤつかせて口元を緩(ゆる)ませた。

それは確かに、条件的に滅多に犯れない遊びで在る事は間違いない。

それが涎(よだれ)が出る程に極上の陵辱プレィの愉しみ方である事は、男性の私には良く理解でき認めざるを得ない。

「それではお借りしますよ。」と言いながら、その水々しく潤(うるお)った民子の花弁の隙間に、男の二本の指先が「さて、どんな声でさえずるかな?」と今コジ入れられて行く。

和也の目の前で妻・民子への生々しい公開弄(こうかいなぶ)りの陵辱プレィが始まった。

素っ裸の妻・民子を仰向け立膝に寝かせ、 が両の膝を掴んでグィとM字開脚に広げさせる。

広げさせた股間を眺めながら指先で淫毛に隠れた実(サネ/花芯ボタン)を弄(なぶ)り、二枚の肉花弁を押し広げ刺激を加えて中を潤ませる。

その湿り気を増した民子の肉花弁の中に、取り付いた男は人差し指と中指を揃えて挿し込む。

挿し込んだ二本の指を中の感触を確かめる様にユックリ抜き挿しをしながら、刺激を感じる民子の顔の少し歪み気味な表情変化を眺め愉しんでいる。

目の前で民子の股間に他人の指が抽入され、スナップ(手首を捻って効かせる)が利いた手首と肘(ひじ)でリズム良く抜き挿しされ、二枚の肉花弁と指の隙間から愛液が噴出している。

その愛液塗(まみ)れの二本指の揃(そろ)えられた根元が、リズム良い抜き挿しに応じて見え隠れしている。

取り付いた男は、民子の性感反応が愉しみだから、グィグィと攻め立てながら一気加勢に追い込んで行く。

感じているのか、民子の顔がクシャクシャに歪(ゆが)み、半開きの口から「アァァァ〜。」と善がり声が漏れ、腰も抜き挿しのリズムに合わせるかのように見えている。

民子のヒィヒィと言う善がり声を聞きながら、取り付いた男はその二本の指抜き挿しのスピードを徐々に速め、グィグィと の女性器を弄(なぶ)って行く。

やがて抜き挿しに応じる様に民子の尻穴の菊座がヒクヒクと収縮とし緩を繰り返し、腰が浮いて二本の指の抜き挿しに卑猥(ひわい)に呼応する。

そしてその数十秒後に民子は、指の抜き挿しに攻められて腰を浮かして身悶(みもだ)えながら、男に敏感な花芯肉ボタンやら二枚の肉花弁まで舐(な)め廻されて、確かにヒィヒィとさえずりながら耐えている。

海綿体の粘膜は性感帯で、男女の性器だろうが唇やア*ルの菊座だろうが鼻の穴の内側まで、擦(こす)れは快感に通じていて、男はそれを同時に攻めているのだ。

理屈では「そんな恥ずかしい事を・・良く犯るよ」と想うかも知れないが、現場の空気を感じれば一方的にそれを壊す度胸は民子には無い。

そして避けられない性交遊びであれば、オーガズムの到達点に到るまで民子は愉しんで犯って見せるしかない。

奇妙な心理だが、既に少なからぬ妥協をした後では引き下がれば犯られ損で、乗りかかった船は民子には今更尻尾(シッポ)を巻いて降りられない。

民子にして見れば、自分に要求されたこの生贄(いけにえ)の状況は、信じられない程余りにも衝撃的だった。

他人前(ひとまえ)で性器も露(あらわ)な素っ裸に剥(む)かれた裸体を晒(さら)すのは、民子に採って何とも恥ずかしく無防備で頼りない想いである。

それだけでも羞恥心でアドレナリンが噴出するのに、和也はこの衆人環視の中で「輪姦(まわ)されて見せろ」と、聞いただけで脳みそが溶けるような衝撃的な事を命じるのだ。

しかしこの際、民子本人が何をどう考えるかは、和也の友人達には構う事ではない。

こうしたソーシャルセックス(社交的な性交)のルールでは、旦那が「妻を玩具(おもちゃ)にしてくれ。」と合意して好意的に貸したのである。

だから、原則として遊び仲間が民子に何を犯らせようが借りた方に使用権がある。

必要なのは、只、民子を素っ裸にして皆の前に連れ出し、嫌応無しに休む間も無くこっ酷く犯して善がり続けさせるだけの事である。


そこまで民子の肉体反応が進めば、イヨイヨ欲棒の抽入である。

弄(なぶ)っていた男が、民子の秘所、二枚の肉花弁のスリットに坊主頭のカリ首を宛(あて)がい、グィと突き入れる。

「アハン」と民子の善がり声が聞こえ、その男の欲棒が民子の中に収まった。

後はその男の生々しい腰の動きと伴に愛液に濡れ光る陰茎の見え隠れし、「アァ、アァ、アァ、イィ、イィ、イィ」と民子の善がり声が響いている。

彼らは次々に入れ替わって民子を欲棒でズブリと貫き、クィクィと腰を入れてリズム良く抜き挿しをして来るから、もぅこう成れば民子も気合を入れて必死に受け腰を使うしかない。

赤の他人の欲棒を生々しく咥(くわ)え込んだ民子の、既(すで)に絶頂域を続けている腰の動きが妙に艶(なま)めかしい。

「アッヒィー、アアアアアアアァー、イク、イク、アァー。」

民子は襲い来る刺激に耐えられず、ガクンガクンと上半身を跳ね上げ、明らかに絶頂を貪(むさぼ)ってその快感に浸(ひた)っている。

他人のおシャブり技術を確かめるように欲棒を加えた民子の口元や、腰使いを確かめるように欲棒を抽入された民子の股間に、ギャラリーの無遠慮な視線が集中している。

酷(ひど)い様だが、民子は素っ裸でこの陵辱舞台に上がった晒(さら)し者だから、「恥ずかしい」何て甘っチョロイ事を言っては居られない。

ギャラリーの女性も本音は残酷で、民子が大勢の男に次々に激しく犯られて居る同性の犯られぷりやイキ(絶頂)の表情などを興味深々で愉しそうに眺めている。

まぁ、「他人の性反応に関心が無い」と言ったら嘘になり、「可愛そう」などと言う口とは裏腹に、この時とばかりに顔をニヤつかせて歓声を挙げながら民子が犯られるのを確りマジマジと眺めている。

正直言えば、他人が虐(いじめ)め犯られるのを観るのは、目を輝かす程に女達には蜜の味だった。


まぁ考えて見れば、特定の相手と工夫(くふう)もしない定食の性交をしていては、新しさが伺えない日常のマンネリ(形式・様式主義)である。

つまり、多様な相手と多様な非日常の性交を犯らなければ、女性としてのブラッシュアップ(磨き上げ)は望めない。

人間は、現実と向き合って修正しながら生きるもので、本人も自分の気持ちに決定的なケリを着ける為に、こう言う非日常の時間が必要だった。

但し「だから」と言って、「世間に良く在る」と言う夫婦交換の、「別室でコソコソとプレィする」なんて言うのは間違いの邪道である。

あくまでも他人との性交は感情を伴わない遊びのプレィだから、配偶者や恋人の視野の中で行われるべき物である。

これは冷静に考えて、洒落の乗りで犯る遊びの性交だから、エキシビション(公開実演、模範試合、特別実演)で無ければ成らないのだ。


男性を受け入れるかの決断は本能で在るから、イザと成ると性交に関しては女性の方が余程(よほど)男性より度胸が良い。

民子の喉が枯れるほどの激しい善がり声が、鏡張りのプレィルームに響き渡っている。

「まるで私では無いみたい」と民子は想いながら、今は貫(つらぬ)かれた和也の友人の欲棒に歓喜の受け腰を使って応じていた。

つまり民子は、想ったよりもこの卑猥(ひわい)な遊びと、肉体(からだ)が肉欲的に水が合った事に成る。

集団乱交の遊びなど「現実には存在しない噂」だと想っていた民子にはにわかには信じ難い事だっが、その噂だけの世界が現実に存在した。

しかも民子は、夫の遊び仲間の生贄(いけにえ)のヒロインに仕立てられ、こんな乱交プレイを愉しみ愉しませる遊びを犯る連中が居る事を、肉体(からだ)で知らされ様としていた。

この遊びの性交プレィを、拒絶しても回避できない環境であれば上手く犯るべきで、頑(かたく)なに気持ちだけで拒絶するのは聡明な事では無い。

こう言う事を否定しないで上手く犯るには、気を入れて気分を卑猥(ひわい)に持って行き、積極的に受け入れて性交を愉しむのが利口な女の処し方である。

民子は、今からこの「大勢の他人前(ひとまえ)で犯される」と想うと、恐ろしさと恥ずかしさで胸がキュンと成った。

けれど不思議な事に、この観られる快感が癖に成りそうな予感が、民子の心の片隅に複雑に存在した。

現に民子は、大勢の視線を意識して乳房の乳首を硬く立たせ、戸惑いの表情を浮かべて指示に従っている。

自然な男女の性癖を区分けすると、観て感じる男性と見せて感じる女性に分けられる。

頭の思考で露出癖を論理的に否定していても、経験から別の答えを感性的に受け入れる事もある。

タブーの世界だから余り正面切って表明は出来ないが、現実にAV女優の志願者は多く、事務所登録しているだけで数万人は居て、その彼女達が金の為だけで無い。

建前はともかく本音では、彼女達に「他人前(ひとまえ)で犯られて見せる」と言う究極の露出癖をも満足させる目的でも無ければ、そんな仕事は犯っては居られない。

日本でも欧米でも、大ヒットを飛ばす歌姫に露出の多い衣装は定番である。

つまり女性の「見せたい願望」は女性が男性を誘うカップリングの本能で、それで集まって来た中から相手を選ぶ為に、見せて誘う意識が感性的に働くと言って良い。

男性は観たい癖があるから露出の多い衣装は歓迎だし、女性も本音では「見せたい願望」で歌姫の露出に共感している。

だから民子は本能をくすぐられ、こう言う特別の場でしか味わえない女性特有の究極の露出癖に目覚めたのかも知れない。

此処まで来てしまえばまな板の鯉で、民子の顔は、一見すると覚悟の「はにかんだ微笑(ほほえ)み」の表情を含んでいた。

もっともこの快楽の場では今更抵抗は見苦しく、民子は場の雰囲気を壊さない為に悲壮な顔や嫌な顔は出来ない。

結局の所民子は、「どうにでもしろ。」と覚悟を決め、秘部も露(あらわ)に股を開いて相手の犯りたい事の受け入れを待つしか選択枝は無い。

そしてどんなに美人で、どんなにスタイルが良くても、絡み合う恥毛の丘とグロテスクな女性器は、性交の為の肉体の一部として違和感タップリに備わっている。

その場に全てを晒(さら)して素っ裸大股開きにされた民子の顔は、羞恥心を含んだ困惑の表情だった。

その民子の困惑の表情などお構い無しに、少し乱暴に輪姦(まわ)しは始まった。

この連中はこう言う事に慣(な)れて精神的にも図太く、他人前(ひとまえ)でも躓(つまずく)事も無くズブリとインサート(挿入)を確り決めて来る

自分達が日頃犯って居る事だから犯る方も犯られる方も笑顔で、この連中が無遠慮に  に犯って居る事は当たり前で、悪いとも可愛そうとも想わない。

しかし女性は、一度そちら側に飛んでその露出感覚の快感を味わってしまうと感性の快感が優先されて、次からのプレィは意外とそこまでは抵抗がない。

何しろ休みたくても休めない状態で後ろから前からと輪姦性交が続いて、民子の絶頂(アクメ)は途切れなく性感に拠る忘我の境地を彷徨(さまよ)っている。

周囲の大勢の視線も忘れ、口をパクつかせて喉が枯れるほどの激しい善がり声が、民子の口から垂(た)れ流されている。

バック攻め独特のブシュ、パン、パン、ブシュ、パン、パン、と言う民子の尻肉がリズム良く発する連続音が、激しくこのプ に響き渡っている。

雄(男性)の本能が子種を撒き散らす事に在る以上、雌(女性)の本能に優秀な子種を求める衝動が在る以上、所謂(いわゆる)性衝動を建前だけで制御するのはむずかしい。

原始回帰すれば、男性が良い母体を探し女性が良い精子を探す「種の保存本能」で相手を代える感性は、ふしだらでは無く当たり前だった。

その性交本能を剥(む)き出しに男女伴に、民子の肉体(からだ)でタップリ愉しむ事が、この場の約束事だった。


それにしても男性と違って肉体的に、連戦で赤の他人との性交を犯る事が出来るのだから女性は凄い。

周囲を順番待ち組と鑑賞組の人の輪で囲まれる中、民子は生々しく結合部も露(あらわ)に、乳房を揺らし善がり声を挙げながら壮絶に相手の抜き挿しに受け腰で応じている。

民子の気分も、こうなると大きなスポーツ試合に奮闘しているアスリート気分で、性交も一種の勝負である。

まだ連続性交へ若干の抵抗心が残る輪姦プレィの出だしはともかく、犯り出して脳が感じ始めて来れば女性の性体感は現金なものである。

股間が空(あ)く事の無い男達の猛攻に民子は半ばトリップ(無意識)状態で、欲棒を咥え込んだ腰を相手の抜き指しのリズムに肌から汗の玉が滲(にじ)み出るのも構わず応じている。

制御もまま成らなく開いた民子の口元からは、激しい息使いと伴に悩ましい善がり声が「アァ、アァ、アァ。」と漏(も)れ、その唇の脇からは涎(よだれ)が糸を引いて落ちて行く。

民子は、次々と入れ替わる男達の欲棒を咥(くわ)え込んだ腰を浮かせ、口をパクつかせて善がり声を挙げ、涎(よだれ)を垂(た)らしながらリズム良く尻を振る。

その振られる尻の股間で抜き挿しされて捩(よじ)れる肉花弁と欲棒の隙間から、もう何人分かの溜まった愛液が押し出されて溢(あふ)れ、民子の白い太腿(ふともも)を伝い滴(したた)って床に落ちている。

激しいピストン運動に民子の顔が歪みながら左右に嫌々をし、股間に抜き挿しされるその淫茎は抜き状態では濡れ光り見え、挿し状態では根元近くまで中に達している。

勿論こんな非日常の壮絶な興奮は、民子に取って夫婦で犯る日常の性交ではとても味わえない強烈な刺激で、羞恥心など只の味付けだった。

この狂宴の場に全裸で曳き出されたら、タップリと陵辱プレィで弄(いじ)り放題の女体である事を意味している。

全ては遊びの発想から生まれたもので、深刻な事実は無い。

輪姦(まわさ)れる事を恐がったらギャラリーを愉しませるだけだから、こう成ったら意地でも恐れの表情なんかギャラリーに見せられない。

余り大した事では無い振りでもしなければ、民子も大勢の他人前(ひとまえ)で晒(さらし)し者で犯られては居られない。

その場の雰囲気を感じ取ったのか、民子に恥ずかしい想いは在っても、何故か開いた股をこの場では閉じてはイケナイ気がした。

それで民子は、この狂宴が終わるまでグロテスクな女の部品も露(あらわ)に股を大きく広げたままだった。


どうせゴチャゴチャした理由など不用の  お遊びだから、その場の者が性癖を曝(さら)け出して日頃の鬱憤(うっぷん)を晴らせば良い。

民子も、全てを曝(さら)け出して奔放(ほんぽう)に愛玩(かわいが)って貰(もら)えば、仮初(かりそめ)でも親近感が湧き、情が醸成される。

大勢の視線を浴びる輪姦ショーのヒロインを勤めさせられるのだから、民子の性感が日常の夫婦の性交より過敏に成って当たり前である。

女体は良く出来ているもので、民子は素っ裸でプレィルームに曳きだされた時点で、もぅ滑りを良くする潤滑油が股間で湧き出しているのを感じていた。

大勢の視線を浴びる輪姦ショーのヒロインを勤めさせられるのだから、民子の性感が日常の夫婦の性交より過敏に成って当たり前である。

女体は良く出来ているもので、民子は素っ裸でプレィルームに曳きだされた時点で、もぅ滑りを良くする潤滑油が股間で湧き出しているのを感じていた。

勿論、女性心(おんなこころ)としては、犯られた相手に「使いものに成らない」などとは言われたくないから、精々踏ん張って喜ばせようとする。

始まってしまえば、皆が民子の性感反応興味深々で、ギャラリーは面白(おもしろ)そうに囃(はや)したて、性交相手はグィグィと過激に攻めたてる。

後背位を採らされた民子が、口をパクつかせて喉が枯れるほどの激しい善がり声が、民子の口から垂(た)れ流されている。

バック攻め独特のブシュ、パン、パン、ブシュ、パン、パン、と言う民子の尻肉がリズム良く発する連続音が、激しくこの会場に響き渡っている。

相手が替わって体位が変わり、騎乗位に欲棒を咥え込んで民子自(みずか)らが腰を浮かして沈めて陰茎を見え隠れさせている。

民子の喉が枯れるほどの激しい善がり声が、形振(なりふ)り構わず「ヒィヒィ」とプレィルームに響き渡っている。

「まるで私では無いみたい」と民子は想いながら、今は貫(つらぬ)かれた欲棒に歓喜の受け腰を使って応じている。

めいっぱい感じているのか反応が凄く、民子は上半身をガクンガクンと奇妙に揺(ゆ)らし、乳房は踊り腹は小さく波打っている。

次々と無遠慮に犯られる民子は、公開性交の露出羞恥心も脳内に噴出する興奮のドーパミンの快感に後押しされて、脳内麻薬・ベータ・エンドロフィンの誘導が起こる。

やがて民子は、セックスハイ状態に到達して涎(よだれ)を垂(た)らしながら尻を振り、性交を続けて快感を貪(むさぼ)り、素の女性(おんな)を曝(さら)け出す。

ギンギンに張り詰めた欲棒が、蛙(かえる)の脚様に足を開いた仰向き体制の民子に次から次に襲って来る。

前の欲棒が抜けて締まりかけた民子の内壁を、次の欲棒のカリ首がまた押し分けて突き入って来てグィグィと突き立てながら一気加勢に追い込んで行く。

息も絶え絶えに、ガクンガクンと肉体(からだ)を反応させ「イキ過ぎてもたない。もう止めて。」と言う口とは裏腹に、民子の腰の方はリズムを合わせて生々しく、確り受け腰を使って居る。


輪姦(まわし)は一般的に、「女性を蹂躙(じゅうりん)している」とする一方的な解釈も在る。

しかしそれを性的官能に絞って考えれば、夫や恋人など一人相手の性交とは圧倒的に違い、これほど性感を堪能(たんのう/愉しむ・満足)する事は無い。

元々性行為なんてドロドロの欲求を満たすもので、誰が犯ってもそんなに格好が良いものでは無い。

言わば性行為なんてものは、多少は我侭(わがまま)で変態的の方が気分が乗り、プレィに燃える。

つまり当該(とうがい/あてはまる)女性のプレィに対する価値観の問題である。

女性が性的官能を満喫したいのであれば、その輪姦プレィはリピート(繰り返し)として成立し第三者がとやかく言う事では無い。



女性を口説くなら「吊橋の上が良い」と言う吊橋効果とは、恐怖や危機感を共有する事で側坐核(そくざかく/脳部位)が働いて親近感が湧き、好意的な感情が芽生える心理効果である。

或いは、露出プレィの強制者(S)やSMプレィの施(ほどこ)し相手に、女性が究極の羞恥心や恐怖、危機感を抱く事も、或る種の吊橋効果としてM心理が働くのかも知れない。

同様に一度有無を言わせず、こっ酷くグチャグチャに輪姦(まわ)してしまう工夫(くふう)も、広義の意味で側坐核(そくざかく/脳部位)が働くM心理の吊橋効果かも知れない。


このパーティの主宰ホステスには「嫌」の言葉(単語)は無い。
答えは全て「はぃ」である。

和也に「逆らうな。」と言われているから、指図があれば民子はその通りに操られて動く。
この「けして逆らわない」と言う取り決めは精神的な縛りであり、相手の好きに「犯られ放題」と言う被虐性がある。


当然ながら人間は、他の動物種のごとく「繁殖時期」を持たず、他の動物種では滅多に無いが、何時(いつ)でも犯れる「年中発情型」である。

簡単に言うと人間は、子創りを目的としない「擬似生殖行為」と言う生殖目的以外の「癒し目的」と言う性交を、性(さが)として必要とする生物である。

つまり発達した「脳の苦悩を緩和する(脳を納得させる)為の行為」として、生殖を伴わない遊びのSEX行為の合意が、人類の意識の中に「必要な行為」として与えられた。

人間のスケベ差を難しく言えばそんなものだが、簡単に言えば性交を愉しむ目的だけでも行為に及べるのがヒューマン(人間らしい、人間味、人間的)と言う事になる。

だからこそ、そのお愉しみ目的の「擬似生殖行為」と言う遊びの好適環境を仲間の合意で成立させ、肉体(からだ)だけのシエアリング(共同所有)する事が求められる。

為に夫婦が、浮気とは呼べないマルチSEX(複数性交)やマルチタスクSEX(同時実行性交)、コレクティブセックスプレィ(集団乱交)を夫婦揃っての合意で遊ぶのが理想的である。

夫婦揃っての遊びの性交など、表面化しないだけで世間に幾らでも在る現実で、綺麗事で「信じたく無いから」と言って目を瞑(つむ)っていては、何時(いつ)までもそれを認められない。

民子は、「自分の意思」と言う訳では無く、和也に命じられて人前(ひとまえ)で一糸纏(いっしまと)わぬ素っ裸に剥(む)かれ、柔らかい肌を晒(さら)してしまった。

たわわな乳房に硬く立つ乳首や股間に開き気味に咲く二枚の肉花弁も晒(さら)され、民子は顔が火照(ほて)る恥ずかしさを味わった。

しかしそれだけで済む訳も無く、民子にはもっと恥ずかしい公開性交が待っていた。

男女の群れの中に全裸の女性が一人居れば、それだけで異様な非日常の空間が生まれ、群れに怪しい雰囲気の世界が幕開けする。

民子はもぅ女達の興味深々な視線の中、男達が待つ陵辱舞台に上がってしまったのだ。


民子ももぅ、素っ裸に剥(む)かれて中央に曳き出されてしまえば、此処に至っての抵抗は見苦しく、他人前(ひとまえ)で多人数に犯られようが一々深刻に考えても仕方がない。

肉体(からだ)をシエアリング(共同所有)する遊びの性交なんか、完璧に洒落(しゃれ)の乗りで犯るもので、そんなものは「浮気」とは呼べない。

男女に拘(かか)わらず、夫婦が連れ合いに内緒で浮気の性交をする何て寂しい事ではないだろうか?

それならば、夫婦揃って合意の上の遊びの性交の方が、男女の本質を理解した大人の対応である。

女性だけ輪姦(まわ)されると成ると一見不公平に見えるが、男性は一回発射すると機能的に回復に遅れ、肉体的には多人数の女性に輪姦(まわ)される能力すら無い。

これだって「公平不公平に何を採るか」の採り方の問題で、快感の享受と言う観点からすれば男性側に不公平かも知れないではないか?

女性を口説くなら「吊橋の上が良い」と言う吊橋効果とは、恐怖や危機感を共有する事で側坐核(そくざかく/脳部位)が働いて親近感が湧き、好意的な感情が芽生える心理効果である。

或いは、露出プレィの強制者(S)やSMプレィの施(ほどこ)し相手に、女性が究極の羞恥心や恐怖、危機感を抱く事も、或る種の吊橋効果としてM心理が働くのかも知れない。

同様に一度有無を言わせず、こっ酷くグチャグチャに輪姦(まわ)してしまう工夫(くふう)も、広義の意味で側坐核(そくざかく/脳部位)が働くM心理の吊橋効果かも知れない。

不倫の原理は典型的な「吊橋理論」で、つまり吊橋の恐怖感のドキドキ感と不倫の背徳感のドキドキ感が「恋」のドキドキ感と誤認混同され脳に認知される。

つまり、一瞬の「惚れる」はドキドキ感と伴に脳内に発生するホルモン、フェール・エチル・アミンの誤認混同され脳に認知される。

「吊橋上の口説きが極めて有効である」と同様に、不倫には誤認の「トキメキが付きまとう」と言う理論である。

そしてそれらは、平凡な日常生活に不満を感じれば殊更大きな誘惑に膨らんで行く夫婦間のリスクなのだ。


今はもう、大きく開いた民子の股間に欲棒がクィクィと抜き挿しされ、その腰の動きに連動して愛液に濡れ光る陰茎が見え隠れしている。

始まってしまえば、民子も生身の女性だから、股間を貫いた欲棒が抜き挿しされれば相手の如何(いかん)に囚われず終わらない快感がある。

その遊びを、後で後悔するようなドロドロな気分なら色々と跡を引くかも知れないが、後悔するような気分でなければ爽(さわ)やかな性交を愉しむのみで跡を引く事は無い。


お尻の辺りが少し冷たいと思ったら、誰かにローションでも垂らされたらしくぬるりとアナルにも何か入って来た。

それこそ参加者が民子に群がる様に襲い掛かり、一瞬のうちに口も花芯もアナルも花弁の中にもアッと言う間に来客を迎える事になる。

そう、「お披露目パーティ」は輪姦地獄だったのである。


妻・民子の公開性交に於いて、その奮戦と性反応を生々しく確り確認させる為に、ギャラリーの最前列・目の前が夫・和也の定位置である。

クィクィと抜き挿しに応じて見え隠れする和也の友人達の陰茎に、民子の肉花弁が生々しく巻き込まれ捩(よじ)れ震えて見えている。
生挿しの欲棒が民子の股間に嵌(はま)って蠢(うごめ)く様に、夫・和也としてドッキリさせられ、一瞬後悔の念も浮かぶ。

だが、この情を挟まない遊びの場では、その生挿しの欲棒は民子に与えた「大人の玩具(おもちゃ)」と想うしかない。

和也の目の前で男達の腰が軽快なリズムを刻(きざ)んで、民子の肉体(からだ)の中心を貫抜いた欲棒の陰茎が、愛液に濡れ光って深く浅く見え隠れしている。

これは凄い見世物だが、正直民子が涎(よだれ)を垂(た)らしながら大口を空(あ)けて善がり犯られて居ても、民子の抑圧されて居た本能が剥(む)き出しに成っただけだ。

だから私(和也)が、随喜の刺激に顔を歪(ゆが)ませる民子から目を背(そむ)ける事はないだろう。

坊主頭のカリ首に肉体(からだ)の中心を貫かれてしまえば一瞬で心境に変化が起こり、警戒心で入った民子の力は抜けて行く。

現実にもう皆の前で犯られちゃったのだから気取っては居られず、覚悟を決めて本気モードのスイッチを入れるしかない。

当たり前の事だが、性行為は観るにしても犯るにしても、勿論、犯られるにしても下品な方が人間は興奮する。

まぁ元々上品な性行為など無いのだから、依り下品を追求しながら民子を犯る愉しみ方が正しいのかも知れない。

後で落ち着いて考えるに、このプレイは和也自身には自虐的であり民子には加虐的と両方の感性を震(ふる)わす、良質の遊びだった。


何時しか男達の顔からパーティアイマスクは外れていた。
民子の口は、途絶える事無く入れ替わって訪れる七本の男の欲棒を次々と受け入れて、硬くして差し上げる為に有る。

下世話に言う「オシャブリ」の連続で、硬く立派になれば入れ替わって、立派になった物が下の方に訪れて股間に潜り込み、民子の中で暴れる。

男達の欲棒やバイブ器具が、いきなり民子に無遠慮に入って来て、その全てが深く浅く出入りを始めると、民子は強烈な快感に襲われ、堪え切れずに、硬く太い物に塞がれた口の隙間から善がり声を上げて悶え始める。

羞恥心に、朱鷺(トキ)色に染まった民子の肌は、更に赤みを帯びて受ける陵辱に揺れている。

そして、その民子を追い立てる様に加虐的に、「民ちゃん、ハッスル、ハッスル」と、無情にも参加者の行為に、民子が進んで腰を使い、奮闘する事を要求される。

主催ホステスには、器具であれ欲棒であれ、受け腰を使って「ハッスル」の掛け声に応じ続ける義務が負わされている。
だから民子は、首も腰も使い続けて休まずに応じ続ける事を強いられる。

「けして逆らわない」と言う取り決めに加え、「ハッスル」も精神的な縛りであり、受け入れる方に被虐性を感じる。
どんな行為にでも、「進んで応じて見せろ。」と言う事である。

無茶な話しだが、狙いが究極の辱めだから、和也の「お見せする事を心がけろ。」の言い付けも飛ぶ。
この状態だから、何処をどう見せるのかは、ハッキリ言われなくても民子にも見当は付く。

絶えず見易さを考えて腰を使い、股間への出入りの様をお見せして参加者の目も楽しませなければならない。

つまり、拘束具も縄も使わないが、民子はルールにがんじがらめに縛られて、自分では身動きが出来ない性人形と化していた。

男達の生の欲棒が、入れ替わり立ち代り民子の花弁の中を訪れては欲望を吐き出して行くのを、「ハッスル」の掛け声に応じて深く浅くと受け腰で応戦しながら、民子は和也がピルを与えた訳を「あぁ此れだったのか。」と納得した。

大金を投じてのマンションの「内装工事」と言い、この陵辱劇は当初から民子に課せられるものとして周到に進められていたのだ。

その場に身を置いて初めて気が付いたが、広間のこの為に据え付けられた大鏡のステージに、大股開きで責め立てられる民子の生々しい痴態が、冷酷に映し出されていた。

晒し者(さらしもの)にされた民子の痴態が反対側も映し出され、見るものを楽しませる意図で鏡は設置されていた。

残酷な事に、自分が今どう言う姿で犯されているのかは、考えなくても目で確認出来る。
それで、信じられない自分の姿がスポットライトに映し出されて、肉体(からだ)に受ける刺激の理由を教えてくれる。

民子は、自分が現在何をしているのかさえ、何度も鏡で確かめないと判らないほど、一度に多人数に責められるハードな状態に置かれていたのだ。

民子は、次から次の果てし無い輪姦性交に応じて悶絶を示す壮絶な善がり声を繰り返しながらも、愛液に濡れ光る欲棒の生々しい抜き挿しに、クィクィと受け腰で応じる修羅場を見せている。

その抜き挿しが為される度に、結合部の肉花弁の隙間から押し出される白濁した愛液が、民子の太腿をユックリと伝って床に落ちて行く。

輪姦(まわし)の相手が替わって欲棒をスッポリと民子のこれ観よがしに開いた股の付け根に挿し込んだ当初、まずはユックリした生々しい抜き挿しから始まる。

こう言う状況だから、民子もユックリした抜き挿しで攻められて居る時は快感を得ようと硬さを緩(ゆる)め和らげた表情の良い顔して犯られている。

それにしても、女の性(サガ)なんてものは男には判らないもので、これから一戦交える相手には自然と優しい穏(おだ)やかな表情で迎え入れる特質が備わっているらしい。

信じ難(がた)い事だが、相手に身を委ねたあの穏(おだ)やかな良い顔はこれから起こるアクメ(絶頂)への期待の表情に違いない。

相手の交代時の度(たび)に垣間(かいま)見せるその女としての表情は、やがて激しく突き責められて歓喜に顔を壊すまで続く。

「おぅ和也、奥さん結構良い顔して犯られて居るじゃないか。」

友人の一人が民子の奮戦振りを見ながらニコニコして和也に声を掛けて来た。

「そうだね。驚きだが、この状況で内の奴は意外に良い顔して犯られているね。」

「珍しくは無い、普通の反応だよ。奥さんも、腹を決めれば後は清々愉しんで犯られる気持ちに成ったのだろう。」

「そうだね。遊びのSEXを苦痛に想ったら人生が詰まらないからな。」


兎に角、あらゆる体位が求められ、入りそうな所には、指だろうが欲棒だろうが器具だろうがお構いなしに民子の肉体(からだ)に攻め込んで来る。

凄いと言えば凄いが、育ちの良さが出るのか、これだけの卑猥な事をさせられても民子はまったく下品に見えない。

下品に見えないのは良い事だが、それが曲者で、尚更「民子を汚そう」と言う特殊な感情の思いを周りに与えて、参加者の加虐性を誘発させる。

民子のあの生々しく鮮烈な性交光景は、今でも鳥肌が立つほど色濃く目に浮かんで来る。

大きく開いて欲棒を咥え込んだ股座(またぐら)の隙間から、突き腰と受け腰の抜き挿しで白く濁した下半身の涎(よだれ)を太腿(ふともも)に垂れ流しながら、民子は奮戦を続けている。

腰使いも激しく愛液に濡れ光らせた陰茎を股座(またぐら)に見え隠れさせられながら、乳首が立った乳房を揺らして犯られている民子の痴態だった。

肉体(からだ)が強烈な性交の快楽に溺れて、民子は人前で性交を犯って居る事も忘れていた。
まさかこんな事を犯る自分など、以前は全く想像も着かない民子だった。

だが、現に今は善がり声を振り絞る口元から涎(よだれ)を垂れ流し、欲棒を咥え込んだ股間から愛液を滴(したた)らせている。

民子は、目の前で外聞を憚(はばか)るような端無(はしたな)い非日常のセックス・セッション(乱交)を大股開きで受け腰を使い、正直内心興奮しながら熟(こな)していた。

例え遊びの性交プレィでも、性交をする以上は「相手に快感を与えよう」とチ*ポをシャブり、渾身(こんしん)の受け腰使いで抜き挿しの努力をする。

それが、民子が佐々木和也の嫁候補として御試用期間に置かれた立場の、遊び相手に素っ裸で尽くすべき最低限の避けては通れない礼儀である。

言っては何だが、その疎(おろそ)かには犯らない民子の、笑って性奉仕する直向(ひたむき)な姿は神々(こうごう)しい程である。

奇妙な発想かも知れないが、輪姦プレィの場で求められた性行為を這い上がる為に真面目に一生懸命犯る事が果たして不真面目な事だろうか?

正直、民子にした所で犯ってる間は無我夢中だから、肉体(からだ)が素直に快感を求めるだけで、頭を空にすればけして嫌では無い想いである。

その男の突き腰に平然とガップリ組んで、赤裸々に生々しく見え隠れする愛液で濡れ光らせた陰茎を、民子は快調に受け腰で抜き挿しを快適に熟(こ)なしていた。

そして互いに通じる情が無くても、大人の男女の成熟した性器と性器が正常に抜き挿しされて海綿体が接触すれば、民子が得られるのは神の与えた「快感」である。

だからその結果として、民子が他人の欲棒を股座(またぐら)に咥(くわ)え込んだまま腰を浮かしてヒィヒィと「気持ち良がって」も、何人(なんびと)も非難は出来ない。

それにビジュアル(視覚的効果)としては、民子が犯られながら身悶(みもだ)えて、感じ捲くって居る生姿を魅せてこそ、本当の意味での相手が満足する遊びの性交プレィである。

タップリと弄(いじ)り放題に、大勢から愉しそうに責め上がられた民子だったが、その狂宴が終わってみると意外な事に嫌悪感は無く、達成感と疲労感、そして満足感が在った。


いずれにしても「宿命に負けまい」とトンガって居た民子にすれば、和也に仕掛けられた秘密の輪姦遊びはかなりのお仕置きだった。

この秘密の輪姦遊びが終わった当初、民子は「こんな事を犯るのは、もうこりごり」と言う気持ちが強かった。

所がそれはほんの二〜三日で、一週間もすると、あの連続性交の快感が脳の中によみがえってなっかしく、子宮がジンとし、民子は次に秘密の遊びの声が自分に掛かるのを密かに待つように成った。

一度輪姦(まわし)の修羅場を体験して、否定したくても出来ない期待が民子に膨らんで来て肉体(からだ)が疼(うず)いていた。

つまり民子の中で、理性と感性の大きな行き違いの葛藤(かっとう)が起きていたのだ。


輪姦(まわし)は、民子と多人数の成熟した性器と性器が抜き挿しされて海綿体が接触するのだから、流石(さすが)に犯られっ放しの民子の運動量は半端ではない。

それでもが渾身(こんしん)の受け腰使いで快感を迎えに行き、抜き挿しの努力をすれば、一人熟(こな)すのに二〜三分、永くて五分あれば相手はイクから、三十分あれば連続十人は快適に行ける。

インターバル(休憩時間)を五分ほど挟(はさ)んで通算五十分ほどあれば、壮絶には違いないが相手の重複トライを数えても累計で二十人は熟(こな)せる計算だ。

これを毎回徹底して繰り返させて持久力を身に着ければ、輪姦(まわし)何か民子にはもう何でもない。

それ処か、大変過激には違いないが過激故に所謂スポーツハィ状態に酔えば天国も見れるのがご褒美で、それを経験すると「また犯りたい」と病み付きになる。

男性が直ぐ終わる一対一の「夫婦の性交」と違い性交感覚の刺激が繰り返し続くのだから、民子にして見れば肉体的本音は「癖に成るほど良い」に決まっている。

だから民子には、和也に対する精神的な憎しみとマルチSEX(複数性交)プレィやマルチタスクSEX(同時実行性交)に対する肉体的満足感と言う相反する想いが残った。


「良し、ここらで一服して女性軍にバトンタッチだ。お待たせ、お待たせ。楽しんでね。」
一当たり済んだのか、漸く男達が民子の身体を放した。

民子は、長々と寝そべり呼吸を整えていた。
凄い運動量で、何か他の事を考える余裕は無く、「早く終わってくれ」が偽らない心境だった。

男達が一息入れる為に見学に廻ると、女達が、まな板の鯉状態の民子の裸身ににじり寄った。
「あぁ、この女性(ひと)達に弄(なぶ)られる・・・」
民子の気分的には女達に辱められるのは、男相手より更に辛い。

だが、この連中相手にそんな事訴えてもどうにも成らない。
「これは何に使うの?」
一人の女が、黒いアナルプラグを持ち上げて、隣の女に聞いた。

「知らないの?それなら、民チャンにさせて見ましょうよ。」

女の一人が、面白がって「これはこう使うの、民チャンお尻を持ち上げてね。」と、民子のお尻にアナルプラグを「グィ」と押し込んだ。

命じられたままに尻を上げ、「グィ」と何か押し込まれて、「アッ・・・」と声を漏らし、同時にアナルに異様な感覚が訪れたが、生け贄の民子には抵抗も出来ない。

その上で民子の花芯には、もう一人の女が持つローターが小さな突起を狙い澄まして「ビィ〜ン」と振るえながらまさぐっている。

当然の反応だが、民子の腰が浮き上がり、反り返りながら腰を振って感じている事は隠せない。

人間の感覚なんて騙され易いもので、民子はアナルプラグを入れられたまま、ローターの刺激で膝がガクガクさせながら善がり声を挙げている。

一斉に、「ハッスル、ハッスル」の声が湧き起こり、民子の腰振りを囃子(はやし)立てる。
民子は受け腰を使って「ハッスル」の掛け声に応えなければならない。
「ね?こうされた民チャンを見るの、面白いでしょう?」

「えぇ、他にも沢山玩具があるし、楽しみね。」
民子の反応には女達も興味深々で、他人の事だから徹底して冷酷に、「あぁもしよう、こうもしてみたい」と、容赦など最初からない。

「これは?」
「これ、ディルドと言うのよ、さっきのお尻に入れた奴を抜いてみて。」

抜いたアナルプラグの代わりに、躊躇いもなくディルドが「グィ」と民子に差し込まれる。
「アアァ・・・」
「さぁ民チャン、今お尻に入ってるのはピンクの太いディルドですよ」

女の一人が、民子に囁きながらそのディルドを抜き挿しを始めた。
ピンクのディルドは太いので、用意した時から民子にも印象が深かった。

そのディルドが民子のお尻に奥まで入って、抜き挿しされている。
「あんな太いのでこんなにされている・・・」
しかもだんだん速く、かなりの速さでピストン運動しているが全然痛くない。

花芯のローター責めは、その事などお構いなしに続いて居る。
こんなに気持ち良い事が有って良いのだろうかって思うくらい、下半身がとろけるように気持ち良い。

「ダメだぁ...この快感には耐えられない...。」
そのうち、前の方にも振動する太いバイブが挿し込まれて、抜き挿しを開始した。

「アァ・・」
民子が感じているのは隠せない。

そんな民子に、「懸命に皆の期待に応えろ」と、ハッスルの情け容赦無い掛け声が追い打ちを掛け、民子に腰を使っての応戦を強いる。

「それ、民チャン、ハッスル、ハッスル」


この参加者達、民子に命令する時も、手を出す時も全て優しい笑顔で柔らかく「こうして、ああして」と言い付ける。
けしてきつい顔や、きつい言葉使いはしない。
それでいて、笑顔と柔らかな言い回しでとても凄い事をさせる。

民子は、その凄い要求を、あくまでも和やかに受け入れる。
とても家族には見せられない痴態を、民子は命ぜられるままにこなしているのだ。
こんな姉姿を、妹や弟が見たら、何と言うだろう。そう思っても、それは仕方の無い事だった。

異様な盛り上がりを見せる雰囲気の中、参加者全員が面白がってこの時とばかり無遠慮に、代わる代わる責め立てるから、民子の体を出入りする物が器具でも生身の欲棒でも、絶える事なく襲い掛かる。

民子は抗う事は許されず、憂いに満ちた表情を浮かべながら、それに「ハッスル」で答える。

それが役目だから、民子の花弁を掻き分けて、生の男の欲棒やバイブ器具が深く浅く出入りする様は、民子も意識してM字に大股を開き、お見せしながら受け腰で応戦し、参加者の目も楽しませなければならない。

「恥ずかしい」などと言う、個人の感情などに構っている余裕は与えられては居無い。

「出入りしている部分が見えない。」とエゲツナイ苦情が出れば、膝を左右に目いっぱい広げて、「此れで見えますか?」と聞きながら受腰を続ける。

大勢の参加者に、民子の股間に相手を選ぶ事なく多数の欲棒が深く浅くと、出入りする様を見て頂いているのだ。

パワーのある連中が相手で、その性的刺激は凄まじく、絶える事の無い民子の善がり声が慎みも無しに大きく部屋中に響き渡った。

この唐突に訪れた信じられない性行為の無理強(むりじ)いに、当初民子は心中反発した。
しかし考えてみれば、この運命は和也に見初められた時から決まっていた。

けして和也に愛を感じた訳ではないから、和也に肉体(からだ)を許した時から、どう申し訳しても、さして愛の無い性交の相手が和也一人から多数になっただけで、貞操を裏切った事に精神的代わりは無い。

そして、それに成し崩し的に妥協を続けて、民子は今、この浅ましい姿を人前に晒している。

一方、佐々木和也にしてみれば、九条民子は、和也の憧れの的だった。
しかし彼は、民子を百パーセント自分の物にしなければ安心できない。

彼の精神的欲求から彼女に百パーセントの服従が必要だった。
金にものを言わせた経緯から、民子の心が推し量れなかったからだ。

気取って自分大事に何も犯らない女性より、這い上がる為には「あほな遊び」をさわやかに犯れる女性の方が男性に取っては遥かに魅力的で、これは妥協では無く工夫である。

民子の立場では、例え素っ裸で他人前に曳き出されても、集まる視線に平然と気品在る好い女を要求される。

そして民子は、生贄(いけにえ)として官能的に淫(みだ)らに、遊びの性交で腰が抜けるほど犯られ尽くさなければ成らない。


輪姦(まわし)が始まってしまえば、泣こうが喚(わめ)こうが参加者全員を満足させるまでは民子の肉体(からだ)を離す事は無い。

正直、民子にとっては感情込めた性交では無いから、次々と襲って来る男達は生身の大人の玩具(おとなのおもちゃ)みたいなもので、互いに愛だ恋だの感情の発露などは無い。

民子の気分も、こうなると大きなスポーツ試合に奮闘しているアスリート気分で、性交も一種の勝負である。

まだ連続性交へ若干の抵抗心が残る輪姦プレィの出だしはともかく、犯り出して感じ始めて来れば女性の性体感は現金なものである。

民子も、次々と入れ替わる男達の欲棒を咥(くわ)え込んだ腰を浮かせ、口をパクつかせて善がり声を挙げ、涎(よだれ)を垂(た)らしながらリズム良く尻を振る。

その振られる尻の股間で抜き挿しされる肉花弁と欲棒の隙間から、もう何人分かの溜まった愛液が、押し出されて民子の白い太腿(ふともも)を伝い滴(したた)って床に落ちている。


例えラレックス製の大人の玩具(おもちゃ)でも、見ず知らずの他人の欲棒でも、抜き挿しされれば肉体(からだ)は感じるように出来ている。

だから無理もないのだが、民子は執拗(しつよう)に輪姦(まわ)されてイキ続けさせられ、息も絶え絶えに疲れて他人(ひと)の目を憚(はばか)る余裕も無く大股開きで伸びてしまった。

仕上げに参加者の一人が、散々に民子を突き倒した欲棒のカリ首頭で、欲棒のカリ首頭でイッタ後の敏感に成って居る民子の実(サネ/花芯ボタン)をヌラヌラと擦(こす)る。

すると民子は、耐えられない表情で断末魔の善がり声を漏らし、腰を振りながらガクンガクンと身震いする。

これが息つく暇(ひま)無くイカされ過ぎて荒い息をし、呼吸を整えている民子への輪姦プレィの堪(たま)らない「とどめ」になる。

肉体(からだ)は正直な物で、この民子の隠せない充分にイッている「とどめの性反応」が、犯る者観る者のこの場の醍醐味なのだ。


まったく和也は不届き者だったが、笑わせてくれる事に男の性(さが)なんて見っとも無い程正直で単純である。

和也は愛妻が犯られて愛液塗(まみ)れ汗塗(まみ)れで受け腰を使いながら善がり、身悶えているのを観て興奮が隠せず想わず自分の欲棒を硬し、スラックスにテントを張った。

それを「あらお元気だわ」と仲間内の女性(島美紀)に笑いながら見咎められた。

「いや〜面目ない。」
「良いのですよ。だいたい殿方の反応は同じですから。」
「それなら安心だが、この親不孝息子(欲棒)の始末が困った。」

見咎めた仲間内の女性(島美紀)に、「アラアラ、どうしようも無い親不孝息子ね。今、お口で良い子良い子してあげますからね」と応じられた。

仲間内の女性(島美紀)に、スラックスのファスナーを開けられ、欲棒をつまみ出されてパクリと咥えられ、ウゴウゴと気持ち良くシャブられる始末だった。

基本的な性別特性として、女性は「触覚」で感じ男性は「視覚」で感じるから、この愛妻が輪姦(まわ)されのを観ながらシャブらせる状況は極上のプレィの一つである。

この場面で仲間内の女性(島美紀)がこう言うおシャブり行動に出るのは、プレィ経験豊富で男性の性(さが)を心得ているからである。


勿論、犯られて居る民子には、当面の相手を早くイカせるのが先決で、それを夫の和也が見ている何んて事を考える余裕など無い。

正直愛妻が必死だからこそ、他人男(ひと)が犯る愛妻への陵辱を観ながら他人妻(ひとづま)にシャブらせる快感に浸(ひた)るのは、癖に成る様な贅沢な遊びである。

この非日常が舞台の「奔放な性交遊び」が夫婦合意の上であれば、夫婦間のマンネリを埋めて余りある知恵の結晶かも知れない。

民子にしてみれば輪姦(まわし)は想像以上にキツかったが、途中まで犯った挙句にノンバメてゲームオーバーにでもなれば、民子の奇妙なプライドが赦せない。

しかしそれでも、輪姦(まわし)の究極の快感を一度も味遭わない女性の人生など、勿体無(もったいな)い人生かも知れない魅力が、この遊びに在りそうだった。


民子にしてみれば、夫・和也の前であれだけマルチSEX(複数性交)の快感に痺(しび)れ、欲棒を咥(くわえ)た腰を浮かせて振ってしまえば、今更格好を付けて「その性交遊びが嫌だった」とは言い難い。

むしろ、思わず向かえ腰クィクィで応じて快感を貪(むさぼ)ったそのマルチSEX(複数性交)は、正直な所「凄く気持ちが良かった」としか民子には言い様がなかった。

しかも大勢の他人が、その快感を貪欲(どんよく)に貪(むさぼ)る民子の、欲棒を咥(くわ)え込んだ生々しい腰使いの様子を目撃しているから、そのメンバーにも今更格好は付けられない。

この輪姦(まわし)で良い様に弄(もてあそ)ばれ、嬲(なぶ)られてメチャメチャに犯られるのを体験すると、その快感に溺れない方が不思議なくらいの威力がある。

その快感体験で民子が、今までとは違う考え方を遊びの性交に対してしても、それは自然な反応かも知れない。

元々このお愉しみのメインイベントを仕掛けたのは夫の和也で、民子も半ばそれ(輪姦)を承諾(しょうだく)した様なものである。

そうなると、どんなに卑猥(ひわい)な姿で性交に応じようが、夫の和也に嫉妬される謂(いわ)れも無い。

夫に嫉妬される謂(いわ)れが無いのなら、妻にとっては非日常の世界でストレスの発散が出来る「好適環境を手に入れた」と言う事である。

性交のシエアリング(共同所有)と言う新たな価値を得られるのだから、それに折り合いを着ける事が出来ない人間は不幸である。

生き方は無数に在り、利口な人間なら「何事も、気持ちを切り替えれば答えも変わる」と言うものなのだ。

民子の愛液に濡れる二枚の肉花弁の間で、善がり声とリズム良い腰の動きと伴に濡れ光る陰茎が、民子の内壁・海綿体の粘膜を刺激的に擦(こす)りながら見え隠れしている。

始まってしまえば民子も生身の女性で、股間を貫いた欲棒が生々しく抜き挿しされれば、相手の如何(いかん)に囚われず終わらない快感がある。

後ろに順番待ちの行列が出来ている女の修羅場だから、民子が相手をノタノタ愉しまして犯っていてはどれだけ時間が掛かるか判らない。

何しろ民子一人に相手は大勢の輪姦(まわし)だから、数を熟(こな)すに時間を喰っては体力を失う。

歯を食い縛ってでも、他人目(ひとめ)も憚(はばか)らず腰をグィグィ使って早く相手をイカし、数を熟(こな)さ無ければ終わらない側面も在るのだ。

だから、次々と入れ替わる相手に貫かれて受け腰を使い、女性の素(す)も露(あらわ)に性交快感を味わい、貪欲(どんよく)にイキ続けて見せるしかない。


一つ目小僧・坊主頭のカリ首が無遠慮に民子の確信部分にズブリとご厄介になり、愛液に濡れ光る陰茎が二枚の肉花弁も押し広げて巻き込み、見え隠れしていた。

観せる事を命じられ、意識して抽入部分をタップリ披露する究極の羞恥心(しゅうちしん)が、民子の貞操観念を根底から覆(くつがえ)している。

民子は、強(し)いられて他人前(ひとまえ)で公開性交を披露するその被虐感と集まる視線にも、此処まで追い込まれてしまえば、もう「惨(みじ)め」何て言っては居られない。

現に民子は、脳みそがトロケそうな刺激を感じながら善がり声を絞(しぼ)り出し、抜き挿しに涙に涎(よだれ)に玉の汗、受け腰で激しく応戦して居る。

民子を犯る男達が盛上がってしまえば、シナリオ(脚本)の無い無遠慮な輪姦遊びが続々と続いて、民子を散々に善がらせながら想い想いに陵辱して行く。

何しろ衆人環視の中、素っ裸の民子が他人の男達に何度も替わりながら切れ目無くシャブらされ嬲(なぶ)られ犯かされ、忘我(ぼうが)を彷徨(さまよ)い続けている。

相手が替わる度に、その男が坊主頭のカリ首を二枚の肉花弁のスリットへ縦に二〜三度擦(こす)って馴染ませ、抽入位置を合わせる。

その位置を合わせたスリットにカリ首を宛がい、腰を入れてグィと押し込み、中に収まったらクィクィと抜き挿しを始める。

民子は抜き挿しされる欲棒の擦(こす)れに腰を浮かし、他人目(ひとめ)も憚(はばか)らず欲棒を咥え込んだ腰を、生々しく卑猥(ひわい)に振って善がっている。

性感極まった顔が左右に振られ、乳房が不規則に揺れ、股元に欲棒を咥え込んだ卑猥な腰が多人数相手に譲らない凄(すご)さでリズム良く踊っている。

頭の中が姦淫ムードいっぱいの中、非日常の卑猥な空間に在って、快感に人妻としての抵抗感を失うほど、民子は「歯止めが利かない極上の性感」を貪(むさぼ)っているに違いない。

確かにこの連中はこう言う依頼調教遊びに慣れて居て、見るからに素材(女性)を上手く調理する無遠慮に長けて居た。

この奔放な性交遊びを民子に仕掛けたのは私(和也)だから、民子が股元に欲棒を咥え込んで善がりながら腰をクィクィ使っても文句は言えない。

まるでポルノ映像を観ているように客観的に、次から次と切れ目無く民子の股元の柔らかそうな肉花弁の間に、愛液に濡れ光ながら男達の欲棒が生々しく抜き挿しされて、ボンヤリと卑猥(ひわい)だった。

その目の前で他人男(ひとの)欲棒を咥え込んだ腰を振って散々に善がっている民子の光景は、私(和也)の嫉妬交じりの刺激的な感情を揺さぶるもので、心地良い気分を煽(あお)り新鮮だった。

それにしても大袈裟に言えば、人間と言う生き物の愚かさか、その欲望には際限が無い。

私(和也)は目の前で愛妻が男達に輪姦(まわ)され犯されるのを観て、けしてそれが不機嫌では無い他人事めいた微妙な感情に襲われていた。

男達の民子への陵辱光景は加虐心を満足させ、民子が嬲(なぶ)られ犯かされと意識すれば被虐心をも満足させる複雑な心境である。

つまり「妻が輪姦(まわ)されている」と言う非日常の設定の陵辱光景を、特別な珍しい見物(みもの)と愉しんで居る私(和也)がそこに居たのだ。


冷静に考えて見れば、「恋の感情」など儚(はか)く消える虚(きょ)の迷いであり、愛情は永く一緒に生活し時間を掛けて湧いて来る本物の感情である。

つまり「恋の内の感情」を「愛」と間違えるから後々「こんな筈じゃ無かった」と離婚する者が後を絶たない。

そう言う経緯が在るならば、大概の男女の性交は「恋の内の感情」で肉体(からだ)を許していて、いわば「相手への情」は泡沫(うたかた)の儚(はか)ない確信である。

つまり恋の時点では、事実上行きずりの性交に過ぎないから、馬鹿正直に、「品行方正・清廉潔白」と言う世間体(せけんてい)を信じて居る方が、お人好しかも知れない。

それなら、元々愛情が性交の条件など現実には成り立たず、只の自己満足に過ぎない事に民子は気が付いた。

元々人間の本性は好き者だから、こうした遊びの実行は表面化しないだけで影では結構そこかしこで行われているのかも知れない。

それが表面に出ないだけで、どんなに貞淑な女性でも正直言えばメチャメチャに犯され弄(もてあそ)ばれたい衝動本能を片隅に秘めている。

だから客観的に心の深層を知ってしまえば、上面(うわっつら)では無い真実が心に刻(きざ)まれて行く。

例え民子が仲間内で秘すべき遊びを犯ったとしても、世間体(せけんてい)を恐れているだけだから、関係者の口が固ければ心配するほどの事ではない。

そして民子が、衆人環視の場で他人の欲棒を幾本シャブろうと、幾人と性交しようが、そこで「何が起きているか」など、世間の知る由も無い秘められた謎でしか無い。

つまり隔絶された場所に在っては、民子が腹を括(くく)れば済む事で、そこで何か在ったとも何も無かったとも世間はどうせ知る由も無い。


時間が経過して来ると、民子の肉体(からだ)の全ては揉(も)み解(ほぐ)れて、信じられない事だが無我夢中の内に、何時の間にか前と後ろと口、三本の男の欲棒を深く浅く受け入れる「三穴同時攻め」と言う荒業をしていた。

民子の気性が優しく、元々面と向かって逆らえないから、されるままに奇妙な体勢に持ち込まれ、三ヵ所から強烈な刺激があり、自分がどうなって居るのか鏡で確かめたら既にそうなっていた。

股間に一本、口に一本、そしてア*ルにまで三本目の肉杭(にくくい)が射(う)ち込まれていて身動きが取れないまま、三連動の抜き挿しに、民子は耐えねばならない。

自分でも驚いた事に、勢いとはすごい物で普段は「到底、自分には出来ない」と思われた事を、今民子は、「ハッスル」と全身でリズムに乗って深く浅く受け入れている。

肉体(からだ)に感じる性感もすごいが、「今三人一度に・・」と思うと、これは精神的にもすごい刺激で、堪らない。
民子のアドレナリン(興奮ホルモン)噴出は、最高潮に達していた。

元々心と肉体(からだ)は別物で、望まずとも刺激があれば肉体(からだ)の方は正直に感じる。

増してや、三箇所が一度に塞がって、それぞれの欲棒が深く浅く出入りを繰り返し、同時に民子を御使用頂くと、もう頭の中は刺激が突き抜けて無条件で肉体(からだ)が行為に応じているだけだ。

思考としてのわだかまりは無くなっていた。

この情景は、正に民子が「作り物のアダルト映像の世界でしかない。」と固く信じていた事その物で、それを自らが為しているなど、此処に到っても信じられない現実だった。

それでも「ハッスル」の要求は続き、けして受身は許されない。

幾ら感じても、主催ホステスはそれをゆっくり楽しむ事を許される事はない。
終わるまでは、民子の肉体は参加者の物で、何が有ってもそれが優先される。


終盤にさしかかると、流石(さすが)の民子も息切れして「ムフムフ」と小さく善がるばかりに反応が小さく、受け腰の動きも少なくなる。

まぁ、これだけの人数を相手に続けて性交すれば民子が体力を消耗しても仕方が無いが、それでも順番待ちして居た連中は順番が廻って来れば息切れした民子を容赦無く攻め立てている。

このパーティで陵辱の海を漂う「主催ホステス・民子」は、果てしない輪姦三昧の快感に溺れて、何度も気が遠くなった。
何度も失神や失禁をするが、そんな事はお構いなしに次が始まる。

極限の肉体の快楽に民子の意識は崩壊し、思考は停止する。
人間此処まで追い込まれると、もう無我夢中で余分な事など考えられない。
目の前の連続する現実を、ノルマとして「早く終わって」と、無心でこなして行くしかない。

主催ホステスに「過酷な事をさせている」と言う自覚が参加者達に有るのだが、そこは用意周到で、驚いた事にこのお披露目パーティには携帯の酸素吸入器まで用意してある。

多人数を相手に激しい運動量を要求され、酸欠の症状に襲われてダウンする主催ホステスの事例も在る。
そうした経験から積み重ねた対策も抜かりなく施されていて、「安心して遊べる」と言う訳だ。

恐ろしいほどドライで冷酷なのは、彼らの人を人とも思わない威張り散らした生活に、起因しているのかも知れない。


現実には、「愛情」が在ろうが無かろうが性交をすれば自然に快感を得るように肉体(からだ)は出来ている。

その快感を錯覚して、無理やり「愛情」に結び着けようとするから破局するようなカップルが後を絶た無い。

まぁ性交の条件を「愛情」と考えている稚拙な発想の裏返しで、現実の性交条件はもっとシビアで生々しいものである。


困った事に、女性が本来持ち合わせている露出願望から欲棒を抜き挿しされる恥部を晒(さら)す事に九条民子はエロスのトキメキを感じてしまう。

性交行為を他人目(ひとめ)に晒(さら)す事にエロスのトキメキを感じて、民子は燃え上がる羞恥心に脳みそが溶けてしまう。

心の鍵を夫・佐々木和也に合わせこの非日常の世界に合鍵を渡せば、民子はアドレナニンが脳内で決壊したような極上の官能の世界に入れるのだ。

日頃は在りつけない大勢の男達に輪姦されると言う卑猥な条件設定の羞恥心に、民子のアドレナニンが脳内で決壊した。

それで民子本人も驚くほど性感度は抜群で、正直次の誘いを断れないほど肉体(からだ)がこの遊びの味を占めたのだった。


いつしかショパンのピアノ夜想曲は、民子に肉体的反応を齎すものになっていた。

民子への陵辱は、そのクラシックのピアノ曲が流れる中、二時間に及び、誰かが民子に何かを要求し、何かの行為を課せる都度、取り巻く参加者からは、情け容赦の無い「ハッスル」の歓声が沸いて妥協を許さない。

それが流石セレブパーティだけあって、飲み食いに笑い声を交えた和気藹々(わきあいあい)の和やかな雰囲気の中で、民子への陵辱は入れ替わり立ち代り続いたのだ。

こうも赤裸様(あからさま)に周囲の合意の下で同性を甚振(いたぶ)れるとなると、「そんな事可愛そう」は口先ばかりにメラメラと加虐心が湧いて来て、卑猥(ひわい)な事を面白がって強いる女性の本心が露(あらわ)に噴出する。

そりゃあ誰だって多様性が在る人間だから、正直に言えば本能に虐(いじ)め心は存在する。

生ライブ(生実況風景)のセクハラで卑猥(ひわい)な事を逆らえない同性に強いるのは気分が良いし、それを犯られる同性の羞恥反応を真近に観るのも愉しみなものだ。

しかし民子は、何処か「ハッスル」と囃子立てる彼らのその態度に気取りがあるのが、返ってその本質に冷酷さが秘めているのである。

悲しい事に、一度は覚悟を決め和也の要求を了承した以上、この場は避けられない。

人間の心理とは不思議な物で、たとえ理不尽な辱めを受けていても、出来上がっているその場の雰囲気を、勝手に壊すには勇気が居る。

その場に身を置いた以上、九条民子は気丈に振る舞い、耐えて陵辱を受け入れ、パーティを和やかに進める以外に選択肢は無かった。


いずれにしても、これは「夫公認の性交遊び」と言う避けられない事態に九条民子は巻き込まれた。

こう成った以上は夫の面子(めんつ)や自分の意地も在り、夫の眼前でどうせ犯られるなら他人に「下手(へた)な女とか詰まらない女」とかは言われたくない。

つまり自分の値打ちを評される場面だから民子は、女の意地を賭けて形振(なりふ)り構わず大胆に、おシャブリも腰使いも上手(うま)く犯ろうとする。

こんな事は、別に「世間に公表すべき」とは想わないだけで、何を犯っても「夫婦が遊び」と認め合えば良い事と民子は思考を整理する。

腹を括(くく)ってしまうと奇妙な心理が働くものだが、輪姦(まわし)と言う現実に直面すると、「無理も無い事」かも知れない。

男達が群がって来て、無遠慮に乳房を掴(つか)む者、股間に手を入れ指先を肉体(からだ)の中まで挿し込む者、尻の穴に指を挿し込む者、もう数人が一度に民子の裸身に取り付いて犯りたい放題である。

その一度に多人数に攻められると言う激しい刺激に、不快だろうがチョッピリ快感だろうが、民子は無抵抗で耐えるしかない。

その先は、民子に欲棒を咥えさせる者、性交に及ぶ者、ア*ル性交に及ぶ者が次々に現れるが、相変わらず周囲に群がる男達の手も民子の裸身を同時進行で無遠慮に襲っている。

これも今後親しくお付き合いする為の「ご挨拶代わり」と言う事で、民子が承知したのだから何を犯らされても仕方が無い。

入れ替わり立ち代り、相手が嫌応無しの連続性交を挑んで来るのを、形振(なりふ)り構わず必死で応じる民子の眩(まばゆ)い裸身は流石(さすが)に加熱している。

この輪姦陵辱舞台に登ったら、次々に襲って来る相手におシャブリも腰使いも上手く犯って、次々にイカ(絶頂)さなければ行為が何時(いつ)までも終わらないから観応えが在る。

激しい運動量で無理も無い事だが、触るとペトッと吸い付くほど肌から玉の汗が噴出し口をパクつかせて善がりながら、裸身を濡れ光らせて奔放に腰を使って抜き挿しに応じて居る。


信じられないかも知れないが、上手く出来ているもので、その場がそう言う和やかな雰囲気で流れていると、安っぽい羞恥心など突き抜けて場違いに思え余分な思考は止って、「懸命に期待に応え様」と言う気に成る。

だから民子は、股間から愛液をしたたり落としながら、参加者のいかなる行為にも「ハッスル」で応じた。


輪姦(まわし)にしろSMプレィにしろ、「とんでもない事」と想っているのは未経験だからで、一度経験するとその快感体験から味を占める女性は案外多い。

イク状況に昇り詰めたままの性交が続けば、民子にSEXハイ状態が続いて脳内麻薬ベーターエンドロフィンが脳内に発生され、一種の超快感状態に成る。

現に民子は連続する性交で、カリ首のエラの海綿体が感度良く内壁を擦(こす)る抜き挿し攻撃に、脳みそがトロケ出して居た。

肉体の中心を貫かれたまま、民子の股間に生々しく抜き挿しされるリズム良く激しい欲棒のピストン運動に、民子は快感に顔を歪ませながら左右に嫌々をしている。

その民子の反応にも構わず入れ替わり攻め立てる淫茎は、抜き状態では濡れ光り見え挿し状態では根元近くまで中に達しているのが見て取れる。

過酷な状況に在って、民子も既に限界は過ぎて居るかも知れないが、此処はもぅ意地と根性で頑張り、歯を食い縛って快感に耐えながら受け腰応戦をしている。

理屈では「そんな恥ずかしい事を・・良く犯るよ」と想うかも知れないが、現場の空気を感じれば一方的にそれを壊す度胸は民子には無い。

行き着く所まで行ってしまえば、民子はもぅ犯ってしまったのだから和也にそれを改めて否定する材料は無い。

そして避けられない性交遊びであれば、全員を満足させる到達点に到るまでは民子は愉しみながら犯って見せるしかない。


性に関して女性には本音と建前に微妙なズレが在り、信じられそうも無い夢物語の建前が、「愛が無い相手と性交は出来ない。」である。


注意深いだけで、女性だって秘めたる性欲や好奇心は旺盛にある。

世の人々は性交などには興味が無い様に装っているが、まともな性癖の男女なら性交を愉しもうと言う本能が在って当たり前である。

そしてその性交には心地良い気分の姦淫ムードを愉しむだけの関係も新鮮で在り、必ずしも性交に「愛情」が拘(かか)わる訳ではない。

民子は、日常の空(むな)しさ埋める様に行為に集中すれば、この瞬間だけは意外と頭が空(から)に成り「無(忘我)の境地」に入れる事に気が付いた。

結局民子は、自分を納得させる理由が在って安心安全の環境が許せば、本音はこう言う事も「犯って見たかった行為」なのかも知れない。

互いを縛り付ける「愛情」などと言う一人善がりの感情の苦悩を捨て去りさえすれば、人はもっと自由に性交を謳歌(おうか)できる。

大袈裟に言えば、人間の欲望には際限が無く、それを安全に満たしてくれる性欲装置があれば「奔放な性交遊びも悪くは無い」と想えるものだ。

だから表向きは性交など興味が無い様に装っていても、秘したる本音ではカップルなり夫婦なりであらゆるパタ−ン(構成)の性交を大いに愉しんで居ても不思議は無い。

そのストレス解消の為の奔放な性交遊びの性欲装置が、お愉しみの為なら何でも在りの「マンションの自室」だった。


雄(男性)の本能が子種を撒き散らす事に在る以上、雌(女性)の本能に優秀な子種を求める衝動が在る以上、所謂(いわゆる)性衝動を建前だけで制御するのはむずかしい。

しかし、勿論男女の仲はデンジャラス(危険)で、未婚・既婚を選ばず買い食い(売春)にも拾い食い(浮気)にもリスクがある。

それを踏まえて和也が想うに、人生・・・劇的に中身が濃い方が良い。

性交だって、人生の最も良い一時期しか愉しめないのだから、中身が濃い性交遊びを夫婦揃って遊ぶ方が良いに決まっている。

泡を吹くほどの「濃い性交感」を得るには、こうした浮気とは呼べないマルチSEX(複数性交)やマルチタスクSEX(同時実行性交)、コレクティブセックスプレィ(集団乱交)が理想的である。

結論を出すには想像より経験が必要で、この濃厚なマルチSEX(複数性交)を何度か熟(こ)なすと、民子の女体も馴れて来て適度に感度の良い成熟を見せる。

それに女性のヒステリーには性感マッサージ治療や性感バイブレーター治療が有効で、実際に医療行為として医師に施術されている。

つまり女性のストレスの解消の良処置は「性的な刺激」と言う事になり、男性のストレスの解消も同様の「性的な刺激」と言う事になる。

どうせ性交の動機付けに、金だったり地位だったりと、とにかく世の中打算が働く場合も多いのだから、要は民子本人が必要と判断すれば良いだけの事である。

それならば、わざわざ医療行為として施術されなくても、ストレス解消の問題解決の為に夫婦合意で中身が濃い遊びを犯れば良い。

しかし今、民子は他人前(ひとまえ)で素っ裸の裸身を躍動させながら、相手構わずの性交に欲棒を咥(くわ)えたままの腰を振って善がり声を挙げながら興じている。

民子が、どの時点で「夫(和也)の遊びに付き合おう」と腹を括(くく)ったのかは判らない。

まぁ貞操観念から言えば多少の抵抗感は在ったかも知れないが、それでも実家の窮状を救う為に、乗りかかった船に民子には今更尻尾(シッポ)を巻いて降りられない意地がある。

言わば和也が想うほど、「民子の懐(ふところ)は浅くないし、腹も据(す)わっている」と言う事だ。



彼らは散々民子を晒し者に陵辱し、主催ホステスの役目を充分果させた後、その興奮の中で次のお約束、各自入り乱れての乱交に入って行った。

大麻と酒の勢いで散々にさせた民子の痴態に、各自興が乗って参加者達が興奮して、途中から思い思いに乱交に成って行ったのだ。
この時気が付いたが、参加女性は全員正装の下に下着は着けていなかった。
つまり参加女性は、パーティ開催中、男性の要求を拒否出来ないルールで、選り好み無くお相手フリーなのだ。

阿鼻叫喚の乱交が続き、二時間もすると、漸く民子は輪姦の陵辱から徐々に解放され始めた。

同じ相手のリピート(繰り返し/再性交)も在ったから、民子はいったい何本の欲棒に肉体(からだ)の中心を貫抜かれ、犯られ責められた事か。

二時間に渡る壮絶な続け様(さま)の輪姦(まわし)の激戦の官能の時間が過ぎた後は、心地良い疲労感と伴に民子の股間にはまだ何か突き刺さっているような感覚が残っていた。


不思議な事に、この入り乱れての乱交に拠って、民子の生け贄にされてズタズタだった自尊心が、少しづつ回復して行く。

「この人達、皆こんな事をして居る人種で、私だけが惨めな思いをした訳ではない。」
自分ひとりが辱められる訳ではない。

この連中は、目の前で獣のように快楽を貪り、恥ずかし気もなく善がり声を挙げている。
そう思うと、民子はいくらか気が楽に成った。

素裸に剥(む)かれて、寄って集(たか)って嬲(なぶ)られ、輪姦(まわ)し犯されるなど、民子に取れば過酷で謂(いわ)れ無き辱めだったが、その辱めを施(ほどこ)す方には立派な謂(いわ)れはある。

このお相手フリー、実はただ「大勢と愉しもう」と言う単純なものではなく、各自が特定の相手に情を移す事の無い様に、あくまでも遊びの時間だけの「肉体(からだ)のみの付き合い」である。

だから偏る事なく、毎回不特定多数の相手と性交を熟(こ)なすのが望ましく、参加者全員がそれ故安心なのだ。

その為には、乱交が最適で、参加女性は「誰でもウエルカム」で、下着を着けていないのである。
特定の相手を指名したり、かならず見える所での交合が義務であり、別室で一対一の性交などはご法度である。

だから男性の欲棒を迎え入れる事が出来る場所は、全てその目的の為に供される。
それが参加ルールであり、以後民子もそれに従う事になる。

しかしこのルールも面白い物で、庶民が考えれば女性不利なルールに見えるが、実はその場に身を置けば女性が相手を選べない不満よりもねじれ現象的に「誰からも求められない方が」、余程痛くその女性の自尊心は傷付けられる。

つまり多くの男性に求められ抱かれた方が、彼女達のプライドを満足させる。
自分の女としての魅力の証明なのだ。
プライドとは大方そんな物で、背景が変われば「誰か早く私の所へ来て。」となる。


コレクティブセックスプレィ(集団乱交)が始まってしまえば嫌でも民子の肉体(からだ)が反応して思考が停止し、もう周囲の視線を気にするどころでは無い。

他人事で聞けば「そんな酷い事、何で断らないのか?」と訝(いぶか)るかも知れない。

だが、大勢のギャラリーの中に素っ裸で連れ出された当事者の身に成ってしまうと話しは別で、周囲の誰もがそれを赦さないと判っては、民子も中々「嫌」とは言い出せない。

それは成り行きで上がってしまった「嫌も応もない引っ込みが着かない舞台の上」も同然で、民子も「犯りたく無い」とは言えない状況だった。

こう言う状況に成ればジタバタしても見苦しいだけで、もう吹っ切れてギャラリーの期待を裏切れない心境に民子が成っても自然の流れである。

此処での公開性交は、ギャラリーに結合部分を見せて姦淫ムードをるのが煽(あお)ルールだから、輪姦(まわ)される間は民子は大股開きで脚は閉じない。

股間を貫(つらぬ)かれた欲棒のカリ首が、堪(たま)らない程に激しく抜き挿しされて、思わず快感を貪(むさぼ)る民子の無意識な腰の動きが艶(なまめ)かしい。

カリ首が民子の下半身の内壁を擦(こす)り、快感に顔が強張(こわば)る汗に濡れた民子のその表情が眩(まぶ)しい。

「民子、腰を使いながら皆さんに聞こえるようにオマ*コ気持ち良いと言って見ろ。」

「はぃ、アァ〜オマ*コ気持ち良〜い。アァアァ、オマ*コ気持ち良〜い。」
馬鹿でかい民子の声が部屋中に響いた。

性交中に「オマ*コ気持ち良い」を言わせるのは、それが本人を燃え上がらせる魔法の言葉だからである。

「オマ*コ気持ち良〜い」と叫べば叫ぶほど民子の快感はボルテージを上げ、肉体(からだ)体の方は正直で、民子の乳首が硬くなって立ち上がり興奮している事を隠せない。

民子は、入れ替わる男達の好みに応じて素っ裸で操(あやつ)られ弄(もてあそば)れながら、ギャラリーに結合部分を見せる大股開きで輪姦(まわ)される公開性交を勤めている。

それは他人の欲棒が抜き挿しされている自分の股間の結合部分に夫・和也の熱い視線を感じるのだから、民子が二重に興奮しても仕方が無い。

ヌメヌメとした感触と伴に抜き挿しされる坊主頭のカリ首が、民子の内壁を擦(こす)って堪(たま)らない快感刺激が脳に伝わって来る。

好奇の目に晒(さら)されながら一人当たり五分として延べ十二人、既に輪姦(まわし)の開始からは一時間ほどが経過していた。

だが、まだズブリと犯られて他人の欲棒をキッチリと咥え込んだ民子の卑猥な受け腰使いと、けたたましい善がり声はパーティ会場で見事に続いていた。


つかの間、壮絶な輪姦陵辱地獄から開放されて我に返り、民子がソフアーの影で泣いていると、近寄ってきた女性に「しっかりしなさい、これであなたも、皆の仲間よ。」と、囁(ささや)かれた。

先ほど、真っ先に民子の身体に取り付き、まるで女の恥じらいなど無いがごとく無遠慮に、そして、いかにも面白そうに、太いアナルバイブで深く浅くと犯し続け、民子が感じて振る尻を、笑いながら散々いたぶった女だ。

良く見ると、最近結婚して週刊誌に載った、余り売れていない女性タレントの島美紀だった。
十代の頃、一時売れていたが、後発の若い子達に押されて、この所知名度程の仕事は無い。
亭主は某局のプロデューサーで、和也の会社はCMスポンサーになる。

島美紀は、自分も前回この洗礼を受けたが、「割り切って、犯られる事を楽しめ。」と言う。
輪姦されるのも、思い様で楽しい経験であり、「遊びの後は彼が優しい。」とも言った。

実際島美紀は、この遊びを充分に楽しんでいる風情だが、どうしたらあんな心境に慣れるのか民子には不思議だった。

島美紀は、卵形の輪郭に大き目の瞳、薄めの唇にいくらか上向きの鼻、典型的なアイドル顔だが、良く見ると、返ってこれと言う特徴が少ない顔立ちだった。

スレンダーながら、シットリと吸い付く様な柔らかい肌、小ぶりの二つの乳房、引き絞られたウエストに、十字型の臍(へそ)の溝が、恥ずかし気である。

細身の身体に似合わず、他人に見せるには少し堂々として過ぎるのが、柔らかく丸身を帯びて膨らむ恥丘に逆三角形に密集した見事な豪毛が、島美紀の恥毛である。

島美紀が言うに、今年の二月頃、子役上がりの負け犬キャラで売っていた女優が名門の御曹司と結婚して参加した。

処が、結構良い年の癖に覚悟が足りず、プライドは高いし酒癖が悪いので、お披露目だけを「ヒィヒィしながら」犯られたが、参加者の要求にあれこれと文句を言い、生意気なので参加者の評判が極端に悪く、その後仲間内の誰からも相手にされない。

御曹司の方が面子を潰され、「使えない女」とあきれて捨てる算段をしているらしかった。
負け犬キャラの女優の方は、お披露目で犯られ損になったのが不満らしい。
早速芸能界に復帰して、相手の悪口の限りを尽くしているが、流石にパーテーの事は口にしない。

暫らくすると、その悪口舌鋒も鈍り始めた。
強力な弁護士が間に入り、とても勝てそうも無い状態で「物言えば唇寒し」に成る事をキツく教わったのだ。

負け犬キャラの女優は全てに敗北してお披露目で犯られ損になり、あざ笑われて元の負け犬女優に戻った。
しかし、流石(さすが)ベテラン芸能人、その離婚もネタにして結構強(したた)かに生きている。

そう言う事になら無い様に「タミチャンは、心して勤めなさい。」と、美紀は言った。
つまり、金の力でどうにでも捻じ曲げる勝てない連中だから、「素直に犯られて居ろ。」と言う事を言いたいらしい。

生意気に民子にアドバイスするが、島美紀は民子よりも年は三歳下である。
話をしている間もなく、二人は次の男達に抱き着かれた。
そこかしこから、女達の善がり声が聞こえていた。


その日はいったい、何度欲棒から吐き出る物を受け入れた事か、全身がそれに塗(まみ)れてしまった。
パーティの最期に、民子は「主催ホステス」の感謝の言葉を言わされた。

「皆様には私でお遊び頂き、ありがとうございました。お楽しみ頂けたでしょうか?仲間としてこれからも宜しくお願い致します。」

後は参加者全員が帰るまで大勢の体液に汚された裸身のまま、シャワーを使う事も許されず何度でも廊下に出てエレベーターまで送って行った。

最後まで、アブノーマル(異常)に徹したパーティだったのだ。


中学校で理科を教えていた民子の頭には、このメンバーに「仲間としてのマーキングをされた」と言う動物的な思いがあった。

勿論最後の一人が帰るまで「主催ホステス」に着衣は許されない。

そこには、肉体だけでなく、充分に被虐性を感じさせ、「主催ホステス」の意識に、仲間としてのマーキングを植え付ける目的が有るに違いなかった。

その全てが、新参者に対する躾(しつけ)であり、選ばれたパーティ仲間独自の調教なのだ。
確かに、あそこまでされてしまうと、もう今更何も隠すものは無く成る。全て曝け出された気分だ。

元々性行為はノーマル(正常)を楽しむものではない。
気分的にはアブノーマル(異常)の方が行為の味付けとしては興奮させるものだ。

従って、ノーマル(正常)な性行為が、世の中に存在するのかも怪しいが、もし存在したとしても、そうした精神状態で、性的興奮などありえないから、行為が成立するとは思えない。

であるから、人は様々な工夫をして興奮を求める。それが理屈で判らないほど、民子は子供ではない。
そこはただ気分の問題で、民子はそれを和也に強制された事が何故か気分が悪いのだ。


想いも拠らなかったが、妻・民子は違和感無くおシャブリも腰使いも上手く犯れて次第に大胆(だいたん)に成って行った。

恐らくもう周囲の事など意識に無いのか、日常の倦怠感(けんたいかん)を埋める様に全裸体を躍動させ大胆(だいたん)かつ奔放(ほんぽう)に性交に応じている。

今は唖然(あぜん)と眺める夫の前で、口と言わずア*ルと言わず女陰に到るまで欲棒を受け入れて、性感に拠る忘我の境地に入っているのだ。

「民子、お前もっとシブシブかと想ったが、突き入れられると入れられると結構激しく咥え込んだ腰を使っていたな。」

「嫌ねぇ、和也さんジックリ見ていたんでしょう。それにあなたがそれを望んだのでしょ。私だって女よ、肉体(からだ)が感じれば腰を使って乱れもするワ。」

「アァ、民子が善がり声を挙げながら貪欲に腰を使う所をジックリ見せて貰ったよ。」

「あんな風に犯られている所をあなたに見られたら、今更、格好付けてももう仕方が無いでしょ。」

「民子は犯られればあんな風に感じて、相手構わずに善がり声を挙げながら腰を使うのか?」

「そぅね、あなたの期待を裏切れないし、肉体(からだ)は気持ち良ければ相手構わず感じるわょ。」

「まぁ、俺が犯れと言ったのだから嫉妬は可笑しいか。」

「でしょ、あなたは犯られている私(民子)を見て愉しむのですもの、私(民子)は犯られて愉しむしか無いじゃない。情に関わらない只の遊びのセックスだもの、気持ち良ければ良いでしょう。」

人間も生物の一種属であるからには、強弱の差こそあれ性交への衝動は男女に拘(かか)わらず誰にでも在る。

夫婦合意の上の仲間内の性交は、夫婦に取ってローリスク(安全)のセックス・セッション(乱交)だった。

一度犯っちゃえば、「別に犯っても全然大丈夫」と言う事に自分を言い聞かせて行為を納得し、気持ちの上で納得すれば今更もう二度目を否定は出来ない。

いずれにしても、性癖は夫婦で共有すべき物で、性癖まで夫婦間でさえ隠して「建前」で処理して暮らしていては行き詰まって、良い夫婦生活が送れる訳が無い。

此処での公開性交は、ギャラリーに結合部分を見せるのがルールだから、つい先ほど垣間見た妻・民子の欲棒を咥え込んだ腰が、卑猥にうごめく光景が和也の脳裏に浮かんで来た。


庶民のリュウチャンやナカヤン、京子には想像できない破廉恥なセレブ生活が、都会の一郭で密かに行われていたが、まだ、この時点では両者に接点は無かった。

二つの世界はまるで離れたもので、本来なら平和にそれぞれを生きていた筈(はず)だった。

所が、この破廉恥パーティが遊びで終わらず、やがて運命の糸がネットを通して複雑に絡みを見せて行くのだが、何しろ、ネット社会には距離も境界も無かったのだ。

だいいち、そのマドンナである九条民子本人さえ、そんな未来は「予想だにしていなかった」のである。


散々に肉体(からだ)で快感反応した後で、犯られ終わって呆然と抜け殻みたくなった民子が、精魂尽きた風情で素っ裸のまま大股開きで床に転がっている。

姦淫ムードの心地良い気分を煽(あお)り、輪姦(まわし)を熟(こな)してあれだけ大勢の男達に犯られ続けイカされ続けたのだから、今はその余韻に浸(ひた)って床にしどけなく転がるこれも仕方が無い。

嵐の夜が過ぎた次の日、和也は民子に「ありがとう。おかげで無事済んだ。」と、礼を言った。
普段は、何事もなかった様に優しい和也だった。

九条民子は美人で評判も良く、「仲間内で大いに面目を施した」と目を輝かして言う。
特に上品でしとやかさを失わない民子の、本来なら見る事の無い美しい裸体は、友人達の羨望の的だった。

それが、見るばかりか玩具に出来る。
彼らは静かな興奮のうちに和也に好評を伝えた。

「和ちゃん、このタミチャンは大当たりだな。」
「良いねぇ、久しぶりの金星だょ。」

和也は仲間内の面目を施し、自慢気だった。
それを話しながら、和也は民子を激しく抱いた。

民子にすると、気に入らない事に、彼らはまるで自分の持ち物を自慢し合っている子供達みたいだった。

和也の感覚は、手に入れた自慢の玩具を友達に見せびらかせ、チョコット貸して使わしてやる気分なのかも知れない。

ルーベンスの裸婦像は、民子が和也に従って「お披露目パーティ」をした御褒美に買ってもらったものだ。

和也が、「褒美を買ってやる。」と言うので、腹立ち紛れに、「まさか買えまい」と、ちょうど百貨店で売りに出ていた裸婦像を無心したら、あきれる事に、「どのみち財産になる。」と数億円出して本当に買って来た。

民子の目論見は外れたが、手に入れると益々気に入って結局手放せず、その後の和也の破廉恥な遊びを尚更断り難くなった。
佐々木家の資金力を改めて見せ付けられた絵画購入だった。

自分が受けた「陵辱の代償」だと思うと複雑な気分だが、絵に罪は無い。


「また遊ばせて犯るょ。」は、夫(和也)からの輪姦プレィのお誘いである。

夫(和也)の遊び仲間は大切にしなければ成らず、勿論お披露目を犯る以上は愉しく遊んで貰わなければ成らず、民子に半端な事はできない状況だった。

遊びの性交は、元を正せば非繁殖目的の「擬似生殖行為」で在って、他の動物のように繁殖期を持たない年中発情の人間種独特のものである。

そして年中発情の人間種の本能が満足を求めて遊びの性交を要求し、命題が遊びの性交であるからこそあらゆる性癖が発生して次第にエスカレートする。

その「擬似生殖行為」が脳の活動に組み込まれているからこそ、人類の皆が「性」に興味が在って、「尋常な性交など詰まらぬもの」と言う共通意識が密かに育つのが人間である。

「この先は長い。今日はまだ序の口だ、ジックリ味わいなさい。」
こう言う事は民子の犯る気次第だが、行き成りの長期化宣言だった。

それにしても、一人の女性を躾(しつ)けの為に結束して攻め挙げ、仕上げるには仲間内の連帯感の絆も生まれるものである。

此処は善がり声を抑(おさ)える必要など無い場所だった。

まぁ民子も、他人前(ひとまえ)で晒(さら)し者の素っ裸に剥(む)かれて、不安に頼り無い想いをさせられて居ては、今更格好付けても仕方が無い。

正直言うとこの性交遊び、民子の内心ではおシャブリも腰使いも上手く犯って相手を満足させたのだから、結構満足が行く出来(デキ)だった様な気がした。

他人前(ひとまえ)素っ裸で此処まで激しく犯れば上出来(ジョウデキ)の、禁断の露出公開性交だからこそので、仕掛けた夫(和也)に褒めて貰いたいくらいだ。



後日落着いて客観的に考えて見ると、教師を職業としていた民子にはセレブ仲間がその仲間入りの条件として「おひろめパーティ」をさせる意味が判る。

つまり、理屈では理解していた。
それは、人間が潜在意識として持ち合わせる「帰属意識」を満足させる事である。

彼らが、それを論理的に理解できているかは民子には判らないが、つまりこの「最も原始的な肉体の交合」と言う儀式を通して、彼らは共通意識を醸成し、安心と信頼を構築する事で、新参者(民子)を仲間と認める事が出来るのだ。

日本の歴史の初期、神話時代の「国作りの秘密」は誓約(うけい)にある。

この誓約(うけい)、天照大神(あまてらすおおみかみ)と弟君である素佐之男命(すさのうのみこと)の間で取り交わされた事になっている。

本来、肉親である兄弟の間でわざわざ誓約(うけい)を行う必用などない。

ここで言う誓約(うけい)の概念であるが、天照大神(あまてらすおおみかみ)と素佐之男命(すさのうのみこと)は、実は誓約(うけい)に拠って「初めて兄弟に成った」と解釈すべきである。

つまり日本民族は、日本列島に流入してきた異民族同士が、現地の先住民も巻き込んで合流し、国家を作った。
その基本的概念が誓約(うけい)に象徴される神話になっている。
この場合の誓約(うけい)の実質的な「合意の儀式」は何であろうか?

異民族同士が、簡単且つ有効に信頼関係を構築して一体化する手段は一つしかない。
それは、性交に拠り肉体的に許し合う事に拠って究極の信頼感を醸成し、定着させる事である。

その結果は明らかで、次代には混血した子孫が誕生する。

この環境を、武力を背景にした強姦や性奴隷化ではなく、双方の「合意に拠り創り出す知恵」が、誓約(うけい)だったのである。

太古の昔、人間は小さな群れ単位で生活し、群れ社会を構成した。

その群れ社会同士が、争わずに共存するには性交に拠る一体化が理屈抜きに有効であり、合流の都度に乱交が行われて群れは大きくなって村落国家が形成された。

直前まで争っていた相手と急激に互いの信頼関係を構築する証としての方法は、性交に拠り肉体的に許し合う事を於いて他に無い。

つまり、食料確保の為に縄張り争いによる殺し合いが当然の時代に、究極の握手に相当するのが、誓約(うけい)の概念である乱交とその後の結果としての混血による群れの一体化である。

現在の国家意識、民族意識、つまり所属意識の原点は、この誓約(うけい)の概念である。
勿論、この時代から個人と社会性のせげみ合いによる葛藤はあった。
しかしながらこれは、個人と社会性の双方を持ち合わせて生きる人類の永遠のテーマである。

当時の「群れ社会の平和的合流」と言う社会性を優先する誓約(うけい)の行為は、現代の個人思想からは理解出来ない事であろうが、唯一有効な方法として所属意識(社会性)を優先して発揮したのである。

この精神的な名残が、後に「人柱や人身御供」と言う歪曲した所属意識(社会性)の犠牲的精神にまで行き過ぎてしまった。
彼らの気持ちは理解出来るが、民子には個人としての思いもある。

この時点では、そこがまだ民子自身を納得させてはくれていなかった。


その日から和也は、月に一〜二度の割合でパーティを主催したり民子を伴って他所(よそ)に出席したりで、この遊びにのめり込んだ。

遊びの性交など「不道徳」と指摘されるが、女性の側にだって結婚する気は無いけれど寂しいから性交パートナーにキープ(保持)している場合もある。

つまり性交プレィは人間にとって、「生きて行く為の心の隙間を埋める癒(いや)し作業」と言う本能をくすぐる側面を有している。

従って、そうした現実を全て否定した世間など建前だけで、この世の真の現実にはそんな事実は無いのである。


社会通念とか常識とかには「建前もあれば現実」もあり、要領が良い人間なら例えそうした遊びを影で犯って居ても、既成概念と争わず建前に合わせて触れないで置くかも知れない。

しかし自分が変わらなければ環境は変わらず、社会通念とか常識とかに縛られては、どんな事柄に於いても将来の展望など開けない。

女性の女盛りは精々十五年〜二十年間、年齢にすれば十八歳〜大目に見ても三十八歳と言う所で、その間を身硬く生きるか、多少は羽目を外して性交遊技を愉しむのかは本人の生き方の問題である。

そうなると、一対一の尋常な性交など詰まらぬもので、つまり遊びの性交は価値観の問題で、夫婦合意の上で他人を交えた複数性交を「経験しない人生は勿体無い」と言う考え方も出来る訳である。

そう考えれば同じ輪姦プレィのお誘いでも、そう言う遊びの機会が在る仲間環境が在るだけでも幸運な人生かも知れないのだ。

確かに「性」は建前ではタブーだが、正直ヒューマン(人間的)として皆が「性」に興味が在って当然で、それで無ければアダルトビデオや裏ビデオが一般家庭まで蔓延する筈が無い。

そしてヒューマン(人間的)として「性」に興味が在るのならば、尋常な性交など詰まらぬものである。

だからこそ、その興味は単純なものに止まらず、本能をくすぐる様に生々しく卑猥であれば卑猥であるほどその興味を満足させるものである。

「嫌らしい」と非難するだろうが、種の保存が目的だから、その前駆段階に在る性交そのものは基本的に愉しんで犯るように予(あらかじ)め脳の中でセットされている。

だから「ああ犯ろう、こう犯ろう」と想像をたくましくして、性交の実行方法を愉しみにしても当然の事で、「嫌らしい」と非難するには当たらない。


「民子さんは、無事リピート(反復)段階に入りましたね。やはりあれ(マルチSEX)は、堪らなく良いんですねぇ。」

「この淑女の調教場にイソイソと犯られに来た所を見ると、此間(このあいだ)のプレィで味を占めたのじゃないか。」

「そりゃあ散々に善がって、涎(よだれ)を垂らしながら咥え込んだ腰を振ってプレィして居ましたからね。人間、やはり思考的リノベーション(刷新、改善)は必要ですね。」

「頭で考えた事と違って、あれ(マルチSEX)を犯られると女性は大抵淫乱中毒になるからな。」

「えぇ面白いもので、民子さんのあの様子を見れば良く判ります。」

「そりゃあ民子は、泡を吹く程の天国を愉しんだのだから簡単じゃよ。」
「それで今回も民子さんはプレイへの期待が先に立って、犯る気満々で股を開いて居るのですね。」

ここまで来れば和也が仕掛け、民子を友人仲間で寄って集(たか)って犯し、女としての性感ブラッシュアップ(磨き上げ)して犯る事に成る。

つまりこのマルチSEX(複数性交)のお披露目は、民子を調教する為のエキシビション(公開実演、模範試合)なのである。

和也に命じられて、和也の遊びの生贄(いけにえ)を務める時は勿論、買い物で出かけるにも民子はノーパンティで出かける。

あんな卑猥(ひわい)な事を平気で犯るように成った民子だが、街行くすれ違う人々はそんな事は知る由も無い。

そぅ、あれは仲間内だけの事で「別にどうって事は無い」のだ。

そして和也が話を持って来るパーティには、民子は時間調整までして犯られに出席していたのだから、本音では「嬲(なぶ)られるのが嫌だった。」とはとても思えない。

しかし、それとこれとは別の想いが在り、自分を他人に弄(なぶ)らせる和也の所業は赦せなかった。

当たり前だが輪姦(まわし)の時は、レギュラー(正規メンバー)の男性が皆汗ビッショリで慌(あわただ)しく突きせめるから、受け入れる民子の方も汗と愛液塗(まみ)れでヒィヒィ言わされる。

こうなると民子は、経緯(いきさつ)に関係なく世間では立派な淫乱女である。

しかしそれを批判する女性達が、性交技も下手(へた)な癖にそれをまったく認識せずでは、呑気に何も判って居ない世間知らずである。


それからの民子は、明らかに依り美しくなった。

人間の脳は必要に応じて全身に指令を発して制御するから勝也のパーティに付き合う様に成ってからは、他人前で裸身を晒(さら)す機会が増えたのを民子の脳が敏感に他人目(ひとめ)を意識して綺麗に成ろうとする。

勿論、良い性交を度々経験すれば、民子の性フエロモンが活性化して驚くほど変化を魅せ、魅力的な女性(おんな)醸成される。

それで他人目(ひとめ)に磨かれた民子には経験が滲み出る様な「良い女オーラ」が着衣の上からも発散され、周囲は日常生活の中からも民子の裸身を想像する様になる。


正直言うと、民子は自分の陵辱パーティの予定が入るとそれを和也に命じられただけで、被虐の期待に「子宮がキューと収縮するような熱さを感じて居た。

心情的には和也の仲間に酷く卑猥に弄(なぶ)られるのは赦せない気持ちだったが、肉体(からだ)は既に民子の意志に逆らってその快感を受け入れて居た。

強引に追い込んでの事だが心配する事は無い、苦悩から歓喜へ替わる一瞬が民子の顔にも表情として表れていた。

男性が直ぐ終わる一対一の「夫婦の性交」と違い性交感覚の刺激が繰り返し続くのだから、民子にして見れば肉体的本音は「癖に成るほど良い」に決まっている。


愛の無い性交には、世の中では建前として批判的である。
益してや遊びの性交など「持っての外」と言うかも知れない。

しかし一般的に、恋は一瞬の閃(ひらめ)きと伴に遣って来るが、愛は月日の積み重ねで築き上げるものだ。

「惚(ほ)れる」と言う事は「恋する」と言う事で、この時点で性交を許す間柄に成るのであれば、それを愛と想うのは勘違いである。

つまり愛情は、永い時間を掛けて育つべき奥深い精神である。

だから「惚(ほ)れたから」と言って、性交を許すその時点では互いの間にはまだ愛情など存在する訳が無い。

そう成ると、愛情が性交の絶対条件ではないのだが、愛が無い勘違いでも性交すれば肉体(からだ)は快感を感じる。

言うなれば、肉体(からだ)は愛情と関係なしに、性交すれば感じるように出来た居る。

その証拠に大人の玩具(おもちゃ)を使って試せば、愛情に関係なく肉体(からだ)はかなり強烈に性感を感じる。

つまり人間の肉体(からだ)は、愛ではなく「好み」と言う短絡的な感性だけで性交に到っても、犯れば充分に快感を感じる訳である。


昔の認識では、十八歳が自然に女盛りの年齢だった。

所が現代では、自然に逆らうように三十歳(みそじ)過ぎの晩婚が当たり前に成りつつある。

しかし女性も三十歳(みそじ)とも成る頃には、少なくとも四〜五人の男性経験が在るのが一般的である。

これをその都度「愛が在って」と弁明した所で、そんなに早く醒(さめ)める愛は愛では無いではないか?

そこで「ものは考えよう」だが、どうせ人間は生きている限り他人と関わりを持つ。

その関わりが夫婦の人生に於いて、確信的に只の通りすがりの性交遊技で在っても良いではないか。

どの道人間は、生き行くだけで「あらゆる穢(けが)れ」と向き合いながらの人生を送る。

だから性に対して不自然に潔癖で在る事は、それだけでもう人間性を病的に失っている事に成る。

であるなら、「性交を愉しみたい。」と言う別の短絡的な感性だけで、遊びの性交に到っても不思議は無い。



民子が知ってしまった一対数十の変則マルチSEX(複数性交)で、自分を大事にする感性の裏返しに、性交時の感度さえ良い方に転がれば何でも犯れるのが女性である。

民子はセレブ生活の優雅で気品溢れた生活の合間に、この非日常の世界では惨めな輪姦三昧の生贄を演じ続ける運命に身を置いていた。

その心と肉体(からだ)の分離に焦っていた民子が、その整理を内密に画策しても不思議は無いのである。


あの輪姦性交の後、民子の態度が極めて従順に変化したにはそれなりの動機を持つ体感学習がある。

生物学的に種の保存に必要な性交は、それを促すように犯れば快感を得られるように脳にインプットされて居て、だから本来誰にでも性欲はある。

性交の快感は本来「非日常の快感」で、全ての日常を一瞬なりとも遮断する刺激的なものである。

日常生活でも非凡な刺激は在る事は在るが、生々しくドロドロしたアクシデントで、苦悩や恐怖そして絶望だったりして、心理的な悪しき苦痛ばかりでストレスの元である。

勿論、非日常のマルチSEX(複数性交)やマルチタスクSEX(同時実行性交)、コレクティブセックスプレィ(集団乱交)は、民子にとって我を忘れてそれらの苦悩を吹き飛ばす快感の刺激だった。

そして連続性交に於いて、スポーツハイの快感から導かれる脳内麻薬物質・分泌ホルモンベータ・エンドロフィンの効果と同じセックスハイ状態に導かれる。

これは興奮の中、デェスコや盆踊りを夜明かし踊った後のような快感に溢れた心地良い疲れも同じ脳内麻薬物質・分泌ホルモンベータ・エンドロフィンの効果である。

まぁ民子は次々に代わり来る男達の欲棒を股間に咥(くわ)え、明らかに受け腰を使って抜き挿しに応じながら善がっていたのだから、今更その反応を隠し様が無い。

考えように拠っては、夫・和也との日常定食セックスと違って非日常のそれは、望んでもチャンスが無ければ中々得られない豪華フルコースの贅沢セックスである。

脳の快楽的喜びを記憶するのは、右脳と左脳の中心下部にある一対の大脳基底核の主要な構成要素のひとつ「線条体(せんじょうたい)」と言う部位である。

「線条体(せんじょうたい)」は、運動機能への関与や意思決定などその他の神経過程にも関わると考えられている。

SM性交プレィやマルチSEX(複数性交)が繰り返し行われる事で、中脳からのドーパミン入力に拠って興奮性が高まり、その「線条体(せんじょうたい)」と言う部位での快楽的喜びの完成条件が完結して行く。

連続性交に於いて、スポーツハイの快感から導かれる脳内麻薬物質・分泌ホルモンベータ・エンドロフィンの効果と同じセックスハイ状態に導かれる。

これは興奮の中、デェスコや盆踊りを夜明かし踊った後のような快感に溢れた心地良い疲れも同じ脳内麻薬物質・分泌ホルモンベータ・エンドロフィンの効果である。

輪姦(まわ)され終わった後の民子の気分は、盆踊りやディスコダンスを夜明かし踊った後のような、けして嫌では無い贅沢でさわやかな疲労感だった。

激しい行為の後で、恐らくまだ民子の脳の中には興奮状態で発生されるドーパミンに誘導された脳内麻薬・ホルモンベータ・エンドロフィンの癖に成りそうなトリップの名残が、心地好く残っていたのだ。

益してや集団乱交で「性交を他人に観られている」と羞恥心(しゅうちしん)を強く感じると、興奮で脳にアドレナリンがドバッと吹き出るのを感じる。

防衛本能から脳が感受性を好転させる為にアドレナリンやドーパミンを噴出させるのらしいのだが、結果的にそれが性交快感をより増幅させて今まで経験しなかった快感を得るのだから堪(たま)らない。

その快感の記憶は純粋に快感だけで思考条件などは無く、喫煙や飲酒の快楽感と同等の習慣性を知らず知らずに持つ事になる。

民子は和也が用意した陵辱パーティの男達に、「密度の濃い快楽」として「線条体(せんじょうたい)」にミッチリ記憶されて習慣付けられた訳である。

民子は自分の想いとは別に、ともあれ肉体的快感を完全に消化して見事に精神を分離、肉体の快感を貪って見せたのだ。


AV(アダルトビデオ)や裏ビデオに、ユーザー(客)はストレス解消の刺激を求めていた居ただけで芸術なんてこれっポッチも考えては居ない。

脳が欲しがる人間の感性なんてそんなものだから、ユーザー(客)の要求に応えて、映像の内容が当初の想像を超えてドンドンと卑猥(ひわい)にエスカレートして行く。


今思えば、表作品のAV(アダルトビデオ)撮影が擬似性交から生本番嵌め撮り中出しに変わり、その表作品を悪用したビデオテープが大量に裏ビデオとして市中に出廻ったのがこの頃だった。

その映像業界のエスカレートの過程と同様に、和也の仲間内で日常のストレス解消の為の非日常の民子弄(なぶ)り遊びの内容もドンドンとエスカレートして行くのである。

和也の関わるセレブパーティは都合四グループあり、民子は、結局四回おひろめの主催ホステスとして屈辱的洗礼を受け、クラシックピアノ曲をテーマ曲に和やかに陵辱され続けている。

和也は今まで一人身で パーティに提供する相方の女性が居らずに居て肩身が狭く、参加がまま成らなかったらしい。
何しろ、その趣旨からして、その辺で調達して来た女を安易に連れて行く訳には行かない。

あくまでも妻もしくはそれに類する扱いで無ければ、「おひろめパーティ」開催の資格が無いのだ。
その特別な仲間達に、育った環境の違う民子は馴染めなかった。

「真剣に生きよう」と言う心が感じられず、淫靡な遊びに夢中で、共犯意識で繋がった何とも軽薄な連中に思えた。

この金持ち退屈の心理は、平和過ぎる日本の若者心理に似ている。
彼らに戦争の不幸な体験は実感が無い。
重過ぎる嫌な話は聞きたくない。

つまり平和(や財力)に満たされ過て平和への緊張感を忘れている。
生活に緊張感がなければ、さながらローマ帝国末期の怠惰な堕落が待っている。
セレブ仲間でやって行く為と素直に割り切ってしまえばそれはそれだが、民子にその気は起きない。

正しい表現か判らないが、所謂「生理的に受け入れ難い。」と言う事だ。
確かに甘い恋愛ロマンスの類がはかないもので、現実の人生は夢物語の様には往かない。
しかし本音の所、このままこんな生活を続けたくは無い。

しかし、人生には裏も表もある。こんな陵辱に満ちた生活をしていても、セレブ生活が背景にあるのだ。

祖母と高校三年生の妹、それに高校一年に成った弟は、民子の日常生活しか知らないから、「姉がセレブの仲間入りをした」と手放しの喜び様で、民子を「イラ着かせ」さえする。

それにしても、「何も逆らえない相手を手に入れて、欲望のままに楽しもう」と言う、和也の根性は気に入らない。
それで、許しかけていた民子の心が、和也を許せなくなる。

民子の境遇では両親の立場もあり、婚約破棄は出来そうも無い。
しかし民子には、戸惑いを通り越して、殺意に似た気持ちの芽さえ芽生え始めていた。


母には、破廉恥なセレブ生活の実態や、セレブパーティで民子が受けた輪姦三昧の恥辱は言えなかったが、それとなく「生活環境や好みが違う」と訴えた。

聞いた母親は怒り出し、「民子が努力して、先様に気に入られろ。」と言う。
民子は心の中で、「私に一生和也の玩具(おもちや)になれと言うの。」と叫んでいた。

民子の母親はセレブ生活に憧れて、九条の父に肉体(からだ)を張って猛アタックして妻の座を手に入れた位だから、今更今の裕福な生活を捨てる気など更々にない。

あろう事か娘の心情は眼中に無く、「民子さえ和也と納まってくれれば、現在の生活が維持出来る。」と、それに必死だった。

そもそも母親の価値観からすれば、女の武器は裕福な生活を手に入れる為のものだから民子に選択の余地などある訳が無い。
そうなれば答えは一つで、「文句を言わずに和也の性癖について行け」と言う事である。

帰りがけに、「子供じゃ無いのだから、我がままは言わないで、和也さんの言う事は何でも素直に聞くのですよ。」と念を押された。

母は、セレブパーティの生贄までの想像が付かなくても、性の問題と察した上で、言外に、民子の和也への性的服従を強いている。
現実の社会では正義は詰まらない神話で、金の無い民子は無力であり、和也の金は大いなる力だった。
娘のSOSに「聞く耳を持たない」と言う事は、たとえ多少の性的偏向が和也に有っても、「逆らわずに受け入れろ」と言う事だ。

民子の逃げ場は、無くなって居た。
それでも両親の事を考えて、半年ほど「逆らわない大人しい婚約者」を演じていた。

つまり和也の楽しみ「民子への和やかな陵辱」は続いていた。
あのピアノ曲は、すっかり民子陵辱のテーマ曲になっていた。

和也の性も無い要求に民子はにこやかに応じていたが、まだ民子は自分の倫理観を棄ててはいなかった。
両親の期待との狭間で心揺れ動きながら、内心ではそれと知らせぬ殺意に似た思いが沸々と沸いていた。

ギリギリの限界だった。
それで、HP上の和也に「一泡吹かせよう」と言う思いに駆られたのだ。

民子は教師である。
中学生と言う、体が半分大人になりかけた生徒達相手に、日々教育の現場で仕事をして居た民子にしてみれば、あの程度のパーテーで傷付くほど、軟(やわ)な神経は持ち合わせては居ない。

今の教育現場は、ある意味常識では測れ無い修羅場だった。
共学の中学で五年間も教鞭を執っていると、表沙汰にはならないが、大人が驚愕する様な酷い事件にも巻き込まれる。

意に沿わないセックスをさせられたくらいで、天地がひっくり返るほど傷ついては、今の世の中、教師などして生きては行けない。

学校で教えている教科的に考えれば、単なるそこに行き合わせた雄と雌の交尾で、愛と言う感情が最初から無いのだから、それ以上の感情を交える必要はない。

しかし、HPでの偽善者然とした和也の善人振りには虫唾(むしず)が走る。

玄関脇の鏡にしても、ドア一枚で下界と繋がる場所で獣道を楽しもうと言う彼らグループの欲望のシンボルで、仲間内では定番の場所だったのだ。

どう考えても理不尽な身の上だが、家族の生活を考えると自分が陵辱を続けられても、和やかに応じて生活する以外に民子に選択肢は無かった。

人間、後ろ向きでは生きては行けない。気の持ち様で大概の事は処理出来る。
「輪姦(まわ)されたから」と言って、自分が大して傷付いていない事に気が付いた。

傷付くのは心だけで、肉体(からだ)は結構快感を享受し、善がって打ち震えていたから、何の事は無い一晩寝れば昨夜の事は夢の中の出来事も同然だった。

ただ、金にものを言わせる和也には腹が立って赦せなかった。

相手を思い遣る想像力が無い人間は、残酷である。
それにもまして、「相手が裕福」と言うだけで「その人生が幸福」と決め付けるのは、余りにも単純で残酷な思考である。

それでも、民子は何とかこの地獄から、気持ちだけでも抜け出す方法を考えていた。
この思いが、やがて決定的な大事件に発展しようとは、実の所、民子本人にも想定外の出来事だった。
波乱の幕開けだったのである。
 
 





和やかな陵辱 第二部・第五話(ミレアの執念)に続く

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作者本名鈴木峰晴